💉みつばちの唄💉
💀(はじめに…)
この小説は《大人の為の官能サスペンス》というコンセプトから随所に未成年の方にはそぐわない文章的表現があります…未成年の方、またその種の小説がお嫌いな方は目を通されない事をお勧めします…なお、当然の事ながらこの物語は完全なフィクションです…ご了承頂けた方のみお入り下さい💀
新しいレスの受付は終了しました
>> 50
💉『お疲れ様でした…』
年代物のパンチャーにタイムカードを差し込むとKは形だけの挨拶をして店の勝手口から外に出た…ポニーテールにした髪のゴムを外すと栗色の長い髪がサラリと夜風になびいた…小さく舞った枯れ葉の渦が本格的な冬の訪れを知らせている…コツコツと白いハイブーツを鳴らしKはねぐらである順のバーに向かって歩を進めた…店から順のバーに向かう道路の脇は若者向けのブティックや美容サロンが立ち並ぶお洒落な路地で、あちこちで華やかな服を着たマネキンがすまし顔で立っている…
(本当なら今頃私も普通の年頃の女性みたくこんな綺麗な服を見て心踊らせているのだろうか…)
Kはマネキンを見ながら何故か言いようのない虚しさに襲われた…ようやく自由の身になれたのに…鎖から解き放たれたというのに…絶望と隣り合わせで生きていかなければならない自らの人生を憂いだ…
(これから一体私はどうすればいいんだろ…誰か教えてッ!お母さんッ!お父さんッ!)
その時Kの後頭部に衝撃が走った!次の瞬間すごい力で身体が浮かされたかと思うとKは二人の覆面の男達に側の薄暗い路地へと引きずり込まれていた…
>> 51
💉Kは二人の覆面男に路地深く引きずられていた…途中慌てた男の一人が路地に置かれていたビールケースを誤って蹴り上げ、ガシャンと大きな音がした…静かにしねぇかッバカ!とKを引きずる男は必死に自分の唇の前で人差し指を立てている…Kは突然何が起きたのか解らなかったがすぐに自分がどういう状況にあるのか、この後どういう目に遭うのかまで容易に頭で理解する事が出来た…路地の突き当たりの金網まで行くと覆面男達はKをそのまま地面に叩き付け、ズボンのチャックを下ろし始めた!
『なッ、言った通りだろッ…ハアッ、ハアッ…マブいんだって!』
そのかすれた声にKは聞き覚えがあった…何度か店に来ていた客の男だ…Kは店が忙しい時厨房のみならず店長に言われて何回か注文聞きに店前に出た事があった…その時何度か聞いた声だった…
(そっか…そういう事か…)
道理で何度もカウンターから厨房の中を覗き込んでると思った…機会があればヤッてやる!つまりそういう事だ…
『何だコイツッ!もう観念したのかッ!?ヘヘヘ全然抵抗しねぇぞッ!』
一方の要領の悪そうな男がKが着ていたセーターを捲り上げた!
『…やめた方がいい…後悔するから…』
>> 52
💉『何だぁネェちゃん…怖くてオシッコちびっちまったかぁ?』
『私はアンタ達の為を思って言ってるの…こんな事やめた方がいい…まぁどうしても理性が効かないと言うんなら仕方ないけど…きっと後悔…い、いや…後悔すらしてる暇ないか…フフフ…』
驚く程落ち着いた妙なKの言い回しに覆面男達は首を傾げたがそんな事よりも先にやる事があると言わんばかりに二人の男の腕がKの身体を強く押さえつけていた…男の一人がKの下着のパンティ-を脱がすとKの身体に覆いかぶさって来た!
『観念しなッ!ハアッ、ハアッ…すぐに終わるからよッ!何てったって俺は三擦り半って所だからッ!ハアッ、ハアッ…』
『最後通告よッ!やめ…ッ!』
もう一人がKの口を塞いだ!
『大人しくヤラれときゃぁいいんだよッ!』
興奮気味の覆面男は一気に分身を突き立てた!ものの3秒もしないうちに男の分身はKの股間を貫いたッ!
『ンンッッ!…』
『さぁ入ったぜッ!すぐにイッテやっからなッ!』
男は腰をグラインドさせ始めた…
『…馬鹿な男ねッ!…ハアッ、ハアッ…イク前に逝っちゃうわよッ!』
意味不明なKの言葉を無視するかのように男達は代わるがわるKの中に入って来た…
>> 53
💉辺りは静寂に包まれていた…幸い目撃者もいないようだ…Kは泡を吐き顔面蒼白の二人の覆面男が完全に絶命しているのを確かめると近くに転がっていたビール瓶に水道水を入れ男達の陰部を洗浄した…
(ハァ…計算外だったわ…とんだ計算外…けどコイツら私を犯そうとした訳だし…私でなかったらきっと他の女性が狙われていた…まぁそれはそれで良しとしよう…)
衣服を綺麗に整えるとKは何も無かったかのように表通りを歩き出した…
(必死に抵抗しようと思えば回避する事も出来た…けど私の中のもう一人の私が駄目だ!罪を償わせろと叫び声を上げた…おかしい…やっぱり私はどうかしている…)
考えまいとすればする程Kの中にある衝動は大きな物になっていく…
(助けて…誰か…私のこの心の隙間を埋めてッ!怖いッ!怖いッ!)
Kは思わず走り出した…脇目も振らず走り続けた…いつの間にか港の防波堤にたどり着いていた…横浜港の夜景が痛い程胸に染み込んでくる…防波堤の先まで歩み寄ると漆黒の闇に包まれた海が見えた…
『…このまま死んでしまおっかな…早くみんなの所に逝きたいよ…』
真夜中の冬の海の波立つ風景を眺めながらKは唇を痛い程噛み締めた…
>> 54
💉藤田はネクタイを解きながら玄関で靴を脱いだ…頭の中の意識は驚く程覚醒しているが全身はまるで蝋人形のように硬く硬直しているようだった…冷蔵庫から飲みかけの烏龍茶のボトルを引き抜くと半分程入っていたお茶を全部飲み干し倒れ込むようにソファーに腰掛けた…
(そんな馬鹿な…前代未聞だ…いぃや、有り得ないッ!そんな事絶対にッ!)
