小島と俺
これは携帯小説で、ヒィクションです。
エリート社員、山崎に新人社員の小島が部下として配属される。呑気で陽気な小島と出会ってから変なやつと思いつつも、山崎は 自分の私生活、生き方、考え方に疑問を感じ始める。そして、小島にはちょっとした秘密があるのだ…
携帯小説初めてです。
誤字、文法、表現おかしいところあるかもしれません。
更新、遅いかもしれません。
頑張って描きますね。
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「でかした、小島!」
偶然とはいえよくぞ証拠までつかんできた。
「あとこれ、ムービーっす!」
「そこまでしたのか?」
そこまでするとは探偵並だ…
「あ、やり過ぎですよね。消しましょうか?」
小島は冗談を言って笑った。
「まてまて、見せてくれよ」
ムービーには遠間しだが、確かに(はげ頭の)宮永専務が映っており、相手からもらった現金を確認するのがわかる。
ここまで証拠が揃うと、殿様風でいう「あっぱれじゃ!」というところだ。
「しかし、小島、よくこんなの撮れたな?」
「障子をすこーしだけ開けて撮りました。」
「いやいや、気付かれたらやばいぞ」
「ご心配なく、一発芸の最中でトイレに行った為ひょっとこの面を持ってたので、それを着けて撮りました。仮にバレたら僕が専務を脅迫してやりますよ。悪いのは向こうなんですから。」
小島はにっこりと笑った。
「この録音とムービーは山崎部長に渡します。あとはよろしくお願いします」
「ああ、悪いな…」
俺は小島の携帯から録音とムービーをもらった。
「やけに宮永専務の悪事につっこんで証拠を集めたな」
俺は宮永専務が嫌いなので、いつかギャフンと言わせてやると思っていたから、今回、小島の証拠はありがたかったが…
小島はぼそっと口を開いた。
「僕は宮永専務がかなり嫌いですから、徹底的にやりました。他の人ならふーんと思うくらいで、こんな手の込んだ事はしませんよ。」
そう言って小島はにっこりと笑ったが、一瞬ギラリとした表情をした。
出会って間もない宮永専務をなぜそこまで嫌いなのか、この時俺は宮永の悪事の証拠を手にした事でいっぱいであまり深く考えなかった。
40分程経って小島の嫁さんは帰ってきた。
「今から食事の準備をしますね。お口に合わないかもしれませんけど。」
「いえいえ、お気遣いなく」
小島の嫁さんはてきぱきと準備を始めた。
手際のいい手つきだ。
小島から宮永の事を聞き出したらとっとと帰ろうと思っていたが、この流れからして帰るとは言いにくい。
いやここを去って早苗のマンションへ行くはずだったのだが…
宮永の件で小島に少し親近感がわいたのは事実。
最初はさっさと帰りたかったが、なんとなく、小島の私生活をのぞいてみるのもいいか…と思った。
「ちょっと、あんたっ!かっ○えびせんなんて山崎部長さんにだして!戸棚にもっとマシなものあったでしょ!」
料理を作りながら小島の嫁さんは叫んだ。
「えー、かっ○えびせんはみんなが大好きなお菓子だろ~無難かと思って…」
「あんたが好きなお菓子でしょうが…」
何かレベルの低い会話だが、普通の夫婦の会話はこんな感じなのか…
「すいません、小島はこんな感じだからきっと呆れさせてばかりなのでしょうね…」
「そんな事ないっすよね!今日はパソコン買うのもついてきてもらったんだよ。」
「バカ!そんな事で上司を引っ張ってくるなんて…本当にすいません…」
レベルは低いがなんとなく、笑ってしまった。
俺も冗談で、
「いやいや、小島君は超優秀ですが、手がかかるのがたまに傷で…」
何て言っていた。
食卓に夕食が並んだ頃、小島の娘が帰ってきた。
「ただいま~、あれお客さん?」
「お父さんの会社でお世話になってる山崎部長さんよ」
「おじゃましてます」
「こんばんは」
小島の娘さんはぺこりと頭を下げた。満さんはたいしたことない顔だと思ったが、娘の方はなかなかの美少女だ。
誤解のないよう言っておくが、美少女だからといって、流石に高校生には興味はない。
女子高生というとミニスカや最近流行っているのかキラビヤカなメイクを想像してしまうが、小島の娘は普通の18才の女の子だった。
まぁ、小島の娘だから、いわゆるギャル系はないだろと思っていたから、予想通りかな。
夕食はアジフライ、ワカメの味噌汁、ほうれん草のごまあえ、肉じゃがなど 普通の家庭料理が並んだ。
アジは自分で開きにしていた。清美は魚をさばく事はできず、魚料理はできあいのものか、さばいたものを買ってくるか、家政婦が作るかだ。
普通の主婦はこれくらいはするのだろうか…
