スペースシャトル

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2009/05/15 13:50(更新日時)

結婚して夫と子供達と過ごす毎日

周りから見たら たぶん

どこにでもいる普通の女性


そんな女性の生い立ちから現在までを書いてみたいと思います


初めての挑戦なので、小説とは言えないと思いますが頑張って書いていきます

事実をもとにしていますが名前は仮名に、地名、地域は一部変えています

内容上、不快に思われる方はスルーお願いします
知識不足から間違いもあるかと思います

よろしくお願いします

No.938865 (スレ作成日時)

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No.1

皆さんは人や物、出来事に不思議だな、と思ったことはありませんか?


そしてもし、右と左、どちらに行くかで、人生が全然違うものになっているかもしれなかったら


これはある女性が、今と違う人生なら、私はどうしているんだろう。


そしてたくさんの後悔と、たくさんの感謝



そんな気持ちからのお話です


〔※宇宙やNASAは一切出てきません(^o^;〕

No.2

春はもうそこまで、という時期に一人の女の子が産まれた

杉本麻里

このまま時が過ぎていたら、私の人生は今と全く違っていただろう

今が特別不幸でもない

夫と子供に囲まれた、普通の生活だと思う

だけど少しだけ道に迷ったこともある

今を満足に思ったり、不満に思ったり

人生の折り返し地点

何十年か後に穏やかに過ごしていられるように、今までの私を見てみよう

No.3

私が一歳になるくらいの頃に、父親の転勤で生まれた北国から、ある地方都市に引っ越した

赤ちゃんの時だから、雪が降る場所にいたのは覚えていないが、アルバムを見ると私が雪の中で遊んでいる写真がある

当時父は公務員、母は専業主婦だったが、内職で服飾関係の仕事をしていた

父は一言で言うと真面目、政治、法律、スポーツ、趣味にいたるまで幅広い知識の持ち主で、何か聞けば必ず答えがくる人だった

もともと凝り性なんだろう
若い頃は国体に出ていたり、趣味もたしなむというより、つきつめてやる
とことんやるのだ

その趣味の一つ、写真も好きで、私の写真もたくさんあった

母は今思うと我慢強い人なのだろう
子供の時はあまり感じなかったが、同じ親になってなんとなくそう思う

No.4

この両親と巡り合ったからこそ、今の私がある


私は養女だった


母は再婚で、今で言うDVで前夫と別れた
その後、父と恋愛結婚したらしい

これにはびっくりした

両親と私は孫ほど年が離れているので、両親の時代ならお見合い結婚だと思っていたからだ

実際、私の写真よりはるかに多くの、母の若い頃の写真があることからも、恋愛結婚というのも頷ける

母は一度妊娠したが、病気のため出産できなかった
結果的にもう子供は諦めなければならなかった

No.5

きっとそんな両親を不憫に思ったのだろう
父方の祖母が養子縁組の話をもってきた


そして私は杉本麻里になる


今、実の母の名前は知っているが会ったことはない

今後一切会わない

これは養子縁組の時の条件だったらしい

ただ母は私が会いたいと思った時は…と考えていたそうだ

一人っ子のはずが、もしかしたら似たような顔の兄弟がいるかもしれない、と考えたことはあるが不思議と会いたいとは思わなかった

これは両親のお陰だろう
他の家庭と同じように、自分達の子供として育ててくれた、私への親としての思い

感謝しています

No.6

父の転勤で来たこの土地で私は今も暮らしている

小さい頃、よく両親は私を連れて出かけてくれた

動物園や観光地、海やプール、母の名前のついた船に乗って釣りをしたこともあった

年中は保育園、年長は幼稚園に通った

今でも覚えているが、保育園に行きたくないと大泣きの毎日、下駄箱でも母にしがみついていた

だからといって保育園が嫌いではなく、友達と楽しく過ごしていたし、幼稚園も楽しく行っていた

この頃、母の仕事関係から私をファッションショーのモデルに、という話が来た

ファッションショーと言っても、個人が作った服のショーをどこかの市民会館でやるというものだ

No.7

ここでも私はモジモジしていた
初めてだし周りは知らない大人達

わからないまま私は母が作ってくれた黄色い生地に白いフリルがたくさんついたワンピースを着た

何かの発表会で着るような感じの物だ

そしてやはり母が作った、オフホワイトのドレスを着たお姉さんと一緒にステージに立った

今思うと、ウエディングドレスのショーだったかもしれない

デザイナーのショーとは違うが、ショーのモデルという貴重な体験が出来たのも、杉本麻里だったからだ

No.8

その後、地元の小学校、中学校に行く

中学で初めて友達にシカトされた

理由はわからない

今と違い生徒数が多かったので、中学で初めて同じクラスになる子もいる

和美、雅恵、裕美もそうだった
私を入れた4人が同じ班になった

シカトはされたがそれ以外の嫌がらせはなく、ただ口を利かないだけ

クラスの他の女子と私は何もないので、その子達と普通に過ごしているうちに、班の別の子がシカトされ始めた

そうなるとお決まりの言葉

リーダー格の和美が

あの子が麻里をシカトしようって言ったんだよ
って言えば

そうそう、私は嫌だって言ったのにさぁ
と雅恵が続く

結局、その後私以外は順番にシカトにあい、最後はなぜか本当に仲良くなった

No.9

中学で私はある運動部に所属していて、同じ部の同級生の透を好きになる

透は他県からの転校生

もう一人の転校生の裕正もやはり同じ部活に入った

2人の転校生は、弱小校の我が部ではすぐにエース級

透はどちらかといえば恥ずかしがり屋で、裕正は目鼻立ちが良く女子からモテるタイプだ

同じ部の由佳里とは家が近いこともあり、クラスは違うが部活以外でも仲が良かった

由佳里は性格がはっきりしていて、女子には敵もいたが男子からは人気があった

私達は学校の帰りに、よく透と裕正の話で盛り上がった

No.10

そのうち由佳里が

私さ、裕正のことが気になってるんだよね

(きたきた!)

明らかにわかりすぎる態度から、由佳里が裕正を好きなのはわかっていた

いまさら何言ってるの?
私はそのつもりでずっと喋ってたよ

私がそう言うと

えーっ、マジ?
じゃあさ、明日裕正に付き合ってって言おうと思うんだけど、協力して!

(………はやっ)

こうして家に帰ってからも私達は電話で、それはそれは入念な作戦会議をした

麻里~っ、いつまで電話してるの、お父さん怒ってるよ

母からタイムアップがコールされ私達は電話を切った

No.11

この頃の私達親子は、どこの家でも大抵そうだと思う

思春期の子供と親の関係だ

私は自分が養女だとまだ知らなかったが、私は父とあまり話さなくなっていた

両親は決して口うるさくない

勉強しろとか、あれはダメとか言われた覚えがあまりない

私がやりたいことはやらせてくれたし、途中で辞めたくなれば理由は聞くが、私の意見を尊重してくれた

ただ、親としては言いたい事もあるはずで、気難しい面もあった父とは言い合う事が多くなった

どうやっても口ではかなわない私は、父を苦手に思ったのだ

私が嫌な態度だろうが普通にしてようが父は変わらないが、私が勝手にそう思っていた

こんな状態は高校ぐらいまで続く

No.12

そして、次の日の放課後
部活が終わってから由佳里は告白した

どうだった?と聞かなくても由佳里は満面の笑み

OKだったよ、なんかまだ信じられないよ~

良かったね!

その日は周りから怪しまれるほどのはしゃぎっぷりで家路に着いた

こういう話はすぐ広まる

翌日には、いつからとかどっちが言ったとか、私は他の子に聞かれまくった

由佳里を嫌ってるグループの中に、裕正を好きな子がいたらしい

ありがちな事だ

案の定、私はそのグループの子に色々聞かれた

私は由佳里が裕正を好きで告白した、と話した

No.13

少しすると由佳里のことは落ち着き、今度は誰と誰が付き合いだした、と話が尽きない

私が透を好きなのは由佳里も知ってたので

麻里も言いなよ!裕正にも協力してもらおう!

えっ?私は無理だよ~
透は私なんか全然興味なしって感じじゃん
自信ないよ~(>_<)

裕正は麻里が透のこと好きなんじゃないかって、私に聞いてくるよ

私だって言いたいの我慢してるんですけど


!!!!!!!!!!!!
それって少しは脈あり!?
!!!!!!!!!!!!


だからって透が私を好きだとは限らない

でも、単純な私は裕正にも協力してもらい、告白することになった

No.14

人生初の告白

緊張しない訳がないっ

だけど、突然呼び出された透のほうが、どう見ても緊張しすぎ!




ずっと透が好きだったんだ
付き合ってくれるかな?




うん




もう少しましな言い方があった気もするが、私はこれが精一杯

緊張しまくりの私達は、こうして付き合うことになった

No.15

ある日の部活中、私は凄く時間が気になった

その日は時計ばかり見ていた

家に帰ると母が



お祖母ちゃんが亡くなったから、明日から行くよ



そう、私を杉本家に迎えてくれたあの祖母だ

母方の祖父母はすでに他界していたので、祖父母と言えば父方だけだった

そして亡くなった時間


それは部活中に私が最後に時計を見た時間だった


不思議だった。
胸騒ぎや虫の知らせとは、こういうことなのか
本当にあるんだ

何年も後に、この胸騒ぎや虫の知らせという不思議な感覚をまた体験する

これによって私は今までの中で、一番どん底の気持ちを味わうことになる

No.16

私は祖母が大好きだった
毎年夏休みになると、東京に住む従兄たちと祖父母の家に行っていた

明治の女、そんな言葉がぴったりの人だ

祖父母はいつも着物を着ていた
着物のことはよくわからないが、2人共いつも洒落た格好をしていた

この時も養女だとは知らなかったので、孫で形見分けをする時に祖母の気づかいがわからなかった

女の子の孫が全員欲しがった物がある

誰が貰うか決めていると、祖母と同居していた伯母が言った


お祖母ちゃんが、それは麻里ちゃんにあげると言ってたよ


祖母は生前もめるのがわかっていて、伯母に私にあげるよう話していたのだ


お祖母ちゃん
今も我が家にあります
ありがとう

No.17

こうして祖母の葬儀も終わり、私は透や由佳里のいる日常に戻った

3年になり部活も引退すると暇になる

透とは毎日一緒に帰ってたし、電話で話したり
喧嘩することなく順調に付き合っていた

ある日、透の家で話していたら、なんとなく会話が途切れキスをした

恥ずかしがり屋の透は凄く照れていて、私も舞い上がってしまった


透とはキスだけだった


それ以上はタイミングが合わないというか、そういう機会もなかったからだ

No.18

そして高校受験も迫り志望校を決める頃、透から思いがけない話を聞く



俺さ、県外の高校に行くことになった
親父の転勤で隣の県に引っ越すんだ
だから向こうの高校を受験する



えっ?じゃあ私達、卒業までしか付き合えないの?


私は透の部屋で泣きだしていた

透は
引っ越しても俺は麻里のこと好きだから

毎日電話するから

だから別れるなんて考えてない



透の言葉に頷くしかない
親の転勤だから仕方ない

卒業式が終わっても引っ越し前日まで、透と私は毎日会っていた

No.19

私は家から一つ隣駅の高校
透は県外の高校に進学した


この高校受験がきっかけで私は自分が養女であることを知る

いまもそうなのかわからないが、当時は県立高校を受験するのに、願書と戸籍抄本を提出するのだ

このため書類を見た私は、両親の子ではないとわかった


母はいきさつを話した
お祖母ちゃんの話も


私は冷静だった

はっきり思ったことはないが、何となくわかっていたのだろう

知らない人から、いつもお孫さんですか?と聞かれていた母

私の写真は赤ちゃんというより、歩くぐらいの頃からしかないこと

そして両親とは全く顔が似ていないこと

全てがつながって納得したんだと思う

No.20

事実を知っても、私達親子は変わらなかった

両親も私に気をつかうわけではなく、怒る時は今までと同じように怒るし、悩んだ時は助けてくれた

だから受験も無事に済んだのだろう

透とは遠距離に勝てず、というのもあるが、私は高校でも部活を続けていたので、疲れて帰ると電話もしなくなった

私が強くなれば大きな大会で透と会えるかも

そんな気持ちもあったが、結局別れてしまった

なぜか透の高校の名前のリズムがいいのか、ずっと私の頭に残っていたのだ

これが数年後、あっと驚くことになるなんて

No.21

高校生活は好きな人もいたけど告白することもなく、友達とキャーキャー言って楽しい毎日だった

3年の時に同じクラスの白石君を好きになった

このクラスは本当に男女の仲が良く、白石君は中心グループの一人だった

白石君はあまり女子と話さないけど、男子からとても信頼されていた


同性から慕われる人に悪い人はいない


これは友達の宏子の言葉

この時に仲が良かった宏子、友代、香織とは今でも仲が良い

No.22

そのうち宏子が

白石君に言いなよ、卒業まで言わないつもり?
麻里は人の仲ばかり取り持って、自分はそれでいいの?


(いや、それは…嫌です)


麻里って彼氏仲間の間じゃ
アイツは信用できるのに、何で彼氏が出来ないんだ?

って言われてるんだよ



(褒めてる?けなしてる?どっちじゃ???)

(何でって言われても、言えないんですよ…)


確かに不思議と何かあると私に頼む人は多い
友達の彼氏はほとんどが、彼女達もそうだ

だけど、それとこれとは…なんて私が言おうものなら

○◇□△▽※🐶🐱🐌🐤🐧🐷

わかったよ

私はまた、精一杯言った

友達はありがたい…?

No.23

クリスマス前だったのでケーキを作って渡しながらの告白という、総勢4人の壮大なプロジェクトが発動された

私はお菓子作りの本を渡され、どれかを作って宏子達に判定してもらう

小さい頃からお菓子を作るのは好きだったので、初回から上出来!

まず両親に味見させた

甘党の父はペロリ
(ふふっ、ニヤリ)

翌日は宏子、友代、香織にも献上した

美味しく出来たね!
ラッピングはこうしてさ、
当日の待ち合わせは、


こうしてプロジェクトは順調に進み、いよいよ本番!


見事に成功しました



でも
白石君とはすぐに別れてしまった

付き合ってからのほうがぎこちなくなってしまい、友達に戻ることにした

No.24

確かに白石君とは友達のほうが合っていたようだ

その証拠に別れてからのほうが、彼氏彼女みたいと言われるぐらい仲が良かった

卒業式も終わり
宏子と私は東京の短大へ

友代、香織は地元どころか誰でも知ってるような大手企業に就職

白石君は東京の専門学校へとそれぞれ進んだ

卒業してからも私達はよく遊んだ

宏子は学校は別だが二人とも一人暮らしをしており、お互いの短大の新しい友達も含めて時々遊んでいた

地元にいた友代や香織も仕事が休みになると泊りに来た

当時は某ブランドの大きなバッグき某ブランドのスニーカーが流行っていて、私もそんな一目で女子大生とわかる格好をしていた

短大にも慣れてきた頃、合コンに行き始めた

  • << 28 はじめまして、ののと申します😄 訂正です✏ ブランドバッグき    ↓    ブランドバッグに です😅 昨日は前に日記で書いた部分を、💻みて(会社の😜)📱に加筆修正しながらやってました😅 なのに誤字脱字 スミマセン💦 これから麻里に起こる事を凄く特別とは言えない、と思う方も中にはいるかと思います 他にも同じ様な経験をした方はいるし、してない方もいます 小説にする程ではないかもしれないけど、麻里みたいな人生もあるんだと思って読んでもらえたら と思います

No.25

私が地元ではなく東京の短大を選んだのは、母の進めもあった

父と私は相変わらずだった

全然話さないのではない

ただ、お互いコミュニケーションが旨くとれなかったんだと思う

飛行機に乗るほど遠くに行くわけじゃないし!

一人暮らしに憧れていたのも事実だ

もともとマイペースな性格なので一人暮らしは快適だった

友達と遊んでバイトもして
毎日が充実していた

No.26

合コンに行っても私達は彼氏を見つけるというより、その場を楽しむ感じだった

そして白石君から合コンの誘いの電話がきた


専門学校の仲間が女子大生と合コンしたいって言うんだけど、メンバー集めてくれよ~頼む!

いいけど何人?

こっちは7、8人ぐらいかなぁ、来週なんだけど

無理かも…

皆に言っちゃったんだよ、短大生の知り合いがいるって
頼むよ、俺とお前の仲じゃん

どんな仲だっけ?私は振られた女だったよね~?

そんなやりとりをしながら場所と時間を確認して電話を切った

No.27

次の日、友達に聞くと見事に玉砕

バイトだったり彼氏と会ったり、みんな忙しい

私は宏子に電話して事情を説明した

じゃ、こっちの皆に聞いてみるよ

こうして私と宏子の友達の6人で行くことになった



今思えば、この合コンに行って、後々悲しい出来事があるなんて

この時は考えるはずもなかった

No.28

>> 24 確かに白石君とは友達のほうが合っていたようだ その証拠に別れてからのほうが、彼氏彼女みたいと言われるぐらい仲が良かった 卒業式も終わり … はじめまして、ののと申します😄

訂正です✏
ブランドバッグき
   ↓   
ブランドバッグに
です😅

昨日は前に日記で書いた部分を、💻みて(会社の😜)📱に加筆修正しながらやってました😅

なのに誤字脱字
スミマセン💦

これから麻里に起こる事を凄く特別とは言えない、と思う方も中にはいるかと思います

他にも同じ様な経験をした方はいるし、してない方もいます

小説にする程ではないかもしれないけど、麻里みたいな人生もあるんだと思って読んでもらえたら
と思います

No.30

>> 29 😲😲😲翔さん

ありがとうございます😌

読んでくださる方がいるとは思わなかったので💦

恐縮です

更新ペースはまちまちですが、最後まで頑張ります

いつか感想スレもたてるので、その時はお寄りください😄

No.31

この合コンは私と白石君が幹事だ

私は宏子の友達から“あねさん”と呼ばれていた
理由は? わからない

あねさんというほど、姐御肌ではないし、しっかりもしてなければ仕切りも出来ない

成り行き上、幹事は仕方ないか…私は諦めた

ただ、若い時は気持ちが、すぐ切り替わるのだ

私は合コンに着ていく服を買った

白石君に久し振りに会うのもそうだが、白石君の友達と会うのは初めてだ

きっと元カノって知っているだろう

白石君が恥をかかないように…そんな気持ちだった

No.32

白石君に恋愛の好きという感情はなかった

これはお互いに同じ気持ちだった

2人でいれば普通のカップルに見えるだろう

そこに恋愛感情や体の関係がないだけ

付き合ってた頃、私達は手もつながなかった

期間は1週間ぐらいだったし(笑)

だから仲間としての付き合いが本当に心地よかった

でも

やっぱり見返したい!

そんな気持ちも勿論ある

No.33

実は部活を辞めてから10㌔太ったのだ

もともとの体質と運動をしていたせいか、それまではあまり太らなかったが、これにはさすがに参った

短大に行くことなりダイエットをして、元の体重まで戻していた

電話はしてたけど卒業してから会うのは初めてだ
だから白石君には痩せて見えるはず

痩せた+化粧する=綺麗!
そんな図式が頭にあった

せっかく東京にいるんだもん!少しは垢抜けたはず!

典型的なお上りさんだ


そして

いよいよ合コン当日

私が宏子達と待ち合わせ場所に行くと、白石君が先に待っていた

No.34

おうっ!

久し振り~!
(もう飲んでるし!?)

少し早めに来て、男の子達は先に飲んでるようだ

私と宏子は白石君にたわいもない話を一気に話し、宏子が自分の友達を簡単に紹介して、私達は店に向かった




そして麻里の人生も


少しずつ


ズレ始めたのかもしれない



この日、宏子達に任せて私は行かなかったら

なにかが違っていたかも

No.35

若者が行きそうな居酒屋で週末のせいか店内は混んでいた

そして白石君の友達のところへ



これが

健二との出会い



それにしても
皆さん、緊張しすぎでは?

白石君の専門学校は共学だ

でも、女子大生という響きは、何かが違うらしい

とりあえず席につき、お決まりのカンパ~イ!

時間が経つにつれ、男の子も宏子達も楽しんでるみたいだ

メンバーの半分は彼氏彼女がいた
だからなのか、あまりギラギラした合コンではなくて、少しホッとした

白石くんと色んな話をした

専門学校の事や地元の話

途中で私は違和感を感じた

No.36

幹事だからか何も考えずに白石君の隣にいたけど

白石君は皆のところを回りながら盛り上げていて、席から離れていた

!!!!!

私、白石君としか話してないっ

話が盛り上がったのもあるが、他の男の子と話してないし、話し掛けられてもいなかった

白石君が戻ってきて

私、他の人と話してないんだけど…



えっ?



私の事、言った?



うん



幹事は元カノ

そう聞いて友達は気を利かせたつもりらしい

2人で会うならまだしも、これじゃ、楽しめないぞ

私はその場に立ち上がって言った

No.37

あの~

私が白石君の元カノだからって気を利かせてるなら、それはもう終わりね

せっかく来たのに、なんでコイツとしか話せないの~

それは俺のセリフだ(笑)

一瞬の間があって


席替えしようぜぃ

男グループの真一が言った
それから何度か席替えして隣に来たのが健二だった


はじめましてだね

ホントだよ~誰も話してくれないからさ。

白石の元カノって聞いてたから、みんな興味津々だったんだよ

興味なんかもたなくていいよ

健二が隣にいる間、私はドキドキしていた

結局、そのまま健二や隣の人と最後まで話していて、お開きになった

No.38

店を出て駅に行く途中
白石君が

健二と真一と次行くけど行くか?

いいよ

宏子も誘えるか?

聞いてみるよ

なんで宏子誘うのかなぁ
そう思いながら宏子に聞いてみた

宏子、次行ける?

いいよ!

そんな話をしながら駅に着き他の皆と別れた

少し電車に乗り、次の店に行った

そこでも私達は色んな話をしていた

トイレに行くと白石君が来て

真一が宏子のこと気に入ってさ、もう少し話したいって言うから
ごめんなぁ

宏子は高校時代からの彼氏がいる

白石君も彼氏と友達だ

真一君はみっくん(宏子の彼氏)のこと知ってるの?

宏子には彼氏がいるって言ったよ

だったら友達として


真一君はそう言ったそうだ

No.39

友達として…

私はなんだか信用できなかった
彼氏がいるのに合コンに
いくのが悪い

そうかもしれない、が…

(軽く見られてる!?)

私と宏子は夜遊びばかりしていたわけじゃなく、合コンも毎週行ってたわけでもない

宏子が合コンに行く時は、いつも私が一緒だった

これは宏子の彼氏
みっくんとの約束

みっくんも東京の大学に
通っていた

それに私とみっくんは親同士も知り合いで、お互い小さい時からの友達だった

そして高校の時の私の
役回り

きっとみっくんは私を信頼してくれていたのだろう

だから、行くなら麻里を
連れて行けよ!

みっくんからの指令だ

No.40

初対面で真一がいい人か悪い人かなんて、まだわからない

話していても楽しい

だけど

そう、祖母が亡くなった時に感じた


胸騒ぎだ


私は様子を見ることにした

トイレから戻ると特に変わった様子もない

ただ、真一は宏子とずっと話していた

私も白石君もいるから大丈夫だよね

そのうち宏子が私をチラチラ見るようになった

私は

化粧直ししよう!

こう言って宏子をトイレに連れ出した

宏子は
真一って、しつこい!

やっぱり…

真一は宏子を口説いていた

No.41

ひろこぉ~
ごめんっ

私は白石君に聞いた事を話した

そっか、仕方ないよ
白石君もそう言われたら、友達だから断れないよ

私達はもう少ししたら帰ることにした

私は宏子とみっくんに申し訳なく思った

白石君に小声でさっきの事を話した

白石君も謝っていた

そろそろ帰るね

私達は先に店を出た

なんかモヤモヤした

その日は宏子の家に泊まって、布団の中でも喋り続け朝方になってから寝た

私は健二が気になっていた

でも真一のこともあって、言いだせなかった

No.42

それから数日は短大、バイト、友達と遊ぶ

そんないつもの生活

だけど私の頭から健二が離れない


ある日私は白石君に電話をした


この前はお疲れ~

おぅ!元気か?
こっちこそ悪かったな

あぁ…真一のこと?
大丈夫だよ

お前痩せたんじゃねえの
メシ食ってるか?

(その心配ですか)
そう?惚れ直した?

それはないッ(^o^;

そして白石君は真一のことを

アイツとはあの後、仲間内で揉め事があってさ
俺も他の奴も真一と離れたんだ

理由は詳しく聞かなかったけど、なんとなく裏がある人のような気はした

そして私は聞いた

あのさ、健二って彼女いるの?

No.43

このウジウジモジモジの
私にしては、なんて大胆なことを聞いてるんだ!
今まで人に後押しされなきゃ出来なかった私が!

恋は偉大だと思った

私の質問に

健二?彼女いないんじゃないかなぁ

(よっしゃあ!)
実は健二と2人で会いたいんだけど、聞いてみてくれない?

なに、健二に惚れたか

私は黙ってしまった

言っとくよ

だけどアイツはモテるぞ
専門入ってから何人もアイツに言ってるし
みんな断られてるけどな

だから応援するけど、うまくいくか保証はしないぞ

はい?そんなに人気者なんですか?

うまく言えないが
なんか惹かれる
そんな人だ

男女問わず人気があるのもわかる気がする

No.44

数日後

白石君から電話で

いいってよ
頑張れよな

日にちと時間、場所を健二に決めてもらい、私達は会うことになった

それを宏子に言うと

麻里ぃ~凄いよ、偉いじゃん、自分で会う約束するなんて

まるで子供扱いだ

宏子は作戦会議に参加できなかったのが悔しかったらしい

まだ付き合うと決まってないのに、とても喜んでくれた

そして健二と会う日がきた

待ち合わせ場所に行くと、健二は先に来ていた

その場で軽く会話をして、食事に行くことにした

No.45

食事中も会話が途切れない

実は会う前まで
何話そう…
心配だった

ところが
いざ会うと何を話すか考えなくても自然と会話が進む

健二は面白い人だ

私をすぐ笑わせる

話のテンポもいいし頭の回転も速い

私はそんな健二にますます惹かれていく

よく考えれば、こんな性格で顔もそこそこ良く
成績も運動神経も良ければモテるのも当たり前だ

終電の時間まで駅の近くの公園に行った

ここでも健二は冗談ばかり言って、私を楽しませてくれた

私は焦った

言わなきゃ

言わなきゃ




今日は会ってくれて
ありがとう
凄く楽しかった

私………
健二とまた会いたい



付き合ってください

No.47

翔さん、ありがとうございます😄

忘れるわけないですよ✌

昨日は寝付けないのと、今日も私用で更新はあまり出来ないと思って、頑張ってみました😌

今が旬!の健二が出てきたので感想スレをたてます

ご来店お待ちしてます😉

No.48

よく考えれば会うのは2回目だし、お互いのことも、まだわからないはず

いきなり告白しても、普通ならうまくいくわけない

この時の私は、そんなのおかまいなしだ

誰かを好きになるって、出来ないことでもやってしまえるのだろう

そのパワーが強いほど、つらい時は更につらくなる

私が健二と出会ってそれに気付くのは、もう少しあとになってから


私が突然言いだしたせいか健二はびっくりしていた



俺からもヨロシク



健二は笑顔で言った

No.49

また冗談かと思った

信じられない

自分から聞いといて言葉が出ない

…………………

私は
本当にいいの?

健二が
本当だよ、冗談だと思った?
俺たち、もう付き合ってるんだよ



ありがとう



消え入るような声だ

すごく嬉しかった

透や白石君の時も嬉しかったが、全然違う

人を好きになってこんな気持ちになったのは、健二が初めてだろう

ホッとして力が抜けてしまいボーッとしてると



終電なくなるぞ



私が電車に乗るまで健二はまた冗談ばかり



おやすみ

おぅ!またな

私は電車でニヤけていたに違いない

明日、宏子に電話しよう



あっ。。。。。

No.50

肝心なことを忘れていた

私は健二の電話番号を聞いていなかった

健二もうちの番号を知らない



はぁ~



舞い上がってすっかり忘れていた

白石君にも報告するので、教えてもらうことにした

翌日は短大は休み

宏子に電話すると

麻里~麻里~×∞

何度も私の名前を言うだけ

お前ら何やってんの?

     !

みっくんだ

私は
ごめん、みっくん来てたんだね(笑)

コイツお前の名前しか言ってないし、なんか変なこと言ったのか

なんで泣いてるんだ?

わたしは泣いていない



     !



宏子は自分の事のように喜んでくれた

私はみっくんに事情を話した
真一のことは言わなかったけど

No.51

みっくんが一言

やっと
春が来たな

お前は~~~~~~
みんなでお前~~~
まったく~~~~~

今までの事を説教されてるみたいだ

宏子が2人 いるみたい
君達は似た者同士だね

宏子がかわり

今日は健二に電話したんでしょ?

私が忘れていたのを話すと

ばっかじゃないの
だいたい麻里は~~~

今度は宏子のスイッチが入った

一通り言い終わると

で?どうすんのっ

私は白石君にも言った時に聞くとからと、宏子に言った

それから白石君に電話で昨日のことを話し、私の番号を健二に言ってもらうことにした

No.52

白石君に言ってもらわなくても、私が健二の電話番号を聞けばいいのだが

自分からかけるより健二から電話がほしかった

昨日の自分が恥ずかしくて私から電話しても、うまく話せそうになかったから

その日の夜

待ってました❗
健二から電話がきた

健二は家族と住んでいた

両親と妹が2人

瞳と理恵だ

私が番号を聞き忘れたことを言うと、健二もあとで同じことに気付き、白石君に電話したそうだ

私からも同じ事を頼まれた白石君は

お前ら2人して(笑)、と

呆れていたらしい

No.53

健二の通う学校は授業がハードで、終わる時間も遅い

ゆっくり会えるのは週末

私もバイトしてたし、平日は健二の学校が終わってから食事に行ったりしようと約束した


2、3日して、健二の学校がある駅で私は待っていた

授業が終わったのだろう

一斉に人が駅に向かってきた

スゴっ!

