僕と携帯電話とおかん
はじめて小説を書きます。ほぼノンフィクションです。誤字脱字あるかと思いますがお許し下さい。
『貧乏な母親が僕にくれたもの。
それは携帯電話とお米だけ。
一人暮し、部屋4畳、風呂トイレ共同、家賃3万円が僕の城。
収入額、約月に6万円。
何が楽しくて生きているのかわからない。
でも親孝行がしたい。たったそれだけの気持ち。
18歳の僕。未成年からどん底。
それでも夢を見ます。』
貧乏人の頑張りを伝えます。
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「赤い分厚い本で高校受験のを借りたいんですけど!」って尋ねてみた。
おねぇさんは優しく場所を教えてくれた。「でもこれは貸し出ししてないのよ。ごめんね」
みんなコピーをして使っている。
「じゃあここでやっていってもいい?」
「いいわよ。頑張ってね。」
「あの~すみません紙と鉛筆と消しゴム貸してください。」
おねぇさんは笑って胸元に書けていたシャーペンとカウンターから消しゴムと紙を3枚くらい貸してくれた。
お礼をいって、さっそく去年の問題を始めた。
ビックリしたのが、国語と英語と社会しかなかったこと。
僕の苦手な数学がなかった。
ラッキーと思い問題にとりかかった。3時間ほど沈黙の中にいた。
ドアが開く音、歩く音、喋り声もすべて聞こえないくらいの、集中力。
おねぇさんはその姿を見て、また僕が手に取った高校の名前を見て、驚いたそうだ。
終わって返すときに、おねぇさんはそう言った。
自己採点をした。
さすがに難しかった。
学校と自己流の勉強の仕方がどこまで通じるかなんて考えていなかったし、
高校受験なんてしようとも思わなかった。
今もまだするかどうかは決めていない。
ただ退屈な日々の中で貧乏の力がどこまで届くのか、
夢を見る資格があるのか、
知りたかった。
自己採点結果は
社会が98点、英語が78点、国語が84点。全て100点満点だった。
通じる。
これで合格できたのかどうかなんてわからなかった。
でも満足していた。
特待生のためには全てを社会くらいとらなければいけない。
特待生で寮がなければ、
高校受験をしたとしても、辞退しなければいけない。
どうせ暇なんだ。家にかえって、間違った問題を調べよう。
おねぇさんに借りたものを返して、紙だけ折り畳みポケットにしまい。自転車に股がって、家に向かった。
もう夕方だった。
おかん帰ってきてるかな…
ちゃんと謝ろ
「ただいま!!」
「おかえりなさい!!」
僕の顔に笑顔が戻った。
いつものおかんの靴の横に
僕の靴を置いて
台所に向かった。
おかんがいた。
昨日のことはなんにも言わない。
だから僕は「昨日はごめんなさい」と言った。
おかんは笑って応じてくれた。
「昨日の夜どこ行ってたの?」
おかんはまた笑って言った。
ちょっと散歩してただけだって、
僕がどれだけ心配したか、どれだけ反省したか、
言おうとしたけどやめた。
よかったと思った。
実はおかんは泣きながら散歩をしていたみたいだった。
修学旅行の時の僕の写真を持って
自分が僕にどれだけ辛い想いをさせているのかとか
貧乏だからなんて僕が思ってしまっていることや
お父さんのところに行きたいなんて思ってしまったことや
僕よりも泣いていたみたいだった。
僕のおかんは毎日、日記をつけている。
僕が後に18歳になった時にその日記を読んだから知っているんだ。
僕はおかんに貧乏だから辛いと思わせてしまっていたんだ。
おかんはそんなこと十分わかっていた。息子のやりたいことを他の友達のように進めない人生を
一人で背負い込んでたんだ。
おかんは僕の幸せだけを考えてくれていた。
だから高校にいって欲しかったんだ。
自分が息子の才能を壊す。それだけがどうしても辛かったみたいだった。
なにも気付いてやれなかった。
借金してでもたった1人の家族に寮に入りなさいって言う辛さ
ほんとはずっと一緒に生活していきたかったんだと思う。
僕はそんなおかんの気持ちに気付いてやれなかったけど
僕はおかんと一緒に生活したかった。
その葛藤がおかんの散歩してた時の涙のわけだった。
僕はその日から
勉強ばっかりしていた。
学校では引き続き面談がある。
先生は「高校はどうするんだ?やっぱりいかないのか!?願書はそろそろ締め切りだぞ。」
圧力がかかる。僕の中では答えはまだ見つかってない。
この先生に家庭の事情を話すべきなのか、特待生のことを教えてくれるのか?
