溶けていく雪
『…この世に、溶けない雪はない。』
きっかけは、由が隠していた嘘。
そして…ある女性との出会い。
俺がずっと信じていた由への信頼と想いは……些細な事で、溶けていったんだ。
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~序章~
俺が唯と別れて、4ヶ月が経つ…。
それは、あっという間の4ヶ月で……由は引っ越し、ベットも売ってしまっていた…。
俺との思い出がつまってたダブルサイズのベット…それを売ったのは、彼女なりの……けじめだったんだろう。
俺と別れて、2度と付き合う事もない…そう思っての行動……
って事くらい…分かってるさ……。
だけど、やっぱり悲しかった。新しい由の部屋は…まるで他人の部屋みたいで。
俺は……『せっかく買ったベット売るの勿体無いし、俺は新しいベット買うから……別々に寝よう?』
って、由に言った。
俺は新しい折り畳み式のベットと共に、由との生活を始めた……。
2つ並んだベットには、5センチ位の隙間…それと同じで2人の間にも、ちょっと隙間が残ったままで。
その隙間が大きくなるなんて、考えもしなかったけど……。
第一章 彼女の嘘
~1~
由と迎えた新年は、ありきたりなモノとなった。
2人は初詣に出掛け、おみくじを買う……俺には『身近な人からの意外な告白。それにどう対応するかは、よく考えると良いだろう。仕事を新しく始めると吉、人生に大きな影響を及ぼす。』と書かれていた。ちなみに末吉…。
由は『人生の転機。何か心残りがあるのなら、それともう一度向き合うと良いだろう。待ち人は意外な形で現れる。』と書かれていた。由は吉だった…。
「……今年は色々ありそうだな。」
そう言いながら、俺はおみくじを木に結んだ。
その後、よくある蕎麦屋に入り…2人で年越し蕎麦ってのを食べ、帰宅したのが午前3時…。
今俺は…初夢ってのを見ながら眠っている……。
「玲、私妊娠したの!勿論あなたの子供よ!!」
そう言い、由がこちらに笑顔で走って来る……。
「妊娠?!いや…俺の子供じゃないだろ!?」
夢と分かっていたが、あまりに現実離れしすぎてる…。
「……本当は…誰の子供なんだ???」
『バシィッッッ!!!』
「痛ッッッ!!!!」
~2~
《何だ?!今の衝撃は??夢の中で叩かれたにしては、痛い……このジンジン痛む感覚は…まさか、唯?!奇襲か!?》
なんて、寝ぼけていた俺は焦ってベットから飛び起きた。
…その拍子にベットから落ち、頭を強打する…。
《………最悪だ…。》
「何やってんのよ??早く顔洗って、出掛ける準備して?」
「…由が叩いた??」
返事は無く、由は寝室から出て行った……。
打った頭と叩かれた頬をさすり、時計へ目をやる…まだ9時だ……。
「由~?何処に出掛けるんだよ??まだ9時だし…もう少し寝かせろよな……。」
重い体を引きずり、俺はまた布団に潜る…。
「玲!!早く起きて!!!今日は私の両親に会ってもらうから!!」
「ん~…………って…今、両親って言った?!」
《…冗談だろ??》
「両親って言いました!!だからその素敵な寝癖も直して、ちゃんとした格好してよ?!」
《………最悪だ…。》
体を起こし、リビングに向かう…由は化粧を済ませ、腕組みして待っていた…。
「…本気で言ってんの??俺を会わせて、どうしたいんだよ?」
この作品は
キミとワタシ
キミに触れたら
の続編になっています😃
なので上の2作品を読んでない方には、少し分かりにくい部分があるかと思います……🙇
気になる点があれば、いつでも聞いて下さい🙆
感想や、リクエストなども待ってます✨✨
~3~
「そんな笑えない冗談、言うと思う?早く準備して!!」
朝からピリピリしてる由……それが移り、俺までイラついてくる。
「大体、行くなら行くって、前日とか前もって言えよな?!」
「先に言ったら、玲絶対来てくれなかったでしょ??」
《……確かに…。》
「でも…………」
「良いから!早く!!」
《クソっっっ!!叩きやがって……もっと違う起こし方しろよな!!!》
渋々洗面所へ行き顔を洗う…そして、鏡に映った自分の寝癖に驚いた。
クシを通してみるが、頭のてっぺんで元気良く立った髪の毛は、またピンと戻るだけだ……。
《乾かさずに寝たのが、マズかったかな…。》
2回、3回とクシを通す……が、何の変化も無い…。
「由~!!無理だよ!直んない!!これは行くなって……」
「手退かして!!」
由がムースとドライヤー…それに俺の普段使わないワックスを抱えて、背後に現れた。
「……由さん?俺あんまり…ワックスとか好きじゃないんですけど…。」
