富田さくら

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2009/06/12 01:06(更新日時)

『富田さん。中へどうぞ』

富田さくら22歳。彼氏はいない、結婚もしていない。社会人2年生の、暇とお金を持て余した、どこにでもいるOL。

そんな私が今いるのは産婦人科。


富田さくら…実話まじりのフィクションです。性に関して不快な点が多々あると思います…

No.939789 (スレ作成日時)

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No.101

渉が指差す方には、華奢で色白な女の子と、その女の子に抱っこされている子供。

私を見て軽く会釈している。



『そっか~渉がパパにね~へぇ~』



なんだかテンションが一気に引いた。


祝福できる余裕がなかった。



タイミング良くエミの車が来たので『頑張ってね』とだけ言い、逃げるようにマジェの助手席に乗り込んだ。



『さくらさんひさしぶり~。何か雰囲気変わりましたね』



ひさしぶりなエミと喋りながら、渉に祝福の言葉もかけれなかった自分の小ささになんだか情けなく思えてきてならなかった。

No.102

『そーいえばさくらさん、智って知ってるッしょ❓』



智…❓何だったっけ❓


『だいぶ前の話なんだけど、あいつ、さくらさんの事'すぐ股開く女'って仲間内の男にヤれる女紹介するとか言いふらしてましたけど』



思い出した…ヤリ友だ…



『それで❓』



『それっきりさくらさんと連絡とれなくなったとか言ってましたけど…』



本当世間は狭い。智は確か市外の人間だったはずなのに…



『私そんな男知らないよ~』


嘘ついて誤魔化した。

エミは『ふ~ん』とだけ言った。

No.103

エミの車は埠頭で止まった。



『さくらさんちょっと待っててね~』



エミは車から降り、なんだか質の悪そうな集団の元へ走り出した。



なんか嫌だな…外を見ると、スポーツカーや、エミの車と似たような車がドリフトをしていた。



『さくらさ~ん、うちの彼氏がいるんスよ。さくらさんも一緒降りてきてよ』



え゛っ…と思いながらもエミの後ろから着いて行き、その集団の中へ入っていった。



人見知りからか…怖かったからか、私はエミの彼氏にだけ会釈し、集団から離れた。



磯臭い埠頭には、海の上に大きな船が3船ほど集まっていた。



私は海に浮かぶ船を眺めながらタバコに火をつけた。

No.104

エミ、ずっとココにいるつもりなのかな…❓なんか嫌だな…帰りたい…



そんなことを考えているとエミとエミの彼が集団から抜け、私の所に近付いてきた。



『さくらさん飯食い行こっっ』



エミの車に向かう途中、その集団の人達にジロジロ見られていたのがすごい嫌だった。
中に女が2・3人いたが、完全に私を睨んでいた。



『さくらさんすみません。実はあの中に智の女がいるんス。さくらさんは智の事知らないって言ったけど、アイツらはさくらさんの事知ってるし…男遊びもいいけど気をつけないとですね…』



は❓いつの話してんだ❓しかも智なんて名前忘れてたほどの男なのに…


こんな所に私を連れてきて偉そうに説教するエミに、すごいイライラしてきた。

No.105

『半年以上も前の話だよ❓智の事忘れてたし。好きとかじゃなかったし、別に今だに関係あるわけでもないから』



笑いながらエミに言った。



『ならいいですけど…』



エミは違う話題に切り換えたが、なんだかシコリが残った。




私達はファミレスに着き、エミとエミの彼氏が隣りに並んで座り、私は向かいに座った。
エミの彼氏の名前はミノル。このミノルがこれからの私の人生を大きく変えるキッカケとなってくれた。