いまいち信じられなかった。
「特待生って安いの?」
はじめて高校受験の質問をした。
「私立は管理費などがかかる。だから高いでもいい大学に進学してもらうと名前が売れるだろ?だから特待生ってものがある。大学は考えているのか?」
僕にはそんなことまで考える力がなかった。お金の話はつらかった。
「大学も安ければ、奨学金がもらえるなら行きたい。それで会社に入って収入ができてお金がもらえるなら行きたい。でもその前に高校でお金がたくさんかかるなら今から働きたいんだ」
僕はもう家庭の事情を間接的に伝えたようなものだった。
僕の頭の中にはできるなら、高校に行きたいと思っていた。
学校の先生なら僕に父親がいないことくらい知っているだろう。
先生は「そうだな、中卒は長い目で見ると少し辛い道かもしれないね。やっぱり大学を卒業しないとな!」
僕は裏切られた気分だった。
この先生は理科の先生だった。
国語能力は僕の方がいいかもしれない。
僕には『私のクラスからいい高校に進学していい大学に入って一流企業に就職あるいは国家資格を持って、羽ばたいていった生徒がいる。それを自慢したい。あの時私がこう言ったからいまのあいつがある。』にしか聞こえなかった。
僕はひねくれているのか!?
自分の勉学に自惚れているのか!?
そんなことはないと思う。
だって僕は特待生の話を聞いてみて自分のことを考えてくれた答えが返ってくると思っていた。
なのに返ってくる言葉は
高校に行け
大学に行け
そして恩師と呼べ
そんな言葉ばかりだった。
こいつは国家公務員だ。
貧乏人の気持ちがわからないだろう。僕んちは税金で苦しめられている。
日本だから仕方ない。
国家公務員ってもっとすごい魅力的な仕事だろ!?なんだこのざまは…
今にも叫び出しそうだった。
この先生の話はまだまだ続く。
「貧しいとか裕福とかそんなもの関係ないんだ。お金なんてあとからどうにでもなる。今、中学生でそんなことを気にしていて、母親は悲しまないか?
いい高校行って大学行って、親孝行しなさい。
親というものは子供が成長していくことで幸せなんだぞ。
今は自分のことだけ考えなさい。願書を出すなら、取りにいくぞ、どうする?」
この先生は貧乏人を侮辱している。おかんがそうしてほしいということを僕はわかっている。
おかんがどれだけ考えて出した答えだったかこいつにはわからないだろう。
あの日の喧嘩を知らないこいつになんて答えたらいいんだろうか、
僕はこの先生と進路を決めることはできなかった。願書をもらって家でおかんとゆっくり考えることにした。
「じゃあ願書を下さい。」
学校名を言った時のこの先生は満面の笑みだった。
落ちてもいいとりあえず受けろと受けることで自分の評価が上がるといった具合に。
僕が勉強をしていたのは
本当にやることがなかったからなんだ。
ゲームもない漫画もない。
トランプはあった。
おかんと2人で遊んでいた。
あいた時間に勉強をして
ただそれだけ
人は頭がいい
天才だなんていうけど
そんなんじゃない、
みんながゲームのキャラクターを覚えるように、漫画の内容を覚えるように、僕は勉強を覚えていただけだ。
高校に行くなんて
思ってもいなかった。
みんながほしがっていたものを
簡単に手にいれていたものを
僕は手にいれられなかったんだ。
羨ましがられることなんてこれっぽっちもない。
勉強ができても
それを活かす場所がない辛さを
味わったことがある人いますか?
僕はずっとその辛さの中で闘ってきた。
おかんと一緒に。
ずっと閉ざされてきた
勉強を活かす場所が
大切な人を苦しめてやっと
開くとしたらあなたは
選べますか?
