ハル

レス372 HIT数 29870 あ+ あ-


2013/03/03 10:29(更新日時)


だいぶ寒さも和らいできた4月の初め、家庭支援センターの小山さんと校庭の隅で話をしていた。


たわいもない家での子どもの様子を時々、笑いながら話す。


私たちの横を校舎に向かって、歩く同年齢くらいの女性。


春休みなのに、どこに行くのかな?


後ろ姿を見送りつつ、ふと、そんなことを思った。


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No.1873997 (スレ作成日時)

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No.201



新居先生はお昼頃、帰ってしまう。


チャンスがあったら、聞いてみようかな…。

No.202



そのチャンスは、4時間目の終わり近くになってやってきた。


また、いずみ先生のクラスを見に来ていた新居先生。


今度は前扉から…。


私は廊下に出て、新居先生がひとりなのを確認すると、小さく声をかけた。


「新居先生、あの…」


「はい?」


やっぱり、聞くの変かな💦
ううん、大丈夫、ただ携帯会社を聞いて、同じだったらCメールしていいかの確認だけ。


「え、と。お聞きしたいことが…プライベートなことなのですが、、、先生の携帯会社ってどこですか?」

No.203



ドキドキ💦💦
新居先生は急に変なことを聞かれてる!?と思ってるよねぇ😱。


先生は別段、変な顔をすることもなく、カバンから携帯電話を取り出し、


「docomoです」


と笑った。


私に携帯電話を見せられても、携帯会社まで分かんないよ😭。


「あー、docomoなんだ。じゃ、
Cメールは無理ですね。私、auだから」


少しホッとした。

No.204



私の安堵もよそに新居先生は間を置かず、


「じゃ、メアド、教えますよ。通信でいいですかね?」


えっ!?
メアドってOKなの!?
しかもそんなあっさり!?
それに通信って…!


「先生、ここで!?」


ひとたび周りを見れば、教室は授業中…、廊下や階段は保護者や家族の姿がある。


「じゃ、こっちで」


階段のすみで、それでも人の往来はある。


赤外線通信はやめて、新居先生のメアドを紙に書いてもらった。


「もう異動してるし、メールしてくださいね」


先生はメモの紙をくれて、これで帰りますとそのまま、階段を下りて行った。


…良かったのかなぁ?


