信じるという愛
カーテンが揺れ、少し肌寒い風が入ってくる。私の前髪を揺らした。目が覚め、また今日という地獄が始まる。
この時の私は生きるということが拷問のように感じていた…
人も愛も夢も…何もかも信じられなかった。信じられなかった…どうしても…
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「入院しよう!なっ?」お父さんは私の背中を撫でながらお茶を飲んでいる。
お父さんの顔色は悪く、私がここに居ることが限界なんだと感じた。
私は静かに頷いた。お父さんはホッとした顔になり、私の髪を撫でた。お風呂に何日も入ってない髪はフケと臭いが酷い。お父さん…ごめんね。何度も何度も心の中で謝罪した。
「パジャマは買ったから!後はこれが歯磨きとコップと…」父は入院道具を袋に詰めている。私はその光景を映画でも見るかのように眺めた。
2ヶ月前、私は五年付き合った人と別れた。本当に呆気ない終わりだった。彼の気持ちが他の女に向いた。そして、私といるのが苦痛だった。ただそれだけのこと。
ただそれだけのことで私達の五年は意味なく終わったのだ。私は彼氏をバカにしていた。でも、それ以上に必要としていた。私にとって、母であり、父であり、兄であり、友達だった彼。失って初めてどれだけ彼の存在が私という人間を支えていたのか分かった。私の体も心も彼の存在無くしては意味をなさなかったのだ。
「ふざけんな!裏切りやがって!しね!このハゲ!」机の上のコップを床に叩きつけ、ガラスの破片が散らばった。棚の上の観葉植物も手で払いのけるように倒し、部屋の中はめちゃくちゃ。
「いい加減にしろよ…無理なんだよ…」彼氏はうなだれるように床に膝をついた。デカい体が小さく丸まり、とても情けない。
「なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?」私は気が狂ったよう同じ言葉を吐き続けた。
彼が私を捨てるはずがない。だってずっと一緒だった。私達には思い出がある。五年間があるのだから…
それから一週間後、私は同棲していた彼の部屋から車に乗せられ実家へ向かった。同棲していた場所から実家までは高速を使って五時間はかかる。
これでサヨナラしたら二度と彼と会うことはないだろう。彼は無言で運転している。私は窓の外をただひたすら眺めた。終わってしまうのだろうか?まだなんとかなるのでは?と考えている自分が滑稽だった。
「……………本当にごめん。本当にごめんな?元気でな……」下を向いたまま彼は何度も謝り車に乗った。
私は言葉が出ず、懐かしい駅の看板を眺めていた。ここに帰ってきた。私は一人ぼっちになったのだ。捨てられたのだ。
懐かしい駅の隣には真新しい喫茶店が出来ていた。私は空間のどこかに自分を置いてきてしまった感覚に陥った。孤独が体を包み、私の胸に痛みを与えた。死にたい。消えたい。生きてる意味がない。
死ぬ勇気もないくせにブツブツとつぶやく私はみっともない女だ。
「おかえり!」おばあちゃんはニコニコしながら私を出迎えた。理由は知ってる。何でも言うことを聞く便利屋が帰ってきたのだから。
「ただいま!」何でもないような顔をして私は座布団に座る。うまく笑えてる?うまく話せてる?自分が自分でないような感覚に戸惑いながらおばあちゃんと会話を続ける。
「買い物でも行こうか?」早速だ。またおばあちゃんの遊び相手。いや、良いんだけど…
母が亡くなってから、私はおばあちゃんの娘になった。妹は私と違い、言いたいことをハッキリ言い、自分の時間を人に取られるのが嫌いだった。
だからおばあちゃんは私にばかり用事を頼んだ。私まで反抗したらおばあちゃんが可哀想。私はいつもいつも我慢した。妹を憎みながら。
父は母が亡くなってからとにかく生きてる意味のない生活だった。何にも趣味もなく、ただ仕事に行き、ご飯を食べ、寝る。お父さんもまた寂しい人だったのだ。
あぁまたここで暮らすのか…いい子の仮面を被る生活をまた…
妹は彼氏とうまくいってるらしく、夜遅くにルンルンで帰ってくる。
「ミチカって暗いよねぇ~」妹は私を呼び捨てにするようになった。私はあなたより上ですよ~と言わんばかりに。小さな頃から妹はみんなに可愛がられた。私の友達もこの子に取られてしまう。この子には魅力があるのだ。
近所のおばさんでさえ、妹には良く話しかける。私が来ると黙ってしまうのに。私には負のオーラがあるのかな?どこに行っても馴染めない。周りに距離を置かれてしまうのだ。
私は妹を妬んでいた。死ねばいいとさえ思っていた。母も生きているとき、妹に付きっきりだった。こいつさえ…こいつさえ居なければ私は愛された。根拠のない恨みを妹に抱いて生きてきたのだ。
もちろん分かってる。妹が居ても居なくても私は人に愛される事はないのだと。
私は実家に帰り2ヶ月もしないうちに壊れた。常に訳の分からない不安に悩まされ、呼吸が出来なくなった。
子供のように泣きじゃくり、手を握って欲しいとお父さんやおばあちゃんに訴えた。2人は戸惑い、私に怯えているようにも思えた。もう終わったのではないか?この子は元に戻れないのではないか?
