鯨の唄 3

レス87 HIT数 601 あ+ あ-


2026/04/15 10:19(更新日時)

鯨の唄という小説を過去にここで書きました。

その続きを書いてみます。

誤字脱字だらけのつたない小説です。

戦争の時代…鬼のようだった兵士が海で人魚に出会いました。

兵士の心の中には病気で亡くなった兄がいました。

兄はとても女性的な人でした。

そして戦場であったのもとても女性的な男性でした。

やがて過酷な戦場で女性的な男性兵士は彼の心の拠り所になっていた。

しかし彼は鬼のような兵士として生きていた。

鯨の唄1と2は鯨の唄で検索するとでてきます。

ミクルが書けなくなるようなのでその前に少し書いてみます。  



26/03/25 13:52 追記
戦争な残酷な描写が多少でてきます。

苦手な方は見ないようにご注意ください。

またプラトニックですが同性愛がでてきますので不快な方はご注意ください。

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No.4441198 (スレ作成日時)

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No.51

おじいさんは全てのことを真剣にする。

家事も仕事も全てが丁寧で無駄がなかった。

私をおじいさんのすることをみているのが好きだった。

見て学んでいた。

私はここで真珠の養殖を手伝うことにした。

おじいさんは、愛情込めて白く輝く真珠をつくる。

この一粒には海とおじいさんの愛情がつまっている気がしたんだ。



No.52

夜になると昔ながらの囲炉裏をかこんで夕食をゆっくり食べる。

そのときにおじいさんは人魚の話をしてくれた。

若いころに出会った美しい人魚の女性の話。

太陽の光に輝く黄金色の髪と海と空を両方映したような色の瞳と真珠色の肌をしていたという。

彼女の美しいのに遠慮がちで気弱な瞳におじいさんは恋をしたんだという。

彼女のために心を込めて真珠の首飾りを作ったんだそうだ。

彼女を知ってからますます真珠作りが好きになったんだそうだ。


春夏秋冬を彼女と交流したという。


おじいさんの瞳はまぶしい水面も見るように夢見心地だった。

なのにある日ぷっつりと姿を消してしまったんだという。


おじいさんはさびしそうな顔をした。


おじいさんはそれからしばらく人魚をずっと待っていた。


だけどついに戻らなかった。


やがてあきらめてあなたのおばあさんと結婚したんだそうだ。


でもおばあさんのことも好きになり大切に思っていたそうだ。


私はふと思う。

私を助けてくれた人魚と関係があるような気がした。







No.53

おじいさんとの素朴な暮らしは私にとって本当に大切な日々だった。

朝早く目覚めて井戸の水をくみにいく。

そのときに日の出を見る。

くんだ桶の水に朝日が映る。

おじいさんが米をといでいる横で味噌汁の具を用意する。

漬物を切り趣味の良い食器に盛り付ける。


それだけのことに心が満ち足りていく。


おじいさんの貴重な米を使って炊いたご飯は粒がふっくらとしてつやつやと光っていた。

長いこと戦地で疲れただろう…!

