注目の話題
箱入り妹について
これって付き合ってると思いますか?
連れ子が嫌いと言われた

~脱線~

レス7 HIT数 1381 あ+ あ-

匿名さん( 20代 ♂ )
08/09/24 21:02(更新日時)

脱線1


「この列車を脱線させてやるよ」


端正な顔立ちをした、しかしどこか儚げな瞳をした少年がそう言って嬌笑した。


彼の右手には血に染まりながらも未だ鈍い光を放ち続ける刃物が握られていた。


電車の運転士は、すでに事切れていた。


私がその事件に巻き込まれたのは、SATでのその日の訓練を終え、帰路に着こうとJR線に乗り込んだ時のことだった。


どうやって少年が運転室に入り込んだのかはわらない。


とにかく、私が騒ぎを聞き付けた時には、運転士は脇腹を包丁で抉られていた。


少年は車両内のどこかに爆弾を仕掛けたと供述していた。


もしも、この列車を強制的に停止させるようなことがあれば、それをすぐにでも作動させると言うのだった。


乗員150名を人質にした前代未聞のトレインジャックは、少年の反抗声明と共に電光石火の速度で警視庁へと伝わった。


しかし、それは反抗声明と呼ぶには余りにも子供じみた遊びだったのだ。


「僕とゲームをしよう」


狂気かあるいは悲壮か。


重っくるしいながらも、どこか胸を引き裂かれそうな声で少年はつぶやいた。

No.645851 08/08/15 18:40(スレ作成日時)

新しいレスの受付は終了しました

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.1 08/08/16 11:26
匿名さん0 ( 20代 ♂ )

脱線2



少年が仕掛けたゲームは単純だった。ただ、爆弾を解体するだけのことだ。


「ただし、条件はつけるよ。爆発物処理半の列車への侵入は許可しない。ここにいる人間のうち、誰かが代表となって、爆弾を解体するんだ」


私を含めた乗客たちの間に、なんとも形容しがたい鬱屈とした空気がただよいはじめた。


恐怖や絶望、その他おおよそ日常では味わい得ない負の思いが、決壊したダムの水の如く、一気に身体を駆け巡ったのだ。


私は……正直に言おう。怖かった。


私は爆弾解体の知識こそなかったが、警視庁の特殊部隊という仕事がら、爆弾が物体を粉々に破砕する瞬間を何度も目の当たりにしていた。


そして、こうも思った。


もしも、乗客の中に自分以外の適任者がいなかったら……。


くしくも、その予感は次の少年の言葉で的中することになった。


「その代わり、電話からのアドバイスは許可するよ。せいぜい、分かりやすいように、爆弾をなめまわすような説明をすることだね」

30分後、電話先に爆弾解体のスペシャリストが用意された。


彼が爆弾解体の手足として指名したのは、やはり私だった。

No.2 08/08/17 09:50
匿名さん0 ( 20代 ♂ )

脱線2




少年の言葉は本当だった。


爆弾は天井のエアコンの中から現れた。


私は目の前が真っ白になり、立ちくらみを感じた。


『落ち着くんだ。俺の言う通りに、一から十までをこなせば、それはただの金属の箱になる』


電話先から聞こえたその言葉に、私はどれだけ心を救われたかわからない。


冷静を取り戻した私が、気を引きしめて爆弾をエアコンのなかから取りだそうとした矢先だった。


『待て、まだそいつに息の一吹きもかけてはいけない!』


無機質な光を帯びた金属の箱に指を伸ばした状態で、私の体は硬直した。


『金属の、ボールかなにかがついてはいないか?ゴルフボール程度のものだ』


電話先の男の言うとおり、爆弾には小さな金属球が細い針金にぶら下げられるようにして取り付けられていた。

『おそらくは、ブービートラップだ。金属球が周囲の金属に当たると、即座に起爆するようになっているのだろう』


ドッと、全身の汗腺がいかれてしまったかのように、汗が滝の如く吹き出してきた。


心臓がスタッカートを刻みだし、私は耐えきれずに尻餅をついた。

それを傍観していた少年は、いささか感心したようにほうとつぶやいた。

No.3 08/08/21 22:47
自由人3 ( ♀ )

応援(^3^)/

続きが読みたいです~!

