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糸使いと異能マンションの住民たち

No.12 17/06/10 00:03
小説大好き5
あ+あ-

「刑務所!?そんなの魔界にあるのか・・・」
「うん。この世界に研修しに来た悪魔が是非って魔王にお願いしたらしいね。」
樹の驚きに満が答えた。
「それより。A&Bって・・・随分適当な名前ね。」
「うん、ただの呼び名であって、本名じゃないよ。」
「それ、どういうこと?」
賢一の言葉に、シルヴィアが訝し気に尋ねる。糸乃も気になって眉をひそめた。
「それについてはそこの悪魔くんの方が詳しいんじゃないかな?」
満は肩をすくめてイルラに視線を流した。心なしか、イルラの顔色が悪い。上級悪魔であるイルラはどんな姿にでもなれるが、今はシルヴィアに合わせて人間の姿をとっている。悪魔も顔色が悪くなるものだなと、妙な所に感心をしながら糸乃はイルラを見た。
「イルラ、大丈夫か?」
樹が不思議そうに尋ねたが、イルラは答えずに頭を抱えた。
「そんなに厄介な相手なの?」
糸乃が続けて問う。イルラは悪魔としてはトップレベルの魔力を持つらしい。そのイルラが頭を抱えるという事は、厄介なのだろう。案の定、イルラは呻きながら頷いた。
「双子の男女の悪魔だ。二人とも上級悪魔で、A&Bは幼い姿を好んでいる。思考も幼い子供のようで、物事が思い通りにいかないとかんしゃくを起こす。それだけならまだいいが、双子は調合の知識が多くて。かんしゃくを起こすと、決まって危険な薬だったり、爆弾だったりを仕掛けて破壊しまくる。A&Bの本名を誰も知らないのは・・・本名を知るほど近くにいた者はその爆発に巻き込まれて命を落としたか、記憶を失う薬を飲まされたかのどちらかだからだ。」
その説明を聞いた一同は押し黙った。シルヴィアは沈痛な面持ちで、騎士もゴブリンも、その雰囲気から重い空気をかもし出しているのが分かった。みんな、元々居た世界では死は常に生活に隣接していたようだ。糸乃や樹は特に親しい身内も無く、平和な国で過ごしてきた。今一つ、命を失うという事の重みが実感できていない二人は顔を見合わせて居たたまれない表情をしていた。
「あのさぁ・・・僕は暗い空気は好きじゃないんだよね。賢一、本題を伝えろよ。」
満がその場の空気を最初に破った。賢一は小さくため息をつく。
「本題?まだ何かあるの?」
シルヴィアの言葉に満は苦笑した。
「ただ警告するためだけにわざわざ急いで来ないよ。賢一が中々話さないから言うけど。君たちにはA&Bを捕獲してもらう。」

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