藤田の頭の中は昼間聞いた設楽の話で埋め尽くされていた…藤田は思い立ったように机に向かうとノートパソコンを開きインターネットに接続した…
(…《UKW23》…駄目だッ…じゃあクロノスウイルス……これもないッ!検索不可能…なるほど…まだ世間には未発表の極秘扱いの殺人ウイルスって訳だ…)
藤田はため息をつくとまたソファーに寝そべった…
(ただ…ただ設楽警部補はまだ男が言った全てを信用するなと言っていた…話題作りのカルトなオタク野郎の作り話の可能性だってあるんだって…そうだよな、その証拠にインターネット検索ですらそんなウイルスの名前は出てこないんだから…)
藤田は起き上がるとTVを付けてみた…少なくとも現時点ではそんなニュースは流されていないようだった…
>> 55
💉翌朝Kの眠る部屋に血相を変えて順が飛び込んできた…
『ち、ちょっとKッ!こ、これもしかしてッ!』
順は食パンをくわえたままKににじり寄った…
『な、何慌ててんのよママッ…』
『何を呑気な事言ってんのさッ!これッ、これアンタの仕業だろッ!?』
順は朝刊の一面を指差した…《横浜でまたもや変死体ッ!同一犯の犯行の可能性も!》それはこれでもかと言わんばかりのスポーツ新聞ばりの大きな文字だった…昨日自分を襲ったあの二人組だ…
『……』
『アンタなんだねッ!馬鹿ッッッ!あれほど罪もない人間を殺めるなって言っただろがッ!』
順はこんな事なら縄で縛っておくんだったと頭を抱えた…
『だってママ…仕方なかったんだ…アイツら私をレイプしようとしたんだよッ!もし私じゃなければ他の子が被害に遭ってたかも知れないわッッ!』
『K、アンタ超能力者ッ!?コイツらが後に犯罪を犯すかどうかなんて誰にも解らないじゃないッ!犯罪を未然に防いだと安堵してんだろけどそれはアンタの言う《弱きを救い強きを憎む》理想とは到底言い難いわねッ!逃げようと思えば逃げ切れたよねッ!?アンタには明らかに殺意があったのよッ!違う?』
Kは黙って俯いた…
>> 56
💉『…ママには…私の気持ちなんて解んないんだよ…』
Kは順を睨み付けた!
『あぁ解んないねッ!解りたくもないッ!いいかい、ハッキリ言わせてもらうよKッ…アンタの身体は普通じゃないんだッ…大袈裟に言えば哀しいけど人類にとって《凶器》なんだッ…折角自由の身になれたんだろッ!?だから…だからもっと自分の行動に責任を持てって言いたいんだよッ!』
『ひ、酷いッ!普通の…何の障害もない人間だからそんな無責任な事言えるのよママはッ!私だって毎日毎日死ぬ程考えてんだよッ!どうしたら普通の人のように平穏な生活が送れるのだろってッ!だけど…無理じゃないッ!どう考えたって私は普通じゃない…まともじゃないんだもんッ!』
順はKの肩を掴んだ…
『だからッ!それをこれから一緒にゆっくりと考えていきゃぁいいんだよッ!アタイがいるんだよッ!アタイはアンタを見捨てはしないッ!だから…お願いだからもう無茶しないでよKッッ!』
Kの肩がユサユサと揺れた…
『わ、分かったような事言わないでよッッ!』
『バカッッッ!』
次の瞬間、順の分厚い掌がKの左頬を貫いた!順は唇を震わせ涙を流した…Kが初めて目にした順の綺麗な粒だった…
>> 57
💉『覚えてるかいKッ!あの土砂降りの雨の夜泥だらけで病衣のままこのバーに泣きながら飛び込んで来た日の事ッ!忘れてたとは言わせないよッ…あの時アタイは…アタイはアンタを邪険に扱ったかい?訳ありの人間はここには入らないでくれって追い払ったかい?』
『……』
Kは静かに首を横に振った…Kの目に熱い物が込み上げた…
『…アタイが今までアンタと一緒にやってこられたのはアタイが出来た人間だからとかそんなんじゃないッ!…あの時何故か解んないけどアンタの心の悲痛な叫びをアタイは感じたんだッ!助けて!このままじゃ自分が自分でいられなくなりそうって悲鳴をアタイは聞いたんだよッ!アタイはアンタのその心の隙間を少しでも埋められたらって…グスッ…ね、K…お願いだから自分を大事にしてよ…でないとアタイがアンタと一緒にいる意味がないんだよッ!』
『…ママ…』
Kの頬を透明な液体が流れ落ちた…順はKの身体をそっと抱いた…
『大丈夫ッK…幸せになれるよ…いや、アタイが人生かけてもアンタを幸せにしてやるッ!絶対の絶対のぜぇ~ッたい!』
順はKの肩をきつく抱きしめた…
『ママ…好きッ!』
順は苦笑いした…
>> 58
💉【《UKW23》…未耐性膣内免疫不全ウイルス…保菌女性の膣液内に潜伏し急速に増殖死滅を繰り返す謎の感染ウイルス…主に性交の際男性の勃起した陰茎内部から溶け込みを開始したった数分間という短時間に陰部から全身に浸蝕感染する殺人ウイルスで感染症状として急激な冠動脈、各静脈の閉塞や梗塞を来たす…それにより瞬時に心臓動脈部位に激しい痛みが走りたいていの場合は性交の数分後に感染者は心臓麻痺症状で死に至る…日本での《UKW23》保菌者は現在まで確認されていないが1980年初めアフリカのタンザニア奥地のスリーツという種族の一人の女性からこのウイルスが検出された事がある…その女性の現在の所在は不明…極秘で開催された世界免疫学会に於いて発表されたこのウイルスの感染率及び感染速度はあのAIDSウイルスの約7000倍にあたるとされている…】
藤田はゆっくりとメモを閉じた…設楽は何か言いたげに藤田に目をやった…
『…信じられません…AIDSの7000倍の殺傷力…』
『俺だって信じちゃいない…けどもしその男の言う事が本当なら…そのウイルス保菌者がこの日本の何処かに解き放たれているとするなら…大変な事だ…』
設楽は頭を垂れた…
