ハルビン

レス4 HIT数 56 あ+ あ-


2025/06/15 14:54(更新日時)

の路上で母が大福餅を売っていた時、今にも死にそうな飢えた子を抱いた女が母の前に立ち、子供のために、餅をひとつただでめぐんでくれ、と言った。が、母はがんとして、首を横に振りつづけた。組み合わせていた母の手は指の先が白くなるほどに力が入っていた。母は、自分の心の中の優しさを押し殺すために、歯を食いしばって戦っていた。

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No.4316219 (スレ作成日時)

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No.1

あの時の母の手と今目の前にあるM子の手は、形も色も同じだ。

昭和二十年八月、ソ連軍がソ連国境を越えて牡丹江に攻め込んできた時に、大編隊のソ連軍機の落とした爆弾の爆風に飛ばされた私が、わっと叫んで飛び込んでいったのは、割烹着を着た母の大きく広げられたふたつの手の中だった。

No.2

その日、父は、出張で留守だったが、母は、父の帰りを待たずに、牡丹江を脱出することを決断した。姉は、父の帰りを待つ、と言ってきかなかった。が母は、しっかりしなさい!と言うや、姉の頬をぴしりとたたいた。父を待つことよりもなによりも生きることが先なのだ、と母は言った。娘の頬をぶった、青白い小刀のような鋭い母の手。

No.3

夜、避難列車に乗るために、闇の中を長い時間歩いた。私の手をしっかりと握って、黙々と歩く母の手は、なんという力強さだったろう。私は母に吊り上げられるようにして歩いた。ただの一度も緩むことがなかった、まるで鋼鉄のような母の手。

No.4

母の手の様々な表情を私は思い出す。やがて母は病気になり、右の手の自由を失ったが、あまりの貧乏を見かねて、動くほうの左手で、自分の金歯をはずし、それを手にのせて、みんなの前にさしだしたのは私が高校三年の時、ついこの間だ。

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