🏠おうちパパ🏠

幼稚園の帰り道、二人で手を繋いで、ノタノタと歩く。
この時間は結構好き。


「なぁ、空音（くおん）？
晩飯、何食いたい？」

『「夜ご飯、何が食べたい？」でしょー？
パパちゃん、言葉に気をつけて！！』

「あー…はいはい…」

『「はい」は、一回！』

「くっ…
…はい」

『よろしいっ』

ちょっと生意気口調で、俺を叱る空音。

５歳にもなると、口が達者になってくるというか…
いや、こりゃママ似だな…
女の子だし、俺なんかに似なくて良かったのかもしれないけどサ。
毎日娘に叱られてちゃ、肩身が狭いゼ…


『パパちゃん、今日はママちゃん早く帰ってくるかな？』

「さぁどうかな？
なんで？」

『幼稚園で、ママちゃんの、お顔描いたの』

「あぁ～。
明後日の日曜日は、母の日か」

『早く見せたいんだぁ』

「家に着いたら、ママに電話してみるか？」

『うんっ』

俺の提案に、空音は嬉しそうに繋いだ手をブンブン振った。


（そういや、確か今日、残業とか言ってたな…）

期待に胸膨らます空音の顔を見ながら、適当な返事をしてしまった自分を恨んだ。

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『ただいまぁーっ！』

家に着くなり、玄関にカバンを投げ捨てる空音。

『パパちゃん、ケイタイ貸してっ』

「その前に、手ぇ洗ってこいよ？」

『え～、後でやる！』

「え～、なら貸さないっ」

空音の口調を真似て言い返すと、空音は唇を尖らせた。

『んんんん～…もぅっ！パパちゃんのイジワルッ』

そう吐き捨てて、手を洗いに走って行く。

「ったく…
俺の何がイジワルなのか…」

５歳児の逆ギレは、未だによく解らん。

しかし、どんな時でもパパの後ろに「ちゃん」を付けて呼ぶ娘。
そんなんだから、憎らしさ半減ｗ


こんな事考えながらリビングに向かうと、手を洗い終えた空音がジトッとした目で俺を見ている。

「なに？」

『パパちゃん、ニヤニヤして、変な顔っ』

そう言って、フンッと顔を背ける。

「んなっ…」

すんなり携帯を渡さなかった俺への、精一杯の反抗なんだろうが…

小さな事を引きずるヤツだ…

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俺の妻、詩織（しおり）に電話をする。

呼び出し音が鳴ったのを確認して、空音に携帯を渡した。

空音は携帯を耳に当て、ワクワクしながら詩織が出るのを待っている。

『あ、ママちゃん！？
うん、今帰って来たよ！うん、うん…』

詩織の呼び掛けに、元気に返事を返す。

俺はそんな娘の姿に和みながら、空音の弁当箱を洗いに台所へ向かった。

『あ、ママちゃん？今日は早く帰って来れる？
渡したい物があるんだぁ～』

そう言い終わってしばらくすると、さっきまでニコニコしていた空音の表情が、みるみるうちに曇っていった。

（あ～…
やっぱり残業だったんだな…）

空音の表情から全てを悟った俺は、弁当箱を洗う手を止めて台所を出た。

『…わかったよ。
じゃあ、お仕事頑張ってね…
うん…パパちゃんに代わるね…』

俺は今にも泣きそうな空音の頭を撫でて、そっと手を差し出した。

空音は俺に携帯を手渡すと、トボトボとリビングのソファーに向かった。

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ソファーにふて寝をしている空音の姿を横目に、携帯を耳に当てる。