俺の言葉は無視され、由は大量のムースを俺の頭にぶっかける……。
「ちょっと!!!」
今度はドライヤーの音で、俺の言葉は遮られた。
~4~
ゴォォッッッ…というドライヤーの音と一緒に、由の独り言がボソボソと聞こえてくる。
"もっと短くした方が…黒く染めた方が……"
……といった内容の。
《長い方が良いって言ったのは由だし、この色は地毛だ!!》
言い返してやりたいけど…また無視されるのがオチだろう……。
数分後……ムースとワックスの力で、俺の髪型は整えられた。
ベタベタする感触に、俺の機嫌は悪化する…。
「急いで着替えてよね!!」
「分かってるよ!!!」
何が楽しくて…朝から怒鳴り合いしなきゃいけないんだ……。
…今日は俺の厄日なのかもしれない。
着替えを済ませると、由の方も準備を終えやって来た。
「ちゃんとシャツしまって!上着もボタンとめてよ!!」
「……。」
フンと鼻で返事を返し、俺は言われた通りにする……。
結局、こうして由の言葉通りにやる俺……まるで、物分かりの良い子供みたいだ。
《子供……か…。ほんとコレじゃ、由の子供(ガキ)みたいだよ……。》
苛々していても、俺は物や人には当たらない………物を壊した時、由に怒られるから…。
そう…いつだって俺は、由に気を遣ってる……前は…違ったのにな…。
~5~
前……最初に付き合ってた頃は、こんな関係じゃなかった。
唯からの手紙をきっかけに別れて…唯とまた付き合い始めて、由と再開して…唯と別れて……。
これだけを聞いたなら、最初から由と別れなきゃ良かったって、思うかもしれない…。
……だけど…唯との関係に、ちゃんとケジメをつける……それが、俺にも唯にも…必要だった。
お互い過去を引きずって…過去の自分に後悔して、そのままじゃ…前に進めなかったから……。
だけどその事で由は、変わってしまった……。
俺と唯が別れた原因は自分にあるって、そう考えてる…。実際は俺が悪いのに…由は自分を責めて、罪悪感と…後ろめたさを感じてるんだ…。
そう思わせてるのも……俺が悪くて…。
俺は由に…どこか遠慮してしまう……。
言いたい事も我慢して……それが余計、由に不安を与えてるのに…俺はどうする事も出来なくて……結局、俺と由の悪循環は…どんどん大きくなってる……。
…それも全部、俺のせいで……。
《ほんと、情けないよ。》
自分が情けない……由の事幸せにするって言ったのに…俺は全然、彼女を幸せに出来なくて。
"幸せ"って言葉の意味さえ…分からなくなって。
~6~
「玲??」
「あ……ごめん…考え事してた…。」
気が付けば、もう玄関まで来てた…。俺はさっきまで喧嘩してたのも忘れて、由に笑ってみせる。
「何??どうしたんだよ?」
「……外寒いから…マフラーしてって、言っただけ…。」
由は遠慮がちに、クリスマスプレゼントのマフラーを俺の首に巻いた…。
「……俺…頑張ってみるから…。由の両親と…仲良くなりたいし。」
「…ありがとう……。」
由は微笑み、顔を寄せる……俺も顔を寄せ…口付けを交わした。
どんなに…今の関係が悪くたって、お互い想い合ってるのに……変わりはない…。だから不安になんて、ならなくて良いんだ…。
由の体を抱き、その温もりと香りを確かめ…俺は彼女の体から離れた。
「……行こう??きっと楽しいドライブになるよ?」
「………うん……私が…一緒だから……。」
そうだよ…由が一緒なんだ……きっと大丈夫………うまくいく…。
今日は厄日じゃなくて、記念日にしたくなる位…最高の1日になるかもしれない。
由との関係が、前以上に良くなるきっかけ…それが今日、今日なんだ…………きっと…。
~7~
外に出ると、雪が積もってた……意外と一晩のうちに、積もるんだな…。
いつもは俺が運転するけど、今日は助手席に座る。車道に積もった雪は、車が飛ばす泥水で茶色に変色してた。
「近いの??」
「20分位かな……あまりスピード出したくないから。」
周りの車も由と同じ考えらしく、ノロノロと安全運転で走っている…。
時折見かけるのは、子供が作った雪だるま……子供からして見れば、雪はこの季節だけの"最高のオモチャ"なのだろう……。
俺も小さい頃は、雪が降る度喜んで…いつから……雪を嫌がるようになったのか、そんな事を考えてた…。
由は緊急してか、集中してるのか分からないけど…ずっと無言で……"楽しいドライブ"とは程遠いものになった…。
俺も久しぶりに乗る助手席に…景色を眺め、気が付けば考え事を始める。
《由の両親は…どんな反応をするんだろう??》
最悪の場合…殴られたりするんだろうか??