この辛さをこんな会話で
他人と決めることはできない。
無情にも時間が迫ってくる。
どっちの道がいいのか、
後悔しないのか、
今の僕にはどうしてもわからない。
おかんは僕にその場所の入り口をつくってくれた。
それがおかんの自分を犠牲にした僕への愛情。
素直になんかなれない。
僕はもう自分で決めることができなかった。
大切なことだったから、おかんと話して決めなきゃいけないことだった。
でもおかんは高校に行きなさいって言うだろうな。
お互いがお互いのことを考え合うから辛いんだよ。
いつものようにその日も
自転車で家に帰る。
願書の入った鞄を背負って。
いつもよりゆっくり帰った。
いろいろ考えていたんだろう。
どうしたらいいんだろう…
自分のやりたいようにやればいいのかな、
自分のやりたいようにやることさえもわからない。
「ただいま!!」
「おかえり!!」
いつものように靴を脱いで
台所に向かう。
「おかん、進路どうしたらいいんだろう…僕は決められないよ。」
僕もおかんも幸せになれる進路はないのかな。
それを叶えるためには
お金が必要だってことは
わかってはいるんだけど…
どうしても、おかんに借金させたくない、1人で寂しい思いさせたくない。
「一応、願書貰ってきたよ。」
わかる範囲で本屋のおじちゃんから聞いた程度で特待生の説明をおかんにした。あと公立高校は寮なんかないってこと、特待生もないってこと、
その話をしたあと
おかんがゆっくり自分の想いを僕に話してくれた。
「お母さんはあんたがやりたいようにやってほしいんよ。
お母さんのせいであんたが我慢してる姿なんて見たくないんだよ。
いまできることに挑戦しなさい。お母さんは大丈夫。
そりゃあんたがこの家からいなくなるなんて考えたら
寂しくて仕方ないけど、
死んでしまって会うことが
できなくなるとかじゃないんだよ。
いつも辛いとき力になってくれてたあんたに心から感謝してる。
もう貧乏なんて思わないで、
お母さんは貧乏だけど、
あんたがいるから貧乏だって辛くないんだよ。
お母さんはあんたが頑張ってる姿が一番元気になれるの。
あんたの幸せがお母さんの幸せになるからね
高校受験したいんでしょ、
お母さんのわがまま聞いて、
また入学式に参加させてよ」
僕の心はおかんの気持ちで
溢れていた。
どうしようもない気持ちだった。
でも今なら僕は素直になれる。
最高の親孝行をしたい。
ありがとうって言葉だけじゃ
表せないよ。
だから僕は「わかった」と言って
部屋に戻り、
短くなっていた鉛筆を握って
願書に書き込んだ。
ボールペンなんかもってない。
それでも関係ない。
僕の全てを願書に詰め込めば
関係ないと思った。
その日僕はいっきに願書を書いた。気持ちが揺れないように。
涙が願書にこぼれた
すこし皺になってしまった
綺麗な言葉を並べて書く
それだけがすべてじゃない。
涙ですこし皺になった願書を
もとの封筒にしまう。
そして僕はお風呂に入って
歌をうたった。
なんの歌を歌ったかなんて覚えていないけど、それは心に残る歌だった。
その日から僕は
毎日ぼっとうして勉強した。
学校の先生は何度もボールペンで
書き直せと言うけれど、
僕の気持ちはその鉛筆に込めたんだ。
志望動機にたくさん書いた。
すべてを綴った。
同情を誘うとかそんなんじゃない。読めばわかるんだ。
僕は特待生を希望する。
はじめて目標のために必死で
なにかに打ち込めた。
短くなった鉛筆を何度も何度も
ハサミで削る。
願書は受験するために必要なものだ。一番大事なのは学力だ。
それさえみとめてもらえればいい。
見たこともないような問題に挑戦する。
それはまた僕をやる気にさせる。
早いもんだが、
受験の日を迎えた。
おかんは僕が高校受験をすることを応援した。
朝ごはんはいつものようにリラックスと白いお米とお味噌汁だった。
それがおかんの思いやりだった。歯を磨いて、寝癖をもどす。
いつもの靴を履いて出発する。
自転車に股がってちょっと遠くの駅まで向かう。
忘れ物はない。勉強もその高校の問題形式も頭にいれた。
窓からおかんが覗く。
「いってらっしゃ~い」