きっとそんな事を思ったのかもしれない。でもね、壊れたのはずっと前だった。私の緩みかけていたネジが今完璧に外れただけの話。元から故障していたのだ。
私は入院した。薬を飲まされただひたすら眠るだけの為に。治るなんて思ってなかった。ここから出るために治ったふりをした。
そして、ここから出てからの寄生先を携帯で必死に見つけていた。男が必要だ。巣になる男が…
「……もしもし…あの……初めまして」久しぶりの他人との会話。言葉が震えた。
「もしもし?初めまして!イチカちゃん緊張してる?さっきメールで送ったけど俺の名前は湯部仁だよ!ジンて呼んでくれたら良いから。」写真で見た印象より低い声の男性だ。私より10才も年上だし当たり前かもしれないけど…
「あの…城崎イチカです…ジンさんは今何してるんですか?」何を話していいか分からない。頭の中が真っ白だ…
「今?今は家に居るよ!イチカちゃんは病院なんだよね?退院したらご飯行こうよ!何でも奢るよ!」彼は精神科に入院してることを話しても引かなかった。他の男性は何だかんだでメールが来なくなったのに…ヤリモクの可能性もある。油断してはダメだ。
私は退院して3日後に彼と会う約束をした。家の近くの公園で。
「イチカちゃん?遅くなってごめん!思ったより車が混んでて…待たしちゃったね…」思ったよりも若く見えた彼。優しい感じではなく、気が強いイメージがした。前の彼氏に比べればとてもカッコ良くタイプだった。
「大丈夫です!」私は彼の助手席に乗り込み、下を向いた。元々はかなりの人見知りの私。話す言葉も見つからず顔を見ることすら恥ずかしくて体が熱くなった。
「何が食べたい?何でもいいよ!」私を覗き込むように食べたいものを聞いてくる。私はさらに体を固くし、背中を丸めた。
「……あの、私…メールでも言いましたが人見知りで………恥ずかしくて顔が見れません。ご飯できるかな?…」私は彼と向き合ってご飯など出来ないと悟り、正直に話した。よくこんな状態で会いに来たものだ…自分で呆れる。
「……じゃあ……そうだな…うちにくる?一緒にテレビ見たりしてまずは慣れよう!飲み物だけ買ってくるからちょっと待ってて。お茶でいいかな?」彼は駐車場近くのスーパーにお茶を買いに走っていった。
家に行く?初めて会った人だよ?私は何をしてるんだろ?怖いよ…何かされたらどうしよ…悪い人じゃないよね?悪い想像ばかり膨らみ逃げてしまいたくなった。でもここで逃げたら全て終わってしまう。私がグダグダ考えてる間に彼が帰ってきてしまった…
「はい!これイチカちゃんのね。」彼は暖かいお茶を私に渡した。今は1月。昨日は雪が降っていた。彼の手が私の手に当たった。とても冷たい手だった。
「ありがとう。お金…」私は財布から小銭を取り出した。
「いいよ!いいよ!お茶くらい!」私の頭をポンポンと叩いてニッコリ笑った。
「ごめんなさい。すみません。」彼の笑顔にビクッとしまた体をさらに小さくした。
「ここだよ。」彼に言われるがままソファーに座った。部屋には所々にちょっとしたフィギュアのようなものが置かれていた。それ以外はとてもシンプルで殺風景な部屋。
彼はテレビをつけ、私の横に座った。隣には久しく感じていない男の人の温もりがあった。胸の奥がズキンとする。
「……あのさ……電話でも話したけど俺は付き合いたいと思ってる。イチカちゃんはどう思ってる?」着いて早々にまさかこの話が出るとは……
「…あの、見ての通り私は可愛くないです。太ってるしブスだし…実物見て、更に引いたんじゃないですか?」私は自分の見た目が良くないことを電話で話していた。彼は見た目など気にしないと言っていたが、そんなの上辺だけだと感じていた。
「俺はイチカちゃんと付き合いたいよ。気持ちは変わってない。電話したりメールしたりして実際には会ったの今日が初めてだけど、気持ちは決まってたから。イチカちゃんさえ、良ければ。」彼が私の方を見ているのは分かっているけど、髪の毛で私は横顔を隠した。
「…お願いします…」私は確かめるようにゆっくりと返事をした。
「じゃあ、これからよろしくね!」会ってから30分ほどしか経ってないのに私達は恋人になったのだ。この人が私の新しい彼氏…自分には勿体ないくらいの人だ。男らしいし顔も好き。服も前の彼氏に比べたらオシャレだし。彼の中身よりも私は表面的な部分ばかり見ていた。
