富田さくら
『富田さん。中へどうぞ』
富田さくら22歳。彼氏はいない、結婚もしていない。社会人2年生の、暇とお金を持て余した、どこにでもいるOL。
そんな私が今いるのは産婦人科。
富田さくら…実話まじりのフィクションです。性に関して不快な点が多々あると思います…
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借金の理由…いざ聞こうとするが、将太を目の前にすると聞き辛い。
聞き出そうとして三日目、やっとの思いで尋ねてみた。
将太は、話が長くなる、と前置きし、話し始めた。
実家のすぐ近くで一人暮らしをしている将太。変わってるな、と思った。理由があった。
元々将太の父親は気性が荒く、物心ついた頃から暴力を振るわれている記憶しかないそうだ。おそらく自我がでてくる2・3歳頃からだろう。
中学卒業後、就職が決まって居づらい実家を出るため一人暮らしを始めるが、中卒の初任給じゃやり繰りは難しかったそうだ。
それでも食事を我慢し、ギリギリやっていたのに五年間貢献してきた会社からの裏切り。給料未納があり、親に頼れるわけもなく、少しだけ借りるつもりで消費者金融利用。
結局給料は20日過ぎても未納のまま。すぐに職場を変えたが、新しい会社だからといって給料が多くなったわけでもない。タダ働きした2か月の給料分借金していたが返す当てがない。
それでも毎月返済日はやってくる。返済用にまた借り、その場逃れを繰り返した。
'借金慣れ'とでも言うのだろうか…
将太の収入だと、一社につき五十万、三社ほどから借りれると知り、今までカツカツな生活からのストレスが爆発し、欲しかった車を中古で買い、食事や遊びも贅沢になっていき、今にいたるのだと。
将太はどうしようもないこの状況を、まるで人事のように軽く考えていた。
ところが、私と出会い、結婚を意識したが、今のままでは養えない、と、距離を置いている間相談所で整理したと言う。
整理した所で借金が減るわけではないが、高すぎる金利を法律に基づいた利率に戻し、このぐらいなら返済できるだろうという月額を決めて、いずれは返済が完了できるという手続きができたそうだ。
言い辛かっただろうが、そういった借金をした事のない私にわかりやすく話してくれた。
将太は今までどんな思いだったんだろう…
親に専門学校まで卒業させてもらった私には到底わかりっこない。
借金が膨れ上がった事は将太の責任だが、生活していくのにピンチが襲った時、近くにいる親に相談すらできないって…
父親の機嫌を伺いながら育った将太を思うと胸が苦しくなり、人の親だが腹がたった。
『3年で完済予定だから。ちゃんと生活できる程度で返済額設定してるから心配すんな』
将太はそう言う。
ギャンブルじゃなかった…私は将太を信じた。
この頃、私の預金通帳に200万弱あった。毎月2万、年2回のボーナス20万ずつ、預金を増やすにこしたことはない、と貯め込んでいた。
その預金で将太の借金を全額返してしまい、後は私に返すようにしてくれば利息の支払いをしなくてよくなるよ、と提案したが、さくらには関係ない、と、断られた。
でも、何か将太の役に立ちたいと思ったが、ずっと一緒に居てくれるだけで十分だから…と言われた。
すみませんが私もhiroさんのレス不愉快です。 他の小説でも注意されてましたよね。静かに見守るのも思いやりだと思います。この小説が終わった時にレスしてはいかがでしょうか。T様、話の途中申し訳ありませんでした。私もこれから静かに見守りますね😃頑張って下さい❗
📩富田さくらを読んでくださっている皆様📩
一括で申し訳ありません。
前にもレスで伝えましたが、読んでくださっている方がいてくれる事、応援してくださる方、本当に励みになりました。
実話に基づいてレスしてます。自分のその時の感情や思い入れも文に残していきたいので、完結後に感想を聞かせていただけると幸いです。
始めから本人のみレス可のスレにしておけばよかったのですが、気が回りませんでした😭
不快に思われた方、本当に申し訳ありません🙏💦
