明日が来るなら

レス148 HIT数 128870 あ+ あ-


2012/03/26 06:40(更新日時)

明日が来るなら

それだけでいい

私達元夫婦の壮絶な日々…

あなたがいて、ただただ明日が来て、また会話が出来るなら。

泣いて泣いて、涙が出なくなる位に…。

ノンフィクションです

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No.1656256 (スレ作成日時)

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No.101

>> 98 更新しないのかな~? いつも見てくださって有難うございます。
最近は忙しく、なかなかレス出来なくて、申し訳ないと思っていました。

これからも、ちょくちょくレスの方していきたいと思っていますので、宜しくお願いします。🙇

No.102

>> 99 私もいつもチェックしてます 有難うございます。これからも、出来るときに無理のないようにレスしていきたいと思っていますので、今後とも宜しくお願いします。🙇

No.103

>> 100 きっとお忙しく過ごされているのだと思います 回想録だと、思い出しながら書かなくてはならないし 結構な時間もかかって、なかなか大変な作業だと… 🎆ロコさん、レス有難うございます。 最近はお察しの通り、子供のことなどで忙しくすごしていて、なかなかレスできませんでした。
読んでくださっている皆さまには本当に申し訳ないと思っています。
今後とも、宜しくお願いします。🙇

No.104

>> 97 目のかゆみが何とか落ち着いてきたころ、今度はトイレでシゲちゃんが私を呼んだ。 見ると、真っ黄色で、少しドロッとした感じのおっしっこが出てい… それからは、どんどんと体調が思わしくないと訴える。しかし、病院へは一向に行こうとしない。口うるさくいってもただただ一日、一日が虚しく過ぎていくだけだった。お腹の痛みを段々と訴えるようになっていったが、仕事だけは休もうとはしなかった。
腹痛と目のかゆみ、黄疸であろうということは、素人の自分が見ても明らかに分かるほどだった。

ある日、帰宅してからしんどい、お腹が痛いと言ってすぐ横になった。
ご飯も食べようとしない・・・。
流石に心配で病院に行くように諭す・・。

最初は聞く耳の持たない感じだったが、私の気迫にやっと観念したのか、重い腰をあげた。
しかし、病院に行くのには条件が合って、本人で行くという・・・。
わたしがいたらいけないといった。

私は納得できなかったが、病院に行くのが先決と思って、しぶしぶ頷いた。

この時に、多分自分でも分かっていたのか・・・・・?
自分があまり病状が良くなく、進行しているということを・・・・。

あれは・・確か、夜中に掛りつけの救急を受診した。

暫く帰ってこない・・。
刻一刻と時間が過ぎていく・・・。
時計の針と睨めっこしながら、午後11時頃たどたどしく帰ってきた。
私は力のない声と、弱弱しい動作に、いつもと違った嫌な予感が差す。

本当に嫌な・・・それでいて、何故か強い焦りの様なものを感じた。

「何かがおかしい・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!」

こんな嫌な焦りは初めてだ。

一体、何がこんなに不安で・・・
何でこんなに焦るんだろう・・・。

本人は何てことは無いといって、とりあえず寝ると言っているが・・・・・。

布団を敷きながら、言いようのない不安と、焦りと、嫌な予感に苛まれる。

体調が悪くなってから、もう随分と長いこと快方には向かっていない。
いや、それどころか・・どんどんと悪くなっているではないか・・・・。



このままでいくと、この人は本当にどうなるのか・・・・。

本当のことが知りたい。

No.105

>> 104 そんなことを考えながらも、大きなお腹を見て、自分は母親なんだと自分に言い聞かせながら、就寝しようと思った時だった!

う・・・・ううううううううううう~!!!!!!!

隣から重苦しいうめき声。

襖を開けると、横になったままで、お腹を抱えるようにして、のたうち回っている。


ー!!!!!!!!!!!!!

「どしたん!!!!!!」

私はびっくりして、大きな声が出た。

「なんでもねえわ!」

こんな状態を最早何でもないとは誰が見ても思わない。

「何でも無いわけないじゃん!!!!!」

私は動揺して、取り合えず、救急車を呼ぼうとした。
しかし、シゲちゃんに止められ、それならと、先ほどの病院に電話を入れて
状況を説明した。


すると、病院長が電話に出られて、

「私は直ぐにでも入院が必要な状態ですと言ったのに、無理にでも帰ると言って、聞かれなかったから、何かあったらすぐ来なさいと言いました。」

と・・・・・・・・。


検査の結果がかなり悪かったそうだ。


そして、直ぐに入院をして治療をしないといけない状況にあるということが
分かった。


案の定、肝臓の方がかなりいかれていたそうだ。。

こんなんでよく、ここまで我慢できたとも言われた。

そんなに悪かったのか・・・・・・・・。


私の焦りは確信になった。
一刻も早く、病院へ!!!!

私はそこの先生に肝臓に強い病院に紹介状を頼んだが、一刻を争う状況なので、
紹介状を書くよりも、先にいい病院を紹介するので、そこに連絡次第、すぐに行くべきだと言われた。

そして、シゲちゃんに事の次第を聞き出す。
シゲちゃんはバツが悪そうに、こくりと頷いた・・・・。


そして、腹痛を訴えるシゲちゃんを車に乗せて、先生から聞いた病院へ向かった。

No.106

>> 105 そこの病院は、県下でも有名な肝臓に強い病院だ。だから、シゲちゃんは絶対に治療さえ適切に行えば、この年齢だし、そうでないにしても、入院して1か月も治療を行って、自宅に帰っても定期的に通院すればいいくらいに思っていた。
しかし、事態はそんなに甘くはなっかった・・・・。

病院に大きなお腹をした妊婦と主人が救急外来に居るということは、傍から見たら出産で来たんだと思われるだろう。
しかし、それなら本当に嬉しいことだ。だけど、私たちは違った・・・。

12月19日・・・。忘れない。

その日から、シゲちゃんはここから一歩も出られないまま・・・・・・・・・。

寒い寒い救急外来の待合で、シゲちゃんの顔を見つめる。

「シゲちゃん・・・。」
シゲちゃんは私にほほ笑んで、「ユリ・・・。」

ピースサインをする。


シゲちゃんはいつも私が落ち込んでいる時や、悲しい顔をしている時には、
決まったように、ピースサインを送ってくれた。

この時のあのシゲちゃんを忘れない・・・・・。

暫くして、診察室に呼ばれた。シゲちゃんは
「じゃあ、な・・・。」と言って入って行った。


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

長い。

・・・・・・。どうしたんだろう。

心配になってくる。

少しして、看護師が私を呼んだ。
「こちらで、待っていてください。」
そして、私の大きなお腹を見て、「もうじきですか?」と聞いてきた。

「はい、あと少しで臨月なんです・・・。」

看護師はほほ笑んで、「寒くないですか?じゃあ、クッションを持ってきますね。」と言ってクッションをさしだしてくれた。

暫くして、診察した医師が入ってきた。
淡々と診察した結果を語った。

「肝臓の数値が異様に高く、このまま直ぐに入院をして、治療します。」

私は少しは覚悟していたので、直ぐに承諾した。

「先生、主人は治療を受けたら数値が下がって来ますか?」

と聞くと、それは分からないと言われた。



分からない・・・・・。

分からないって・・・・・どういうこと・・・・・?



下がらないかもしれない、他の原因って・・・・・いったい何?










