犯人は僕ですか❓

レス22 HIT数 5714 あ+ あ-


2009/12/24 00:31(更新日時)

~第一章~
『初めての転倒』


本屋の角を曲がり一気に加速した。

横断歩道のストライプを踏み越えて減速を始める、歩道に入ると背丈程の椿の木が五本植えてあり毎度同じように三本目の前にスタンドを立てた。


「ご苦労さん」
この家の主人がガレージから顔を覗かした。

それに軽く会釈をし郵便受けへ足を進めた。



4時35分、毎日ほとんど同じ時刻だが最近2つ変化があった…冬に近づいたせいか、腕時計のバックライトをつけなければ読みづらくなった。



それと、もう一つ…喜美子が『宮崎』の家に住むようになった……。



つづく。

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No.1204185 (スレ作成日時)

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No.1

「チッ‥‥‥早く治せよ~っ」
小声で愚痴を放ちダルそうに小さな階段をのぼった。


玄関の扉の脇に呼鈴ベルのボタンがあり右手の人差し指を持っていく途中で扉の中から声がした。

男性の声に聞き憶えが無いが女性は間違えなく喜美子だった。

来客中かぁ‥‥今来た路を戻る事にした、途中で郵便受けの(破損してますので入れないでください。家主)の貼り紙を睨みつけ もう一度「チッ…」と舌打ちをした。

もときた所まで戻ると またガレージから顔が覗き込んだ。
「奥さん、忙しそうなんで…これ…よろしいでしょうか?」
「あれ?喜美子いませんでしたか?」
そういうと白髪混じりの頭をかきながら近づいてきた。

葉書の宛名側を上にして差し出した、宛名には『宮崎 繁男』の名が見えた。
この白髪混じりの男性、家主の名前である。


つづく

No.2

‥‥右ひじと右太股に激痛がはしる。

対向車のヘッドランプに目を細めながら すっかりクリスマス気分の町並みにどこか虚しさを感じていた。
「寒っみぃ~っ…まじで寒いんですけど…」と呟きハンドル前方の鞄に目をやった。
中には防寒着が入っていて右ひじ部分が酷く破れてあった、他の郵便物と混ざらないようにコンビニの空袋に乱暴に詰め込まれていた。

防寒着は局指定の支給品で色使いに不満があったものの暖かく機能的には問題なく越冬に耐える事ができ少し大きめを着用するのが好みだった、そうする事により腰周りも暖かいからだ。
現に今でも腰周りに寒さを感じることはなかった。



つづく

No.3

「痛っ…」
信号待ちで右足を着いた際に思わず顔をしかめた。
後方車のヘッドランプで太股部分が汚れていることに気づき慎重にやさしく はたいた「痛っ」
思い出すだけで苛立ちを憶えた‥‥







「喜美子‥いませんでした?」
もう一度、繁男は問いかけた。
「いえ、奥さんいらっしゃいましたが‥どなたか来客中のようで‥‥ハイ。」
「えっ?誰やろ?誰かきたかなぁ。」
繁男は視線を少し上に向け下唇を舐めた。


今日はどうしても喜美子に会う必要があった…



つづく

No.4

繁男は葉書を受け取るが目線は まだキョロキョロ落ち着かない様子だった。
「それと‥申し訳ないんですが‥これも‥‥」
喜美子宛の書留を一通差し出した。
繁男は宛名を見て「私の受け取りでもいいのかな?」と質問した。
(本当は喜美子に会って直接…)と思ったが
「えぇ…結構ですよ」と応答した。



その瞬間‥‥なぜか『ホッ』とした。
緊張感から解放され力が抜けていくのを感じた。



つづく

No.5

「ハンコ、ハンコ…ハンコやねぇ?」
繁男が手でジェスチャーしながら「ごめんっ…もう一回玄関まで来て」
椿の垣根をぬけて階段の前で繁男が手招きをした。
その後を追い小走りで玄関前の階段を登っていった。








どれくらい過ぎただろうか?
潰れた郵便受けを横目に垣根を抜けて道路へと向かった。

スタンドを上げてゆっくり方向転換を始めた時…それは起きた。



つづく

No.6

「ウォンッ!ウォンッッ!!」
暗闇の中から低く大きく響き渡る声が襲いかかる。
驚いて とっさに身を反らしたせいで方向転換を終えた車体に またがったまま右側へ転倒した。
「ガッシャァァンッ‥…」
アスファルトに金属が叩きつけられた鈍い音が暗闇に響いた。