ふと不安を感じた。

No.205



いずみ先生のクラス、コウタもいるクラスはそのままで、、、


坂本先生に話があった帰り、たまたま校庭で体育の時間だった。

そのまま、体育の様子を見ていると、昇降口脇の植え込みに男の子を発見。


「どうしたの?体育だよ」


「やりたくない」


「やりたくないの?」


うなずいて、小石をつまんでいじりだす。


「寒い?」


またうなずく。


「身体が暖かくなるまで、上着でも体操着の下に長袖シャツを着ていいんだよ」


男の子は、今度は首を振った。


「…足が寒い」


確かにくるぶしまでの靴下で、寒くて、身体を丸めていた。


「長い靴下でもいいんだよ」


「やだよ。女みたいだ」


…コウタは長い靴下だった(笑)。

No.206



日の当たるところで、男の子の身体をさする。


「そんなことないよ。サッカー選手だって、長い靴下だよ」


ちょっと苦しいかな💦💦。


と、ちょうど、校庭から、いずみ先生が彼を呼んだ。


男の子は顔は上げたけれど、すぐに下を向いてしまった。


いずみ先生が男の子の側まで来て、行くよ!と声をかけた。


身体ごと立たされ、背中を支えながら、校庭まで連れていく。


先生のいない校庭にいる子たちは整列して待っていたり、数人が遊具に散らばっていたりしていた。


それをまたいずみ先生はひとりひとり集めていた。


体育はいつ始まるのだろう。

No.207



ようやく、体育が始まった。


縄跳びのようで、前跳び、後ろ跳び、あやとび、交差と順々に難しくなっていく。


だいたい30回が目標で、二重跳びは10回の目安だった。


寒く、身体も冷えた中、失敗して、縄跳びがパチンと足に当たると痛くて、どの子も足をさすりさすりやっていた。


コウタもなかなかあやとびや交差が難しいらしく、


「胸の前で腕は大きく×だよ」


と教わりながら、縄はゆっくり回し、ぴょんッと跳んでいた。


リズム感なしで縄も×もタイミングもぎこちなく、とにかく頑張ってやってるといった感じだった。

No.208



チャイムが鳴り、体育の時間も終わる。


指や足首をほぐし、大きく伸びをして、深呼吸をする。


それが終わると、教室に着替えに校舎に向かって走ってくる。


おいしいお楽しみな給食の時間でもある。


コウタはすれ違いざまに小さく手を振った。私も振る。


帰ろうかと正門に向かうと、私の前をクラスの女の子が歩いていた。

体操着のままで…。


さっきの体育の時間に上手く跳べなかった気持ちはもしかしたらあるのかもしれなかったけれど、ケンカやトラブルは私が見ていた限り、なかった。


どうしたのかな?

No.209



いずみ先生が女の子に気付き、走り、私を追い越して、彼女を止めた。


「ミミさん、帰ります。給食ですよ」


彼女は表情なく、いずみ先生を見上げ、先生の言葉を聞いたのか分からないけど、素直に身体の向きを変えた。


…自分を心配して欲しい?
見つけて欲しいとか?
見捨てないで…とかの何かがあるみたいだ。


何となく、そんな感じがした。


今、コウタのクラスは善くも悪くも
“いずみ先生”が担任でないと
ダメなんだ。


ただの“学級崩壊”という括りだけでは片付かない、不思議なつながりがあると思った。

No.210



その日は水曜日。


コウタの迎えで通級に行く。


斎藤先生はとっくにお母さんと話し終えて、職員室に戻っていた。


私は背中を見送るだけ…。


それから、吉野先生と靴入れの前で話していた。


と、何も言わずに私たちの間に割り込んできた遠田先生。


「ちょッ、何ですか!?」


「え?あ、靴」


下を見ると、私の足元近くには確かに靴があった。


「いや、靴をはこうと思って」


だって靴がそこにあるからと、まるで子どもみたいに悪びれた様子もない遠田先生に、私は怒りがMaxに…


「だからって、何も言わないで、しかも話してるところを割り込んで来ないで下さい!!」


遠田先生…、大の大人がすることじゃないよ😥。

No.211



私に言われたからか、靴を手に取ろうと遠田先生はかがむ。


「もう!吉野先生、こっちで話しましょう」


と私は場所を変えようと2、3歩歩いて横にずれた。吉野先生も合わせてくれる。


「え?いいよ。すぐにどくからこっちで話して」


遠田先生に腕をとられ、引き戻された。


なッ!?
もともとは話してるところに入って来たんじゃない!
何よ(-_-#)!!


「吉野先生!もう、遠田先生に何か言ってやって下さいよッ」


私はプンスカ!なのに、吉野先生は笑ってばかり。


朗らかなのもいいけど、先輩先生として、ここはビシッ✋と指導してほしい。


コウタは私よりも遠田先生といる時間があるせいか、先生のたまにあるおふざけが面白いらしく、私と遠田先生のやり取りを笑って見ていた。

No.212



斎藤先生は…、
絶対にこんなことしない。


スマートな動きで、隣に立って話をするときも、身体がぶつからないよう、身振りがあっても手がぶつからないよう、絶対、間がある。


相手をからかうような発言もない代わりに、先生から面白い話をすることもなかった。


こちらがする笑ってしまうようなおかしかったことには、一緒に笑ってくれたけど、自分からは特になく、淡々と今日の話をして戻っていくだけだった。


フランクな感じがしていたのは、私が話す何でもないことをずっと聞いてくれたからで、斎藤先生自身はムダがないのだ。


担任だったから聞いてくれてただけで、今は関わりがなく、斎藤先生に声をかけられる術は私にはない。


フランクで明るい遠田先生と
先生としてのみの斎藤先生。
2人の中間の新居先生。










……私はどうして、斎藤先生に惹かれてしまったんだろう?