聞けば、満さんは昼間はパートにでてるらしい。
清美は家政婦に家事をまかせ、自分は友達と出掛けたり、お茶をしたりしているらしいが…
自分達の生活基準が上の方にあると思った。
朝は洗濯物を干し、朝食、旦那を会社に出し、娘を学校に行かせ、自分もパートに出る。夕方帰宅した後は急いで洗濯物を入れ、夕食準備…風呂を沸かし…
かなりハードではないか。
今まで、主婦をバカにしてきた自分に気付く。
夕食が当たり前のようにでてくる。服がアイロンをかけられていたり、部屋がきれいだったり…
何気ないが、誰かがやってくれているのだ。
清美は家事は得意ではないが、家政婦を雇わない週に5日は自分で飯の支度をし、掃除、俺のシャツをアイロンがけするなどして昼間を過ごしているのだ…
「たいしたものじゃないですけど、どうぞ」
満さんが声をかけてきた。
「部長、遠慮なく食べて下さいよ、嫁はこれでも料理の味は確かですよ」
「もー本当にたいしたもんじゃないのに」
と満さんは困ったように笑ったがまんざらでもなさそうだ。さりげに小島は嫁をたてているのか…
小島が味は確かと言うだけあって料理はとても美味かった。
家庭的な妻、仕事が終われば直ぐに帰る良い夫、真面目な娘…
これがドラマなんかでよくみる幸せそうな家族というやつか… 小島ならきっと浮気などしないだろう…
「小島はご両親はこの近くに住んでいるのか?」
俺は何気なしに聞いてみた。
一瞬、空気の流れが止まった。
「両親は早くに亡くなったんで…」
小島は言いにくそうに言った。
「そうか、大変だったな、悪い事を聞いた…」
「気にしないで下さいよ!山崎部長は社長と別居なんですよね!」
と話を俺の方に変えた。
「ああ、そうだ。家が一緒だと仕事の事でなんくせつけられそうでたまらんしな」
小島は通信で働きながら高校を卒業したと言っていた。
へらへらしてるようでご両親が亡くなった後、苦労してきたのか…
「山崎部長さんて、うちの小島と同じ年って聞いてますけど、全然違うわ~何かとってもダンディーで。ほらあんたは、この中年太り!」
満さんは小島の腹をぺんっとたたいた。
確かに小島はずんぐりむっくりだし、顔もイマイチだ。
しかし、口調とは別に、満さんは小島に不満はないだろう。
そう思った。
「お父さんはかっ○えびせんとか、き○この山とか食べ過ぎよ!」
すかさず娘も口を挟む。
一つの机を囲み、あたたかい会話が流れる。
時刻は夜の10時。
「ではそろそろ、おいとまします」
会話の切れ目を見つけて俺は言った。
「何にもおもてなしできずに、すいません…」
満さんが申し訳なさそうに言う。
「いえいえ。とても美味しかったですよ。小島、いい嫁さんもらったな」
「顔は普通ですがね、僕には満くらいの女房がちょうどいいっすよ」
「ちょっと、それはいい意味?悪い意味?山崎部長さん、お気をつけて帰って下さい。」
見送ろうとする満さんに
「いやいや、そのままで…ここで結構ですよ。どうも、ごちそうさまです。」
と言った。
小島は車までついてきた。
「部長、今日はありがとうございました」
頭を下げる小島に俺は聞いた。
「今日の目的はパソコンではなく、宮永専務の件で俺を誘ったんだろ?」
「ははは、バレますよね。そうですよ」
小島は笑った。
「田辺がもし小島に付き添ってたら田辺に報告するつもりだったのか?」
「いいえ、田辺部長が今日は無理なのは分かってましたから。最初から山崎部長に報告するつもりでした」
「おいおい~田辺さんに失礼だろ?」
「部長は僕の事嫌いみたいなんで、田辺部長に助け舟になって頂きました」
小島は計算ずくでもの事をすすめているのか…。
俺が小島を嫌いなのは肌で感じているだろう。
今日の事で小島に嫌いという感情より、また違う不思議な感じがした。今回、宮永の事で でかしたとは思ったものの、まだ小島には不信感、謎が多い。
まだいけすかない所がある。
ここで俺が小島に態度を一変し、好感を持ち始めたら小島に手玉にとられる、小島のペースにはまる気がした。
「宮永専務の賄賂の件はどうされます?」
小島が聞いた。
「そうだな、社長に報告するかな」
「宮永専務はまだまだ悪い事してますよ」
「そうかもしれないな」
いつものへらへらした小島とは違い真剣な目をしている小島を見てはっとした。
「まだ何か知ってるのか!?」
「ええ、でも証拠はありません」
「どんな…」
と切り出したところで小島は
「またいらして下さいよ、部長!」
と、にっこりした。
小島は口を割らずにまた次に持ち越すつもりだ。
どうやら、またうちに来いと誘っているらしい。
小島は何を考えているんだ?