それ以上のなんの言葉もいらない。
僕はクリスマスに買ってもらった
自転車でいっきに家の前の坂を下った。
僕はいまからおかんと一緒に夢をみるんだ。
心地よい風が全身をきって吹き抜けていく。
予定通りの電車に乗る1時間くらい乗りっぱなしだ。はじめて乗る電車に緊張しながら、
駅員さんに教えてもらいながら切符を買った。
その間は満員電車。
たくさんのサラリーマンが眠たそうにしながらつり革にぶら下がりながら立っている。
また携帯電話をいじっている。
なかには漫画を読みながら音楽を聴いている人もいた。
嫌そうにみんながしている。
仕事をすることがめんどくさい
そんな感じが伝わってきた。
なんのために働いているのか、
そう思わせるには
十分なくらい気だるそうだった。
僕は貧乏だって言葉を今は捨てていた。夢に向かっているんだ。
他の人からみたらちっちゃいかもしれない。たくさんの人が簡単に叶えてしまう。そんな夢だけど
僕はサラリーマンになるんだ!
お金を稼いで幸せになるんだ。
バカにするやつはすればいい
なんてちっちゃな夢だって思えばいい
サラリーマンになるんだ。
そのために今、難関私立高校に特待生の受験を受ける
誰がいま僕がそんな気持でいるかなんてわかんないだろう。
世界に知っているのは、僕とおかんだけ、それだけでいい。
僕の鞄には健康第一のお守りが揺れている。
ずっとつけている。
それは生涯ずっと健康であるためのおかんがくれたお守りだった。
電車を降りる。
気持ち負けするようなことはなかった。
たくさんの受験生が歩く流れについていく。
綺麗な服を着ている人たちばかりだった。
僕は制服を着ている。
私立受験なので周りからみたら場違いだ。
塾などに通っているのかみたこともないテキストを開いている。
僕は学校の教科書とお小遣いで買った赤い分厚い本を読む。
模試の合格予想はAだった。2番目の評価
面談の先生は周りを意識するな!模試の結果を信じて自分の力を信じろと言っていた
僕のなかで葛藤が消えたとき
また先生が少なからず事情を把握してくれたとき
新味になって応援してくれた。
そういや先生も僕がこの時間にここに来ていることを知っていたんだなと思った。
会場の教室を探す。
なぜかすこし後ろめたさを感じた。
貧乏だってことが甦ってくる。
どんな人がいるんだろう。
自分と同じ立場の人はいるんだろうか!!
ゆっくり示された階段を歩く
一歩一歩踏み締めながら。
途中で何度も立ち止まった。
自信がなくなっていく。
僕よりも何倍もお金をかけてきた人たちと競うんだ。
僕なんか赤い分厚い本を買っただけ。
特待生は上位何人かだけ…
不安に押し潰されそうになりながら階段をのぼる。
追い抜いていく人が
難しい話をしているように
聞こえる。
自信がない…
自分の力を信じることができない
特待生じゃなかったら辞退しなきゃいけない。
それぐらいの覚悟を背負っていたからか、
身体が重くて
階段をあがるのが遅かった。
重い足取りで、教室の前に立つ。
鞄の中から受験票をとりだす。
受験番号と座席の確認をする。
最前列の一番前だった。
中に入ると、すでにたくさんの人がシャーペンを持ちもくもくと最後の最後まで悪足掻きをしている。
僕は椅子を引いた。
キッーと音がなった。
ほぼ全員の視線が僕に集まる。
1人だけ制服だった。
白鳥の群れに迷い込んだアヒルみたいだった。
僕はすこし頭を下げて椅子に座った。
その時、後ろからの視線とプレッシャーに押し潰されそうになってしまった。
最前列は僕にはハズレだった。
僕は自分を落ち着かせるために日本史の教科書を開いた。
ボロボロになるまで
僕が読んだバイブルだった。
心が少し落ち着く。いつものように客観的に簡単に冷静に1つ1つをこなせばいいだけなんだ。
なんの心配もない。僕はこの中で一番貧乏だけど一番頭がいいんだ!!お金で買えないものを僕は親から受け継いだんだ。
そう言い聞かせる。
僕は鉛筆を5本と消しゴムをだした。数学がないからモノサシや分度器、コンパスは必要なかった。
いつも友達に借りていたものは必要なかった。
「フフフッ…」
隣で女の子が僕を見て笑った。
気にするな!!