どうかこれからも完結までお付き合いよろしくお願いします。
どうせ返すなら利息がかからないほうが良い、私の預金は今すぐに使うお金でもないから…
万里子先輩はそんな将太を'良い奴'と言ったが、私にはただの意地っ張り、無駄なプライド、としか思えなかった。
そしてそんな私には'バカ'と言った。
将太と付き合いだして一年が経とうとした頃、私は将太の家の合鍵を渡された。
『どうせ毎日俺ん家いるんだし、あった方が便利だろ❓』
合鍵を渡された事で、将太に信頼されていると実感した。
嬉しいあまり、仕事を終えると直接将太の家に行き、洗濯や掃除、夕食作りをして将太の帰りを待つ、半同棲のような暮らしが始まった。
夜は実家に帰っていたが、まるで将太の奥さんになった気分で、すごく嬉しいし楽しかった。
初めての手料理は肉じゃがだったのを覚えている。
将太は感激してくれたのか写メを撮っていた。
料理本を見ながら、2人分の目安で作ったが、将太に全部食べられた。
こんな幸せもあるんだ…と、主婦の世界に片足突っ込んだ私は、料理を趣味とした。
仕事中にもかかわらず暇を見つけてはデスクに料理本を広げ、今日の献立を決めて買い物用に材料のメモを取ったりした。
そんな私に主任は軽くゲンコツをかますが、『主任は今日何食べたいですか~』とチクイチ聞く私の質問に毎回答えてくれた。どうやら主任も私の仲間に入りたそうだ笑。
そんな私のなんちゃって主婦生活も軌道に乗ってきた頃、仕事を終えていつものように将太の家に向かう。
鍵を開け、電気のスイッチを押すが、点かない…カチカチの紐を引っ張ってみるがやはり点かない。
電球が切れたのかと思い、外は薄暗かったが、そのままにしていた。キッチンでお米を研ぎ、ジャーにセットする。ボタンを押すがスタートしない…何で❓冷蔵庫を開けると、いつものヒンヤリする冷気が漂ってこない。冷凍室の氷も少し溶けかかっていた。
この家は呪われたのかと思い、外もどんどん暗くなるし、なんだか怖くなってベッドに潜り込んだ。
さほど霊感なんて感じた事のない私だったが、玄関の外に誰かいる…オバケ❓
『ガチャガチャ…ただいま~』
将太だった。
私は泣きながら将太の元へ行き、電気もジャーも冷蔵庫も壊れた事をつげた。
将太は気まずい顔をする。
『ちょっと待ってろ』
そう言ってまた出ていった。
一時間後、いきなりパチっと電気がついた。冷蔵庫の運転音も鳴り始め、もしかしてと思いジャーのボタンを押すとスタートした。
一体なんだったんだろう。
少し遅くなったが、夕食の準備を始めた。
『どこに行ってたの❓』
走ってきたのか、息を切らして帰ってきた将太。
『ごめん。電気代の支払い忘れててさ…』
だから電気点かなかったんだ…
納得したがすぐ疑問が出てきた。
支払いを忘れていたからといって止められる訳がない。私の母は昔光熱費の支払い用の通帳に入金し忘れていて、期限日までに間に合わせられなかった事を思い出した。
しかし、未納の通知が来て、それをコンビニに持って行けば支払える仕組み。決して止められるなんて事はなかった。
止められるなんて…まさか滞納❓
将太に尋ねると、
『金は持ってるから』としか言わない。
今日私が帰ってきてどれだけ怖い思いしたのか将太は知らない。
私はキレた。
『一体何か月払ってない❓電気代だけ❓家に帰ってどれだけ怖い思いしたかわかる❓しかも止められてたなんて…金融じゃなくても未納は借金と同じじゃない‼こんな惨めな気持ち初めて‼』
自分の家でもない、ましてやお金払ってもないのに、ついつい余計なことを言ってしまった…
でも、いつも強がってて何でも自分で解決しようとする将太に、もっと私を頼ってほしかった…確かに私はただの彼女で関係のない事なのかもしれない。でも、将太がお金に困ってるのに相談すらしてこない事がすごく辛かった。
方言丸出しで怒鳴る私を宥めるように、そっと抱き締めて『ごめん』と言う将太。
少し呆れたように笑ってたのが許せない。
私は日頃使ってる財布とは違う財布からお札全部引き抜き、未納分の支払いに当ててくれと頼んだ。