夕方のラッシュ時間と重なって物凄い人の数だ

健二がその中にいるか、わからない

少しすると健二と白石君が来た



わりぃ、ずいぶん待ったか?

そうでもないけど、それより一斉に人がこっちに向かってくる感じだね

この時間はなぁ、大移動だもんな



3人で話してると



麻里ちゃんだ!



いきなり名前を呼ばれた

No.54

よく見るとこの前の合コンのメンバー

貴、将太、雅和、弘樹が来ていた



麻里ちゃん、この前はお疲れ!

うん、お疲れさま!

ここで何してんの?

………

俺たち付き合ってるから



は?

マジ?

いつの間に?



そりゃ驚くだろう

あまり日にちも経ってないし、私はあの日、店にいたうちの半分は白石君としか話してない



どっちから?

(聞くなよぉ…)



俺からだよ



私は思わず健二を見た

No.55

なんで黙ってるんだよ~

口々に質問やら文句を健二に言っているが、決して嫌味な感じでもなくじゃれあってるみたいだ

このメンバーは本当に楽しい

そして私は




私から言ったの




みんながこっちを見る

更にうるさくなった

健二が小声で
だから俺から言ったことにしたんだよ~



へっ



女の私が言ったとなると
こうなるのがわかっていたらしい

白石君も
お前は、と笑っていた

誰かさん達、4人組と同じだなぁ、とも言われた

No.56

健二たちが私や宏子、友代、香織の4人が集まった時と同じに見えるか?

同じだった

だから一緒にいると楽しいのかもしれない

健二が自分からと言ったのにはもう一つ理由があった

ちょうど真一が来たのだ

同じ学校だから、帰る時間が重なるのは当たり前だ

白石君も気付いていた

他のメンバーは背中を向けていて知らなかった

私も気付かなかった

No.57

真一と揉めてから、つるんでない



前に白石君から聞いていた

私も宏子の件で真一にいい印象は持ってないし、なんで?とか仲直りすればとも思わなかった

白石君も理由を言わなかったし、私もわざわざ聞かなかった

これは私の性格らしい

どちらかというと宏子は悪い意味ではなく根掘り葉掘り聞くタイプだ

私は大体の流れは聞くけど相手が言いだすまで深い部分は聞かないらしい

これが災いしてかどうかはわからないが、この時以外でも聞けば良かったと思う出来事にあうのだ

No.58

そして真一と揉めた理由

合コンの後に行った店で、真一が宏子ばかりかまうから、私がひねくれて宏子を連れて先に帰った

真一は白石君と健二に言ったそうだ

理由を知っていた白石君はそうじゃないと言ったけど、真一はあくまで私のせいにしたらしい

自分がうまくいかなかったのは私が邪魔したからだ、と

くだらない
ひねくれてるのは真一だと思うが

いつまでも言う真一に嫌気がさしたのだ

白石君が真一と距離をおいたのでまわりが理由を聞くと、真一はまた同じことを

白石君もあの日のことをみんなに言った

その結果が今の状態だ

No.59

だから、私からじゃなく、健二からと言ったのだ
これは、後から聞いた話

真一は根に持つ性格だった

私から、と言ったのを真一に聞かれていた

そんなこと考えてもいなかったから、私はただみんなの様子を見て笑っていた

健二!

女の人が健二を呼んだ

健二たちと同じクラスの
美奈だ

???

他のメンバーが私の前に立ったから、急に前が見えなくなった

健二が少し前に出た

ねえ、いつみんなで飲みに行く?

行かねえって言ったろ

なんで~
みんなも行くでしょ

無言…

あれ?そんな子いたっけ?他の科の子?

俺の高校の時のタメだよ

白石君が言った

No.60

さっき

この人

睨んだ?



ふーん、だけど何でここにいるの?



ヤバイ!

白石君の顔色が変わった
態度デカイ、体デカイ、声もデカイの三拍子
怒ると迫力があるのだ



俺が用があるから来てもらったんだよ
お前に関係ねえだろ



そうなんだぁ
なら、いいけど



(なんか………ムカつく)



じゃ健二、明日ね!

一難去ってまた一難とは
まさにこのことだ



今の人
健二のこと好きなんだ



みんなが私を見る

図星か?

みんな、わりぃ
飯食いに行くからまたな!

そう言って健二が歩きだした

No.61

嫌な空気が残った

私は健二を追いかけて



健二、あのさ

ん!嫌な気分にさせたな
ごめんな
飯食いながら話すよ

それは今度聞くから
なんかみんなに悪くない?

麻里のせいじゃねえよ
明日、俺から奴らに言っとくよ

ご飯、みんなも誘おうよ!

ん~、じゃ聞いてみっか



健二が聞きに行き、近くのファミレスにみんなで行くことにした

みんながした行動は、他の友達の彼女にも同じらしかった

みんなで守る
そして楽しむ



ファミレスでの様子は、というと………

みんなよく食べる、人の分まで食べる
それに、よくしゃべる

私はおかしくて笑いっぱなしだった

No.62

散々、食べて喋って気分がスッキリした

そして駅でみんなと別れた

私は健二に
笑いすぎて喉乾いたと言った

健二も同じだったので駅ビルのファーストフード店に入った

私はさっきの美奈のことを聞いた

美奈は健二を好きな子を目の敵にしていて、仲間と嫌がらせをしてるらしい

やられた子が健二に文句を言ってきたこともあるそうで、健二のことじゃなくても気に入らないとやるそうだ

だからだろう

さっきみんなが私の前に立ったのは

No.63

いくらなんでも皆があそこまでやるのは、今までを見てるからだ

美奈って人、相当嫌われてるんだな

私はアイスティーを飲みながら、さっきの美奈を思い出していた

敵意むき出しだったなぁ

健二が
白石にも礼しなきゃな

たしかに…

白石君が私を自分の連れってことにしたから、美奈は何もしなかったんだろう



さっき食べたばかりなのに健二はハンバーガーを食べていた



よく食うねぇ

食べるねぇ、だろ



またいつものようにくだらない話をしてる時




ん?
ん!!!




キスされた

唇が触るか触らないかぐらいの…

客もたくさんいる店内で
いきなりだった

No.64

お前、顔真っ赤だぞ



そりゃそうだ
キスなんて何年ぶりだ?

透以来だ

そのあと付き合ったのは白石君だから、付き合ったにならないかもしれないけど

久々にドキドキした

私は仲が良い男友達はいたけど、彼氏となると他の子より初心者マークだ

付き合ってれば普通の事に不慣れだった

店から出て駅のホームまでずっと手をつないでいた

緊張して手に汗をかいてないか気にしたり、ドキドキしてるのがわかってしまうんじゃないかと妄想族だ

今度会うのは週末

今日と同じ場所で会う約束をした

電車に乗ろうとした時

グッと引き寄せられ、またキスをした

電車に乗ってから、私は乗客に見られてる気がして恥ずかしくなり、他の車両に移った

No.65

家に着くと同じ短大の敦子から電話が来た

週末に敦子の知り合いと合コンがあるらしい

ごめん、予定入ってるんた
私は断った

麻里ちゃん行こうよ!
○○大学の学生とだし、
あっ、直哉知ってるよね?

知ってるけど、あっちゃん、直哉はやめときなよ

直哉は顔広いから、つないでるだけだよ
好きになったらバカ見るに決まってるしね

直哉は某有名大学のサークルの代表で、テレビに出たことも何度かある

敦子とご飯を食べに行った店に、後から直哉たちが来て敦子に紹介された

私には周りにちやほやされていきがってる人

そう見えた
はっきり言って嫌いだった

No.66

私はなんだかんだ理由をつけて断った

すると敦子が
もしかして彼氏できた?



うん



えーーーーーっ、いつ?



つい最近だよ



敦子もどちらかというと宏子タイプだ

長電話はいつもだが、更に長くなりそう

そんな気がしたので
今からあっちゃん家行っていい?

返事はもちろんOKだ

敦子のいるアパートは私の使う駅の隣で短大まで一駅
私は次の日の用意をして敦子の家に行くことにした

支度をしてると健二から電話がきた

女って何でこんなに長電話するんだ?

今日はあんな事あったからちょっと心配でさ、無事帰ったか電話すればつながらないし
ま、長電話してるってことは無事着いたってことか

心配してくれたんだ

No.67

健二は

お前変なこというなよ
いつも仲間とふざけてバカみたいとかさ

その通りだと思うけど

もっと、こう
紳士的とかなんかほめ言葉を言うとか

ない(笑)

んじゃ、俺も奴らに言っちゃおー
キスしたらゆでダコに変身したとか

!!!!!

抱きしめたら震えてた、とかバラしちゃおーっと

わかったよ(泣)
ほめときゃいいんでしょ、ほめますよ
ふんっ

わかればよろしい(笑)

言わねえよ、さっきのことは



俺だけが知ってればいいことだろ



嬉しかった



そして健二は
気をつけて行ってこいよ
あっちゃんによろしくな!
そう言って電話をきった

No.68

敦子の家では

年頃の女の子が恋の話をすれば、どうなるかおわかりだろう

翌日の授業は一限目からだった

二人とも爆睡

直哉のことはとにかく釘をさした

それから健二と私は、相変わらず学校の帰りに会ったり週末に会ったりしてた

付き合い始めて1ヶ月になる頃、健二から電話がきた

今日、麻里んち泊めて

はっ?急にどうしたの?
(ちっ、飲んでますな)


この日は仲間と飲んでいてそこが自宅より私のアパートに近かった

健二の学校から家と、私のアパートは正反対の位置にある

白石君が替わり

明日学校だから頼むな

と一言

店を出る前に電話するように言って電話をきった

No.69

私は焦り始めた

家に突然来るより

うちに泊まる

このことに焦りまくり、宏子に電話して状況を話した


覚悟しときな~(笑)


最後にこう言って電話を切られた

そう

私は

経験したことがない

この年でそうだからって、いけないわけじゃないけど

なんか恥ずかしく思った

白石君は当然だが、透とはそんな感じになっても親が急に帰ってきたりとか、なにかしらタイミングが合わなかったから

平日は健二は家でも勉強しなくてはならないほどだ

だから会ってもどこかに泊まることはしない

週末も同じだった

後で聞いたが、駅で真一や美奈と会った日、私がそういう経験がないのでは

そう思って我慢?というか、勢いでしちゃいけないと思ったらしい

No.70

飲み会がお開きになるまでまだ時間はある

テレビを見ながら呑気に洗濯物をたたんでいた私は、服を一気に片付け掃除機をかけた

一人暮らしでも自炊してたので冷蔵庫の中身は大丈夫

!!!
健二の着替え

当然男物なんかない

私の住む所から都内の大きな、誰もが知ってる駅まで電車で15分くらいだ

まだお店も開いてる

軽く化粧を直して買いに行くことにした

健二がよく着ている服の店に行き着替えを買い、他でスエットを買った

あ、パンツ

コンビニで健二の下着と歯ブラシを買って家に帰った
テレビを見てても落ち着かない



電話が鳴った

あと30分くらいで駅着くぞ
私は駅まで迎えに行った

No.71

少しして健二が来た



お前来てたのか?
俺が家まで行ったのに

(落ち着かなかっただけです)

あまり健二は酔ってなかった

これも後から聞いたが、酔った勢いになるのが嫌だったそうだ

途中コンビニでジュースを買った

この時、私は店内で雑誌を見ていて健二が買ったものを見ていない

アパートにつき、テレビを見ながらお菓子をつまみ、いつものように私はからかわれ時間がすぎていく

風呂入る

健二が言ったので私はさっき買った下着とスエットを袋から出した



ん?買ってきたのか?

だって私のパンツ履く?

そのつもりだったのに(泣)

と言って健二は私を抱き締めたわけではなく、羽交い締めしてお風呂に入った

No.72

健二がお風呂から出て私も入った

私たちはジュースを飲みながらテレビを見ていたら、バイト先の友達がテレビに映ってる

訳あって今の仕事をしている若い女の子を取材したものだ

えっ!

彼女はAVにでていた
すでに何本も

もっと驚いたのが、その子は健二と同じ高校だった
おとなしい子で健二は話したことがないそうだ

マジ!

二人とも軽蔑ではなく、ただただ驚いた

そのうち



沈黙



健二がキスをしてきた

私はまた震えていた
(らしい)

麻里、お前初めてだよな

何となく恥ずかしい



こうして私の初めては終わった

No.73

その夜は眠れなかった

さっきのコンビニで健二は避妊具を買っていた

私は気付かなかったから、いつも持ってるのかと思い健二に聞くと



いつ狼になるかわからないじゃん(笑)

狼より、あんたは猿だ(笑)



健二が初めての人でよかった

誰でもよければそれなりにとっくに済ませていただろう

あまり眠れないまま朝方になり、私は朝食の準備と洗濯をして健二を起こした

そして健二は先にアパートをでて学校に行った

その日も健二と会うため、私は健二の学校がある駅で待っていた



麻里ちゃん、久しぶり



真一だ



やだな



私はとりあえず



久しぶり



とだけ答えた

No.74

ここで何してんの~



ちょっと用があってね



この前もいたよね



驚いた
私は何度もここに来たが、真一を見かけなかった

当然、この前話を聞かれていたのも知らない



誰かと待ち合わせ?
友達?



真一はしつこい

宏子のことも、あんな短時間で好きで好きでたまらなかったとかじゃなく

私のせいで
やれなかった

ただそれだけ

それをすごく根に持っていた

早く健二か友達がこないかな、と思ってると



あれ?、真一もこの子と知り合い?



美奈だ



最悪



美奈も知り合い?



知らな~い
でもこの子、白石君の知り合いでしょ
真一が何で知ってるの?



白石なんかと一緒に飲んだからさ
ねぇ、麻里ちゃん



あーっ、ヤダ
早く二人とも消えて!

No.75

ふぅーん
そうだったの

美奈の言い方は不満げだ

また白石君待ってんの?


美奈の話し方はイライラする

私がキレそうなのを我慢してると



おまえら麻里になんか用か


健二たちが来た

私は
暴れなくてすんだ



何してるか聞いてるだけ

美奈が言うと

そうそう

真一も言った



わりぃけど、俺の女にかまわないでくれる? 



そう言って健二は私の肩を引き寄せた

真一も美奈も固まった

美奈は顔色が変わった
今にも泣きそうだ

そうだろう
美奈は健二が好きなのだから

美奈、行こうよ

一緒にいた友達が美奈を連れて行き、真一も改札に向った

No.76

麻里ちゃん、ごめん

貴だ

貴は補習でみんなは待っていたのだ

できの悪い子を持つと苦労するよ(笑)

健二はそう言うと

貴くん、今日はお前のおごりってことで



こうしてまたファミレスに行った

みんなは

よーし、食うぞ
貴、ありがとう
麻里ちゃんなんでも好きな物頼みな

ほんとかよ

貴も苦笑いだ

テーブルは皿だらけになった

そして数分後には空っぽ

健二が
貴、麻里の分頼むな

そして駅に行きみんなと別れた

ホームのベンチで健二は

これから俺が遅くなる時は誰か先に行かせるよ

うん

当時は携帯なんてないから、今のようにいつも連絡が出来ない

私は大丈夫だと言ったが、健二は心配だからとアパートまで来た

No.77

健二がついてきたのは、若さゆえの考えのほうが当然大きい

アパートから健二は自宅に電話をした

妹の瞳がでた

そのうち私に替われと言われたらしい

私がでると健二のお母さんに替わっていた

麻里ちゃん、ごめんね
うちのバカ息子が迷惑かけて

(いえいえ)

襲われそうになったらすぐ電話してね、連れて帰るから

(息子さん、もう猿になってます)

今度の週末遊びにおいで
買い物行こうよ
おばさんも女子大生と遊びたーいっ

なんとも明るい家族だ

うちも彼氏がいてもうるさくないが、なんせあの父親だ

さすがにここまでオープンではないだろう

No.78

それからは本当に幸せだった

この前の一件から健二が遅れる時は、必ず健二の友達が一緒にいてくれた

健二は真一と美奈
この二人が揃ったことで、


絶対何かある



そう思ったらしい

この頃、白石君によく相談していた





そして



新年も明けて数日した頃



それは起こった



健二のクラスで新年会をやることになったのだ

当然真一や美奈もいる

健二が思った通り
この二人は手を組んでいた

何もないわけがない

あれからずっとこの二人と何もなかったから、私も気にしていなかった



だからかな
もっと気にしていれば
よかったのかな



健二は
終わったらアパートに行くよ

私はいつものように部屋で待っていた

もう終電なくなるのに…



でも



健二は来なかった

No.79

次の日になっても健二から連絡はない

私は宏子に電話した



どこかで酔い潰れてんじゃない
あんまり連絡なかったら家に電話してみなよ



酔って寝てるならまだ起きてないだろう

昼過ぎになって健二に電話した



誰も出ない



私は他の家族は出かけていて、健二は寝てるんだろうと思った

夜中でも朝でも、電話くらいくれてもいいのに





出来るわけなかった





この時、健二は





美奈といたのだ





そんなことになってるなんて知らない私は

白石君に電話して健二から連絡がないと話した

No.80

白石君は



あーっ…



あいつみんなから麻里のこと言われて、気分良くなってさ飲み過ぎちゃってさ
酔って店で寝ちゃったんだよな

約束してるの知らなかったから、方向が近い奴に送らせたんだよ
かなり飲んでたから、まだ起きないんじゃねえの

電話しないほうがいいんじゃねえ



そっか、じゃ、仕方ないね


明日学校で俺から言っとくよ

白石君は





嘘をついた





白石君は飲み会には用があって行ってない

私はそれを知らなかった





私と電話したあと白石君は

健二に電話した



健二は電話が鳴るたび

私だと思って

ずっとでなかったらしい

ただ、あまりにもかかってくるし、私からなら昨日のことはなんとかごまかそう

そう思って電話にでた

No.81

もしもし…



健二か?



あー



昨日何があった?



そして私とのやりとりを話した
白石君は私たちが週末に、いつも会うのを知ってる

飲み会が終わったらアパートに来るのも健二から聞いていた



電話じゃ話せない



健二がそんな風に言うのは


良くない話だな



直感的に感じたそうだ

二人は会う約束をした



約束の時間

白石君が待ち合わせ場所に行くと

健二がいた



様子がおかしい



待ったか



いや、ゆっくり考えたくて早めに来たから



そうか
んで、昨日何があった?

健二は





俺、麻里と別れる





あいつらと何かあったのか





昨日





美奈と寝た

No.82

健二は覚えてることを話し始めた

最初はいつもの仲間と飲んでいた

お酒も入ってたからだと思うが
みんなが私のことを凄くほめてくれたらしい

白石君の嘘は偶然にもここまであっていた

盛り上がってるのを聞いてクラスの女子が話に入ってきた

美奈のような子もいるが、ほとんどは普通の子だ
健二も彼女がいるから他の女と話さないってわけじゃないから、そのままみんなで話していた



美奈がそれに気付いた



手に自分が飲んでいたグラスと健二のグラスをわざわざ持って



健二の彼女の話?
私にも聞かせて

女の子はその場から去った

健二は仲間に悪いと思い

行っていいぞ

目で合図した

美奈が話してきても無視

ムカついてお酒だけは進んだ

そしてグラスが空になると
もう、からじゃん
健二のも持ってきたんだからこれ飲んで

そう言ってグラスを渡した




薬入りのグラスを

No.83

そんな物だと知らずに
健二は一気に飲んだ

それを真一が見ていたのだろう

美奈に

これ余ってるから美奈にやるよ

グラスを置いていった

薬が入っているグラスを

美奈は
はい、これ

健二に渡した

健二は薬が入ってるとは思わず、それを飲んだ

そのうち目が回りだした

健二はあまりお酒が強くない

やべぇ、飲み過ぎたな

アパートに行くのに少し早めに抜けるつもりだったから、このまま出よう

仲間のとこに行き、会費を渡して店を出た

友達も私に会うのを知ってたから何も言わない

健二が店を出たのを見て

美奈も後を追った

真一も

飲み過ぎにしてはおかしい
健二がフラフラ歩いてると美奈が来た

飲み過ぎたんじゃない?

ペットボトルの水を差し出した

蓋の開いたペットボトルを

No.84

飲み過ぎたと思っていた健二はそれを飲んだ

頭がくらくらする

少し休もう

その場に座り込んだ

週末の繁華街だ
酔っ払って寝ても誰も何とも思わない

それを見て真一が来た



寝たか?



多分ね



二人は健二の両脇を抱えて歩きだした



ホテルに



部屋の前で真一は
じゃあな、せいぜい楽しみな

ありがとう、じゃあね



真一はホテルを出た



どれくらいたっただろう

目を覚まし、見回すとホテルの部屋だ

何でここにいるんだ?

健二は起きようとしたが
頭がくらくらして起き上がれない

目が覚めた?

美奈だ

何でお前が

麻里ちゃんじゃなくてがっかりした?

だって健二ったら道端で寝てるんだもん

No.85

困るんじゃない?

こんなこと麻里ちゃんに知られたら

ここから出なきゃ
でも体が動かない

アイツはこんな事でいちいち騒がねぇよ

美奈の顔つきが変わった

それが気にくわないんだよ
あんたら麻里麻里ってバッカじゃない

私のほうがあの子より先に健二を好きになったんだよ
私のほうがあの子より健二のことが好きなんだから

私の事、抱いて
そうしたら忘れるから

体に力が戻ってきた健二は帰ろうとした

このまま帰るつもり?
女の私にあんなこと言わせて恥かかせるの?

健二は相手にしないで歩きだした



このまま帰れば大事な麻里ちゃんがどうなるかな



もう健二に会えないようにボロボロにして返してあげる



健二は耳を疑った

No.86

美奈は
ただでやれるなら何人でも集まるんですけど

健二は
麻里は関係ないだろ

しばらく言い合ったりなだめたりしたが、美奈はきかなかった





健二は諦めた





麻里に何かあったら
それだけは嫌だった






そして





美奈を抱いた





美奈は



あの子と別れて
私と付き合う

明日学校に行ったら、皆に美奈と付き合うことにしたと言うように

それをしなければ

麻里を襲わせると健二に言った



お前、抱けば忘れるんじゃないのか



何言ってるの?
私を抱いてあの子を抱けるの?
それに私と付き合ってくれないなら、さっき言ったこと麻里ちゃんにするだけだから



はめられた



気付いても、もう遅い

そして健二は



麻里と別れよう



そう思った

No.87

話を聞いた白石君は
俺が行ってればお前一人で駅に行かせなかった

他の友達は仕方ないけど、自分は相談されてたから、もう少しどうにかできたかもしれない



健二は
俺が悪いんだ

いくら麻里のためでもやるんじゃなかった
麻里を守るなら他に方法があったかもしれない

でもあの時はあれが精一杯

このだるさも酒だけじゃない
たぶん薬が入ってたんだろう



美奈にやられた
二人は思った



実際に薬を入れたのを見たわけじゃない

真一もぐるだとはこの時はまだ知らない



本当なら麻里と別れたくない
でもすぐに美奈と別れれば言ったとおりにやるだろう



バカだ、俺



健二は泣いたそうだ



白石君は男が泣くのを初めて見た
今は何も出来ない
何も言えない


そう思った

No.88

健二は

頼むから
この事は絶対麻里に言うな
他の仲間にも
お前は何も知らないし聞いてない

麻里には俺から別れようと言うから

それだけ言って帰って行った

白石君はどうしようもないほど怒りがこみあげた

でも自分が何かすれば、麻里にも何かあるかもしれない

それは健二が悲しむことになる

このままじゃ麻里も健二もダメになる

だけど何も出来ない

麻里に話そうか

アイツの性格じゃ
事実は健二から聞いたほうがいいだろう

傷つくなら早いほうがいい
このまま付き合うのは無理がある

白石君は私に電話した

あれから健二と連絡ついたか

寝てたら可愛そうだからしてないよ

さっき俺がかけたらやっと出てさ
飲み過ぎてまだ気持ち悪くてまた寝るから、電話すんなって言われたよ

そう

そんな落ち込むなよ
明日駅に来いよ、健二にも言っとくから

わかった

私は電話を切って
泣いた

No.89

なぜかわからないが悲しかった

長電話しなくても、来なかったことを謝らなくても、電話してほしかった

白石君だって私に電話しとけって言ってくれてもいいのに



翌日駅にいると、健二の友達が来た

健二さ、先生のとこに寄ってくるって
もう来ると思うよ



すぐに健二が来た

わりぃ、ありがとな

ちょっと行くとこあるから明日な

みんなが行くのを見て

近くに公園があるんだ

そこ行こうぜ



健二も私も無言だった



健二はその日、美奈に私と別れ話をするから今日は帰れない

そう言うと美奈は
どうぞ

そして白石君には
公園で話すから俺が帰ったら私が一人にならないようにいてほしい

そう頼んだ



公園に着いて健二は





もう別れよう

No.90

私は訳が分からない



なんで?



お前さ、重いんだよ
俺が初めてか何か知らないけど、めんどくさくなった


俺、美奈と付き合うことにしたから



えっ?



飲み会で話したら、アイツなかなか可愛くてさ
意地悪するのも俺をそこまで好きってことだし

飲み会のあと、美奈とホテル行ってやったら、体も相性良くてさ



だからお前とはもう会いたくない



私は泣くだけで何も言えない



健二は
今度は俺みたいな奴じゃなくて、ましなのと付き合えよ

そう言って最後にキスをした

健二も泣いていたのを私は気付かなかった



健二が行ってから私は声を上げて泣いた



お前、ここで何してんだ?


白石君だった

No.91

普通に考えれば白石君が一人でここにいるなんて、おかしいのだが

私は散々泣き続け



健二と別れた



アイツはなんて?



言われたとおり話した

とにかく
これじゃ一人で帰れないな
アパートまで送ってくよ

そう言って駅に着くと白石君は

ちょっと待ってろ

どこかに電話した

相手はみっくんだ

私が一人は無理
そう思って宏子のアパートに私を泊めてもらいたい

白石君は宏子の連絡先を知らないから、みっくんに電話して頼んでくれた



宏子んとこまで送ってく



電車に乗り駅に着くと宏子が待っていた

あとは引き受けた!

宏子は何も言わず私を連れて帰った

何があった?
健二と喧嘩した?





別れた

No.92

私は宏子に全部話すと





最低





もう忘れなって無理か
今日のことだからね
でも時間がたてば段々忘れるよ

焦らなくていいから
気持ち切り替えるようにしよう

こうして健二とは終わった



人を好きになるのがすごい事だって教えてくれた
健二といると幸せだった



健二
ありがとう



次の日、自分のアパートに帰った私は、何もする気力がなくただボーッとしていた

短大も休み電話にも出ない生活が一週間ほど続いた頃、誰かがアパートに来た



麻里いるか?



父だ

短大から連絡がいっていた

連絡がとれなくずっと休んでる
出席日数や単位、成績も大丈夫だが、進級も控えてるしテストもあるから、学校に出てくるように

まさか父が来るとは思わなかった

それも一人で

No.93

お茶を入れると

何かあったか?
彼氏にでも振られたか

(何でわかるんだろう)

学校は続けるんだろ



何も答えられない
と言うか何も考えていなかった



とにかくゆっくり考えなさい
うちに帰ってきたかったらいつでも帰ってきていいんだぞ



父は



それだけを言ってすぐ帰っていった

心配かけちゃったな

でも、嬉しかった



母ではなく父が来たことがなんだか嬉しかった



私は次の日から短大に行きだした

敦子や他の友達もみんな心配してくれていた

みんなのおかげで前に進めた



父や母は口には出さないけど心配だっただろう



心配かけちゃいけない
頑張らなきゃ

そして、私は二年に進級できた

No.94

健二と別れてから久しぶりに白石君から電話がきた

二年になって健二は白石君と違うクラスになったそうだ

真一と美奈は学校を辞めていた

私にはどうでもいい事

お互いの近況を話して電話をきった

そして敦子から合コンの話が舞い込んだ

敦子のバイト先が一緒の浩二達から誘いがあったらしい

私たちは短大で仲が良かった4人で行くことにした

店に着くと浩二達がいた

隣同士の二つのテーブルに別れて、みんなで話したりカラオケをしたり

同じテーブルだった浩二は私の一つ上で高校でやった部活が同じだった

浩二は近県出身

それは中学で付き合った透が住む県だ

同じ県でも何百校もあるはず
透の高校名を覚えていた私は、まさか知らないと思って聞いてみた

No.95

○○高校なんて知らないよね

えっ

俺その高校だけど

は?えっ?

麻里ちゃんなんで知ってるの

あ、中学の同級生が引っ越してその高校に行ったから

へぇ~不思議
で、そいつの名前覚えてる?

私は浩二と私が同じ部活で透の先輩かも
一瞬そう思った

○○透って知ってる?

透の知り合い?俺の後輩だよ
今大学も同じだし近くに住んでるから呼んでやるよ



思わぬ展開



私は緊張してきた

何年も会ってない透が今から来る
それもこんな人の多い東京で再会するなんて



どんな顔して会おう



もう少ししたら来るって

浩二と透が来るまで

なんかすごいね
偶然てあるんだね

そんな話をしていた



そして透が来た



透!こっちこっち



目の前に透が来た

No.96

浩二が
お前、麻里ちゃんと知り合いなんだって?

麻里?

………………………

あーーーっ

麻里ってあの麻里だよな

そう
その麻里です

しばらく三人で話していた

そのうち浩二が席を移り、私は透と二人になった

いきなり呼び出されたからなにかと思ったよ

私もまさか透が来るなんて思わなかったしね



透が

お前



私はドキッとした



そして

髪伸びたか?



当たり前だ
会わない間に天然になったのか



なにそれ
きれいになったとか他にないの?(笑)


うん
きれいになった



素直でよろしい!



またドキッとした



恥ずかしそうに言う透の顔は昔のままだった

私は動揺してるのを気付かれないように必死だった



それから少し話していると



このまま二人で抜けない?