- << 61 💉『しかしこれである程度合点がいきますね…一連の連続変死体殺人事件の被害者は彼女に巧妙に殺害された…このとんでもない凶悪な殺人ウイルスを使って…』 『となると…田中が殺害された日の深夜、ホテルから出てきた女が最重要参考人という事になるな…』 設楽は煙草を吹かした… 『そしてこれは極論ですが…姫路の一家惨殺強盗事件の最後の生き残りの家族…三つ子のうちの最後の一人が…考えられませんか?』 設楽は煙草の火を消すと藤田に行くぞッ!と声をかけコートを羽織った… 『ちょっと警部補ッッ、行くってどちらへ?』 『決まってんだろ…喫茶店で情報をくれた男の所だ…はやく車に乗れッッ!』 何処にいるか解るんですか~?と不思議がる藤田の腕を掴むと設楽と藤田は覆面パトカーに乗った… 『奴から連絡先は聞いてある…私の話を信じてくれるなら協力するとな…』 『警部補は信じるんですか?』 慌てる藤田の言葉を聞き流し、設楽は自らハンドルを握ると車を急発進させた… 『ピンと来たんだ…あの男はとんでもない秘密を握っている…間違いないッッ!首根っこ掴んででも全部吐かせてやるッッ!』 いつになく興奮気味の設楽の横顔に藤田はただならぬ想いを感じていた…
面白いです~
一気に読んじゃいました。続き気になります。
>> 59
💉【《UKW23》…未耐性膣内免疫不全ウイルス…保菌女性の膣液内に潜伏し急速に増殖死滅を繰り返す謎の感染ウイルス…主に性交の際男性の勃起した…
💉『しかしこれである程度合点がいきますね…一連の連続変死体殺人事件の被害者は彼女に巧妙に殺害された…このとんでもない凶悪な殺人ウイルスを使って…』
『となると…田中が殺害された日の深夜、ホテルから出てきた女が最重要参考人という事になるな…』
設楽は煙草を吹かした…
『そしてこれは極論ですが…姫路の一家惨殺強盗事件の最後の生き残りの家族…三つ子のうちの最後の一人が…考えられませんか?』
設楽は煙草の火を消すと藤田に行くぞッ!と声をかけコートを羽織った…
『ちょっと警部補ッッ、行くってどちらへ?』
『決まってんだろ…喫茶店で情報をくれた男の所だ…はやく車に乗れッッ!』
何処にいるか解るんですか~?と不思議がる藤田の腕を掴むと設楽と藤田は覆面パトカーに乗った…
『奴から連絡先は聞いてある…私の話を信じてくれるなら協力するとな…』
『警部補は信じるんですか?』
慌てる藤田の言葉を聞き流し、設楽は自らハンドルを握ると車を急発進させた…
『ピンと来たんだ…あの男はとんでもない秘密を握っている…間違いないッッ!首根っこ掴んででも全部吐かせてやるッッ!』
いつになく興奮気味の設楽の横顔に藤田はただならぬ想いを感じていた…
>> 61
💉Kは暫く仕事を休んでいた…Kを襲った二人組の変死事件がこの界隈で起きた事…それに加えて彼らがKが働く店の常連客だった事から連日店に警察関係者が聞き込みに現れ、順のアドバイスもあり、あまり刑事に顔を知られない方がよいと判断したからである…歯を磨き、ソファーに座りKは一度伸びをすると机の引き出しから一枚の写真を取り出した…そこには幼稚園の頃家族五人で水族館に行った時に撮影した笑顔の家族が写っていた…
(これがお母さん…フフ…こっちがお父さん…真ん中が元気で右が勇気…)
Kは確かめるように一人一人を指差しながら呟いた…
『まぁ~た見てんのかい?飽きないネェ~』
買い物から帰ってきた順が荷物を下ろすとじっと写真を見て笑いかけているKに言葉をかけた…
『優しいお父さんとお母さんだったんだね…』
『………』
『あ!…ご、ごめん…悪かったよ…』
Kはうぅん!と首を振った…
『この写真ね…お母さん達とお別れする時持たせてくれたものなんだ…たった一枚しかない私の宝物…』
順はKの肩を抱くと顔を目の前に持ってきた…
『いいKッッ!…淋しくなんかないよッ…家族ならほらッ!ここにいるんだからね?』
順の言葉にKは優しく頷いた…
>> 62
💉『ねぇママ…ちょっといい?』慌ただしく店の開店準備をしていた順にKが部屋越しに言葉をかけた…
『ん?何だい?』
『…私…やめる…』
『え?…やめるって何を?』
『……』
『あ、アンタ…ま、まさか…嘘でしょ?』
言葉の意味を直ちに理解した順は取るものも差し置いてKのそばに駆け寄った…
『……もうやめる…こんな事…』
『K……』
『私解ったの…復讐する事だけが全てじゃないって事…このままずっとずっと真っ直ぐに生き続けて行く事が何よりの家族への供養になるのかなって…』
順の目から大粒の涙が零れ落ちた…
『K…よ、よく言ったよKッッ…そうだよ…悲しいのは痛い程解る…けどそればっか背負い続けてたって未来は開かないもんねッ…そっか…そっか良かった…いつかKがそう言ってくれるのをアタイ…ずっと待ってたんだよッッ!…』
まるで自分の事のように一喜一憂してくれるこの恩人の為にもKは金輪際殺人を犯さないとその場で誓った…
『ママ…何してるの?今から店…』
シャッターを閉める順にKが問い掛けた…
『バカッ!こんな最高の日に店なんかやってられるかってのッッ!さぁグラス持ってきなッ!今夜は二人だけのラウンジ《順ブライド》だよッッ!』
>> 63
💉幹線道路脇の寂しい場所に設楽と藤田は立っていた…最近まで使われていたような真新しいトンネルが不気味に闇を形成し数百メートル先の出口の明かりを放散していた…
『ウゥ~寒いッ!…警部補ッ…本当に来るんですかね、その男ッッ』
小刻みに脚をばたつかせながら藤田は面倒臭そうに言った…
『…来る…向こうが指定してきた場所だ…』
設楽は錆び付いたバスの停留所に腰を下ろすとゆっくり煙草を吹かした…
『!…け…警…アイツですか?』
藤田の視線の先に霧の中に不気味に浮かび上がる一つの影を確認した…影はゆっくり設楽と藤田に近付いて来る…