穏やかに慈しむような目で私を見て。

白い茶碗についで差し出してくれた。

わたしは両手で大切に受け取る。

甘みのあるご飯の味をかみしめながら泣いていたの。

私の作ったお味噌汁を美味しいよ!と嬉しそうにたべてくれる。

おじいさんは私を孫のように可愛がってくれた。

生きて戻れなかったあなたに申し訳ないと思いながら。

だけどあなたは嬉しそうに微笑んでくれた。

だけどここでの暮らしが長くなるうちにだんだんとあなたの気配が薄れていくのを感じていた。





No.54

ある夜、おじいさんは話してくれた。

早春のまだ寒い夜。

囲炉裏の火を火箸で整えながら鉄瓶で湯を沸かしていた。

番茶を入れる準備をしながらオレンジ色に色づく炭をみていた。

だんだんと湯気が立ちのぼる。

思い出すようにおじいさんはいう。

春にわたしはどうしても見せたかった。

あの人魚に桜をね。

だけど海辺に桜はなくてね。

ここからしばらく山のほうに歩いたところに大きな桜の木がある。

毎年満開になると荘厳華麗でね。

わたしはある満月の夜に荷車を持って港まで行ったのさ。

あの子は人間を怖がっていたんだ。

わたしには心を開いてあらわれてくれたが…。

だから昼間は連れていけないから

月の明るい満月を待っていたんだ。




No.55

荷車に水をふくませた木綿の布団を乗せて…

人魚を抱きかかえて乗せたんだ。

そしてわたしは荷車をひいて桜の木まで急いだ。

わたしはひやひやしたよ。

荷車の音で目覚めてだれかこっちへこないかとね。

でも幸いみんな昼間の仕事に疲れてよく眠っていた。

その夜は赤子の夜泣きさへしなかった。

だからわたしは人魚にゆっくりと桜を見せてやれたんだ。

きれいだ〜きれいだ〜とめを輝かせていた。


わたしはきれいなまあるい月に照らされた満開の桜と美しい人魚の姿に見惚れていたよ。


生まれてきてこの世であんなに美しい光景をみたことはない。


おじいさんはまたあの夢見心地の瞳を輝かせていた。


私は想像してみる。


満月と満開の桜と人魚とおじいさんの姿を。


そしてなんて素敵な光景だったことだろうと思ったの。



No.56

昔母さんは話してくれた。

お父さんが見せてくれた。

さくらという花がどんなにきれいだったかを。

首のかけた真珠の首飾りをさわりながら。

夢見心地でまあるい月をみていたの。

どんな色かっていうのを薄桃色の貝柄をみせて。

こういう色だよと教えてくれた。

花っていうものをあんまり知らない私に。

身ぶり手ぶりや砂にかいたりして教えてくれた。


いつかわたしもみてみたいな。


ずっとそう思っていた。


出来るなら好きな人とみたいなって思っていたけど。


わたしが好きになってしまった人はもういない。


たくさんの罪を背負い地獄の島で永遠の眠りについたの。


あの人は好きな人と桜を見るという人間としは普通に風習をできたのかしら?


お兄さんと桜見れたのかしら?


それが出来ていたら良かったけれど。

No.57

おれの意識は海を漂う。

ふわふわと漂う。

おれは過去と現在を行ったりきたりしながら。

今もこの海にいる。

せめて海に帰れたのは。

人魚に出会えたからなんだ。

おれの心は過去と現在を行ったりきたりする。

幼いころのおれ…

戦地のおれ…

死ぬ間際のおれ…

おれはおれの人生を見ている。

ときおり聞こえてくる鯨の唄声をききながら。

鯨はおれに何を教えようとしているんだろう?