「こらぁっ!ジョン!‥‥‥大丈夫ですか?‥大丈夫‥‥こらっ!ジョンッ!あんたはっ!ダメって言ってるでしょっ!!」
暗がりでハッキリ見えないが凄い勢いで叱りつける彼女は目が吊り上がり顔色は真っ赤に染まっているだろうと想像がついた。



つづく

No.7

「クゥ~ンッッ」
生暖かい感触が右手を包み込んだ。
それがシベリアンハスキーであることは暗がりの中でも すぐに察しがついた。
「すみません、すみません…大丈夫ですか?…本当にごめんなさい」
先程とは うって変わって青い顔色をしてるであろう彼女が近づいてきた。
「大丈夫ですか?…何がどうなってるのか?…真っ暗で分かりにくくて‥‥ごめんなさい」
「‥‥痛っ‥痛っっ‥大丈夫ですよ‥たいした事ないです、少しビックリしてしまいましたが‥‥」
そういうと横転した車体のハンドル部に手をやり ヒュッと起こし上げた。
エンジンを始動しヘッドランプをつけてみた。「ワンッ!ワンッ!」さっきの威嚇した吠え方とはまるで比べものにならない程の甘える様な仕草で犬が足元に駆け寄った。


恐怖に引きつった心に一瞬微笑が戻った気がした‥‥‥



つづく

No.8

「あれっ‥郵便屋さんですか?‥お仕事中に本当に申し訳ありません」
綿のように真っ白の毛におおわれ背中の銀色で極太ラインが美しくヘッドランプに反射している。
「立派なハスキーですね」
彼女はニッコリ微笑ながら軽くリードを引き寄せ銀色のラインを覆うように愛犬を抱きしめた。
「ジョン‥あんたも謝りなさい"ごめんなさい"って!」
彼女は愛犬の頭を軽く押し下げた。
「気にしないでください、本当に大丈夫ですよ」
「でも‥‥痛かったんじゃないですか?‥‥ほらぁ‥」
彼女は右ひじを見る素振りをした。
「それって‥破れてません?‥‥ですよね‥破れてますよね」

垣根の石垣にでも引っ掛けたのか…確かに防寒着が破れているのがヘッドランプから漏れた光からでも確認できた。
「クン、クン、クンッ」
犬が何かを気にしてる様だった、破れたひじが気になりながらも犬の方へ目をやった。

「いやだぁ、大変!!」
彼女は慌てて それに手をやり拾いあげた。



つづく

No.9

「すみません、中身はこぼれてないと思いますが‥暗いんで‥一応確認してくださいね‥どうしよう‥‥本当にごめんなさい」
彼女そう言いながら申し訳なさそうに口が開いたままになった鞄を差し出した。

慌てて中身を覗いたが『宮崎』の家が最後の配達先だったので幸いにして郵便物は留守で受け渡し不能だった書留が少しあるだけでヘッドランプから漏れた光だけでも無事を確認するのは容易だった。
「大丈夫ですよ、問題ないです‥こちらこそ、ありが」
「あぁっ!郵便屋さん‥これも、これも」
彼女はセッカチなのだろうか?少し早口なのは なんとなく感じていたが『礼の言葉』の途中で視線を下にキョロキョロさせて他に落とし物はないだろうか?と探りながらも声をかけてきた。
「これ…これも‥ですよねぇ?」
コンビニの袋を軽く揺すりながら鞄と同様に差し出した。



つづく

No.10

30台程度停めれるのだろうか?長い波状の屋根があり周りを薄い鉄板が囲む、素朴な作りではあるが雨風を防ぐには十分過ぎるほどの鉄鋼の骨組みが施してある。
В-7…いつもの駐輪場所に停めた時、すでに6時半を回っていた。
「水口さん‥」
蛍光灯のあかりが点る少し向こうから声がした。
「珍しっすね、水口さんが こんな時間に戻るなんて」
佐藤啓介が こちらへ歩み寄り話かけた。
「それにしても‥寒いっすねぇ‥こんな安月給じゃ やってられないっすよっ」
佐藤は いつものように愚痴をこぼしてみせた。
「まぁ‥そう言うなよ‥寒いのは確かに辛いけど一日中カブに乗ってるのも‥‥‥自分には合ってるからな」
それでも佐藤は言い足らないのか その後も肩を上下させ得意気に愚痴を続けた、僕は佐藤をなだめながら二人で局内に入っていった。