透が言った

No.97

私は戸惑った

透は真剣だった

どうしようか迷ったが、敦子に

ごめん、先抜ける

敦子は
後で連絡して



みんなに気付かれないように店をでた



透のアパートは敦子のアパートに近かった

途中でジュースやお菓子を買い透のアパートに着いた

男の一人暮らし

そんな部屋だ

それなりに片付いてる

買ってきた物を食べながら昔の話やこれまでのことを話していると

透は急に無言になった

私はいきなりその場に押し倒された



えっ?やだ



男の力にかなう訳がない



必死でもがいていると
透に殴られた

何度も



怖くなり抵抗できなくなった

透は



麻里、おとなしくしないときれいな顔が台無しだよ



恐怖



私が感じたのはそれだけ



そして透は私を抱いた

No.98

朝まで何度も続いた



私は健二のことを思い出していた

健二は行為の時も優しかった

透はただ性欲だけ



健二



助けて



来るはずないのに何度も叫んだ



心のなかで



そのうち満足したのか透は寝た

もう昔の透じゃない

逃げ出すにも体に力が入らない

体中殴られていた

されてる時は痛みも感じなかった



自分のバカさ加減に嫌気がさした

私何やってるんだろう



透が起きた



恐怖のあまり体が動かない

タバコ買いに行ってくる
逃げても無駄だから

その言い方に
体が凍り付いた

裸だった私は服を着た



透が帰ってきた



良かった、麻里が逃げないで
あ、それと勘違いするなよ

俺はレイプはしてないから

No.99

お前も承知で俺んち来たんだろ
だから俺は無理矢理やってないし

殴ったのはお前が言うこと聞かないから



狂ってる



今日から俺んちいろよ

えっ?

それに鏡見てみろ
それじゃ学校行けないよな

洗面所にいき鏡を見た

ひどい顔だ

外に出ればみんなジロジロ見るだろう



透の言いなりになるしかなかった

抵抗すれば殴られる

私の頭の中はそれだけだった

感情なんてなくなったみたいだった

結局、一週間私は透に監禁され心も体も限界だった



逃げなきゃ



私はある考えが浮かんだ

コンビニに行きたい

私がそう言うと透は

俺が行ってくる
何買うんだ

ナプキン

は?

そろそろあれになりそうだから

仕方ねえな
10分で戻ってこいよ

私はカバンを手にし外に出た

賭けだった

No.100

もちろん、まだあれになるわけじゃない

途中で何度も振り返った

透はついてきてない

コンビニから敦子に電話した

お願い、出て…

敦子は時々、単位にひびかない程度に学校をサボる

その日は授業があったが
とにかく敦子に電話した





もしもし





寝てたらしい



敦子



麻里?



今から敦子んち行くから



私は電話をきり、敦子のアパートに向かった



透のところから近いはずなのに、すごく遠く感じた



敦子の部屋につき何度もチャイムを鳴らす



お願い、早く!



麻里!



私は転がり込んだ



鍵閉めて!
誰か来ても絶対出ないで!



叫んでいたと同時に涙が出た



助かった



私はそのまま廊下で寝てしまった

No.101

透がその時、どうしていたかは、わからない

もう二度と会わなかったから



どのくらい寝ただろう

布団がかけられてた

麻里、シャワー浴びてきなよ

ずっとお風呂も入っていない

ありがとう

私は何度も体を洗った
皮膚が真っ赤になるくらいに

コーヒー飲も





敦子
あのコーヒーは今でも一番のコーヒーだよ





何があったか話せる?



私は敦子に、あの日、店を出てからの事を話した



敦子も聞きながら泣いていた

私たちが店を出た後、みんなは二人で出たと言ってたらしいが、敦子が私は急用で先に帰ったと言ってくれていた

警察に行く?

そんな事、考えもしなかった

だけど私は行きたくない、とだけ言った

警察に行けば、また話さなくてはならない

思い出すのも嫌だった

そしてしばらく敦子の部屋に、居させてもらうことにした

No.102

その日はそのまま寝てしまった

安心したのか、宏子が起きたのも気付かないで、昼過ぎまで寝ていた

テーブルに手紙がある



麻里へ

短大に行ってくる
事務にはもう少し休むって伝えとくね!

起きたら好きに部屋使って



有り難かった



私は短大のことなんて、すっかり忘れていたのだ

健二と別れた時のことを思い出した

また実家に連絡がいっただろうか



どうしよう…



健二と別れた時
父は10分もアパートにいなかった

それだけの時間のために、電話じゃなくわざわざ何時間もかけて来てくれた

心配かけたくない

とにかく実家に電話してみた





もしもし





あ、お母さん



麻里、ちゃんとご飯食べてる?



うん



短大休んでるの言われたらどうしよう…

No.103

あ、そうそう
夏休みは帰ってくるの?



あー、うん
近くなったら電話するよ



なんか送る物ある?



ううん、ないよ



たまには電話してきなさいよ



わかった
じゃ、またね



母の様子だと短大を休んでるのを知らないようだ

それもそのはず

敦子が短大の事務に私が休んでる理由を言ったのだ

親の実家の方に用があり、両親と一緒に行ってるから少し休む

これなら実家にも連絡はいかない

敦子もよく考えたもんだ

敦子は
浩二達と合コンの日、連絡すると言ったのに私から連絡がない

透と一緒なのを知っていたから、そういう事になってるんだろうと思っていた

翌日、私が短大を休んでも気にしなかった

2、3日過ぎても私は休んでる

おかしいと思ったから、この前のこともあり、先に短大に手をうったのだ

No.104

敦子はバイト先で、浩二からある話を聞いていた

合コンから数日後、用があって透のアパートに行ったら留守だった

透のバイト先にも行ったけど、何日か前から休んでると言われた

まさかこんな事になってると思わない浩二は
透が熱でも出して、どうせ寝てるんだろうと言っていた

敦子はその話を聞いて
あの日、私たちはうまくいって一緒にいるんだと思った

だからうちの電話が留守電のままでも怪しまなかった



そして同じ頃、宏子からも電話がきていた



何十回も



私が透の部屋にいる間、宏子と食事に行く予定があったのだ

約束の時間になっても私は来ない

家の電話は留守電だったから

麻里、遅刻だ

いくら待っても来ない

宏子はアパートに帰った

No.105

それから何度かけても留守電のまま
毎日連絡がつかない

おかしいと思って宏子は私のアパートまで来た
何度チャイムを鳴らしても出ない

連絡もなくアパートにもいない


携帯なんてまだない時代だ

連絡の取りようがない

宏子はそのままアパートに帰った



その日は授業が終わると
敦子はまっすぐ帰ってきた
普段じゃ絶対あり得ないことだ
それだけ心配してくれていたんだろう

私は敦子に他の友達には、言わないでほしいと頼んだ

敦子は了解してくれた

それだけ私はひどい姿だった

もう薄着の季節
手足のあざは隠しきれない
それに顔
何度も殴られ顔の半分は腫れあがり、肌の色もすごい色だ

病院に行こう

私はあざなら時間が経てば消えるだろうと思って、病院も行かなかった

とりあえず顔の状態が落ち着くまで学校も休み、敦子の部屋にいることになった

No.106

幸い、敦子は他の友達にも、事務と同じ話をしてくれたので何とかなりそうだ

夜になって私は宏子に電話した



この前は行けなくてごめん



そんなことより
今どこにいるの?
何回電話しても留守電だしアパートには居ないし
あんた一体どこで何してんの?

まくしたてるように宏子が言った

私はどう説明したらいいか困って黙っていた

人に言えないような事やってるわけ?

違う

じゃ、なんなのよ
黙ってたらわかんないでしょ

静かな部屋で電話したから敦子にも聞こえていた

敦子が
私が話すよ

かわってくれた



もしもし、敦子だけど

あれ?久し振り
今、麻里と一緒なの?

私ん家から電話してるんだ

No.107

敦子は電話じゃなく私と会って話して、と宏子に頼んだ

最寄りの駅を宏子に教えて明日会う約束をした



敦子は
宏子、迫力あったね
それだけ麻里を心配してるんだよ

そう言って
布団を敷いてくれた

まだ疲れてるでしょ
そろそろ寝よ
いつも夜更かしの敦子が私にあわせてくれた



ここに来てまだ一日

もし透に見られてたら



実際見られてはいないし、敦子も私がいることは宏子にしか話していない

あんな目にあったからか、小さな音やアパートの他の住人の足音も気になった



次の日も起きたら昼過ぎだ
敦子からの手紙には
学校が終わったら宏子と帰ってくると書いてある

私はシャワーを借り着替えてから、冷たい水で何度も顔を洗った

気休めにしかならないけど

熱いコーヒーを入れて飲んでいると



ただいま~

敦子たちが帰ってきた

No.108

アパートまでの間、敦子は宏子からすごい勢いで私の事を聞かれたが

絶対に答えなかった

理由は





麻里を見ればわかる





私は玄関に背を向けて座っていた

宏子は
麻里~と言いながら私の前に来た





ひゃっ…





私の変わり果てた顔を見ると、そのまましゃがみこんだ

私は
ごめん、こんなひどい顔で




私ではなく宏子が震えている

敦子は宏子に
ショックかもしれないけど、ちゃんと麻里を見て

麻里がどんなにひどい目に遭ったか、どんなに辛かったか

本当に麻里の友達なら
目をそむけて震えてなんかいないで、しっかり麻里を見てあげて!

泣きながら叫んでいた



飲み物買ってくる



敦子は出かけていった





麻里…



何があったの?
誰がこんな………



私は宏子に透のことを話した

No.109

宏子は話を聞き終わると

警察は?
病院は?

私は

行きたくない、思い出したくない

そう言った

わかった
気がかわったら私でも敦子でもいいから言うんだよ

私は、うなずいた

敦子が帰って来て、二人が食事の用意をしてくれた

ずっと食べてなかったけど食欲はない

少し食べたらお腹一杯で眠くなった



ごめん、少し横になってくるね

この時は一日の大半は寝ていた



その間敦子たちは、私のこれからを相談していた

私のアパートに行き、最低限必要な服とかを運びだす

顔が落ち着くまでは敦子のアパートに、その後、宏子のアパートに行き様子を見る

友達にも誰にもこの事は言わない

宏子のアパートに行く時、みっくんに車で来てもらう

宏子はみっくんにも今回の事は言わないつもりだ

No.110

じゃ、麻里のこと頼むね!

宏子は帰っていった



数日後
私は顔の腫れも引き、ほとんどあざも目立たなくなった

敦子にお礼を言った

どんなに言っても足りないくらい

敦子は



命の恩人だから…



みっくんは体育会の合宿なのを宏子は忘れていたので宏子の友達に送ってもらった



なんか自分ちより落ち着くかも

私が言うと宏子は

確かに!馴染んでるよね



みっくんが合宿なのも私にはちょうど良かった

じゃなきゃ、宏子たちのお邪魔虫になってしまう



二週間ぐらい宏子にお世話になり、私はアパートに戻ることにした

不安だったけど、ずっと世話になるわけにいかない

宏子にも何度も礼を言って自分のアパートに帰ってきた

それから夏休みまで、毎日忙しかった

No.111

短大だから二年で卒業だ

就職は当時バブル絶頂期

学生は売り手市場だ

私はすでに内定をもらっていた

休んでいた間の授業はノートのコピーがある

問題は単位だ

ただ何も言われてないから大丈夫

そう思うことにした



夏休みになったらすぐ実家に行こう

なんとなく実家でのんびりしたかった

少しの間、部屋を空けるので、簡単に掃除することにした

透とのことで敦子や宏子の部屋にいた時は、あまり動かなかったから掃除だけでも息が切れる

季節も暑くなってきたからだろう

休み休みの掃除になった



私は

体の異変に気付いていなかった

生理が遅れていたが、精神的なことで遅れたりもする

それに透のことは忘れたかったから、毎日何かをして考えないように必死だった




そして夏休みに入り、私は実家に帰った

No.112

実家に帰って、地元の友達とカラオケに行ったり食事したり

家に帰れば上げ膳据え膳
というより、規則正しくない生活だから、食事がテーブルにあるだけだが

久しぶりに帰ったからか、母は文句を言わない
父とも普通に過ごせた

以前はやはり反抗期だったのかもしれない

1週間ぐらいでアパートに戻るつもりだった

敦子の部屋にいた時、バイトに行けなくて、そのまま辞めていた

両親からは毎月決まった金額が振込まれていて、家賃、公共料金が引き落とされた残りが生活費

それにバイト代

今からすればぜいたくな暮らしだ

地元に来て思ったが、都会と違って車がないと不便だ

免許とろうかな
戻ったらバイト探さなきゃ

居心地がいいせいか、予定より長く実家にいた

夜寝る頃、胸やけする
キッチンにいき、冷たいものを飲む
吐く

それが何日か続いたある日



麻里は妊娠してるんじゃないか

父が母に言った

No.113

父は

私が夜中に吐いている
目の下にくまができている

これだけで、妊娠してるから病院に連れて行くように母に言ったそうだ

父は物知りだ
医学部にいた訳でもないし医学を勉強したのでもない

父が入院した時なんか、来たばかりの研修医より知識がある、そんな感じだ

実際には研修医や医師より知らないと思うが、若い研修医は父が何か言っても言い返せない

気の毒だが逆にやりこめられていた
(嫌な患者だろう(笑))



両親の寝室は二階でキッチンは一階

吐いてるのを父に見られていない

でも、見てなくても聞こえていたのだと思う

胸やけや吐くのがつわりなんて思わなかった

私だって知らないわけじゃない

透にあんな事をされたのだ

妊娠してもおかしくないのに、なぜかそれは頭に浮かばなかった

母が私に言った





麻里、妊娠してるんじゃない?

No.114

…………………

私は言葉が出ない

お父さんがね…

父から言われたことを母は言った

心当たりはあるの?



透だ



私は震えてきた

よく考えれば、避妊なんかしてくれる訳がない

妊娠の可能性を最初に考えなきゃいけないはずだった

透から逃げ出した後、妊娠のことより恐怖の方が大きかった

また会うんじゃないか
ここを知ってるんじゃないか
また同じめにあうんじゃないか

それに
あの頃はそんな言葉はなかったけど

フラッシュバック



翌日

病院にいき診察が終わると


4ヶ月です



まさか…



妊娠週数の計算の仕方を知らなかった私は、4ヶ月と聞いて信じられなかった

母は
明日入院させます

そう言って受付で何か話していた

私はその日、帰ってから一度も部屋から出なかった



そして朝になり、母に付き添われて病院に行った

No.115

私が子供を産む

この選択肢は最初からなかった

父が

麻里にはまだ先がある

あの子には、これからもっと幸せが待ってるから

自分に言い聞かせるように話していたそうだ

きっと両親も悩んだだろう

私にとってどうするのが一番いいのか

短気な面もあり、怒ると声が大きい父が感情的にならなかった

逆にそのくらい辛かったのだろう

入院した私は三日後に赤ちゃんの処置をすると聞いた

その日に手術があると思っていたから、何だか不安だった

その日の午後、今まで経験したことのない痛みが襲ってきた

たまたま前を通った看護師さんにお腹が痛いことを告げると、薬を入れたから痛くなったと言われた

陣痛だ

私の場合、月数が進んでいて人工的に出産させるようなやり方をすると言われた

そして

三日目





私は赤ちゃんとお別れをした

No.116

お腹の子に何も気持ちがなかったわけじゃない

私の月数なら、そんなにたたないうちに胎動も感じただろう

考える時間が短かったのだ

最初の診察の時、医師はエコーのモニターを私に見せなかった

母と私の様子や問診で、なぜ病院に来たのか、私の妊娠がどういうものかわかったからだ

私が病室で休んでいると医師が声をかけてきた

医師は穏やかな女医で、なぜ自分が産婦人科の医師になったか話してくれた



とても悲しい話だった



だから、私の気持ちが分かる
辛いのは当たり前だし、無理に気持ちをしまい込まなくていい

ただそれだけでは駄目

ゆっくりでいいから、前に進まなきゃいけない

それが今後の私のためでもあり、私を助けてくれた人、心配してくれた人

そして

旅立った赤ちゃんもそれを望んでいる、と

No.117

入院中、高校で仲が良かった香織が来てくれた

誰かと話したくて病院から電話したのだ

病院が香織の勤務先から近かったので仕事帰りに寄ってくれた



なんで麻里が



香織は泣いていた



少し話をして香織は帰った


これからどうしよう

私は退院して体調が落ち着いたらアパートに戻ることにした

香織にもその事を話していた

実は香織は病院の帰りに私の実家に行っていた

両親は短大を辞めて地元に来るように言っていたのを香織が説得に言ったのだ

特に父は私でも説得する自信がない

何を話したか今も教えてもらえないが、説得は成功したのだ



そして私はアパートに戻り残りの夏休みを過ごした

以前は某ファーストフードでバイトしたが、立ち仕事はまだキツいと思い、カルチャーセンターのような所の受付のバイトを始めた

No.118

宏子と敦子にはアパートに戻ってから入院したことを話した

二人とも透をどうにかしてやりたかったようだが、私がもう関わりたくないのを知ってたから、何も言わなかった

時間が経つにつれ、以前の生活に戻っていった

相変わらず短大に行けば、敦子を中心に

今日はどこ行く?
○○で可愛い服が売ってる

そんな事ばかりやっていた

何しに行ってるか、わかったもんじゃない

宏子とも同じだ





もうすぐ卒業

そんな頃、白石君から電話が来た

進級した頃以来だ

白石くんは私に何があったか知らない

そして、私も白石君や健二、真一や美奈に何があったかも知らなかった



電話の内容は

専門学校も二年で卒業する
みんな地元に就職するから仲間内でお別れ会をやる

その時私に来いと言うのだ


行けない



私は白石君に言った

No.119

何度、来てくれと言われても、気持ちはかわらない

私は健二を嫌いにはなれなかった
健二から突然、別れを言われて私だって傷ついた

それに透のこと

もちろん白石君や健二は知らない

私は自分が汚く思えて仕方なかった



私は健二に会えない



それしか言わない私に白石君がキレた





おまえアイツがどんな気持ちでいたか、わかんねーのかよ

わからないよ
それに私の気持ちだってわからないでしょ



……………



おまえの気持ちはわかってるよ
どうしようもなく健二が大好きだったんだろ
体調崩すほど、好きだったんだよな

健二も同じだぞ

お前にした事、どれだけ後悔したか
いつも自分ばかり責めて



余計にわかんないよ
だったらなんで健二はあんな事言ったの?


仕方なかったんだ
それしか方法がなかったんだよ

No.120

白石君から全て話を聞いた



なぜ美奈と付き合ったのか



うそ………でしょ?



真一が学校を辞めた理由は私たちとは関係なかったが、美奈は健二にした事が周りにバレて、学校にいられなくなったらしい



美奈はやはり薬を使って健二をはめたのだ



白石君は全部話せば、私がOKすると思っただろう



だけど



聞いたら、尚更私は

健二と会えない
私は会っちゃいけない



そう思った



お別れ会には行かない

一方的に電話を切った



もっと早くわかってれば

健二と続いてたかもしれない

もしかしたら、私はあんな目にあわなかったかもしれない





今とは何かが違っていただろう



考えれば考える程、悔しさや辛さが込み上げてきた




健二



今すぐ会いたいよ…

No.121

結局その後、白石君から連絡はなかった

私もお別れ会の事を忘れていた





短大の卒業式

みんなそれぞれ違う道に進む

私は都内のある会社に就職が決まっていた





卒業式が終わって何日かすると、宏子から電話が来た

今から○○に来て!
じゃあね~



なんだ?

知ってる店だけど
なんだ急に?



支度をしてその店までは、たぶん一時間くらいかかるだろう



そして言われた店につき、入り口から宏子を探すと






まり~~~~!



あたたっ、宏子声でか過ぎ



呼ばれた席に行くと





お別れ会の真っ最中





宏子にやられた………





そして



健二も



他のみんなも



いた

No.122

あ……………



健二と目が合った



けん…!
私が健二、と言おうとしたとき



麻里ちゃーん
あ〰あねさん



みんな変わらない(笑)


おかげで健二と感動的な再会もなく、かといって
湿っぽくなく



自然と話すことができた



この前の電話で白石君から



健二とやり直せば?
今度はうまくいくんじゃねぇ?

と言われた





もしかしたらうまくいくかも





でも私はもう健二とは付き合わない



そう感じた





離れている間に





傷つきすぎた





だから





友達でいい





そう心から思った

No.123

それにしても、この人達の元気には圧倒されてしまう

それに私と健二が普通に話せるようにしてくれてるのが、手に取るようにわかる

そのうち私の前に健二が座った



久しぶりだね



おぅ 
元気だったか



うん



健二と会えて嬉しいのと、悲しいのが入り交じったような気持ちだった



お別れ会
というか、ただの飲み会はお開きになった



健二とはもう会わないだろう



私は健二に

あの時の話を全て聞いたこと

そして

私のためにありがとう



そう言って宏子の所に行った



今日泊まらせてぇ



OK!



宏子の部屋で朝まで話した

健二のこと、透のこと、これから始まる仕事のこと
宏子はみっくんとの、ノロケ話



こうして私は4月から社会人になる

そして数ヵ月後、健二と意外なことで再会した

No.124

入社式も終わり、研修の毎日からやっと解放された

私は自社で扱う製品の全てを、説明できなくてはいけない、という部署に配属された

実際に全部は覚えてはいないが…

他の仲良くなった新入社員と食事に行き、そこから以前、受付をしていたバイト先が近かったので、差し入れを持っていくことにした

そして、途中のファーストフード店の前を通ると、私がいた頃のバイト仲間の雅人がいた



いらっしゃいませ!
あ、麻里じゃん

まだバイトしてたんだ

俺はまだ学生だからな

雅人は私の一つ上だ



麻里…ちゃん?



………!



瞳ちゃん?



健二の妹だ



雅人も交えて三人で少し話して店から出た



私は

瞳が雅人を好きなのがわかった



雅人には彼女がいる



瞳ちゃん………



心配になった

No.125

その日の夜
健二から電話が来た

瞳がかけろって

(やっぱり…)

話は雅人のことだ

瞳も雅人に彼女がいるのは知っているが浮気相手は嫌だ、と

週末のバイト帰りに二人で食事に行くから、その時ハッキリさせたい、だから近くにいてほしいと頼まれた

週末
バイト帰りの二人のあとをつける

二人が店内に入って少ししてから私たちも入った

食事に、といっても居酒屋だ

明るすぎない店内で良かったと思いながら、会話が聞ける席に座った

一時間ほどして瞳が泣きだし、敦子は怒りだした
敦子は少し飲み過ぎたせいもあるが…

敦子をなだめていた私だが雅人のある言葉に突然キレた

そして
ビールの入ったジョッキを手に雅人の後ろへ

あんたサイテー

雅人の頭からビールをかけた

瞳は雅人のことは忘れると言った

敦子は翌日早かったので帰り、瞳を一人にするわけにもいかず



健二に電話して迎えに来てもらった

No.126

待ってる間、瞳は少しずつというより

すごい速さで回復した

羨ましいなぁ(笑)





待ったか





健二が来た



久しぶりに健二の車を見た


瞳が
遅いから麻里ちゃんもうちに来なよ



………無理………



車はアパートじゃなくそのまま健二の家に着いた



麻里ちゃん、久しぶり!

健二の母だ

OLさんなんだって!!!

はい(笑)

なんかオバサン憧れちゃうわ~



部屋行くぞ

健二の母は相変わらずだ


……………

……………



健二がキスをした

震えが止まらない

なんでか言えるはずもない

怖かったのだ

もちろん健二は透みたいなことはしない

わかっているのに

怖かった

健二は美奈のこと、いきなりしようとしたことで、私が嫌がってると思い謝ってきた



違うの、私のせいなの
ごめんね…



心の中で言い続けた

No.127

そのまま健二は腕枕をしてくれた

私は眠れなかった

健二を怖いのではない

この状態でも震えなかった

健二に抱かれたい気持ちもある

だけど怖いのだ

それに健二でもダメだったことにショックを受けた

翌日、朝食を食べていると

瞳が

昨日麻里ちゃんスゴかったんだよ

あの時のバカ男に



ビールぶっかけたぁ



私それ見てスッキリしちゃって~~~~

えっ!

みんな固まってると思ったら



よくやった!



お父さんにほめられた

お母さんはワクワクしている

それを見て

行くぞ!



駅に行く途中

健二は近場をドライブしながら

少し遠回りした

きっと最後のデートかな

もう会わないだろう

そんな気がした

No.128

それから会社とアパートの往復

たまに友達と会ったり、職場の人とカラオケ行ったり



仕事に慣れてきた頃、私は上司に

○○支店に移れますか?

実家の近くの支店だ

研修の時に、希望の支店があれば秋に異動できる

条件があり認められればの話だが

私は実家から通いたいと上司に言った



数日後



異動が決まった



休みにアパートを片付けた



ここに来てから色々なことがあった

嬉しいこと、悲しいこと

でも、全部私の事



少しの着替えを残し、実家に荷物を送った





実家に帰り落ち着く暇もなく、新しい職場に出勤した



お偉いさんはそれなりだが、全体的に若い社員が多い

私は営業のサポート的な仕事についた

商品知識は私の方がある

忙しかったが余計なことを考えなくてすんだ

No.129

営業の早川君

高校を卒業して今の会社に入った

実は白石君と中学が同じで、高校時代、私が白石君と一緒にいる時に会っていた

何となく覚えていたので、これにはびっくりした



早川君が

杉本さんて彼氏いるの?



いないよ



紹介したい奴がいるんだけど…

誰かと付き合うなんて考えてなかった私は

友達からなら…いいよ

そして、聡と会った

第一印象は特に悪くもよくもなく

友達として

また会う約束をした

私は友達を連れてったり、二人で食事したりした

一緒にいても、あまり楽しいと思わない

何回目かに会った時



俺と付き合って



私は考える時間をもらった

友達は彼氏がいたほうが生活に潤いができる



わかるようなわからないアドバイスをくれた

彼氏として付き合えば、楽しくなるかな



私はOKした

No.130

聡はスゴく喜んでくれた

こんな私でも喜んでくれるんだ

こんな私でも………

それはすぐに起こった

カラオケに行った帰り

家まで送ってくれた車の中で、いきなりキスをされた

私は車から降り、急いで家に入った

震えが止まらない

なんで…

このままずっと、こうなのかな

自分が嫌だった



次に会った時、聡は何もしなかった

その次も

しばらくそんな感じだったが長くは続かない

少しずつ強引になった

ある日、無理矢理キスをしてきた

私が震えだすと

聡は謝った

聡が悪いんじゃなくて私が

このままじゃ、聡に悪い

そんな事ばかり思っていた

そしてまた送ってもらう途中で

聡は方向を替えホテルに入った

部屋に入ると聡はすぐに求めてきた

私は怖さのあまり震えて泣きだしていた

今まで我慢してたけどよ、俺達、付き合ってんじゃねえの?

こんなんじゃ、俺が悪いことしてるみたいじゃん



つまんねー女

No.131

そのまま聡と別れた

その後は彼氏もできたが、私は先を考えるとまたダメかも…

結局長くは続かない

その頃、地元の友達は結婚ラッシュ

香織や友代は年上の優しい人と

宏子はみっくんと

他の友達も数人バタバタと結婚した

年頃だし焦らないわけじゃない



杉本の両親を安心させたい

麻里が結婚するまでは

父はそういって仕事を続けている

両親の中で私の結婚はある意味、区切りなのだろう



そんな時、智之を紹介された

私より二つ上

友達が会社の人と飲み会をやってた時、私もそこにいて一度会ったことがある

私を紹介して欲しいと頼まれたそうだ



何度か会うとまた同じ事の繰り返し

それでもキスはなんとか平気になった

智之も無理にする感じでもなかったし、私も努力した

付き合っていれば、求めてくるだろう

何となく今日はそうなるかも

私はお酒をいつもより飲んで、かなり酔ってしまった

No.132

気が付くとホテルで寝ていた



大丈夫だったみたい



酔って記憶がない

だから平気だったのかもしれない

それからは必ず酔うまで飲むようになった

そんな事を続けていたある日



俺と結婚してくれ



プロポーズだ

私は結婚して両親を安心させたい

その気持ちが強かった

智之といると自然に笑顔が増えたのも事実だ

ずっと一緒にいれば、何かかわるかもしれない

一瞬で頭に色々浮かんだ



うん



私はその場で返事をした

こうして両親への挨拶

結納、式の準備と着々に進んでいった

智之には悪いが恋愛感情の好き、という気持ちは持てなかった

結婚は、相手から望まれてするほうが女は幸せ

母がそう言っていた

特に気分が盛り上がらなくても、何十年もいるってこんな感じかな…

勝手にそう思い込んでいた

No.133

聡の家族は両親、姉

そして、敷地内の別棟に住む祖母と、入院している祖父

祖父は痴呆が進み寝たきりで、ずっと入院してるそうだ

家は私の家から車で30分ぐらいだ



結婚したら同居

聡の地元では当たり前

聡の両親は私たちの部屋を増築してくれた

クロスやカーテンを選ぶようにカタログを渡され、私達は二人で選んでいた

選ぶのは割と時間がかかるが、意外と楽しい

いくつか候補を決めた中から、業者に選んでもらうよう聡の母に頼んだ



部屋が完成したので見においで、と聡から電話がきた

どんな部屋になったかな
楽しみにして行くと

部屋を見た瞬間





なにこれ…





私たちが、選んだ物ではなかった
もちろん業者が参考にと、選んでおいた物でもない

No.134

聡の母が勝手に決めたのだ

私は、あまり柄物が好きではない
シンプルなほうが好みだ

新居となる部屋は

花柄の派手なカーテンに訳のわからない模様のクロスが貼られていた

(ヒドッ………)

聡に
選んだのと全然違うね
と言うと

母ちゃんが決めたみたいだぞ

(だぞ、じゃなくてさ)

なんか嫌な感じ(-ロ-;)





この時に聡と別れてれば

…………………



式場で衣装を選ぶ時

私と母は
これがいいね

お義母さんは

………

ドレスは私の選んだ物にした

打ち掛けを選んでいると
聡の母が持ってくるのは、言っちゃ悪いが趣味が悪い

立場上、あんまり出しゃばっちゃいけない

母は黙って見ていた



式場の人が見兼ねて

お嬢さんは背がおありだから、そういう柄よりこちらのほうがお似合いですよ

No.135

ののです


《133、134》

ごめんなさい😣

聡→→→智之です😱



仮名って、なかなか😓


すみませんでした

No.136

いくつか選んでくれた中で、他と違う色合いの二点を私は気に入った

悩んで最初に目がいったほうにした

智之の母は苦虫を潰したような顔だ

他もそうなのだろうか

私の住んでる地域は、貰う側が式場の費用を多く出す

だからか知らないが、衣裳も智之の家で決めた物しか、着れないのだろうか?