『それは将太のお金だからそれで返してきなよ』
将太は私が家でご飯を作るようになってから食費として月に二万ずつ私に渡していた。そのお金を使わずにとっておいた。
『いいのか❓』
よっぽどお金に困っていたのだろう。初めて受け取る姿勢を見せた。
その時の将太の機嫌を伺うような顔がたまらなく辛い。きっと父親に対して常にこんな顔してたんだろうと思った。
私はこれを期に、私もこの家で毎日夜を過ごしているから、と、食費は受け取らない事にした。
私がこの頃一番恐れていた事…おそらく将太の場合、整理した時点で消費者金融からの借入れは無理だろう。そうなると、利息がありえないくらい高い金融に手を出す事…私の中でのイメージではVシネマに出てくる、怖いけど人情身のある金融。でもあれは悪魔でもフィクションであって、現実はそんなに甘くない事くらいわかってた。
将太に気持ちを伝えると、
『大袈裟だよ。俺真面目に働いてるだろ❓もう延滞もしないから心配すんな』
出た‼将太のその'心配すんな'が一番心配なんだってば…
将太はギャンブルをしているわけではない。風俗に通っているわけでもないし、本当に真面目に働いて真っ直ぐ家に帰ってきていた。
いくら生活に見合った返済計画でも、やっぱり毎月の返済額は多く、少しでも油断すると何かが払えなくなってしまう…
そんな時は必ず私に相談してくれるように言った。そうしてくれれば心配はしないから…と。
渋々だが、将太は約束してくれた。
それから将太はお金が足りない時は相談してくれた。といっても毎回2・3千円の話だ。
こんな少ない額でも足りなければ何かを未納にする…それが積み重なり大きな借金となる…
生活していくって大変なんだと実感した。
足りない分は私が払うようにした。
それが本当にベストな行動なのかはよくわからなかった。
将太と付き合いだして2年が経とうとしている頃、私は生理が一週間遅れている事に気付いた。
私は生理が30日周期で来る。ずれたとしても二日前後、排卵日も排卵痛で知らせてくれ、とても分かりやすい体だった。
私の避妊は排卵日を避けてセックスするという事だけだった。
(しかし、これは間違った避妊法です。必ず妊娠しないという訳ではありません。妊娠以外にも性病に感染するなど、とても危険な事です。私の場合、抗生物質を飲めば完治するウイルス性のクラミジアという病気の感染だけで済みましたが、中にはその病気の再発を繰り返してしまう質の悪い性病もあります。私が堂々と言える事でもありませんが、コンドームを使用する事はとても大切な事です)
心当りがある…快楽を追求するばかりに、中出しする事があった。
妊娠したとしても将太との子なら産む‼という覚悟もあったが、いざ生理が来ないと不安でならない…
妊娠検査薬で確認する事にした。
今日は土曜日。検査薬を片手に昼から将太の家に一人でいた。
確か説明書には結果が出るまで少し待つ、と書かれてあったが、私の尿を掛けると同時にハッキリとラインが出てきた。それは妊娠しているという意味。
25歳になった年、少し肌寒い秋の出来事だった。
将太に電話で知らせる。
『マジ❓病院は❓』
『来週水曜日有給とってあったからその日に行く』
『はいはい』
仕事中の将太は早く電話を切ろうと急いでいたが、喜んでくれているのが声でわかった。
さぁ、どうしよう…25歳と言えど、私は将太を自分の両親にまともに紹介していなかったし、私は将太の両親にも会った事がなかった。
休みをどうしても取れなかったと平謝りする将太。多少不安はあったが、お腹の中にいるかもしれない赤ちゃんを早くエコーで見てみたいとワクワクしていた私は、水曜日一人で産婦人科に行く。
水曜日。私は朝一で診てもらえるよう、朝8時に産婦人科の前にいた。
診察は9時からだが、待合室には私のように朝一で診てもらいたいのか、お腹を大きくした妊婦さんが何人かいた。予約表に名前を書き、大きくてフカフカなソファーに座る。テーブルに置いてあったたまごクラブ。他の妊婦さんに'私も妊娠してるかもよ'とでも言いたいかのようにパラパラと読み始めた。