「イチカちゃん!やっぱりお腹空かない?もう18時になるしさ。俺昼ご飯食ってないから。お店が恥ずかしいならコンビニにでも行こうよ!」確かにお腹は空いていた。コンビニなら行けそう。それにお腹が空いていると言ってる彼を無視できないし…
「はい…行きます。」私は彼と共に近くのコンビニに向かった。外の風は冷たく骨が軋むような感じがする。
「好きなものカゴにいれなね。」カゴを彼が持ち、私はその少し後ろをウロウロとしていた。何を買えばいいのかな?高くないものがいいよね?私は辺りをキョロキョロと見渡しかなり挙動不審だった。
「俺はパスタにするよ!イチカちゃんどうする?」彼が決まったことに焦り、目の前にあった、たらこパスタを手に取りカゴに入れた。お会計を済まし、また同じ道を2人並びながら歩く。お金払わないと…私は彼に嫌われたくなくて、いろんな事を頭の中で高速で考えた。
「あの、これ。」私は自分の分のお金を手渡した。
「いらないって言っただろ?イチカちゃんは俺の彼女なんだから遠慮しなくていいの!」優しくまた頭をポンポンと叩いて私の手をぎゅっと握った。
彼の前で食事を取ることに緊張して半分も食べないうちにお腹がいっぱいになる。残りは彼が食べてくれた。
時刻は20時。そろそろ帰らないと迷惑だろうか?
「…あの、こんな時間までごめんなさい。」私は帰ろうとバックを引き寄せて。
「イチカちゃんもう帰らないとマズい?」
「まだ大丈夫だけど。うち門限ないし…」彼はニッコリしてこっちにおいでと私をソファーに座っている彼の前に座らせた。
「顔見るの恥ずかしいんだよね?これなら大丈夫でしょ?」彼が後ろから抱き締めてきた。私の手を優しく握り彼の顔が私の肩に乗っている重みを感じる。
次の瞬間彼の手が私の胸に触れた。始めは優しかったのに、彼の呼吸が荒くなり、次第に強くぎゅっと胸を揉む。私の背中に股間を押しつけてるのが良くわかる。
「…んっイチカちゃん…向こうの部屋に行こう…」彼は凄く興奮していて、胸が潰れるほど強く揉んでくる。腕を取られ、隣の部屋に連れていかれた。
隣の部屋はベッドルームで私はベッドに押し倒された。体が硬直して動かない……
「あの!あの!待って!私達今日会ったんだよ!ちょっと早いよ!」このままではされてしまうと思い必死で抵抗した。
彼は私が逃げないように肩を強く抑えている。
「男に恥をかかすの?」少し強めに言われると私は断った自分が悪いように感じ始めた。
「………わかった。私体に自信ないの……真っ暗にしてくれる?」彼は急いで部屋の電気を消し、私の胸をまた強く揉み始めた。私のスカートを脱がせ彼自身も下半身をむき出しにした。
もう彼のものはパンパンに大きくなり上を向いている。彼はすぐにそれを私に差してきた。
「コンドームは?」彼が生で差してきたことに驚き、私は腰を引いた。
「苦手なんだ…外だしするから安心しな!」彼は更に深く突き刺してくる。私はもう逃げられないと思い目をつぶった。
「送るよ。」彼の車に乗り込んだ。彼は何事もなかったように会話をしてくる。私はその会話が頭に入って来なかった。きっともうこれで終わり。誘ってはもらえない。今夜限りなんだなって…体を許してしまった…
「ありがとう。おやすみなさい。」私は静かに車を出る。彼の車が見えなくなるまでずっと眺めていた。
ピピピ…あれ?こんな時間にメール?
《イチカちゃん今日は楽しかった。イチカちゃんは優しくて一緒にいると癒される。これからよろしくね☆毎週会いたいな!》
私…彼女で良いんだ…これからも…勝手に心の中で終わりを告げていた自分には思いも寄らぬメールだった。彼氏ができた。独りじゃない。寂しくないんだ。嬉しくて嬉しくてその場にへたり込んだ。
《おっはよー。今日も元気に頑張ろうね☆》彼との他愛もないメールが幸せだった。今週末はお泊まりで彼のお家に行く。
1日1日が過ぎるのが待ち遠しい。彼に会いたい…
☆ジンさんのことは愛してますよ。昔付き合ってた人なんてぶっ飛ばすくらい。
ジンさんはこんな所には来ない人だと思います。男らしい人ですから。今は生きてるかどうかもわかりませんがね。10年前の話です。
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