No.213



斎藤先生の“先生”として、
また、担任としての関わり。


あの人は…、どんな、、、風に、先生と一緒にいたんだろう?


先生が支えだった?
先生を頼りにしての?


コウタは新居先生のことを懐かしがることがあったけれど、だからって異動先に会いに行こうなんて思わなかった。


あのハルから、もうすぐ1年。


コウタの3年生、
いずみ先生の学級が終わりを迎えようとしていた。

No.214



新居先生にもらったメアドにメールしていた。



最初の1回は返信があったものの、月1メールするかどうかの頻度でも返信はなかった。



コウタの学校行事のお知らせだったり、コウタの頑張り💪だったり、、、近況報告だから読んでも返信はなくて、先生は忙しいんだと思った。



だけど私はコミュニケーションツールの1つと思ってメールをしていると、ただひと言もない新居先生に寂しさを覚えた。



でもね、本来なら必要のないこと。



私は誰かとつながってる糸が欲しくて、新居先生にメールしていたのかも…けれど、心のどこか寂しい気持ちは埋まらず、SMSメールを興味本位でやり出したのだ。

No.215



それは長年のパートナーへのすれ違いからくる不満か、



斎藤先生に対する片想いの切なさか、



どちらにせよ、孤独感と寂しさが心の隙間を作り、自分勝手な横道に逸れていい理由を正当化していた。



そんな言い訳を作りながら、でも、私は小心者で…、情けないほど小さな世界の中で暮らしていた。



SMSメールは毎日、数通のやり取り程度。



ただただ日常会話のみ。



私はメールすると返ってくる返信に、ホッとしていた。



それだけで良かった。

No.216



毎日のメールの相手は、SMSメールになれていて、私の他にもオトモダチはいた。


会いたいとか写メ送ってとか
本アドで連絡を取ろうとか…


そういうことは言って来なかったし、私も小心者だからなのか、そこまで相手にもSMSメールにものめり込まなかった。


“メールしてる相手と会ったことある?”


私はちょっと興味本位で聞いてみた。


“あるよ”


そっか、やっぱりこういうところから出会う人もいるんだ。


実際、相手とは近場で、お互いの住んでいるところの様子は分かっていたし、メールでも話が出れば容易に想像できた。

No.217



会う気があればいつでも会える距離…でも、いつまでも、お互いに顔も名前も知らないまま。



毎日、ただのあいさつや日常会話くらいで、楽しいのかな?



私はこのまま、普通にメールだけで十分に満足だけど、、、



“聞いてもいい?”



“どうかした?”



“私とメールしてて楽しい?”



“うん”



“会うとか考える?”



“会いたいの?”



“そうじゃないけど、、、なんでメールしてるのかな?って”


No.218



“寂しいんでしょ、みんな…
メールしてても。会うんならオレ、OKだよ”



“うーん、ごめん。会うとかなしで。変なこと聞いてごめん”



“いいよ。みんな同じだよ。気にしない”



SMSメールの相手とのやり取りで、ああ、みんな、そんなものなんだと思った。



寂しいからメールしてて
メールしてても寂しい
心の隙間は埋まらない


No.219



私はSMSメールをやめた。



結局、心の隙間は埋まらず、新しい出会いがあれば、また違ったのかもしれないが、私自身それは望んでいなかった。



孤独感と寂しさ、、、
耐えきれず、自分の殻に閉じこもる。



コウタの幼稚園時代のママ友、学生時代の友人、仕事仲間、そして小山さん…私は距離を置き、会うことも連絡も絶った。



誰とも会いたくない
誰にも見られたくない



私は自分の存在を消したかった。


コウタがいたから、
コウタを通じてだけ、外とつながっていた。



私の唯一の光だった。

No.220



コウタ、4年生になる。



在籍校担任 藤原 恵
通級担任 遠田 大地
転出 養護教諭 坂本 優子
転入 養護教諭 久保田 ひかる
(特別コーディネーター兼任)