こいつは何なんだろう…?
小島はなぜ俺に付きまとおうとするのか?
嫌われてると知っていながら…
宮永に対して何かあるのか?
いろいろな疑問が浮かび上がるが、聞いてもこいつは安易に口を開かないだろう…
なら、俺はお前のペースにはまったふりをしてたかみの見物をさせてもらうぞ…
「小島、宮永の件お前に任せる。お前の好きなようにしろ。この事は俺は誰にも言わない。もちろん社長にも…」
俺のこの言葉は小島には意外だったのか
「えっ?」
という表情を見せた。
しかし、すぐににやりとして
「わかりました。好きにさせて頂きます」
と言った。
「山崎部長も宮永専務の事をよくは思ってないようですね。今、宮永と呼び捨てだったので…」
「ああ、俺も宮永は好かんよ」
と正直にこたえた。
「じゃ、帰るぞ。奥さんと娘さんにによろしくな。」
「ありがとうございました。失礼します」
頭を下げる小島に軽く手を挙げ、車に乗り込んだ。
そしてエンジンをかけ、車を発進させた。
何だか異世界から乗り物に乗って現実に帰るような…変な感じがした。
さて、現実に戻ったところでコンビニの駐車場で携帯を開いてみた。
メールが3件
早苗から
『今日、良かったらうちに来て~。待ってるから。今日は早く仕事終わるんでしょ?』
清美から
『お仕事お疲れ様。残業かな?12時を回るようなら先に寝るわね。頑張って!』
早苗から再び
『メールくらい返してくれてもいいでしょ!久しぶりの休みだったのに残念!他の浮気相手のとこ行ってないよね?また会いにきてね。』
小島の話にくいついてしまい、清美にも早苗にも連絡していなかった。
メールの内容を見ると、強引で少しわがままな早苗に比べ、清美は浮気を疑うのでなく、あくまで仕事お疲れ様と気遣う内容だ。
清美は結構俺に気を使っているのか…。俺の帰りを待ち、疲れていても夜遅くまで起きているのだろうか…
その日、家に着いたのは夜の11時半。
「ただいま。遅くなって悪かった。仕事の付き合いがあったんだ。つい連絡し忘れた」
今日は浮気してない。正直に言ったので後ろめたさを感じない。
「ううん、お疲れ様」
清美は笑顔で言った。
「今日は小島ってやつに誘われてさ、パソコンを買うからついてきてくれって言われたんだ。何か小島は変な奴で…」
小島の事を話していた。
清美はいつになく笑顔でうんうんと話を聞いていた。
「小島さんて変な人だけど、あなたの事信頼してるのね」
「いや、そんなんじゃないと思うけど…俺も手を焼いてるよ。今日は茶菓子にかっ○えびせんだされてさ、小島はかっ○えびせん好きらしくて…」
清美はぷっと笑った。かなりうけたのか…
何だか久しぶりに会社での話を清美に話した気がした。
「あなた、会社の話あまりしないから今日は何だか嬉しかった」
「そうかな…」
そういえば、会社の話は浮気相手に喋り、清美にはしてなかった気がする。他の女に話した事で清美に話をする事が少なかったかもしれない。
次の日、小島に会うといつものへらへらした小島だった。
「あ、部長~おはようございま~す」
気のぬける挨拶。
小島はいつしか、女性事務員からも慕われ
「小島さんてばかっちい感じだけど、営業ナンバー1の成果だしてるらしいわよ」