正直この時まではあまり実感がなかったのか、たまごクラブの内容はどうでもよかったのだが…笑。
『富田さん、中へどうぞ』
以前性病を治す為に通っていた頃と同じ看護師だ。この人の笑顔はとても素敵だったから覚えていた。
尿検査でも妊娠の判定が出たということで、エコーで診てもらった。
『これが赤ちゃんですよ。』
どれ❓よくわからないんですが…
写真を一枚もらった。その写真はエコーで見ずらかった赤ちゃんの姿がハッキリ写っていた。また一か月後に検診に来るよう言われ、会計を済ませた。
将太にはその赤ちゃんの写真を写メで撮り、メールに添付して知らせたら即電話があり、やっぱり急ぎ口調ではあるが、喜んでいるようだ。
この日、今まで1日1箱強吸っていたタバコを辞めた。
将太の家に帰る途中、コンビニでお昼ご飯を買うついでにたまごクラブを買ってみた。
その日、将太はいつもよりも早く仕事を切り上げ、6時に帰ってきた。
『帰りに本屋に寄った』と、たまごクラブを渡され、『私も買ってるし』と、将太に見せ、二人で笑った。
将太は急に改まり、
『俺と結婚してくれ』
プロポーズだ…
どこに隠し持っていたのか、小さな花束を差し出している。
慣れていないせいか、こっちが恥ずかしくなったが、『はい』と返事し、花束を受け取った。
でも私達には時間がない。すぐにこれからどうするか、話し合いを始めた。
将太が私の両親に挨拶に来る前に、自分の口から妊娠の報告をしたい。
その日は早めに将太の家を出て、家に帰った。
キッチンで夜ご飯の支度をしている母。
父はまだ帰っていない。
『お母さん、私妊娠したんだ。将太と結婚して産むから』
母は作業する手を止め、私がいるリビングまで来た。
『さくら、おめでとう。お母さんは嬉しいよ、もうさくらも25歳だし、将太君の話も聞いてた。そろそろかなと覚悟はしていたけど、さくら、順番が逆じゃない。お父さんが何て言うか…』
母は父の反応を心配しているようだ。
私も同じだ。母は父にどのように、どのタイミングで伝えればよいかアドバイスしてくれた。
大事な話だから父がお酒を飲んで帰ってきている時だけは避けなさいと言う。
その日、偶然にも父はお酒を飲まずに帰ってきた。
『お父さんお帰り。あのさ、大事な話があるんだ』
この時点で父は話の内容を悟ったようだ。
『風呂』
と一言。父がお風呂から上がるまでリビングで待った。
いつもより長い父の入浴時間に、だんだん妊娠の報告をしずらくなる。
緊張からか手に汗をかいていた。
やっと父がお風呂から戻り、私の向かいに座る。
『何や❓』
母がキッチンから見守る中、恐る恐る話を始めた。
『私、将太の子供を妊娠した。将太と一緒に育てていきたい。どうか結婚をお許しください』
いつも親に対して使わない敬語に違和感がある。
『いつかそうなるとは思いよった。半同棲のごたぁ真似しとって挨拶の一つもしてこん野郎にお前を任してよかとか❓』
父の方言はコテコテだ。聞き慣れているこの方言が、今日はすごく怖かった。
父の言う通りだ。
いずれ結婚を考えていたのなら、彼を知ってもらう為にちょくちょく両親に会わせておくべきだったんだ…
『ガキが出来たならしゃーない。許すしか選択はなかろうもん』
そう言う父に将太が挨拶に来る日を伝え、許してくれた事にお礼を言って自分の部屋に戻った。
将太に電話する。
『今度の日曜日、お父さんに時間とってもらったから』
『そうか。わかった。今日俺も実家で報告してきたけど、意外にも喜んでたよ。明日にでもさくらに会いたいって』
明日の夜、将太の実家に挨拶に行くことにした。
次の日、仕事を終えて実家に帰り、急いでシャワーを浴びる。
いつもとは違うナチュラルメイクに、スーツとまではいかないが挨拶に行くのに無難な服を母に選んでもらう。
『手土産はひよこを買って行くのよ~』
この辺じゃこういった挨拶の時の菓子折りはひよこが無難とされていた。
一度将太の家に行き、将太と一緒に実家へ向かう。
いつもと雰囲気が違う私をからかう将太。
でも私は緊張でそれどころではない。
『大丈夫だって』