No.107

>> 106 真夜中の病院。静かなフロアー・・・・。
14階のフロアーに看護師さんと、私たち夫婦の足音が響く・・・・。

こちらです。

「詳しい説明や、検査は明日からになるので、今日は奥さんはもう帰ってしっかり休んでくださいね。」と言われ、シゲちゃんにお互い大丈夫だと
言って病院を後にした。


アパートに帰って、入院の準備をした。

スリッパに、パジャマ、下着に、コップ・・・・・。

私は紙袋と、バッグの中に自分の思いと共に、いろんなものを詰めた。



「シゲちゃんは、この子が生まれるまでには帰れる。きっと・・。」

出産までおよそ、1カ月・・・・。

大きなお腹が冷えて硬く張ってきた。。。

いけない、つい夢中で身体を気遣っていなかったから、赤ちゃんが休んでと言っている・・・。 

今日は何だかとっても疲れた・・・・なのに眠れないまま朝を迎えた。


私たちは決して裕福ではなかったから、いつも慎ましくあった。
だけど、それでも本当に本当に幸せだった。二人でいれば、何とかなる気になるし、貧しくても心は一杯だった。

そんな暮らしが少し変化して、不安になるが、
「シゲちゃんは少ししたら帰れるから、大丈夫。その時には、この可愛い赤ちゃんもいる。夢にまで見た家族3人の生活がある。今より、もっと私たちは温かく幸せな家庭を築いている。」

そう思っていた。

だから、頑張ろう!!!と自分を励まして病院に向かった。

タオル、洗面器、そのほか諸々・・100円ショップで買い揃えた。

地方都市の病院に、大きな紙袋、中には100えんショップで買い揃えた入院用品。

何か・・周りの冷たい視線をかんじるなあ・・・。

妊婦服のセーターも毛羽立ってる・・・・。

急いできたから構っていることなんてできなかった。


14階の4人部屋、シゲちゃんの病室に入って他の患者さんに挨拶する。


カーテンを開けた。

「おはよう。シゲちゃん。少しは落ち着いた?」
昨日まで無かった点滴が2本もされている。

心なしか、シゲちゃんが衰弱しているようにおもえる。

「おう!ユリ。こんなんなったわー」とクスクス笑いながら言う。

笑っている場合じゃ」ない。

私の顔を覗き込んで、シゲちゃんはまたピースサインをする。

このピースサインを見るたび、心に灯が灯る。

何でも許せたりする、夫婦の、いや、お互いの暗号みたいな・・・。

ベッドの横の椅子に腰かけて、話と言った話はなく、でも一緒に他愛もない話をしたような・・・・。

ちょっと心配だけど、アパートに居た時よりもちゃんとした病院で然るべき治療を受けているので私はもう、焦りや不安というものは薄れていた。

そして、ちゃんとした治療をうけているシゲちゃんと一緒にいると、そばに寄り添い穏やかになる。


そうだ・・・・・私が彼とメールしていた頃も、こんな穏やかで心地よい気持ちになっていた。そんなシゲちゃんに段々と魅かれていったのだ・・・。

No.108

>> 107 しかし、今までの様に無いことは確かだ。この子と、シゲちゃんの事、重なって今でも不安になったり、動揺したり、色んな感情に悩まされている。
先々の事もなかなか頭が回らなくて、どうしよう・・・・ってそればかり。

とりあえず、なすがままの状態である。

ただ、この時は「人生、こんな時もあるよ」位に楽観的に考えることも出来なくはなかったし、また治療してげんきになれば、人並みに普通の人生を謳歌出来ると誰もが思うと同じ事を自分も思っていた。

だから、子供が生まれてくる喜び、希望が大きかったからそれが支えになっていた。

でも、そんな小さくなった希望の光さえ奪われてしまう。

私達の辿った運命は険しいものだった。



No.109

「もう!しげちゃんはなかなか病院に行かないからこんなことになったんだよ!」

「まあまあ、そう言うな。ちょっとしたら大丈夫じゃろ?こんなん。」
プップっとシゲちゃんが笑う。

本当にのほほんと・・・!!!
笑ってる場合じゃない!子供だって生まれるのに~!!!

「出産に間に合うかな?私、どうしよう・・・・」
しっかり支えないといけない自分も、どうしようもなく寂しくて、不安で
シゲちゃんに弱音が出てしまった。

「おい、しっかりしろ。お前はオッカサンだろが」

オッカサン・・・・ぷっ~(笑)オッカサンって・・・。

「何が面白いんや。可笑しいやっちゃなあ~笑ってる場合かアホ!」
そんなに言うシゲちゃんが余計と可笑しくてまた笑ってしまう。

和やかな空気に包まれた。
そんな空気を切り裂くように看護師さんがカーテンをシャッっと開けて
入ってきた。

No.110

>> 109 「おはようございます!お話し中ごめんなさいね。昨夜から入院されてるので、まだ説明とかは聞いてないよね?」
ここのフロアーでは責任者らしき看護師さんだ。

「はい、まだです。これからお世話になります城内です。宜しくお願いします。」
そういって、看護師さんに頭を下げた。

「じゃあ、最初にいろいろとフロアーの説明をさせていただきたいので、ついて来てくれる?」

私は看護師さんに付いて回り、いろいろな説明を受けた。
配膳室、給湯室、浴室、トイレ、汚物処理室、エレベーター、ナースステーションまで来て、看護師さんが色んな入院にあたってのパンフレットや、同意書、
保証人の紙を渡してきて、記入の説明をした。

最後に、「これも・・・」と、患者の希望や、要望などをアンケート形式で答える紙を渡してきた。

アンケートには、現在に至るまでの経緯や病歴、アレルギーの有無といった
オーソドックスな質問内容から、

「貴方は現在の自己の状態を理解していますか」
「貴方はストレスに強い方ですか」
「貴方のご家族はストレスに強い方ですか」

などと言ったメンタル面の質問もいくつかあった。

そして、最後に・・・・・・・・・・。

「医師から告知を受ける際、本人も同席し、告知を医師から伝えてもらいたいですか。」

・・・・・・・
何なの、この質問・・・・・。

No.111

なかなか更新されないし。
引っ張りすぎで、もう飽きた(^0^)/



END

No.112

わたしは 気長に待ってます👌

No.113

主です。なかなか更新出来なくて、申し訳ないです。
ご覧になられてる方がいらっしゃる事、凄く嬉しく思っています。
今後とも宜しくお願いします。

No.114

私達夫婦は、まだまだ若く、無邪気で、夫婦と言うには足りない者だった。

まるで付き合ってる者同士、飯事でもしてるかの様な生活で、一般の夫婦が経験する幾多の苦難や試練を見る事もなく、ただ相手といて楽しい、安心する、癒される位の恋人以上夫婦未満だったのかもしれません。

だから、時々軽い乗りでふざけたりも出来たし、色々な面でも、ふわふわとした感じで、夫婦としての重みというものもまだ感じられない夫婦だった。

そんな重みを一緒に増してゆき、絆を一緒に紡いでいくはずだったのに・・・。



恋人以上から、夫婦になる試練がこれだった・・・・・・。

「余命宣告」

「ん?シゲちゃん、この一番最後の質問、要は告知ってことよなぁ?」

シゲちゃんと一緒にアンケート用紙に目をやる。
「ほ~やろ」

ほ~やろって・。
簡単に。
もうちょい言葉はないのか。

「まあ、そんなのないから、はいに⭕?」

私は明るさを取り戻したい思いで、わざと軽い乗りで言った。
クスクス笑いながら、シゲちゃんも冗談半分に、
「⭕!⭕!(笑)はいに⭕(笑)」
そして、ペンの先は、「はい」という文字に⭕を刻んだ。


このものの数分のシゲちゃんとのやり取りは、永遠の時間になってしまいました。
あんなに無邪気にした行為が、一生心から消えない傷になってしまいました。
ただ、私達夫婦は、自分たちが立っている立場が分からず、ごくごく一般の家庭の何処にでもある「ちょっとしたアクシデント」位にしか思ってなかったから、また直ぐに幸せいっぱいの生活に戻れると信じて疑わなかったから、あの時ふざけあったり出来たんだと思います。

どんな過ちが、人生のどこに隠れているか分からない。

No.115

>> 114 あの時に、仮に「いいえ」に○をしていれば闘病生活中にも失望したりせず、
夢や希望を持ったままの今と同じような関係で永遠に居れたのかもしれない。

子供も生まれる時に、過酷で残酷な思いをしなくて済んだのかもしれない。

本当に余命宣告と言うのは残酷なものだ。

本当にそれは、ほんの数分の事なのに、その一瞬が人生の忘れられない出来ごとになる。

だからこそ、本当はもっともっと悩んで、自問自答して、話し合って決めるべきこと。

なのに、私はあんなに簡単に人一人の人生の大きな選択を左右するような事を
言ってしまった。


No.116

>> 115 そんな事も、しみじみと考えもしないで、アンケート用紙を看護師さんに渡した。
看護師さんも、事務的に淡々と受け取り、何も聞こうとはしないし、読み返して、確認したりと化しなかった。