『どうも…わざわざすみませんね…』
『……』
男は以前設楽が喫茶店で会った時と同じような出で立ちだった…藤田が不愉快そうに設楽の顔を眺め指示を待ったが設楽は静かに藤田の苛立ちを制止した…
『こないだの話…もっと詳しく聞かせて頂けませんか?一連の事件を見てますと…どうやら貴方の言葉を信じない訳にはいかなくなりましてね…』
設楽はまぁどうぞ寒いですからと男を覆面車の後部座席に案内した…
『さぁて…では始めましょうか…』
設楽は煙草の火を消すと助手席から振り向きサングラスをかけたその男を見つめた…
>> 64
💉男はしきりに神経質そうに運転席の藤田に目をやった…
『!…あ、コイツは私の相棒で藤田と言います…』
設楽が藤田を紹介しても男のギラギラした目から緊張は消えなかった…
『…何なら席を外させましょうか?』
『ちょっと警部補ッッ!』
慌てる藤田を気にも留めず設楽は男に言葉をかけた…
『まだ若いですが信用できない男じゃないですよ…なんせ私が自ら推薦して選んだ相棒ですから…』
暫く沈黙が続いたが解りました、まぁいいでしょうと男は頷いた…
『…話す前に条件があります…』
『…はい何でしょうか?』
設楽の眉が動いた…
『もし真実全てを話したら…彼女の今まで犯した罪を軽くして貰えますか?』
『…それは約束出来ません…我々が決定出来る事ではありませんから…全ての真実が明らかになった時点で貴方の言うその犯人に情状酌量の余地があると裁判官が判断されたらもしかしたら貴方の希望に添えるかも知れませんが…』
設楽は出来るだけ丁寧な言葉で男に話しをした…
『そうですか…』
『貴方とその犯人とはどんな御関係なんですか?』
『……』
設楽の言葉に男は口をつぐんだ…その時激しい夕立ちが車の屋根をパシパシと叩き始めた…
>> 65
💉『僕は信頼しているんですッ…設楽さんなら何とかしてくださる、彼女を助けて下さると…』
男は噛み締めるように俯きながら言葉を搾り出した…
『力になりましょう…どうぞ貴方の知っている全てを話して下さい…』
設楽は男の震える肩にそっと手を添えた…
『三木…三木久美子…先日話したUKW23という殺人ウイルスの保菌者です…』
『!みッ…三木…や、やはりッッ!三木康博の娘、三つ子の最後の一人だったんですねッッ!』
驚愕の事実を聞かされ藤田が飛び上がる位に興奮した!設楽はじっと黙って男の次の言葉を待った…
『もう包み隠すのはやめましょう…』
男はそう言うとマフラーとサングラスを外し素顔を晒した…年齢は藤田と同じ位だろうか…丸い顔に大きな目をしたなかなかの好青年に設楽には映った…
『星都大学免疫生物学教室研修生の南原真樹斗と申します…』
少し緊張気味に南原は設楽に名刺を差し出した…
『…どうやら…仕込みなしのガチ、マジみたいですね…』
名刺を横から眺めながら藤田は設楽に言った…雨は次第に激しさを増し次々と車の屋根にその水滴をこれでもかと言わんばかりに打ち付けて来る…
『久美子ちゃんは…人生を政府に奪われたんですッッ!』
>> 66
💉『私が星都大学に入ったきっかけは免疫生物学を当時AIDS研究では第一人者だった富樫幹久教授の元で勉強させてもらう事でした…しかしいざ蓋を開けてみると違っていました…』
『違っていた?…と言いますと?』
設楽はわざと南原に話しをさせるような相槌を打った…
『富樫教授は肝心の最先端AIDS研究などしてはいなかった…それよりも人類にとってもっと有益で素晴らしい研究があるんだと…我々新人研修生達は全員大学の研究教室から遥か離れたとある施設に連れて行かれました…そこで見た物は…まさに…』
南原の唇が震え出した…
『…UKW23という殺人免疫不全ウイルスを持った三木久美子という女性…ですよね?』
藤田のその言葉に南原は静かに頷いた…
『彼女は当時16歳でした…しかしひそかに調べたら驚いた事に7歳の頃からこの研究施設で外界から遮断された隔離生活を余儀なくされていたとの事でした…』
設楽と藤田は目を見合わせた…
『そ、そんな事って…それは立派な誘拐拉致じゃないかッッ!そんな事が許される訳ないだろッッ!』
設楽が珍しく声をあらげた…
『しかし…それが公然と罷り通っていたのです…つい最近まで…彼女が施設から逃げ出すまでずっと…』
>> 67
💉『三木久美子が殺人ウイルスの保菌者だったって事も…10年以上も研究施設に幽閉されたって事も…そして三木夫妻の娘だったって事実すら…隠さねばならなかったと言うのか…そんな…馬鹿なッッ!』
『政府は厚生労働省単位で彼女にウイルスが確認された事を知り世間への完全な隠蔽を謀りました…そのウイルスを使った極秘プロジェクトの最高責任者に富樫教授が選ばれたのです…』
『極秘…プロジェクト…とは?』
藤田が思わず腰を上げた…
『詳しくは研修生単位の我々には当然の事ながら教えては貰えません…しかし…』
『しかし…何です?』
設楽が顎を撫でた…
『これは僕の勝手な憶測ですがおそらく彼女のウイルスは最終的には軍事目的で使用されると思います…』
『つまり…生物兵器ッッ!?…ま、マジかよッッ!』
藤田は唾を飲み込んで目を見開いた…
『だからこのまま…このまま彼女を野放しにしておいたら…』
『なるほど…世間にこの事実を知らせたら日本中がパニックになる…だから政府は警察関係者のこの我々にさえ知らせる事なく隠蔽していたんだな…』
設楽は一連の連続変死体殺人事件と繋がった事に自ら妙な鼓動を覚えた…