と将太は言うが、将太の両親と初めて顔を会わすこの緊張感。何が大丈夫か解りゃしない。
家の前に着き、将太がドアを開けると同時に『こんばんは』と大きな声で言った。というか叫んだに近かった…苦笑。
『さくらちゃん❓初めまして将太の母です。さ、どうぞ上がって』
将太のお母さんは想像していたよりもたくましそうな女性だった。
リビングの入口には将太のお父さんが立って私を迎え入れてくれた。
私は将太に、両親の話を聞いた事がある。
'暴力'という一言で、とんでもない親を想像していた。
しかしその想像とは逆で、すごく優しそうなお父さん。話し方にも品があり、何故こんな人が子供に暴力を振っていたのか不思議でならなかった。
『さくらちゃん、これから将太をよろしくね』
『こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。』
私はテーブルから少し離れ、正座のまま頭を下げた。
将太の実家を後に、将太の家に帰る。歩いて20分ほどの距離だ。
『私、将太のお父さんもっと怖いイメージあったよ』
『年取って丸くなったんだろ。今は母ちゃんの方が強いしな。でもやっぱり俺は今でも親父苦手。』
そんな将太を見ると、胸が苦しくなる…将太は自分の実家なのに人の家にお邪魔しているかのようによそよそしかった。
そんな会話をしながら将太の家に着いたが、今日は緊張からか、ドッと疲れが出たのでそのまま実家に帰って寝た。
日曜日。今日は将太が私の実家に挨拶に来る日。
午後からの予定だが、父は前の晩酒を浴びるように飲み、起きる様子がない…
『さくら、お父さんね、昨日泣いてたのよ。結婚の理由が妊娠でしょ❓将太君の事もあまり知らないし、親としては心配なのよ。でも、お父さんはさくらが産むって決めたから無理に反対はしなかったの。願いはさくらが幸せになってくれる事だけなの。だから、さくらは絶対幸せになりなさい。』
『うん…。』
私は父の涙を知らない。多少亭主関白気味だったが、いつだって強くて頼りになる父。そんな父が私の為に涙を流してくれていたなんて…こんな急に嫁に行くなんて事して、親不孝もいいところだ…
そういえば将太と少し似てるかも…
そんなことを考えながら、キッチンからリビングで寝ている父を見つめていた。
午後2時。将太が家に来た。初めて見たスーツ姿に吹き出しそうになったが、父の手前我慢した。
父はいつの間にか起きていて、身形もキッチリ準備していた。
『さくらさんと結婚させてください』
将太の声がリビングに響く。
『おぉ。妊娠の事はもうさくらから聞いとる。これから大変だろうがさくらをよろしく頼む』
父の言葉に涙が出そうになった。
『おぃさくら、将太の浮気の一つや二つで実家に帰ってくるような真似すんなよ。それくらいの覚悟がないとつまらんぞ』
『…わかってる』
『それと俺はまだ将太の事何も知らん。いっぱい遊び来い、わかったな』
『はいっ』
将太は力強く返事した。
この状況で、父はそう言うより他はなかったが、本当は悔しくて悔しくて将太に殴りかかろうとしたのをグッとこらえていた、と言っていた事を後で母に聞いた。
私は絶対に幸せにならなくちゃいけない。
さくらが将太と結婚して良かったな、と思ってもらえるように…
その後、両家顔合わせをした。
父はこの席で、小さくてかまわない、式だけは挙げてくれ、と頼んだ。
将太のご両親も『もちろんそのつもりです』と言ってくれ、翌日から私達は式の準備を始めた。
初めての事に戸惑いながらもウエディング誌を買い込み、少しずつ話し合いをした。
急な式なので、親戚だけを呼ぶことにした。
会社にも言わないと…
主任に休憩室に来てもらい、状況を説明し、退職したいと言った。
『産休っていうのもあるんだぞ』
私が勤務する会社は出産後1年間産休が取れるという説明を受けた。出産後そんなすぐに働かなくても…その時将太の借金の事を思い出した。
『とりあえず退職はもう少し考えてみろ、一週間後にまた聞くからな。それにしてもさくらが結婚か…またえらい急すぎるな…』