気にするな!!
自分に言い聞かす。
でも思ってしまった。
僕は本当に場違いなんじゃないか!
もし合格してこの人たちと
同じ教室で生活していて
自分は惨めに、他人をよりいっそう羨ましがってしまうんじゃないか、
おかんが借金をしてまで入れてくれた学校がまったく楽しくなくて、やめたくなって仕方がなかったら
友達ができなかったら、
虐められたら、
借金までして高校にいかせてくれたおかんの気持ちに答えられるだろうか
3年間も我慢できるだろうか、
そんなことばかりが過る。
集中することができない。
無情にも、10分前の鐘がなった。
試験問題を抱えた人間が5人入ってきた。
(まだ配らないで…)
1つ目の試験は国語だった。
もっとも集中力がいる。
いまの僕はまったく集中力がなかった…
1枚1枚問題用紙と解答用紙が配られる。
配る際に試験員が僕の机にあたった。
カランと鉛筆が2本落ちた。
鉛筆の芯は折れる。
試験員がすまなさそうに拾い上げる。
どうしようもない…といった感じだ。
シャーペンだったら折れないけど鉛筆は折れる。
(今時、鉛筆って笑)
みたいな表情だった。
僕はその場からいますぐ逃げ出したくなった。
すこしの緊迫した待ち時間、
僕には耐えられなかった。
逃げ出す勇気もない。
真っ白な解答用紙でもいいかもしれない…
受験代無駄になっちゃうな…
ドアが開いた、
鉛筆削りを持ったさっきの試験員だ。
教室の中がさらに静まりかえる。
その中でガリガリと電動の鉛筆削りがなり響く。
「これで大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます。」
僕はなにを思ったんだろうか
さっきまでの緊張感が和らぐ
後ろからの視線もなぜか
感じなくなった。
不思議だった。
人に優しくされたこと
たぶん同情とかじゃない。
「頑張ってね。」と言われた
その数秒後
鐘がなったと同時に
一斉に紙の捲れる音が響く。
そのあとすぐに
カツカツとシャーペンの音がなり響く。
僕は暫く目をつむって
その音が鳴り止むまで待った
ここまでくるのに様々な葛藤があった。受験をしないとも誓った。おかんの涙もあった。貧乏と向き合った。でもここまで来た!来たんだ!!
ゆっくりと目を開け、紙をめくった。
いままで悩んできたすべてが
始まった。
受験番号、学校名、名前、を書く。
深呼吸して国語の漢字問題を見た。読み方問題も見た。
不安が一掃した。
簡単だった。図書館で小学生の時から本を読んでいたからだ。
わからない漢字の読み方や意味はおかんに聞いていた。
それをおかんは楽しそうにまた、僕を小馬鹿にしながら笑って教えてくれていた。
解いてるうちに楽しくなってくる。解らない問題に出会うほうが難しかった。
今まで貧乏だった。
漫画もTVゲームもまったくなかった。
貧乏がはじめて認められた感じがした。
長文問題が2題、漢文と古文の選択、
すべてが一度図書館で読んだことのある内容だった。
こんなに簡単でいいのか、
文章を読まないでもイメージがある。図書館で借りた本。
僕に合格してくださいって
神様が仰っている。
僕は誰よりもはやく問題を解き終えただろう。
周りはまだカツカツ鳴っている。
僕は見直しをする。というよりは長文を読んで内容を楽しむ。
本を読むことしかしなかったなのか、目で追いかけるスピードで内容が頭に入ってくる。
古文でさえ、歴史が好きだった僕には時代背景が手に取るようにわかる。出てくる名前も知っている。
資料集も僕の読む本の一つだったから古文は見慣れている。
どんなに難しく問われても
当たり前のように鉛筆が動く!!