友達はみんな、衣裳は自分で決めていたのに…

さっきのでいいです

私は頭に来て、そう言った

が、式場の人が

こちらは、あなたの肌の色に合いません
せっかくの晴れの日なのだから、こちらのほうが来客の方も満足されると思いますよ

少し強めの口調だった

それぐらい、智之の母の態度は酷かったのだ

内心ホッとしたのも束の間

じゃあ、この中で一番高いのにしてください

智之の母が言うと



こちらです



私が選んだ物だった

No.137

そして引出物

田舎の方は○○

二言目には、智之の母はこの言葉を言っていた

田舎ったってうちの隣の市だ
そう違いはない

引出物なんて、この辺は大体同じ物だ

引出物も決まり、この日やる事は終わった

智之は仕事を休めなかったから、ここに来るときは、私が智之の母を迎えに行った

帰りも送ると言うと、智之の父に来てもらうから大丈夫だと言われた

私たちは先に帰り、車の中で私は文句ばかり言っていた

母は

しょうがないでしょ
こっちがお嫁に行くんだから



その頃、智之の母は私たちに内緒で食器をもう一つ

それと

披露宴の食事にフルーツの詰め合せを追加した



どちらも、杉本の親戚は遠くから来るから、と私たちが却下した物だった

No.138

式まであと2ヶ月

智之の同級生とその彼女の合計8人で、鍋パーティをしていた

なぜ鍋だったのか、よくわからないが…

実は私はアルコールに強い

会社の宴会で、土鍋の蓋の穴を押さえ、そこに並々と日本酒を入れて、先に飲み干したら三千円

そんなおバカなゲームをしたところ

三連勝!

上司がおまけしてくれて、一万円貰ってしまった

でも平気だった

だから酔うまで飲むのは、かなりの量を飲む

他のみんなが酔っても、私には

まだまだ、だ

智之に送ってもらう私は

そろそろ帰ろうと言った

外に出ると、パーティをやった家の、茂樹と彼女の里美が出てきた

車に乗り、智之が窓を開け


里美ちゃぁん
おやすみのキス💋

と言った

茂樹も里美も酔ってるからか、そのまま💋しそうになった

No.139

は?

私以外の三人は笑っていた

こいつらバカじゃないの?

そして💋はせず、智之は車を出した



広い通りに出る手前で私は車を停めさせた

自分が何したかわかってんのかよ

これは私が言ったセリフだ

智之は酔っててヘラヘラしている

私が怒ってるのは辛うじてわかったようだ

話にならない

私は車から降りた



大通りに出ても智之は来ない

すぐ走れば私を抜かすのに

私は悲しいより、怒りと呆れた思いでイライラした



酔ってふざけ過ぎた
だけかもしれない



私たちは婚約している

これから結婚する相手の前で、酔ってふざけたといっても、あんな事を私の目の前でするか!

私には理解できない



別れよう



そんな事を考えながら、車を降りてから一時間以上も歩いていた

No.140

都会と違って、広い通りでも夜中は車が走っていない

周りはたんぼで

真っ暗

この時は頭に血が上って、考えなかったけど



今思うと



危なかったと思う





そのうち、ありえない方向から智之の車が来た

酔いがさめてきたのか



ごめん



一言、謝ってきた



今まで何やってたか聞くと

おまえの会社の近くとか、俺んちの方に行ってた







家に帰るのに、なんでそんなとこに私が行くのか



酔っ払いのやることはわからない

とりあえず車に乗り家まで送ってもらった

降りるとき

少し考えさせて

私はそう言って家に入った


私は別れるつもりだったが結婚するのを喜んでる両親に、申し訳ないとも思っていた



実はこの結婚は両親どころか、母の知人や私の友達、智之の近所の人

誰もが心配していたのを、この時の私は知らなかった

No.141

この事がなくても私は悩んでいた

透にされたことのトラウマ

酔うほど飲んでないと無理

かなりの量だ

結婚してそれが出来るだろうか

結婚したら夫婦生活はあるだろう

普通なら当たり前かもしれない

でも、夫婦それぞれの事情でレスになることもある



智之に透のことを話すべきか…

私の友達は

全員NOだ

問題がなければ言う必要はない



自分でもわかっている

受け入れられなかったら…



別れを意味する



この先ずっと一緒にいるなら

私の事を知った上で、そばにいてほしい



でも、この先も透のことを智之に話すことはなかった



周りから心配されてるなんて知らない私は

智之と結婚しようと決めた

No.142

結婚式前日

遠方から伯母が来てくれた

今日はうちに泊まるそうだ

夕食を食べながら、伯母は泣いていた

伯母は母の姉にあたる

私の知らない母を知っているのだろう

感極まって

そんな感じだった



結婚式当日

智之は出来上がっていた

披露宴でほろ酔い気分の新郎を見たことはあるが、智之はベロベロだ

私は隣で笑顔を作りながら心の中でさめていた

途中、私の友人の何人かが泣いていた

健二や透のことを知っている子達だ

心配かけたから幸せにならなきゃね

そして、披露宴の最後に
互いの両親に挨拶に行ったとき

智之はろれつが回らない

私は知らないふりをして、智之の父、母に挨拶をした

この時の智之の母の顔

私のドレス姿を上から下まで見て

また苦虫を潰したような顔をした

No.143

なにもこんな時まで…

私は悔しさのあまり泣いた

普通なら花嫁が泣いて感動の………

周りにはそう見えただろう

私は

嬉しくて泣いてるんじゃないっ

叫びたかった



二次会でも智之は飲んでいた

私はずっと友達と話していた



二次会も終わり、智之の家に帰った

新居だ

私はあの趣味の悪い部屋にいき、新婚旅行の準備をした

智之はベッドで寝ている

私は二人分の荷物をスーツケースに積めて休んだ



空港に行くのも飛行機に遅れそうになった

旅行前も旅行中も私は不機嫌だった

智之の情けなさが………

初めての場所だし、海外だし

なんてことは全く関係ないことで情けなくて、早く帰りたかった

我慢しなきゃダメなんだろうなぁ………

No.144

私は結婚が決まってから、仕事をかえた

同居するのが当然の人たちが、私の意見など聞く訳がない

週休二日の仕事だと、同居は耐えられないよ

友達のアドバイスを素直に聞いたのだ

幸い、知人の紹介ですぐに仕事が決まった

サービス業だから基本的に土日は仕事

週末は交替で休みがもらえた

早出、遅出もある

私には都合が良かった



いくらうちの実家と智之の家が近くても、うちの両親はもともと他県の人間だ

特に、味付けが全然違う

そこへきて義母は野菜以外は食べない
おまけに、甘い辛いの好き嫌いもある

何食べてるんだ?

これで毎日、献立を考えるのは難しい

私は週の半分だけ食事の支度をした

義母は食事の支度をしない

私が作らない時は義姉が作っていた

No.145

義父は気をつかってるのか食べるが、義母は嫌いなものには箸も付けない

私は何度も皿ごと捨てた

食事中、会話は普通にあるから、智之も私の不満はわからないみたいだ



心配してることが起きた

ある日、智之が求めてきたのだ

夫婦だから当然だろう

アルコール類がない家だ
私は具合が悪いと言って、拒否した

そんな事が何度か続いた日

私が寝てるときに智之は勝手に私の中に入ってきた

爆睡して気付かなかった私は、その衝撃で飛び起きた

智之は果てた

そして、隣で寝てしまった



私が拒み続けていたから

智之は悪くないのかもしれない

わかってはいたけど

つらかった

No.146

半年ぐらいは、私が寝てる時に…

それが数回あった

この頃には智之の親戚から

子供はまだ?

お決まりの言葉をよく言われていた

私は

もう少し二人でいたいからと、心にもない事を言っていた



智之は優しい

私からすれば

弱かった

私の事も最後まで好きでいてくれた

私は好きではなかったが、嫌いでもない

そういう感情が智之にはなかった



敷地内に住む祖母とは、この頃に初めて会った

私の仕事の時間が不規則なのもあるが、母屋に祖母が来ることもない

野菜なども、智之や義姉が持っていく

結婚式にも来なかった

少ししか話さなかったが、私には優しかった

No.147

智之に祖母のことを聞いてみた


智之が小さい頃

嫁姑の喧嘩が耐えなかったらしい

後から知るのだが、義母はとても気が強く、近所でも有名だった

今の母屋に建て直した時に祖父母の部屋もあった

いくら年寄りでも、家の中で一日中陽が当たらない、三畳間の部屋

事情はあるだろうが、私はかわいそうな気がした

そして別棟を建て別居したそうだ

義母は絶対に祖母と話さない

息子の義父も義母も、
家まで建てて祖父の入院も面倒見て、なんの不満かあるんだ

そんな感じだった

祖父がいる病院はお年寄りしか入院していない

地元じゃ、あそこに入ったら死ぬのを待つだけ

誰もがそう思う病院だった

No.148

結婚して一年たった頃

智之が私の会社に突然来た

夜の9時すぎだ

祖父が危篤だと連絡があったから、これから病院に行く

そう言いに来た智之は、同僚と飲んでいてフラつき、ろれつも回らない

私は上司に話し病院に向かった

初めて祖父を見た

今すぐではないが、二、三日がやまだろうと言われ、私たちは帰った



二日後



祖父は亡くなった



智之の家は親戚や近所の人がたくさん来た

この辺は、家で葬儀をやる場合、義母は何もやらない

食事の用意やその他のことは、近所の奥さんたちがやるのだ

何もわからない私は、他の奥さんに聞いたが、今はやる事が無いと言われた

親戚の女たちが集まって、通夜の準備をしている部屋に行くと



この人、誰?



智之の従姉妹が言った

No.149

あーっ(怒)

どいつもこいつも



義姉にやることを聞き、さっさと終わらせた

私は居場所が無い

ほとんど初めて会うか結婚式以来だ

自分達の部屋に行き、休んでいると智之がきた



この後の予定を言って、部屋を出ていった

その日はみんな座敷でどんちゃん騒ぎ

私達は、眠れないまま葬儀を迎えた



火葬場へ行く車は

先頭は祖母以外の家族

2番目に祖母と義父の兄弟

次は○○と、義父が決めていた

では、みなさん

となって、私は智之に文句を言いにいった



私は行かなくていい?
乗る車ないし

うちの両親来てるの知ってるよね

場所がどこかも説明しないで…
このまま帰ってもらうから

智之は慌てて

ごめん
最後に付いてきて



私は父の車を運転し、杉本の両親と一緒に行った

No.150

私は自分の両親に申し訳なく思った

智之の両親より年齢も上だ

式を挙げる前、挙げてからも、祖父の病院に何度も足を運んでいる

それを智之達も知っているのに、あまりにも配慮に欠けている

嫁の両親だからと特別扱いしなくてもいい

義父母はともかく、智之の態度に頭にきた



火葬が終わり控え室で食事をとる時に、お茶を配りながら、私は自分の両親がいないことに気が付いた

廊下に出ると、椅子に座っていた

私が中に入るように言うと

人がいっぱいで座る場所もないし、食事は無くてもいいからここで休んでるよ

あなたは中を手伝いなさい

両親にこう言われ、私は控え室に戻った



確か席は空いてたはず



やはり空いていた

No.151

私は智之の隣に席があったが、のんびり座ってるわけにもいかない

隣の列に二つ席が空いている

誰かがとってるみたいだけど、座る気配が無いので隣の人に聞いてみた

あのバカ従姉妹とその母親

母親は義父の妹だ

親族と他の弔問客は別れていたのに、あの親子は一般の弔問客側に席を取っていた

私は両親を呼びに行き、そこに座らせた

あの親子は嫌われていたから、周りの人も快く両親を座らせてくれた

私が両親にお茶を持っていくと、伯母があらっ?って顔している

私はわざと大きな声で



お父さんもお母さんも忙しいのに、わざわざ来てもらって、ありがとね



それを聞いた伯母は、文句が言えなくなり



あら~、麻里さんの親御さんですか
今日は父のために、ありがとうございます

とかなんとか言っていた

No.152

智之や義父母にも、それは聞こえていた

わざとらしく、私の両親に挨拶に来た

みんなの手前だろう

大げさじゃなくても見かけたときに、ちょっと言ってくれるだけでいいのに



火葬が終わり、智之の家に戻った

弔問客も大体帰り、義父母達とお茶を飲んでいたら

明日から1週間、毎日お墓まで、親族と近所の人で行く

私にそれが終わるまで仕事を休めと言ってきた

私はキレた

智之を部屋に呼び、一気に文句を言った



通夜から葬儀の時のこと

それに実は前日、義姉が葬儀に出ないと言っていて、義母も許していた

理由は義姉が職場を変えるため、葬儀の日が義姉のお別れ会だったらしい

No.153

義姉の同僚も日程を合わせたのもわかる

だけど理由が理由だ

私は
孫が出なくていいなら、他人だった嫁も出なくていいんじゃない?

私が嫌味を言うと、智之は姉に葬儀に出るように言ったのだ



それに私が一週間、仕事を休む理由…

義父母、義姉、智之がそんなに仕事を休んでいられない

本当にバカじゃないかと思った

しきたりで決まっているなら、私も何も言えないが
(いや、絶対何かは言う)

そんな理由で?

近所の人だって、その間は仕事休んで来てくれるのに

智之は人数が少ないから、休むと迷惑がかかると言った

私のいる部署のほうが人数少ないから、じゃあ、私は絶対休めないね

明日から私も仕事行くよ

あとは子供や孫でやってやれば?私はもともと他人だから

No.154

私だって、自分で屁理屈なのはわかっている

ただ、怒りすぎて頭に血が上っていた

智之は私を説得しようと必死だ

仕事を理由にするなら、私も休まない

遅出の時は私がやってもいいが、早出の時は仕事に行く

近所の人にお茶を出すだけだが、結局半日かかるからだ

私の出した条件でいい

義父母は渋々、納得した



私の仕事の時間上、普段会うことが少ないが、この頃から、義父母がとことん嫌になった

義父は私あての電話を取りつがない

私が部屋にいても、仕事と言ってたそうだ
友人に言われて、それがわかった

義母は親戚、近所から
気の強い嫁、鬼嫁といわれていた



香織の同僚が智之の家と近かった

自分の友達が結婚すると言ったら、今からでも遅くないから辞めさせな
同僚の母も同じ事を言ったそうだ

香織は、これから結婚する人間に言っていいものか…
悩んだそうだ

No.155

とにかく智之の家を知る人は

お嫁さんがかわいそう

そう言ってたらしい

義母が祖母を嫌いだから面倒を見たくない

その一言で別棟が建つくらいだ

義父はもう少し義母に対して、どうにかできなかったのか…



そして私の両親も

知人が人づてに聞いた義母の話を聞いて、心配していたそうだ

式を挙げる前に聞いていたら、間違いなく智之と別れていた

相手が好きだけじゃ、結婚生活はうまくいかない
同居となれば尚更だろう

周りの話を知らない私は

結婚すれば何かが変わる、みんなを安心させられるんじゃないか

そんなのは、ただの独りよがりだった



義母の私への態度は明らかに

嫌い

もうハッキリしていた



私の我慢が足りなかったのだろう

その時はそんな風に思わなかったけど、私の態度も明らかに悪くなっていった

No.156

それからは細かい嫌がらせはあったけど、お互い文句も言わず、表面的にはうまくいってたかもしれない

智之とも相変わらずだ

私が怒らなきゃ喧嘩はない

気がきかない割に細かい性格の智之は、あれこれ言うが、大抵は言えば気が済む感じだった

普通に話すし、笑いもする



だけど、お互いに口に出さない事が一つだけある



夫婦生活



一度だけ
新婚なのに、こんなのっておかしくないか?

智之に言われたことがあった

私はずっと拒否していた

私が何ともなければ応じたけど、無理だった

だから、私が寝てる時に、智之は私を抱いていた

それは月に一度あるかないかだ

それだけは智之に申し訳ないと思っていた



それに…

No.157

私は

自分は妊娠が無理なのでは

そう思っていた

透の子を中絶している

智之と回数が少ないから絶対ではないと思うけど
もしかしたらそうかもしれない…

そうだったら智之と離婚しよう

そう考えていた



ある日、出かけるのにタンスから智之の上着を出すと



バサバサバサッ



別の上着のポケットから

薬や薬が入っているゴミが大量に落ちてきた

レジ袋一つ分くらいある

智之は慌ててそれを片付けた



今の、なに………?



病院に通ってるなんて私は聞いていない

ゴミの量からするとかなり前からみたいだし、薬を飲むのを見たこともなかった

薬の袋に

○○医院

名前は知っていた

内科や皮膚科

泌尿器科の病院だ

No.158

智之は風邪をひいてない

私はなんの薬か聞いた



俺、精子が少なくて…



病院は私と会う前から通っていた

以前、入院したときに検査をしたら、医師から精子が少ないといわれ、増やす薬を飲んでいる



何で話してくれなかったんだろう

もし、話せば…

私も同じだ

それにこれは智之が悪いわけじゃないし、自分ではどうにもできない事



綺麗ごとに思うかもしれないが、理由を知ってもそれが原因で、智之を悪くは思わなかった

不妊治療は夫婦で理解し協力しないと、つらいし大変だと思う

もし、知っていれば

私の事も含めて、私たちはもしかしたら、いい方向に向かったかもしれない

だからだろうか

あの義母が



私に一度も子供のことを言わなかったのは………

No.159

私への嫌がらせはなくならないが、智之のことを内緒にして嫌味の一つも、あの人なら言いそうだ

それを言わないのは、分別があるのかなぁと思った

それから義母に対して、私の態度は少しかわった



だけど



こちらが歩み寄っても

ダメなものはダメだった



元通りよりひどくなった



私の話、存在も完全無視

食事中も私がいないかのように話す

智之にも言ってみたけど

母ちゃんは言っても聞かないからな

いつもこの返事だった

私は無視もしないし、自分から話かける

始めは意地もはったが、義姉が作るものを見て、義母が食べそうな食事も出した

でも、義母は私を嫌っていた

理由は………

式場での衣裳選びを許せないし、一生許さないそうだ

これは智之から聞いた

No.160

義母以外は衣裳は気にしてなかったから

そんな事で、ぐらいなのか智之もサラっと私に言った

私はため息が出た

いまさら衣裳のことが、
なんて言われても、どうにもならない

義母には悪いが

それが理由?……は?

気が抜けてしまった

私もわがままだったし、嫁にきたんだから、自分の我ばかり通すのは間違い

そんな風に考えていたが

やめることにした



それに





そんな生活もあと少し……





お正月に初詣に行くことになった

祖父の喪もあけたし、ドライブがてら他県に行った

行った先は

健二の家から五分くらいの場所だ

智之が、ついてからの楽しみってことで、行き先を私は聞いていなかった

他にもあるのにね…

まさかこことは思わなかった

No.161

正月だから人がいっぱいだ

出店や売店もあった

智之と色んな物を食べながらブラブラしていた

おみくじ引こうぜ

智之と私はおみくじを見た

大吉とかそう言うのは忘れてしまったけど

私のおみくじに書いてあった言葉が



あなたの人生は

スペースシャトルのような人生でしょう☆彡


は…い?



ジェットコースターのようなって表現は聞いたことあるが…

スペースシャトルって…

いったい

どんな人生(・・?)



二人で笑ってしまった



私はサービス業だったから
正月休みはこの日だけ

そして

義母とのストレスから

胃炎になってしまった

医師は

ストレスの原因をなくせればね

そんなこと言われても…

No.162

症状はよくならない

私は智之に

ここを出て暮らしたい

初めて泣いて頼んだ

話をしてる間に泣いていた

義父母とは、本当に色んな事があった

私が知らないことや関係ないことでも、自分達が気に入らないことは

全部私のせい

それを私の職場の人やあちこちで話す

家の中でも酷さはエスカレートするばかり

智之は、どんな時も親の言いなりだった

私は結婚して他人の中に入った

嫁でも婿でも、よその家から他人を家族にするのだ

誰か味方がいないと、他人はいつまでも他人だ

智之は

結婚は、いつも一緒にいられる

ただ、それだけだった



私と一緒に家を出ないなら

離婚するつもりだった

No.163

智之はあっさり

俺も出る

そう言った

結婚は彼女がいつも一緒にいること

そんな考えだからか、すぐに返事がきた



それからアパートを探し、業者を頼み準備は着々と進んだ

義父母は、ますます私に対して酷くなったが

もう、どうでもよかった

家を出るのに義父母の出した条件がある



子供が生まれ、入学の時にこっちに戻ること



いつか戻らなきゃいけない

それは私も考えてたから、そうすることにした



アパートに引っ越してから

私は新婚さんの気分だ

智之には情だろう

最後まで好きとか愛してるって気持ちは持てなかった

ただ、気持ちが穏やかになったことで、私の中に変化が起きた



智之に抱かれても大丈夫かもしれない



私はその時は受け入れようと思った

No.164

その時がきた



智之は嬉しそうだ



でも



私はダメだった



すぐ変われるわけじゃないが、自分でもどうしていいかわからない



そんな私を智之は無理矢理抱いた

智之もつらいだろう

自分の妻に拒み続けられたら

今までのを取り戻すかのように

何度も何度も





私はあの時と同じだった

何も感情がわかない

ただ

早く終わって………

震えながらそれだけを考えていた



それから智之は自分がしたいときに

私が嫌がろうが無理矢理した



自分が情けない

この事だけは、いつも引っ掛かっていたが、普段の生活は穏やかだった



仕事が休みの日



私は色んな事を考えていた

私は義父母も嫌だったが、本当は智之を嫌だったことに気付いた

No.165

アパートにきてから義父母と智之は、私に隠れて連絡を取りあっていた

たまたま私が勤務シフトを替えた日

義父が電話してきた

明らかに動揺して、聞いたこともない明るい声で

ま、麻里ちゃん、元気にしてるか?
智之は?

まだ帰ってきてないと言うと、電話をきった

智之に聞くと、私がいないときに連絡してるといった
よっぽど私に聞かれたら、まずいのだろう

智之の場合、親を大事にするのとは違う

依存しすぎている

同居の時からそうだったが、アパートに来てから前よりひどくなっている

私の事でストレスはあるだろう

夫婦のことは夫婦で話し合えばいいと思っていた

会話はあっても話し合うことはない

これでは何十年も続かないだろう

私は嫁ではなく

彼女だ

No.166

智之に無理矢理されるのは嫌だったが、それを責める気はないし、嫌な理由でもない

同居してる時から、私は智之が嫌だった

考え方や態度

全部が嫌だったんだ



確かに義父母のストレスはあった

アパートにきて解放された

そんな気がしただけ

胃炎も治らない

智之が…



もう一度、考え直そう



そして

智之は浮気をした
すぐに相手とは別れたが

嘘だとバレバレの言い訳

香水臭い服

浮気は私が原因だろう



そんな時

以前の職場の同僚が遊びにきた

私は思ってることを彼女に話した



離婚したい



でも、なんて切り出そう

喧嘩はしないし、浮気は終わってて私にも原因があるはず


同僚は

私に言ったのと同じ事を話せばいいよ

そう言ってくれた

No.167

離婚………

私はそれを考えると、両親に申し訳なく思った

実の子ではない私を短大まで行かせ、結婚式にも費用を出してくれた

両親はどう思ってるかわからないけど

私が結婚して、これから二人でのんびり過ごせるだろう

私のわがままで、また心配かけてしまうと思った



もう少し考えて、それでも駄目なら、智之に離婚のことを言おう



離婚を考えだして、数ヶ月

もう夫婦生活もない

必要な事だけ話す

喧嘩もない

ただお互いがいるだけ

そんな生活が続いた



私の職場に他から異動で来た人がいた

善人だ

私が帰る時間に職場のみんなに挨拶に来たのだ

明日から
よろしくお願いします

こちらこそ

No.168

私は

善人の笑顔に

一目惚れした

昔、芸能人が会見で

ビビビッときた、と言ってたけど

そんな感じだ



それからは毎日仕事に行くのが楽しかった

彼氏がいると生活が潤う

前に友人に言われた言葉も嘘ではなかったみたい

家では

善人の事は言わないけど、私が仕事の話をする

不思議と智之と会話が増えた

気がした



ある日

仕事が終わり私が休憩室にいると、善人が来た

麻里さん上がり?

うん、お先

話している途中で





麻里さん



俺と



不倫しよう





うん



突然言われてびっくりしたけど

自然にそう答えていた

No.169

私の職場は


職場恋愛禁止!


善人が来た初日にも、笑いながらだが、上司が善人に言っていた

した場合は、会社を辞めなくてはいけない

それ以前に

私は結婚している



してはいけない事



わかっていたが

善人が

自分に好意を持ってくれてるのが嬉しかった

ただ

善人は私よりもかなり年下

若気の至りじゃないけど、あまり本気に考えないようにした



翌日から、何か変わったわけじゃない

仕事中も今まで通り

二人だけで会うこともない

会社で話すだけ

私はそれでよかった

毎日会えて話せる

互いの連絡先も知らない

善人が先に帰った日は

わざわざ会社に電話してきた

当時、携帯電話が出始めた頃だった



携帯はあると便利だけど、知らなくていいことも、わかってしまう

それは、ずっと後のこと

No.170

私のいた部署は人数が少ない

上司も同僚もみんな仲が良く、仕事が終わってからカラオケやボーリングに行っていた

上司の友達も一緒に、近くの居酒屋に行くこともたびたびある



善人の告白?から一週間

みんなで飲みに行くことになった

私は夕方で終わりなので、一度家に帰り、夕食の支度をした

智之も良く飲みに行くが、いてもいなくても食事の支度はした

家事は普通にする

離婚を考えても、それは今まで通りやっていた

この時間にいないなら、智之は飲みに行くんだろう

ただそれだけ

それ以上もそれ以下も、感情などない



支度をした私は、会社に行き、終業まで時間をつぶした

そして近くの居酒屋へ

善人の歓迎会も兼ねて

という、もっともらしい理由を後から付けて、善人は飲まされっぱなしだった

No.171

善人には自然と人が集まる

目上からは、いじられながらも可愛がられているのがわかる

得な性格だ

私はお酒が強いことに感謝した

このメンバーはとにかく飲む

そして、みんな酔わない

そんな私もかなり飲んだのだろう

気持ち悪くてトイレで吐いてしまった

田舎の居酒屋だ

トイレは共用

入り口が開く音がした

早く出なきゃ

そこには

善人がいた



なかなか来ないから、心配でさ



ごめん、飲み過ぎたみたい





急に抱き寄せられ

キスをされた

俺と不倫してくれるって言ったじゃん

善人はそう言いながら、キスをし続けた

善人は本気だったんだ

ずいぶん長く感じた



私は



震えなかった

No.172

みんなに怪しまれるといけないから(笑)

善人はそう言ってキスするのをやめた

私はドキドキした

怖いとか嫌だとか思わなかった

席に戻ってみんなを見た

みんな知ってるんじゃないか…

そう思ったけど、気のせいだった



少しして善人が戻ってきて私の隣に座った

テーブルの下で手を握ってくれた

私は恥ずかしかったけど、嬉しかった



そのうち、お開きになり店の外に出て、みんな家に帰った

家に着いたのは夜中の一時頃

智之はまだ帰ってない

私は飲んでるときに、なぜなのか忘れたが、善人の父親の名前を聞いていた

それを覚えていて電話帳で調べて、電話をかけた

やはり少しは酔っていたんだろう

こんな時間に電話するなんて

その時はそんなの頭にない

善人の声が聞きたい…

No.173

電話に善人が出た

もしもし

あ、私だけど………

麻里さん?

うん

何でうちの知ってるの?

お父さんの名前言ってたでしょ?
だから電話帳で調べた

そっかぁ

ごめん、よく考えたらこんな時間じゃ、家の人起こしちゃった?

それは平気だけど、なんかあった?



もう少し、話したかったから………



俺も!



私は智之のことも忘れて、一時間近く電話していた

次の日、もう今日だが
私は朝から仕事

名残惜しかったが電話をきった



仕事中も一緒なのに



ずっと一緒にいたい



善人への気持ちが強くなる

だけど、このままにするわけにいかない

No.174

今度、家に智之がいる時に、離婚したいと言うことにした

智之に悪いという気持ちはある

夫に冷めたからって、していい事じゃない

善人は離婚してくれとは言わなかった

してほしいけど、俺から言えることじゃないから、と

私は離婚して善人と結婚は考えていない

まだ若いし、私より同じ年代の女の子と遊ぶほうが、楽しいだろう

もし一人でも、贅沢しなければお給料で生活できる

離婚を言いだすきっかけは善人かもしれないけど

一人でもなんとかなる



職場にはもちろん、ばれないようにしていた

仕事が終わると、ご飯を食べに行ったり、公園に行って車の中で話したりした

同僚とよく出かけていたから、智之も何も言わなかった

No.175

俺の誕生日までに付き合ってって、麻里さんに言うつもりだった

理由はよくわからないが…

確かに飲み会のあった日は善人の誕生日前だ

いつも私は指輪をしたままだった

善人は言わないが嫌だったらしい

善人といるときは指輪を外した

私は善人のキスが好きだった

震えることもない

ただ、それ以上は不安があったのと、離婚しないままそうなるのは嫌だった



そんな状態で2ヶ月ぐらいたった頃

私は同窓会に行く

一人だけ善人の事を話した子がいた



麻里、今日も会うの?