そう言って、主任はまるで自分の娘が嫁にいくのか❓とでも言いたくなるくらい悲しそうな顔をしたが、申し訳ないが私はそれどころじゃなかった。
仕事を終え、今日も話し合い。私は将太に尋ねた。
『あのさ、借金の返済はどうなってる❓』
『…あぁ、子供が産まれる前には完済できてると思うよ』
その時私の預金は300万ほどあった。もし私が出産してしばらく専業主婦になっても、借金が完済していれば将太の給料だけでもやっていける、私の預金もあるし、十分やっていける。そう頭の中で考え、退職を決意した。
出産予定は六月末。臨月まで働けば六月のボーナスをもらえる。少しキツいかな…とも思ったが、主任には六月いっぱいで退職すると伝えた。
少しでも多くお金を持って嫁ごう。考えはそれだけだった。
式の準備も順調で、式場も決まり、二月の大安の日に挙げることになった。
ただ、私が不快に思った事がある。式の打ち合わせには必ず将太の母親が着いてくる。'お金を出すのは私達なのよ'と言わんばかりにしゃしゃり出てきては私の着るドレスまで決めようとした。
正直イライラしていた私は、将太に当たるようになっていた。
いったい何の為に式を挙げるのかわからなくなったり、やる気が無くなったりしていった。
私のそんな適当な態度が将太の勘に障り、とうとうキレた。
『お前何甘えてんだ‼お前の親父が式挙げろって言ったからしかたなくやってんだろ‼全部お前の親父のためだろ‼』
はぁ❓
無視する私に将太は限界だったのか、とうとう手を出した。
太股を思いっきり殴られ、ヒリヒリするのと同時に恐怖が襲ってくる。
いつも優しかった将太が怒ってる…私の太股を殴った…
将太は怒りからか泣いていた。
今思えばこれくらいで…って思えるんだが、当時、私はマタニティブルーってやつなのか、結婚すらしたくなくなっていた。
その後逃げるように実家に帰った私は、次の日もその次の日も将太からの電話に出なかった。
何度も謝りのメールがくる。着信履歴と受信ボックスが全て将太で埋まる。
恐怖でいっぱいだった…
その着信履歴の中に、将太の母親からの着信もあった。
何なんだよ…もう放っといてくれ…
あまりにもひつこく長くなる将太の母親からの着信に恐る恐るとった。
『さくらちゃん❓将太に全部聞いたよ。本当にごめんなさいっあの子キレたら止まらないところがあるの…でも後悔してるし反省も…私が必ずフォローしていくから結婚辞めるだなんて考えないで』
私は『はぁ』と態度の悪い相槌をうっていた。内心'お前にイラついてるんだよ'と思いながら。
私のお腹には赤ちゃんがいる。今さら結婚取り消しにできない事くらいわかってる。結婚しないといけなくなったのは私と将太の勝手な事であって、しゃしゃり出てくる将太の母も、式だけは挙げてくれと言った私の父も、誰も悪くない。悪いのは避妊しなかった私と将太。
私は歳の割にはまだまだ青かった。
私は室見川まで車を走らせた。洋介と別れたっきりだ。何年ぶりだろう…
洋介、元気かな…❓
私は洋介との例の待ち合わせ場所で待ってみた。昔は4・5分後に迎えに来てくれてたな…
私何やってるんだろう…
もし洋介が来たらどうする❓
どんだけなんだよ…と思いながらも洋介が来てくれる事に期待していた。
洋介は来なかった。
洋介が住んでいた部屋のカーテンが取り外されているのが見えた。
引っ越したんだ…
私は二時間ほどこの場所で体育座りをして、太陽の光でキラキラしている川の流れを見つめていた。
母に'血の繋がりが無い'と告げられた時。
皆だれもが経験があるだろう'イジメ'
小学校高学年、ターゲットを変えては集団で無視する。
そのターゲットになった時。
渉に好きな人が出来た、と振られた時。
このスレには書かなかったが、不倫経験がある。
40代の彼。セルシオで迎えに来ては高級ラブホにて、ねちっこい愛撫で私の体を満たしてくれた。大人の男性の魅力にドップリ漬かっていた頃、突然奥さんからの電話。初めて妻子持ちだったと知らされた時。
クラミジア感染。
私の中で凹む事はそれなりにあったが、なんとかなるさ、と、前向きになれていた。