僕をこんな頭にしたのは間違いなく貧乏だった。
3回長文を読み終わった後に
鐘がなった。
僕は消しゴムを一度も使わなかった。
休憩は15分。
トイレに行く人、国語の漢字を携帯電話で変換する人。
それぞれの過ごし方がある。
僕はさっきの試験員が置いていってくれた鉛筆削りで鉛筆を削る。
1本しか使ってはいないが
それでも削りに行った。
あの試験員に感謝している。
不安がなくなったから
迷い葛藤を削ってくれた。
だから僕は鉛筆を削るのが楽しかった。自分の手で回さず、突っ込むだけで勝手に葛藤を削っているみたいだったから。
お茶を飲む。
間違いなく僕だけが水筒だっただろう。
変だけどみんなと違う
それが楽しくなっていた。
特待生と寮を手に入れないと入学しない
このプレッシャーを周りは知らない。
周りとの戦いではない1人の戦い。
楽しくて楽しくて仕方がなかった。
結果は自ずと付いてくる。
僕は背筋を伸ばし、次の英語の試験まで
目をつむっていた。
さっきと同じようにして、英語の紙が配られる。
まったく同じように。
今度は目を開けて時計を見ていた。
時間は確実に進む。また戻らない。
彼らはお金で時間を買う!!
僕らは時間でお金を買う!!
それでも生きてる時間
刻んでる時間は
金持ちも貧乏も一緒だ。
いま僕は金持ちたちと同じ場所で同じ時間を共有する。
使い方は違っても、時間は平等なんだな
英語の開始の鐘がなる。
まったくさっきと同じだ。
笑ってしまった。
英語は国語や社会に比べるとあまり得意ではなかった。
学校の教科書や先生の知識でしか出会わない。
日常で貧乏人が英語に触れ合うことは少ないから。
単語は図書館の辞書でひたすら読んだ見た
英文は単語で読める。内容はわかる…でも文法がわからない。
学校レベルではけしてない!
独学、努力だけでは届かない。
懸命に食らいついた。
単語で意味を考え答えを導く。
頭が辞書だから簡単だった。
限界はもちろんあった。
赤い分厚い本では何回もやったのにこの壁はわかっていたのに
本番でもやはり越えられない。
怖い…
できないことが怖い…
さっきまでの余裕がまったくない。
周りのシャーペンの音がやんでいく。
貧乏の壁だった。
一生外国に行くことなんてないだろうから…
いつの間にか鐘がなっていた。
特待生という希望が薄れていく。
英語…
なんで試験に英語があるんだろう、
外国に行くことができない人に
意味があるんだろうか。
外来語程度でいい…
TVでやっていたけど、
単語の羅列で伝わる。
もうすぎたことだった。
まだ諦めちゃいけない。
日本史で満点をとればいいんだ。
最後まで諦めない。
最後の最後まで、
できなくて結果待ちになってさえ諦めたらそこで終わりなんだ!!