うん、だから一次会で帰るね



そして、私は途中で帰り、待ち合わせの公園に行った

善人の車を公園に置き、私の車でファミレスに行った



そして



今日はいつもより遅くまで大丈夫?



善人が聞いてきた

No.176

智之には同窓会だと言ってある



そのままホテルに入った



カラオケをしたりビールを飲んだりしてると



俺、シャワー浴びてくる



善人が出てから私がシャワーを浴びた



頭の中がどうにかなりそうだ

お酒もほとんど飲んでいない

でも、智之の時みたいにしようとは思わなかった

なぜか、平気な気がしたから…





そして



私は善人に抱かれた



震えることもなく





自然と涙がこぼれる

善人は、私が夫のことを考えて泣いてると勘違いした

私が泣いたのは

善人に抱かれたのが嬉しかったから



それに



大丈夫だったから



透のことは話さなかったけど、夫のことで泣いてるんじゃないと伝えた

No.177

その頃

智之は

私を探していた

私の車で行動しなかったら車は見つかっていただろう

善人と離れたくなかったけど、二人とも今日は仕事だ

私が家に帰ったのは、朝方

部屋に入って電気をつけたら

智之はそこにいた

寝てると思った私は、飛び上がるくらい驚いた



お前
今までどこにいたんだよ



同窓会…



こんな時間までやってんのか



仲の良かった子とお茶してたから



智之はもう一台の車で捜し回ってたのだ



こんな時間まで、旦那ほったらかしなんて、おかしくねぇか?

私は

自分だってほぼ毎日飲み歩いて午前様
家に帰れば吐いての繰り返しじゃない

私がそう言うと智之は突然
自分の病気のことを言い出した


智之の顔を見ると

酔っていた

No.178

私は意味がわからないまま話を聞いた

智之は一時間以上、同じ話を繰り返した

私と会うずいぶん前に病気で手術したこと

それをただ繰り返す

そして

それを私のせいにした



病気は気の毒だと思うが、もう完治していて、検査や薬を飲んでるわけじゃない

私とは関係ないこと

そう思った時、もうこの人とはいられない



言うなら今しかない





離婚してください



私は言っていた





智之は驚いた

それもそうだろう

いきなり離婚なんて言われたのだから



今度は泣き落としだ

病気はお前のせいじゃないとか、他にも訳の分からないことを言っていた

私はもう無理の一点張り



智之が仕事に行く時間になり、帰ったらまた話そうと言われた

No.179

私は仕事が昼からだった

それまで色々考えた

病気を私のせいにしたから、離婚したいと思ったわけじゃない

普段会話のない私たちが喧嘩をした

あとにも先にも、この時しか言う機会はなかっただろう

何ヵ月も前から、善人と会う前から思っていたことだ

私の考えは変わらない

以前、同僚が言ってくれたように

そのまま話そう



そして仕事に行くと、善人にホテルのことを言われた

やっと麻里さんがOKしてくれたから、俺嬉しくて寝らんなかったよ



若い子はもっと軽いと思ったけど、本当に嬉しそうだ



私は一人になって、きちんて善人と付き合いたいと思った



そして帰ってからのこと、今日また智之と話すことを伝えた



善人は心配した

私は大丈夫と言ったけど、ダメだった

俺も一緒に行くよ

No.180

智之に善人のことは言ってないし、言うつもりもない

ずるい考えだが、言えば離婚を認めないだろう

それを善人に言うと

じゃあ、なんかされそうになったら、大声で叫べ!
助けを呼んで外に逃げるんだ

そこまでしなくても、と思ったが、今朝の智之の様子じゃわからない

わかった

私がそう言っても善人は不安そうだった

離婚の理由は他にもあるが
善人のことは話さない

自分は最低だと思った





そしてその罰は、いつか必ず自分に返ってくる………





その日の夜、朝より落ち着いたのか智之は冷静だった

逆に怖い、息が詰まりそう

玄関の鍵は閉まっている

わざわざ開けるのは不自然だ

私は喉が渇いたと言って、ジュースを買いに行き、玄関の鍵を開けておいた

その時、外に善人がいたのも気付かずに…

No.181

善人は心配して、外にいてくれたのだ

何かあったときのために



智之が冷静だったのは、実家に行き両親に話したからだった

親に離婚してもいいか了解をとってきた

こんな言い方は悪いが、
三十男が自分で何も出来ないのか

呆れてしまう

親がいいと言えば離婚してダメと言えば離婚しない

ただそれだけの関係

結局、私たちは夫婦になれなかった



話は金銭のことになった

私たちの貯金は、結婚三年で1000万近くあったが、三分の一は智之の独身時代のものだ

残りは二つの通帳で管理していた

1つは将来のため
もう一つは、普段何かに必要な時に使うため

私は普段何かに使う方を貰うことにした

No.182

当時、私はサービス業だったので時間外や休日手当がつき、給料は智之の倍近くあった

貯金はほとんど私の給料から
そういうことを智之は気にする人だ

私は引っ越し費用や生活用品を買うのに、必要な分があれば良かった

離婚してから何か言われるのも嫌だから、金額の少ない貯金の方でいいと言った

そうすると

智之は嬉しそうだった



そして

離婚の挨拶をするから、週末の都合を私の両親に聞いてくれといわれた

結婚の挨拶ならぬ離婚の挨拶?

これはどこでもやるのか?

私は初めて聞いて、不思議に思った



そして、私はこの日から実家に戻るため、少しの着替えを用意してアパートを出た

車で出ると善人の車と同じのが少し先に見えた

まさかね…

私はそのまま実家に向かった

No.183

アパートから私の実家まで車で五分

さっきの車が気になり、実家についてすぐ、善人の携帯にかけた





もしもし

善人?もしかしてアパートの近くにいる?

いるけど…って麻里?
何かあったか?大丈夫か?今どこだ?



一気に言われて思わず笑ってしまった

心配してくれたんだ
それに、麻里と言われたのが恥ずかしかった



今、実家だよ

え???



今日の話をするのに、近くのファミレスで会うことにした

夜遅くはファミレス、コンビニ、カラオケぐらいしかこの辺はやってない



うちの両親は起きていて、私に何か言ってたけど

あとで話す!

私はバタバタと出かけていった



善人に会って話の内容を言った



離婚届け、出すって言って出さないんじゃね?

心配そうだった

私は、義両親が口出ししてきたのと、離婚の挨拶に来ることから、大丈夫だと思った

No.184

私は自分の両親に

離婚する事や話し合った事を話した

絶対に父の逆鱗に触れるだろう………

ふれなかった

拍子抜けした



両親は、結婚はやめさせれば良かったと思っていたそうだ

私がいつも愚痴ってれば違っただろうが、心配かけたくなくて愚痴らなかった

それが余計に心配だったと

うちの両親は

自分で決めたんでしょ!
離婚したっていいぞ!

私には喜んでるようにしか見えないっ…💦



週末になり

義父、仲人、智之がうちに来た



仲人:
この度は、離婚することになり………………

義父:
今回は縁がなかったということで……………

私の両親:
 無言



こんなやりとりが、しばらく続いたそうだ

私は仕事だった

母が
アンタはいなくていいよ
二人は話し合ったんだから

私もいたくなかったので仕事に来たが、両親が責められてるんじゃと、気がきでなかった

No.185

家に帰り、母に

どうだった?

どうもこうも、離婚して正解だよ!
なんだろうねぇ、あの人たちは…

母は挨拶に来た三人の様子を見て、
この人たちはおかしいんじゃないか?
と思ったらしい

私から離婚を切り出したから、謝るならうちの方だろう

そう思って父がその事を謝ったらしい

口のたつ父が、話す気をなくすぐらい相手は変わり者だということだった

そして智之のサインのある離婚届け

テレビで見たのと同じ…

私は自分の名前と印鑑を押した

明日、私の実家に智之が取りに来て、その後、役所に出す

アパートの鍵も実家に置いていった



そして



智之から実家に、離婚届けを出した、と電話があった




私は

杉本麻里に戻った

No.186

それから私はアパートに戻った

片付けもあるし、引っ越し先が見つかるまでは、ここにいることにした

私はズルくなった
ここを出るまで約一ヵ月ある

家賃や公共料金の引き落としは、智之の通帳からだ

思う存分、一人暮らしを満喫しようと思った



会社には同じ課の上司と、同僚に話した

もちろん善人は知っていたが、誰よりも驚いたふりをした

あとの会社関係は限られた人にだけ、上司から話してくれた

離婚を知っているのはほんの数名だ
仕事は智之の姓のまま、することにした
離婚が他の社員に知れ渡れば旧姓で、そう思った


みんなは

悩んでるなら相談してくれれば良かったのに、とか逆に心配してくれた


私は一人になったことが
何より嬉しかった



これでいつでも善人に会える………

No.187

あっさりと離婚が決まり
善人もびっくりだ

付き合ってから私は

もともと離婚するつもりだった
必ず離婚するから待っていてほしい

と、怪しげなことを
一度だけ言った

ありがちな言葉だろう



私は本気だとわかってほしくて言ったのだが

普通に考えれば、旦那がいるのにその旦那を裏切る

そんな人間の言うことを信用出来るはずない



善人と出会って二ヶ月で、私は言葉の通りにした



善人も安心したようだった


善人を好きになったから、私は、毎日が楽しかった

離婚の決断が出来て、違う人生が始まる

まるで生まれ変わった気がした





アパートを出るまであと二週間

異変に気付いた

銀行からおろしたお金を封筒に入れて、ある場所にしまっておいたのだが…

その場所を見ると、何か違う

封筒の中身は空だった

No.188

>> 187 ののです。訂正です😣

175》
2ヶ月→約1カ月半です😣

微妙なことですが、麻里にとっては

たぶん重要です。



このあとも

よろしくお願いします

No.189

部屋の様子は変わってない
玄関や窓も鍵がかかっている

お金だけがなくなっていた

泥棒?



違う

私がお金をしまう場所を知っているのは



智之だけだ



善人はこの部屋に入ったことはない

智之の鍵も私の実家に置いてきている

合鍵を作ったんだろう

マスターキーをうちに持ってきて…

腹がたつが証拠がない
同時に情けない

私より十倍近い金額を智之は持っているのに

実家じゃ小遣い以外、使わないはずだ

お札にわからないように印を付けて、封筒に一万円を入れた

二日後、私が遅番の日

お金がなくなっていた

智之に電話しようと思ったがやめた



それより

私がいない時に、こそこそされるのが気持ち悪い

玄関のチェーンのかかっているのを確認して、私は大急ぎで荷物をまとめ始めた

No.190

洋服や化粧品、靴やカバン
とにかく大きなカバンに詰めたり、スーパーの袋に入れて車のトランクにしまった

電化製品や食器棚、タンスなどは業者に頼んであった

食器や調理器具は、引っ越し前日か当日に早く来てやれば間に合う

とりあえず実家に行くことにした



母は
相手にしないほうがいい

本性がよくわかって、逆に良かったんじゃない?

呆れていた



私も考えるだけイラつくから、寝ることにした



次の日も遅番の私は、午前中アパートに行った

この時間は智之は仕事だ

私は目につくところに

智之がお金をとったのを知っている

そんな内容の手紙を置いた


それに、家に入った証拠がわかるように、ある仕掛けをしておいた

No.191

仕掛けといっても大げさではない

玄関を開けると、カラカラ音がするのを、ドアの内側にたくさんつけておいた

隣の奥さんは、うるさ方で有名だ
特に物音には敏感でよく文句を言っていた

何も知らずに開ければ、うるさいだろう

聞けば絶対に、誰か来ていたかがわかる



次の日の夕方、仕事が終わってアパートに行き玄関を開けると

!!!!!

一斉にカラカラ音が鳴りだした
自分でしたのを忘れてた

それらを外し、食料品を片付けていると


ピンポーン


誰か来た

玄関のスコープから見ると

隣の奥さん(笑)


ヤバいと思いながらドアをあけ、私が先に謝った



スミマセン、うるさくして
もう片付けたので…



こんばんは

昨日、旦那さんにも言ったのよ
まぁ、片付けてくれたならいいけど



やはり、智之が来ていた

No.192

はっきりわかって本当にスッキリした

勝手だとは思うが
離婚して良かった!!!

そう思った



引っ越しまであと数日

私はいつもの公園の駐車場で遅番の善人を待っていた

善人が来ると私が車を降りて、善人の車に乗り換える

ただ、その場で話すだけ

これまでに何回もしていたことだ

腹減った、腹減ったと善人が騒ぐので、どこに食べに行くか決めていると





麻里さん

俺と結婚してくれ
必ず、幸せにするから……………………………………ちょっと訂正……………………………………………
必ず………幸せに………

いやぁ、普通にしかできないかもしれないけど(笑)

結婚しよう





善人からの

プロポーズだった

No.193

私は嬉しくて泣いていた

大好きな人からプロポーズされて、嬉しくない女はそういないはずだ

私が離婚したばかりで、すぐに言ってきた善人にも驚いたが、結婚したいと思った自分にもっと驚いた



善人の、ある言葉で、



この人と結婚したいと思った



そして





はい





と、答えた





よっしゃあーーーーー!!

善人が叫んでいた

No.194

だけど…私たちは

考えたり、解決しなきゃいけない事がたくさんある

善人はわかっているんだろうか???

付き合いだした頃、善人の友達が

彼女が年上のお姉さんで、それも人妻で不倫
よっちゃんは、俺たち若造の憧れを独り占めかよっ

かよって………
どんな憧れだか理解に苦しむ(笑)

それに私は年上で初婚ではない
善人は長男だ、善人の親がどう思うか…



私が一番気になるのは…

智之の家と善人の家の場所が近いことだ

隣の町内会

そして斜め前と、その先の家は

智之の同級生の家で、1人は私もよく知ってる人だ

よりによって、同じ地元なんて………

今度こそ親が反対するかな(笑)

No.195

嬉しいからって
善人と結婚する

素直に喜べない自分がいた

善人はまだ遊びたい盛り

今はお金も時間も一番自由がきくし、年上のバツイチより、もっとふさわしい人が現われるんじゃないか

結婚するのがどういう事かわかっているのだろうか



離婚して善人と付き合って別れないとも限らない

一度失敗すると、勢いだけじゃ無理だ

思ってることを善人に話してみると



麻里さんが離婚するのは、俺が望んだこと
今度は嫌な思いさせないように、俺が麻里さんと結婚する

細かいことは、その時考えればいいじゃん

それより
腹減った



若いなぁ…💦
私が深く考えすぎなのか?


善人は

勢いだけの面もあるけど、それが不思議と良いほうに向かうことが多い

それに言ったことはやる

いい意味でも悪い意味でも



今は

そう思うよ

No.196

引っ越しの日

善人は仕事を早退して、買い物に付き合ってくれた

そして新しいアパートに戻ると



俺、今日からここに住む!

???

家に電話して

今日から女と住むから
なんかあったら携帯に電話して

それだけ言って電話を切った



家の人、なんだって?
私が恐る恐る聞くと…

わかったって



それだけですか?

ひらけたご家庭なのか…



こうして、引っ越し初日から同棲生活が始まった

この頃からお互いを

麻里
よっちゃん

と、呼ぶようになった

会社帰りに、仕事の服と下着に着替えを持ってきて、善人の引っ越し終了

この展開の速さに、私は追い付いていけない

まだ、善人の親と会ったこともないし、私のことを何も話していない

私も親に話していない



それに



あの事も…

No.197

引っ越しの片付けも私一人の荷物だけだから、すぐに落ち着いた

予定外のものが一人増えた気がするが………



私は実家に行き、片付けが落ち着いたのを話した

そして



一緒に住んでる人がいること
結婚しようと言われてることも…

善人のことを簡単に話すと

母は

望まれての結婚がいいって言ったでしょ
若いのによっちゃんはしっかりしてるね~

智之と比べると、善人は10才若い

たしかに勢いだけの気もするが、頭の回転が速いし、色々考えてもいる

うちの親、特に母親はべた褒めだ

離婚したばかりなのに善人を受け入れてくれて、私は安心した



そんな頃

智之の義親の選挙カー並の宣伝が始まった

私たちが離婚したことの…

No.198

私のいる会社は、智之やよっちゃん(善人)の地元ではみんな知ってる会社らしい

小さな地域だがそこでいくつか事業をしている

私とよっちゃんのことは、この時まだ、智之達は知らない

義親は、私の職場や他のグループ会社、近所のスーパーなど、どこでも離婚したと話した

特に職場にはご丁寧に挨拶周りのようだった

さすがによっちゃんの耳にも入る



本人が言いふらすならわかるけど、親があそこまでやるのか?

あいつらは、その程度だって事だよ

麻里は気にすんな

そう言ってくれた

よっちゃんは私に内緒で、職場で私をかばってくれていた

そのおかげか

智之の別れた奥さんというありがたくない称号も、そのうち消えていく



二人の生活は変わらないが、よっちゃんは少しイライラしてる日が続いた

No.199

よっちゃんは物凄く短気だ

態度もデカイし声もデカイ

前にもこんな人がいたが…

手を挙げることもないし、喧嘩っ早いのではないけど筋が通らないことは、許さない



(私、何かしたかな…)

不安に思ってると



ちょっと、家行ってくるわ



そのまま実家に行ったよっちゃんは

俺、今の女と結婚するから

ただ、その前に聞いてほしいことがある

私の事を親に話した

ここで、智之の親戚とよっちゃんの母親の親戚が、遥か彼方ぐらい遠いが、身内であることがわかり

田舎だから、二人が結婚したら、間違いなく智之の事で、近所からあることないことを言われるだろう、と

よっちゃんは俺が盾になると言ったそうだ

よっちゃんの親も私を守ると言ってくれた



今でも
噂話は、私の耳には一度も入ってこない

その事には
本当に感謝しています

No.200

まぁこの時、よっちゃんの親から、大きなお世話的なことも言われたが、相手が私だったからだろう



そんな事になってるとは知らない私は、部屋でどんよりしていた

そして

よっちゃんが帰ってきた



うちの親に、お前と結婚するって言ってきたから

今度連れてこいって!

はぁ~、俺、緊張したよ
お前のこと話しに行かなきゃって、ずっと考えててさ

話してる間、汗かいたよ



だから最近、イラついてたのか



他の人なら、こんなに考えなかったね

結婚する、で終わるのが

バツイチのことを言わなきゃいけない

私といると

きっと

苦労させちゃうね



よっちゃんが

いつか私を嫌になる日がくるような気がした

No.201

四六時中、一緒にいると、お互いのいい面も悪い面も見えてくる

そう言う意味では、同棲するのも有り、だろう

相手と無理だと気付いても

付き合ってる間は、別れ
結婚してれば、離婚になる


私の場合は

一目惚れだったから最初はいいとこしか見えない

同棲してよっちゃんがどんな人か、わかった

結婚話がなく、付き合うだけなら私は別れていただろう



結婚を考えた時
いろんな妄想をした(笑)

その妄想の中で、ある光景が浮かんだ

この人なら………

私はずっとよっちゃんといたいと思った



部屋でよっちゃんの肩揉みをしながらテレビを見ていた

ある女性が子供を諦める、という内容だった



よっちゃんは思ってもみなかったのだろう

自分の肩を揉んでる人間も同じ経験をしていたなんて

No.202

麻里も俺に隠してるんじゃない?
本当はこういう事あったりして



知らないとはいえ

残酷だ

バカにしてるとか、ふざけているのとも違う

ただ、テレビでやってる事を口に出しただけ、内容がたまたまそうだった

よっちゃんからすれば、その程度のことだろう





私は

黙ってしまった





麻里?

そうなのか?





もう、終わりだと思った



明日、実家に帰ろう

よっちゃんは私じゃなくても、お嫁さんはいくらでも見つかる

透のことを言えば、私なんか嫌いになるだろう



頭のなかで、考えがグルグルしてる





二人して沈黙………





麻里

話してくれるな?





よっちゃんに全部話すことにした

No.203

話したら、この関係も終わるだろう…

そんなにうまくいくわけないか………





私は透の事を話した



された事を全て



そのあと、体がうけつけないことも



よっちゃんは、今まで見たことない怖い顔で話を聞いていた





そして



でもさ、お前の気にしすぎなんじゃねぇの?



………………?



子供はかわいそうだけど、そういう経験ある人って、わりといるんだろ?



それに子供を諦めたから、今、俺といるんじゃねぇの


そう思ってくれよ



あとさ

拒否られたこと







一回もないよ



俺は平気なんでしょ?



じゃ、いいじゃん



この話は終わりな!

No.204

私が、考えすぎなのか

いつまで引きずっても、良くならないとは思う

だけど簡単に忘れられるものでもない

ずっと

どうしたらいいか、わからなかった



悪く考えれば悪いほうにしか行かない

よく考えれば良いほうへ向かう



そういう事があったから、今の二人がある



よっちゃんは、私と逆の考え方をする人だ



だから

私は安心できたのかもしれない

確かによっちゃんとは平気だった

恐怖から震えることもない

でも、またなるかもしれない

その時はまた考えよう



きっと魔法の言葉を言ってくれるだろう





でもね



言葉は人を傷つける道具にもなる



それを思い知るのも



よっちゃんの言葉だったよ

No.205

この時のよっちゃんは

そういう事が本当にあるなんて、考えたこともなかったらしい

口では
わりといるんだろ?

そうは言ったが

普通のことって意味で、言ったのでもない

私に気にするなって意味でそういう言い方をした

昔のことをあれこれ言っても戻ることは出来ないから



私は、前向きすぎるぐらいのよっちゃんが
いつも強いよっちゃんが

羨ましいよ



同棲して数ヵ月

理由は忘れたが、職場の休憩室で大喧嘩をした

私は

机や椅子を投げて暴れていた(^o^;



(気持ち悪い)

ミニキッチンに行った



帰るっ
みんなに具合悪いって言っといて!

私は可愛げない言い方をした



お前…



病院行ってくるよ



アパートに帰り、考えた



生理は今週か来週



まさか………



私は近くの産婦人科に行った

No.206

病院で診察を受けた

内診のあと、エコーをみた

医師の言葉が信じられない

四週だね

予定日は○月○日



赤ちゃん………



病院からアパートまで車で5分くらい

なんとなく帰りたくなくて買い物して帰った

アパートに戻ると

よっちゃんが帰っていた





どうだった?





赤ちゃん、いたよ





喧嘩したのもあったが、反対されると思った

よっちゃんはまだ21才だ

私からすると

まだ若い



私一人で産もう…



そんな事を考えてると





これから無理しないようにしないとな



えっ?………いいの?



お前何言ってんの
俺たち結婚するんだろ



赤ちゃん、良かったね
パパ喜んでくれたよ



俺も父ちゃんか(笑)

No.207

この頃が

なつかしい

純粋に

幸せだった

これから産まれる赤ちゃん

それがよっちゃんの子なら尚更うれしい



結婚式は二人とも挙げるつもりはなかった

私は二度目だから

よっちゃんは、妹が式を挙げたばかり、親にも負担がかかりすぎる

というのは建前

父親は見栄っ張りだ

妹の時、旦那より招待客を呼び、知り合いの議員に電報を頼む

うんざりしたそうだ

私が再婚だからと強く押し、納得してもらった



籍を入れようとしたら

この時点で私は離婚して6ヶ月過ぎていなかった



じゃ、過ぎたら籍入れようぜ



よっちゃんの考え方には
この後も何度も救われる



それから2ヶ月後

突然よっちゃんが



俺の実家に引っ越そうぜ



とんでもないことを言い出した



え……………っ💧
また同居?

No.208

よっちゃんの家族は

両親、よっちゃん、妹、弟
動物…たくさん💧



妹は結婚したばかりで今はいないが、来月には出産のために帰ってくる

弟は、まだ高校一年生💦

両親は働いていて、昼間は誰もいませんが………



同居は嫌だと言ったが、

よっちゃんは



家賃と車のローンもあるし俺一人の給料じゃ、貯金も今までみたいに出来ない

子供が産まれたらもっとお金がかかる

だから俺んち住めば、家賃分は貯められるじゃん!



間違いではないかもしれないが…



それに前みたいな思いはさせないって言ったろ?


そうだけど………



大丈夫だって!





やはり

若いって、いい事もあれば
常識はずれの事もある

No.209

私は

家族

というのに、こだわりがあったのだろう

私の家が違うとか、あそこの家が理想とかじゃない



子供が一緒にパパを待ち、帰ってきたら
子供と競争しながら玄関まで向かう
(広い家ならの話だ)


なんとなく、私とよっちゃん、子供の生活だと思ってたから

同居だと私の小さな夢が…



幸い、よっちゃん一家は、

個々の性格がいい人達なので、前の同居と同じにはならないのは、私にもわかる



でも

どんなにうまくやれても

他人だ



それとも私がわがままなのか?



この同居も



いずれ………





結婚は、親とするわけじゃない

そうかもしれないが

それが出来れば



幸せだろう

No.210

お金を貯めなきゃ

あとは私の体調に何かあったとき、実家なら誰かいる可能性もある

よっちゃんなりに考えたのだろう

あまりにも簡単に考えすぎの気もしたが、私も初産で不安もある

よっちゃんの親に了解をもらい、同居することになった

私も学習能力がないんだろう💦



よっちゃんが休みの日に、引っ越すことにした

私は午前中だけ仕事にでて午後は早退した

今度の引っ越しは

人が住んでる家に荷物を運ぶ

タンスや冷蔵庫、普段使っていたものが、全て二倍になる

それをうまく収めた業者とよっちゃんに感心した

細々したものをアパートに取りに行き、掃除をして終了

よっちゃんの家に行くと、

弟:
お兄ちゃんたち、今日は早いね

よっちゃん:
おう、今日からこっちいるからよ

弟:
そっかぁ

No.211

和くん?(よっちゃんの弟)
それだけ?

弟の和くんは、友達と原チャリで出かけていった



夕方になり、お義母さんが仕事から帰ってきた

このお義母さんは働き者だ

頭が下がるくらいの働き者



気が付けば妹の綾ちゃんと旦那も帰ってきた

いよいよ食事

大人が7人+猫二匹の夕飯だ



おかずの量が半端じゃない

みんなよく食べる

お義父さんも好き嫌いがあった

前義母に比べれば屁でもないが(笑)



この時思ったことは

食べ続けたら病気になる…



とにかく味付けが濃い

醤油挿しに移し替えた量を一度の食事で使いきってしまう



理解不能。。。





私は次の健診でひっかかってしまった

No.212

なるべく、選んで食べていたが、濃い味付けに更にプラスじゃ、ね

出産直前まで、病院で言われてしまった



この同居にはもう一つ理由がある

お義父さんは口ではいい事言うが、それだけだ
いざという時は、まるでダメ

そのせいでお義母さんも苦労があるようだった

私たちが同棲してた頃、ゴタゴタがあったらしい

よっちゃんの伯母から

お前がいないと、あの家はどうにもならない
戻ってやってほしい

そう言われたそうだ



身内のゴタゴタ

お義父さん側の身内の話は聞いていたが

いい大人が解決出来ない事を、よっちゃんが出来るのか?



この時も話をつけたのは
よっちゃんだった

高校生の頃から解決してたらしい

この家は、よっちゃんが主人のようだった

No.213

私は同居してから、自分だけのルールを一つ作った

我儘なルールだ



食事(夕飯)は作らない
(当分の間)



やはり食生活があまりにも違う

お義母さんは作るが、半分はお惣菜だ

みんなが囲める大きなテーブルに、隙間無くおかずが並ぶ

いくらかかるんだろう(👛)
私の実家は一汁一菜だったから、この量を用意するのに検討もつかない


私は出産近くまで仕事を続けるから、いつもやらなくてもいいのだが

いつも食べてるものを観察しようと思った

宣言したわけじゃないが、妊娠してるのと仕事の事もあり、何も言われない





そして一ヵ月後



綾ちゃんに男の子が産まれた

母子共に健康



ちっちゃくてかわいい!

No.214

私は病院で性別を聞いていた

よっちゃんは産まれるまで知りたくないと言っていた

みんなで話している時、綾ちゃんが聞いてきた

私は小さな声で答えた

みんなそれぞれ、性別のことを言っていたら

その場をぶち壊した人がいた



よっちゃんだ



何で言うんだよ
俺がいるのわかってんだろ



よっちゃんからすれば、気に入らないだろう
産まれてくるまでの楽しみだったから



でも、よっちゃんは



俺、もう知らない



(はぁ?)

言っちゃ悪いが、たかが性別だけで、自分の子のことを

知らない

まで言うか



私は部屋に行き、母子手帳を持ってカバンに荷物を詰めた

お義母さんが

よしが見ないなら私が見てやっから、気にしちゃダメだよ
体にさわるよ

No.215

リビングではよっちゃんが

産まれるまでの楽しみだったのに、言われちゃったらねぇ(笑)

綾ちゃん夫婦たちと話している

きっと綾ちゃんたちは、
ひきつってただろう

だって

だれもよっちゃんには
何も言えないんだから



私はそれから部屋にこもった

食事はとるが、その後は部屋から出ない

よっちゃんを無視し続けた

子供の命に関わるようなことを私がしたのなら、こんな事はしない

性別がわかっただけで、私を皆の前で罵倒したのが嫌だった



私も謝ればいいのだが
絶対にしなかった



そのうち、よっちゃんが折れた

私は

アンタのくだらない楽しみで、こっちは赤ちゃんの物を何も用意してないんだよ

可愛いのがあっても、色でわかるからとか
そんな楽しみも私はないんだけど

No.216

よっちゃんはそんなのは考えてなかった

だから、赤ちゃん用品に目がいくとかわからないのだ

俺が言い過ぎたと謝ってきた





お腹の子は、

よく動いているが逆子だった



医師に

まだ中で動けるから頭が下に向くかもね
でも、次の健診で逆子のままなら、初産だし帝王切開のほうがいいなぁ



うっ、人生初のメス(T_T)

経産婦なら足やお尻からでも、赤ちゃんの位置がよければ、自然分娩出来る場合もあるらしい





会社も、そろそろ退職する時期になった

実は私の妊娠はよっちゃん以外は誰も知らない、気付いていない

上着でごまかしたりしていたが、会社で気付かれなかったのは奇跡だ

No.217

私とよっちゃんが付き合ってる
一緒に住んでて、赤ちゃんも産まれる

なんて誰も知らない



うちは職場恋愛禁止
ばれたらクビだ



どうせ私が辞めるんだから関係ない気もしたが

よっちゃんは
子供が産まれるのに、もし俺がクビになったら困る

すごく気にしてたから、私達はバレないようにしていた

籍を入れて、子供が産まれたらバレてしまうけど



私は退職の理由を智之一家のせいにした

あんな風にされて、仕事しづらい

上司もあっさり認めてくれた



仕事を辞めてからは毎日暇だった

その翌月

よっちゃんの誕生日に入籍した

去年の同じ頃

一年後にこんな展開になってるとは、想像できなかった


私は



宮原麻里になった

No.218

それからは平日休みのよっちゃんに運転手を頼み、銀行など旧姓から宮原への変更をした

女は
(絶対に女だけ!じゃないですが…)

大変だなぁ

よっちゃんがポツリと言った

(少しはわかったか!!)