No.106

ファミレスで、この3人で、一体何を話せと❓


とりあえずエミ達2人の出会いとか、何で付き合うようになったか、とか…そういう話題しか振れないから、2人のノロケ話を聞いていた。



なんか人の恋愛って本当純粋というか綺麗というか…輝かしく思える。幸せそうに話す2人を見て、おなかいっぱいになった笑。



『どうも御馳走さまでした。んじゃ、私もう帰るから』


そう言って私は'送るよ'と言うエミにいいからいいから、と宥め、タクシーに乗り込んだ。

No.107

家に着き、自分の車をとめている駐車場に向かい、車に乗り込んだ。


今日は渉が結婚していた事を知った。エミとミノルのラブラブぶりを見た。なんだか自分だけ独りで寂しくてたまらなくなった。



私はエンジンをかけ、車を室見川へと走らせた。あの男'洋介'を忘れたかったはずなのに…逢いたい。すごく逢いたい。もう二度と行くまいと誓ったのに。室見川に行きたくてしょうがなかった。



一か月ぶりの室見川。私はあの洋介の部屋から見える場所で座って待った。


こんなことをしても無意味なのに…


洋介が来てくれる事を期待して…

No.108

『ひさしぶり』



洋介は期待通り迎えに来てくれた。


両手を広げて。



もう前の彼女の替え玉でも何でもいい。この孤独感から開放されるのなら。



私は洋介の胸まで走った。

変わっていない洋介の優しい表情。すごく切なくなる。でも私は髪型も香水も変えてるのに、洋介は私を受け入れてくれた。




洋介の胸はすごく暖かくて、ホッとした…

No.109

手を繋ぎ、洋介の家まで歩いた。


ココに戻ってその場しのぎのように洋介に頼るような事しても、意味がないのはよくわかっているのに…


そう考える自分。


洋介は部屋に入るなり何も言わずに私を抱き締めた。



『君には本当失礼な事してしまったと思ってる。でも俺、どうしても君にそばに居てほしかったんだ。定期的に姿を表す君を見失わないように毎日窓から見てた。あの日からはもう来てくれないと思ってたけど、来てくれる事願ってたよ。ちゃんと謝りたかった。』



その謝りの言葉にも私を愛している証しは無い。


でも、もういい。こうやって洋介に抱かれるだけでホッとするのは確かだから…。

No.110

私の意味の無い恋愛が始まった。


私は髪型を元に戻した切った前髪は元には戻らないけど、チョココロネ部分にストレートをあてた。香水もTに戻した。


洋介はきっとこれから先、私を'さくら'として見てくれる事はないだろう。

せめて髪型と香りだけでも亡くなった彼女と同じにしてあげよう。


後ろからだと亡くなった彼女と似てるんだから。



エッチだって後ろからしかしない。



それでいいよ。


十分だよ。



一緒に居てくれるだけで私は独りじゃないと思えるから…

No.111

ある日、洋介が後ろから入っている時



『…美香…』


と呟いた。亡くなった彼女の名前だろう。



複雑な気持ちになったが、不思議と悲しくはなかった。



とうとう私の感情は腐ってしまったのかと思った。



洋介はヤった後すぐ寝てしまう。



寝ている洋介を見つめている時が一番好きだった。まるで洋介の寝顔が自分だけの物な気がしたから。

No.112

私の携帯はよく知らない番号からの着信がある。


ほとんどは取らない。
当時着信拒否機能が無かったのか…面倒でしていなかったのか忘れたが、取らなければ十分拒否できてるだろう、という考えだった。


ある日、友達へのメールを作成している最中に着信があった。



誰からの着信か確認する間もなく通話になっていた。



『…はい❓』



『あ~さくらちゃんだよね❓』



『誰❓』



『俺ミノルで~す』



『あぁ、エミの彼氏の…どうしたの❓』

No.113

エミはミノルと仲良しやってるのかと思っていた。


でもミノルはあの埠頭にいた集団とエミとの事で別れようと思っているくらい悩んでいたようで、集団とあまり関係のない人に相談したくて、エミの携帯から私の番号を勝手に調べたのだと。