- << 71 💉『はい、どちらさん?』 順がバーの玄関扉を開けると二人の男が立っていた… 『……何?』 その異様な雰囲気を醸し出す男達に順は言いようのない悪寒を感じた… 『すみません…警察のものです…』 『…警察がアタイに何の用?』 警察という言葉に順は動揺したがそれを悟られまいと必死に繕った… 『この女性を知りませんか?先月から行方不明になっていて捜索願いが出ているのですが…』 男が示した写真にははっきりとKの顔が映し出されていた… 『…さぁ…知らないねぇ~…アンタ達本当に警察官なのかい?』 順の質問には一切触れず男達はもし見かけたらここに御一報下さいと名刺を順に手渡すとゆっくり踵を返し去って行った… 『誰…なの?』 玄関を閉めると店の掃除をしていたKが順のただならぬ雰囲気を悟り言葉をかけた… 『……アンタを嗅ぎ付けてる奴らがいる…』 『警察?』 『いや…あれは刑事なんかじゃないね…これでもアタイは地元警察に顔が広いんだ…さっきの奴らは警察官じゃない…初めて見る顔だよ…』 順は親指を噛んだ… 『まずいね…もしかしたら…』 『研究施設の人間?私を連れ戻しに来たのッッ?』 『大丈夫ッッ!アタイが絶対そんな事させないよッッ!』
>> 68
💉『南原君と言ったね…?君…』
設楽は南原が肩からかけていた大きなバックを見つめながら言葉をかけた…
『お察しの通り僕は今日研究施設から抜け出して来ました…もうあそこには戻らないつもりです…設楽さん達にここまでお話した以上どんな仕打ちをされるか解りませんから…』
『警部補ッッ!その富樫って教授を押さえましょうよッッ!』
藤田が興奮気味に設楽に言ったが設楽は藤田のはやる気持ちを見透かすように目を閉じ制止させた…
『駄目だ、慌てるな藤田…政府や厚生労働省庁が絡んでいる以上迂闊には捜査は出来ない…無茶な捜査をすればそれこそ奴らの思う壷だ…この事実を知った以上事は慎重に進めねばならん…まず先に三木久美子を見つけ出して話を聞くのが先決だ…そう思わないか?』
『僕も設楽さんに賛成ですッ!今はまず久美子ちゃんを捜し出してこれ以上の暴挙を止めさせないとッッ!』
二人の言葉に藤田は納得した…
『で、その三木久美子の居場所なんですが…』
設楽は仕切り直すように眼鏡を上げた…
『今久美子ちゃんは深い傷を負い自暴自棄になっているはずですッ!お願いです設楽さん、藤田さん、どうか久美子ちゃんを助けてやって下さいッ!』
>> 69
📓みつばちの唄~ご意見ご感想お待ちしています…
✨《三木久美子》…遂に連続変死体殺人事件の容疑者にたどり着いた二人の所轄刑事、設楽と藤田…彼らは三木久美子について星都大学免疫生物学研修生南原真樹斗から衝撃の事実を聞かされる!殺人免疫不全ウイルス《UKW23》を宿した宿命の美少女K…いや、三木久美子…彼女の行く先には一体何があるのだろう…
>> 68
💉『三木久美子が殺人ウイルスの保菌者だったって事も…10年以上も研究施設に幽閉されたって事も…そして三木夫妻の娘だったって事実すら…隠さねば…
💉『はい、どちらさん?』
順がバーの玄関扉を開けると二人の男が立っていた…
『……何?』
その異様な雰囲気を醸し出す男達に順は言いようのない悪寒を感じた…
『すみません…警察のものです…』
『…警察がアタイに何の用?』
警察という言葉に順は動揺したがそれを悟られまいと必死に繕った…
『この女性を知りませんか?先月から行方不明になっていて捜索願いが出ているのですが…』
男が示した写真にははっきりとKの顔が映し出されていた…
『…さぁ…知らないねぇ~…アンタ達本当に警察官なのかい?』
順の質問には一切触れず男達はもし見かけたらここに御一報下さいと名刺を順に手渡すとゆっくり踵を返し去って行った…
『誰…なの?』
玄関を閉めると店の掃除をしていたKが順のただならぬ雰囲気を悟り言葉をかけた…
『……アンタを嗅ぎ付けてる奴らがいる…』
『警察?』
『いや…あれは刑事なんかじゃないね…これでもアタイは地元警察に顔が広いんだ…さっきの奴らは警察官じゃない…初めて見る顔だよ…』
順は親指を噛んだ…
『まずいね…もしかしたら…』
『研究施設の人間?私を連れ戻しに来たのッッ?』
『大丈夫ッッ!アタイが絶対そんな事させないよッッ!』
>> 71
💉『もうこれ以上何人たりともKには指一本触れさせないよッ…』
順は笑顔を作るとアンタは当分ここから出るんじゃないよ!とKに忠告した…
『しかし相当ひつこい奴らだねッ…それほどまでしてKの身体を利用しなきゃなんないのかネェ…』
カウンターをフキン掛けしながら順が呟いた…
『私の保菌するウイルスは政治的に相当利用価値があるみたい…研究施設の人間は私の身体を使って様々な実験をしていた…人間を人間とも思わない酷い実験を…』
Kはソファーに腰掛けるとフゥ~とため息をついた…順はフキン掛けの手を止めてじっとKを見つめていた…
『…半ば強引に連れ去られ10年以上も誰一人として理解者のないまま…アンタはその施設でずっと耐えて来たんだね…かわいそうに…』
『…辛い事ばかり…でもなかったんだ…』
『!ん?…それってどういう意味だい?』
順はフキンを水道で洗った…
『生き地獄の中…たった一人だけ…施設でこんな私に優しくしてくれた男性がいたの…研究チームの中の新米研修生だったんだけどね…』
『ヘェ~…いたんだ…そんな人間…』
Kは思い出すように宙を見た…
>> 72
💉『彼は私が施設の中で唯一話しをした男性だった…そして施設での辛い事ややりきれない事を彼にはこっそり相談したりしていた…だから私がこうして研究施設を逃げ出した事で彼に迷惑かけていなきゃいいんだけど…それだけが心残り…』
Kはため息をつくと思い出したかのようにテーブル席の机の上をフキン掛けした…
『…そうかい…』
順はそれ以上はKに何も聞かなかった…