出産まであと少しの頃
逆子体操も虚しく

赤ちゃんはMr.逆子ちゃんのままだった

手術、約二週間の入院

私が通っていた病院は、雑誌にもたびたび取り上げられていた病院

わざわざ選んだのじゃなくて、大喧嘩の日に行ったのがこの病院だ

アパートから一番近かったから…
今じゃ、遠くなったが(笑)


お金かかるんだろうなぁ



今から思えば

この時ほど社会保険が有り難かったことはない

No.219

臨月になり私の体重もお腹もMAXだ

特に体重は病院で注意されるほどだった

食べる量は変わらないけどなぁ



健診で手術の日にちを言われた

曜日や時間で診察内容が違っていて、私は手術の曜日の午後一番だ

帰ってからそれを言うと

お義父さんとよっちゃんが



この日は仏滅だから次の日にしてもらえ!



私には理解できない

土地柄だろう

六曜をすごく気にする

私や実家の両親は全く気にしない

お祝い事や気にしたほうがいい時があるのは、もちろんわかるが



くだらない…



私は、盛り上がってるよっちゃん達を残して、部屋に行った

No.220

確かに誕生日が病院の都合で決まるのは………

でも、仕方ないことだ

自然分娩なら大安も仏滅も言ってられない

そんな理由で産まれて、毎年誕生日は大安になるのか?

潮の満ちひきや月は、お産と関係あるとも言われてるらしいが

自分ではわからなかったけど、赤ちゃんも下がってるらしい

足が下だから、バタバタ動いて下がってるかどうかなんて、わからなかった

私や子供のことより日を気にするのか?

勝手にしろ!

そう思った



よっちゃんが部屋に来て

お母さんが
お姉ちゃん(よっちゃんちの人は私をこう呼ぶ)の
体を考えたら、いつがいいなんて言うことじゃない

と、言われたらしい



当たり前だ、言われなきゃわかんないのか

三人産んで育てた人には、男たちも何も言えまい

No.221

手術の数日前

私は実家に帰った

よっちゃんは社員旅行

いて欲しがったが、たまの息抜きだ

でも、無償に淋しくて夜になると泣いてしまった

帝王切開は何の問題もなければ、手術自体は15分くらいだそうだ

だけど、やっぱり不安もある

付き合ってから離れるのも初めてだった

年甲斐もなく毎日泣いてしまった

不満があっても年下でも、やっぱり、よっちゃんがいないと嫌だった



手術当日

うちの母、お義母さん、よっちゃんが来てくれた



いよいよ手術

手術室にはガラス戸のスチール棚がある   

綾ちゃんも同じ病院だった

綾ちゃんから、ガラス戸から様子が見えると聞いていた

最初は全身麻酔ではない

私はガラス戸を見ないようにした

レーザーで切ってる(;_;)

宮原さぁん、赤ちゃん産まれますよ





オギャア





産声だ


この瞬間、私は本当に親になった気がした

No.222

なんとも言えない気持ちだった

子供を見て涙が出た



ホッとするのもつかの間

その後も事務的に進んでいく

どこかの大学病院のおじいちゃん医師と主治医の二人が手術を行っていた

主治医が

教授、何時の特急で帰ります?

と聞いてるのを、全身麻酔がきく間に聞いてしまって拍子抜けしたのを覚えている





病室で意識が戻りかけてきた

個人差があるが、私は術後の痛みが強かったみたいだ

お腹が痛くて騒ぎたかったが、意識がはっきりしないしどうにもならない

お義母さんと伯母さんの声が聞こえた

悪いが相手が出来る状態じゃないから、唸りながら寝たふりをした

夜になり、お義父さんやよっちゃん、弟や妹夫婦に甥っ子、勢揃いしていた

私は痛みと疲れなのか、半分起きて半分寝てるような感じだった

No.223

みんないるのがわかったけど、そのまま寝てしまった

次の日、母が着替えなどを持ってきてくれた

昨日と違い話せたのだが、母が…

いくら病気じゃないからって、体を切ってるんだからすぐ帰ったけど、あちらさんは?

私は昨日のことを話した

喜んでくれて有り難いと思わないと、やっていけないよ

意味がよくわからなかったが

後日すぐわかった



毎日来てくれるのはいいがずっといるのだ

私はトイレもまだだったから管を付けていた

あまり見られたくない

薬を飲んだあとは収縮の痛みが、痛くて痛くてうなってしまう

タイミングよくその時に病室に来られても、私も困る

その痛みもあと数日

よっちゃんに

まだ入院してるし、悪いけどあと二日くらいは、お見舞い控えてもらえないかな
せっかく来てもらっても、私も相手できなくて悪いから

わかった、言っとくよ

No.224

翌日は日が良かったらしい

いつもより人が多く来た

私が唸ってるときに…

私は寝た

薬を飲む時間だって決まってるから、痛くなるのも大体同じだ

その時間も言ったのに…

それとも、痛くなる時間に来てくれって、よっちゃんは言ったのか?



食事がとれるようになってから、他の人と食堂で三食食べる

ある日の昼食

食堂のドアから年配の男性と若い女性が、誰かに向かってお辞儀をしていた

みんな知らない人みたい…

私が見ると頭を下げる

???

知らない人だ

席を立ち二人のとこに行った



私に会いに来たらしいが、私は知らない(;_;)



私は食事が終わるまで、ロビーで待ってもらうことにした

No.225

席に戻ったら、他のママさんから、親戚の人?と聞かれた 

お義父さんの親戚らしいが式もあげていない私は、顔も名前も知らなかった

出産すると親戚が増えるのか?みんなで笑っていた

何話そうか考えてるうちに食事も終わり、親戚と会った

親子で来ていて、娘さんも近々帝王切開するらしい

私に話を聞きにきたのだ

簡単に話をして、帰っていった

よっちゃんに言ったら、

俺も伯父さんと一回しか会ったことないし、娘なんて知らない、何しに来たんだ?と言っていた

あれから十年以上経つけど、それから一度も会ってない💦



退院の日が決まり、よっちゃんに言うと

日が悪いから

また始まったと思った

結局、二日も多く入院することになった

退院の日、私の母が迎えにきてくれて実家に帰った

No.226

実家で1ヶ月ほど過ごし、よっちゃん家に行くのだが

これから何があるのかなんて、考えていなかった



出産後初めてよっちゃん家に戻り、荷物を片付け、綾ちゃん一家も合わせ9人で食事をした


甥っ子が来るとお義父さんがお風呂に入れる

うちはよっちゃんがいる時はよっちゃんが、いない時はお義父さんが長男をお風呂に入れていた

綾ちゃんは、甥っことよく泊りにきた

実家だから来ても当たり前だし、私も育児のことを聞いたりする

心強いのもあるが、そのうちあることに気付いた



当時も今も、綾ちゃんが何も企んでいないのはわかる

綾ちゃんの旦那はよく飲みに行く
だから、お風呂が困るからと実家に来ていたけど…

いつもよっちゃんが遅番の日に来ていた

お義父さんの態度が明らかに違うのだ

No.227

外孫内孫とかも気にする地域だ

甥っ子は外孫とはいえ初孫だから可愛がるのもわかるし、一緒に住んでいるわけじゃないから来たときに可愛がるのもわかる 

だけどお義父さんのそれはなんか違う気がした

お風呂は甥っ子だけしかいれない

赤ちゃん用のお菓子なんかも、甥っ子だけ他の部屋に連れていきあげていた

うちのほうが月齢が小さいから、同じようにはいかないのは百も承知している

だんだん成長するにつれ、明らかに長男を無視していた

甥っこがお義父さんを追い掛けて後をついていくと、ニコニコしながら待っている

長男がその後をハイハイしていくと、部屋のドアを閉める

入れないから長男が泣く

いつものことだが、よっちゃんがいるとやらなかった

No.228

お義母さんはわかっていて気を使うこともあったが、聞く耳持たない

私も普通にしていた

前の結婚と違い、よっちゃんに言えばきちんと親に話すのがわかっていたから

初節句が近くなった頃、お義父さんがお義母さんにこう言っていた



甥っ子とうちの日にちが重なれば向こうに行く、と

綾ちゃんのことだ
うちと日にちをずらすのはわかっていたが、私はよっちゃんにお義父さんが言っていたことを話した



よっちゃんの家では、よっちゃんに誰も頭が上がらない

今まで何かあっても、親が出来ないことをやってきたからだろう

威張ってるわけじゃないけど、問題があればよっちゃんがみんなに諭す

そんな感じだった



節句のことでよっちゃんに言われたお義父さんは、更に長男を無視した

No.229

長男が寄っていってもお義父さんは知らんぷり

払い除けることはないが、膝の上まで行き、あーあー言っても無視、長男を見もしない

もちろん膝に乗せて抱っこもない

私のことも気に入らないのか時々無視していた



綾ちゃんたちは相変わらず、というよりほとんど一緒に住んでいるみたいだった

綾ちゃんの旦那も何も言わないんだろう 会社もアパートからではなく、こちらから通っていた

木曜日に実家に来て火曜日の夜、自分達のアパートに帰る

まともにアパートにいるのは、水曜日だけ

甥っ子が40度の熱を出そうがなんだろうが、保険証だけをアパートに取りに行き病院に行って実家に帰ってくる

私がいても気兼ねなく来れると思ってるのだろうと、いいほうに考えることにした

No.230

お義父さんとよっちゃんは、頼られると機嫌がいい

それ以外にも私からはあんまりうれしくない部分が似ているが

私と話すときは長男と遊んでくれるけど、綾ちゃんたちがいる時は前と変わらなかった



よっちゃんの親は、私と私の親が本当の親子じゃないのを知らない

何かで戸籍を見たとか、聞いてきたら俺が話すと、よっちゃんは言っていた



やっぱりバツイチの嫁は気に入らないのかな…

私はいいけど、孫はよっちゃんの子供だ
長男には普通に接してほしかったので、私も気をつかうようにした



私もストレスを感じていたんだろう

長男は感じ取ったのか、綾ちゃんたちが帰った日は夜泣きをし、次の日はぐずりっぱなし

そして次の日はまた綾ちゃんたちが来る

そんなことの繰り返しだった

No.231

その頃、よっちゃんは転職しようとしていた

親戚の会社で、義父母は働いている

そこは娘がいるが、会社の跡を継ぐ人がいない

だから、将来的に俺に継がせてくれと、そこで働くことを決めたようだ

子供も生まれて、俺が私や子供を守っていく

今の会社に不満はない

でも土日は仕事だ
子供が大きくなったら、休みが合わなくなるから、なるべく一緒にいられるように

それ以外にも色々考えた結果だった

よっちゃんはこの時21才

若造が偉そうに、とも思うが、真剣に話してる様子を見て、私はよっちゃんのやりたい事をすればいいと賛成した

この話が出る少し前、お義父さんと社長が険悪な状態になっていた

社長はよっちゃんの伯父だ

よっちゃん、お義父さん、伯父さんで話し合いをすることになる

No.232

自分が伯父の会社に入ること

わからない事だらけだから俺が一人前に仕事が出来るように、お義父さんに色々教えてもらいたい

話し合いにならなかったようだ

お義父さんは機嫌が悪くなると、一切口をきかなくなる

伯父もお義父さんに頭を下げ頼んだらしい

何をやってもダメだった

お義父さんはそのまま仕事を辞めた

よっちゃんとお義父さんは話さなくなった

私や長男もお義父さんと話さなくなった

私たちはいいが、長男は可哀相だ

甥っ子には普通だが、長男は無視

よっちゃんに言っても

俺の子供だから気に入らないんだろう

そう言われた



結局、こじれた関係はその後4年ぐらい続くことになる

No.233

綾ちゃん一家は相変わらず

長男が甥っ子とミルクやオムツのサイズが同じになると、甥っ子の分は持ってこなくなった

買い物は歩いていける距離に店もなく、車じゃないといけない

赤ちゃんを連れてかさばる物を買うのは大変だし、ちょこちょこ買いに出るのも大変だったから、ミルクやオムツ、おしり拭きなど、よっちゃんが休みの日に大量に買いこんであった



甥っ子も歩き始め、綾ちゃんも公園などに行き、実家に来るのも前ほどじゃなくなった

そんなある日

実家から綾ちゃんたちがアパートに帰るとき、義父母は私達が買いこんだオムツやミルクなどを、ごっそり綾ちゃんに持たせたのだ



あれは長男に使うのに…

うちに来てるときは使っても全然いいが、それってどうなの?

義父母が買ったり、こちらにも一言あれば、まだ違うのだが、うちにオムツが一つしか残らないとか、買ってきた量からしてもおかしい

私はよっちゃんにこの事を話した

No.234

よっちゃんは
怒った

義父母に

これはうちで使うのに買ったんだぞ!
甥っ子の為に買ってきたんじゃないっ!
お前らが用意したもんじゃねぇだろ

麻里がいるのに断りもしないで
うちのをいつも使ってるんだから、逆に持ってくるのが普通だろ!
二度とあいつら(義妹一家)には、くれねぇからな!



義父母は、いつも実家で一緒に使ってるから、あげてもいいもんだと思ったらしい

綾ちゃん一家は、ほとんどこっちで生活してるから、アパートに持ってっても使わないと思うが…



後日、お義母さんがオムツを両手に下げて帰ってきた

買い物には義妹一家も一緒だったらしく、スーパーの袋を抱えてきた



また来たんだ………

私はこの生活が苦痛になっていった

No.235

苦痛に感じる理由はもう一つ

お義父さんが仕事を辞めたから、毎日家にいる

最初は昼食を用意したが、無視されてまで作るのもバカらしくなった

声をかけても返事はないし、いるのかいないのも
わからない

そのうちお昼前になると、私は長男を連れて出かけるようになった

あてもなくデパートをうろついたり、公園をベビーカーで散歩したり

困ったのはトイレだ

当時はベビーカーで入れるような広い個室があまりなかった

かといって、ベビーカーごと個室の前に、も不安だ

結局トイレの為に私の実家に行った

それからは、昼前からウロウロして、夕方に私の実家に行き、よっちゃんが帰る頃に戻る

毎日それを繰り返していたら、ガソリン代がすごくかかって、びっくりしたのを覚えている

No.236

ある日、風邪をひいたのか熱っぽい

微熱があり、だるい日が続いた



もしかして………



薬局で妊娠検査薬を買って調べると



妊娠してる?



私は実家に長男を預け、病院に行った



やはり妊娠していた



よっちゃんが仕事から帰ってきて、私が妊娠したことを言うと、とても喜んでくれた

夕食の時、よっちゃんが義父母に私が妊娠したこと、予定日を伝えた



お義父さんの態度が一変した



予定日が甥っ子の誕生日と同じだったからだ

よっちゃんとは話さないがそれからは私や長男とも、普通に接するようになった

私は素直に喜べないけど…理由はどうあれ、少しホッとした

これで、お義父さんと私達の関係も、いい方向にむかえば…

No.237

二人目の悪阻は、長男とはまた違った

気持ち悪いより、頭が痛いような…風邪の引きはじめみたいだった



この頃、お義父さんも仕事に行き始めた

もともと家でじっとしてるタイプではないから、家にいたことで、お義父さんもイライラしてたのだろう

家にいる時より、私達への態度がましになった



私も体調がいい日は、歩き始めた長男と公園に行ったりした



長男がお風呂から出てきた時、お腹にプツプツ水ぶくれが

水疱瘡?

機嫌は悪くないが、次の日に病院に行くことにした

病院で

あぁー、水疱瘡だねと言われて、薬をもらってきた

だんだん、顔や全身に広がり、かさぶたになる

塗り薬を塗るとくすぐったいのか?長男はご機嫌だった

顔に出来たかさぶたの場所が、なんとなく私のツボにはまり笑ってしまう



玄関が開いた



綾ちゃん一家の来襲だ

No.238

お義父さんが玄関で長男のことを話した

綾ちゃんは
予防接種受けたと思えばいいから

よっちゃんも
甥っ子と遊べば気が紛れていいんじゃない

気が紛れても病気か治るわけじゃないし、あとで大変なのはこっちなのに…

まぁ、綾ちゃんは気を使ってたわけでもないし、うつるからと露骨に嫌な顔されなくてよしとしよう



病院の検診では順調だといわれた

まだ先だが、また逆子なら手術かなぁ

そんな心配もあって退職してから、社会保険を二年間延長して個人で払っていた

出産ギリギリで退職したため、第二子の予定日までは延長期間内だ

実は長男の時、帝王切開だったから保険や祝い金などで、総額220万振込まれていた

これにはビックリした

ただ、実際に子供の為に使ったのは20万だけ

あとは………

No.239

よっちゃんの家に来てからずっと思ってたこと

義父母は貯金があるのだろうか………

二人の給料は申し分ない額だ

食事の半分はお惣菜

孫には何でも買ってくる
(オムツやミルク以外は)
置き場所に困る、大きな高額のオモチャから小さなオモチャまで

ただ、何万という買い物はローンを組む

月収からすれば、現金で払えそうな額でも…

伯父の会社は個人なので国保だった

私以外は同じ保険証だ

税金、払ってる様子がない




なんとなく



このままだとお金の苦労をしそう…



そんな感じがした





ある日、綾ちゃん家が新しい車を買った

二百万以上はするだろう

お義母さんが

あの車はキャッシュで払ったんだよ
偉いねー!

No.240

そりゃそうだろう
アパートには週一日しかいない

光熱費はかからない
洗濯物は実家で全部やっていく

スーパーにいけば、支払いは全部お義母さん、食費もゼロ
食費は当然うちの負担

甥っ子の服や必要なものは実家に来れば、お義母さんが買い揃え、長男と同じ物はうちのを使う

私は子供の物は甥っ子の分まで買っていた

もともと贅沢しない人達だが、こんな生活をずっとしてれば貯まるのだろう

生活費はほとんどゼロに近い

お義母さんや伯母さんも、綾ちゃんとこは金が無いからと、いつも援助していた


うちだってよっちゃん一人の給料で、綾ちゃん家まで賄ってるのに…

同居だから、お金が掛からないと思われたんだろう

よっちゃんも見栄っぱりだ

妹たちに出させるのは嫌なんだろう

口には出さないが、後輩との付き合いからしても、自分が面倒見る、そんな人だったから



だけどね、よっちゃん



それは出来る人がやれば、よかったんだよ

No.241

伯父と伯母、よっちゃんが働いてる会社は、この二人がやっている

会社といっても従業員が数人だが、やはり普通の家より裕福だった

よっちゃん家は、この伯母の家に昔から助けられていたらしい

特に金銭面で…



お義父さんが仕事で借金を作った時も、伯父夫婦が払ったそうだ

自分が借金してでも助けてやれ

伯父の言葉らしいが、返せるあてがあるならそれでもいいだろう

普通はそこまでする必要はないと思うが………



伯父、伯母もよっちゃん達を、自分の子供のようにしていたそうだ

綾ちゃんはうちに来る前に伯母の家に必ず寄ってくる

伯母は行くたびに子供たちにお小遣いをくれるのだ

必ず一万円

私はそれをされてから、伯母の家には、よっちゃんと行くようにした

伯母は楽しみでしているのだが、私はなんか悪い気がして、一人で行きづらかった

No.242

綾ちゃんがお金欲しさに行ってないのはわかっていた

頻繁に伯母のところに行くのは、今までもそうだったから、なんでもないんだろう

私の気にしすぎだと、よっちゃんは言っていた



ある日、食器棚の引き出しをあけると、税金の用紙があった

ほとんどが払われていない

何年も前のもある

私は長男の出産時に残したお金から少しずつ払うことにした

保険証が使えないと、長男が病院にかかる時に困ると思ったからだ

大人はなんとかなっても、まだ一歳過ぎの長男はら自分でどうにかできるわけない

病院に一番行くのも長男だから

それだけの為に関係ないお金を払っていた



お義父さんともまた元通りだった

甥っ子にはお菓子や物を別の部屋であげる

長男が行くとドアが開かないようにする

よっちゃんがいる時は絶対にやらない

No.243

この頃、綾ちゃんたちも、五泊六日で毎週来ることもなくなっていた

時々は来るが、よっちゃんも遅番がある仕事じゃないし、夕飯も一緒に食べる

お義父さんの好き勝手は出来ない

いい年してその程度の人間

そう思うようになった

お義母さんは子供の扱いがうまい

甥っ子も長男もお義母さんが大好きだ

でも、娘と嫁は違うのかな

従兄のお下がりが段ボール一杯に来たとき、綾ちゃんに先に選ばせていた

そのあと、言われた私はが段ボールを見ると、サイズが大きくてまだまだ着れないものばかり

長男がそれを着れる時のために残してある

単純にそう考えたのだろう

お義母さんは悪気があるとか意地悪でなく、いつもそんな感じだ

まぁ、紙袋二つ分の服を抱えて帰る綾ちゃんも、こそこそするわけでもないし…

この家の人とは考え方が違う

そう割り切ることにした

No.244

二人目の出産が近づいてきた

経過は順調

今度は頭が下だから、手術ではないようだ

出産費用は貯金から払える

私は義父母の税金を払わなくなっていた

いずれはここを出たい

そんな事を考えていたから貯金するほうを選んだ

子供たちが大きくなれば、この家も手狭になる

智之の家では無理だが、義父母はそういう事は同じ地域でも、あまりうるさくなかった



予定日間際の検診

まだ産まれる気配が無い

そのまま予定日を迎え検診に行った

まだだねぇ、医師はのんびり言うが、私は陣痛のことで頭が一杯だ



透の子

つらい記憶と共に痛みも思い出した



あの子の為にも、お腹の子の為にも、痛い、怖いなんて言ってられない



不安や悲しみが入り交じっていた

No.245

よっちゃんの家は昼間はみんな仕事で誰もいない

予定日を過ぎて私は実家に帰った

長男とのんびり過ごす

お義父さんのことで気を張っていたのだろう

実家はいいなぁと思いながら、綾ちゃん一家も同じだったのかなぁと思った

宮原の家族は悪気が無いというか、私が気にしすぎるのか

何で私が不機嫌になるのかわからないようだ

それが私の神経を逆撫でするけど、心底悪い人達でもない

だから、私も思い切り感情を爆発できないんだろう

中途半端に疲れるのだ

ただ悪気はないではすまされないこともある

この人たちは
今でも変わらない………



予定日を過ぎての検診

今日辺り産まれそうだから、入院の用意をしてまた来るように言われた

この頃は携帯も普及していた

私はよっちゃんに電話して、入院することを告げた

No.246

午後になり病院に行った

本当に今日産まれるのか?

なにも変わった様子もない

夕食をしっかり食べた
病院の食事はおいしい!

夜によっちゃんが来てくれた

面会時間ギリギリまでいてくれたが、私はいつもと変わらず…

時間になりよっちゃんが帰ってから、お腹がキリキリした

食べ過ぎ?

違った

陣痛だった

よっちゃんがいる間になんて、そううまくいかない

時計を見るとだんだん痛みの間隔がわかるようになった

ナースがきて

始まったね
でもまだまだだから
五分間隔になったら呼んでくださいね

そう言って病室を出ていった



だんだん痛みがひどくなる

うーっと声を出して我慢した

そのうち寝てられなくなり、病室や廊下でウロウロしながら唸っていた

今思えば、よっちゃんがいなくて正解だった

この世の物とは思えない!?声で唸っていたから

No.247

ナースを呼んでも

まだ半分くらいかな

気を失うかと思った

私に耐えられるのか

いろんな事を痛みの間に考えていた

明け方になり、やっと分娩室へ



無事に長女を出産した



よっちゃんが来てくれたがあんまり覚えていなかった

二人目だからか見舞い客も少ない

長男と違って、すぐ動けるし母子同室じゃないから、入院中は暇だった



もう一つ

長男の時と違うこと

お義父さんは一度も顔を出さなかった

もう気にしないことにした

それなりの付き合い方をするだけ



実家で1ヶ月過ごして、よっちゃんの家に戻った

お義父さんも長女を気にしている

自分から、は
接しづらいのだろう

私たちへの態度も少し変わった

少しだけ…

No.248

長女が産まれ、私も保険証をお義父さんたちと一緒にすることにした

お義母さんが自分達と私たちと保険証を別にすれば?
と言ってきた

後日、市役所に行ってみると

宮原さんとこは無理ですねと言われる

理由は

国保を滞納しているからだった

同じ世帯から、親世帯子世帯、二つの保険証に出来るのは、滞納してないことが条件だった

普通なら出来たんだろう



普通なら…



家に帰って聞かれたが、適当な理由を言ってごまかした



よっちゃんにも言えなかった



なんとなく

親の不始末を嫁から言われるのは、嫌だろうな…

そう思ったから



あとから、悔やんでも仕方ないのにね

よっちゃんに話しておけば

もう少し違っていたかもしれないね………

No.249

二人の子育て

子供が産まれて親として子供を見る

子育てなんてゆうレベルではないが、子供には出来るだけのことをしてあげたい

義父母もそんな気持ちなんだろうか

私にはわからなかった



貯金もしたいが、まず税金

義父母が滞納してる分を、毎月少しずつ払うようにした

少しとはいえ何万単位だ

あっという間にお金なんて無くなる

義父母は光熱費、何かのローン等の月々の支払いは、仕事をしてて銀行に行く時間が無いのか、綾ちゃんに頼んでいたようだった

子供や孫には何かとお金を使い、出かければ財布からお金をポンポン出す

よっちゃん達が子供の頃、経済的にキツい生活だったらしい

親戚が学校で働いていたので、給食の残りを毎日貰ってきてくれて、それを夕飯にしていた

よっちゃんから聞いていた

No.250

だからかはわからないが、少しでも余裕があれば使うのか?

違う気がするが…



よっちゃんも同じような感じだった

子供に必要なものは惜しまない

金額の多い少ないに関係なく、自分の物は我慢しても子供に何かしてあげたい

ただ、自分が欲しいものは妥協しない上に見栄っぱりだから、値が張る物だ

これには今も頭を抱えてしまうが…



よっちゃんは二十歳そこそこで私と結婚し、すぐにパパとなった

まわりの友達は独身ばかり

飲みに行ったり遊んだり、車をいじったり自分の好きなようにしている年齢だ

たまに飲みに行ったりはしたが、ほとんど私達と過ごして、仕事も大変なのに一切弱音も吐かない

遊んで使うなら家族の為に

そう考えてるのがわかっていたから、たまのおねだりも許していた

No.251

子供たちも大きな病気や怪我もなく育っていった

お義父さんも、よっちゃんとは話さないが、私や子供とは普通に話すようになった

ただ突然、無視が始まるのは今だに理由がわからないままだが



長女が一歳直前、電話が鳴った

私は手が離せなかったため電話に出なかった

その後も何回かかかってきたが、子供と公園に出かけていたからでなかった

公園から帰り、玄関を開けた瞬間、電話が鳴った



もしもし?

麻里ちゃん!やっとつながった
お母さんが救急車で運ばれたのよ
○○病院にすぐ行って!



この日は父が旅行に行って何日か留守だった

母は出かけた先で具合が悪くなった

なんとか家に帰ったが、どうもおかしい

自分で救急車を呼んだ

No.252

救急隊員が、本人だけでは救急車に乗れないと言ったそうだ(そういうシステムなのか?)

近所の親しい人を呼んでもらい、事情を話し一緒に病院まで付いてきてもらっていた

母は軽い脳梗塞だった
(病名は記憶があやふやです、すみません)

手術はしなくても大丈夫だったが、容態が落ち着くまで近所の人が付き添い、私に連絡をくれたのだ

私はよっちゃんに電話して病院に向かった

病室にいくと母は起きていた

まだボーッとしている感じだ

私は医師に話を聞きに行った



二、三日、入院して様子を見たほうがいいが、母は自宅に帰りたがっている

自宅で安静にしてれば大丈夫だろう

後日診察に来てください

そう言われて、母を連れて帰ることにした

No.253

私は父が帰ってくるまで、実家にいることにした

よっちゃん達が帰る頃、一度、宮原の家にいき子供の着替えや必要なものを取りに行って、状況を話すことにした

電話をくれたおばさんに、昼間のお礼を言い、私が出てる間、母のことをお願いしてきた

よっちゃん家でみんなに母の様子を話したところ、心配してくれ、付いていてあげなさいと言ってくれた

ただ
この人たちには

共通の口癖がある



たいしたことないんだろ



自分の身内の時は、こちらがびっくりするほど大騒ぎするくせに

たしかに母は手術も入院もしなくて済んでいる

だが、片方の手が少しマヒしていた
会話は出来るが今のところまだ何となく話しづらそうだ

私にはわからないが、症状としては軽いのかもしれない

でも、口では偉そうにさも心配してるように言い

そして



たいしたことない



私は怒鳴りそうになったがさっさと支度をして実家に帰った

No.254

車のなかで



たいしたことないってなに!?



イライラした



何がたいしたことで、何がたいしたことじゃないのか

母は意識不明じゃないし、自宅にいられる

救急車と聞いて、もっと深刻なことを想像していた私も、思った程じゃなくてホッとしたのも事実だ

だからたいしたことないのか?

私ならこの状況でそんな言葉は言わない

それとも私が間違っているのか?