ミノルは埠頭集団から抜けたいけど、エミはミノルに合わせるつもりが無く、ミノル抜きで毎晩のように埠頭集団と遊んでいる事に理解できないとか言っていた。



エミが居ない所でこういった話を持ち出されても何と言っていいかわからなかった私は、とりあえず'エミに言ってみるよ'と電話を切った。

No.114

ミノルとの電話を切ってすぐにエミの携帯に電話した。



『もしも~』



電話の向こうのエミはテンション高く、賑わった場所にいるようだ。おそらくまた集団と一緒なのだろう。



『さくらだけど。今ミノル君から電話あってさ』



ミノルとの電話の内容を説明し、とりあえずミノルとよく話し合うよう説得した。



『なに人の男とコソコソ連絡とってんだよ❓テメェみたいなヤリ○ンが説教してんじゃねぇよ‼ヤりてぇだけだろ。ダチの男寝とるような趣味の悪い事してんじゃね~』



…は❓何言ってんの❓


元々エミは口が悪かったが、人の話まともに聞かずにこんな悪口言う子なんて知らなかった。



『酷い事言う子なんだね』



そう言って私は電話を切った。

No.115

エミに電話する前までは、どうにか2人がうまくいくように思っていたが、エミにあんな酷い事言われた今、もうどうでもよくなっていた。



しばらくしてミノルに電話するため着信履歴を開こうとした時、ミノルから電話がかかってきた。



『さっきエミから電話かかってきた。さくらちゃんエミに何言ったの❓』



エミがミノルにどう言ったのかは知らないが、ありのままの会話をミノルに伝え、協力する気は無いと言った。

No.116

『そうだったんだ…エミはそう思い込むと絶対に聞く耳もたなくなる所あるんだよね。俺もう疲れた。エミはあの集団の中の男との噂もあるし…もう別れる』



ミノルは決心したようだ。私も別れたほうがいいと思ったから止めなかった。



『俺ってエミの何だったんだろ…』



電話の向こうで落ち込むミノルに純粋さを感じながらも



『所詮恋愛なんてそんなもんだよ。ハマるが負け。傷つくくらいならハマらないほうがマシだよね』



なんて冷たい言葉をかけてしまった。



それ以来、ミノルはエミと別れて寂しいのか、私に頻繁に電話してくるようになった。



別に嫌じゃなかったし、ミノルとの電話は結構楽しかった。趣味や仕事、今の生活の事、いろんな事を話すようになった。

No.117

『さくらちゃんって彼氏いないの❓』



ミノルに聞かれた。



『彼氏はいないけど男はいるよ~』


私は洋介の彼女ではない。でも、友達でもない。洋介の存在を表現できる言葉が見つからなかったから'男'と呼んだ。



『さくらちゃんってさ、男関係どうなってんの❓智の事とかもあったし…やっぱアレなの❓』



智の事に関しては昔の事だから話さなかった。


私はミノルに洋介との関係を話した。
私は洋介に亡くなった彼女の代わりとしてしか思われていない。でも私は洋介と一緒に居れるだけでホッとするからそれで十分なんだ、と。