また同じ時間の繰り返しで
日本史が配られる。
鐘がなる。
一目散にとりかかった満点をとるために
3回見直しができるように、
年代
人物名
すべてが頭の中を高速で回転する。
タイムスリップしたかのように
その時代へもどる。
なんで僕が歴史が好きだったか、
一番は興味があったから
次には
貧困の差があったから…
この時代に生まれていたら、
周りと協力して頑張れたんじゃないか…
きっと僕も働いていたんじゃないか、
明治維新があったから今の日本はある。
黒船が来たから外国の文化がある。
戦争が科学をここまで発展させた。
そこからは公民の世界
いまの僕の環境が作られた。
車なんてなかったら
おとんは死んでいなかった…
おかしな話だ。
『僕がまだお腹にいるときだったらしい…僕の誕生日は2月。
おとんの命日はその年の1月だった。
おとんは普通の企業のサラリーマン。
年収はそこそこ生活に困らないくらいはあったと聞いた。
一軒家の家を親から受け継ぎ
お腹にいる僕のことを考えて、
引き継いだローンなどをボーナスを使って早めに支払いを終わらせていた。
保険会社は嫌いだったみたいだ。
死ぬためにお金を払うということがどうしてもいやだったみたいで、それなら僕が生まれてからゆっくりと貯めていけばいいと考えていたんだ。
今となっては、天国で入ってあげてたらよかったかなって思っているのかな…
おかんはそんなおとんが大好きだった。
写真でしか僕はおとんの顔をしらない、
僕が生まれたらといって
ビデオカメラを買うつもりだった。
だから僕はおとんの声を聞いたことがない。
写真でしかみたことがない。
僕が生まれるまえに死んだ
だから僕は生まれてから今まで
おとんがいないってことに寂しいという気持ちは起きなかった。
おかんも僕のまえではけして、寂しいという表情はみせない。
泣いているのを見てしまったが…
その年のお正月、
おかんとおとんは初詣に行った。
元気な男の子が生まれますようにと、いつまでも幸せな家族でいられますようにと、
田舎だったため近くに神社があったんだ。
雪も降っていて、寒い年明けとなったらしいが
それでももうすぐ生まれる僕を楽しみに、暖かい雰囲気が包まれていたそうだ。
そんなことをおかんが言ってたかな。
その1週間後
おとんは飲酒運転の車に突っ込まれて死んだ。
即死だったみたいだ。
おかんは安らかに眠るおとんを見て
もうすぐ生まれてくる僕を抱えてなんて思っていたんだろう。
僕を抱えて死んでしまいたかったみたいだ。
それでも何度も陣痛がすると、
僕が生まれたいって暴れている。なにもしらない僕はただおかんの中で暴れていたみたいだ。
生きないといけない。
そう思わせたのが僕だったと。
結局おとんは僕の名前を決めずに死んだ。
僕の名前はおかんが決めたんだ。
僕がもっともっと幸せになれるように
おとんのような優しい人になれるように
どんなに辛くても最後まで諦めないようにと
今の僕の名前を付けてくれたんだ。
僕は2月に元気に生まれた
おかんは僕を抱いてはじめて
おとんがいなくなったあの日からはじめて笑った。
その笑顔は僕んちに飾られている。
貧乏って思ってるってこと
何度もおかんに思わせちゃったな…
親孝行したい…
おかんをもっと笑わせてあげたい…
合格したいよ。』
日本史終了を告げる鐘がなる。
僕の受験が終わった。
悔いはなかった。後ろは振り向かない。
貧乏が全力で自分の人生を切り開くための1歩に挑んだんだから。合格発表まで僕は諦めない。
自信はあった。
国語と日本史はほぼ満点だ。
英語だけ…
多くの受験生が試験問題の話をしている。解放感に溢れていた。
「おれ記念受験やし、駄目もとやから!!」
そんな声が聞こえてくる。
僕は無心で来た道を戻った。
お腹が空いたな、
帰ったらもう夕方だ。
長かった1日だった。
いや、ここまでくるのが長かった。
辛いことも苦しいこともたくさんあった。
電車の中はこんなことばっかりだった。
電車を降りた。
切符は記念に貰うために、無効印を押してもらった。
切符には820円と書かれている。
受験するのにもお金たくさんかかったなぁ、
おかんにお礼を言おう。
自転車をこぎながら、家路に急ぐ。
「ただいま。」
「おかえり。」
「おかん、ありがとうな」
「どうしたの、どうだった?」
僕は笑いながらお礼を言った。
おかんはそれだけで満足そうに笑顔を見せてくれた。
「お腹空いたでしょ」
「また、ありがとう」と言った。
僕の高校受験は終わった。
特待生合格と共に、
新しい春に向けて。
「主です」
ここまで読んでくださった方
ありがとうございます。