こんな大きな病院では一々一個人に構ってはいられないだろう・・・。

それが当然と言っては当然だ。

個人的な家庭の事情なんて、ここに居る皆が抱えている。
皆、それぞれに何かを背負い込んで、病院に来ているのだ。

中には、余命幾ばくもない家族を抱え、毎日の様に看病しているひともいる。

今日が山場という家族もいる。

そして、こんな大きな病院では、命の始まりと終わりが毎日繰り返されている。

だから、人の感情とか生命が機械的に管理されているようにすら思われてくる。
そんな中で働いているスタッフにとっては、ソフト面のケア体制は整わないもかもしれない。


アンケート用紙や、様々な書類を提出し、入院用品もすべて揃い、これでゆっくりと治療をと思っていたが、毎日立て続けに入る検査・・・・。

まだ、主治医の先生からも、何にも話が無い。

段々と焦りが募って来る。不安も膨らんでゆく。

今までは一緒にアパートで暮らしていたけど、これから出産も控えているのに、
どうしようかと迷う。

ここに居れば、シゲちゃんとまるでアパートにいるみたいだ。
ここにいて、閑散としたアパートには帰りたくないと思った。

そんなことをぼんやりと考えていると、看護師さんが入ってきた。

「城内さん、こんにちわ。具合は如何ですか?」

看護師さんは私に病院専用の駐車場の案内をしに来たのだ。

14階のロビーは夜中の冷たく暗い感じは全くなく、見舞客や入院患者さんの

話声があちこちでする、明るい風囲気に様変わりしていた。


「あの高層マンションの北側に沢山車が置いてあります、あそこに駐車出来るんですよ。城内さんいつもこの病院の西のパーキングに置いてるん?」

「はい・・・・」

私は何でこの看護師さんが駐車場なんかわざわざ教えてくれるのか不思議に思いながらも、言われるままにそのまま彼女の案内をきいた。

「あ~、あそこは個人のパーキングだから高いよ~。あの北側の駐車場だと
この病院専用で、見舞い患者さんだと、ナースステーションで駐車券渡せば、
12時間までは無料になるんよ。」

「え!そうなんですか!」
私はつい、大きな声を出してしまった。






No.117

>> 116 それもそうだ。一家の大黒柱が倒れてしまって、自分も身重・・・・。
出産も控えているし、びた一文無駄には出来ない状況だったのだから。

シゲちゃんの所にずっといたいけど、1時間300円、12時間もは到底毎日は来れないと思っていたから、本当にありがたい事だ。

「この辺は、私営パーキングがたくさんあるから、そこを利用する人もいるけど、毎日となると・・・ちょっと負担が大きいからね・・。」
看護師さんは何か言いたげだ。

毎日・・・・。

病院専用の駐車場とはいっても、何だか見た感じ、職員専用の駐車場の様だ。

現に、スタッフが往来している・・・・。

・・・・・・・
・・・・・・・
「これから、奥さんも大変になるし、ちょっとここからは離れていて不便かも
しれないけど、出産、育児にもお金いるしね・・・。」

長期の入院患者さんはそこに皆停めてると言うが、皆本当は病院の近くの市営パーキングに置いている。

でも、これでシゲちゃんの看病にも毎日時間を気にせず来れるし、お金の問題も大きな悩みだったから、1つでも解消すれば、嬉しいに越したことはない。

看護師さんが駐車場の事を話したからか、もう1つ、大きな問題がつられて浮上する。


入院費、部屋代だ。

1日4000円位の保険にしか入っていないので、当然1日大体平均5000円
としても、1カ月で超過分の3万も支払わなければならない。

どっと、不安がよぎる。

「あの~・・・・部屋代は、お幾らでしたかね・・・?」
私はおどおどして看護師さんに聞いた。

看護師さんは優しく緊張をとき解す様に微笑んんで、

「あそこのお部屋は料金が掛らないのよ。そのかわり、4人部屋でちょっと
気を遣うかもしれないけど。」

そう言った。

!タダ!!!!!!

私は泣きそうになった。

嬉しいだけではない。

お金が無いということが、怖かったし、不安だったんだろう・・・。

その大きな悩みから解放されたと同時に、「助かった」と思った瞬間、
人の慈悲に触れて涙が出たんだと思う。

看護師さんは、そっと背中に手をあて、そばに居てくれた。

No.118

>> 117 明日からは、あの駐車場に車を停めて、ここまでこよう。

14階から目下に広がる景色をぼんやりと眺めて、少しの間看護師さんの温かい思いに寄りかかっていた。

多分、駐車場も、この4人部屋に入れてくれたのも、あの看護師さんの計らい会っての事かもしれない。

「ありがとうございます・・・。」

私は心の中で、何度もお礼を言った。

  • << 120 アパートに帰宅してからは、何をしていたんだろう・・・・。 昔の事で、今になってはハッキリとは憶えていないが、シゲちゃんが居なくなって、漠然と不安だったのは憶えている。 何か、病院から持って帰ったシゲちゃんの洗濯物とかを選択してたっけ・・・・。 古いアパートだったから、部屋の外に洗濯機があって、その洗濯機も2層式の古いやつだった。 そして、街中とはいえ所々小さな共同畑みたいなのがあって、よく近所の定年したお年寄りとか、主婦のおばちゃんが畑に来てお野菜植えたり、持って帰ったりしてるのを2階の通路のベランダから洗濯機を回しながら、何を考えるでもなく眺めてた。 夕方以降になると、お隣さんのおじさんや、おばさんが仕事から帰って来て 会うとよく挨拶してくれたな~ それでもここは、県庁所在地だから、人口も多くて近くには飲食店もスーパーもあるから、どこからともなく人が路地から自転車に乗って通り過ぎて行ったり、歩いて買い物に行ってる人がいた。 路地を入ったところに私達のアパートはあったから、車は近所の人しかあまり通らないけど、自転車とかバイク、徒歩の人はちょくちょくここを通っていたな・・・。 そんな人たちを見ては、自分の今の現状を嘆きたい気持ちになっていたような・・・・。 でも、ここが好きだった。 特に夕暮れ時が。 ついこの間まで、私はスーパ- で買い物をして帰って、夕飯を作りながらそんな景色を眺めてシゲちゃんの帰りを待っていた。 帰宅近い時間になると、しげちゃんからメールが入って来る。 「ビール 冷やしといて」 って。 それで、ビールを冷蔵庫に2本入れて、食器を並べて、お風呂を沸かして・・・・。 シゲちゃんが、あの路地からお弁当の入ったリュックを背負って帰って来る。 その姿が見えると嬉しくて、そこまで行って一緒に歩いて帰った。 阪神タイガースが大好きで、帰宅するとビール片手にテレビに釘づけ。 美味しいといいながら、私の作った夕飯を食べていたのに。 今は、このアパートに一人ぼっち。 味気ない生活になってしまった。 異様に冷える空間。 お腹の張りが強い。 もう臨月が来る。 そんな時、電話のベルが鳴った。

No.119

>> 118 スレ主様

時々覗かせて頂いてます。
色々な想いがあるかとは思いますが、お忙しい中、ユックリと、細々とでも、続けて下さいね

応援してます。

  • << 121 主です。いつも見て戴き、ありがとうございます。 本当に、駄文、乱文で恥ずかしい限りの文章ですが、こうして誰かが興味を持ってくださって、ご覧になって戴けるという事は、とてもうれしい事です。 今後とも よろしくお願いします。

No.120

>> 118 明日からは、あの駐車場に車を停めて、ここまでこよう。 14階から目下に広がる景色をぼんやりと眺めて、少しの間看護師さんの温かい思いに寄… アパートに帰宅してからは、何をしていたんだろう・・・・。
昔の事で、今になってはハッキリとは憶えていないが、シゲちゃんが居なくなって、漠然と不安だったのは憶えている。

何か、病院から持って帰ったシゲちゃんの洗濯物とかを選択してたっけ・・・・。

古いアパートだったから、部屋の外に洗濯機があって、その洗濯機も2層式の古いやつだった。

そして、街中とはいえ所々小さな共同畑みたいなのがあって、よく近所の定年したお年寄りとか、主婦のおばちゃんが畑に来てお野菜植えたり、持って帰ったりしてるのを2階の通路のベランダから洗濯機を回しながら、何を考えるでもなく眺めてた。