初めて他人に話した。反応は気になったが、別に他人にとやかく言われる筋合いは無い、くらいに思っていた。

No.118

『へぇ~恋愛っていろんな形あるからね~』

ミノルは当たり障りのない言葉で返してきた。



『電話ばかりだと飽きるよね~今度さ、会わない❓』



今まで散々電話してきたのに別に会ってまで話す事ないだろ、と思ったが、『あ~今度ね~』と曖昧な返事をしておいた。



それからしばらくミノルからの電話は無かったが、最後の電話から五日後、


『明日夜8時にこの前のファミレスで会おうね』


と、連絡が来た。



正直会いたくなかった。もしエミに見られたら、『やっぱり人の男狙ってたんだ』とか勘違いされそうで嫌だった。



断ったが、ミノルは私が来るまで待つと言った。

No.119

待つと言ってるミノルを無視するのも酷だし、仕方なく行くことにした。
行くからには時間は守ろう。

8時丁度にファミレスに着いた。



『さくらちゃ~んこっちこっち』



一度しか会ったことのないミノルの顔をうる覚えだったが、あぁ、こんなだったな、と記憶がよみがえる。



ミノルが座っているボックス席にはミノル以外に男と女がいた。



『これら、俺のダチ』

あぁ、



人見知りがちな私は『どぅも』と小さめな声で挨拶した。



私は、友達の友達、とか、彼氏の友達、とかって何故か苦手だった。


合コンだったら結構オープンになれるのに…苦笑。

No.120

それどころかミノルですらあんまり面識ないのに…



雰囲気が悪くならないよう、笑いながら『この面子は一体どういう事❓』

とミノルに聞いた。



『まぁいいからいいから』


何がいいのかわからん。ミノルは私に彼らを紹介し始めた。


『コイツは俺のダチで将太、んでこの女は香織。よろしくしてやってね~』



なんだかよく意味がわからなかったが、とりあえず仲間に入れてもらった。

No.121

将太との出会い…現在から五年前の出来事。私はこの日の将太への第一印象を今でも鮮明に覚えている。


日頃は無口で硬派ぶってるだろ❓と突っ込みたくなるような将太。


初めて会ったこの日、さほどしゃべってもいないのに、別れ際照れ臭そうに私に携帯番号を聞いてきた。



それからはミノルと入れ替わりのように将太からの電話が絶えなかった。毎日かかってきてはいろんな話をした。


何と表現すればいいかわからないが、将太の物事の捉え方や、発想、将太の声から出てくるすべての言葉に嘘偽りがまったく無いのが伝わる。きっと生まれてこのかた嘘なんて一度もついた事ないだろうな、と思えるくらい将太は'純粋'だった。


そんな将太と電話で話すたびに、私の心まで純粋にしてくれているように感じた。

No.122

後で聞いた話だが、ミノルは彼女と別れたばかりの将太に女を紹介しろ、と言われ、香織と私を呼び付け、好きな方を選べ、と言わんばかりに将太に会わせたそうだ。


私はミノルに、彼氏は居ないと言ったが、洋介の話をしている。



しかも香織はミノルの事が好きで猛アタックしていた子だった。



ミノルはテキトーな奴だと判明した笑。



でも、そんないい加減なミノルに私は今でも感謝している。これからもずっと…。

No.123

『2人で会わない❓』


将太から言われた。



とくにためらう事もなく



『いいよ~』と返事をした。



土曜日の夜と言われ、一瞬洋介の事が頭によぎった。洋介の家に泊まりに行くつもりだったが、将太を優先した。


洋介とは会うのに約束なんてしない。今だに携帯番号も知らない。

私が洋介の部屋の窓から見える場所に行かない限り、会う事はない…このスタイルは洋介と出会ったころのままだった。



私は洋介への後ろめたさを少しだけ感じたが、将太と会う土曜日を楽しみにしていた。


小学生の頃の遠足の前夜のように…

No.124

まちに待った土曜日、私は昼過ぎに起き、シャワーを浴びてストレートの髪を念入りにブローする。


夜まで時間はたっぷりある。指先に短めのネイルチップを初めて付けてみたが、どうも違和感があり、全部取った。
メイクにも気合いが入り、マスカラを塗るのに10分間ほどかけた。



初めて2人で会う。気合いが入っているのを悟られないよう、ジーンズで行こう。



最後にTの香水をつけ、約束の場所まで電車で向かう。



10分前に着いた。将太は車で来ていた。



車の助手席側のドアをノックすると、不機嫌そうな将太の顔がコロっとニッコリ顔に変わり、ドアを開けてくれた。

No.125

私は無言で運転する将太の横で何を話そうか考えていた。


車内には私の好きなリルキムの音楽が鳴り響く。
いつか電話で私の好きな音楽を聞き出した将太。わざわざ用意してくれていたようだ。



『『どこ行く❓』』



2人同時に同じ言葉を発し、吹き出すように笑った。



『将太に任せるよ』



将太はまた無言になり、車を走らせた。



着いた場所はカフェだった。



店内は暗めの照明。インドをイメージしているのか、ガネーシャのような象の神様みたいなデカいのが建っていた。



向かい合って座る。電話での将太の声を今はリアルで聞ける。



将太の垂れた目は優しさを意味しているようだ…将太が発している渋い声はリラックス系の音楽でも聞いているようだ…将太がどんな事をしゃべっていたのかまったく覚えていないが、なんだか癒されたのは覚えている。