ハルの光はいつも穏やかで、何かが起こる期待と不安を感じさせながら、“はじめまして”から始まる出会いを暖かく包んでいた。

No.221



私が以前の私じゃなくて、何もかもから一歩引いたところからぼんやり見ているのを最初に気付いたのは、遠田先生だった。



「どうしたの?何かあった?」



一連の動作になっていた斎藤先生の後ろ姿を見送るそれに、遠田先生がひょいと顔をのぞき込んできた。



ちょっとびっくりして、後ろに退いた。



「最近、変じゃない?」



「え?何もありませんよ」



「そうかな?」



私、変…?



「元気ないよね?…旦那さんと
ケンカしたって感じでもなさそうだけど」

No.222



旦那さんとケンカ?



ケンカなんかしないよ。
快適な暮らしがあれば、あの人は文句ないもの。



コウタの相談や私の話は、
“俺は仕事してるんだ!”
で、終わり。



帰ってきた家がきれいで、席につけば温かな食事が用意され、清潔な服やタオルがあり、ベットメイキングされた寝心地のいい部屋に、
自分の価値を見出してる。



そして静かにTVが見れたら、それでいい。



自分の世話を賄ってくれる誰かがいたら、それでいい。



逆に言ったら、それが充たされていたら、コウタや私が何をしててもいいということ。



だから、ケンカなんてしない。

No.223



夫婦のかたち
家族のかたちっていったい、
どんな形なんだろう?



みんな、どんな形?

No.224



5月の運動会。



学校で運動会の練習が始まると、コウタが新居先生、来てくれるかな?とソワソワし出した。



クラス替えもあり、去年とは違い、クラスは落ち着きを取り戻していた。


藤原先生はよく通る声で、学習と生活をサバサバとした口調だけど子どもたちをほめ、クラスを盛り上げていった。



よくしゃべる よく話す よく動く、とにかく小さい身体ながらどこからそんなパワーが!?といった感じで、保護者も去年とは打って変わり、安心していられた。


「コウタ、新居先生に運動会来てねってお手紙を書いてみる?」



「うん、書く~♪」



コウタはやったー!とバンザイしながら、返事をした。

No.225



コウタに無地のハガキを渡すと、ちょっと考えてから、何か思いついたように書き始めた。



私はホッとした。



新居先生にもうメールはしたくなかったから、コウタがニコニコと書き始めた様子を見て、はじめからこうすれば良かったと思った。



私はワインをグラスにそそぐ。



さあ、ご飯の支度…。



この頃の私は、アルコールがないと何もできないでいた。



キッチンドリンカー。



もう頑張れない。
疲れた。
何も考えないで眠りたい。

No.226



コウタは色えんぴつを持ち出し、えんぴつ削りまで並べ、何やら細かく忙しく、真剣に描いていた。


宿題プリントもこうだといいのに…私は小さく笑う。



「できた!」



コウタが自信満々に見せてくれた
ハガキには…



これからピクニックにでも行こうとしているのか、草原をあるいているダチョウと背中に乗った猫、
虫取り網を持った小さな男の子、その後ろをクマの親子(立って歩いてる)。
森からつる草をつかんだサルが2匹、仲良く並び、
鳥も飛んでいた。

No.227



それぞれが持つピクニックカバンやリュックの中身もユニークで、
ダチョウは穀物飼料(点てんがいっぱい)、
猫はサンドイッチと猫缶、水筒。
男の子は赤いリンゴ。
クマの親子は目が×になった魚。
サルたちはバナナいっぱい。
鳥は可愛いひなたち。一緒にお出かけ!