唯の母親みたく、俺に当たるのかもな……。
それで由が傷付くのだけは…嫌なんだけど………まあ全ては、俺次第………。
~8~
「……着いたよ…。」
由は庭先に車を停めた。
他に車が停まってない所を見ると、由の家族は別のスペースに駐車しているのだろう。
車を降り、由の家をじっくりと眺める……。綺麗に手入れされた日本庭園は、雪化粧をまとい…その美しさに圧倒された。
「行くわよ??」
その光景に見慣れているのか、由は足を止める事なく…俺を促す。
玄関の前まで行くと、由がこちらを見つめる……どこか変な部分を探してるのだろう…。
でも生憎、髪型も服装も…ちゃんと言われた通り、キッチリしてある。
《これ以上…文句言う点は無いだろ。》
そう自信たっぷりに、由を見つめ返してやった。
「………ね…笑顔の練習、してみよっか??」
「はぁっ?!」
《……そう来たか…。》
「良いから、笑って?」
"笑って"と言われて、本当に笑える奴なんて…居ないだろ。
そう思いつつ、俺は唇の両端を上にあげ、目を細める……。
由はピクピクと痙攣する玲の笑顔を見、一言
「……変…。」
とだけ言った………。
《変??!何だよ!?俺がせっかく……。》
「笑顔はやめて、入ろっか……。」
~9~
「これが原因で別れる事になったら…笑えるな……。」
呼び鈴を押そうとしていた由の手が、俺の言葉で止まる…。
「………大丈夫だよ。」
左手を俺の手に添え、無理に笑ってみせた…。
……だけど…由の温もりだけじゃ、俺の不安は拭い去れなかった…。
結局…この不安は、的中するんだけどな……。
俺が思ってた以上に…深く……大きな溝を、俺と由の間に刻んでしまった……。
……ある意味、"記念日"として…俺の心に残った1日……。
由が押した呼び鈴の音に誘われ…由のおみくじに書いてあった"待ち人"は、現れた…。
~10~
震える指で、由は呼び鈴を押した……。
…この時間……待っているこの時間が、長く感じられ…どんな人が出て来るのか、俺はビクビクしながら立っていた。
《…怖いおじさんだったら嫌だな……。》
由の手を握る力が、自然と強くなる……。緊張で胃がキリキリと痛み、心臓の音も大きくなっていく。
普段の俺なら
《今、血圧計ったら高いのかな?》
なんてバカな事考えるんだろうけど…今はそんな余裕無い。
その時、ガラガラ……と音がし、戸がゆっくり開けられていく……。
《来たッッ!!!!頼むから、怖いおじさんは来ないでくれ!!》
俺は更に強く由の手を握り、目を閉じお辞儀の体勢をする。
「初めまして!!!新年の挨拶に伺いました!」
「………………」
「………………」
「………………」
《………………???》
………返事が無いって……どういう事???