No.126

最初は無口だった将太。カフェを出る頃には電話でペラペラしゃべる将太と同じになっていた。



車は見覚えのある道を通る…


まさか…


『どこ行くの❓』


『室見川だよ‼知ってる❓』



やっぱり…あ゛~洋介にでくわしたくない…


『川よりも夜景が見たいな』


そう言うと、将太は車の方向を変えた。



ホッとしたが、なんだか大きな嘘でもついたかのような気分になった…

No.127

私は一体何考えているのか…この様子だと将太から告られるのも時間の問題だろう。



もし告られたらどうする❓断らない。でも洋介は❓もう逢わない❓それは嫌…



まぁ、告られてから考えるか…






少し軽く考えてしまってた。このときハッキリさせておくべきだった。



案の定三回目のデートで告られ、付き合う事になったが、将太にハマッてしまうのが怖いのか、余裕がほしいのか、私は洋介との関係も継続していた。



でも、将太と会う日を重ねるたびに、あんなに愛しかった洋介に会う事が億劫になり、自然と洋介に会いに行く回数は減った。

No.128

将太は一人暮らしをしていて、私は仕事を終え自分の家に帰り、将太の迎えを待つ。そして2人で将太の家に行く。毎日だった。


『俺、毎日会いたい』


正直ダルいと思った事はあったが、それでも将太と一緒にいる時間は好きだった。



こんな私なのに、一目惚れしたと言ってくれる将太は、私を大切にしてくれていた。



よく'愛されるよりも愛したい'とか歌われるが、私から一方的だった洋介との関係と比べると、逆も有りかなと思った。

No.129

クリスマスイブ。将太とは付き合って三か月目になる。



私はアクセサリーショップに連れられていた。



指のサイズを計るから、と、店員さんに様々な大きさの輪を指にはめられる。



そして『少々お待ちくださいませ』と言い、店員さんはラッピングをし始めた。



将太は前もってデザインだけ選んでいたようだ。



一見女ごときにそんな事しなさそうな男なのに、どれだけ私の事好きなんだ❓将太は私に接する一つ一つが丁寧だった。




『高いの買ってやれなくてごめんな』



車に戻り、さっきのアクセサリーショップの袋を膝の上に置かれた。



ラッピングしてもらっている時、ショーケースに並ぶ商品の値札を見たが、どれも3万円前後だった。給料もさほど多くはない、1人暮らしをしている将太にとっては大きな出費だっただろう。



ラッピングを綺麗に開け、筒状のフタを開けると、リングとネックレスのセットだった。

No.130

リングとネックレスのデザインは蝶で統一されていて、とても小さなダイヤが2粒づつついていた。




『それとこれ。』



小さな封筒を渡された。中にはメッセージカード。きったない字で『さくら、ずっと一緒にいよう』
と書かれていた。



将太は私のために慣れない事をしているのがすごく伝わってきた。


小さなダイヤの輝きも、きったない字のメッセージカードも、私にとっては2度と手に入らない超高級品に思えた。

No.131

夜はホテルのディナーに連れて行かれた。



将太は一体どんなマニュアルを見てきたのか❓


私はこんなオシャレな事は性にあわない。正直すぐにでも出たかったが、せっかくの将太の好意を無駄にはできない。我慢した。




ワインは不味い。出て来る料理、確かに美味しいが、食べ慣れていないせいか、'同じ値段出すなら回らない寿司屋の方に行くかな'とか思っていた。



今日はホテルの部屋をとってあると言う将太。もう限界。


エレベーター内で吹き出してしまった。


『ごめん。私こういうの慣れてなくて💦』


『だよな❓俺も。やっぱそうだよな。』


やっといつもの将太に戻った。



この日以来、将太は背伸びする事を辞めてくれた。


笑ってしまったけど…でも、本当はすごく嬉しかったんだ。

No.132

今までの私のセックスはどちらかというと受け身だった。が、将太とのセックスで、私は今までに無い自分が出てきていた。



'S'