でも…今回はやる気が出て来ない…マタニティブルーとマリッジブルーが合体したのか…このままじゃいけないのはわかってるけど…
『ひさしぶり』
…え❓洋介…❓
振り替えると、昔と何も変わらない洋介が立っていた。
『最後に逢えてよかった』
洋介は今年で35歳になるという。実家を継ぐ事になり、昨日引っ越しを終えて、明日実家に帰る所だった。
『もし今日私がここに来てなかったら二度と逢えなかったんだね』
『そういう事だね』
なんだか運命のように感じた。
それから一時間ほどお互いの今の状況をおしゃべりしていた。
『ママがそんなんだとお腹の赤ちゃん心配して泣いてるよ』
洋介は昔と変わらない優しい表情でそう言ってくれた。
『そうだね』
もう少し頑張ってみよう。人に話を聞いてもらった事でスッキリした。
『んじゃ、俺もう行くから…』
『…うん』
これで本当に最後と思うと少し寂しくなってきたが、私達は違う道を歩みだしている。
寂しいなんて言ってられない。
『元気で』
『君もね』
本当に本当に最後のお別れをした。
'さくらの親父が言うからしかたなく'というのがすごい気掛かりだったが、前向きに話を進めようということで和解した。
手を挙げたことを謝る将太。正直私の態度が悪かったのが原因だから、私も謝った。
そして前よりはしゃしゃり出てこなくなった将太の母親。相変わらず式の打ち合わせには毎回着いて来たが。
式場の相談所内の回りのカップルは2人だけで来ていて、親が着いてきている所なんてない。
こんな嫌な思いしないといけないならお金は私が全部出すよと言ったが、それは将太の父親が出すと言ってくれてるんだから、好意に甘えようだと。マジで意味がわからなかった。
そんなこんなで式も無事終え、私側の親戚からご祝儀をたくさん頂いた。
結納をしなかった事もあり、私は親からのご祝儀だけを受け取り、後は全部自分の親に渡すつもりでいた。
ところが、将太は'全額俺の親父に返す'と言いだした。私側の親戚からは全部で80万近くあり、それに対し、将太側は50万。
集まったご祝儀は全部で130万。それを全額持って将太は1人で返しに行った。
私の父は'式だけは挙げてくれ'
それさえ守ってくれたからさくらが結納の事なんて気にするな、と言ってくれたので、将太の行動に渋々目を瞑った。
将太の父親はそのお金を受け取らず、産まれてくる子供の為に使え、と言ってくれたそうだ。
そんな将太の父親にお礼を言いに行くものの、そのお金は私の知らない所で保管された。
何故かモヤモヤする中、私には預金がある、そんな余裕もあり、余り気にしないようにしていた。
そして六月末。出産間近。
会社はボーナスを受け取った日に退職した。
万里子先輩の時と同じ、私は大きな花束とプレゼントを抱え、職場を後にした。
少子化が進むこの時代。市は子育て支援に力を入れているのか、もともとそういう決まりなのかは知らないが、会社を途中で辞めたにもかかわらず、産前6か月は会社に在籍していたという事で社会保険からは産休手当てと出産手当て、計100万おりてくる予定。
私が仕事をしなくても金銭面ではまったく心配いらなかった。
そして出産。
初産だからか陣痛ばかり長く、なかなか子宮口が開かない…
姑は相変わらず…陣痛室まで入り込んでは背中を擦ってくれている私の母に対して自分の出産時のどうでもいいエピソード。イライラもピークに達し、私が陣痛室から出ていったくらいだ。
そんなことを繰り返し、やっとの思いで分娩室へ。立会い出産が禁止だったこの産婦人科に感謝し、私はやっと邪魔者から開放されたとリラックスを取り戻し、無事男の子を出産。
出産を経験された女性には言わなくても分かってもらえるだろう。こんなに感激で涙が止まらないのは初めてだった。
息子の名前は前もって2人で決めていたカッコイい名前を付けた。
ここでは偽名として第二希望だった'亮'とします。
もともと私と将太は顔が似てるってよく言われていた為、亮はどちらに似ているかはわからないが、たぶん両方に似ているんだろう。