「何かすごいよね。能ある鷹は爪を隠すみたいで…」
と囁かれ、
掃除のおばちゃんからは
「小島ちゃん、いつも手伝ってくれてありがとうね!これあげるよ」
とおにぎりをもらったりしている。
(もちろん、笑顔で受け取りやったーと子供のように喜ぶ小島…)おばちゃんのお気に入りと化していた。
どうやら、掃除の時に出る大量のごみを運ぶのを手伝っているらしい。
俺もだんだんと
「お前の教育がいいんだね~」
「やっぱり、山崎部長のもとで指導されると育つのね」
などと囁かれ悪い気はしなくなっていた。
それより、小島をたかみの見物…これからの小島の起こす行動に興味がわいてきた。
そんな日々が続いたが、一向に宮永の件でアクションを起こす気配がなかった。どうするんだろう…
そんな心配をしている場合ではない事態が起きる。
その日は早苗と会う約束をしていた。
小島の家に行って少しは清美に感謝し、家庭に熱を入れようと思ったものの、浮気をやめずにいた。清美だって浮気しているではないか…
そう思うと、浮気はやめる方が馬鹿らしかった。
仕事を終え、早苗のマンションに向かう。向かう途中で早苗から電話があり、少し帰りが遅くなるから、どっかで時間つぶしてて。との事。
まぁ、喫茶店でコーヒーでも飲むか。
早苗の近くの有料駐車場に車を止め、喫茶店に入ろうとした時だった。
道路の向こう側を清美が歩いていた…
俺は目を疑った。
清美と一緒に歩いている男…
いや、見間違えか…間違いだろ…
俺は呆然とたちつくす…
清美が浮気している。知っていた。わかってた。自分だって浮気しているのだからチャラにしていた。
でも、なぜあいつなんだ…
清美と一緒に歩いていたのは小島だった。
清美と小島は確かに並んで歩き、何か会話をしている。
清美は今日は子供を実家に預け、友達と出かけると言った。
だから俺は安心して(?)早苗に会いに行く予定だった。
俺は思わず携帯のカメラでシャッターを切った。
遠いから証拠になるかどうか… でも雰囲気、服装など特徴は分かる。どうだ、小島、こうやってお前は人の悪事の証拠をとったんだよな。俺も真似させてもらうぞ。
最近の携帯のカメラは随分よく撮れるじゃないか…
冷静ではないのに冷静にと思うよう暗示している自分がいた。
清美と小島は道路の先の曲がり角を曲がって消えていった。
小島とだけは許せない。
あり得ない。
この前小島の話を笑顔で聞き「あなたの事を信頼してるのね」と言った清美。
俺をわざわざ家に誘い、あたたかい家庭を感心させた小島。
俺は猛烈な怒りに達していた。
清美の浮気相手は小島だった。
俺は気が付くと早苗との約束をすっぽかし、小島のアパートへと向かっていた。
勿論、小島は今、清美と会っているのだから家にはいない。
満さんにつきつけてやる。
今撮ったこの携帯の画像を見せ、小島の家庭を壊してやる。
俺は車のアクセルを強く踏みスピードをあげる。
小島と清美はいつ出会ったのだろう?
なぜ小島はわざわざ俺の会社に入り、俺に近づいてきたのか…俺には理解できない。
しかし、どうしようもなく胸が痛い。小島でなく他の男なら別にいい。俺だって浮気してんだから。
でもなぜ小島なんだ!?