~11~
恐る恐る目を開く……。
《……なんだ?この子。》
玄関の戸を開け、俺の言葉を無視した相手…それは、幼稚園児くらいの女の子だった。
少女は…大きな瞳でこちら(正確には由の方)を見たまま、微動だにしない……。
《何??》
隣りを見ると、同じように由の動きも止まっている……。
その表情は驚き、"泣く一歩手前"みたいな……そんな感じで…。
「……由…知り合い……なのか??姪っ子……とか???」
話しかけても…由は少女を見つめたままで、俺が隣りに居るって事も……忘れてる…。……そんな気がした。
「絵里香~??お客さん、誰だったんだ?」
奥から男の声が聞こえ、足音が近付いて来る…。
「………由……?」
玄関まで来た男は、優しそうな顔に…短い黒髪の似合う、"大人の男"で……。その体全身から…自信や、魅力が発せられている…。
「……忠明さん…。」
男の呼び掛けに、由は微笑んで答えた……。
俺は……何となく、この状況を理解した気がする…。だけど……それはきっと、俺の気のせいだ。だって由は、そんな話し…1度だって、言ってくれなかった…。
だから…
「……ママ?」
~13~
「絵里香!!!」
由は我慢できない…といった感じで、少女に駆け寄り抱き締める。
そんな由の震える肩に、男(由の元夫)がソッと手を置く…。
《どうなってんだ??》
いきなり目の前で、こんな光景を見せられて…俺は怒りにも似た感情がわいてきた。
「由!?どういう事だよ??俺は何も聞いてない…。」
その時初めて男は俺の存在に気付いたのか、由の肩に置いていた手を離す…。だが…由の返事はない。
「ずっと俺に、嘘ついてたのか?言おうとすら…してくれなかったのか??」
こんな大事な事を言わなかったのは、由にとって俺は"その程度"の関係だったから??…そう思うと怒りは冷め、悲しさと虚しさで心は埋まっていく…。
由は相変わらず…俺を見向きもせず、少女を抱き締めてて……。男は居心地悪そうに、俯いていた。
そんな4人の上に…雪は変わらず降っていて……。
その1つを手のひらで受け止めてみたけど、一瞬で溶けていった…。
…まるで今の、俺の気持ちみたいに……。
~14~
「忠明さん?誰だったの??」
由の面影のあるおばさんが、いつまで経っても戻らない2人を心配し、現れた。
「由!!」
嬉しそうな顔をしたおばさんは、俺を見ると一転して…不快そうな表情になった…。
「まさか今日来るなんてね?それに、そちらの彼……噂には聞いてたけど…まあ…本当に……若い事で………。」
由がようやく少女から離れ、母親に何か言おうと口を開きかけたけど……俺を見て…やめた。
そんな娘と俺を見比べ…おばさんはまた顔をしかめる。
「……とりあえず…此処は寒いし、上がってちょうだい。………あなたもね…。」
"あなた"ってのは、俺の事だろう…。
~15~
案内されたのは客間だった。途中通った部屋の襖の隙間から、こたつと子供向けのおもちゃ…男の人が居るのが見えた。
客間は冷えており、おばさんが暖房のスイッチを入れる。
「さあ、座って下さい。今お父さん呼んできますから。」
俺の隣に由が、その向かい側に元夫と少女が並んで座った。
少女はチラチラと俺の方を見る…彼女からして見れば、俺は母親を取った嫌な男…なのだろう。
その視線を、正面から受け止める事はできなくて…俺は窓越しに見える雪を眺めていた……。
おばさんはなかなか戻って来なくて、重苦しい空気は居心地が悪い…。
《由の両親に会うだけでもキツいのに、何で元夫と…娘にまで……会わなきゃいけないんだよ?!!》
早くこの場から出たくて、不満だけを並べてしまう…。
苛々が大きくなり、いっそ帰ってしまいたい…そう思った時、その人は現れた……。
「由…よく帰ったな?」
厳格そうな顔に、白髪混じりの髪の毛をキッチリ整えた男性…。
《…この人が、由の父親……。》
和服を着ている時点で、俺の家族には無い威圧感を感じてしまう…。父さんはいつも、スーツ姿だったから……。
~16~
なんて事を考えていると、由に肘を叩かれた。
ハッとして俺は、さっき玄関でした様にお辞儀の体勢をする…。
「初めまして。由さんとお付き合いさせて頂いてる、柳玲です。」
《…慣れない敬語は難しいな……。》
頭を下げたまま…俺は由の父親の返事を待った。
……だけど返って来た言葉は…。
「それより由、お前忠明君と絵里香に会うの久しぶりだろ??忠明君は毎年、顔を見せに来てくれてるんだぞ?」
《俺の事は……流すのかよ!??》
ギュッと唇を噛み、気持ちを抑えてから顔を上げる。