可愛くて可愛くて、本当に目に入れても構わなかった。
初めての育児に戸惑いながらも、将太と2人で助け合っていた。
相変わらず姑は毎日のように我が家に来てウザイが…
だんだん気付いてきたが、姑はいわゆるKYな所があり、若干天然だ…べつに意地悪で私の邪魔をしているわけではない。私の為におさがりの洋服をくれたり、買ってきてくれたり、可愛いネックレスを『私とお揃いよ』なんて言ってプレゼントしてくれたりもした。そんな姑を思うと、邪険にするのが可愛そうになり、優しくするよう心掛けるようになった。
一見幸せそうな新婚生活。私にはどうしても納得いかない事があった。
将太の給料の事だ。
毎月将太名義の通帳に振り込まれるのだが、私はその通帳の在処を知らされていない。
その通帳からは光熱費や家賃などの公共料金がひかれていた。家計を見るのは将太になっていた。
生活費として月に三万渡されたが、とてもじゃないが足りない。
足りない分は私の預金通帳から引きだし、補っていた。
私はその現状に納得いかなかった。
もっと早く尋ねておけばよかった…私が馬鹿だった…
亮が2歳になろうとする頃、車を軽自動車に買い換えた事もあり、私の預金も残りわずかとなっていた。
残高が100万をきるまで、私は自分のお金だから、と、結構贅沢をしていた。
亮にかわいい洋服を着せたいと、格安ではあるがブランド服で固めたり、化粧品だって独身の頃と変わらず某メーカーのもので揃えていた。
そんなちょっとした贅沢…すごい後悔する事になるとは…
預金額が減る一方、私は将太に尋ねた。
給料はいくらなのか…
公共料金はいくらなのか…
三万円の生活費ではやっていけない…
私の現在の預金額…
疑問と現状をすべて話した。
『…ごめん。俺、いつかは言わないといけないって思ってた…でも怖くて言えなかった…』
不安の中将太は話しを進める。
付き合っていた頃の借金は将太の言う通り、亮が産まれる前に完済していた。
証明になる用紙も見せてもらってた。
しかし、その借金を返済する際、足りない時は必ず私に相談してくれとあれだけ強く言ってたのに、将太は私に嘘をついていた。足りない額は月に2・3千円ではなく、10倍。2・3万円足りなかったのだと。
皮肉な事に、もう将太は借りる事が出来ないと思っていた消費者金融。
キャッシングだのショッピングだのっていまいち金融との違いはわからないが、3社だけ借りれる会社があり、そこから借りては返済に当てていたそうだ。
今現在の借金額、計120万。結局全然減ってない…頭が青になった。
当時将太は私に本当に足りない額を言い辛かったのだろう…
生活できる程度で返済額を設定してもらったとは言え、将太は私と同じ歳でまだ若かった。流行の洋服も買いたい。友達と遊んだりもしたいし、私とのデート代、そこまではケチりたくなかったと言う…
私に嘘をついたのはどうせ変なプライドが邪魔したのだろう。もうお金に関して将太への信用は一切無くなった。
次の日、亮を保育園に入所する為の手続き方法を区役所に電話で聞き、近くの保育園まで書類を取りに行き、住民票をもらいに区役所へ行った。そして離婚届けももらってきた。
私は決心した。
働こう。
本当を言うと、
'三つ子の魂百まで'
亮が3才になるまで私の手で育てたかった。
そして幼稚園へ通わせ、一日四時間程度のパートでも始めようと思っていた。
現状を知った今、この夢は消えた。
今すぐにでも働かなくちゃ。
そしてこれからの家計は全部私が管理する。将太にはお小遣いとしてお金を私から渡す。
将太に告げた。
将太も賛成し、本当に申し訳なさそうに『ごめん』と謝った。
離婚届けは…本当は離婚する気なんてなかった。でも、この紙切れに頼る他方法を思いつかなかった。
『金輪際黙って借金したら別れる』
と、将太に離婚届けを見せた。
『わかってる。もう絶対秘密にしないから…』
もう一度だけ将太を信じたかった。
多少卑怯な真似をしてしまったが、効果は覿面だろう。
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