つづく

No.11

「足‥どうかしたんっすか?」
佐藤が僕の右足を指差した。
「えっ‥‥あぁっ、転んじゃってさぁ」
目立たないよう必死で補っていたのに‥‥我慢して平静を装う自分の姿に同情した。
「転けたんっすかぁ?水口さんがぁ?‥‥もう歳じゃないんっすか、元祖曲芸乗りも そろそろ俺に譲る時期に来たんじゃないっすかぁ」
佐藤が笑みを浮かべアクセルを握る素振りをみせた。


「先に行っといてくれ‥後から行くわ」
配送課の事務所へ向かう途中で僕は佐藤に そう言うと、一人で更衣室の扉を開けた。



つづく

No.12

『水口 竜太』‥‥‥
ネームプレートを確認し鍵をズボンのポケットから探り出し扉をあけた。


水口 竜太…正確には僕の名前は『水口 龍太』である、何度か訂正を申し出た事はあるが…配達用カブの運行記録簿、下駄箱、局内連絡表…数えあげればキリがなく 更衣室のロッカーにネームプレートが貼られた時、僕は訂正を申し出なくなっていた。

そんな事を思い出しながらも僕は鞄の中からコンビニの袋を出しロッカーへ放り投げ扉を閉めた。



一度大きく深呼吸をし もう一度扉をあけた、無造作にタオル、折りたたみ傘、いつのだろうか?雑誌が一冊入ってある、その上に さっき放り投げたコンビニの袋が半分口を開けた状態で置かれてあった。



つづく

No.13

恐る恐るコンビニの袋に手をやった、この中には破れた防寒着、それと‥‥‥プラスのドライバーが一つ入っていた。

‥‥正確には元々プラスのドライバーだった物を僕が尖端部を削り鋭利なアイスピックのように加工したドライバーであった。


指先に『ヌルッ』とした感触があり驚いて腕を引っこ抜いた。
「ひゃあぁぁっ‥‥」
声にならない悲痛を叫び自分の手から目を背けた。



正気をとり戻して もう一度自分の手に視線を向けた、『ヌルッ』とした原因は‥‥多分これだろう‥‥‥
中指と薬指の第二関節くらいまで それは付着している、手を顔に近づけて僕は思った‥‥



『喜美子を刺した時の"かえり血"だ』
僕は それをすぐに理解した。



つづく

No.14

冷静さを取り戻すのに そう時間はかからなかった。
そんな自分に恐怖にも似た憤りを感じながら僕は更衣室をあとにした。



「あっ、龍ちゃ‥‥水口さん」
依子の呼ぶ声で僕は事務所へ向かう足を止めた。
「森山君、何度も言うが職場で龍ちゃんはマズいだろう…それに15だぞっ…15も歳が離れてるんだっ、龍太さんだろぉ 龍太さん!」
少し意地悪な口調で依子を からかった。
「だって龍ちゃんは龍ちゃんだもん、ちっちゃい時から知ってるんだし…私はバイトだから堅い事言いっなし…龍太さん‥‥ププッ、笑わせないでよ」
「お前なぁぁ‥‥とりあえず他の奴の前じゃ水口さんだぞっ…それよかバイトは…仕事は慣れたか」
「まぁまぁかな、私 龍ちゃんと違って要領いいから」
「龍ちゃんじゃなくて 水口さんだろっ」
「ハイハイ…うるさいねぇ、おじさんわぁ」
「なにぃぃっ、おじっ」
「それじゃあね、私まだ仕事残ってるし バイバイおじさん」
「おいっ、待てっ、おまっ」
依子は笑いながら手を振って小走りに自分の持ち場へ戻っていった。



つづく

No.15

…年末年始になると職場が忙しくなる。
最近は人との繋がりが薄くなったとか、電子メールの普及とか、いろいろ巷で言われてるが この時期の忙しさは狂気すら感じる、毎年恒例の短期アルバイトに森山依子が応募したのは1ヶ月程前だった。


‥‥僕は彼女を小さい頃から知っている‥‥生意気盛り、常に心配の種が尽きないが放っておけない存在である、自分に子供はいないが父親とは きっと こんな気持ちだろうと最近思うようになった。