No.58

わたしがあの人魚の岩礁から戻ったのは秋冬のころだった。


真冬の寒い時期におじいさんのところに行った。


寒い冬をおじいさんと囲炉裏でぽつりぽつりと語り合いながら…

やがて早春を迎えた。

おじいさんの庭に白い梅が咲き…

寒さが和らいできたころにやがて桜が咲きはじめ…

温かい日が続くうちに見頃を迎えた。

おじいさんは人魚に会えなくなってから…

庭に桜の木を植えたんだそうだ…

山のほうからはウグイスの声も聞こえてくる…

小鳥たちが桜の花をつまんでいる

縁側でぼんやりと鳥たちの様子を見るおじいさんに…

貴重な甘味を差し出す。

街で買ってきた。

桜の見頃に一緒に食べようと思って。

座布団を縁側にもう一つならべ。

その前にお茶と甘味を並べる。

あなたの分だ。

成仏を願いながらまだ私はあなたがそこにいるように。

家族がもうひとりいるように。

ときどきあなたの分を用意した。

そんな私におじいさんはなにも言わなかった。

だってずっと願っていた。

生きて帰りあなたと桜を見たいと願っていたから。










No.59

ぼくは気弱な自分の性格を決して好きではなかった。

いつも自信がなかった。

君はそんなぼくでも好きだと言ってくれた。

君のその気持ちにどれだけ感謝しただろう。

生きて戻ることはできなかった。

でもぼくはちゃんと桜を見ている。

座布団に座っている。

お茶や桜色の甘味を愛で楽しんでいる。

並んで桜を見ているじいちゃんと君を。

ぼくは嬉しく見ている。

気弱なぼくを戦場で君は守ってくれた。

いつもぼくは隊長に殴られて身体はボロボロだったけど。

心はいつも君が守ってくれた。

隊長は身体はピンピンしていたが心は本来の自分を見失い残念なものへと変わってしまっていた。


おれは鬼の形相でおれを殴るあいつの様子をどこか冷静に観察していた。

普段はあいつに怯えていた、でもどこか同情していた。


こんなに殴られてもやり返せない自分を情けなくも思っていた。

戦場では人をあやめなくてはならない。わかっていてもどうしてもできなかった。

あいつはそれが出来た。

兵士としてはある意味真面目といえたのかもしれない。

でもぼくは兵士である前に人間だった。

ぼくは人間であることを選んだ。

あいつは鬼になることを選んだ。

選んだ道が反対だっただけだ。





No.60

戦場では人間のままでいることのほうが難しい。

あいつはある意味戦場に適応した。

戦場に適応して変化していった。

最初はああじゃなかったから。

兵士の学校でおれたちは同期だった。

学生のころはあいつはまだささいなことに笑顔すら見せていた。

優しいところもたまにはあった。

少しわがままなところもあったがおれはあいつを嫌いじゃなかったのに。

たまに見せる自嘲気味の笑顔はすくなくとも好ましく思っていたから。

あいつに腹立ちまぎれに足を切りつけられたとき…

それでもあいつを叱れない自分の男気のなさに辟易していた。

まさかその傷で死んでしまうとは。

だけどあいつはあいつなりに必死だった。

それが良い方法なんだと信じていたのか、もう理性など飛んでいたのか。

最後にあいつが君を助けたことにだけは感謝している。

あの人魚と岩礁で平和に生きる道もあっただろうから。

でもあいつは真面目だからそんな自分は許せなかったのかもしれない。

鬼畜なのに真面目。

それは奇妙な組み合わせだった。

ぼくがまだ成仏していないのは

まだどこかであいつのことが心にひっかかっているからなのか。

それともまだ君のそばにいたいだけなんだろうか。












No.61

ハーモニカを吹くのが好きだった。

死んで一番残念だったのがハーモニカを吹けないことだったなんて。

口下手なぼくは、ハーモニカを吹いたり、朗読を聞かせて

君とコミュニケーションしていたのかもしれない。

君への好意をそんな風にしか表現できなかった。

じいちゃんは気弱なぼくを口下手なぼくをそのまま否定せず育ててくれた。

ゆうは優しいからそれでいいんだと。

優しさは宝だよと。

ほらと大きめの真珠の玉を一粒、ぼくの手のひらにのせてくれた。

日の光をうけてまろやかに柔らかく白くそして虹色に輝いていた。

じいちゃんの真珠は本当に綺麗だった。

その真珠作りを君が受け継ぐことをぼくは本当に嬉しく思っている。

君には感謝しかないんだ。

君には思いやりの気持ちしかわいてこない。


No.62

あいかわらずおれは海を漂っている。

穏やかな海が突然荒れ狂う。

おれの目の前におれがあやめた人々が順番にあらわれて

おれに恐怖や激しい怒りの表情をむける。

涙を流して激しく泣いているものもいる。

おれはまた戦場に立っている。

おれはおれのしたことを見ている。

おれは鬼なんだとまた思い知らされる。

おれが純潔をうばった少女が泣いている。

布団に突っ伏して泣いている。

なぜこんな目にあったのかわからないと泣いている。

おれはかわいそうに手を伸ばしかけ

でも女を捨てるように置いて出ていく男がおれだと気づいて呆然とする。

おれはずっと鬼のままなのか。

もう子供のころには戻れないのか。


さ…く…ら…?


そんなもの…おれには無意味だよ。

だっておれはもう人間じゃないのだから。

No.63

ふと気づくとおれはまたあの岩礁にいた。

もう二度と戻ることはないはず。

おれはあのときあの島で死んだんだ。

人魚が背泳ぎしながら満月を見上げている。

懐かしそうに柔らかく笑っている。

ふっと顔をあげてこっちをみる。

穏やかな笑顔は驚きに変わる…

やめろ!みるな!