『とにかく!…政府が組織的にアンタを血眼になって捜し回ってるのは確かだよ…おそらくさっき来た奴らはアンタをまた捕まえる為にその研究施設から極秘に派遣された調査員か何かだ…警察にも知られていない厄介な輩かも…だから用心にこした事はないよッ!…』
Kは有難うと頷いた…
『しかし不気味だよね…こんな大変な事態が起きてるのにもかかわらず警察は何にも知らされていないみたいだもんね…何か気味悪いよ…』
さぁ!店始めるよッッ!と順は気を取り直したように苦笑いした…Kにはその順の言葉がいつまでも粘土のように胸の端に引っ掛かってこびりついていた…
>> 73
💉『狭いけど遠慮なく使ってよッッ!…俺ほとんど帰って来ないからさッッ!』
藤田は研究施設から逃げ出した南原真樹斗を自分の2DKのマンションに招いた…
『…でも本当にいいんですか?所轄担当刑事がその殺人事件の容疑者を知る重要参考人を家に匿うなんて…』
重い鞄を肩に抱えて南原はまだ遠慮がちに玄関前に佇んでいた…
『大丈夫だよッッ!そんな固い事言うなって…設楽警部補も暫くはそうした方がいいって言ってただろ?さぁ入った入ったッッ!』
藤田は苦笑いしながら客用のスリッパを並べた…
『実家には当然南原君を捕まえる為に研究施設の関係者が張ってるはず…だからここが一番身が安全だろ?』
南原はスリッパを履くときちんと脱いだ靴を揃え申し訳なさそうに奥のリビングに入った…
『これならどうだ?君と僕は昔からの職場を越えた個人的な友達で君はたまたま休暇を取って僕んちに遊びに来ている…ほら、これで全然不自然じゃないだろ?人に聞かれりゃそう答えればいい…』
藤田はヤカンを火にかけると客用の敷き布団を探り出した…
『何かすみません…僕なんかにこんな優しくして頂いて…』
南原は頭を垂れて俯いた…
『馬鹿ッ!やめろよッんな事!』
>> 74
💉『第一印象はナァ~んか頭デッカチの研究生肌のイケ好かない奴だなと思ったけどさッッ…歳も近いし意外と常識あるし好感が持てたよ…まぁたいした事は出来ないけどゆっくりするといいよ…』
藤田は腹減ったろ?とカップ麺を取り出すとぶっきらぼうに中にヤカンのお湯を注いだ…
『で…三木久美子だっけ?…その子の写真か何かは持ってるかい?捜索に当たりどんな顔か知っておきたいんだけど…』
『…写真は…ありません…研究施設内では彼女は名前以外全ての個人情報は封印されていましたから…』
そっか~!と藤田は頭を抱えた…
『だけど僕は顔を覚えています…今でも脳裏に焼き付いています…なんせ超がつくくらいの美人ですから…』
『ヘェ~…そうなんだ…尚更見たくなったなぁ~』
藤田はカップ麺のタヌキそばを南原の前に置いた…
『さ!…食って食って…』
いただきますと二人はカップ麺をすすり込んだ…
『何処にいるか心当たりはない?』
『はい…親戚や幼稚園だった頃の同級生宅に訪ねてはみましたが…』
南原は首を振った…
『手掛かりなし…か…』
ウドンの箸を止めると藤田はスーパーで買った大好物のキムチを口に入れた…
>> 75
💉『しかし…三木久美子にそんなウイルスが宿っているなんて誰がいつ…』
藤田はキムチをカップ麺の汁の中に浸しそのまま口に放り込んだ…
『小学一年生の健康診断の血液検査で判明したらしいです…何の変哲もない普通の少女の血液中に見た事のない細菌が確認されたと…それが未知の殺人ウイルス《UKW23》だと知ったのはWHO直属の厚生省免疫化学研究センターでした…前代未聞のウイルスの発見に関係者は色めき立ち、国を上げて研究せよとの通達があり政府と厚生省は三木久美子の身柄を確保したんです…それが全ての間違い、悪夢の始まりです…』
余り食が進まないのか南原は殆ど手をつける事なく箸を置いた…
『ショックだったろうな…まさか自分にそんなウイルスが宿っているなんて夢にも思わなかったろうに…』
『我々の想像を遥かに越えた悲哀と葛藤だったと思います…彼女は一番多感な思春期をそんな研究の為の犠牲とされざるを得なかったんですから…』
沈黙が部屋を包んだ…
『ねぇ藤田さん…捕まったら彼女…罪に問われるんでしょうか?』
『さぁ……でも5人もの人間を殺しているという事実には変わりないからね…』
南原は唇を噛み締めた…
>> 76
💉『南原君…君は三木久美子とどういう関係なんだ?』
布団を敷きながら藤田は南原を見た…
『どういうって…そうですね、只の研究施設の研修生と被験者という関係以上は何もッ…僕はいつも心病んだ彼女の話し相手…とでも言いますか…味方だったといいますか…まぁ彼女がどう思っていたかは僕には解りませんが…』
南原は鞄から歯磨きセットを取り出すと慌てて洗面所に歯を磨きに向かった…藤田は我に帰るようにまた丁寧に布団を敷き始めた…
『…好きなんだな…三木久美子の事…』
藤田が枕をドサッと置いた時、南原に言葉をかけた…
『えッ?…ま、まさかッッ!ハハハ…』
藤田の次の言葉を掻き消すかのように南原は勢いよく洗面所の蛇口から水を出した…
『……いや、何でもないよッ…聞かなかった事にしてくれ…さぁ俺はもう寝るわッ!明日また捜査で早いから…』
藤田は寒い寒いと呟きながら布団に潜り込んだ…
(く、久美ちゃん…)
南原は久美子の顔を思い出しながら勢いよくバシャバシャと顔を洗った…
(……)
布団の中で藤田はその南原の様子を耳だけ傾けていた…
>> 77
💉三木久美子の捜査は行き詰まっていた…設楽と藤田は捜査本部に彼女の存在はまだ報告せずにいた…一連の連続殺人事件と三木久美子を結び付けて捜査本部に報告する事はある意味危険だと判断しての事だった…政府が三木久美子の存在を未だ隠している以上自分達は水面下でしか動かないでおこうと決めたのだ…
