【短編】明日の東京
一斉休校はしない、と新聞に書いてあった。
学校へ行くことは心の発達のために必要です。
そうなんだ。
じゃあ不登校の私は心が発達しないってことなんだ。
私は大人たちから改めて、本当に罵倒されたような気持ちで。
悔しくて悔しくて、なさけなくて
結局そう思ってるんだって感じで、
雨だけど外へ出た。
歩道の脇を歩けないくらいの雨だった。
午後四時くらい。
もう学校は始まってる。
私は制服を見るのが嫌だった。
でもこのまま家にいたらきっとおかしくなる。
今日はそんな気がする。
ああ嫌。
学校から遠くへ、できるだけ離れられる方へ。
私は歩いた。
スニーカーをぐじょぐじょにしながら歩いた。
ださい服でずっと歩いた。
部屋着の上からパーカーを着ただけ。
ぬれた路面にうっすら映る影がもうださい。
どうしようもない。
学校へ行くことは心の発達のために必要です。
くそが。
私の心も発達させてみろよ。
ぼけ。
(続きます。)
『………続いてのニュースです。9歳の少年が母親により監禁されていたことが昨日、明らかになりました。××県瀬原市に住む無職の石田静江容疑者は29日午後9時ごろ「コロナに感染した」として119番通報し、駆けつけた救急隊員によって陰性であったことが確認されると「本当は別の目的で呼んだ」と供述し事件が明らかになりました。監禁されていたのは9歳の、石田航くん。航くんは静江容疑者が通報を行う数時間前に家を抜け出た後行方が分からなくなっており、警察は勾留中の静江容疑者とともに航くんの保護を優先する考えです。
続いては天気予報です。鹿島さん?』
『はーい!こちらは渋谷スクランブル交差点前、昨日の雨が嘘のような快晴です!』
了
ぐんぐん東京に向かって走る列車。
どこを向いても暗闇のわたしは彼について行ってもいかなくても同じだと思う。
この暗闇は知らないって、それだけのこと――
「ねえ」
「…」
「東京になにがあるの?」
「パパ」
「どこに?」
「パパ」
「東京のどこにいるの?」
「………」
「あなたの名前は?」
「わたる」
「どうしてパパのところに行くの?」
「……あきた」
「飽きた?」
「いえで、いえにいて、
ずっといてそしたら、あきてきたから、
そとにでたいとおもって、
ったらたたかれて、
ずっといえにいて、………」
「家で何をしたの?」
「てれび」
「だけ?」
「………」
「どうやって出てきたの?」
「でたいっていったらたたかれて、
そのあとかいだんで、こけて、
おかあさんが、こけてないて、
そのときにでて、………」
「お母さんはいいの?」
「こわいから、パパのところに行きます。」
「私が話しかけてきたとき、こわかった?」
「………」
「わからない?」
「………」
「………」
「………」
封筒から十万円も出てきた、
一番濡れてないのを選んで終点までの切符を買う
二人分の、それはわたしの家を通り過ぎて。
いつもこうなのだわたしは、あるところで考えるのをやめてしまう、
何もかもを
自分のやりたいことを自分の好きなことを自分の守りたいものを読みたい絵本を日記の一行目を買ってきてほしいアイスクリームの味を休日の予定をお小遣いの金額を膨らみ始める胸を分数の割り算を美しい着こなしを片思いの行方を本当は悪口だった言葉を9月1日を置かれた画鋲の意味を吹奏楽部の練習スケジュールを内申点の不足をブロックされた理由を頻繁に流れる涙を過ぎてゆく時間を長い長い夜を
ホームにはわたしたちだけで電光掲示板の文字が孤独に動き続けている、
滑り込んでくる電車が風を生み出して私たちの体を冷やす、
入った車両内には他に誰もいないわたしたちは身を隠さずに座る、
いつもこうなのだわたしは、それはあきらめるということでは決してなく、あるいは悟ることでは決してなく、ただ動けないそれだけなのだ、ひとつひとつが一日を後悔の時間で埋め尽くしてゆく、だんだん何を見ても素敵じゃない自分のすがたが映る、動かなければ動かないほど、地獄じゃない方向がなくなってゆく。
車内の冷房が強すぎて体は眠ろうとしている、
いつもこうなのだわたしは、何もしなくても誰かは、そう自分も傷ついていくというのに、
ああ心が見えたらいいのに、たとえ私を嫌っていてもいいから心が見えれば、
安心して
傷つ
け
る
。
まわりの店は静かになって駅だけが壊れたみたいに明るい。
まぶしくて頭がいたい。
ぼーっとしてくるわたしを彼が駅舎の中に連れていく。
腕の先に光にさらされたその子の姿が見える。
フケだらけのあたま、何かの跡がついた首筋、服に大量のシミ、かさぶた、青あざ、ズボンの穴、
この子はなんでこんなに汚れているんだろう?