こんなおれを見ないでくれ!

たった今少女を傷つけ捨て去ったおれを。

こんなおれを見ないでくれー

おれはその場からふっと消える。

おれなんかに関わらないでそうやって穏やかに笑っていればいいんだ。

おれのことなどみんなみんな忘れてほしい。

おれはおれの存在全てが完全に消えてなくなることを願っていた。

ろくなものじゃないのだから。


No.64

おれはあの島の岸壁に立っていた。

ここは夜は凍えるほどにさびしく寒かった。

仲間がいたはずなのに姿が見えない。

おれだけがここに取り残されているようだ。

そんな風に感じた。

海に映る満月も少し曇って見えている。

曇はどこにも見当たらないのに。

灰色なんだ。

そう。

どこもかしこも灰色なんだ。

おれは膝を抱えてしゃがむ。

おそらくまたもうすぐフラッシュバックがはじまる。

それまで少し休ませて。

おれは子供のように身体を丸めた。







No.65

男が見える…

ナイフを振りかぶってやってくる…

ああ…

あの青い瞳…

やけに懐かしい…

わあぁぁぁぁー…

声がこもって反響している…

おれに向かって走ってくる…

おれはまた繰り返す…

腕を広げようとするのに…

かじかんで思うように動かない…

わあぁぁぁぁー…………

広げそこねた腕…

だらりと垂れ下がる首…

その横を風のように走り抜けて…

青い小鳥になって月よりも高く高く飛んで行った…

おれは気がつくと泣いていた…

震えながら泣いていたんだ…

おれは疲れきっていた…





No.66

あの人の幻影を見た。

まあるい月を見て母さんを思いだしていた。

海に寝そべるようにして泳いでいた。

懐かしさに微笑んでいた。

でもふと視線を感じた。

まさかと思ってあわててふりむく。

顔色悪いあの人が恐怖に怯えた瞳を見開いていた。

そしてぷつりと消えてしまったの。

わたしはその日からまたあの人を心配した。

あの人のスピリットはさまよっている。

あなたの決めた道だからとわたしは納得した。

でもあなたは本当はとても弱くて。

まだまだ迷路の中でもがいているのね。

わたしはあの人に何ができるのだろう。

あの人はふるさとに帰ることを拒んでいたから。

どうすればいいのだろう…

わたしはお月様にたずねてみたの。


 

No.67

おれは優しい穏やかな凪の心を持つ兄に憧れていた。

それはおれはそうなりたくてもなれなかったからかもしれない。

色白男の弱そうに見えるのに意志を曲げない強さをまぶしく思っていた。

そうなれない自分。

兵士モードが板についていた。

2番目の隊長が空腹から毒草を食べてしんだとき。

おれは鬼モードで生きる方法を考えついた。

おれたちは十分苦しんだから。

もう楽になっていいと。

鬼畜の道へ。

そのときにもうおれは兄には二度と会えない道へ自分から歩いていったんだ。

戦場ではたまに夢にあらわれた兄も…

長いことぷつりともあらわれない。

それが答えだ。

おれはもう戻れないところまで来てしまった。

兄の指にとまるトンボに手を伸ばした、

あの秋の日にはもう戻れないんだ。

No.68

遠い宇宙の、彼方。

暗い宇宙空間には無数の星々が見えるその中に…

銀色の大きな母船が見える。

その中で熱心に働く穏やかなる女性。

中性的なその人は空中に浮かぶ透明なスクリーンを見ている。

そこには地球での出来事が映し出されている。

地球の状況を毎日観察して記録するのが彼女の仕事。

彼女はため息をつく。

その合間にみたほんとうはいけない私的な用途に使った。

灰色の島の中でやせ細った兵士がたたづんでいる。

それがかつての弟だと彼女はわかっている。

弟が道を踏み外し苦しんでいることを彼女は知っていた。

けれどあえて救済しなかった。

まだその時ではないから……。

彼女は気持ちを切り替えて仕事に戻る。


 