夕方以降になると、お隣さんのおじさんや、おばさんが仕事から帰って来て
会うとよく挨拶してくれたな~

それでもここは、県庁所在地だから、人口も多くて近くには飲食店もスーパーもあるから、どこからともなく人が路地から自転車に乗って通り過ぎて行ったり、歩いて買い物に行ってる人がいた。

路地を入ったところに私達のアパートはあったから、車は近所の人しかあまり通らないけど、自転車とかバイク、徒歩の人はちょくちょくここを通っていたな・・・。

そんな人たちを見ては、自分の今の現状を嘆きたい気持ちになっていたような・・・・。

でも、ここが好きだった。
特に夕暮れ時が。

ついこの間まで、私はスーパ- で買い物をして帰って、夕飯を作りながらそんな景色を眺めてシゲちゃんの帰りを待っていた。

帰宅近い時間になると、しげちゃんからメールが入って来る。

「ビール 冷やしといて」
って。

それで、ビールを冷蔵庫に2本入れて、食器を並べて、お風呂を沸かして・・・・。





シゲちゃんが、あの路地からお弁当の入ったリュックを背負って帰って来る。

その姿が見えると嬉しくて、そこまで行って一緒に歩いて帰った。

阪神タイガースが大好きで、帰宅するとビール片手にテレビに釘づけ。

美味しいといいながら、私の作った夕飯を食べていたのに。


今は、このアパートに一人ぼっち。

味気ない生活になってしまった。

異様に冷える空間。

お腹の張りが強い。

もう臨月が来る。

そんな時、電話のベルが鳴った。






  • << 122 purururu・・・・・静かな部屋に鳴り響くベル音は何時もより大きく響く・・。 疲れていたのか、私は力なく電話に出た。 「はい・・・・。」 「!ユリちゃん・・・?!」 義母だった。 急に姑の声を聞いて正気に戻る。 「!!!はい。お、お義母さん!」 「息子、どうなった???あんたは今どうしてるん??2人とも大丈夫かあ?」 義理とはいえ、母の声に急に胸が熱くなる。涙を抑え、義母と話をする。 シゲちゃんが緊急で病院を受診したあの日、私は姑に電話を入れていた。 急いでいたから、これから病院に行くということしか伝える事が出来なかった。 それからは、毎日色々とあったから、姑には何にも伝えていなかった。 私は緊急入院した事、現在の様子をざっくりと話した。 姑は少しだけ動揺してはいたものの、病院に連れっていって、きちんと治療をしている事に安心したようだった。 「本当に、困ったもんだわ~。ああ~、あんたもこれからが大変なのにね・・・・。明日、私も病院に行くから、そこで色々話して。」 そう言って、暫く会話をして姑と落ち合う約束をして電話を切った。 私は、一人でシゲちゃんの事、出産のこと、これからの生活の事と向き合って 抱えこんでいたから、この時の姑の存在は本当に大きなものだった。 それなのに、この人ともドロドロの闘いをこれからするなんて・・・・。 シゲちゃんが元気でごく普通の世間一般の今までの様な暮らしをしていたならそんな悲しい関係にはならなかった。 病魔は何もかもを奪い、壊していく。 心の底から誰を憎むでもなく、自分の運命を嘆くわけでもなく、ただ一重に シゲちゃんを奪ったこの、「病魔」が今でも憎い!!!!

No.121

>> 119 スレ主様 時々覗かせて頂いてます。 色々な想いがあるかとは思いますが、お忙しい中、ユックリと、細々とでも、続けて下さいね 応援してます。… 主です。いつも見て戴き、ありがとうございます。
本当に、駄文、乱文で恥ずかしい限りの文章ですが、こうして誰かが興味を持ってくださって、ご覧になって戴けるという事は、とてもうれしい事です。
今後とも よろしくお願いします。

No.122

>> 120 アパートに帰宅してからは、何をしていたんだろう・・・・。 昔の事で、今になってはハッキリとは憶えていないが、シゲちゃんが居なくなって、漠然… purururu・・・・・静かな部屋に鳴り響くベル音は何時もより大きく響く・・。

疲れていたのか、私は力なく電話に出た。

「はい・・・・。」

「!ユリちゃん・・・?!」

義母だった。 急に姑の声を聞いて正気に戻る。

「!!!はい。お、お義母さん!」

「息子、どうなった???あんたは今どうしてるん??2人とも大丈夫かあ?」

義理とはいえ、母の声に急に胸が熱くなる。涙を抑え、義母と話をする。


シゲちゃんが緊急で病院を受診したあの日、私は姑に電話を入れていた。

急いでいたから、これから病院に行くということしか伝える事が出来なかった。

それからは、毎日色々とあったから、姑には何にも伝えていなかった。

私は緊急入院した事、現在の様子をざっくりと話した。

姑は少しだけ動揺してはいたものの、病院に連れっていって、きちんと治療をしている事に安心したようだった。

「本当に、困ったもんだわ~。ああ~、あんたもこれからが大変なのにね・・・・。明日、私も病院に行くから、そこで色々話して。」

そう言って、暫く会話をして姑と落ち合う約束をして電話を切った。

私は、一人でシゲちゃんの事、出産のこと、これからの生活の事と向き合って
抱えこんでいたから、この時の姑の存在は本当に大きなものだった。

それなのに、この人ともドロドロの闘いをこれからするなんて・・・・。

シゲちゃんが元気でごく普通の世間一般の今までの様な暮らしをしていたならそんな悲しい関係にはならなかった。

病魔は何もかもを奪い、壊していく。

心の底から誰を憎むでもなく、自分の運命を嘆くわけでもなく、ただ一重に
シゲちゃんを奪ったこの、「病魔」が今でも憎い!!!!

















No.123

>> 122 この日は疲れていたけど、以前の様な気持で就寝するまで不安とかには襲われなかった。

看護師さんの情けに触れ、姑の声を聞いて、自分が孤独で戦ってはいないことが本当に嬉しかった。

安堵して涙が出る。

ご飯も少しだけ美味しい。

テレビを見るゆとりも出て来た。

もう、何日もテレビを見ていない。
笑えないし、いつもどことなく不安で、明日の事を考えると他の事なんて考えられないし。

とにかく、毎日が精一杯だった。

アパートに帰れば、明日の病院に持っていく着替えとか、諸々の物を用意して、持ち帰った洗濯物を洗濯して、かき込むようにご飯を食べて、お風呂に入って寝る。それだけ・・・・。

でも、眠れないからベットでずっと目を閉じてるだけ。大きなお腹をさすりながら、この子が生まれる頃にはきっとまた・・・と淡い期待持つ。

そうするだけで、寂しさが紛れていく。

だけど、疲れた時には張りが強くて、脚も浮腫んで心臓がドキドキして
不安が押し寄せる。


もし、いまここで切迫流産、早産にでもなったらどうしよう・・・・。
この子はどうしても無事に生んであげたい。

この子だけは。


シゲちゃんのところから帰ったら何時もこんな感じの時間が流れていた。

だけど、この日はお腹も張らず、近い未来に夢を見ながら、心地よい眠りに就いた。

こんな冷たい都会の大きな病院は情とか、ソフトな面なんてないなんて思っていたけど、今日の看護師さんの様な人もまだいるんだな~

今まで母の事、妊娠してからはお腹の子供の事、そしてシゲちゃんの事、
自分は精一杯自分を保つことしかできなかったから、誰かの温かい心に触れると、守られると、胸が一杯になる。

今日の看護師さんと、姑さん・・・・。

実の母は天国にいるけど、自分には世間に「母」と呼べる様な存在の人がこの世にまだいる。

「母さん・・・。」



No.124

>> 123 今日からは看護師さんに教えてもらった駐車場に車を置いて行こう。
何だか嬉しい。
何時も通り、病院に持って行く荷物を車に積んで出発した。
駐車場は直ぐに行けたが、入ると何台かの車がくるくると空いた所を探している。
こんな朝からでも、かなりの車で駐車場は一杯の様だ。
私は何とか遠い角のスペースに停める事ができた。
しかし、ここから出るまでには3~5分くらいかかる様な駐車場だ。