色がまた鮮やかで丁寧にぬられていた。



コウタの心象風景がこんな楽しげで穏やかで…良かった。



ホントに良かった。

No.228



「太った?」



はい?(-_-#)
遠田先生をジロリと見ると、視線を泳がせながら、



「…いえいえ、あー最近、何かありました?」



いい直してきた。



「何もないですよ」



「疲れてません?」



「遠田先生と話すのが疲れますよ(-_-)」



少しイヤミっぽく言っても、何も堪えていない様子で、むしろ笑いながら、



「いや~、それ言ったらおしまいでしょ(´・_・`)」



その遠田先生と言葉がかぶるように、



「話すことは何もありません」

No.229



私の心の声が言葉になって出たのかと思ってびっくりした。



遠田先生にそこまでは思っていないものの、今までが今までだった分、警戒と牽制があるのだ。


そう簡単にあなたのペースには持ち込ませないわよ😤みたいな…。


「話したくありませんッ」



でも、その声は私ではなく、違うお母さんだった。



周りにいた人たちもつい、様子をうかがってしまう。



「ちゃんと話しましょう」



斎藤先生が一歩、踏み出すとそのお母さんは一歩下がり、子どもと一緒に駐車場へ向かって早足で歩き去る。



私には何がなんだか分からず、残った斎藤先生を見てしまった…。

No.230



斎藤先生のため息ひとつ。



ふいに目が合い、慌ててそらす。ちょっとドキマギ…。



「あー、ちょっと待ってて」



遠田先生がさっきの親子を追いかけ、走っていく。



え?
私たちは!?



周りの人たちは今日の報告がすみ、またひとりと子どもと一緒に帰っていく。



待っててと言われても…私も話はないから、、、帰ろうかな。そうそう、コウタの描いたハガキを見せたかったんだけど。



「お母さーん、遠田先生は?」



「うーん、ちょっと行っちゃった」



「話終わった?」



「まだ?かな…でも帰ろうか」



「うん」



私もコウタと並んで歩きだした。



斎藤先生とひさかたぶりに目が合った…。



それだけだけど、ほんのりとした暖かさを胸に感じた。

No.231



駐車場に向かうと、先ほどのお母さんと遠田先生が車の脇に立ち、何やら話をしていた。



子どもは車の中だろうか。



遠田先生はいつもの豪快な笑い声はなく、私は見たこともない真剣な顔つきで、、、こちらに背を向けてるお母さんの様子は見えなかったけれど、泣いているようだった。



数台離れた場所に車を停めていたから、迷ったけれど、小さく



「さようなら」



と声をかけた。



遠田先生がこちらに気付き、軽く手を上げた。

No.232



私は何だかショックだった。



お母さんが泣いてる。
(涙をこらえているのかもしれないけど)



斎藤先生と何かあった?
(あの優しい先生が?)



遠田先生は何で?
(コウタの担任なのに…)



事情や理由は分からないけれど、私はひどく混乱した。



やたらとちょっかいを出してきていた遠田先生もあんな風に他の人のフォローに入って、私とコウタは放っておかれて、、、なんだ…やっぱり、こんな程度。



斎藤先生は私のときには、いい顔してただけで、ホントはもっと感情的な人だったのかも。

No.233



……………………………



何を言ってるんだ、私は。



いつの間にこんなに自己中で、構ってちゃんになったんだろう?



バカだ…
“先生”たちは仕事じゃないか。


なんで、私を見て!になってるのかな。



私は、はあぁ⤵と大きなため息をついた。

No.234



気持ちが不安定…なのかな?



遠田先生が言ってたけど、私、変?