No.69

ワタシ ハ アナタヲ ワスレテイナイ   

でもダメなんです。

簡単に教えない救わない。

自分の力でもう一度出口を見つけてほしい。

また迷子のあの子を心配していないわけではない。

地球で起こった世界戦争の傷跡は深くて。

この傷跡は長く根深く続いていく。

地球人を責めることは出来ない。

なぜならワタシたちもたくさんの戦争を体験してきたから。

けれどワタシたちはそこから長い時間をかけて反省し学び、徐々に愛と調和の世界を育ててきた。

地球の人々もいつかそうなってほしいと願っている。

この地球が宇宙の中でどれほど美しく輝いてるのかに

気づいてほしい。

青く光る地球に生きる愛しき人々。 

ワタシたちは待っています。

あなたたちがいつか成長することを。

 







No.70

ほんとはおれはとっくに狂ってたのかもしれない。

おれはおれを大事にできなかった…

おれはおれのために生きれなかった…

おれのわすかな個性は他者を優先するうちに…

消えていった…

兄の愛した両親や妹にお金を送るために…

きちんと働かなければと人をころした。

戦争で戦果をあげなければと思ってた…

両親や妹を守ることでおれは亡き兄に愛してもらえる気がした…

おれはただのおれで何も役にたたなければ愛されないと思っていた。

でも人をひとりあやめるたびに…

おれの魂は血で汚れた…

おれは壊れ始めていた…

奇声なんて戦争に参加する前はあげたこともない。

怒鳴ったりもしたことない。


おれはおれの心の限界を超えてしまったのかもしれない。







No.71

そして最後の最後にも…

おれはおれを大事にできなかった…

色白男や優男を自分より優先した…

だからまだこんなふうに灰色の世界を漂っている…

別にもうそれでよくないか…?

灰色の世界にずっといてもいい…

もうほかに行くところなんてなかった…

おれの魂の行き場はどこにもなかった…

この灰色の島と悲しい夜の海だけだ…

よるべのないおれの魂は、結局おれがおれに嘘をついたからなのかもしれない。



No.72

最後のとき近くにいた仲間の兵士たちも見えない…

おれが最後の瞬間に心から抱擁した敵の兵士は…

救われて青い鳥になって飛んで行った。

それでもおれだけがここに取り残されている。

仲間なんてどこにもいなかった

桜なんて見ないよ。

一緒に見たい人がだれもいないから。

それに桜だって嫌がるだろう。

おれの願いはただ一つ。

無になることだった。

ついに何一つ自分を守れなかった。

そして優男のように愛されることもなく。

自分を犠牲にしなくても愛された。

恨まれ怒られ軽蔑され…

どんなに、泣いても、たれにも届かない。

おれはせめておれを抱きしめる。




No.73

国のためにたくさん人をころすのが良いことであると…

軍の上層部はいい、それは伝令のように伝わってきた。

国のために死んでこいとふるさとをおくりだされた。

手をふる両親も妹も涙の一粒も見せなかった。

これが兄なら目を真っ赤にして泣いただろう。

先ほどからリーンリーンと鈴虫の声がする。

南の島にはそんなものいなかったけど。

驚きはしない。

自分の意志とは関係なくおれの魂はあちこちに飛ばされる。

見たくもないのに見せられるから。

今度はいったいなんだよ……


虫の音のほうを振り返る…



?!!!!


…………………………………………………………、…。
 


No.74

そこには兄さんが立っている…

灰色の夜の島に兄さんが降り立った…

兄さんの周りだけが白と虹色に輝いていた…

まるで菩薩のような顔をした兄さんは…

黙っておれを見ていた…

ほめもせず、責めもせず、ただおれを無表情に見ていた。

おれは自嘲気味に笑う…

笑いつづける…

止まらなくなる…

笑いながらおれは兄さんを責めていた…

あの愛のない家におれを置いてさっさとこの世を去った…

あなたが去ったせいでおれはずっと無理をしてきたんだよ…

そんなに菩薩のように美しい姿をして…

おれはこんなにも寒くて灰色の世界に閉じ込められているのに…

おれがどんなに責めても…

まるで鋼鉄のようにゆらぐことなくおれをじっと見つめ続ける…

辛かったねとも言ってくれない…

おれはしまいには兄さんの前に泣き崩れ…

地面を叩いた。

拳で殴った。

No.75

わかってね………

ワタシもあなたのような苦しみを同じような苦しみを体験してきたの……、

久しぶりに聞いた兄さんの声は…

遠くからこだまするように響いてくる…

地面から顔を上げると…

兄さんは少しだけ苦しそうな顔をした……

わからないよ…

あなたはそんなにも温かく美しい光に包まれているじゃないですか…?