荷物を両手に持って病院の方向を見上げた。14階から見たときにはそんなに距離は感じなかったのに、ここから見る限りは、歩いて15分は掛りそうだ。

やはり、看護師さんの言うとおり、ちょっと離れている。

臨月の自分にとって、大きな片手5キロ、両手だと10キロ位の荷物はかなり堪えるな・・・。

朝だから、学生や通勤者が多く、交差点は人で溢れている。
信号が青に変わると、雑踏にまみれて進んでいく。

息を切らし、今にもヘタリ込みそう・・・。

でも、全く周りの人は関心なんてない。誰も助けてはくれない。

冷たくて、孤独で、義務感に支配された様な人形が行き通っている。

他人に感情のない人形だ。

これが、都会か・・・・・。都会の象徴的な一面を感じたのは初めてだったかもしれない。

都会を肌身に感じて、荒んだ気持ちになる。

向き合う人々はスーツばかっり。無表情で、行くべき所に足早に向かう。

風が冷たい。

思えば、こんな街の一角でシゲちゃんと暮らしているんだな~。
なのに、あそこは ほかほかと温かい。

無機質な空間のこんなビルの立ち並ぶ所とは違う。

シゲちゃんとだから、都会に居ても温かかったんだ。

現に、こうして自分1人だと、孤独や冷たさを感じてしまう。

私は一人ではこの街では生きていけないよ。
















No.125

>> 124 14階に着いた。シゲちゃんの所に向かうと、カーテン越しに誰かと話す声が聞こえてきた。
お義母さん?
カーテンを開けると、看護師さんがいた。

「あ、来た来た!待ってたんですよ~。」
昨日の看護師さんだ。
「駐車場分かったかな?大丈夫だった?遠いから途中で陣痛でも来たら大変だって話とったんよ(笑)」

朗らかに看護師さんは話しかける。

しげちゃんもニコニコと微笑んでいる。

ここも、都会の中にある大きな病院だけど、アパートと同じ。
ほかほかと温かい・・・・。

人の目に見えない力ってやつなのかな・・・。

この2人にはそんな力があるんだな・・・・。

「はい、何とか大丈夫でした。(笑)」

「今日はお義母さんも来られてるん?」
看護師さんが言う。


 ベットの脇を見ると、小さなリュックにボストンバックが置いてある。

!お義母さんのだ!


「ああ、今トイレに行っとる様なんで・・・」
シゲちゃんは小さな声で言う。

ああ・・やっぱり先に来てたか・・・・。駐車場が遠かったから行けないんだとか看護師さんに言えないし、お義母さん怒ってないかな・・・?









  • << 127 何から話そうか・・・。私は色んな事が頭を駆け巡り、話の順序を整理する事で一杯になる。 そんな時、姑が帰ってきた。 「あら!ゆりちゃん!おはようさん。」いつもと変わらない明るい感じだった。 と言うより、おはようさんて・・・・・。 まるで30歳は若く見えるかのような格好で来ている姑は何時も軽快な印象だが、時と場所ではかなりぶっ飛んだ印象を受ける・・・。 「おはようございます。お義母さん」 「今日は・・・」 私が話そうとしているのに、姑は自分の事を話し始めた。 「あのな。私、トイレって言って、違うんや(笑)!!下の売店でな、お菓子買ってたんよ(笑)な、可笑しいやろ?(笑)」 はあああ~まただ。お義母さん節・・・・。 笑いを取ろうとしているのは分かるけど、これから主治医に会うと言う時に・・・・。 シゲちゃんの方を見た。のほほ~んと笑って、「あ、あほか~おかんは~」 って小さい声でぼやいてる・・・。 この二人、本当に大丈夫か? 「ほいでな、こんなのとか食べる?あ、ゆりちゃんはしっかり食べなあかんで! 大きなお腹になったなあ~。赤ん坊の為にも、ぎょうさん食べんと!」 「・・・はい・・・。」 「あ、あの~お義母さ・・・」 「ほんでもよ、茂雄、良かったやんか、ゆりちゃんが傍におってくれて。今までの様にヤモメだったら、あんた、野垂れ死にしとったんやで!どうするんな~本間によ~」 どこまで冗談なんか・・・・。このおっかさんは・・・。 こんな感じで、姑が次々に話しかけるもんだから、頭の整理なんて付かなかった。 「城内さん、どうですか~?」 カーテンが開いて、真っ白な白衣を纏った男性が大きなオーラの中から現れた。 「初めまして。宮岡と申します。宜しく。」 40代前半、貫禄あるベテランの医師だ。 颯爽とした出で立ち、自信に満ちた顔つき、バリバリのドクターだ。 緊張が段々と強くなる。 しばし、私は固まったままで、何にも言えなかったが、姑は物おじせず宮岡医師に話しかける。 「あ、はじめまして。先生、この子の様子はどない何やろか?」 先生はじろっと義母を見て、 「詳しい話は今の段階ではまだ何とも申し上げれないですが、明後日の検査が終わってからお話しできると思います。」 「明後日・・。」 「しかし、黄疸の値がかなり高値で、処置をしないといけません。」 「処置・・?」 「はい。要は、黄疸を体内から抜くと言う事です。それが先決ですね。早い内にこの黄疸を抜く事をしましょう。しかし、ここまでビルビリン、黄疸の値が悪いとドレーンを刺すという治療はかなり難しくなってきます。」 そうだ・・黄疸が酷いと皮膚を切開する事は出来ない。出血が止まらなくなるからだ。

No.126

>> 125 「だったら、お母さんも一緒の方がいいかな・・・?」
看護師さんは一人でつぶやくように言う。

「後でまた来るね。で、これ。なかなか熱が下がらないね・・・・先生も今日後から来るから、聞きたい事とか何でも聞いて。困った事はまた私に行ってくれたらいいからね・・」

そう言って、体温計をシゲちゃんに渡す。

「あ、今日先生が来るって・・・あの、主治医の先生が決まったんですか?」
私は看護師さんに聞いた。

「うん。とても良い先生だから、良かったね・・」

看護師さんはそっと微笑んだ。

主治医の先生にやっと会えるのか・・。
検査の結果とか、今後の事とかいっぱい聞きたい事は山のようにある。

緊張と僅かな期待が膨らんでいく。

ぴぴぴぴ!

「ゆり、これ」
しげちゃんが体温計を渡してきた。

38・5。高い・・・。

毎日38度代の熱が出ている。

点滴も24時間だし。

私は先生に会ったら色々と聞かなければいけない事ばかりあった。




No.127

>> 125 14階に着いた。シゲちゃんの所に向かうと、カーテン越しに誰かと話す声が聞こえてきた。 お義母さん? カーテンを開けると、看護師さんがいた… 何から話そうか・・・。私は色んな事が頭を駆け巡り、話の順序を整理する事で一杯になる。
そんな時、姑が帰ってきた。

「あら!ゆりちゃん!おはようさん。」いつもと変わらない明るい感じだった。
と言うより、おはようさんて・・・・・。

まるで30歳は若く見えるかのような格好で来ている姑は何時も軽快な印象だが、時と場所ではかなりぶっ飛んだ印象を受ける・・・。

「おはようございます。お義母さん」

「今日は・・・」
私が話そうとしているのに、姑は自分の事を話し始めた。

「あのな。私、トイレって言って、違うんや(笑)!!下の売店でな、お菓子買ってたんよ(笑)な、可笑しいやろ?(笑)」

はあああ~まただ。お義母さん節・・・・。

笑いを取ろうとしているのは分かるけど、これから主治医に会うと言う時に・・・・。

シゲちゃんの方を見た。のほほ~んと笑って、「あ、あほか~おかんは~」
って小さい声でぼやいてる・・・。

この二人、本当に大丈夫か?

