彼女いない暦=年齢男の恋(仮)
目が覚めたとき、僕は違和感を覚えた。
目にうつるのは、見慣れた自分の部屋じゃなく、いつもと違うどこかの部屋の天井だった。ここはどこだろう?
僕――神原翼(かんばらつばさ)二十五歳の小さな印刷会社に勤めるサラリーマンだ。
彼女いない暦=年齢、寂しい人生を送っているが、別にオタクやブサメンってわけでもない。中肉中背で、身長もそれなりにあるし、勉強だって学生のころは中間層の上くらいだった。ただ、女の子と仲良くなるきっかけに、まったく恵まれていなかった。
昨日は休日前でもあり、給料も出たばかりだったから、外食しに近くの居酒屋に行った。
居酒屋では、いつもより少し贅沢な料理とビールを注文したが、少し飲み足りなくてバーに行ったことは覚えている。
バーで飲んでる途中から記憶が無いのだが、記憶を無くすまで飲んだことなんて、これが初めてだ。
二日酔いは無さそうだから、それほど飲んではなさそうなのに。
それよりも気になるのは、隣で寝ている女性は誰なんだろう? すやすやと寝息を立てて、気持ち良さそうに寝ている。その寝顔は可愛い顔立ちだった。長いストレートの黒髪も艶がありそうで、触ったらさらさらしてそうだ。寝顔を見る限りは美人の部類に入るだろう。歳はそんなに変わらないくらいに見える。もしかして、僕はお持ち帰りしたのか?
でも、酔っていたとはいえ、僕にそんな勇気なんてあるわけがない。それにここはどう見てもラブホテルじゃないし、多分この女性の部屋だ。ワンルームのようだけど、いかにも女性の部屋って感じだ。
逆にお持ち帰りされたのかなとも思ったが、自慢じゃないけど、彼女いない暦=年齢の僕が、女に声をかけられたりしても、まともな対応なんてできるわけがなく、逆ナンパなど起きるはずがない。
それに僕は昨日の服のまま寝ていた。横で寝ている女性も服を着たまま寝ているので、夢物語のような出来事は無く、僕の純潔も幸か不幸かまだ守られているようだ。僕の初めては僕のお嫁さんになる人に捧げるのだと、前から決めていたし…………。神様、嘘です。本当は凄く興味があるし、早く体験してみたいです。
自分に嘘ついてまで、なにを考えてるのだろう。風俗にお世話になるという手もあったが、しかし愛と勇気が足りず、どこかの空飛ぶアンパンにわけて欲しい
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どうしたものかと途方にくれていると、女性のまぶたがピクピクとした。ゆっくりと女性のまぶたが開き、僕を寝ぼけ眼で見つめている。どうやら、僕が誰なのか、記憶の倉庫に探しに行っているようだ。
僕は次に彼女の目が見開くことを想像した。
想像通りの反応だった。
「え? 誰?」
僕も聞きたい、君は誰?
彼女は飛び起き、自分の服をさっと確認すると、安堵の表情を浮かべた。僕が服を着たまま寝ていたのも、安心材料だったようだ。
僕は、こういうときの対処法を経験したことがないので、硬直したままだ。こういう時どうすればいいのだろう?
「あなた誰? なんでこの部屋にいるの?」
記憶が無いので、ここにいる理由は分かりません。
僕にも君に教えて欲しいことがある。
『君は誰? どうして僕はこの部屋にいるの?』
口には出せずに心の中で呟いた。
さて、どうしたものか、対策が全く出てこない。沈黙してると怪しまれそうだし、ここはとりあえず、
「すいません。昨日呑み過ぎたようで全く記憶がないんですけど。」
僕は正直に言った。他の気のきいた聞き方がわからず、それしか言えなかった。僕の言葉を聞いた彼女は、対応に困っているようだった。
「えっと……とりあえず、ベッドから出てもらっていいかな?」
緊張した面持ちで彼女は言った。
「あ、はい」
僕は言われたとおりベッドから降りる。
部屋の中はいい匂いがして、十字模様のラグに、小さな白いテーブル、壁際には、ファッション雑誌や雑貨が収められた棚がいかにも女性らしい部屋を演出していた。
僕はフローリングの上に敷かれたラグに、なぜか正座した。彼女もベッドから降りてきて、少し距離を開けて、ちょこんと座る。
「「………………」」
お互いに沈黙が続く。彼女が何で黙っているか見当はつかないが、僕の場合、絶対的な経験不足のため、何を言っていいか分からなくて黙っている。
このまま警察に突き出されたらどうしよう?