どこへ向かおうとしているのだろう?
わたしは、
その時切符売り場の上の
路線図に見たことのある名前を見つける、
そうだ帰らなければわたしはこの改札をぶっちぎってでも帰らなくちゃ彼の手をぐっとふりほどこうとしたところへ
突然のものすごい力が来る、
つっ
「東京には何にのりますか。」
彼が濡れた薄緑の封筒を手にしている、
「ありがとう、ねえ、ぼく、わたしもう帰りたいんだ、離し」
「東京は何に乗りますか。」
「いたいいたいいたい」
「とおきょうにはなんに乗りますか。」
いま何と叫べばいいのかわからない、
口が
ぱくぱくする、
どうして誰もひとが来ないの。
「…………」
「東京には」
「…………貸して」
わたしは彼に引っ張られるみたいに、歩き始める。
なんだか街灯の数が多くなってきた気がする。
「……どこに歩いてるの?」
彼は答えない。
「おうち?」
「ちがうっ」
「待って」
ああ、
手をつかんじゃった、
何この爪。
なんでこんなに長いの?
「いたい!」
「ごめんなさい、」
「いーたーい!」
「ごめんなさい、逃げないで! ねえ、わたしどうしたらいいかわかんないから!」
「……」
「ね、置いてかないで……」
「……」
わたしはその子と手を握った。
わたしのほうが子供みたいだ、
まるで。
この手だけがわたしをつなぎとめているような、
この手を離したら、
このまま熱を出して死んでしまいそうだった。
彼の裸足の歩幅に合わせて歩く。
「……なんで裸足なの?」
「……」
「靴がきらいなの?」
「……」
「靴がないの?」
彼は頷いた。
「ひとつも?」
「……うん」
「お母さんが買ってき」
「やーめーて!」
驚いて顔をあげると、知らない名前の駅に着いていた。
その子はわたしの目の前で立ち止まり、じっとわたしを見ていた。
たぶん小学生。
「……ねえ?」
答えない。
「……ここ、どのあたりなのか知ってる?」
答えない。
そりゃそうだよな。
地べたに座ったわたし、
ただのおかしいやつなんだもん。
それでもこんな子供に頼らなきゃいけないわたしって何?
何なの?
こどもは動かない。
わたしは震えかけた声で、
「……おうちの人呼んできてくれないかなあ?」
その瞬間、
こどもは強く強く首を振って
走り出した、
「待って!」
思わず立ち上がって、
だけどふらふらする、
追いつけない、
「待って! お願い!」
近づけない、
「何にもしないから! ねえ! ごめんなさい!」
止まった!
わたしはゆっくりと彼に近づいた。
もう空は完全に夜だった。
彼はだけどそれでも、わかるぐらい、じっとわたしを見ている。
とうとうお母さんから電話がかかってくる。
――ご飯できてるんだけど、どこに行ってるの、ねえ?
――散歩、
――この雨で? なんでそんなことするの?
――わかんない。
――ちょっと。じゃあ今どこなのよ?
――わかんない。
――ええ? 電話あるんなら見れるでしょう?
――そっか、
――どうしたの? なにがあったの――
[バッテリー残量が少なくなっています]
電源が切れた。
もう場所も分からない。
どうしよう。
わたしなんて馬鹿なんだろう。
くしゃみが出る。
のどが痛い。
立ち上がれない。
向こうから誰か歩いてきてるみたい。
助けてくれないかな。
誰でもいいから私の手を引っ張って。
人影が近づいてくる。
だんだん、
だんだん、
だんだん、
あれは
こども?
人影が街灯の下を通る、
裸足……?
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