ピンポーン。
俺は小島のアパートに着き、チャイムを鳴らした。
中から
「はぁーい」
と満さんの声がしてドアが開いた。
「あら、山崎部長さん。この前は小島が失礼しました。」
「いえ」
「あいにく小島はまだ帰っていませんが…。」
「ええ、知ってます」
小島は清美と会っているのだから、ここに小島がいない事は分かっている。
「どうかされたんですか?」
満さんは心配そうに聞いた。
「ええ、お話があります」
「お話って私にですか?小島の事で?」
「はい、そうです。ぜひ奥さんに聞いて頂きたい」
俺の尋常ではない様子を悟っているらしく、満さんは不安そうな顔をする。
満さんは部屋の中をちらりと見た。夫の不在中に他の男性を家にあげるのをためらっているように見えたが、さすがに 夫の事でと言われると、
「どうぞお上がり下さい」
と言った。
「おじゃまします」
この前、上がらせてもらった部屋へと案内した。
満さんはお茶を入れ、俺の前に「どうぞ」と置いた。
俺の向かいに座り、
「お話とは何でしょうか?」
と聞いてきた。
「小島君の事で少し…」
いざ満さんを前にするとだんだんと 何をやってるんだ俺は という気持ちになってきた。
なかなか切り出せず、
「あの、娘さんは…?」
「娘はバイトに行きました。すぐそこのファミレスでバイトしてるんです」
満さんは少し微笑んで見せたが、目は不安そうだった。
満さんも俺の目をじっと見つめ、俺が話し出すのを待っていた。
満さんは確かに美人ではない。しかし、なぜか惹かれるものがあった。この前はただのおばさんに見えたが、今日はこの前よりうんと綺麗に見えた。
家庭的で、働きもの、しっかりしてそうで…今のような状況になるとふと見せる不安気でもどかしい感じ。
いろいろな思いが試行錯誤する中、俺はついに切り出した。
「小島君は浮気をしています」
満さんは一瞬目を大きく見開いて驚いた様子だったが、すぐに冷静な顔を取り戻し、
「うちの小島はそのような不貞は絶対にありません」
ときっぱり言った。
かなり凛々しい顔をしてそう言った。
「しかし、私は現に見たんです。しかも、一緒にいたのは私の妻でした。携帯のカメラにもおさめました」
そう言って、俺は携帯を取りだし満さんに見せた。
少し遠いが明らかに小島と女性(清美)が写っているのが分かるはずだ。
しかし、満さんは見たかと思うと俺に携帯を返してきた。
「山崎部長さん、この程度では何の証拠にもなりません。何度も言うように、小島に不貞はありません」
「いや、しかし…」
満さんの凛とした態度に俺はたじろいでしまった。
なぜ、そんなにきっぱり否定できるのだ。そんなに小島を信じているのか?
「この事で奥様とはお話をされましたか?」
「いいえ、まだです。」
「なぜ、奥様と話合われる前に私の所にいらしたのですか?」
「いや、それは…」
浮気現場を見てカッとなって、腹いせに小島の家庭を壊してやろうとした、衝動的な行動だ。
しかし、そんな事は言えない。
なぜ、先に清美にそれを言わず、満さんの所に来たのか…。
一つは俺も浮気しているので、正直いくら小島が浮気相手でも、問い詰めにくい…
もう一つは、俺は小島が羨ましいのかもしれない。仕事ができ、人望に厚く、誰からも好かれる…
その小島に清美を奪われた。だから小島の持っているものを壊したかったのかもしれない。
満さんの問いに戸惑いながらも、一つの結論が出た。
俺は小島の持っているものを奪いたい…
仕事のスキルも、人望も正直な所、このままいけば部下である小島に抜かれる。
俺が小島から奪えるもの、
家庭…しっかりしていてよい妻…
満さんだ。
満さんが否定する以上、小島の浮気を俺がとなえても何の効果もない。
俺は立ち上がり、満さんのそばに座りなおした。
満さんは不思議そうな顔で俺を見る。だんだんと満さんが、とても美しい女性に見えてくる。
目尻や口もとのこじわでさえ、日々家庭を支える為、一生懸命な証に見える。
荒れた手は家庭的な女をよりいっそう引きだし、飾り気のない薄化粧は控えめな女性を印象づける。
今まで俺はブスは絶対にうけつけなかった。しかし、今たいした顔でない満さんが美しく見える。
今までになかった女性への気持ち…そう内面に惹かれる。という気持ち。
俺は満さんを抱きしめた。
そして満さんの顔を見た。
満さんは驚き、困惑していた。俺は満さんの唇に迫った。
その時だった。
どかっ!