考えてたら、わからなくなってしまった



実家に戻り、近所の人にお礼を言った

母は得に変わったこともなかった

よっちゃん家をすぐ出てきたので、子供たちに簡単な食事を作りお風呂に入れた



これが綾ちゃんなら

甥っ子の面倒をみんなで見て、なにもかも周りがやるんだろうなぁ

私は一人で二人の子供を風呂に入れるのに…

ひがみとわかってても、そんな風に考えてしまう

No.255

甥っ子が風邪をひいたと聞けば、義父母は仕事帰りに毎日アパートに向かう

食事の支度や必要なものを買っていき、綾ちゃんがあとは寝るだけ、になると帰ってくる

あまりに甥っ子の様子がひどいと、実家に連れてくる

大抵、長男がその後、同じになるのだが…



熱のある子を連れて、買い物するのは大変なのはわかる

義父母が心配してるのもわかっている



ただ、私が同じ状況の時

熱冷ま🌕ートやポ○リス🌕ット、食欲が無くても子供が食べれそうな物を、病院の帰りに買って帰った

よっちゃんはやってくれるが、仕事帰りだとドラッグストアも閉まってるので、私も頼まなかった



同居しているから私は贅沢なのか



自分は、ひねくれてると思った

No.256

母は容態も安定してるみたいだ

片手がうまく使えないが、ききてでなかったから、食事も自分でとれた

実家で長女は一歳の誕生日を迎える

実は母と長女は誕生日が一緒だ

予定日よりかなり遅れたので、甥っ子とは違う誕生日だった

母も付きっきりじゃなくても平気みたいだから、小さなケーキを買いにいった

夕食もおわりテレビを見てると



麻里!ほらほら!



長女が床に手をつき立ち上がる



とことこ………



ほんの二、三歩だが歩いた


つたい歩きから、一人で歩いたのだ

一度出来れば子供の力はすごい

しりもちをつきながら、キャッキャ、キャッキャしながら歩いてる

おむつを替えるのを忘れていて、タプンタプンのお尻をプリプリさせながら歩く

その姿が何とも言えない(笑)

よっちゃんには悪いが、母が最初に見れて良かったと思った

No.257

それから数日して、父が帰ってきた

私は状況を話し、病院に行くように頼んで、宮原の家に帰った



まだ長男が産まれて数か月の頃、父が入院したことがある

そして今回は母



義父母は一度も顔を出さなかった



その後も数回、うちの両親か入院するが
お見舞いに行くわけでもなく、これ渡しといて、何ていうのもない 



一度も………



私の母は若い頃から服飾関係の仕事をしていた

この頃は趣味でやる程度だが、それがリハビリにもなった

年も年だし、若い人と同じにはいかないが、マヒも残らず回復していった

私は二人の子供に付き合いながら、バタバタする毎日


そんな時



お義母さんが



この家は私達にゆずり、自分とお義父さんが出ていくと言い出した

No.258

理由は

お義父さんとよっちゃんの不仲だ

相変わらず二人とも話さない
子供も二人いるし、家も手狭になる



私達もここを出てアパートを借りようと考えていた

だから義父母はここにいればいい

よっちゃんはそう言った

私もここに残るのは嫌だった

一番の理由は
智之の家も近所だから

それにこんな田舎じゃ、親が出ていき私達が残れば、何を言われるかわかったもんじゃない

よっちゃんに話したわけじゃないが、同じ理由でよっちゃんから言われていたのだった



お義父さんはこれが気に入らなかったのか、また私達を無視し始めた



そして、私の実家でも…



母が倒れてから、年も年だし二人の故郷に戻る、という話が出ていた

親の兄弟もみんなそちらにいる

私ももう心配ないだろう

そう思って、引っ越すことを決めたそうだ

No.259

そんな話を知らない私は、実家に遊びに行った時、引っ越そうと思ってることを両親に伝えた

すると

ここを残していくからお前達が住めばいい
アパートで家賃を払うんなら、ここなら必要ない

思わぬ展開だった

ここを処分すれば、両親だって老後の足しになるだろう

だが、売らずにそのままにし、あとはお前にやるから

父はそう言った

築年数も経っている
ここを直してもいいし、他に家を建てるならここを売ってそのお金を使えばいい



私は言葉が出なかった



法律関係はよくわからないが、父は詳しいしその関係に知り合いもいる

なにかやり方があるのだろう



有り難く思うと同時に自分が情けなくなった

No.260

同居だから家賃はない

食費を出し、全部じゃないが公共料金の支払いもしている

節約とは無縁の人たちだから金額が半端じゃなかった

そして、税金

三人も大人が働いていれば、国保は限度額の一番高い金額、約九万だ

義父母はそれ以外の税金も払っていない

よっちゃんは長女が産まれてから、それまで乗っていたVIPカーといわれる車を売っていた

先のことを考えて車のローンを貯金にしようとしたのだ

私の乗っていた軽はローンじゃないから、たいしてかからない

私からすれば、自分と関係ないお金をずいぶん出している

どんなに自分達で考えても、貯金なんて微々たるものだ



父は自分の車も置いていくといった

軽じゃ狭いだろうと言って………



私は



申し訳ない気持ちでいっぱいだった

No.261

よっちゃんにこのことを話した

よっちゃんもうちの親に感謝してくれた

本当なら自分達でしっかりやらなくてはいけない

でも、このままここにいても状況は変わらないだろう

親の申し出を有り難く受けることにした



そして



私は三人目を妊娠した



自分でもびっくりしたが、嬉しかった



よっちゃんも喜んでくれた

予定日が私の両親の引っ越したあとなので、それが残念だったが、両親も驚いたのと嬉しいのと両方だった



友達には
まさか麻里が三人のお母さんになるなんてねぇ

と言われてしまった





お義父さんは



何も言わなかった



そして

またお義父さんは仕事を辞めた



私は昼間お義父さんがいるのが嫌で、子供と毎日出かけていた

No.262

お義父さんも同じだろう

綾ちゃんたちがまた来るようになった

来いと言ったのだろう



出かけて帰ると、綾ちゃんたちがいる

そんなことが続いて、私はイライラしてばかりいた

時々、家に一旦入り、実家に行ってくると言って、またすぐ出かけたりした

そのうち自分の子供に八つ当りをする

子供たちは悪くないのに…

お腹の子にもよくないだろう

わかっていても日に日にイライラが募っていった



綾ちゃん一家とみんなで夕食をとっている時、お母さんから突然言われた





お腹の子を堕ろしなさい





信じられないことに

よっちゃんも同じことを言った





私はおかしくなったのか?

それとも周りがおかしいのか?



そのまま部屋に行って布団にもぐった

No.263

妊娠中だから不安定なんだろう
どんどんひどくなるから、だったら…



お義母さんとよっちゃんが話し合ったらしい



私のストレスの原因も知らないで…



お義父さんや税金のことなど不満はある

だけどそれだけじゃない

私がイラついているからと子供二人と一緒にいさせないようにされていた

大声で怒鳴ってしまうのは私が悪い

それ以上はしていないが、よっちゃん達がいない時に私が何かするのでは

そう思っていたようだ

だからみんながいると、子供たちと私を離す

あからさまにされて私は余計にイラついていた



私も余裕が無かったんだろう

だけど、原因も聞かず、一方的に出した答えが

子供を堕ろせなんて





私には





子供を殺せ



そう聞こえた

No.264

まさか

よっちゃんまで…



涙が止まらなかった



喜んだのは嘘だったのか

確かに二人の子供には可哀想なことをしてしまった

でも、お腹の子も私達の子なのに…

何度頼んでもダメだった



反対されて産まれてきたらこの子は可愛がってもらえないのかな

そんなことばかり考えていた

4ヶ月に入っていたのに、こんなことになるなんて



私は病院に行くことにした


その日に限って、たまたまなのかわからないが、よっちゃんもお義母さんも家にいた



私は病院に行くことを告げ家を出た



このままどこかに行ってしまおうか

涙が止まらなかった

でも二人の子を残してなにか出来るわけじゃない

泣きながら病院の近くまで行くと





お腹の子が蹴った





これがお腹の子の初めての胎動だった

No.265

嘘のような話だが本当のことだ

その後も何度もお腹を蹴る


私は車を停めていた



この子だって産まれたいはず



私がしっかりしなきゃ



あんな奴らには文句は言わせない



私が三人の母親なんだから





私は病院に行くのを辞めた

すぐ家に帰るのも嫌だったから、ぶらぶら時間を潰して家に帰った





帰ると

よっちゃんもお義母さんも何も言わなかった

私が堕ろしてないのがわかったんだろう

私はそのまま部屋に行った

少ししてよっちゃんがきた

私は胎動を感じたこと
この子を産むと言った

よっちゃんは話を聞いてリビングに行った



それからは何もなかったかのように過ぎていった





そして





私の両親の引っ越す日が近づいてきた

No.266

この日、よっちゃんは伯母から

嫁さんの両親を見送って、感謝の気持ちを伝えてきなさいと言われ、休みをもらっていた

だが、おバカはやっぱりおバカなのか?

よっちゃんは前の会社の人から偶然その日、ゴルフに誘われていたた

私には隠せないので話してきた

私は



キレた

さすがに暴れなかったが(笑)



予定日まで一ヶ月強

妊婦の私と子供たちで見送り?それもいいだろう
だけどうちの親の恩を仇で返す気か?



呆れて好きにすれば、と言った



よっちゃんもゴルフがOKされないのはわかっていたが、私に聞いてみたのだろう


どこからか伯母の耳にも入り、こてんぱにやり込められたらしい(笑)

そして

引っ越し当日

両親がこれからも私のことをよろしくと、宮原の両親に挨拶にきた

No.267

お義父さんは外にいて、私達が車から降りるのを見て奥に消えた

お義母さんが呼んでも来ない

うちの母が
出産後はお義母さんに世話をかけるので、これを使ってくださいと………



餞別と書いた袋に十万包んだものを渡した





餞別?
うちから?逆では???

私は何となく思った
(こういうことは、いまだによくわかりません、すみません)



そして私達はよっちゃん家をあとにした



お義父さんはうちの親も無視した



頭に来たが、親の旅立ちを壊すわけにはいかないから我慢した

途中、食事をして



みんなで両親を見送った



それからは毎日実家に行き、掃除をした

引っ越すから荷物はないが、掃除は私がやると言ってあった

近所に挨拶に行くと、みんな年を取っていた

当たり前だ、私が小さい頃から知ってる人達

あれから何十年も経つのだから

No.268

私が小学校にあがると同時に、この家に引っ越してきた

高校卒業までこの家で過ごしていた

柱には私の背の高さに鉛筆で線が書いてある

がらんとした家は変な感じだった

両親二人なのにどう見ても今の私達より、荷物が多かったから(笑)

両親が引っ越したことで、私は近くに頼る人がいなくなった

何かしてもらうわけじゃなかったが、いて当たり前の人がいないのは

心に穴があいた

そんな感じだった



臨月間近の私がする掃除なんて、それこそ!

「たいしたことない」が(笑)

空気の入れ替えと掃除機をかけ、簡単な拭き掃除をするくらいだった

毎日、実家に来るのも、お義父さんと顔をあわせなくてすむから、いい気分転換になる

No.269

予定日の二週間前

いつものように実家にいると、お腹がキリキリする感じがした

その日は早めによっちゃん家に帰った

次の日もその次の日も、なんかキリキリする

まだ早いけど、そろそろ産まれそうな気がした

ここで陣痛が始まっても、正直困る

子供が昼寝から覚めたので、よっちゃん家に戻った



よっちゃんに、変な感じだから予定日より早くなるかも、と言った二日後の朝

お尻の辺りが気持ち悪くて起きた

布団を見ると、敷き布団の下半分が真っ赤だった

破水したことがなかったから、これは破水したと思った

破水は体の中だから、血も混ざるんだろうと勝手に思って

でも、病院に着いてから破水したので、破水じゃなかったら一体………😱

お義母さんは起きてたので、よっちゃんを起こし着替えて病院に電話した

No.270

そのまま入院の用意をしてよっちゃんに病院まで送ってもらった

診察してもらうと今日か明日だね、と言われた

陣痛もなく出血😱も治まった私は、テレビを見ていた

二年前の長女の時は、サッカーのワールドカップがテレビでやっていた

海外だから夜中に中継があり、消灯時間が過ぎて見回りが終わると、テレビをつけてこっそり見ていた

他の病室のママさん達も同じだ

一緒に入院してた人は、みんな寝不足だった(笑)



お昼ご飯を食べて、夕食もしっかり食べた

夕食の時、よっちゃんが来てくれた

キリキリしてるが、はっきり陣痛という感じじゃない

面会時間が終わり、よっちゃんが帰った五分後



二人目と同じ………



陣痛が来た

うちの子は、よほどパパが嫌なのか?

No.271

前回は本当に痛かったのでまだまだ余裕だ

五分間隔になった頃、隣のベッドに他の人が来た

様子から初産の人らしい

あまり隣で私が絶叫したら、きっと怖くなってしまうかも…そう思って、叫ばないようにした

痛いのは痛いが、まだ長女に比べれば半分くらい

これからが大変、と思うのと同時に、なにかで読んだ事を思い出した

陣痛の痛みは、赤ちゃんも産まれようとおりてきてる痛み

そんなことが書いてあった

不思議と赤ちゃんが下の方に来てる気がする

この子は、一度は諦めようとした子

無事に出産してみせる!

そう思ったら、痛みも何のそのだ

まだ時間が掛かると思ったら、ナースから分娩室に移るように言われた

産まれちゃうよ
宮原さん早く!!!と(笑)





そして、次男が生まれた

No.273

次男が産まれても、お義父さんとの仲は変わらない

退院したら、今度はよっちゃんの家に帰る

私も昼間出られないから、お義父さんもいるのが気になった



退院の日

よっちゃんの家に着くと、お義父さんがいない

仕事を始めたようだ

お義母さんが上の子供たちの相手をしてくれるから、数日は私ものんびりできた

上の二人はお義母さんが大好きだし、私も安心して任せられるけど…

やはり、私と近付けない

私が朝リビングに行くと二人を連れて出かけている

昼に帰ってきて、また夕方まで出かける

家にいてもリビングに上の子を来させない

理由は妊娠中と同じ、今度は出産したばかりだから、イライラしてると思ったらしいが…

私はお義母さんの考えにイライラした

No.274

夕食が終わったら、上の子供たちはお義母さんの部屋にいく

私やよっちゃんは、上の子と話さない日もあった

子供たちもお義母さんといれば、何でも出来るから楽しいのだろう

二週間ほどそんな状態が続いた

私はお義母さんに、もう大丈夫だから、仕事に行ってもらうことにした



お義母さんが仕事に行った日

朝早く出るから子供たちはお義母さんと会わなかった

子供と朝食を食べている時、お義父さんか仕事にいこうとしたら…

長男が泣きながらお義父さんに行かないで、と言っていた

お義父さんは相変わらず無視だ

長男は玄関でしばらく泣き叫んでいた

私は長男の様子を見て、ショックを受けた

入院中も退院してからも、ほとんど一緒にいないせいもあるが子供にあたっていない

でも数週間であまりにも変わってしまった

No.275

その後、すぐに私も子供たちも元の状態に戻った

妊娠中に子供のことでイライラしたのではないが、あたってしまったことに反省した



この頃、よっちゃんが次男の名前に悩んでいて、まだ出生届を出していなかったった

私は1ヶ月検診もあるのでその日に市役所に行くことにした

よっちゃんに休みを取ってもらおうとしたけど、その頃は仕事が忙しい時と重なるらしい

休めるかどうか、はっきりしなかった



そして検診の前日

仕事から帰ったよっちゃんから

明日、ゴルフ行くから!と言われる

私はよっちゃんが、何考えてるかわからなかった

子供のことは、出来なくてゴルフは行けるのか?

お義母さんも同じ職場なのに知らなかった

お義母さんもさすがに呆れていたようだ

結局、検診の日はお義母さんに休んでもらい、上の子達をみてもらうことにした

No.276

検診を終え市役所に行き、出生届を出す

そのあとに出産祝い金の手続きをすると、担当の人が



こちらにあてるので、祝い金は出ません、と言った



市役所の人が何を言ってるかわからなかった

上の二人は私の社会保険から祝い金がでていた

今回は国保からもらうのだが、税金を滞納してるため祝い金でそれを補填するというのだ

私は言葉が出ない

私が知っているかぎりは払っていたし、祝い金を他の税金にあてるなんて思わなかった

確認してみると、私達が同居する何年も前から、義父母は払っていない

そこまでは私達に関係ないし知らなかったから、私も払っていなかった

今まで何百万も立て替えて払ったのが無駄に思えた

なんで、私達がこんなことにならなきゃいけないのか

もう考えるのも、怒る気力もなくなった

No.277

後日、市役所から出産祝い金を他の税金にあてたと通知が来ていた

封が空いていたから、お義母さんは読んで知っているのに、私やよっちゃんに一言もなかった

孫のお金がそんなことに使われて、何とも思わないのだろうか

私に言えなくても息子のよっちゃんに一言ごめんと言ってくれれば、こちらの気持ちも少しは違ったかもしれない



それから一ヵ月

私達は私の実家に引っ越した

引っ越しといっても、服や子供のオモチャだけだ

電化製品はうちの親が全て置いていってくれた

よっちゃん家に行くとき、お義父さんと顔を合わせたので、声をかけようとしたがスッといなくなったのでそのまま実家に行った

No.278

引っ越してから、バタバタしっぱなしの毎日だ

住所変更や日用品、食品の買い出し

まだ二ヵ月の次男や上の二人を連れての外出は、1人で行くのとは違って大変だった

長男の入園手続きも終わった頃、次男の夜泣きが始まった

夜泣きは半年ぐらい続いて、入園式も寝ないで出席したほどだ

三人の子供も大きな怪我や病気もなく、義父母とも離れたせいか関係はよくなった

お義父さんとよっちゃんも私達が引っ越してから一年くらいは、お互いに口もきかなかったが、いつのまにか話すようになっていた

貯金も毎月万単位は無理だったが、少しずつ貯めていくことも出来た

だけど、ある程度貯まると不思議とその金額丸々出ていくようになる

No.279

今更だが、つくづくお金に関しては、縁遠くなってしまったようだ

長男が小学校、長女も幼稚園に入園すると、家を建て直すか新しく建てるか、よっちゃんと話すことが多かった

色々考えた結果、別の場所に新しく家を建てることにした

それから土地を探すが、なかなか見つからない

よっちゃんの条件に当てはまる場所がないのだ

小学校の学区ないだと、見つけるのはかなり難しい

それでも、ある土地を見に行ったとき、その不動産やから別の土地を紹介してもらう

よっちゃんも気に入ったようだ

土地代はかなり安い

建物を合わせても、分譲住宅とかわらない金額で出来そうだった

だけど何千万という買い物だし、私はもっと色々考えたかったが、よっちゃんが決めてしまった

No.280

毎月のローンの金額を見て
私が「ちょっとキツくない?」

と言っても、よっちゃんはなんとかなると思っている

結局、次男が入園したら私がパートをすることにした

働くといっても、十年近くブランクもあり義父母も働いているので、子供が具合が悪くても頼める人がいない

子供がいない短時間で働ける、家から学校の間のコンビニで働くことにした

次男の入園、長女の入学式が終わってすぐに働き始めた

今まで三食昼寝付きの生活から、ほんの数時間でも働くのは慣れるまで大変だった

職場としては、あまりいいところではなかったが、同じ時間帯のパートさんが同年代で話もあったのと、家を建てるという目標があったから続いたのだろう

私のパート代は、ローンを払ってるつもりで毎月貯めていた

それをあんなことに使われるなんて、この頃は考えてもいなかった

No.281

新年は新居で

そのつもりで荷物の整理も少しずつやりたかったが、なかなか進まない

パートの時間を少し延ばしてもらったりしていたので、平日は帰ってから夕飯の支度や家事に追われていた

秋になり長女と次男の七五三の写真を撮った

写真はうちと義父母、私の両親に渡す分も用意した

何パターンかの写真を三件分だと、結構な金額になる

同じ頃、家具屋から長女の学習机のことで電話がきていた

家が建つまで店で預かってもらっていたから、いつ頃搬入していいかの確認だ

机は義母が買ってくれるはずだった

内金を払い、搬入の時に残金を払う予定だったが…



義母が入院、手術をすることになったのだ

調子が悪いと病院に行き、検査をして手術が決まったそうだ

No.282

この頃から、歯車が狂い始めたのか………



病気になったのはお義母さんが悪いわけじゃないし、それを責めるつもりはない

でも…

お義母さんがよっちゃんに病院代を出してほしいと言ってきた

よっちゃんは私にそれを話した

お義母さんは一ヵ月前に仕事を辞めていたけど、それまでは夫婦二人で月に50万以上の収入だ



貯金はないの?



不謹慎かもしれないが、私はそう思った

急なことで立て替えでもなく、お金がないから出してほしいって事だった

一ヵ月後には引っ越しもある

まとまったお金は出来るなら出したくない

でも事情が事情だから、うちで病院代を出すことにした

入院の準備にと、お義母さんは綾ちゃんにそのお金を渡し頼んでいた

No.283

よっちゃんが、そのお金を退院するまであまり使わないように言った時、綾ちゃんが不思議そうな顔をした

あとで知ったが綾ちゃんはうちが病院代を出したのを知らなかったらしい




そして手術当日

前年に同じ手術をした伯母さんが
「子供たちも連れて大勢で励まさなきゃ」
と言ったからと、よっちゃんはみんなで行くと言い出した

私の帝王切開とは違うけど体にメスを入れるのだ

術後もすぐに今までと同じとはいかないのに…

まるでお祭騒ぎのようだった

手術は朝一で行われる

その前に病室によっちゃん一家が集まった

励ますどころかみんな無言で葬式のようだ

私がでしゃばって話してもいいが、なんか違う気がして廊下に出ていた

手術室に行くまで無言

これじゃ励ましにもならない

ストレッチャーにのったお義母さんに
「成功するから、頑張って」

私は小声で言った

No.284

そして

手術室に入る直前

「頑張れよ!」と

よっちゃんは大声で叫んだ


無事手術も終わり、執刀医から説明を受けてから、ICUにいるお義母さんのところに行った

麻酔から覚めたら病室に移るそうだ

今日は誰かついていてほしいということだったので、私達は交替で病室にいることにした

その後、順調に回復し退院が決まった

私と綾ちゃんで病院に行きよっちゃん家に戻った

お義母さんは元々じっとしてる人ではない

家にいても無理していたと思うが、今までとかわらない生活

術後も何ヵ月に一度、検診に行けばいいということだった



その頃、私達は引っ越しの準備にも追われていた

長女の机が運ばれると、いよいよという感じだ

七五三の写真も取りに行きたがったが、引っ越して少しの間は物入りだから、落ち着いたら行くことにした

No.285

私の実家にいた時も大きな家具は、長男の学習机とダイニングテーブルくらいだったから、自分達で荷物を運んだ

今年もあと数日で終わる頃私達は新居に引っ越した

家を建てるというと大抵は奥さんの希望が優先される気もするが、うちはよっちゃんのほうがこだわっていた

家のことで喧嘩もしたけど、私や子供達のために建ててくれた家だ

私は心からよっちゃんに感謝した



でもね、よっちゃん

今はこの家が嫌いだったりもするよ…



引っ越しそばでもないが、新しい家で段ボールに囲まれて年越し蕎麦を食べた

大晦日まで私は仕事だったが、三が日は休みをもらっていたから、のんびり荷物整理をするつもりだった…

元旦

朝の七時に義父母が来た

何しに来たかと思えば、庭をかまいたいらしい

やりたきゃ自分の家をやればいいし、元旦の朝っぱらからやらなくても…

私は気分が一瞬でおちた⤵

No.286

義父母も嬉しいのだろう

家を建てれば一人前、みたいな考えだと思う

気持ちもわからないではないが、私は落ち着かない

お構い無くと言われても、そういうわけにいかない

お雑煮を作り、洗濯をしてお茶の時間

冷蔵庫もまだ空っぽだ

年中無休のスーパーに急いで買い物に行った

お茶が終わって少ししたら昼食の用意

昼食が終わり片付けをして段ボールを開けていると、やる事がなくなったのか義父母が家に入ってきた

二人の前で荷物を出すのが嫌だった私は手を止めた

持ってきた段ボールを見てお義父さんが、あれこれ言ってくる

正直言って、さっさと帰ってほしかったが無理だった

よっちゃん家の人は、来ると長い

夕飯時までいるだろう

私の予想は当たった

夕食の食材まで買ってなかったので、外食することにした

No.287

この義父母の訪問は三が日続いた

その内一日は、昼からよっちゃんの実家に年頭に行った

私は荷物整理もあまり出来ず、少しイラついた

手伝いに来てくれるのだろうが、庭を好きな様にしていっただけで、手伝いをしてもらった覚えはない

それに庭だって私達で色々考えてやりたかったのに、それも出来ないほどやっていった

言っても仕方ないから我慢した

次の日、仕事から帰る途中よっちゃんから電話があった

綾ちゃんたちが家に来るという

普通、引っ越し直後の家には一ヵ月ぐらいしたら行くと思うが…

家に着いたらもう綾ちゃんたちが来ていた

甥っ子達にお菓子といっても何もない

私はまたスーパーに買いに行った

夕方になっても帰る気配がない

結局また外食

そして翌日

仕事から帰るとよっちゃんの仕事の後輩が来ていた

怒鳴りたかったけど、また我慢した

No.288

よっちゃんの会社は、普段あまり休みがないから、正月休みが長い

後輩と飲みに行くといわれた

昼間、荷物を片付けてくれるわけでもないが、それは私がやればいいと思っていた

だけど毎日誰か来てたらやりたくても出来ない

夜に片付けといっても、一日で終わるわけじゃない

よっちゃんはそれをわかってくれなかった

私が何もやらない、人が来ても段ボールがまだあるのが気に入らない

よっちゃんは不満に思ったのだ

二日後、よっちゃんはこの前と同じ後輩と職場の他の後輩も呼んで、新年会も兼ねて飲みに行くと言った



私は変な感じがした

昔、祖母が亡くなった時と同じ感覚

胸騒ぎとか虫の知らせとか………

私の勘は当たった

この日、行かないでと言ってれば

なにがなんでも、止めていれば

悲しい思いをしなくて済んだのに

No.289

この日、よっちゃんはある居酒屋に行った

そこの店主が以前、他の店をやっていた頃から知り合いらしい

私も行ったことはないが、場所と名前は知っていた

そこで飲んでいる時、別のテーブルで飲んでいた女性のグループの一人から、よっちゃんは声をかけられる

小澤実咲だ

近くの飲み屋で働いてる人だった

実咲はよっちゃんに携帯の番号を教えていた

自分の店に来てくれれば、客になる

私にはわからないが、もしかしたらそんな始まりだったかもしれない

家に帰ってきたよっちゃんは上機嫌だった

この時点でおかしいと思った

いつもと違う…
何かを隠しながら…

よっちゃんは、よくしゃべった

嘘をつく時、ごまかそうとする時は必ずそうだ

話のつじつまが微妙に合わない

女の人も一緒だった

私はそう思った

No.290

それからの行動はわかりやすい

私もよっちゃんとは不倫だったから…

正当化しようとしても、不倫には変わりない

よっちゃんのすることは、私がよっちゃんと付き合いだした頃と同じだった

一つ違ったのは、お金の使い方だけ

実咲とのこともあるが、それとは関係なく金遣いか荒くなった

もともと小遣いだけでやってくれる人だった

大きな買い物は私と金銭感覚が違うが、普段は無駄遣いもしない

自分は我慢しても子供達にジュースの一本でも、という人だ

家を建ててから、金持ちになったかのようだった

実咲と会う以外でも大盤振る舞いだ

引っ越し前、私のパート代を貯めて、新居で使う物を買うはずだった

それをするなと言われた

必要な物は月々の生活費から出すように言われたのだ

No.291

家具など値が張る物は生活費からなんて無理だ

引っ越したらこういうものが欲しいとか考えていた

私が勝手に買ってしまえばそれで済むかもしれない

結果的にそんなことは出来なくなったけど………



その月は車検もあった

車検代として十万を渡した

八万くらいだったが、残りは返してくれなかった

引っ越してから一ヵ月

その最初の一週間で、思わぬ展開になってしまった

二日に一回は実咲の店に行くか、会ってたんだろう

帰りが遅いよっちゃんを、子供達もおかしいと思い始めた

「パパいつも遅いね」

子供にこう言われても、まさか本当の事は言えない

私は
「お正月が終わって仕事が忙しいんだって」
「新しいおうちに引っ越したから、パパ頑張ってるんだよ」

こんなことを言うのが精一杯だった

No.292

私は引っ越してから一冊のノートを買った

日記を書こうと思っていた

そのノートは今でもあるがとても見れたもんじゃない

よっちゃんと実咲の事

それに対する私の気持ちが書いてあるから

書く事でなんとか自分を、落ち着かせたかったんだと思う

週末は午前様になった

最初は家に帰ってから飲みに行ったが、仕事帰りにそのまま行って帰ってこない

なんとか子供の前では普通にしなきゃ

それも一ヵ月もたなかった

よっちゃんは家にいても私を見ない

用がある時に話してくるだけ

話し掛けた時、私はびっくりした

私を見る目付きが、もう、それまでのよっちゃんではなかった

私は何も考えられなくなってしまった

私が何もやらないから気に入らない

それはよっちゃんの態度からわかっていた

No.293

仕事が終わって私が帰ると子供達が帰ってくる

子供達が遊びに行くと買い物に行ったり、家事をしたり荷物の片付けをしていた

夕食の支度をして食べ終わったら、お風呂に入り寝る

最初は気も張っていて何ともなかったけど、疲れも出てきたんだろう

私は家事以外は横になるようになっていた

座るのもつらい

起きていられなくなった

それでも、無理してやっていれば少しは違ったかもしれない

だから週末に買い物に行ったり、用事を済まそうとしたがダメだった

義父母が来て朝から夜までいたのだ

それに私が出かけてる時も庭をいじっていたようだし、時間関係なくいきなり玄関を開けて入ってきて、夜の八時九時までいたりもした

よっちゃんは何も思わなかったみたいだった

誰の家なのか…

私は家にいるのも嫌になった

No.294

そんな状態で一ヵ月が過ぎよっちゃんの給料日

よっちゃんが
「これからは俺がお金の管理をするよ、だから銀行のカードは俺が持つ」

理由はもっともらしい事を並べていた

給料が振込まれる口座のカードを渡せば、どうなるかわかっていた

実咲に会うためにはお金が必要だから…

私は生活できなくなってもいいと思った

勝手な思い込みだがこの家に来てから、何も嬉しいことがない

だったらここに住めなくなってもいい

そんなことを考えていた

よっちゃんは日曜以外は、実咲と会っていた

店以外でも



問い詰めればいいのかもしれない

でも、出来なかった

情けないが惚れた弱みだろうか

私はどんなことよりも、よっちゃんと別れるのが一番つらいことだった

No.295

よっちゃんに対して愛情もある

いて当たり前でもドキドキすることも多い

もしかしたら執着なのかもしれないけど、自分でもよくわからない

私がよっちゃんと会うまでの事を全部知っている

よっちゃんは

だから何?

