くもり空と雨上がりの風
私はしあわせを探していた。
雨上がりの水たまりにうつる私の顔はとても美しく思えたのは虹のおかげだろうか?
あのふもとにあなたはいますか?
爽とは携帯のお見合いサイトで知り合った。人見知りの私だったが彼氏にフられ寂しくて寂しくてとにかく人のぬくもりに飢えていた。
彼から送られてきた彼の写真に一目惚れしたのもある。私にとってはもったいないような男に感じた。
彼と電話を毎日するようになり、さらに彼にのめり込み、会おう!その一言に心が踊った。
「じゃあ、明後日。あの古い喫茶店で。」
彼との待ち合わせは名前も知らない昔からある古い喫茶店になった。理由は一つ。お互いに知っていたから。
明後日。明後日には彼と会える。
嬉しい反面怖くて怖くて…私は自分の容姿に自信がない。
丸く太った体。丸い鼻。癖のある髪。汚い肌。そして何より名前に合わないこの容姿が大嫌いで恥ずかしい。
苺なんて名前をつけた、死んだ母を恨んでいた。
彼に合うその日の空は暗く曇っていた。今にも降り出しそうな空だ。
私は普段はかないスカートに足を通す。癖のある髪を丁寧にとかし、小さなつぶらな瞳にマスカラを入念に塗った。
「よし!」普段よりはマシ。大丈夫。彼には私の写真送り、容姿についても話した。彼はそれでも会うと言ったんだ。大丈夫。
息が苦しくなり胸が苦しい。私を見て引かれたらと思うと怖くて仕方がない。
大きな体を丸めて膝を抱えてるその姿はとてもみっともない。姿見に見える私の姿はおめかしをした豚だ。
私はゆっくり立ち上がり、姿見の私に手を振る。いってくるね…
体に似合わない緑のミニクーパーに乗りこむ。いざ、戦いへ!
息を思いっきり吐き、重いハンドルを回し、あの名前の知らない古い喫茶店に向かう。
喫茶店の前には黒いTシャツにジーパン。派手な靴をはいた男性が立っていた。
たぶん、彼だ。
近づこうにも足がすくんで近づけない。私は喫茶店の壁に隠れながら彼の右後方から彼をチラチラ眺めた。
これじゃまるでストーカー( ・_・)な私。
「あの、もしもし。あの、恥ずかしくて…そのすぐそこに居るんですがそばに行けなくて…」私は震える手で電話を掛けた。
彼は辺りを見回し、こちらに近づいてきた。私の足はただの足と言う名の棒になり、動くことができない。
「苺ちゃん?かな?爽です(´▽`)」写メで見たより少し老けてる。かも?
「あっはい!あの、苺です…」歯がカタカタと音を立ててる。私、史上最強に震えてる…
「入ろっか?」彼は喫茶店のドアを開けて店の中へ入っていく。私は後ろから微妙な距離をあけついていく。
「いやーなんか雨降りそうだね。この後ご飯でもどうかな?なんて思ってたんだけど(´▽`)」思っていたより優しそうな人な気がした。写真のイメージは結構クールなイメージだったから。
「そうですね。降りそうですね。ご飯…もし爽さんがよかったら行きたいです」モジモジしながらもこの後すぐに帰りたくない意思表示だけはできたかな。
ん?あれ?彼がもう一人?え?え?え?
店内の一番奥の席に、メイプルシロップをたっぷりかけたパンケーキにフォークをさしている彼そっくりの人がいる。
どう見ても彼とうり二つ…私は軽くパニックになり、一度お手洗いに行くことにした。
「ごめんなさい。ちょっとお手洗いに…」
鏡の前に立ち、蛇口からでた冷たい水に手を浸す。私は緊張から幻覚を見てるのか?だって、彼が二人いるなんて…もしや、双子?
落ち着け!落ち着くんだ苺!私は今テンパっている。とりあえず、爽さんにあそこの席の人のことを聞こう!
お手洗いから出て、席につくともう先ほどの彼は居なくなっていた。確かそこにいた証拠に、テーブルには食べかけのパンケーキがまだあった。
「爽さん…変なこと聞きますが…双子ですか?または兄弟にそっくりとか(--;)」
「え?面白いこと聞くな~兄貴が居るけど似てないし今東京だよ。なんで?」爽さんは不思議そうに私を眺めてる。このままじゃ変な子だと思われる(゚Д゚)
「いえ、何でもないです!すみません。」
「苺ちゃん。何か飲もうよ!なんか軽く食べる?ケーキとかもあるし。ここで少しゆっくり話そう(´▽`)」爽さんは色あせたメニューのページをめくりながら店員を呼んでいる。
「俺は…コーヒーとパンケーキ。苺ちゃんは?」うっ。パンケーキ頼むんだ…
「私はココアと苺タルトで。」無愛想なおじいさんは店長だろうか?注文を書くでもなく、繰り返すでもなく、うなずいて行ってしまった。
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