俺は満さんにパンチをくらってしまった。
しかもグーで。
俺は空中で一瞬お星さまを見た。
「てめぇ、何しやがる!血迷ってんじゃねーぞ!このすっとこどっこい!」
俺はこんなに驚いた事はない。正直ない…。
えっと、今俺を殴って暴言吐いたのは満さんだよな…
さっきまでのあのしおらしい満さんはどこに…
「あの…」
俺は何て言っていいのか言葉につまり、ただ鼻血をたらしていた。
「てめぇ、手加減してやったんだから感謝しろよ。それでもまだ血迷うってんなら、あたいも本気で相手してやるよ。」
「いえ、すいません。確かに俺は血迷いました。」
唖然としていた俺はようやく口にした。
すると満さんは急にまたあの優しい顔に戻り、
「いーえ、あら、鼻血でてしまいましたね、すぐにおしぼり用意しますね」
と言った。
「いえいえ、お気遣いなく」
そう言ったが、満さんはおしぼりを渡してくれた。
「今日の俺はどうかしていました。すいません。ご迷惑おかけしました。帰ります」
玄関まで満さんは見送ってくれた。
「一度奥様といろいろと話をされてみてはどうでしょうか?」
満さんはもとの(?)満さんに完全に戻っていた。
「ええ、では失礼します」
俺は小島のアパートから車に戻り頭の中を整理しようとした。
今日は早苗と約束があって、早苗が少し遅れるからと俺は喫茶店で時間を潰そうとした。
その矢先、小島と清美が一緒に歩いているのを見た。
逆上した俺は小島のアパートへ行き満さんに事実をつきつけたが、あっさり否定。
さらに俺は満さんがだんだんと綺麗に見えてきて、そして小島から奪ってやろうと満さんに迫るが グーでパンチ。
満さんのあの時の口調といいパンチといい、多分あの人は昔ヤンキーとかレディースとか、やくざの娘…?
いろいろな事を頭の中でぐるぐると回る。
とにかく、もう家に帰ろう…
家に着き、電気の消えた家に入る。
誰もいない…
清美もまだ帰ってはいない。
夜の10時をまわったところだ。
俺は清美の浮気相手が小島だった事に相当ショックを受けていた。
そして、血迷って満さんにパンチをお見舞いされた事もかなりの衝撃だった。
満さんは芯の強い女で、たとえ俺が迫ったとしても拒否されるはずだ。
いや、俺は自分が迫れば女は必ず落とせると思っていたのか…
清美と小島への怒りと満さんに対する恥ずかしさで俺は叫びたいような、穴に入りたいような何ともいいようのない気分だった。
ふと携帯を開くと着信が5件。
メールが2件。
着信履歴
1、早苗 20時32分
2、早苗 21時03分
3、早苗 21時36分
4、親父 21時45分
5、社長 21時47分
1、2、3 の早苗はマンションに帰っても俺に連絡が取れず、怒っているのだろう…
メール2件も早苗からで文句の内容だった。
4、は親父プライベート用携帯
5、は親父が社長としての仕事用携帯。仕事でトラブルがあったらこの携帯でよくかけてくるが、今回の様に先にプライベート用携帯でかけてきた後に会社用携帯でかけてくる時は「電話出ろよ」という事だ。
今日はもう誰とも話たくない気分で着信音が鳴っても無視していた。
俺はため息をつき、とりあえず早苗に電話した。
電話はワンコールでつながった。
「ちょっとどういう事!すっぽかすのは仕方ないとして、なんで連絡も取れないのよ!」
「すまん、急に会社でトラブルがあって呼び出されたんだ。」
「でも、連絡くらい取れるでしょ!」
「忙しかったんだ…本当に悪かった」
「あたしだって仕事三昧だから忙しいのは分かるわ!でも恋人との約束を果たせないならせめて連絡くらいはできるでしょ!」
恋人って…ただの遊び相手に思っていたのに早苗はそう思っていたのか…
謝っているのにずけずけと言ってくる早苗にだんだんと腹がたってきた。
「確かに俺が悪かった。でも、お前が気に入らないのなら、俺たちしばらく会うのやめよ」
俺はイライラを抑えながら早苗に言った。
「え、どういう事?何でそうなるのよ!」
あーめんどくせぇ!俺が求めてるのは癒しと刺激。なのにこんなにイライラさせられるならもう終わりにしたい。そういう事だ…
「だから、もう別れよ…」
「ちょっと待ってよ…!だから何でそうなるのよ!私に飽きたの?」
早苗は急に心配そうな声で聞いてきた。
「飽きたんじゃない。ただお互い仕事で忙しい中、プライベートな時間をさいて会ってるけど、お互いイライラしたりしてたらせっかくの時間が無駄になる。自分達は仕事に生きる人間だ。今までとは何も変わらない。ただ会わなくなるだけだ…」
俺はたんたんと早苗に言う。
ふと、美保…いや、よし子にも 「何も変わらない」と言ったのを思い出した。
意味合いは全く違うが…
これでもかなり抑えて言ったつもりだ。早苗のわがままや性格のきつさ、強引さに疲れた。
いいきっかけかもしれない。
「嫌…」
「え?」