そんな感じだ

私なんかじゃなくても相手はいるだろう

なのに私とずっといてくれた

浮気や不倫、ギャンブルも今までなかった

ついていけない時もあるが、いつも家族のために頑張ってくれていたのもわかっていた

許すとか許さないとかじゃないけど、言ったら最後、離婚だと思っていた

よっちゃんは浮気をする人ではない、というより、そうなったら本気だろう

自分が女を作ったから、俺か出ていくと身一つで本当に行く人だ

だから聞くのが、認めるのが怖かった

No.296

よっちゃんは気付いてないが、カードでお金をおろすと通帳を記帳したらわかる

そんな事もわからないぐらいになっていたのだろう

この頃から数ヶ月、私はあまり記憶がないというか、今日が何日とか、何をしたかとかをよく覚えていない

夜寝られなくなり、体調も崩していた

朝も子供を起こした後、横になる、気付くと上の子は学校に行った後だ

数少ない覚えている出来事

バレンタインデーの日
子供の分とよっちゃんのチョコを用意して待っていた

よっちゃんはやはり実咲と会っていたようだ

子供達が私のチョコを渡したが、見ることも受け取ることもなかった

もう、ダメなんだと思っていた

それでも子供達には態度が変わらなかったから、まだ期待していたのだろう

銀行に行って通帳を見てびっくりした

ほんの数日の間に何十万とおろしていた

No.297

私は仕事が終わり次男を幼稚園に迎えに行くと、洗濯物を片付けて横になる

夜、よっちゃんが帰ってくると起こされる

毎日その繰り返しだった

そんな日が続いたある日、よっちゃんと喧嘩になった

私はだらしないと言われた

家のこともやらずに寝てばかり、いい加減嫌になると言われてしまった

やりたくても体が動かない

服が肌にあたるだけで電気が走ったような痛みがあった

夜も寝られない

食事も摂れなくなっていた

何でこうなったかもわからないくせに、私はそう思ったが体に力も入らないし、言い返す気力もなかった

よっちゃんは余計イライラしただろう

それにまさか私が感づいてるなんて思ってもいなかったから

No.298

日に日に帰りが遅くなる

それでも、私が知らないと思っている

とうとう貯金が底をついた

わずか一ヵ月半の間に百万近く使われた

よっちゃんは悪気もなく、こう言ってきた

「もう金無いんだけど」

何でそんなに無いのか、聞かれたらどうする気だったんだろう…

税金だって月々の支払いだってある

生活費も…

無いものはどうしようもないが、払わないわけにいかない

私は

「クレジットカードから借りられるけど」

そう言うと、これからはそれで生活してくれと言われた

それがどういう事かわからない人だ

あとで大変になっても自分のせい

そうならなきゃ、わからないんだろう

とりあえず生活費を、よっちゃん名義の銀行のローンカードからおろして、そこから小遣い分を渡した

No.299

税金や公共料金は私のへそくりでなんとかなった

実咲の店にオープンからラストまで

一人の時もあれば、誰かを連れていく時もある

支払いは全額よっちゃんだろう

食事に行ったり買い物に行ったり、それもよっちゃんもちだ



そしてホワイトデーの前日

朝の五時に帰ってきた

私は夜寝れないけど、起きてるのも嫌でいつも寝た振りをしていたから、帰宅時間はわかっていた

この日は朝九時に伯母さんの家に行く予定があった

よっちゃんの祖母の法事があったのだ

朝帰りして酒臭い

起こしても起きない

行く時間が過ぎてやっと起きて支度をした

この日は雨が降っていて、玄関前がぬかるんでいた

私はなるべく足元が良さそうな場所に車を動かした

その場所が気に入らなかったのか、

「何でこんなとこで乗らなきゃなんねえんだよ」

よっちゃんはすごい剣幕だった

No.300

この時はさすがに頭にきたが、私は何も言わなかった

言う気にもならない

女と朝までいて真っ赤な顔して酒臭い

まだ酔ってるんだろう

好き勝手にやって文句言われる筋合いもない

行くのをやめようかと思ったが、行かなければまたあれこれ言われて、余計に面倒になるのは目にみえていたから、我慢していた

伯母の家に着き、よっちゃんは座敷で親戚と飲んでいる

私はずっと別室にいた

子供達は従兄たちと遊んでいる

お坊さんも帰り他の親戚も帰っていった

ここで帰るのが普通だと思うが、この人たちは違う

結局、伯母が夕飯に寿司をとってくれ、みんなで食べることになった

座敷でお義母さんや他の伯父伯母、綾ちゃん夫婦が食べていたが、私は子供達とテレビを見ていた

No.301

この日、私はよっちゃんと一緒にいないし話もしなかった

いつもは仲が良いし、私が別室にいれば、必ずよっちゃんが呼びに来た

この日はそれもない

伯母が私を呼びに来た

端の席に座ると伯母が

「麻里ちゃん、そんなとこいないで、よしの隣に座りなさい」

伯母もおかしいと思ったんだろう

綾ちゃんの旦那をどかして私を座らせた

私は無言で食べていた

右手が震えてきた
実咲のことがあってから、嫌な事があると今でもまだ震える

早く帰りたい………

「もうこんな時間か」

よっちゃんが突然言った

時計を見ると夜の八時を過ぎている

また朝から1日だ

私は

「帰りたい」

一言だけ言った



それからの毎日も、またいつもの繰り返し

そんな時、長男が幼稚園の時、仲の良かったお母さんからメールがきた

No.302

仲のいいグループの一人が家庭の事情で、実家に帰ることになったのだ

週末にお別れ会をすることになったそうで、急だけど大丈夫かというメールだった

お別れかい=飲み会だ

このメンバーはよっちゃんが仕事から帰ってから、私がいつも飲み会に参加するのを知っている

いつものように少し遅れると返信した

毎日夜中に帰ってくるよっちゃんとは会話が無い

私はよっちゃんに飲み会のことをメールした

返事はもちろん無い

もともと私がメールしても電話をしてくる人だった

よっちゃんからメールは一度も来たことが無い

その日珍しく早く帰ったよっちゃんが

「飲み会行ってこいよ、子供達は俺が見てるから」

私は週末だし実咲と会わずに帰るのか疑ったが、夜に子供だけにするのは心配だ

よっちゃんもその日は早く帰るだろうと思っていた

No.303

飲み会の日

集合時間を一時間過ぎた

普通に帰ってくれば、この時間に帰ってくるだろう

伯母の家が事務所になっているから、わざと
「まだいる?」と電話しようかとも思った

いないのがわかっているのに…

電話すれば、よっちゃんが何をしてるか、みんなも知ることになる

でも、出来なかった

よっちゃんをかばってしまった

いつか目が覚めて元に戻る日がくる

私はそう考えていた

電話をすれば実咲とは終わっただろう

伯母はそういうことは絶対に許さないから

だけど、無理に終わらせても続くと思っていた

だからよっちゃんの意志で実咲と終わりにしてくれると願っていた



よっちゃんから電話が来た

「もう少しで帰るから、お前行ってろよ。あんまり待たせちゃ悪いだろ」

それを信じて出かけることにした

No.304

店に着いて家に電話をしたが、よっちゃんは帰ってない

それから十分おきぐらいに電話したけど、結局帰ってなかった

お別れ会をした友人の実家は、私の両親と偶然にも同じ市内だった

それがきっかけで仲良くなったのだ

私の両親の今住んでる辺りのことも教えてくれていた

話したいことも沢山あるが落ち着かない

子供達だけだから帰ろうかと考えていたら、家から電話が来た

「あと十分くらいでパパ帰ってくるって」

子供からだった

いったい何を考えてるのか

私はよっちゃんが帰ってこなかったら、また電話するように言った

その後、よっちゃんは帰ってきたらしい

子供達に申し訳なかった

二次会を断り家に帰った

いつもならまだ起きてる時間だ

家に着くと真っ暗だった

よっちゃんは寝てるんだろう

実際は寝室で実咲とメールをしていたのだが…

No.305

もう無理かな…

そんなことを考えるようになった

よっちゃんは金がなくなると私に話し掛ける

月々の支払い分はもらえるが、生活費はくれなくなってしまった

私はカードローンでしのぐしかない

自分は良いが、子供達には食べさせなくては…

これからを考えなくちゃ

そう思っても頭が回らない

私は休日は起きることが出来なくなってしまった

微熱が続き体は火傷をしたように痛い

食べ物は喉を通らない

次男の幼稚園は私が送り迎えだし、仕事もある

これだけは無意識にやっていた感じだ

買い物も行っていたが覚えていない

気が付くと車に乗っていたりした

これには自分でも怖くなった

とにかく家にいる時は横になった

No.306

私も限界だったのだろう

よっちゃんと離婚するのはどうしても出来なかった

子供には今までと変わらない

だったら、私がいなくなればいい

もう死ぬことしか頭になかった

もう見ることがない、よっちゃんの笑った顔
私はその笑顔が大好きだった

私の大好きな声
私ではなく今は実咲にその声で話し掛けている

今までの楽しかったことが頭に浮かんでくる



自分でもどうしたらいいかわからなくなっていた



ある日

長女が家で頭が痛いと言ってきた

他の二人と違い体質だと思うが、長女は咳や鼻水といった風邪はあまりひかない

その代わり、頭が痛いからと熱を測ると、必ず39度近くまである

本人は慣れてるのかケロッとしてるが、食欲がなさそうなので何か買ってこようと思った

No.307

よっちゃんに長女が熱があるから、早く帰ってくるようにメールをした

夜になっても連絡もない

私はよっちゃんに電話した

でない

すぐに切らずに、ずっとコールし続けてやっと出た 
「何やってるの!」

「○○の近くのスタンドでガソリン入れてる」

「子供が具合悪いの知ってて心配じゃないの?買い物に行けないから、早く帰ってきてってメールしたでしょ」


私はそう言って電話を切った

店も閉まってしまう

よっちゃんが帰ってきたのは、そのスタンドにいればとっくに家に着く時間よりずっと遅かった

帰ってきて、ごめんもない

それに、今までならよっちゃんが買ってきてくれていた

それも出来ないのか…

大げさかもしれないが、私たちは捨てられた、もう必要ないんだ、そう思った

No.308

次の日、長女を病院に連れていくと、インフルエンザだった

薬を飲むと熱も下がり安心だ



そして、その週末

私は寝ないでテレビを見ていた

もちろんよっちゃんはいない

夜中の一時過ぎ、よっちゃんは帰ってきた

私が起きているのを見て驚いていた

「まだ起きてたのか?」

「こんな時間まで何してるの?いつもお酒飲んでて心配しないと思ってる?」

取引先の会議だと言っていた

会議は夜中までやらない

よっちゃんは何も言えなくなりお風呂に入って寝室に行った

よっちゃんが私との事を、どうしたいのかわからない

涙が流れてきた

ずっと泣きたいのに泣けなかった

感情がなかったんだろう

喜怒哀楽なんて私にはなくなっていた

私は、それまで付けていた日記を開いた

そしてよっちゃんと子供達義父母あてに手紙を書いた

No.309

義父母には頭に来ることも沢山ある

私が気に入らないことも義父母は本当に悪気がないのだ

自分達のしてる事がおかしいとか本当にわかっていない

たちが悪いというかなんというか

ただ、一つだけ感謝していることがある

智之とのことだ

智之の両親のおかげで、私のことは近所でかなり話題になっていた

当然、義父母の耳にも入る

よっちゃんが知れば乗り込んでいくだろう

私たちには一切、そんな事があることも、わからないようにしてくれていた

今はうちの息子と幸せに暮らしているから、前のことをあれこれ言っても私が可哀相だからと、みんなが私に直接言わないようにもしてくれていた

その事を私は全く地元と関係ないところから聞いていた

それを知っていたから、私も義父母に冷たく出来なかった

今までのお礼とまではいかないが、自分の気持ちを書いた

No.310

子供達には

ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった

一人一人にその子達のいいところや大好きなところ、色々なことを書いた

書く手が止まってしまう

いい母親ではなかっただろう

だけど私には優しかった子供達

その子達と別れようとしている私は、最低な母親だ

自分の決めた事がいいとは思わない

でも、私はそこまで自分を勝手に追い詰めていたのだろう

弱くてこの状況から逃げることしか考えられなかった



三人とも大好きなパパの事をママは守れなかった

ごめんね

そんな事を思いながら子供達に手紙を書いた

一人一人の赤ちゃんの頃からのことが頭に浮かぶ

もっとこうしてあげたかった、あんな事もしてあげたかった、そんな後悔ばかり思ってしまう

そして、三人にあてた手紙を書き終えた

No.311

よっちゃんには…

心の中には恨み辛みが渦巻いているけど、それは書けなかった

私はよっちゃんでなければ離婚しても、その後結婚はしなかっただろう

他にもっといい人がいたかもしれないが、そんな人と会えるとは限らない

具体的にどこがいいのか、正直わからない

ただ男として尊敬できるのは確かだった

不倫されて尊敬もへったくりもないが、実咲のことを除けば、だ

人生のパートナーとして、父親として、たいした不満はない

夫としては妻の気持ちに疎いが、言葉にしないが考えてくれている、そんな人だ

私は理屈ではなく、そんなよっちゃんが大好きだった

手紙を書いていてよっちゃんへの気持ちが、変わらないことに気付いた

No.312

だから

今の状況はもう限界だった



いつも他の人と会っていること、最初からわかっていたけど言えなかったこと

それも書いた

私はよっちゃんが離婚する気だと思っていた

だったら

私は

死ぬことを選ぶ



そのつもりで手紙を書き終えた

遺書とはっきり言えるものじゃないが、家族にあてた最初で最後の手紙

涙で紙がぐちゃぐちゃだった

不思議と自分がしようとしてることに恐怖を感じない

今までのほうが生き地獄に感じた

手紙を書いたことで吹っ切れたんだろう

変な言い方だが、死ぬのはいつでも出来る

そんなふうに考えていた

普通の考えが出来なかったんだろう

自分でもわからないが、全部よっちゃんに聞いてから終わりにしよう

そう思ってよっちゃんの携帯を探した

実咲と知り合ってから、携帯は目につく場所に置かなくなった

寝室に行ったがなかった

No.313

携帯を目覚し代わりにしてるから、ないのはおかしい

少ししていくとベッドの棚に置いてあった

きっとメールでもしていたんだろう

私は携帯を持ってリビングへ行った



携帯を見て、改めてびっくりした

一日に何十回とメールや通話をしている

仕事中は私は急用じゃないかぎり電話もしなかった

よっちゃんの後輩もの名前もメールの内容に出てきた

みんなそれを知ってて私を見ていたんだろう

私には絶対言わない優しい言葉が並んでいた

実咲からのメールは営業メールとは言えない内容だった

身体中が震えてきた

パンドラの箱をあけてしまった

そんな気がした

何百通というメールのやりとり

この日も寝る前によっちゃんはメールを送っていた

実咲からは今日一日で、合計で六時間もよっちゃんと話していたよと、メールがきていた

No.314

ほとんど毎日会ってメールもして、そんなに実咲とは話すのに私とは話さない

それに

私からのメールはすべて削除されていた

私は頭の中が真っ白になってしまった

私の存在自体を消された気がした



気が付くと寝室に行き、よっちゃんを叩き起こしていた

自分でもやってることがわからない

自分じゃないみたいだった

寝呆けているよっちゃんに携帯を投げ付けた

「話があるから下に来て」

私は先に下りていった

少ししてよっちゃんが下りてきた

まだよっちゃんは寝呆けていたし、実咲のことを言われるとは思ってなかった

私は

よっちゃんの頬を平手打ちした

男の人に手を挙げたのは初めてだった

「目が覚めた?」

そう言って携帯を取り上げた

「実咲って人のことを説明して」

私がこう言ってやっと状況がわかったようだ

No.315

よっちゃんの話を聞きながら、私は泣いたり怒ったりしていた

感情がコントロールできない

キッチンのカウンターの上にある物を、手当たり次第投げていた

床は傷だらけ、冷蔵庫の扉もへこんでしまった

後で考えたら、冷静に話を聞けばと思うが、そんなの無理だった

話を聞き終えてよっちゃんは

・実咲とは終わりにする
・信用してもらえるように頑張るから、これからの俺を見てくれ 

私に土下座をして言ってきた



謝ったから、会わないから

この話は終わり



よっちゃんはそう思っただろう

私は、離婚する気はないというよっちゃんの言葉や、話し合いの様子でやり直すことにした 

口では何とでも言えるし、その場しのぎの嘘かもしれない
 
だけど、よっちゃんの表情が、以前と同じに戻っていた

これが、やり直す一番の決め手になった

No.316

よっちゃんは携帯から実咲のデーターを消した

よっちゃんが消したからといって、連絡がとれないわけじゃない

よっちゃんには、私はすぐに信用は出来ない、しばらく様子を見ると言ってあった



話し合った日の夜から翌朝にかけて、家の電話に非通知で何回か着信があった

設定で非通知は着信音がならない

いつ、何時に着信ありというデーターは、電話本体に残る

これが三日続いた

大体よっちゃんが寝る頃と起きる時間にかかってくる
よっちゃんは電話してないし、実咲からも連絡はないと言っている

携帯は履歴を消せばいくらでも誤魔化せるだろう

でも

私に嘘をついて連絡を取り合っていたら、わざわざ嫌がらせをするだろうか

連絡とれないから家に電話してるんじゃないか、
それとも何かの合図か

私は実咲だと思った

No.317

よっちゃんに非通知のことを言うと

「おまえの考えすぎだよ」
「それにうちの番号を知ってるわけないだろ」

よっちゃんの言葉に私は納得できない

「実咲と同じ機種でしょ、携帯を見る隙があれば、調べるなんて簡単なんじゃない?」
「シャワーでも浴びてればその間に見られてたかもね」

私がこう言うとよっちゃんは、体の関係はないと言う

よっちゃんの性格じゃ、実咲と寝れば私とは出来ないだろう

でも違ったから、実咲とは寝てないのかどうか

本当の事はわからないが…



今まで非通知でかかってきた事がないのと、時間的に考えて子供の友達じゃない

私たちの知り合いなら、時間も時間だし携帯かメールだろう



よっちゃんはアドレスを変えていた

連絡がとれない

話し合った日から毎日電話がくる



普通に考えたら実咲以外にいないと思う

No.318

その後は一日おき二、三日おきとなり、一週間に一度かかってくるようになった

私はよっちゃんを疑った

非通知のことを話した次の日は、かかってこなかったからだ

この後もそうだが、よっちゃんに話すと、嫌がらせがしばらく治まる



家にかかってくるのは、ある程度決まりがあるのがわかった

そして今度は私の携帯に非通知でかかってくる

私の携帯番号は、メールをする友達、子供の担任、よっちゃんだけしか知らない

不思議と携帯にかかってくるのと同時に家の方は少なくなっていた



ある日、携帯がなった

子供が学校から帰ってくる時間だ

私は出かけていたので、子供からだと思い番号も見ないで出た

「もしもし」



「いつまで奥さん面するつもり?さっさとよし君と別れてよ、私は絶対諦めないから」



よっちゃんをよし君と呼ぶのは実咲だけだ

電話は実咲からだった

No.319

相手だけが話し、一方的に電話が切れた

その日、よっちゃんに電話のことを話すと

「相手の嫌がらせかもしれないし、おまえに嫌な思いさせたのも俺が悪い。だけど、なんでそんな電話に出て話してんの?」

私は耳を疑った

実咲の番号は控えてあった

かかってきたのは違う番号からだ

実咲と話したいわけじゃないし、私が責められなくちゃいけないのだろうか…

私達は言い争っていた

よっちゃんが
「いつまでもしつこいと、また同じ事するからな」

この言葉で私の中の何かが崩れた

音を立ててと言うが、頭の中で何かがガラガラと砕ける音がしたような気がした



すぐじゃなくてもいい
何年か何十年かわからないけど、信用してもらえるように頑張るから…



よっちゃんのこの言葉は、なんだったんだろう

No.320

それから私はら嫌がらせがあっても、よっちゃんに言わなくなった



私が悪いから、よっちゃんは他に女を作った

私がちゃんとしてれば、こんな事にならなかった

実咲のことを言えばまた不倫される…

嫌がらせされるのも、私が悪いから



こんな事ばかり考えていた

精神的にいいわけがない
体も壊してしまう

この時から左手が、常に痺れてるようになってしまった



私が何も言わなきゃ、よっちゃんはいてくれる

そう思って、我慢することにした

なぜか不倫したほうは、その後は逆ギレする人が多いらしい

私も今なら、ふざけるな💢と、言えるだろうが…



実咲はよっちゃんを客としてじゃなく、本気で好きなんだろうか

私は実咲がどうしたいのかわからなかった

それに嫌がらせは、私の仕事先にもされるようになった

No.321

私の旦那は不倫して家庭はメチャクチャだとか、私の接客態度が気に入らないとか電話がかかってきた

いつも一緒のパートさんとはこの頃すれ違いで、たまたま一緒になった時に聞いた

この人が電話にでていたそうだ

クレームにしてはおかしいと思い、私を心配してくれていた



それに家でも

ポストに産婦人科でもらうエコー写真が入っていた

一瞬、気が動転したが何週とか記述があるはず…

そう思ってよく見ると、やはりあった

実咲はよっちゃんとの子供だと言いたいのだろう

だけど計算が合わない

写真だと二人が終わってからの妊娠になる

仕事中に会えばそうかもしれないが、よっちゃんにそれは無理だ

会社の行き帰りは私が送り迎えしていた

実咲を乗せた車を売ったから、よっちゃんはあしがない

計算だと車を売ってからの妊娠になる

よっちゃんは関係ないと思った

No.322

お互いに実咲の事に触れないまま毎日が過ぎる

仮面夫婦かなぁ………
私は、なんとなく思った

よっちゃんは満足だろう
私に責められることもない

逆ギレ以外は、本当に家族の為によくやってくれていたのも事実だった



ある日、家の電話が鳴った

携帯からだ

よっちゃんの知り合いは、いつも携帯だ
きっと知り合いだろうと思って電話に出ると

「いるんでしょ!よし君とかわってよ」

実咲だろう
酔っている感じがした

切ろうと思ったが、ある考えが頭に浮かぶ

よっちゃんと替わろう
もし、よっちゃんにその気がないなら、相手に文句の一つでも言うはず、そう思ってよっちゃんを起こした

すると

「お前バカじゃねえの、何でいちいち相手するわけ?そんなに俺の気分悪くさせて何がしたいんだよ。別れたいのか?」

よっちゃんは実咲ではなく私に文句を言ってきた

No.323

今までも、何かあれば話してきたが私が悪いと責められていた

実咲への不満など一度もない
逆にかばっているみたいだった

気が付くと電話は切れていた
私もそのままリビングに行き、何とも言えない気持ちでビールを飲んだ

だんだん、嫌がらせの電話にも慣れてしまった



仕事先にも知り合いなのか人を使って、私のいる時間帯にわざわざ来て嫌がらせをされた

離婚届けや、店で撮ったと思われる実咲とよっちゃんの写真などが、家のポストに入れられたこともあった

子供たちには見られちゃいけない

私はそれらを見つけると、玄関先で燃やしていた



よっちゃんから言わせると

これらの事は、私が最初に相手の電話に出て話したから、相手を調子に乗らせたから、らしい

No.324

私は実咲をどうにかしてほしいとか、悪口を一緒に言い合いたいわけじゃない

よっちゃんにしたら、ほんの数か月だけ、もう終わった事、そんな程度だろう

不倫相手にもよるだろうがそんな簡単なことじゃない
後々まで何かしら影響が出る

少しはこちらを気遣ってくれたら………

それは私の期待で終わった





お義父さんが持病で入院することになり、その事で話があるとよっちゃんから言われた

病院に保証金を払わなくちゃいけないが、お金がないから出してくれと頼まれたそうだ

好きで具合が悪くなるわけじゃないのはわかってる

だけど

お金もないのに入院したりして、義父母はどうするつもりなんだろう

病状の心配より、そう思ってしまった

No.325

前回義母が入院した時、うちは引っ越し前だった

お金が掛かるし大変だけど手術すれば良くなる
それになりたくて病気に鳴ったわけじゃない
そう思って病院代を出した



その後、お義父さんの給料だけじゃ、ローンや月々の支払いが出来なくなる

ある日よっちゃんから
「明日、これ払っといて」とお義父さん名義の督促状を渡された

お金は私が出した

私は督促状を職場に着いてすぐに払った
そして私の職場では
<宮原さんちは生活に困ってる>と噂になった

ないのに無駄遣いをして、何かあればうちが出す

これまでにいつも何万単位で出していて、一度もありがとうと言われた事もない

「今回は出さないから」と
私は言った

No.326

この時、義父母には今までの総額で百万以上援助していた

私は
・うちの貯金を吸い取られて私や子供は必要な物も我慢している
・税金も増えている
・これから子供達も中学高校と控えていて、お金が掛かる
・このままじゃ、うちは生活していけない

よっちゃんにこう言って更に付け加えた

病気は仕方ないが、私は大人の義父母より、働いて自活出来ない子供をとる、と



大人は働けるし、頑張っていて質素にしているのに困っているなら、私だって援助して何も言わない

でも義父母は違った
そのせいで子供達に我慢させていたから………

貸したお金が返ってこないから、うちにはもうまとまったお金がないと話した

No.327

保証金は退院時に返ってくる
それはわかっていたけど、入院費用は誰が出すのだろう

両方言われても嫌だから、私は頼みを拒否し続けた

よっちゃんは私に頭を下げた
自分の親だから、なんとかしたいのはわかる
でも今の状況じゃ、うちの家族に何かあった場合、それこそ入院なんて無理

でも入院しなければ、お義父さんが辛いのもわかる

今回が最後
よっちゃんにそう言って、お金を渡した



お義父さんは一ヵ月後に退院した

そして、よっちゃんが実家にお金を取りに行ったのだが………



このお金も戻ってこなかった

お義父さんが入院したことで、二人とも働いていなかった

支払いが出来ないから、その分を出して欲しいと言われたそうだ

さすがによっちゃんも、文句を言ったまではいいのだが、返却された保証金を義父母に渡してしまった

今後一切、援助はしない
これで今月の支払いをしろと言って………

No.328

この人はうちの状況がわかっているのだろうか?



「十万から先の金額が足りないって、どういう事かわかる?それで払おうとしてた税金とかは払えないんだよ、来月二ヵ月分になるんだよ、よその心配よりうちの心配してくれないの?」

私は泣きながら言っていた

私はこの少し前に仕事を辞めていた
うちの実家も処分していたが古かったせいもあり、ちょっとした車のほうが高いくらいの金額だ

それは使いたくなかったが今までの事(義父母や実咲への支出)もあり、私の給料と同じくらいを引き出し生活費にしていた

体の調子も悪かったので、少し休養してからまた仕事をするつもりだった



よっちゃんは毎月の自分の小遣いから、一万ずつ返すと言ってきた

一度に十万の穴埋めを一万ずつ返されても、何もならないけど、そうしてもらう事にした

No.329

実はこの一ヵ月後に、私たちは結婚十周年を迎える

私たちは結婚式を挙げていなかった

せめてウェディングドレスが着れるうちに!?写真だけでも撮ろうと思い、友人の知り合いの写真館にお願いして、当日までよっちゃんにわからないように話を進めていたのだ

そこで式も挙げられると聞いていたのだが、たまたま週末だったので一泊旅行を考えていた

伯父伯母に、よっちゃんが仕事を休めないか聞こうと思っていた矢先………



「これ頼むわ」
よっちゃんがまた督促状を預かってきた

「もう出さないんじゃないの?」

「これ払わないとヤバいってからさ」

………………



この時ばかりは
私が入院したくなった



私はわざと旅行分からそれを払った

No.330

義父母は消費者金融から借りる事はなかったから、それだけは助かった

市役所に相談するなり、何か方法はあったと思うが、あれだけ税金を滞納してれば、そちらに回されてしまうだろう



そして、結婚記念日

よっちゃんは朝から用があったし一日がかりになりそうだから、子供達を義父母にお願いして出かけた



写真館について私だけが支度をして、よっちゃんを待たせた

男の人は着替えるだけだから

私が支度を終えてよっちゃんのところに行くと



特に言葉もなく…
撮影が始まった



本当は予約をしなくてはいけないのだが、友人のお陰もあり、チャペルを使って簡単な式を挙げることが出来た

「あなたは~」
「誓います」

これだけだったが友人に改めて感謝した



そして子供達を迎えに行く途中
旅行を考えていたがダメになったことを伝えた

No.331

スペースシャトルを読んでくださった皆様へ



私の下手な文章、どこにでもあるような話を、ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。

私事ですが、来週からしばらく入院する事になってしまいました。



3人の子供達もこれからです。
私もやりたい事がまだまだあります。



だから
しっかり治します。



退院まで少し時間もかかり更新も出来なくなるので
勝手ながらスレを閉鎖しますことをお許しください。



皆様

本当に
ありがとうございました。

のの

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