上座に座る由の父親は、目を細くして少女の頭を撫でていた…。
「絵里香、此処は寒いんだし…お前はコタツに戻って、テレビでも見て来なさい?」
少女はコクンと頷き、部屋から出て行く…。その足音が聞こえなくなった所で、由の父親は俺を真っ直ぐ視線でとらえる。
その目つきは…少女に向けられた優しさ少しも無くて、冷たく嫌悪してる様にも感じられた。
「君は、由と付き合ってる…と言ったな?絵里香の事は知ってたのか?」
「……いいえ…。」
《ここで目を反らせば、俺の負けだ。》
~17~
「では君は、ただ由と結婚したくて来たのか??2人が結婚したら、絵里香がどんな気持ちになるのか…それを考えて来た訳じゃない、そうだな??」
「……勘違いされてるみたいですけど、結婚は…出来ません。」
由の父親と母親…それに忠明が困惑するのが分かった。
普通、彼女の家に来た時は"プロポーズ"するモノ…とでも考えてるんだろう。
…だが生憎、俺は由と結婚出来ない。どんなに好きで…愛していても。
「結婚…する気は無い、そういう事か?!そんな軽い気持ちで娘と??一体何しに来た!?」
俺の印象は…最悪なのだろう。由は35…14も歳の離れた男が急に現れ、付き合ってはいるが『結婚する気はない』…そう言ったのだから。
…この時俺は、ひどく投げやりな気分になってた。もしかしたら由は、俺と別れたくて…連れて来たのかもしれない。俺だけが本気になって……由は…。
《どうなっても良い……こんな場所…これ以上、居たくない。》
最悪の状況…それを修羅場に変えてしまった、俺の一言…。
「結婚したいと思ってても無理ですよ…俺、女ですから。」
~18~
この言葉に、由の父親はキレてしまった。
俺の態度が気に入らない…とか、娘に何をした…とか……そんな内容の言葉を、唾を撒き散らしながら叫ぶ…。
興奮した男に俺は殴られ、男は忠明に押さえられる…。
由は泣いてたけど…俺はそれを無視し、部屋から出る。廊下で絵里香とすれ違い、俺は何故か…彼女を睨んでいた…。
由と忠明……2人の間に産まれた彼女を、俺は今は…好きになれない。
これはきっと…俺がまだ子供な証拠……。
彼女の嘘を笑って許せるほど、俺はまだ…大人になってないんだ。
そのまま玄関まで戻り、俺は由の実家を後にした。
彼女から貰ったマフラーを、雪の積もったボンネットに残して……。
第二章 再会と出会い
~19~
何も考えず…無意識に俺は歩いてた……。
悲しいのか、悔しいのか分からないけど…気付けば頬に涙が流れる…。
《由に子供が居た。由の元夫に会った。由の両親に…嫌われた。》
…もし……俺が男だったら?現実はどう変わってた??
分からない……何が原因でこうなったのか、分からない…。
何十分、何時間歩いたのかも分からなかったけど、俺は見覚えのある場所に辿り着いた…。
唯の母親に会った後、唯と2人で来た公園…。
あの時とは違い、蝉の声も照りつける日差しもない。
全ての物が雪と静寂に包まれた公園。その姿は、どこか寂しそうに見えて……。
俺は唯と2人で座ったベンチの雪を軽く払い、腰掛けた…。
~20~
雪が降るのに、音なんて無いけど…ボタン雪はヒラヒラと舞い、俺の体にも積もっていった…。
指先の感覚がなくなり、真っ赤になる。耳もジンジンと痛む中、殴られた頬だけが…冷たい雪と空気の中で熱を帯びていて…。
…どれ位そこに座っていたのか……ふいに、名前を呼ばれた。
「玲!?どうしたの??ッ!!!!」
俺の元に駆け寄って来た唯は、数メートル手前で…転んだ。
ボスッ!!という音で、雪に埋もれた唯…。
「…何やってんだよ、鈍いヤツだな。」
手を引き彼女の体を起こす、コートは雪で真っ白だ…。俺はしゃがみ…感覚の無い手で、その雪を払ってやった。
「……久しぶりだね?」
その問いかけに、俺は唯の顔を見上げた…。
「…玲の方が、雪まみれだよ?」
困った様に笑い、今度は唯が俺を立たせると…体に積もった雪を払っていく……。
この作品は冬の物語で、書き始めたのも冬…。
冬のうちに、更新も完結させようと思っていたんですが……春になってしまいました😣💦
季節に合った作品が書きたかったんですよ……本当は。
それなのに、更新が遅かったせいで……。
反省してます🙇スランプだった訳でもなく、ただサボっていたので…まず読者の方にお詫びしたいです。
すみませんでした🙇💦
~21~
俺は少し屈んで、唯に身を任せる…。唯の優しさと子供っぽい仕草を見るのは、夏…別れて以来だ。
「一緒に来ない?こんな所に居ても、風邪ひいちゃうから。」
「俺は大丈………」