「ほいでな、こんなのとか食べる?あ、ゆりちゃんはしっかり食べなあかんで!
大きなお腹になったなあ~。赤ん坊の為にも、ぎょうさん食べんと!」

「・・・はい・・・。」

「あ、あの~お義母さ・・・」

「ほんでもよ、茂雄、良かったやんか、ゆりちゃんが傍におってくれて。今までの様にヤモメだったら、あんた、野垂れ死にしとったんやで!どうするんな~本間によ~」

どこまで冗談なんか・・・・。このおっかさんは・・・。

こんな感じで、姑が次々に話しかけるもんだから、頭の整理なんて付かなかった。

「城内さん、どうですか~?」
カーテンが開いて、真っ白な白衣を纏った男性が大きなオーラの中から現れた。

「初めまして。宮岡と申します。宜しく。」

40代前半、貫禄あるベテランの医師だ。

颯爽とした出で立ち、自信に満ちた顔つき、バリバリのドクターだ。

緊張が段々と強くなる。
しばし、私は固まったままで、何にも言えなかったが、姑は物おじせず宮岡医師に話しかける。

「あ、はじめまして。先生、この子の様子はどない何やろか?」

先生はじろっと義母を見て、

「詳しい話は今の段階ではまだ何とも申し上げれないですが、明後日の検査が終わってからお話しできると思います。」

「明後日・・。」

「しかし、黄疸の値がかなり高値で、処置をしないといけません。」

「処置・・?」

「はい。要は、黄疸を体内から抜くと言う事です。それが先決ですね。早い内にこの黄疸を抜く事をしましょう。しかし、ここまでビルビリン、黄疸の値が悪いとドレーンを刺すという治療はかなり難しくなってきます。」

そうだ・・黄疸が酷いと皮膚を切開する事は出来ない。出血が止まらなくなるからだ。













































No.128

>> 127 それだけ言うと先生はまた颯爽と立ち去っていった。

「本当にこの黄疸さえなかったらなあ~ほんでも、ゆりちゃんとこのお母さんは
黄疸が出てぬきはったんやろ?どないして抜いたん???」

姑はくるくるとした目で興味深げに私をじっと見て聞いてきた。

「私の母の時には、入院した次の日に、やっぱり黄疸を下げるのが先決だったから、お腹を少し切開してからドレーンを通して抜きました。」

そう言うと姑は、

「じゃあ、ここでもそうしてくれたらいいのにな。なんで、切開出来んとか言うんかな~?」

あっけらかんと話す。

「出血が止まらなくなるからじゃ・・・」
私が言うと。しげちゃんも、姑も少し驚いた顔をした。

「!えっ!!!血が止まらんようになる??ホンマ!そんな怖い事になっとるんかいな!この子は!!!私はそんな事何にも知らんかった!でもよ、このままドレーンで黄疸抜かんかったら・・・・じゃあ、この黄疸は下がらんまま???治療は????」姑が怒ったように言う。


多分、違う方法でビルビリンを体内から抜く方法を考えてはいるだろう。
しかし、早くに治療を開始するには、やはりビルビリンは下げないといけない。

「先生は他のやり方を考えてくれてると思います。とにかく、明後日また先生に
会って話せばいいから、お義母さんコーヒーでも・・・」

私はそう言って、直ぐに感情的になる、人間瞬間湯沸かし器の姑をロビーに連れ出した。


シゲちゃんの前で感情的な人間に居てほしくなかった。

とにかく、信頼できる医師が主治医になってもらった事、治療方針も進んでいるという事は冷静になれば考えられる事だ。

しかし、ここにきて、この入院が安易に終わらないで、アパートで暮らすのも早まる事は無いと次第に考えるようになってきていた。


そう、夢と現実は違う。


夢ばかり見ても一向に現実は変わりそうもない。
願っていても、自分が何にもしなければ時間は過ぎるだけ。

私は、シゲちゃんと、生まれ来る子との幸せな生活に夢や希望を馳せながらも、次第に現実と本気で向き合うようになってゆく。










No.129

>> 128 ビルビリンの値が下がらなければ、本格的な治療も行えない。
それは、母親が入院中に知っていた事だった。

母の時には、そこまで酷い状況では無かったから、下腹を切開してドレーンを通して黄疸を下げた。
しかし、シゲちゃんの場合は母の時よりビルビリン値が異様に高 く、ここの病院の医師も手を拱いていたのだ。

14階から姑と向きあって座る。
「ゆりちゃん、黄疸って怖いの?肝臓が悪いという事は知ってたけどやな~。」

そうだ、この姑さんに結婚するときに言われていた。

この子はB型肝炎のキャリアだという事を・・・・・。

しかし、このシゲちゃん一家は続けてこうも言った。

「このキャリアの人は、癌にはならない。」

だから 安心して・・・・。

と・・・・。

私はそれを容易く信じてしまった。

母が癌と闘って居たころだったから、余計とその、
「癌にはならない」という言葉が大きかった。
それが決め手の一つと言ってもいいくらいだった。

だから自分は今もこうして、癌ではないと姑共々思って居る。

きっと、肝臓がまた弱って悲鳴をあげたような状況だと・・・・。

「なあ、ゆりちゃん・・・明後日、先生の話があるやんか、一緒に聞こうや。」

義母はそういって、私と一緒に宮岡医師の話を聞く事になった。

明後日には、ようやく病名も知らされ、どんな状況か、どんな治療をするのかが聞ける。

一歩進める。

少しは状況を打破出来るだろう・・・・・。





No.130

>> 129 「シゲさん、どうしてるの?最近メール無いから気になってるよ。またトラックで家に来てね。たー坊も待ってるよ。」

「入院してたの???何で言ってくれなかったの?直ぐにお見舞いに行きたい!」

ルミコ・・・・・・・・。


pururururu・・・・・。

「はい。」

「シゲさん!!どうしたの?どこの病院?近い内に会いに行きたいな。私、心配で・・・・。」


「いや、来ないでいいよ。直ぐによくなるから。また、たー坊とキャッチボール
したるわ~」

「そんなこと言って・・・嫁さんは毎日シゲと会ってるんでしょ!」

「仕方ないやんか、今は・・。もう直ぐあいつ来るんや。ここでルミちゃんとの関係が分かったら、会えんようになるかもしれんやろ・・。ごめんな。」

「ま、まって・・・・・」

プープープープッ

シゲ・・・・私はずっと子のこと貴方との未来を作っていきたかったのに・・・。

どんな悪い女なのよ。あなたの奥さんって・・・・。

結局、私達は影の存在なの?

この子は本気で父親としてシゲの事・・・・・。涙

結局、私達は捨てられるんだわ・・・・。

でも、この子を傷つけた事は許せない!

  • << 133 ルミコはギュッと唇を噛んで、茂雄の妻に微かな憎しみを覚えていた。 上手いこと言って、本当はバツ一の私なんかより、若い子の方がいいんじゃない・・・・。 男って本当に嫌な生き物だわ! この子だって!本当の父親は女が出来た時にはサッサと邪魔者扱いして簡単に捨てていったわ!! 私にだって、幸せを得る権利だってある! たとえ、誰かの者であっても、この子の父親になってくれると信じていたのに・・・。 男にとって、妻って何よ! 余りにも不公平だわ! 私は妻で居た時には、裏切られ、子供を産んでも家庭より女に旦那は走った。結婚したために沢山の将来とか、仕事とか、実家とかを捨てなきゃいけなかっというのに・・・・。 全てを擲って女は一人の男の人生に寄り添うわけなのに。 1人になった時には落ちぶれて、所帯じみた人生に疲れたおばさん・・・。 子供という、大きなものを背負っていくのも女・・・・。 シングルになって、肩身が狭い・・・。 何で私ばっかり・・・・。 やっと見つけたシゲは妻を庇い、愛人の私より、妻が大事だから・・・・・・。 私はシゲの傍にもいけないなんて・・・。 きっと、気の強い嫁なんだわ! 妻だからって、胡坐かいてドーンと構えてるのかしら? いつか、幸せは私のものにしてみせるわ! この子の為にも・・・・!

No.131

いつも応援してます。
続きが気になりますが、無理はしないで

No.132

>> 131 チェリーさん ありがとうございます。 
本当に拙い文章ですが、これからも少しずつ書いて行こうと思いますので、
応援してください。

No.133

>> 130 「シゲさん、どうしてるの?最近メール無いから気になってるよ。またトラックで家に来てね。たー坊も待ってるよ。」 「入院してたの???何で… ルミコはギュッと唇を噛んで、茂雄の妻に微かな憎しみを覚えていた。

上手いこと言って、本当はバツ一の私なんかより、若い子の方がいいんじゃない・・・・。

男って本当に嫌な生き物だわ!

この子だって!本当の父親は女が出来た時にはサッサと邪魔者扱いして簡単に捨てていったわ!!

私にだって、幸せを得る権利だってある!

たとえ、誰かの者であっても、この子の父親になってくれると信じていたのに・・・。


男にとって、妻って何よ!