「あの、えっと、いつもこういう事してるわけじゃないのよ?」
彼女が唐突に切り出した。ああ、見ず知らずの僕を部屋に入れたことを言ってるのか。
僕はラグの十字模様を見ながら、一生懸命にいい言葉で返そうと考えたが、経験値の無い僕には答えなど出るはずも無かった。何か言わないと、沈黙で返したら信じていないみたいじゃないか。
「あの、気にしないで下さい。全く覚えてないし、その、Hしちゃった訳でもないみたいですし」
とり急いで、その場を取り繕うように言ってみたが、どうやら選択を間違ったようだ。さすが僕だ。
「私、軽くなんか無いんだから!」
彼女は僕の言葉を全面否定するように慌てて言った。
「そういう意味じゃないんです! ほんとです!」
僕も自己弁護のつもりで慌てて言った。
「「………………」」
また二人の間に長い沈黙が流れる。
「あ、あの、いつまでも上がらせてもらってるのもあれなんで、僕帰ります。お世話になりました」
沈黙を破るように僕は戦場からの撤退を試みた。
「あ、はい」
彼女も僕の気持ちを察したのか、それとも、彼女自身もこの状況を何とかしたいと思っていたのか、僕の試みを受け入れた。
だが、僕はここで過ちを犯してしまった。
ベッドを降りてから、僕は正座をずっとしていて、足が痺れてまともに立てなくなっていたのだ。
僕は痺れる足を無理して踏ん張るが、痺れて力が入らない。
「あ、足が痺れた……」
「大丈夫ですか? きゃっ!?」
僕の言葉を聞いた彼女は、僕に近付いてしまい、立とうとして倒れた僕に巻き込まれてしまった。
「あいたたた、す、すいません!」
体を起こした僕の顔の下には、彼女の顔があった。
僕は、なんてお約束なことをしてるんだ!
慌てて、体を逃がそうとするが、足が痺れてうまくいかない。
「あの、早くどいて下さい」
彼女は頬に赤みをおびながら言う。
「す、すいません。足が痺れてうまくいかないんです」
もう僕は泣きそうだった。
少しもたついてしまったが、何とか体を離すことに成功した。
「重ね重ね、ごめんなさい。では失礼します」
僕は頭を深々と下げてから、痺れる足でぎこちなく玄関に向かう。玄関には、僕の靴と彼女の靴が仲良さそうに出舟で並んでいた。
僕は外に出ると、周りを見回してみた。見慣れた周りの景色に驚きを隠せなかった。
ここは僕のアパートのすぐ近くじゃないか。
誰かに見られることを嫌って、早足に自分のアパートの部屋に入ると僕は崩れ落ちた。
……死にたい、恥ずかしすぎる。こんな事になるなんて、近くに住んでいるのだから、また出くわしたらどうしよう。どんな顔して挨拶すればいいんだろう。無視するのは余計に嫌な感じだと思うし……。
「……飲みに行くんじゃなかった」
後悔だけが僕を襲う。
せっかくの休日なのに、なにもやる気が起きなかった僕は、部屋の中でごろごろしていた。
足が痺れて倒れた時の事を思い出すたびに、恥ずかしさで部屋中を転げまわっていた。
「あ、名前、聞いてないわ……」
彼女いない暦=年齢の男など所詮この程度である。
運命的な出会いだったかもしれないのに、その機会を簡単に逃す。逃すだけならまだいいが、気付きもしないなんて致命的過ぎる。なんて駄目な僕なんだ。
後悔と反省を夕方頃まで繰り返し、自己嫌悪に陥っていても、やはり人間、生存本能が栄養を摂取せよと訴えかけてくる。僕は冷蔵庫を開けて、何かないかと探してみるものの、買い物もまともにしていないから、食材などあるはずもなかった。
近くのコンビニにでも行って、弁当でも買うことにしよう。
その時チャイムが鳴った。新聞勧誘ならお断りだ。宗教勧誘なら、少しだけ僕の懺悔を聞いてくれ。
玄関のドアを開けると、あの女性が困った顔して立っていた。
「な、なんで僕の家が?」
開口一番、僕は疑問を口にする。
「……あの、財布がベッドに置き忘れてて。申し訳ないですけど、中を見させてもらったら免許証が入ってて、住所が近かったので直接届けにきました」
僕はポカンと口を開けたまま、彼女の顔と彼女が持ってきてくれた財布を交互に見ていた。
「あ、あの?」
固まったままの僕を見て戸惑ったようだった。