とにかく将太に満足してもらうことに懸命になり、私に攻められている将太の様子を伺う。男の人の感じている声はたまらなくジンとくる。


将太の渋い声は特に最高だった。



そう思うことをずっと'M'だと思っていたが、友達に'それはSだよ'と言われ、初めて気付いた。

No.133

私を自由気ままにさせてくれる将太に対し、洋介はたまに強引なところがあった。
くわえている時、洋介は私の頭を目一杯動かす。えずく私を気にせずに。



昔はそれで良かったのだが、洋介との関係が億劫になっている今、噛みちぎろうかと思うくらい嫌になっていた。



偶然だった。洋介とコンビニまで買い物に来ていた。雑誌コーナーにミノルがいた。


とっさに洋介と繋いだ手を解いたが、バッチリ見られている。


ヤバい…将太にバレる…冷や汗とはこのことか、頭が青になった。


ミノルは他人のフリをしたが、次の日、ミノルからの着信。



『昨日のアレって例の男だよね❓』



私は将太に本当の事を打ち明ける決心をした。
このままミノルに口止めしてもらうこともできたが、将太は嘘が大嫌い。いつかミノルの口が滑った時、怒り狂うだろう。


そうなる前に、ちゃんと自分の口で伝えよう。

No.134

仕事を終え、自宅で将太からの連絡を待つ。


いつもは化粧を直したり、雑誌を読んだりして将太を待ったが、

今日は床に座り、将太に話す事をジッと考えていた。



何故だろう…自分でまいた種なのに、自分が傷ついているかのような苦しみ…


心臓がどんどん渇いていくかのような痛みが襲ってきた。



将太の車に乗り込み、いつもと変わらない将太の楽しそうなノリに私は愛想笑いで接することしかできなかった。

No.135

将太の家についた。


いつもは軽くハグをし、キスをする。


この日は私の様子で何を悟ったのか、将太は黙ってソファーに座った。


私と2人きりの時の将太は、そのタレ目が余計たれ、目が潰れるくらいに笑っている。


『話あるんだ。』


将太の顔は冷たく、何かを軽蔑しているかのような表情に変わる。


それだけで苦しくて泣きそうになる。



『ミノルに何か聞いてる❓』



『何を❓』



ミノルは将太に何も言ってないようだ。

No.136

話を始めた。洋介の事、洋介への想い、関係を今でも続けている事、言葉を詰まらせながらも、正直にすべて話した。



将太は、あいづちも打たず、無言だった。

冷ややかな表情が、怒りの表情に変わっていくのがわかった。




『それで❓』


将太は冷たく言う。


『……ごめんなさい』

『謝れとか言ってない。お前はこれからどうしたいのかって聞いてんだよ‼』



『洋介とはもう会わない。これからも将太と一緒に居たい』


『はぁ。あのさ、俺だってバカじゃないんだからさ、お前の態度見てて他にも男がいる事くらいわかってたよ。俺はお前に一目惚れしたって言ったよな❓それは俺の勝手だ。お前はそんな俺を拒まなかったよな❓だから俺はお前に俺だけを見てほしくて必至で今までやってきたんだ。それでお前は二股を俺にバラしてこれからどうしたいのかって聞いてんだよ。ミノルに見られてなかったらずっと二股してたんだろ❓バレたからって昨日の今日でその洋介と切れていいのかよ❓お前はそんな軽い付き合いするような女なのか❓』