冷蔵庫から冷えた黒ビールと、
昨日、作ったキャベツのピクルスを出す。



「ん、おいしッ」



キャベツのピクルスをつまんで味見。
コウタがその声に顔を上げ、



「お母さん、今日のご飯なーに?」



「えーと、今日はチキンチリビーンズにしようかな。ピクルスあるし」



「えーッ、カレーがいい😚。カレーが食べたい!」



ぶーぶーとコウタの抗議にあう😣。



「よし!じゃ今日はカレー。ねぇ、お母さんの作ったピクルス食べてよ」



「やだー😁」



今度は私がぶーぶーだ😚。

No.235



コウタがリクエストしたカレーを作り、テーブルに並べる。



サラダにしようかと思ったけれど、今日はやめて具だくさんスープにした。



コウタは生野菜はあまり好きじゃない。



残されるのもイヤだけど、食べなさいと言うのもイヤだった。



コウタの食べる姿を見ながら、私は黒ビールを缶のまま、飲む。



時々、ピクルスを食べる。



「お母さん、お父さんと食べるの?」



「お父さん、遅いよ。お父さんが帰ったら温めて出すから」



「違う。お母さんはいつご飯を食べるの?」



「え?」



カレーを完食して、スープの中の人参を苦手~とつついて、コウタはもう一度、言った。



「お母さん、ご飯、食べてないよ。お酒ばっかり飲んでる」



えいッとばかり、人参をパクリと食べたコウタを見て、ちょっと大きすぎたかなと思った。

No.236



ぼんやり、ぼんやりした世界。



昨日、何をしたのか
今日、何を食べたのか
明日、仕事なのか……。



夢うつつな毎日。

No.237



夜19時前、家の電話がなった。


ディスプレイ表示された番号に覚えはなかったけれど、市外局番からこの辺りからの電話だった。



私は黒ビールを飲んでいたから、ちょっとふわふわしていた。



「ボク、TV見ていい?」



コウタが言ってくる。



「じゃ、お母さん、向こうで電話取るね。TVが終わったらお風呂だよ」



「んー…」



ソファに座り、すぐにTVをつけたコウタにきっと私の声は届いていないだろう。

No.238



私は少し急いで寝室で子機を取った。



「はい、田村です」



「夜分遅くにすみません。通級の遠田です」



遠田?
一瞬、誰か分からなかった。
アルコールのふわふわ感が抜けない…。



「遠田、先生?どうしたんですか?」



私はベットに座る。



「今日、話ができなかったのですみませんでした」



「それで、電話をかけて下さったのですか?わざわざ、ありがとうございます。じゃ、また」



「あ、ちょっと話したいんですが時間、今、大丈夫ですか?」



電話を切ろうとする私に、遠田先生はそう聞いてくる。



…時間、、、お父さんの今日の帰宅時間は8時だから少しあるかな。



「はい、少しなら」



遠田先生の、電話を通した耳障りのいい声に気分が高揚した。

No.239



遠くから、誰かが私を呼ぶ声がする。



「ー…さん。お母さん、ねぇ、起きて」



コウタの声?
私はうっすらと目を開けた。



コウタが私をのぞき込んでいた。



あれ?
私、何をしてるんだろう?
さっきまで気持ち良かったのに。


「コウタ?どうしたの?」



コウタはもうッと怒っている。



「さっき電話してたんでしょ!それから携帯に遠田先生から電話ッ!!
もう、なんで寝ちゃってるの!?
TV、見れなかったじゃん」



はいとコウタから私の携帯電話を突き出され、私はベットからゆっくりと起き上がった。


No.240



え?寝ちゃった?
遠田先生と電話中だったのは覚えてるけど…



時計を見ると、19時20分過ぎ。



「お風呂に入ってくる!!」



コウタはバンッとドアに不満をぶつけた。



手に冷たいものが触れる。
通話中の薄みどりのランプがついた子機だった。



携帯電話と子機……。



とりあえず、携帯電話に出た。



「もしもし?」



「あー💦💦もう。田村さん、大丈夫ですか?」



遠田先生だった。

No.241



さっきもコウタに遠田先生からッと言われたけど、携帯電話と子機の両方が遠田先生とつながっているのが不思議だった。



だから、つい子機にも



「もしもし‥」



と言ってみた。



「田村さん、遊ばないで😭」



「あはは。どっちも遠田先生だ♪」



「…携帯のほう、切りますよ」



「はーい」