「嫌よ!私は絶対別れない!」
美保は電話の向こうで叫んでいた。
「いや、だからもうお前も俺の仕事の時間とか気にしたり自分の休みとの調整きついだろ?」
「そんなの理由にならないわよ!いいじゃない、別にあたし達結婚するわけでもないんだし!別れる必要なんてない」
早苗は別れに同意しない。
早苗の事だ。
別れると言ったら
「あっそう!わかったわ、じゃあね、後で後悔したって知らないから。」
とか言うと思っていた…。
早苗も
「あなたの家庭は壊さないし、割りきったお付き合いしましょ」
とか言ってたのだが…
困った…
まさか早苗が別れてくれないとは…。
今まで浮気はわりと軽い付き合いで2、3回のデートで終わったり、よし子(美保)のようにあっさりした付き合いだった。
早苗もその類いだったはず…
とにかく、もうそろそろ電話を切りたい。清美がいつ帰ってくるかわからない。
やはり自分の浮気はバレると困る。
早苗は一度言い出したら聞かない。
「わかった、また会おう。いろいろと話し合おう」
と早苗を納得させる言葉で言った。
「必ずね…」
「ああ、また連絡する」
そう言って電話を切った。
俺は深いため息をついた…。
疲れた。
あと親父にも連絡しなければならない。
めんどくせぇな…
とか何とか思ってると親父から電話だ。
「あーもしもし。親父どうした?」
「用がなけりゃ電話したらいかんのか?電話くらい取れ。」
「悪い。」
「なんか疲れてるようだな?」
「いや、別に…」
親父はするどい。
「小島はどうだ?いい人材だろ?」
「ああ…そこそこ」
今日はもう小島の話はしたくない。適当に言った。
「そうか…」
そして、話は変わって…
「お前、浮気してるのか?」
親父は何の前触れもなく俺に聞いてきた。
いきなりの親父の問いに俺は
「いや、してないよ」
しらを切った。
「悪い噂が流れてる。お前が女性のマンションに入ってるのを見たとか食事してたとか…」
親父の言う噂は当たっている。が…ここで認めるわけにはいかない。
「人違いだろ…この前、田辺部長にも同じ事言われたよ」
「そうか…ならいいんだが…田辺君に言われたのはいつ?」
「んー、2、3ヶ月前くらいかな?」
「俺に相談するべきだったな。」
「なぜ?」
「噂は持ちきりだぞ」
親父の耳に入るほど噂が広がっているとはまずい…
「しかし俺に不貞はない。気にはしないよ」
「そうか、お前がそう言うなら…」
「ああ、噂なんて気にせず仕事するから大丈夫だ」
「まぁ、明日は仕事も休みだ。ゆっくりしろ」
「わかった、じゃあまた」
電話を切った。
俺は心臓がバクバクと脈打つのが頭にまで響く。
そんなに噂が広まってたなんて…俺のこけんに関わる。
そしてあっさり嘘を言う俺。
いつからこんなに嘘をつく人間になったのだろう…
清美が小島と浮気…
満さんに告げ口し、手を出そうとした俺。
早苗のわがままに疲れて別れを告げた俺。
自分の浮気をしていないと嘘を言った俺。
怒りと、苛立ちと、罪悪感。
今まで俺は罪悪感をあまり感じた事はない…
なのに罪悪感でいっぱいだった。
また携帯が鳴った。
誰だ…次から次へと…
知らない番号から…
「もしもし…」
「夜分遅くにおそれいります。小島でございます。」
満さんだった。
「小島のアドレス帳を見て電話させて頂きました」
俺は今日、満さんに手をだそうとした事で少し気まずかった。
「あの…今日はすいませんでした」
「いいんですよ。私のパンチもお見舞いしたし、チャラです」
と、電話の向こうで笑っていた。
「今日の事は私、誰にも言いません。どうか一度奥様と話合われて下さい。」
「…」
俺は言葉が出なかった。
「山崎部長さんにも、何か奥様に隠している事があるはずです」
「…」
「夫婦は話をする事。上面だけ良くたって駄目。喧嘩して、お互い思いをぶつけてみてはいかがですか?」
「私は小島を信じています。では、失礼します。元ヤンのおせっかい、すいませんでした」
「どうも…」
電話が切れた。
満さんはやっぱり元ヤンだったのか…
いやいやそこは重要ではない。
やはり清美と話すべきか…しかし自分にも不貞がある。
そうこう思っているうちに清美が帰ってきた。
「ただいま~遅くなってごめんね」
「お帰り」
「やだ、顔どうしたの…」
「あ、ああ、酔っぱらいに絡まれてな」
「ええっ!大丈夫?警察には…」
「いや、いいんだ。向こうも謝ってた」
部下の妻に手を出そうとして殴られたとは言えない。
「とにかく、冷やして!」
慌ててタオルを冷やしにキッチンに行く。対面のカウンターごしに清美に、
「今日は誰と会ってた?」
ついに俺は清美に聞いた。
頭の中で奥様と話合われては?という満さんの声が浮かぶ。
「お友達よ」
「嘘だろ?」
「…何で?」
「今日は見た。男と一緒だった。浮気だろ?」
清美の顔色は変わっていた。