言葉が出なかった。

No.137

将太の声は冷たかった。でも、言葉には私を愛してくれているという証しがたくさん詰まっていた。



『お前さ、もうちょっと自分を大切にしろ。自分もろくに大切にできない奴は他人も大切にできないんだよ』



将太の言うとおりだ…


それから将太は私を家まで送ってくれた。車の中で'しばらく距離を置こう。その間にじっくり自分を見つめ直せ'と言われた。


黙って頷くしかなかった。

No.138

このまま愛想つかされて一生将太から連絡が無いかもしれない…


三日、四日と日にちが過ぎていく中、将太からの着信やメールが無い携帯の開け閉めを繰り返し、反省よりも不安のほうが大きかった。





土曜日、私は洋介に別れを告げるため、室見川まで車を走らせた。



あのいつもの場所で洋介を待つのも今日が最後。

『おまたせ』


変わらない優しい表情の洋介。


繋ごうとしている洋介の手に気付かないフリをした時点で、洋介は心配そうな表情になる。


部屋に入り、後ろから抱き付く洋介に言う。


『私好きな人ができたんだ。彼を傷つけたくない。私、洋介に会うのが辛いんだ。もう来ないから…』


一瞬、抱き付く洋介の腕の力がゆるんだが、また強く強く抱き締められ、私の耳元で'ごめん'と一言呟く洋介。声が震えていた。

No.139

一気に罪悪感でいっぱいになる。


今まで洋介を必要としていたのは私なのに、洋介の気持ちなんて考えもせずに私は被害妄想に浸っていたところがあった。



洋介は私を、亡くなった彼女の替え玉として見ている。それをわかっていながら私は洋介に想いを寄せる。切ない恋物語のヒロインにでもなったつもりか…


キッカケは亡くなった彼女に似ていた事からかもしれないが、洋介は洋介なりに私の事をちゃんと'さくら'として見てくれていたはずだ。



その証拠に、私が突然現れるあの場所には必ず4・5分後には迎えに来てくれていた。



ただ似ているだけなら、そんな偽の世界に長々と付き合うわけがない。


'ごめん'を言うべきなのは私だ。

No.140

私はいったい今まで何をしていたのだろう…


自分勝手して人を傷つけて…'軽い付き合いするような女'将太に言われた言葉が身に染みる。



なんだか私以外の全ての人間が正しく思えた。





それから洋介とは本当に終わった。



将太と距離を置き、2か月がたつ。



将太からの連絡はない。



私は思い切って将太に電話してみた。



『あぁ、ひさしぶり』


無愛想な将太の声。
もしかしたら本当に愛想尽かされたかも…



『俺、お前に話あるから明日迎え行く』



きっと別れ話だ…


愛想尽かされたんた…


不安を通り越して諦めモードだった。

No.141

電話した次の日は金曜だった。


仕事を終え、家で将太からの連絡を待つ。



何言われるんだろう…
何言ったらいいだろう…
気分は最低だった。




将太からのワンギリ。迎えに来た合図。
カバンを片手に家の外に出て、将太の車に乗り込む。




『とりあえず俺ん家行くから』



ひさしぶりの将太の表情は、前回の冷やかとは違う。真面目な顔をしていた。

No.142

将太の家に着き、何から話そうか考えていた。


将太はソファーに座り、私に横に座れと言う。



少し離れて座った私の手を握った。




『俺さ、借金あるんだ』




え❓



今まで借金という借金は車のローンしかした事のない私は、『何か大きな買い物でもしたの❓』と返した。



『そうじゃなくて…金融。3社から合計150万。今まで返しては借りての繰り返しで元金が減る事がなかった。ちゃんと返していけるようにお前と距離置いてる間に整理してきた。』




