折れた百合の花

現在の日本は就職氷河期に突入した。
任された以上に仕事をするのは当たり前。
いつクビを切られるかわからない。
そんな時代に俺はいた。

去年大学を卒業し一流企業に就き、新人ながらもそのずば抜けた発想力と仕事に対しての積極的な態度を買われ新人社員の中では一歩進んでいるデキル男……はずだった。

• 共感0

去年大学を卒業した俺は就職する気なんてわかなかった。
親父が32年間勤めた会社でリストラされた。
ふざけんなよ 親父は何のために長い間働いてたんだよ。
働くってなんだよ！
どうせクビにされるんなら働く必要ねーよ。

俺はそんな思いから働くことなんて考えてなかった。
このまま家にいりゃあ生きていける。
親父と母さんがなんとかしてくれるよ。

• 共感0

親父は俺が働かない、と言ったら鬼のように切れた。
でも母さんは俺の味方だ。
「働く気がないなら仕方ないわ」

そう言ってくれた。
俺は今幸せだ。
辛い思いしてまで働かなくてすむ。
自分の部屋とゲームとパソコンがあれば暇なんて感じない。
母さんが飯を作ってくれる。
金は大丈夫。親父の退職金と貯金でだいぶある。
なんだよ… 俺 勝ち組じゃん！

• 共感0

と思いながらこんな生活をしてもう3ヶ月か。

ハァ… やっぱり頑張って就職すべきだったのかなぁ…


つまんねぇ……

「ヒロー！ご飯よー」
母さんが下で呼んでる。
そうだ。俺、ヒロっていうんだ。

内田博明（うちだ ひろあき）って名前だった。
……忘れるとこだった。

• 共感0

怖い……
俺、このまま感情も何も持たなくなっちまうんじゃねーか？

ふと、壁を見ると、一枚の写真があった。
男が8人で肩を組んで笑ってる。

あ…コレ 高校の時の…
サッカー部で、部員足んなくて色んな部活に声かけまくって、人数集まったけど結局試合には負けた…あの時の写真…。
みんな…どうしてるんだろう？
仕事就いて、頑張ってんのかな？

• 共感0

階段を走るように降りる。

「母さん！ 履歴書買ってくる！」

「えっ！？ ヒロ？」

母さんと親父は驚いた顔で俺を見るが俺は勢い良くドアを開け、外へ走り出した。

ゴメン　親父、母さん
俺、腐ってた。

とりあえずバイトから始めて俺もう一回あの頃みたいに頑張る！

やってやる！
いつまでも親のすねかじってる奴が勝ち組なわけねーよ。
今からでもまだ間に合う！

俺はあの写真を見て思い出した。

• 共感0

昔の俺を。

小学生から高校までサッカー一筋。
うまくなんてなかったけど辛かったけど頑張ってやってた。
中学でも高校でも部活は1勝もできなかったけどバカみたいに真っすぐ突き進んだ。

でもそれでも今よりもずっと楽しかった。
あいつらがまともに働いてるのに俺は…
そんな自分が嫌だ。

• 共感0

それをきっかけに俺は大学卒業後の堕落した日々から抜けだすことができた。
わずかに前に進むことができた。

• 共感0

今日もバイトか…
暑い日差しの下俺は自転車で坂道を登りながらバイト先の居酒屋に向かう。

コンビニに着くと俺は自転車を停めカギをかけ店に裏口から店に入ろうとしたその時だった。

• 共感0