新スレにあがった時から
釘付けです(^○^)

主さん頑張ってください😆

No.4 08/08/22 00:28
匿名さん0 ( 20代 ♂ )

脱線4




無様にも床の上に両手を突いてしまった私を冷ややかな眼差しで射抜き、少年は嘲笑した。


「よく気がついたもんだ。でもね、こいつは何もあんたが粗末な扱いをした時にだけ働くもんじゃないんだぜ?」


それはいったいどういう意味なのか、私は少年に訪ねた。


「足りない頭を使いなよ。金属球は針金で繋がれているんだよ?そして高速で移動する列車には強い慣性が働いている。もしも、列車にほんの些細な異常が起こったとしよう。爆弾はドカンさ」


私は少年の淡々とした物言いに畏怖し、唾のかたまりを飲み下した。必要以上に大きな音がした。


私はいったん呼吸を整えた後、携帯電話を口元に近づけて、少年に聞こえないように提案をした。


それは、彼を捕らえ、彼自信に爆弾を解除させるという案だった。幸いにも、私は腕っぷしには自信があった。

しかし、電話の向こうの男は渋い態度を見せた。


『そいつには賛成しかねる。こいつは自爆テロだ。犯人を拘束できたところで、命を惜しむ輩ではなかろう。それどころか、自棄でも起こされては事だ』


男の言うとおりだった。今、私たちの命は少年の気まぐれで繋ぎ止められているにすぎなかった。

No.5 08/08/22 02:35
匿名さん0 ( 20代 ♂ )

自由人さん、レスありがとうございます。短編と言いながら書き込みが遅くなってしまいすみませんです💧

No.6 08/08/22 06:35
匿名さん0 ( 20代 ♂ )

脱線5



このゲームは、はじめからフェアではない。

言うなれば人間が狩りごっこをするために、兎小屋に入って行くようなものだろう。


兎は自力で小屋から抜け出せず、猟銃を手にした人間に敵うはずもない。


私は電話先の男と相談すると、取り敢えずここは他の乗客を出来るだけ後ろの車両へと移すことにしたのだった。


その最中、私は老人の背中に携帯電話を隠すようにして、少年の顔をカメラに捉えた。


『いいぞ。この顔写真があればすぐにでも身元を洗い出せる。我々は爆弾の解体に取りかかるとしよう』


私はそれに同意し、踵を返して天井を睨み上げた。


爆弾を天井から下ろすことはできない。したがって、私は乗客から借りた旅行鞄を踏み台代わりにしながら爆弾に手を伸ばすという、かなり無謀な体勢を余儀なくされていた。


電車が揺れるたび、私の寿命は削られていった。


爆弾の中でうごめき幾重にも重なりあう無数のコード。その一本でも切り間違えれば……あるいは、金属球が周囲の金属に触れれば……その瞬間、私の体はこの車両ごと粉微塵になるだろう。


自然、おさえがたい恐怖に身が縮こまり、私は倒れるようにして椅子に腰を下ろした。

No.7 08/09/24 21:02
匿名さん0 ( 20代 ♂ )

脱線6




そんなとき、少年はふと疑問に思ったように訊いてきた。


どうしてお前はそこまでして自分の身を危険にさらすのか。他の乗客と同じように、後ろの方へと逃げれば命だけは助かるかも知れないのに、と。


そう訪ねられた時、私の心の中で一つの疑念が毒づいた。


彼の言う通り、爆弾を他の人間に任せて、自分は身分を明かさずに逃げることも出来た。

しかし、果たしてそんな真似が出来ようか?警官が一般人を見捨てて保身に走るような真似が。


私がそのように言うと、少年は私を見下しながら鼻で笑い、偽善者と罵った。


「じゃあ、汚職警官は何だって言うんだ。女性を暴行する警官だっているだろうに!」


少年の胸を掻きむしられるような声が響いた。


「いない」


私が咄嗟に切り返した言葉に、少年は面食らって目を丸くした。


「そんな警官はいない」

投稿順
新着順
主のみ
付箋

新しいレスの受付は終了しました

テーマ別雑談掲示板のスレ一覧

テーマ別雑談掲示板。ひとつのテーマをみんなでたっぷり語りましょう❗

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