両親に心から愛されていたじゃないですか?

あまりにも違いすぎます…





No.76

兄さんはまた無表情に戻り…

愛されることが重要なのではありません……

では愛することに意味があるのですか?

おれが愛したことに意味などありませんでした。

おれがおれなりに守ったものも…

みなおれのことなど忘れました…

そんなことはありませんよ………

嘘だ……!!!

おれは毒ついた。

嘘だ………!!!嘘だ!嘘だ!嘘だーーー!!!


兄さんさんはきれいな形の眉をハの字にして…

困ったような顔をした…

顔を手でおおって泣き出すおれ…

このごろのおれは泣いてばかりだった……

兄さんが美しければ美しいほど…

やせて身の心も汚れきった自分が悲しくてたまらなかった………

No.77

あなたは愛されていますよ……

あなたを心配しているものが近くにいます………

兄さんの隣にビジョンがあらわれる…

人魚だった。

人魚が泳いでいる。

海を猛スピードで泳いでいる。

とても真剣な顔をして前方を見つめ…

身をくねらせるように泳いでいる。

彼女はあなたの魂を探してこの島にやってきます……

彼女の気持ちはあなたが思うよりもずっと強いのです……





 


No.78

あなたを許せるものはあなたです。

あなたを愛せるものはあなたです。

どちらも出来ずに泣いているから…

彼女はあなたを助けようとしているんです…

あなたをこの島に閉じ込めたのはあなた自身なのです………

ふふ…

おれは自嘲気味に笑う。

今のおれには兄さんの言葉は響いてこなかった…

泥と血もかぶっていない兄さんに何を言われても…

あなたに何がわかるのだと……

だけど人魚がここに向かっていることには…

素直に心の真ん中に温かな小さな小さな黄金の花が咲いたようだった…

あまりにも遠すぎる兄さん…

どうやら遠いところから呼びかけている兄さん…

それよりもおれのそばに必死に泳いでくる人魚に感謝した……

禅問答などしたかったわけじゃないんだよ…兄さん…

仕方がありませんね…

やはりまだ早かったようです…

ぷつりと兄さんの幻影は消えた…

兄さんの消えた島は…

いつもの灰色ではなく…

ほのかな薄紫色だった…

とんびの声がどこからかする…

薄紫色から空色にグラデーションしていく…

ああ…






No.79

おれは歩いた…

人魚を探して歩きだした…

ひきずるように身体を前に向かわせる…

何もかも知るかと思っていた…

薄紫と空色のグラデーションの島を歩く…

足元を見て歩いていたら…

ふっと気配を感じて顔をあげる…

海だ…

そのあたりにひらひらと舞うのは桜の花びらだった…


パシャリ…

亜麻色の髪の頭が顔を出す…

あの木船ではじめて会ったときのように…

おれを心配する青碧色の瞳は…

今日もよく光っている…

気がつくと月の光があたりを照らしていた…

おれは今度は逃げなかった…

おれはおれの気持ちに素直に…

人魚に手を伸ばした…

白く輝く細い腕が伸ばされ…

おれの手を強くつかむ…

もう離さない…

力強い人魚の声がする…

おれは人魚にひかれていく…

どこまでも続く大海原をいく…









No.80

ため息をついて仕事に戻る…

あの子にはお手上げだわ…

彼女に任せよう…

かつてのワタシが体験した星間戦争は苛烈を極めていた…

ワタシたちにはもう肉体はない…

母星ももうない…

だけど…

同じように見えて違うのだろうか…?