正直将太が私に借金の話をする事の意味がわからなかった。



私は120万の車のローンを3年でくんでいて、もうすぐ返済完了する予定だ。



将太の借金も、私と同じで大した額でもないだろ、と軽く考えていた。

No.143

別れるか別れないかの瀬戸際だと思っている私はそれどころじゃない。



『それでさ、ちゃんと返済したら、お前と結婚したいと思ってる』


……え❓……



びっくりした。

この2か月間、まったく連絡が無かった事で、てっきり嫌われたのかと思っていた。



『私の事許してくれてるって事❓』



『許すもなにもお前俺と一緒に居たいんだろ❓この前は感情的になって冷たくしたけど、俺はその洋介とやらに勝ったんだろ❓』



予想してなかった展開に、なんだか頭が痛くなってきた。

No.144

『とりあえずお前なんでそんなゲッソリしてんだ❓』



2か月間、ずっと自分を責めていた。不安も混ざり、私は食事の後もどしてしまうという症状が出ていた。



身長165cmに対し体重53kg、胸とお尻にほどよく肉着きがあったスタイル。顔を隠してもうちょい胸あればグラドル体型だね、と言われ、'顔を隠せば'は失礼だろ、と思いながらも自慢だった体。今は6kg減り、不健康そうなヤツレスタイルになっていた。



『こういう場合、俺の方が辛いんじゃねーの❓』



そうだ。二股かけられた将太のショックの方が辛いはず。



とことん自分勝手だ、と、また自分を責めた。

No.145

『ま、お前は俺が必ず幸せにするから待ってろ』


将太は私と洋介のその後の関係に一言も触れず、ただ自分の考えだけを言って私を強く抱き締め、'飯食うぞ'と、宅配ピザのチラシを見始めた。



そんな将太に男らしさを感じ、まるで初恋のようにときめいてしまった。


将太には2度と嘘をつかない。ありのままの、偽りのない自分でぶつかっていかなきゃ将太には釣り合わない。そう思った。

No.146

初めまして。
ふと読み始めて、いつの間にか、ハマってました😄
さくらちゃんの今後の展開を楽しみにしています。
頑張ってね‼

No.147

>> 146 📩hiro様へ📩



応援ありがとうございます🙇💕


フィクションですが、実話に基づいていますのでこの先の展開は私は知ってます。
当たり前か…😥



このスレを見てくれている方がいる事、本当に励まされます💕


結末までうまく纏めれるよう、頑張ってまいります🙋



ありがとうございました😃

No.148

それから将太との交際は順調だった。



あまりお金を使わせまいと、ほとんどを将太の家で過ごしたが、二人で500円玉貯金をして、近場だが温泉旅行にも行った。



夜景が見える場所にも何度も連れてってもらったし、ホークス野球観戦、ペアチケットを知人にもらい、二人とも野球に興味なかったくせにファンにでもなったかのように応援した。

帰りの駐車料支払いの際、観戦時間三時間の駐車に対し、2000円という額に二人してブチ切れた笑。



将太は私の、昔の智との関係を誰からか聞かされた事があった。



将太は私を責めるどころか'さくらはそんな軽い女じゃない。俺は今のさくらを信じてるし好きなだけだ。'と言ってくれた。すごく胸が痛んだが、それと同時に'将太は私が幸せにする'と強く思うようになった。



将太が横にいて、目を潰して私に笑いかける…そんな楽しい毎日がずっと続いてほしい、それだけが私の願いだった。

No.149

『その借金の原因は何なの❓』



ある土曜日の昼、私は相変わらず万里子先輩の家にお邪魔していた。



最近やっと万里子Jr.が私に懐き始めた。私はJr.をあやしながら『そんなん知らな~い』と軽く返した。



『あんたね、結婚するつもりならちゃんと調べなさい‼借金の内容によっちゃ一生返済できない奴かもしれないんだよ』



何をそんなムキになってるのかと、クエスチョンマークが頭に過ぎったが、

万里子先輩は今の旦那さんの前に付き合っていた元カレにひどい目にあわされていた。

額までは知らないが、結構借金があり、返す気もない上、ギャンブルに使う金の為ならどんな嘘でもつき、万里子先輩からお金を騙し取っていた。

賢かった万里子先輩は気付いてすぐ元カレとキッパリ縁を切ったが、あの時の悔しさは相当なもんだろう。

そんな先輩が真剣に説教する。説得力があった。



『わかった。聞いてみるよ』



でも将太はギャンブルはしない。
私にせびった事も一度もない。
普通に働いているのに、何も大きな買い物していないのに…なんだか急に気になり出した。

No.150

>> 149 何やら、不吉な予感…
ドキドキ💦

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