好きのカタチ

☆助手席のあなた☆


私は、車の免許を取るべくして教習所に通い始めた。


一ヶ月も経つのに、まだ一段階かぁ～、先は長いなぁ。

ため息がでる。


同い年くらいの子たちはワイワイ楽しんでるだろうゴールデンウィークだと言うのに、私は今日も教習所にいる。
悲しくなる。
せめてもの救いは、雨が降っているということ。

雨が降ってるから何もできないし、ここに来たんだ。と自分で言い聞かせる。

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雨は止みそうにない。

「おはようございます！」

「おはようっ。頑張ってね。」


事務のおじさんとは結構仲が良い。
渡された配車券を見る。


『18号車
　指導員：藤山準三郎』


うわぁ～、また知らない先生だよぉ。やだなぁ。




キ～ンコ～ン、カ～ンコ～ン。


教習開始のチャイムが鳴る。


18号車の前で先生が来るのを待っている。
教官室からは次々と教官たちが小走りででてくる。
眼鏡に小太りの教官。茶髪でワイシャツのボタン開け過ぎな教官。
いろんな教官がいる。



どの先生かなぁ～。



雨が降る中、急いで車へと向かう教官の中で一人だけ傘をさし迷惑そうな顔をしている教官がいた。


かっこいい人もいるんだぁ。
でも、あの人にはなりたくない。




そう思ったせいなのかその教官が18号車に向かって歩いてきた。どうやら、その人が　藤山先生　らしい。

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「よろしくお願いします。」

「はい、よろしくね。じゃあ、乗って。」



かっこいい人は苦手だ。かっこいいってだけで、緊張が何倍にもなってしまう。


ﾌﾞﾙﾙﾙﾝｯ。


エンジンをかける手が震えている。


先生の指示通り所内を走る。


………沈黙…………

「先生って家近いんですか？」

教官との気まずい沈黙をなくすため、毎回のように私はこう切り出す。


「あ～近いよ。国文の方なんだけど、本屋とかあるのわかる？」

「Ｔ路の先の？」

「そうそう、そこの近くだよ。」

「そ～なんですかぁ。じゃあ近いですね。」

「うん。」


原簿を見ながら先生が話し始める。

「奥村さん、もうすぐ二段階だね。早く外走りたいでしょ。」

「まだまだですよ。すぐエンストとかしちゃうし。」


なんともない会話。


この先生好きだなぁ。



そう思う自分がいた。


本当は気づいていた。
さっき、教官室から出てくる先生を見たときに感じた気持ちに。



生まれて初めての一目惚れ。

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「お疲れさま。なんか聞いておきたいことある？」

「いやっ、とくにっ。」



一時間の教習時間は、あっと言う間に過ぎた。



「ありがとうございました。」

「おつかれ。」



車から降りる。
先生のことをまともに見れない。
たったの一時間で確実に私は先生に恋をした。



心臓のドクドクが停まらない。

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今日もまた教習所に来ている。今日で一段階が終了する…おそらく。



初めて先生を見つけたあの日から、私は教習所が大好きになった。



教習を終えた先生とすれ違う。

その度に

「おっ！」

と言って手を挙げて声を掛けてくれる。
「おはようございます。」

自然と笑みがこぼれる。



先生となりたいなぁ～。



毎時間そう思っている。




配車券を見てみるとそこにあったのは、　藤山準三郎　と言う名前ではなかった。
毎回、凹む。


また、先生じゃなかったよ。
なんでぇ。先生がいいのに。



本当にガッカリだ。




担当の指導員が先生だろうと他の教官だろうと、ガッカリしようがしまいが、以外に運転は上手い。



無事に一段階が終了した。

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