あの子はあの子にしかわからない景色を見たのかもしれない…

No.81

おれはまたこの岩礁に戻ってきた…

もう肉体はない…

あの島から動けなくなっていたおれの魂を…

人魚の手がここまで運んでくれた…

岩礁の中の穏やかなチャプチャプとかすかに音のする…

浅瀬…

人魚はいつものように砂浜に身体を横たえる…

朝の光を浴びて気持ち良さそうに目を細める…

これでもう安心…

あなたはわたしのそばをもうはなれないでね…

ニコリと笑う…

おれは情けない顔をする…

そしてまだ人魚に言っていなかった残虐非道について話した…

わたしがそこにいたらあなたをとめたわ…

あなたがあとで苦しまないように全力でとめたわ…

それが出来なくてとても残念なの。

いよいよ両腕を伸ばしておれを抱きしめる…

口つける…

またほんのりと磯の香りがした…

もう肉体はないのに…

あの日のような香りがした…

No.82

おれは鬼なのにいいのか…

おれは震える声できいた…

わたしははぐれ人魚なのよ?…

それでもいいの…?

少しほほをふくらませて面白い顔をしていう…

おどけているのか…?

おれは……

何か言おうとするたびに…

繰り返し繰り返し口づけられる…

一晩中彼女はおれを抱きしめ…

口づけを繰り返した…

おれは安心してやがて子供のように眠りに落ちていく…


みんながおれを嫌っても憎んでも…


この人魚だけはおれを責めない嫌わない愛してくれる…


おれがそのことにどれだけ安心しただろう…


No.83

今日も地球を見守るお仕事をしている。

こないだのあの子とのやりとりが心に引っかかる。

地球での日々を終えて宇宙の母船での仕事に戻った。

ワタシのここでの仕事は大きく言えば愛することだ。

けれど愛することはときに痛みもともなう。

迷うこともたくさんある。

けれどあの人魚の純粋でまっすぐな愛があの子を救ってくれた。

ワタシはあの人魚に感謝している。

戦争を多くの恨みや憎しみをうみだし…

多くの人々が灰色の世界で迷子になってしまった…

そこから人々を救うためにたくさんの愛が必要で…

ワタシたちでも愛が枯渇してしまいそうになる時もある…

でも愛はめぐりめぐってまただれかを救う…

壮大なワタシたちの心と身体は…

まるで宇宙のように無限大に広がっている…

可能性の宝庫だ…

だからこそワタシたちはあきらめない…

愛と調和と光を宇宙全体に満たせたら…

そんな願いとともに…。





No.84

戦場の鬼、戦場の悪魔は、人魚に救われた。

しかし彼の旅はゴールではない。

終わらない。

彼はやがて転生する。

何十年後、ある家に女の子として誕生する。

もう生まれなくていいよって思っても…

また生まれる。

それならば、彼にころされた人々もまた生まれる。

終わらい魂の旅。

いつまで続くの?

聞いても答えはかえってこないの。

No.85

蛙の鳴き声がする。

水田には命があふれている。

生まれ変わって性別さへ変わって

平和な現代に生きてきた。

もちろん平和とはいいきれないけれど…

それでもすくなくとも戦争していない国で生きている。

それで心の戦争はいつでもどこでも起きている。

みんなが本当は心安らかに生きたいと願いながら。

それがかなわないでいる。

自分の中のエゴを持て余している。

エゴが暴れだすと途端に孤独になる。

愛されたい。

理解されたい。

求めるばかりになるときがある。



No.86

だけど愛は光は本当は自分の中にすでにあるのだそうだ。

それがうまく出てこれてないだけなんだ。


自信がなくて。

いつだって自信がなくて。

みんなの心の中にさまざまな色に輝く愛の光があるはずなのに。

それらが混ざり合い虹色に輝く調和に満ちた世界はまだまだ遠くて…

それでも空は教えている…

海は内包している…

自然はいつも手本を示している…


No.87

まだまだ未完成ですが…

この稚拙で誤字脱字だらけの小説を読んでくれた人がひとりでもいたらありがとうございました。

いつか完成させれる日がきたらいいなと思います。

今度は紙に書きたいです。

ここまで書かせてくれてありがとうございました🐋🌊🦪✨

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