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No.29 12/07/04 00:25
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あ+あ-

そうだ、あの夜、チヨは「お別れよ」と言ったのだ。

「もう、終わりにしましょう」と。

なぜ?

彼女に出会うまで、何百年も一人きりで生きてこれたのに、その瞬間、僕は孤独を恐れた。

一緒にいてと言ったのは君なのに、どうして?

僕は、去ろうとする彼女を引き止めたかった。

それだけなのに、なぜ血を吸ってしまったんだろう?

この快楽をもってすれば、彼女を引き止められると思ったからだろうか。

それとも、やっぱり僕は、寂しいという理由をつけて、彼女の血を吸いたかっただけなんだろうか。

どうせ去っていくなら、最後に存分に吸ってやろうと、そんな投げやりな気持ちだったのだろうか。

誰かが何か叫んでいる。

……コウキ?



「コウキ!!」

チサトの鋭い声に、パンと叩かれたような気がした。

いや、もしかしたらまたビンタを食らったのかもしれないが、僕にはよくわからない。

吐き気がする、しかし、吐き出したいのは胃の中のものではなく、もっと胸の奥深いところにあるものだ。

それが叶わずに、僕ははあはあと酸素を伴わない呼吸をし、頭を掻きむしるように抱えたまま、その場にしゃがみこんだ。

コウキ?

ああそうか、それが今の僕の名前なのか。

息が苦しくて喘いでいたら、それがそのまま嗚咽に変わった。

君の前では、泣いてばっかりだ……。



僕らは身体を寄せ合ったまま、ベッドにいた。

アレをしないまま、ただ、猫のようにくっついていた。

「また、繰り返すんだろうな」

ぽつりと、僕は言った。

「そんなことは、今一生懸命考えたって、わからないよ」

彼女も、ぽつりと答える。

「怖いんだ」

「未来っていうのは、誰にとっても怖いもんだよ。だって、見えないんだもん」

でもね、と彼女が言う。

「何か一つ信じてみないことには、どこに向かえばいいのかわからなくなるじゃない」

――だから、とりあえずもう少し一緒にいようよ。

どうもそのお気楽な考え方に賛同しかねて、僕は目を開けて彼女の前髪を見つめた。

「命に関わるんだよ? 特に君は、もう少し自分を大切にしたほうがいいんじゃない?」

「そういう君もだよ」

そう答えると、彼女が目を開いて、前髪の下から僕を見上げた。

「私は、吸血鬼の殺し方を知ってるもの」

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