答える前に、強引に腕を引かれる…。
《こういう性格は…変わってないな……。》
「玲?ケータイ鳴ってるよ??」
上着のポケットの中で鳴る携帯…由の好きな曲、由からの着信音。
電源を切り、俺は心配そうな顔でこちらを見る唯に、笑ってみせる…。
「…良いんだ……間違い電話、しつこくて。」
疑う唯の頭を撫で、俺は彼女の前を歩く…唯の向かおうとしてる場所は、何となく分かってたから……。
雪を踏む俺の足音から少しずれたテンポで、唯の歩く音も聞こえて来る…。
俺の足音を追う様なその音に…俺の気持ちも、少しずつ落ち着いていく…。
2人が歩いた後に残った足跡は、2人分の靴が重なり合っていた……。
…22…
「唯……って…玲さん?!」
久しぶりに来た唯の(元)家…。玄関で唯を待っていた陸太は、俺が居る事に一瞬驚いた顔をしたけど…すぐに笑顔で出迎えてくれた。
「久しぶり!!あんまり元気そうじゃないけど、上がってよ!」
「……悪いな…。」
リビングは暖かくて、懐かしい香りがした。
「はい、タオル。」
唯は俺の頭にタオルを乗せると、濡れた上着を無理矢理脱がせる。
「唯!?何するんだよ?」
「これ乾かして来るから、玲は自分の頭乾かしなよ?!」
「……。」
ソファに座ると、陸太がさり気なくストーブを俺に寄せてくれた。
「何か飲む??寒いなら着替え…」
「ありがと。でも乾いたらすぐ帰るつもりだし…。」
「……そっか、ゆっくりしていけば良いのに…。でも…何で2人が一緒に??」
《??…妬いてるのか???》
笑顔だった陸太の表情は真剣な顔つきになり、俺の言葉を待っている…。
「偶然…公園で会ってさ、それで…」
「玲さん…。唯から聞いて無いみたいだから言うけど、俺達……付き合ってるから。」
~23~
《玲!?どこ行ったの??》
『由…追いかけろよ。』
混乱し、騒ぎ立てる両親をなだめつつ…忠明さんは小さく私にそう言った…。
私は急いで外に飛び出す…だけど、玲の姿は無かった。
残されていたのは…雪が積もって白くなった車と、そこにポツンと置かれたマフラー…。
…私がプレゼントしたマフラー……。
そのマフラーは私に、玲の悲しく傷ついた心の痛みを訴えているみたいで…。
だけど私は…彼に言えなかった。言うタイミングを一度逃した私には…どうしても、言えなかった。
"玲に嫌われる"って恐怖……その恐怖に負けた臆病な私は、結局彼を傷付けてしまって…。
それなのに私は…弱いままで。
何度も玲に電話をかけるが、最初は通じたけど…その後はずっとつながらない。
一応帰ってみたマンションには…想像通り、彼の姿は無かった。
…2つ並んだベット、その間に出来た隙間を眺めていた時…私の携帯が鳴った。
~25~
「…玲さん??」
「えっ??…あ……ごめん。」
…驚いた。あの唯が、陸太と……。
「…玲さんは、由さんと付き合ってて…幸せなんでしょ?どうしてそんな……」
「誤解するなよ…。俺はただ…驚いただけで…。……お前ずっと、唯の事好きだったからな…。」
そうだよ、陸太はずっと…唯の事想ってた。こんな一途な男、滅多に居ないし…そんな奴に想われて、付き合って……唯は…幸せなんだ。
喜んでやらなきゃ…祝うべき事なのに……。
《…なんだ……この気持ち…。》
「俺…玲さんに隠したままなの嫌だったから。」
「…ああ。唯の事頼むよ、あんな女だけどさ…。」
唯との関係を俺に言ったのは、陸太なりの…"俺の女に手を出すな"的な行動なのだろう。
彼氏としては…元彼氏の俺と唯が会うの、やっぱり良い気持ちにはならないと思うから……。
「じゃあ…そろそろ帰るよ。邪魔しちゃ悪い。」
「分かった……気をつけて。」
陸太から出てる空気は、唯を守りたい…離したくないって感情で溢れてる…。
一途で…真っ直ぐで。
俺もこんな風に、態度に出せたら…。
……よそう…こんな事考えても、俺には無理だ。
~26~
「帰るわ…お邪魔しました。」
ソファから立ち上がり、俺はリビングの戸に向かって歩く…。陸太は俺の方を見…何かを口にしようとした、その時…
「玲?どこ行くの??」
俺の上着を手にした唯が、反対側の戸から帰って来た。
「2人の邪魔するの悪いし、帰ろうかと…。」
「…陸太…言ったんだ??」
驚いた唯が、陸太に視線を向ける…陸太は何故かそれを反らすと、俯きテレビを点けた。
「良かったな、2人よく似合ってる。」
「…ありがと……。」
苦笑いをする唯の手から上着を受け取り、それを羽織る。
「じゃあな…仲良くしろよ?」
「えっ?!あの…待って!!!」
背を向け帰ろうとした俺の上着を、唯がグイッと引っ張る。