俺は続ける。
「お前、小島と浮気してるんだろ?確かに見た。携帯に証拠の写真も撮った」
清美はキッチンから俺のいるリビングまでゆっくりと近づいた。
「違うわ。浮気じゃない」
「浮気だろ。友達だと嘘までついて…ほら、証拠」
俺は携帯を清美に手渡し小島と歩いている写メを見せる。
しかし、清美は静かに携帯をテーブルの上に置き、口を開いた。
「飯塚幸子、佐野美幸、田中よし子…今一番のお気に入りは早苗さんね」
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小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
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勉強する皆、すとぷり、アイドリッシュセブン、嵐0レス 31HIT 小説好きさん
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満員電車とアタシとイケメン痴漢37レス 1123HIT 修行中さん
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君は私のマイキー、君は俺のアイドル9レス 197HIT ライターさん
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タイムマシン鏡の世界9レス 229HIT なかお (60代 ♂)
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運命0レス 96HIT 旅人さん
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神社仏閣珍道中・改
(続き) 一位は地方によって呼び方が異なる木だといいます。 『…(旅人さん0)
350レス 12001HIT 旅人さん -
タイムマシン鏡の世界
研究所の議論始まった。ミクロ世界どうやって調べる。顕微鏡使ってもわから…(なかお)
9レス 229HIT なかお (60代 ♂) -
仮名 轟新吾へ(これは小説です)
私は1986年、1987年に 轟劇団?を見かけましたが、 【あなた…(匿名さん72)
210レス 3124HIT 恋愛博士さん (50代 ♀) -
満員電車とアタシとイケメン痴漢
会社を辞めようと思った理由 ①経営者側が◯◯ 彼等は会社の…(修行中さん0)
37レス 1123HIT 修行中さん -
私の煌めきに魅せられて
けっこうその言葉は心臓に刺さるぞ!?(瑠璃姫)
80レス 999HIT 瑠璃姫
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🌊鯨の唄🌊②4レス 148HIT 小説好きさん
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人間合格👤🙆,,,?11レス 165HIT 永遠の3歳
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酉肉威張ってマスク禁止令1レス 198HIT 小説家さん
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今を生きる意味78レス 538HIT 旅人さん
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黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 997HIT 匿名さん
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 148HIT 小説好きさん -
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 165HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 198HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1429HIT 檄❗王道劇場です -
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今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 538HIT 旅人さん
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