余りにも不公平だわ! 私は妻で居た時には、裏切られ、子供を産んでも家庭より女に旦那は走った。結婚したために沢山の将来とか、仕事とか、実家とかを捨てなきゃいけなかっというのに・・・・。

全てを擲って女は一人の男の人生に寄り添うわけなのに。

1人になった時には落ちぶれて、所帯じみた人生に疲れたおばさん・・・。
子供という、大きなものを背負っていくのも女・・・・。

シングルになって、肩身が狭い・・・。

何で私ばっかり・・・・。
やっと見つけたシゲは妻を庇い、愛人の私より、妻が大事だから・・・・・・。

私はシゲの傍にもいけないなんて・・・。

きっと、気の強い嫁なんだわ!

妻だからって、胡坐かいてドーンと構えてるのかしら?

いつか、幸せは私のものにしてみせるわ!

この子の為にも・・・・!











No.134

>> 133 そんなルミコの気持ちも知らず、茂雄はユリが来るのを待っていた。

今日はオカンとユリが来る。今日で自分の状態や退院の日も決まる!

「さくら」が生まれるまでには、俺はどうしても元気になっていたいんや!

きっと可愛い子だ。 こんな父ちゃんなんか嫌やもんな・・・。

「さくら」だ。俺のお姫様は、「さくら」って決めたんだ。

1月には似合わないけど、「さくら」なんだ。

俺はシャラポアを凄いと尊敬している。だけど、外人の名前は付けれない。

ユリは、女子ゴルフの●●さくらみたいだ。よく似ている。

●●藍も凄いが、俺は●●さくらみたいな女の子が生まれてくると思う。

なんちゃって!冗談だよ(笑)

本当はもっと深いんだよ。


ゆり・・・お前、覚えているか・・・・・。

お前の生まれた街のさくらを一緒に見た日の事を。

温かい小春日和だったな~沢山の露店が軒を連ねる通りを2人で歩いて・・・・。
少女の様にはしゃぐお前は本当に可愛いと思ったよ。

さくらのトンネルを2人で一緒にくぐり抜けていったな~。あのデートは本当に
俺の人生の宝物になったんだ。

お前と結婚してよかったと感じたよ。お前に俺の子供を産んでほしいとフワッと思えたんだ。

さくらのトンネルは俺とお前を包んでいた。

綺麗な光景だった。

それから1カ月、2カ月・・・。お前のお腹には小さな天使が舞い降りたんだ。

「さくら」だよ。

さくらは、俺とお前の記憶・・・。

さくらは、俺とお前の命なんだ。







  • << 138 ん?雪・・・。 茂雄は窓の外に目をやる。 フワリ フワリと雪が舞っている。 外は寒いんだな・・。 オカンとユリは大丈夫やろか・・。 こんな寒空の下、臨月の妻は大きなお腹で自分を見舞って毎日やって来る。 早くここから出て、またあのアパートへ皆で帰らなアカンなぁ・・。 「おはようさん!」 何や? あ、オカン・・。 ユリも・・・。 来てくれた。 「外は寒かったやろ?雪降っとるで~。ユリ!お前俺のパッチ履いてるか?防寒せなアカンやろ!」 そうだった・・。 シゲちゃんから何時も暖かくしろって言われて、無理やりパッチ履いてたな。既に初秋頃から。 「こんな街の大きな病院に、ステテコみたいなジジィ履き履いて来れないよ!」 シゲちゃんと姑はそういう私に笑いながら、色々と話掛けて来た。 しかし、今日は先生とのカンファレンスの日。 さすがに緊張と不安は隠せない。 今日はシゲちゃんの病名も決まり、診断が下りる日。 良くも悪くも、区切りの日だ。 今まで病名すら告げられず、自問自答して、気を揉んできた故に、待ち望んでいたのも少しはある。

No.135

失礼致します。。

主さん、どうしてらっしゃいますか?

更新待っていますね。
失礼致しました。



No.136

こんにちは(^^)
時々、のぞかせて頂いています。
ちょっと、どろどろして来て、この先が、ますます目が離せなくなってきて、気になりますが…
無理はなさらず、御自身のペースで、長くお続け下さい。
気長にお待ちしています。

No.137

>> 136 いつも読んで頂き、ありがとうございます😃

お返事が遅くなってすみませんでした。

卒園、入園の準備と保護者会でバタバタになりますが、時々書きたいと思いますので、よろしくお願いします✨

No.138

>> 134 そんなルミコの気持ちも知らず、茂雄はユリが来るのを待っていた。 今日はオカンとユリが来る。今日で自分の状態や退院の日も決まる! … ん?雪・・・。
茂雄は窓の外に目をやる。

フワリ フワリと雪が舞っている。

外は寒いんだな・・。

オカンとユリは大丈夫やろか・・。
こんな寒空の下、臨月の妻は大きなお腹で自分を見舞って毎日やって来る。

早くここから出て、またあのアパートへ皆で帰らなアカンなぁ・・。

「おはようさん!」

何や?
あ、オカン・・。
ユリも・・・。

来てくれた。
「外は寒かったやろ?雪降っとるで~。ユリ!お前俺のパッチ履いてるか?防寒せなアカンやろ!」

そうだった・・。
シゲちゃんから何時も暖かくしろって言われて、無理やりパッチ履いてたな。既に初秋頃から。
「こんな街の大きな病院に、ステテコみたいなジジィ履き履いて来れないよ!」

シゲちゃんと姑はそういう私に笑いながら、色々と話掛けて来た。

しかし、今日は先生とのカンファレンスの日。
さすがに緊張と不安は隠せない。

今日はシゲちゃんの病名も決まり、診断が下りる日。

良くも悪くも、区切りの日だ。
今まで病名すら告げられず、自問自答して、気を揉んできた故に、待ち望んでいたのも少しはある。

No.139

>> 138 「おはようございます、城内さん!」
看護師さんがカーテンを開けて検温と血圧を計りに来た。

あれ・・点滴の袋が大きくなったような・・。しかも、種類が違う?

気のせいかな?いや、気のせいじゃない!

「あの~、点滴の量と種類、何時もより違います?」私は看護師さんに聞いた。

看護師さんはなかなか返事をしない。

やっと口を小さく開き、「あ・・そうですね。」とだけ答える。

「今日は先生から詳しいお話があると窺ったのですが・・。」私は話を振った。
看護師さんは先程とは違い、向き合ってハキハキと話始めた。
「そうですね。今日ですね。多分もう少ししたら先生が上がって来られると思うので、また係りの看護師が付き添い、ご案内しますね。城内さん、お熱がまだ高いから、こちらで休んでますか?無理に行かなくても、お母さんと奥さんに聞いて戴くだけでも構いませんよ。」

看護師さんはシゲちゃんの熱が下がらないので、病室になるべくなら居て休む方がいいと言ったが、シゲちゃんは自分も聞くとハッキリ言って断ったので、3人で先生とのカンファレンスを受ける事になった。

緊張する。胸の鼓動が大きく早くなる。

「城内さん、先生が来られました。行きましょうか。」

看護師さんが2人迎えに来た。
一人の年配の看護師さんが、椅子から立ち上がる私のお腹と背中に優しく手を添えて、

「奥さん、大丈夫ですか?寒くない?お腹張らない?なんだったら、ご主人とここで待っていてもいいんよ。今日は雪が舞う位寒いし・・。無理しなくてもいいんよ。」
と言ってくださったが、私の性格上、人任せにするのが嫌で断り、カンファレンスに行く事にした。

No.140

>> 139 病室から一歩長い廊下に出ると余計と胸がドキドキしてきた。
姑も何時もとは違い静かで多少顔が強張っている。

シゲちゃんは相変わらず、のほほんと言うか、抜け感があるが、一言も喋らない。

私たちは看護師さんに誘導されて、宮岡先生の待つカンファレンス室に入った。

椅子が3つ並んでいた。

薄暗く、どこはかともなく冷たい雰囲気がする小さな部屋。

ここから逃げ出したいような異様な空気を感じる。

圧迫された空間で、宮岡先生が待っていた。

「お世話になります。宜しくお願いします。」私は先生に深々とお辞儀をした。
「おはようございます。今日は寒いですね。どうぞ、此方へ。」
先生に挨拶をしてから、それぞれ椅子に腰かけた。

宮岡先生は私に視線を合わせた。
そして、視線の先は「さくら」だった。

大きなお腹を見た先生は深刻な顔になる。

空間が重く感じられる。

何だか嫌な予感がする。

大きな黒い闇が部屋一面に広がる感じがして、息苦しい。

余りのストレスを感じて、胃の辺りが苦しい。
胃酸が逆流している。気持ち悪い。

宮岡先生は暫く難しい顔をして私を見て話し出した。

No.141

>> 140 「奥さん、大丈夫ですか?奥さんにちょっと楽な椅子ない?」
側にいた若い看護師さんに宮岡先生が言う。

「あ!ハイっ。すみません。」看護師さんは直ぐに背もたれのある大きめの椅子を持って来てくれた。

「ありがとうございます。」
私は丸椅子から看護師さんが持って来てくれた椅子に変わり腰掛けた。

「少し楽でしょう?奥さん 今、何ヵ月ですか?」

宮岡先生の表情が硬い。

普通、こんな会話をする場合はお互いに笑顔で和やかな雰囲気が至って普通なのに・・・。

こんな深刻な顔と張り詰めた空気の中でするなんて初めてだ。
!!!!!