その反動で…俺は転びそうになった。
「何?!」
《高いんだぞ、この服!!》
苛々しながら唯の方に向き直ろうとするが、彼女は服を掴んだままだ。
~27~
《折角俺が気遣ってるのに…陸太が妬いてるの分からないのか??》
テレビ画面を見つめる陸太の横顔は、年始のバラエティー番組を見てる割に…暗く険しい……。
「…あの…もう少し居てよ?まだ顔色悪いし。陸太も良いでしょ??」
「…好きにしろよ。」
「ほら、陸太もああ言ってるんだし。ねっ?」
《いや…帰った方が良いでしょ、俺。》
明らかに陸太は機嫌が悪いのに、唯は気付いていない…。男心に鈍い所も、全然変わってないな。
にこやかに微笑む唯と、陸太の横顔を見比べる…。
《帰りたい…。》
この気まずい空気は、由の家の居心地の悪さと良い勝負だ。
だけど…俺の上着をしっかりと握った唯の手…あれを解くのは、俺じゃ無理そうだ。
「…なら、30分……30分したら帰るよ?」
「うん!!さ、ソファに座って!もっとストーブ近付けようか?」
「…焦げるって。」
伸びた上着に凹みつつ、俺は陸太の正面に腰掛ける。
陸太の隣に座った唯は、ようやく彼氏の機嫌の悪さに気付いたのか…不思議そうに首を傾げた。
~28~
「ねえ、長い間会って無かったけどさ…また前みたいに、みんなで遊ぼうよ??」
「…良いけど。」
《陸太が嫌じゃなければ…な。》
なぜか上機嫌の唯は、嬉しそうに最近あった出来事を俺に聞かせてくれた。
川本と真琴さんは、少しずつだけど…その関係を深いものにしていってる…とか、進と美里が婚約したとか。
それ以外の…ほんの些細な事、○○って芸能人が俺に似てるとか…最近髪を伸ばし始めたとか…。
終始笑顔で話す唯…。
俺と別れて、唯は泣いてないか…立ち直れたのか…凄く心配だった。
俺のせいで唯が体壊してたらって、不安だったのに……。
今、目の前に居る唯は…俺と付き合ってた頃より明るくて、幸せそうで…。
…凄く…眩しかった…。
…きっとこれは、陸太の愛情のおかげで……。
ありがとう…陸太。
唯はやっと、成長したんだな…。
やっぱり俺達は、別れて正解だったんだ。
…そう思った時、安心した反面…俺はほんの少し……寂しさを感じた…。
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仮名 轟新吾へ(これは小説です)
お互いに「Win-Winの関係」じゃないとね! 女性の行きたい所…(匿名さん72)
212レス 3158HIT 恋愛博士さん (50代 ♀)
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🌊鯨の唄🌊②4レス 151HIT 小説好きさん
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人間合格👤🙆,,,?11レス 170HIT 永遠の3歳
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酉肉威張ってマスク禁止令1レス 204HIT 小説家さん
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また貴方と逢えるのなら16レス 489HIT 読者さん
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今を生きる意味78レス 539HIT 旅人さん
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また貴方と逢えるのなら
『貴方はなぜ私の中に入ったの?』 『君が寂しそうだったから。』 『…(読者さん0)
16レス 489HIT 読者さん -
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 151HIT 小説好きさん -
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 170HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 204HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1432HIT 檄❗王道劇場です
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