「あ、す、すいません。わざわざ届けてもらったのに、僕、ぼけっとして。ありがとうございます」
僕は慌ててお礼を言うと、それと同時に僕の身体から早く栄養を寄越せといわんばかりに腹の音がぐ~っとなった。何でこのタイミングで鳴るかな? 僕は顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。
そんな僕を見て彼女は微笑んだ。
「あら、大きなおなかの音ね。元気な証拠だわ」
まるで子供にいうように言った。
「……すいません。恥しいところばっかり見せちゃって」
僕が照れて言うと、
「私だって恥しいところ見られたわ」
彼女は僕に気を使ってくれたのか、そう答えた。
「とりあえず、はい、お財布。無くしたことに気づいてなかったなんて、神原(かみはら)さんは、のんびりやさんね?」
免許証を見たからか、僕の名前を呼んだ。
「あの僕、神原って書いて、『かんばら』って読むんです。」
僕がそう言うと彼女は顔を真っ赤にして
「ごめんなさい。私……恥しい……」
「いえいえ、よ、よく間違われますから、気にしないで下さい」
元々、可愛い顔立ちをしている彼女が恥ずかしがってる姿は、一段と可愛く見えた。
こういうとき、どう接していいか分からなくて、非常にこまる。気のきいた奴なら冗談の一つや、財布のお礼に食事を誘ったりできるのだろうが、あいにく僕には、そのスキルがない。ああ、なんて駄目な僕なんだ。
「あ、と、とりあえず、これ」
彼女は僕に財布を差し出した。
僕は「ありがとう」と財布を受け取ると、勇気を振り絞って聞いてみた。
「あ、あの、お名前教えてもらっていいですか?」
「あ、すいません。名前言ってなかったですね。私、原澤奈津美といいます」
彼女は僕を見て少し笑いながら言った。
その笑顔を見たとき、僕の口から無意識に言葉が出た。
「唐突ですけど、僕お腹がすきすぎで何か食べに行こうかと思ってたんです。お礼ついでに一緒にご飯でも食べに行きませんか?」
口に出した自分に驚いてしまったが、彼女いない暦=年齢の僕が初めて女性を食事に誘った瞬間だった。
僕の初挑戦は、まさかの成功を収め、僕は成功したことに浮かれてしまっていた。もし失敗していたら、僕は一生独身を誓っていたかもしれない。
食事中はもう舞い上がってて、どんな話をしたのか覚えていない。唯一の救いは彼女の表情が一度も引くような顔をしていなかったことだ。僕は余計なことを言わずにすんだようだ。
僕の初めての快進撃は止まらず、食事の帰りに彼女とメアドの交換まで成功した。
彼女と別れた後、メールを作っては消し、作っては消しと、一時間くらい携帯と格闘していた。
『今日は楽しかったです。また今度誘わせてください。メール送っていいものか結構悩みましたけど、色よいお返事お願いします』
これで大丈夫かな? 変な文面になっていないか、何度もチェックをして、いざ送信しようとするも、勇気が足りず、すでに五分は経過している。『誰か僕に勇気を下さい』と他力本願なことを考えてると、メールが着信して、なんと彼女のほうから先にメールが送信されてきた。
『楽しかったです。また今度誘ってくださいね。メール送るのに結構悩んだんですよ?』
なんとまあ、彼女も僕と似たような事を考えていたようで、文面まで似てるあたりが笑える。
僕は送信しようとしたメールを打ち直して、返事を待たせたら印象が悪くなると思い、慌てて返信した。
『先をこされてしまうましたがメールありがとうございます。僕も楽しかったです』
送信したメールを見て僕は落ち込んだ。『しまうま』ってなんだ? 僕は慌ててもう一度メールを送った。
『しまうま関係ないです』
送ってから気付くドツボのパターンだ。恥の上塗りをしてどうする……。しまうま関係ないって見たらわかるだろ。そこを強調してどうするんだ。
すると、またメールの着信があり、
『私もよく間違えちゃいます。よくありますよね(笑)』
彼女から慰めと受け取れるメールが届き、僕は安心した。う、どうしよう? これの返事送ったほうがいいのかな? これでまた返信がきたら、どうやって止めればいいんだ? 返事無用って送ればいいのか? うわ、わかんない!