「もしもし？詩織？」

【あ、竜ちゃん！？ごめんね！
空音、大丈夫かな！？】

相変わらず、詩織はテンション高いな…

俺は空音を気にしつつ、視界に入らない場所に移動しながら話した。

「あ～、大丈夫…では無いけど…
いや、俺が今日詩織に残業って言われてたの忘れててさ。
詩織は気にすんなよ？」

【本当、ごめんね！
空音の渡したい物って何だろう？】

「それは、見てからのお楽しみですよ？」

【うわぁ～、気になる！！
今すぐ帰りたい～！】

「いや、しっかり働いて来て下さい。
あなたに飯食わして貰ってんですから」

【あはは～、そうでしたっ！
それじゃあ、家族の為に頑張ってきますよ！あとヨロシク！】

「おうっ。じゃあな…」

電話を切り、まだふて寝を続けている空音の姿を、離れた所から静かに眺めた。

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「空音？」

『…』

俺の呼び掛けに空音は全く反応しない。

小さくタメ息をついて、ゆっくり近付く。

「くおーん？くお～んさぁ～ん？
もっしも～し？」

声色を変えながら名前を呼ぶと、ふて寝をしている空音の肩が震えだした。

（笑ってやがる…）

少し機嫌が直ったようだ。
一安心しながら、ソロリソロリと空音に近付く。

「お返事をしない子は誰だあああああ！」

『きゃあああ！っははははははは！
やめてっ、くすぐったいぃ～』

俺の渾身のくすぐり攻撃に、空音は笑い転げた。

「やっと、笑ったな」

『くすぐるのはズルいよ～』

笑い過ぎて涙目になった空音が起き上がる。

俺は空音の横に腰掛けた。

『ママちゃん、今日は帰り遅いって…』

詩織との会話を思い出した空音が、またショボンとなった。

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いじける空音の頭に、ポンッと手を置いた。

「明日は土曜日だろ？幼稚園休みで、ママもお仕事休みだしさ。
ママの絵は、明日渡そうな？」

『う…ん』

返事はするものの、まだ納得していないようだ。

（さぁ、どうすっかな…）

なんとか空音の機嫌を直して、買い物に行きたいのだが…

俺はソファーにもたれ掛かり、天井を見上げた。

（母の日…
あ、そっか！母の日だ！）

ガバッと上体を起こし、空音の顔を除き込んだ。

「なぁ、空音？
一日早いけど、明日、母の日のパーティーしないか？」

『パーティー…？』

（お、食い付いたな）

「そうだよ！
お仕事頑張ってるママの為に、二人でご馳走作って、ケーキも用意して…
空音が描いたママの絵は、リボンでも付けてプレゼントしてあげたらどうだ？」

『ご馳走…ケーキ…
プレゼント！？
やる！！空音、ママのパーティーやるっ！！』

ほんの一瞬で、色々な想像を膨らませたのだろう。
空音は期待と、やる気に満ちた表情を浮かべた。

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笑顔を取り戻した空音を連れて、晩飯の材料を買いに出掛けた。

帰り道、二人で明日のメニューを話し合った。

ハンバーグ、シチュー、唐揚げ…

空音の口から出るのは、自分の好物ばっか。

まっ、そんなもんか。

家に着くと、俺は忙しく晩飯の支度に取り掛かる。

「おい、空音。手伝ってくれ～」

『え～、テレビ見た～い』

「はぁ…そうですか…」

空音は気分屋だから…ってゆーより、子供はみんなそうか。

今日は手伝う気分じゃないんだな…

ま、無理強いはいかん。手伝う事も、楽しく教えねば。

バタバタと飯の支度を終わらせ、飯の前に風呂に入る。

空音は腹が膨れると眠くなるから、風呂が後だと入らず寝てしまう。

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風呂に入り、晩飯を食べて、後片付けをする。

もう、この頃に空音は眠い目をこすりだす。

「よし、寝るかっ」

『はぁ～…い…』

空音の手を引き、二階の寝室に上がる。

ベッドに寝かせて電気を消した。

『パパちゃん…』

「ん？」

ベッドの横にしゃがみ、空音の頭を撫でながら顔を除き込んだ。

『明日…楽しみだね…』

「だな。
ママにはパーティーの事は内緒だぞ？
ビックリさせてやろうな？」

『…うん…』

「おやすみ」

『おやすみぃ…』

軽く微笑み合うと、すぐに眠りについた。

（ふぅ～…）

俺は小さく息を吐き、リビングに戻った。

珈琲を入れて、パソコンで明日のパーティー用のレシピを検索した。

（ん～…どうすっかなぁ～）

あれでもない、これでもないと、時間を忘れてパソコンにかじりついていた。

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―ガチャッ…

玄関から、鍵の開く音が聞こえた。

（やべっ！！
もう、こんな時間かよっ）

時計の針は22時を指している。
俺は慌ててパソコンの画面を切り替えた。

〔ただいまぁ～…〕

小さな声で、詩織がそっとリビングに入ってきた。

「お帰り、お疲れ様」

俺は声を掛けながら台所に入り、詩織の食事の支度を始める。

〔空音の顔見てくるねっ〕

「はいよ」

遅く帰って来た日は、真っ先に空音の寝顔を見に行くのが、詩織の日課だ。

可愛い我が子の寝顔を見て、ちょっと寂しそうな顔で戻ってきた。

〔可哀想な事しちゃったな…〕

「ん？なにが？」

食卓に晩飯を並べていると、トボトボと詩織が椅子に座った。

〔私の為に、幼稚園で何か作って来たんでしょ？
ガッカリさせちゃったな…〕

早く帰れなかった自分を、責めているようだ。

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「仕方ないだろ？仕事なんだし。
空音も、ちゃんと分かってるよ」

俺は詩織と向かい合わせの席に座った。

〔そうだけどさ…
あ、いただきます…〕

「はい、召し上がれ」

詩織はチビリチビリと飯を口に運んでいる。

（あ、そうだ！）

「なぁ、詩織？」

〔んー…？〕

「明日、一人で買い物でもして来いよ？」

〔えー、やだ！
空音と遊びたいもん〕

詩織は子供のように唇を尖らせた。

（ほんっと、母子揃って似てんな…）

「明後日、母の日なんだし。
日頃の疲れを買い物で発散してこいよ。なっ？」

〔だったら、みんなで…〕

「いいからっ、一人で行って来い！」

むむむむっと、二人で睨み合う。

すると、詩織がプッと吹き出した。

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