と、その宮岡先生の瞳が涙を湛えている・・。
・・・!

言わないで欲しい!

その先の言葉を
聞きたくない!
先生の重い口が動く。

「う~ん・・・。臨月ですか!ハァァー!!」
宮岡先生は一層厳しい顔をして声になる溜め息をつきながら項垂れる。

私は、死刑宣告のような痛烈な宣告に、さくらを必死で守りながら1人で震えて嗚咽する。

26歳冬。
寒い寒い冷たい冬を私は生涯忘れない。

No.142

>> 141 雪が降る・・。
白い雪が降る・・。
この街に生きている私たちの頭上に真っ白な冷たい雪が音もなく深々と舞う。
目下に広がる雑踏を何も考えず覇気のないグレー色の瞳で眺めている。

深い蒼い海の底のような暗く光の届かない悲しみを抱いた心の中に深々と悲しみが降り積もってゆく・・・。
ガラス越しに見えるこの街は何処を見渡しても灰色だ。

「肝臓ガン、ステージⅣの末期」

余命

「さくらが生まれた姿を見れる様に何とか、何とか頑張りましょう!・・・。」

宮岡医師の言葉をぐちゃぐちゃになった顔で思い出す。

涙も鼻水も、これでもか!と言うくらい出る。
悲しいとか、辛いとかの確固たる感情ではなく、何もかもがごちゃごちゃで、あるがままの訳の分からない本能に近い沸き上がる感情、言葉では言い表せない。

発狂しそうな私。

最早、廃人寸前。

・・死のう・・
死にたい。

ここからあの雑踏に身を投げよう。

No.143

>> 142 ドクンっ・・!
グっ~!!

グっ!ドクンっ!ドクン!

ドキドキ ドキドキ・・・。

赤ちゃん・・!
蹴った?

蹴った!

痛っっいっ!

心臓の鼓動が早くなる。


「さ・く・ら・ ・。」

私はガチガチに張ったお腹を抱えて冷たいフロアーにへたり込み、お腹を抱えて踞る。

お腹 痛い・・。

張りが強い。

あ、足が!

浮腫みで象の足みたいになってる。

何・・コレ・・。

さくら、さくら!

さくら~っ!

ママに何か言ってる。

この子が何か伝えてる!

さくら、どうしたの?

どうしたの?

今までずっとこんなに叫ばなかったのに!

何か必死で伝えてる!

痛い・・。

さくらを守らなきゃ。

死ぬ事は赦されない。

死ぬ事も赦されない

のではなく、

死ぬ事は赦されない。

どんなに残酷な運命でも。

私は1人の女じゃない。

母なんだ。

そして、妻になったら、最愛の夫の最期を看取るという役目がある。

夫を愛する妻は過酷な人生を放棄する事は赦されない。


夫について行く事も赦されない。

1人で投げ出して好きな様に生きて行けば、最早、人として非ず。

ただ一つ、最愛の人を看取り、遺された愛娘を育て上げる。

それが、結婚。背負うものの責任から一生逃れる事は出来ない。

どんなに残酷で辛辣な人生になっても、その運命にも別れは告げれない。

それが、神に誓った契り。

考えてみれば、大きく、重く硬い契約だ。

看取る、子供達を育て上げる、家を継いで守りゆく。

結婚はそんな辛く苦しい事の連続だ。

だけど、皆結婚してゆく。

それが人の道だからか。

分からない。
分からない。

こんなに愛する人を看取る役目を今の私に課せられるのは堪えられない。

役目が重すぎる。

死ぬかも知れない。

私は死ぬかも知れない。

妻故に、死ぬかも知れない。

No.144

>> 143 余命宣告を受けたあの日・・。
カンファレンス室から説明を受けて出るシゲちゃんは、今までにない程力ない姿だった。

後ろ姿しか記憶にないシゲちゃん・・・。

泣き崩れる姑を抱えてロビーに向かう私。

シゲちゃんは、きっと泣いていたのだろう。

足早に私達を振り返る事もなく病室に入って行った。

その時の後ろ姿が頭から離れない。

点滴棒を片手に歩く姿は痩せていた。

私は涙が溢れて止まらなかった。

掛ける言葉もなく、激しい絶望が私達家族を真っ黒な闇に突き落とす。


シゲちゃんの隣に寄り添いたかった。

ただ、側にいないと壊れそうで、怖くて不安で堪らない。

それは姑も同じだった。

ガタガタ震える姑。

ロビーで震え泣く姑を1人に出来ず、姑の前に向かい合って座った。


姑は癌宣告を受けた時、

「先生、私の体の全てを切り刻んでこの子の命に代えてください!肝臓も心臓も血液も全部!全部使って!」
そう叫んだ。

母が癌宣告を受けた日がフラッシュバックした。

母も医師に

「助けてください!」

この子の為にも生きていたい!と・・叫んだ。
母も姑も自分ではなく、子が心配で、子供の為に生きよう、死のうとした。

私はどうだ?

さくらを犠牲にしてばかりだ。

No.145

>> 144 お腹の張りがギューっと強くなり、何だかさくらの心音が小さいような・・・。

・・!!!

さくら!!!!
さっきまで蹴っていたのに!

どうしたの?

痛くて起き上がれない!

何が、何が起きてるの?

こんなの初めて。

イヤだ!何だろう。

何かがおかしい!

赤ちゃんが・・動かない!


誰か!誰か!

私は広いロビーを見渡す。

ユリ!!!

後ろから私の名前を呼ぶ声。

シゲちゃん!

「ユリ!どした!?痛いんか?どないしたんや!ユリ!!立てるか?」

シゲちゃんが私に手を差し伸べた。
私はすがる様にシゲちゃんの手を握ると、不思議と気持ちが落ち着いた。

だが、痛みは強い。

「シゲちゃん、さくらが!動かない・・お腹張ってる。」

シゲちゃんは私を抱えようとする。

痩せた癌患者と臨月の窶れた妊婦。

ロビーがざわめく。

側に来る人皆が助けようとする。

看護師さんが2~3人走りよって来た。

「お母さん!大丈夫ですか?立てれますか?
ご主人!無理ですよ。離れて!」
シゲちゃんは私を庇う様に寄り添っていた。

見ると、点滴の注射針が動いて、血が逆流している!

「あ!シゲちゃん!血がっ!」
シゲちゃんは私の背中とお腹に手を当てて離れない。

「ご主人!離れて!」

看護師さんがシゲちゃんを無理やり離し病室に連れてゆく。

私は看護師さんに抱えられて産婦人科に回された。

No.146

>> 145 だが、切迫早産出前で産婦人科で処置をされて、薬を渡され安静を言われてなんとか折り合った。

さくら・・・。
さくらは心音が少し低下していたが、また元気を取り戻してくれた。

私が、ママが悪かった。

さくらには無理ばかりさせて・・・。

ごめんなさい。
涙が溢れた。

さくらは死のうとした私を身体を張って助けてくれた。

小さな小さな娘に
「死ぬな!」
と言われた。

そして、さくらは「生きたい!生きたい!」
そう叫んだんだ。

一緒に死ぬんじゃなくて、一緒に生きよう。

パパとママとさくらで、一緒に生きていこう

No.148

主さん…大丈夫ですか?😥


削除されたレス何だったんでしょうか??


皆さん…横レス申し訳有りませんm(__)m


チョット主さんの事が気になったのでレス📝させて頂きました。



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