彼女いない暦=年齢の僕は、早く返信しなくてはという焦りと止め時がわからなくて混乱していた。
うわわわわわわ、えーい、ままよ!
『そう言ってもらえるとホットします(笑)』
……誰か僕を殺してくれないかな?
こうも自爆行為を繰り返してしまうとは、我ながら情けなくて涙がこぼれそうになる。そんな僕にまた彼女からの返信が届く。馬鹿にされていないか不安だ。
『それは良かったです。では、おやすみなさい』
おお! なんと簡潔明瞭な大人な対応と終止符なんだ。
僕も『おやすみなさい』と短文だけ送って、その日のメールは終わった。その日は興奮して眠れず、彼女から来たメールを何度も見直していた。
翌日も少しだけメールをやり取りができた。
その後もメールは続けることができ、日にちが経つごとにやり取りする回数も増え、僕が何度も自爆しても、彼女は気にせず返信してくれた。
一週間ほどしてから、彼女からのメールに、新しくできた居酒屋の話があって、それをきっかけに玉砕覚悟で食事を誘ってみると、すんなりと承諾された。
もしかしたら、彼女なりに誘導してくれたのではないだろうか。
一緒に行った居酒屋の席で、僕はある不安を彼女に打ち明けた。
僕とのメールのやり取りを、彼女が実は嫌がっていないかということだ。
僕自身が今まで女性と付き合ったことが無くて、女性への対応もわからず、僕とのメールが重荷になっていないかどうかが不安だとも彼女に告げた。
彼女は表情を変えず、僕の話を聞いているが僕は不安だった。
少し間はあったものの、彼女は僕の目を見つめると、
「神原さんはまじめなのね。では、私もちゃんとまじめに答えますね。神原さんとのメールは全然嫌じゃありません。むしろ…………楽しいです」
彼女は、少しだけ照れたように頬を赤らめて言った。
彼女は僕の事が好きなのかと、一瞬おこがましいことを考えてしまったが、これも僕の経験不足が起こす錯覚なのだろうかと戸惑った。当然、僕の事をどう思っているのか何て事は怖くて聞けなかった。
それから一ヵ月が経って、僕は彼女とのメールを待ちわびている自分に気付いた。
僕は彼女を好きになっていたのだ。
メールのやり取りや会う度に、その気持ちは高まっていく。
怖い。告白なんかして振られたらどうしよう。
この関係がなくなったら、僕の人生に女の人は現れなくなるんじゃないだろうか。
そんな不安を抱え、彼女が好きだと気付いてから、三ヵ月が過ぎ、告白することもできないままの生活を送っていた。でも、僕は段々と気持ちを抑えることが苦しくなってきていた。
キザなセリフや感動的な告白を演出しようと考え、実行しようとするものの、彼女の顔を見た途端、意気消沈を繰り返す。僕は意気地なしだ……。
ある日、会社から帰宅しようと駅に向かっている時、メールが着信した。
『今から帰るんだけど、駅で待ち合わせしない?』
彼女からのお誘いメールだ。近頃は僕から誘うことが多いけれど、たまに彼女の方から誘いがあると無性に嬉しく感じてしまう。僕はすぐさま返信した。
経験値が増えたからか、メールのやり取りは随分と慣れてきていた。
『僕も今から帰るところ、駅ならちょうどいいね。駅に着いたら一応メールする』
駅前に着くと、既に彼女が待っていて、僕を見つけて手を振った。
僕は彼女の方へ駆け寄る。
「ごめん。待ったかな? 今日はどうしたの? 帰る前に会うのって珍しいよね」
「たまには一緒に帰ろうかなと思って、短い距離だけどね」
彼女はいたずらっ子がいたずらに成功したような笑顔でそう言った。僕に笑顔を向けてくれる彼女は僕の事をどう思ってるんだろうか?嫌われてはいないだろうけど、恋人となると無理なのだろうか。
僕はまた告白したい衝動に駆られては、勇気がまたしぼんでいく。
僕はぎゅっと目を瞑り、自分の根性なしを責めた。
好きだ。付き合ってください。これだけなのに……。