『南原君からは色々情報を聞き出しました…しかし彼女の居場所の決め手となる情報は…』
ため息をつく藤田の顔を眺めながら設楽もフゥ~と息を吐いた…
『この事が公になれば警察や司法は大混乱だ…勿論世間もな…』
『厄介な事になりましたね…頼りはこの南原君が描いてくれた三木久美子の似顔絵だけ…ですか』
お世辞にも上手いとは言い難いその似顔絵が設楽の手に渡った…
『面長で長いストレートの髪…右の眉毛の端にホクロ…これだけじゃな…』
まるで雲を掴むような捜査に二人は天を仰いだ…
『こんな時には息抜きだ…藤田お前もうあがれッッ!俺も家に帰ってカミさんの上手くない手料理食うとするよ…』
設楽は署から足早に消えて行った…
『フゥ~…そだ!久々に会ってやるか…』
捜査本部に一人取り残された藤田は携帯を取ると従兄弟の小嶋義人の番号を表示した…
>> 78
💉藤田は用事を済ますと小嶋義人が待つ場所に向かった…
『ヨォうッッ!章ニィッッ!お久ッッ!』
真冬だというのに長袖シャツ一枚で義人は笑顔で藤田を迎えた…
『章ニィから電話なんて珍しいじゃん!さ~て~はッッ!捜査行き詰まってるナァ~?』
指を指し、おどけた顔で義人が笑った…
『どうでもいいけど寒くねぇのかよその格好サァ…』
『平気平気ッッ!それよかさ、こないだの約束、今日偶然果たせそうなんだよッッ!』
『約束ぅ?…したっけ…そんなの…』
義人はアチャ~と手でオデコを叩いた…
『ほらッ、店の女の子紹介するって俺言ったじゃん!一度見てみてよッ!って…まさか忘れたとは言わせないよッッ!』
あぁそういえばコイツ前にそんな事…藤田は思い出した…
『彼女最近ずっとお店休んでたんだけどさ…クックッ!』
『何だよ気持ち悪い…言えよッッ!』
『見ちゃったんだよね…スナックみたいな所に出入りする所…ありゃゲイバーだな、うん…間違いないッ!』
腰に手を当て義人は探偵気取りで藤田に言った…
『で、丁度よかった…今から行かない?そのゲイバー…』
義人がいうな否やもう藤田の腕を引いていた…
『ち、よし…ちょっとぉ!』
>> 79
💉『フゥ~ン…スナック《順ブライド》…目的がなけりゃぁ俺には縁もユカリもない場所だな…』
藤田は小嶋義人に誘われるままそのバーがあるビルまでついて行った…
『最近美咲ちゃんずっとラーメン屋休んでてさッ…気になったからずっと捜してたんだ…したら偶然この中に入るの見付けてさ…ずっと見張ってたの…カァ~ッ!これってやっぱ運命なのかな…』
馬鹿野郎ッッ!それストーカーだろッッ!と藤田は義人の頭を叩いた…藤田と義人はカンカンと階段を降りて行き地下にある薄暗い店の玄関をカランと開けた…
『いらっしゃいませッッ!…どうぞこちらへ…』
8席程のカウンターにテーブル席が一つのかなりこじんまりした空間だった…茶色を基調とした店内はしっとりと落ち着いていてモーツァルトのクラシックが流れていた…藤田と義人は誰一人客がいない店内の一番奥のカウンターに腰掛けた…
『何にします?』
カウンターのママの姿に藤田は一瞬戸惑った…どうやらニューハーフのようだ…
『順です…宜しくッッ!』ママらしき女性(?)は藤田と義人に微笑んだ…
『ね?言った通りだろ?』
横から小声で義人が藤田に耳打ちした…
『…ごついな…身体…』藤田も言葉を返した…
>> 80
💉『ヤダ~いい男が二人で何コソコソ話してるの~ん!』
藤田と義人はグラスビールとおつまみを注文した…
『静かでいい店ですね…』
藤田は順に言葉をかけた…まんざらお世辞でもなくシックで落ち着いた店内は藤田の好みだった…
『ありがと…初めて?ここ…』
順は義人よりも藤田に好意を持ったらしく視線はずっと藤田を向いていた…
『えぇ…コイツの紹介で…』
義人はやめろよッ!という視線を投げかけた…
『どうやらママさんはウチの兄貴を気に入ったようですねッ…ヒュ~ヒュ~!』
順が自分に興味を示さない事に義人は安堵の表情で笑った…
『あら~貴方も可愛いわよ…まだ学生さんみたいだけど…』
義人の顔が引き攣った…藤田は改めてゆっくりと店内を見渡した…
『この店…ママ一人でされてるんですか?』
『えぇそうよ…どして?もっと若くて可愛い娘が横に居なきゃ不満かしら?』
『い、いや…そういう訳じゃ…』
義人がママにお酌をしようと構えた…
『あら…いいの?じゃぁいただきます…』
三人の乾杯のグラス音が店内に響いた…いつしか店内のBGMがジャズに変わっていた…
>> 81
💉『ねぇママ…《原田美咲》って子知ってるよね?』
突然義人が順に尋ねた…
『原…田ぁ?…さぁね…知らないけど…』
順はアイスピックで氷の塊をシンクで割り出した…
『こないだこの店に出入りしてるの目撃しちゃったんだ…』
『お前なぁ、いきなり…』
藤田が何にでもストレートな義人を制止しようとした…
『…で、その子がどうしたっての?』
藤田には氷を割る音が次第に大きくなるような気がした…
『もしかしてここに住んでんのかなって…僕さ、彼女と同じ職場の小嶋義人って言います…ここに居るんなら逢いたいな~と思ってね…』
順は粉々に割った氷をザルに移すとそのまま業務用の冷凍庫に入れた…
『フゥ~ン…それが目当てだったの~…何か嬉しさ半減だわッ…』
『あ~ち、違うよママさん…決してそんなつもりはッ…こ、コイツ口下手だから何でもかんでも出鱈目をパクパクと…』
『ひ、酷いぜ章ニィッ!出鱈目じゃないっての!確かに見たんだよッッ…彼女がここに入るのをッッ!』
『…何しに来たの?…』
突然カウンターの奥で声がすると女性らしき人影が現れた…
『!…み、美咲ちゃんッッ!』
そこに立っていたのは原田美咲という名の通称K、いや《三木久美子》だった!
