ある女の物語

レス0 HIT数 232 あ+ あ-


2024/08/06 22:07(更新日時)

どうにか終電には間に合った。人のいない車両の中で目をつむる。令和になってもペーパーレスを導入しない会社の方針に女はウンザリしていた。時代遅れのおじさん達の為に資料を印刷する毎日。社会は飛躍的に進化しているが、古臭いやり方を好む会社はまだまだたくさんあるのが現状。女は自分の貴重な時間を無駄遣いしているような気がしてならなかった。早く金持ちの若いイケメンの男と結婚して会社を辞めて子供を生んで育児でもしたいと考えていたが、現実はそう上手くはいかない。

改札を出ると思わずため息が漏れた。都会から離れたここは田舎特有の殺風景な景色が広がっている。明るいのは駅前のコンビニくらいで後はひたすら住宅地と平坦な道が続くだけ。こんな場所からは早く引越ししたいものだ。自宅に向かって歩きながらGReeeeNの「愛唄」を聴きながらエネルギーを取り戻すのが女の日課だった。ところが、しばらく歩いているとあることが気になった。

改札を出てからずっと女の後ろをついて来る人間がいるのだ。女がスマホ見るために一瞬だけわざと立ち止まってみると、その人も立ち止まる。不気味に思った女は振り返ることはせずに、ひたすら歩き続けることにした。周りに人はいない。家を知られてはまずいと考え、途中で道を変えることにした。女が向かったのは駅前のコンビニだった。なぜなら他に明るい場所がないからだ。

夜道に響くハイヒールの音。追いかけてくる足音。女は必死の思いでコンビニに辿り着くと急いで中に入った。しゃーせー。やる気のない挨拶をする冴えない若い眼鏡君。女はようやく勇気が出たのか、バッと振り返ってみた。コンビニの入り口に立っていたのは血塗れの包丁を持ったおじさんだった。充血した目を見開いたまま、瞬きもせずに女に向かっていった。女が倒れ込み、悲鳴を上げた時、おじさんは綺麗に宙を舞っていた。なんと眼鏡君が背負い投げで床に叩きつけ、絶叫するおじさんを必死で床に抑えつけながら、スマホで警察に通報していた。

お客さんだいじょーぶっすか!?

眼鏡君が女に声をかけた。女は静かに頷き、警察が来るまで、乙女のようにじっと二人の取っ組み合いを眺めていた。彼女の頭の中ではいつまでも「愛唄」が鳴り続けていた。

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No.4112140 (スレ作成日時)

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