私も携帯電話を切る。
改めて、子機を持ち直し、



「何かよく分からないけど、すみませんでした」



と謝った。

No.242



「大丈夫そうですね。急に何も言わなくなるから、びっくりしましたよ。何回、呼びかけても返事ないし。携帯に電話したら、コウタが出てくれて」



あー…
それでコウタが私を起こしてくれたんだ。



「酔っぱらいはこれだから😤」



遠田先生がめずらしく息巻いてる。



「すいません…でも、そんなに飲んでないですよ」



「どのくらい?」



「缶ビール1本」



「弱ッ…」



電話の向こうで遠田先生の笑い声が聞こえた。

No.243



私はその笑い声に慌てて、



「いつも酔いませんよ。ほろ酔い気分の気分を味わう程度…今日は何でか分からないけど、遠田先生の声が気持ちよくて…」



自分で言って、しまった!と思った。



ニヤリと遠田先生のしてやったり顔が浮かんだ。



「田村さん、オレの声で酔ったの?それはそれは光栄です(笑)」



いや~😭
それは絶対、違う~💧

No.244



「このまま話していたいけど、時間がなくなったので、すいませんが切ります。また来週のときにでも、話しましょう」



「はい、すみません」



「それから、さっき携帯に自分の携帯からかけたから、履歴が残ってると思います。登録して、いつでもかけてきて」



「はい」



「素直な田村さんって怖い…」あと、メアド教えましょうか?」



メアド、



「いらないです😤」



「なんで拒否る😨」



「いらないから」



「多田さんも知ってるし、三浦さんも知ってるから」



遠田先生が元担任の2人。
誰かれにも教えてるの?

No.245



私の心の声が聞こえたのか、



「多田さんは卒業した大学の教授を紹介してもらうため。その教授のゼミのサマーキャンプに参加したかったから。三浦さんは自治会幹事で引越した先に住まれてたので…郷に入れば郷に従うですよ😁」



「こちらに引越したんですか」



「子どもも生まれるし、そろそろ安住の地をと思いまして」



そうなんだ…。



「Cメールで送るから」



「メールはしません」



私は新居先生のことが引っかかっていた。

No.246



「まぁ、いいや。とりあえず送っておくから。それから…」



遠田先生が咳払いをして



「さっき、寝ちゃったのか気を失ったのか、ちゃんと考えて。アルコールも控えて、コウタが心配するからご飯も食べて」



コウタが何気なく話してきて、今日のお迎えのときに話そうと思ってたと言われた。



「こんなんじゃ、オレも心配になる…」



私はおとなしく、はいと返事した。

No.247



電話を切った後、ふぅとため息…自分の身体を頭から指先からさわって確かめてみる。



どこかぶつけた様子も痛みもない。



気を失ったのか
寝ちゃったのか…。



そんなに飲んでないし、ホントにほろ酔い気分の気分を味わう程度でやめている。



どっちにしてもおかしいね。



ご飯を食べる気にはならない…ただ間食は以前より増えてる。



食べなきゃ元気にならないなんて言われても、それに興味はない。



遠田先生の“太った?”は、でもホントなのだ。



だけど、飲まないとダメ。
不安が増す。



何の不安?
なんで、記憶がない?



おせっかい焼きの遠田先生がいても、私はダメ?

No.248



夜遅くに遠田先生からのCメールが入った。



私は開いて確認して、、、
それから削除した。



メアドはいらない。

No.249



遠田先生の携帯の履歴はそのままにした。



…登録せず。



しばらくすれば、古い日付の履歴から消えていくし、遠田先生に用件があれば、通級に電話すればいい。



それに週1で通級には行くのだから。

No.250



運動会も近づいてくると、家の中でコウタが応援歌を歌う。



ごきげんな証拠だ。



単純なだけに耳につき、こちらも覚えてしまう。



♪ゴーゴーゴー
白、白、白、(赤、赤、赤)
燃えろよ、燃えろよ、
白組 (赤組)



…でも、繰り返しはイヤだった😭。



「高学年になると、応援団員にもなれるんだよ♪」



コウタはふふんっいいだろ~😁と笑ったけど、私は何も言いたくなかった(-_-)。

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