僕はこれから高校生になっていきます。新しい生活が始まります。社会に飛び出ていきます。
学ぶこと、それとは別に学ぶことがたくさんありました。
死にたくなることもありました。
母親が卒業祝いと入学祝いに買ってくれた携帯電話。
それだげが僕のたったひとつの
心の支え。
お金がなくて他人とは違うように扱われていくことの辛さ負けないように頑張っています。
現在の僕にいたるまで、
引き続きよろしくお願いいたします。
春がやってきました。
もう冬の寒さは感じられない。
桜は蕾をだしかけたぐらいだった。
春の風が心地いい。川沿いを歩く小学生が見える。
僕は小さなベランダで洗濯物を干しながらそれらを感じていた。
明日から僕はこのベランダから見る風景とサヨナラしなければならない。
洗濯物の数は少ないけれど、時間をかけて
1枚1枚の思い出に浸っていた。
おかんはパートに行っている。
春休みということもあって
僕は家事を手伝うことにした。
「早めに帰ってくる」と
おかんは言った。
買い物に行こうと誘ってくれたんだ。
必要なものは鞄に詰めた。
教科書もノートもすべて置いていくことにした。
詰めたものは歯ブラシや写真など、ちっちゃなものばかりだ。
洗濯が終わったらべつの鞄に服を詰める。その作業はおかんが手伝うと言っていた。
ベランダからずっーと遠くを眺めた。僕はどこらへんに行くのだろう。
もうすぐ昼過ぎになる。
おかんが作ってくれた3つのおにぎりを食べながら
すこし自転車に乗って街をまわろうと思った。
自転車にまたがる。
ペダルに足を乗せる。
すこし自転車が小さく感じられた。
僕も大きくなったんだなって
感じた。
自転車も持っていきたいけど
さすがに無理だった。
最後にたくさん街中を
自転車で走る。
図書館も、あの本屋さんも。
春に自転車をこぐのは気持ちよかった。
ずっとずっと走った。
どのくらい走ったかなんてわからなかったが、
日が沈みだし始めたのがわかった。
街一帯が赤く染まる。
この街での最後の夕焼けだった。
すこし自転車を降りて
草むらに座り込んで上を見た。
すごく綺麗だった。
目をつむる。風で揺れる草の音がする。風で運ばれてくる草の臭いがする。
目を開けた。
やっぱり空は赤くて綺麗だった。
しばらくしてまた僕は自転車にまたがった。
うちに帰る。
そろそろおかんが帰ってくる。
1人で生活するために必要なものを買いに行く。
給料日だから大丈夫って無理を言っていた。
高校のお金に関しては特待生の資料に書いてあった。
特に奨学金制度のことがたくさん書いてあった。
特待生はもともと授業料が半額になる。
おかんはそれだけでいいって僕に奨学金は進めなかった。
もし大学に行きたくなったら。奨学金お願いねって添えて。
借金には限界があったと思う。
でもまた大丈夫だって、って言う。
すごく不安だった。
でも僕の家には畑がある。
隣のおじさんがいつでも買うと言ってくれているみたいだった。
もともとおじさんが耕してくれてるのに、趣味だとか運動だとか言ってずっと手伝ってくれていたんだ。
お米も僕んちだけでは食べきれないくらいにあるから分けてもらって助かると。
だから借金しても平気だっておかんは言うんだ。
おじさんも本当に優しかった
僕の合格を我が子のように祝ってくれた。
だから僕のわがままが通ったのかな。
みんなありがとう
初めまして😃こんばんは
いつも楽しみ読んでます。
主さんの心の豊かさに感動しております。
私もそうとうな貧乏ですが、けっこう幸せに頑張って生活してます。
どこか懐かしく穏やかな気持ちになる素敵なお話ありがとうございます。
自転車で家に帰る途中
おかんと会った。
一緒に並んで並走する。
夕焼けがまだ続いている。
川沿いをおかんと並んで走る。
おかんと自転車で並走するなんてはじめてだった。
「なんだか寂しくなるね…」
僕はその言葉からの溢れた涙をおかんとは逆の方向を向いて隠す。
なぜだかどんどん溢れでてくる。
僕だって寂しいんだよ。
ずっと一緒に頑張ってきたんだから…
「頑張るんだよ…お母さんも頑張るから」
涙声で僕は答えたんだ。
「お母さんもちゃんと頑張ってよ。僕だだってお母さんのためにもっともっと頑張るから」
はじめて
お母さんって呼んだ…
涙が隠せない。
おかんのほうを向いた。
おかんもいっぱい泣いていた。
夕焼けの中
おかんが買ってくれた自転車で
最後のペダルをこいだ。
涙がどうしてもとまんなかった。
ありがとうおかん
僕がおかんを幸せにするよ。
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