つづく

No.16

「水口さんはなぁ、凄かったんだぞっ!曲芸乗り?‥じゃなくて‥トラ‥トライヤ ん?‥トライラ‥」
「トライアルだろぉ」
「あっ!水口さん」
佐藤は僕を一度見て ニヤリと笑い、後輩達に向け偉そうに続けた。
「そうそう!トライアルつって、簡単に言うと‥‥手足のように‥動物のように‥まぁ曲芸乗りだよっ!‥‥ねっ!水口さん!何度も言うけど日本で3位だぞっ‥‥3番目っ」
まるで自分の事のように話す佐藤に後輩達も苦笑いが隠せない様子だった。


簡単な事務作業を終え明日の配達分を確認し 帰宅しようと席を立った。



つづく

No.17

今から10年程前まで 僕は2輪車のトライアル競技に夢中だった。
トライアル…聞き慣れない言葉だが 人工的あるいは自然の中にある様々な障害物を2輪車で乗り越えていく競技である、ドラム缶や濡れて滑りやすい岩の上、時には高さ3メートル超の岩をも乗り越えるのである。もちろん足を着く又は転倒は減点対象となる、すなわちバランス性が重要なモータースポーツでヨーロッパでは かなりの競技人口がいるそうだ。

当時、アマチュア部門のランキングで全国3位だった‥‥‥その僕が‥あの時‥転勤した‥‥配達員になり初めての出来事だった。



‥‥‥あんな事を‥‥あんな恐ろしい事を‥した後‥‥‥‥当然だ‥僕は思った。



つづく

No.18

「水口さぁ~ん…水口さぁ~ん」

佐藤が僕の顔のすぐ前で手を大きく振っている、ハッ!!っとして我にかえった。
「早く帰るっすよ」
「あっ…うん」
「どうしたんっすかぁ?」
「…ん?」
「いや…ぼーっとして? やっぱし何か変っすよ…まぁ、毎日そうか」
佐藤は また僕を一度見てニヤリと笑った。

「そんじゃ オレ 先に行きますね、お疲れ~っす!」
佐藤は着替えを終え いつもの様に大きめのバックパックを肩にかけ両手を頭の上で左右に振りながら更衣室から出ていった。


やっとロッカーから出す事が出来た…コンビニの袋。

僕はトートバックに押し込むと更衣室出て局を退社した。



つづく

No.19

…佐藤に怪しまれただろうか?



「あれっ?更衣室に用っすかぁ?」
「あぁ…うん」
いつもなら事務所を出たら佐藤と別れるが 今日は違った。
更衣室へ入り 佐藤は着替えを始めた。
「着替えないんっすか?」
「あぁ…うん」
「へっ?…じゃぁ何で?…いつも着替えないっすよね?」
佐藤は大きく首をかしげた。

僕のアパートは局から徒歩10分弱の所にあり いつも制服のまま通勤していたので佐藤の疑問も無理はない。
「水口さん‥水口さんって‥‥聞いてます?」



‥‥佐藤に‥佐藤に怪しまれてないだろうか?‥‥依子はどうだろう?‥‥‥‥



つづく

No.20

夜の帰り道‥‥‥


自分の しでかした事実…
人を刺した時の恐怖…
喜美子の恐怖と激痛に歪む顔…
捕まると思う恐怖…


頭が おかしくなりそうだった。
大きな恐怖に押し潰されそうだった。


でも

…でも

…後悔は微塵も無かった。




後悔は していない。


これだけは…はっきり思う。



つづく

No.21

「‥‥別に‥別にバレてもいいんだ‥‥なにビビってんだ」
自分に言い聞かせた。


この計画を考えた時、『証拠隠滅』なんて どうでもよかった。

そもそも勤務中に実行しようと思った時点で『証拠隠滅』は不可能だし、よほどのバカじゃない限り 制服で しかも ご丁寧に名札を付けた人間が白昼堂々と犯行を実行しないだろう。


目的は ただ一つ『水口 龍太』に殺される。

その事実を、その瞬間を 喜美子に理解させたかった。


目的は それだけだった。



つづく

No.22

警察に捕まるのも時間の問題だろう‥‥

明日だろうか? 明後日だろうか?‥‥少なくとも 2、3日内に‥‥僕は逮捕されるだろう。
きっと誰かが異変に気づき通報するだろう。


もうすぐ僕は逮捕されるだろう。




そう思っていた、この時までは‥‥‥



つづく

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