>> 82
💉順はしきりに久美子に向かって目配せしたが久美子は大丈夫だから!というような素振りをして順を見つめ返した…
『久しぶりッッ!店休んでたから心配したよ…』
久美子は白いニット帽子を目深に被り赤のトレーナー姿で二人の前に現れた…
『あ、紹介するよ…こっちは従兄弟のふじ…』
義人が藤田を紹介しようとするや否や、久美子が義人を睨み付けて言葉を被せた…
『どうしてここが解ったの?もう付き纏わないでって言ったはずよッッ!』
順は何が何だか解らずただじっと久美子を見つめていた…
『僕はただ心配で…』
『誰も心配してくれだなんて言ってない!』
藤田がとにかく落ち着いてと二人を宥めた…その時久美子が初めて藤田に視線をやった…
『……』
『あ…どうも初めまして…コイツの、小嶋義人の従兄弟の藤田といいます…すみません、不躾な奴で…昔からなんですよッッ…』
なるほど義人が好意を持つはずだ…藤田は久美子を見て思った…透き通るような丸い瞳に整った鼻筋…少し分厚く、それでいて妖艶な唇…そこに居るのはまさに天から降りてきた妖精そのものだった…この世のものとは思えない美しさに藤田も暫く久美子に見入ってしまっていた…
>> 83
💉『な?章ニィ…僕の言った通りだろ?』
順の店を後にすると藤田と義人は夜の中華街を歩き出した…
『…けど義人あの子…本気で嫌がってたぞッ!はっきり言って悪いけど脈なしだな…もう付き纏うのはやめた方がいい…あんまりひつこいと俺達がストーカーとしてお前をしょっぴかなきゃならないから…』
『そうかなぁ…やっぱり…僕には高嶺の花カァ~…』
諦めの早いのも義人の特徴であると藤田はよく知っていた…
『しかし綺麗な女性だったな…義人じゃなくても言い寄りたくなるよな…』
『お!まさか章ニィ立候補?』
馬~鹿と藤田は義人の額をコツいた…
『きっといるさ…彼氏の一人や二人』
藤田は腹が減ってないか?と義人を牛丼屋に誘った…
『…しかし…いや、気のせいだな…』
牛丼の並盛りに卵をかけ藤田が呟いた…
『ん?何が?』
箸をくわえながら義人は不思議そうに藤田を見た…
『い、いや…そんなはずない…そんなはずは…ハハハ…』
刑事という職業は因果なもんだ…すぐに疑い、何でも物事を結び付けようとする…悪い癖だ、失礼だぞ…藤田は自分にそう言い聞かせていた…すぐ横で義人があ~ぁと頬杖をついていた…
>> 84
💉『大丈夫なのかい?…ラーメン屋の知り合いなんだろ?』
店の後片付けをしながら順は久美子がさっき来た義人と藤田に逢った事に気を揉んでいた…
『…別に…何とも思ってない…』
お盆にいっぱいのグラスを乗せ久美子はシンクの中の桶にグラスをゆっくり沈ませた…
『しかし厄介だね…店長にはKの居場所知らせないでくれってあれだけ念を押したのにさッ…』
『…もう来ないと思うよ…』
『え?…』
『もう来ない…きっと…もし今度来たら私がここから出て行くわ…』
『K……』
久美子は肩を落としながらグラスを洗い出した…かなり疲れている、順にはそう感じ取れた…
『…もうこれ以上私に深く関わる人を作りたくないんだ…それに私にはそんな資格すら無いんだし…』
順はやり切れない気持ちになった…どうすればこの子を笑顔にさせてあげれるのだろう…どうすれば普通の人のような生活をさせてあげられるのだろう…どうすれば…一体どうすれば…順は頭をかくと玄関口の看板のネオンの電源を落とした…グラスの泡をじっと眺めながら久美子はさっき小嶋義人の隣にいた藤田という男の何か得体の知れない殺伐とした異様な雰囲気を感じていた…
>> 85
📓みつばちの唄~ご意見ご感想お待ちしています…
💉遂に運命の邂逅を果たした刑事藤田と三木久美子…しかしまだ互いが互いを知り得ないまま運命の糸は縺れながら伸びてゆく…物語は中盤戦に差し掛かり新たなる様相を呈する…運命に翻弄される美少女とそれを追い掛ける研究施設関係者と刑事達…果たして今後どうなるのか!熱いメッセージ心よりお待ちしています💕
>> 86
💉一連の連続変死体殺人事件の捜査は直も続けられていた…設楽と藤田はまだ容疑者を特定出来ずにいる捜査本部を尻目に極秘で真の容疑者《三木久美子》の足取りを追っていた…
『…なんだ…浮かない顔して…フラれたか?』
今にも雨が降りそうな空模様にため息をつくと設楽は藤田に言葉をかけた…
『…い、いえ…』
藤田は設楽の視線に気がつくと改めてハンドルを握り直した…
『あの研修生との同居生活はどうだ?』
設楽は南原真樹斗の話を持ち掛けた…
『どうって…別に…俺が家にいる時はいつも出掛けていないから解んないス…きっと三木久美子の行きそうな心当たりを片っ端から捜してるんでしょうけど…危険だから家から出るなって忠告も聞く耳持たないですしねッ…』
少し不機嫌気味に藤田はハンドルを切った…
『なぁ…あの研修生とその三木久美子の関係…お前どう思う?』
『……わかりません…だけど』
『?…だけど?』
中区の交差点に差し掛かる頃ポツポツと雨が降り出してきた…
『かなりの信頼関係であったようですね…恋愛感情は抜きにしても…』
設楽はフンと鼻を鳴らすと苦笑いして内ポケットから愛用の煙草を取り出し口にくわえた…
新しいレスの受付は終了しました
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
名無しさんが紹介する星新一の『夜の迷路』 1レス 155HIT 読者さん -
「時をかける少女」の真琴が嫌いです。 1レス 100HIT 小説好きさん -
一夜の夢と私の自由 0レス 145HIT 通りすがりさん -
【意味怖】産まなきゃよかった 4レス 261HIT 初心者さん -
猫と雪ダルマ 2レス 101HIT たかさき (60代 ♂)
-
ユアマイエブリシング こちらももしも時間があと1カ月ぐらいあればこちらも再構築が必要なスレで…(流行作家さん0)
437レス 2237HIT 流行作家さん -
ニコニコワイン 457レス 18595HIT 旅人さん (20代 ♀) -
20世紀少年 ミクル様 今まで ありがとうございました。(コラムニストさん0)
387レス 7842HIT コラムニストさん -
音楽図鑑 ミクル様 今まで ありがとうございました。(コラムニストさん0)
103レス 1823HIT コラムニストさん -
喜🌸怒💔哀🌧️楽🎵 🦆〜🩷 (匿名さん0)
91レス 3849HIT 匿名さん 名必
-
-
-
閲覧専用
鯨の唄 3 87レス 601HIT 旅人さん -
閲覧専用
アニポケ没映画3の答えってもしかしてこれじゃ…? 1レス 85HIT 小説好きさん -
閲覧専用
生きていたいと願うのは 1レス 118HIT 小説家さん -
閲覧専用
ドアーズを聞いた日々 500レス 1268HIT 流行作家さん -
閲覧専用
真夏の海のアバンチュール〜ひと夏の経験 500レス 2282HIT 流行作家さん
-
閲覧専用
鯨の唄 3 まだまだ未完成ですが… この稚拙で誤字脱字だらけの小説を読んでく…(旅人さん0)
87レス 601HIT 旅人さん -
閲覧専用
一雫。 今は離婚して(随分前だけど) 息子も独立 娘とは暫く会えてませ…(蜻蛉玉°)
96レス 3212HIT 蜻蛉玉゜ -
閲覧専用
アニポケ没映画3の答えってもしかしてこれじゃ…? 書いていて気付いたのですが、これって結構BWのゲノセクトと被る部分があ…(小説好きさん0)
1レス 85HIT 小説好きさん -
閲覧専用
神社仏閣珍道中・改 241レス 13650HIT 旅人さん -
閲覧専用
仮名 轟新吾へ(これは小説です) 〔学んだ事〕 人に情けをかけると 後で物凄く、不快な気持になる…(匿名さん339)
500レス 9105HIT 恋愛博士さん (50代 ♀)
-
閲覧専用