「どうしたの?」
彼女の声に我が返って、目を開けると今までに無い至近距離に彼女の顔があり、僕の顔を不思議そうに見つめていた。僕は彼女の顔を間近で見た途端、
「好きです。付き合ってください! って、ええ?」
勝手に口からこぼれ出た言葉に自分で驚いた。
彼女は一瞬ポカンとしたが、くすっと笑って、
「やっと言ったね。でも、ええって何よ?」
「いや、今なんで自分が告白したかわかんなくなって」
「あらやだ、わかんないのに告白なんて、気持ちがうそ臭いわね? 断ろうかしら?」
「え!? 好きな気持ちは嘘じゃないよ!」
断られた困ると思い、慌てて言うと
「断るわけ無いじゃない。私だってあなたが好きよ」
こうして僕の彼女いない暦=年齢の記録は二十五歳と八ヶ月で幕を閉じた。
「ここ数日のあなた、すっごい挙動不審だったわよ」
奈津美は僕に笑っていった。
告白しようとして、なかなかタイミングが掴めず、あたふたしていた事を言っているようだけど、改めて思い起こすと恥しい。
彼女に僕が告白しやすいように誘導されたような気もするけど、結果良ければ全て良しなのかな。
付き合い始めてすぐに、僕らは最初に接触したであろうバーに、二人で行ってみた。
なにをきっかけに僕らが一緒に行動したのか気になったからだ。
マスターに僕らの事を聞いてみたが、僕らはいつの間にか一緒に話してて、元々知り合いなのだと思っていたそうだ。
僕らは意気投合して店を出て行ったそうで、マスターが覚えてるのはこれだけだった。この店では、よくあることなので、あまり気にしなかったらしい。
僕らの痕跡情報は、結局は得るものも無く、わからないままだったが、その後は彼女の家に上がりこんでしまったんだろう。
* * * * *
「ねえ、なに笑ってるの?」
奈津美が僕の顔を見て不思議そうにしている。
「奈津美と最初に会った時のこと、思い出してただけだよ」
「あの時って、何で私たち記憶がないのか不思議なのよね。だって私もあなたも二日酔いにもなってなかったし、起きた時もそれほどお酒臭くなかったもの」
奈津美も思い出したのか、「うーん」と考え込んでいた。
きっかけはわからないままだったけれど、わからないままだったからこそ、新しいきっかけになり、素敵な思い出になったのだと、僕はそう思っている。
僕と奈津美が付き合い始めてから既に二年が経過していて、今度の休日に奈津美の両親に挨拶に行く予定だ。
奈津美の両親とは、すでに何度か顔をあわせているが、今回は奈津美を貰いに行くのだから、僕はそのことを考えると緊張で胃が痛い。
でも、僕には強い味方がいるから、絶対負けない。彼女は意気地なしの僕を支えてくれた。駄目な僕を変えてくれた。
そろそろ男らしいところを奈津美にも見せてやりたい。
今度は、僕が彼女を守って支える番だ。
完
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381レス 13082HIT 旅人さん -
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11レス 162HIT 小説家さん -
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114レス 1465HIT 瑠璃姫
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11レス 177HIT 永遠の3歳 -
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1レス 217HIT 小説家さん -
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