【命の日数】

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2009/09/29 22:13(更新日時)

神様は


ごくたまに


【耐え難い試練】


を与える…………



ばぁちゃんは、


「【その人に耐えられる試練】しか、与えないから
大丈夫」


そう言っていたけれど…








私には…………


【命の日数】


が見える…………。









※ 完全フィクションです。 
不快に思われる表現などがありましたら申し訳ありません。

ご感想スレを、
別に立てさせて頂きますので、何かありましたら
そちらの方にお願いいたします。

No.1162215 (スレ作成日時)

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No.1

「優~」

そう呼ばれ、トテトテと
おぼつかない足取りで

母《千里》の元へ歩いて行く女の子。

まだ1歳。


急ぎすぎたのか
途中で転び


「あらあら、
優はせっかちねぇ~」


と、
千里の横に
座っているのが
ばぁちゃん《志乃》

ばぁちゃんと言っても、
まだ42歳。

志乃が、20歳で
千里を産み、

千里が、22歳で
優を産んだ。


志乃、千里、優の
3人で暮らしている。


優の父は、
優が生まれてすぐに
亡くなった。


優は、良く食べ、
良く寝る子で
すくすくと成長した。

千里は


「どうかこのまま…
普通の子と同じように
育ってくれますように…」

と、心から願った。

No.2

あっという間に
優は、3歳になり
好奇心旺盛で、頭も良く

教えるとすぐに
文字と数字を覚えた。


それからは
外を散歩していると
あちこちの電柱や
看板などを指差し

「あれが3!」

「と…う………ふ!」

等と読みながら歩くのが
習慣になっていた。


その日もいつものように
千里と優は、

文字と数字を読みながら
歩いていた。


すると突然、優が
通りすがりの男性を
指差し、


「ママ~、あの人は7だね!」


と言った。


千里はハッとなり


「人の事は指差しちゃダメでしょっ!」


そう言いながら、男性に


「すみません」


と謝り、
優の腕をひっぱりながら
そそくさとその場を去った。


「ママ~、痛いよ~」


と、優が千里の顔を見ると
千里の顔は、
今まで見た事がないくらい
険しく、そして青ざめていた………。

No.3

家に着き、千里は


「優、
手洗いうがいをして。
あっちにおやつがあるから
いい子に食べててね。

ママは、ばぁちゃんと

大事な話があるから。」


千里は、できるだけ
平静を装いながら言った。

優は


「はぁい!」


と言って洗面所へ言った。

「お母さん、お母さん!」

と慌てて
千里は志乃を呼んだ。


志乃は
奥の部屋から出てきて


「どうしたの?
そんなに慌てて……」


と言うと


千里は


「優が……優の目……」


と、泣き崩れた。


千里の姿を見て、
一瞬でわかった志乃は


「優も……見えるんだね」

と言い


千里は泣きながら頷いた。

No.4

志乃の前の代から

《女》

だけが、なぜだか

【人の命の日数】

が見えてしまう。


身内以外の人の頭の上に…
沢山の数字が並んでいる。

残りの日数が【1ヶ月】を
きった人を見ると、

その人が死ぬ場所と
死ぬ時間と
死に方が………
頭の中に入ってくる。


事故や、自殺ならば
救うことも出来たけれど、いきなり


「あなたもうすぐ
死にますよ。」


などど、知らない人に
言うわけにもいかず、
救うと言っても
簡単には出来なかった。


病気の場合も何も出来なかった……。

志乃は、そのせいで
とても辛い思いをしてきた。

志乃の母は、精神を
病んでしまい、
志乃が若い頃に
亡くなった。


志乃も、
千里にも見える事を知り

今の千里のように
泣き崩れた事もあった。


でも、志乃は小さい千里に
少しずつ

《普通とは違う》

と言う事を教えた。

No.5

何度も何度も見えるだけで
救えなかった人たちを見てきた。


志乃の母のように

おかしくなって
しまうのではないか?

と思う時もあった。


でも、志乃は千里に


「これは、神様の試練だ」

と、言い二人で一緒に
励まし合いながら
生きてきた。




千里は、ある時
病気で命が短いと
わかっている

男性《優也》と
知り合い、好きになり


「私、優也と結婚する」


と志乃に言った。

No.6

命が短い優也との結婚…

もちろん志乃は反対したが、千里に


「優也の命が短いのが
わかっているから?

私は、残り少なくても
優也と結婚したい。

お母さんは…
優也の命が
長くても反対した?」


そう聞かれて


「優也君はいい青年だと思う。 だから賛成してあげたい。

でも…あんたが後で辛い
思いをするのを
見たくないんだよ…」


と志乃が言うと


「私は優也が好き。
先が短いからなんて理由で
別れるのは嫌!

残りの時間が見える分、
覚悟だって出来る。

最期だって一緒にいられる。

まだ1年以上あるんだから、
原因が事故だったら
救えるかもしれない。


私…初めてこの目があって良かったと思えたの。

いくら短くたって、
私、優也と過ごせたら
幸せなの。

短い時間だったとしても
一生分幸せになるから……

それでも、目のせいで
反対するって言うなら

お母さんの目も
私の目もなくしてよ!

私を普通にしてよ!


お母さん!!」

と千里は泣いた……。


「本当にいいんだね?」


志乃は、もう一度だけ
千里に確認し、


「幸せになりなさいよ」


と、言った。

No.7

千里は

《言ってはいけない事を
言ってしまった》

と凄く後悔していた。



志乃は、自分と千里の為に
【目】

の事を自分なりにずっと
調べていた。


1ヶ月をきると
状況がわかる事も
千里は志乃から
教えてもらった。


30以下の数字に
なった場合
数字の変動はないが

それ以上の数字の時は
変動する場合がある事。


例えば

自ら命を
断ってしまう人の場合

以前会った時は
沢山の数字が
並んでいたのに
次に会った時は
減っている事が多かった


事故で命を
落とすことになる人を
前もって救っても

その代わりに
他の人が命を
落としてしまう事


だから救いたければ
事故が起きる場所に行き
事故が起きる瞬間に
助けなければいけない事


助かった人は
一旦数字が《0》
になってから
新しい数字が並ぶ事

など、志乃は自ら
辛い辛い経験をし
千里に教えた。


それを思い出し千里は

「ごめんなさい…
ごめんなさい……」

と泣き出した。


志乃は千里を抱きしめ

「私こそ………
こんな辛い思いをさせて
ごめんね」

と二人で泣いた。

No.8

泣きながら
志乃は自分が若かった
頃の事を思い出していた


千里には父がいない
志乃は結婚をせず
千里を産んだ


結婚を考えた男性がいたが
目の事はどうしても
言えなかった

誰かを救えなかったり
友人の日数が減っていたり
すると辛くて苦しくて
どうしようもなかった。

志乃の彼は
そんな志乃を見て
心配した。

志乃はごまかしていたが
それを言えない事で
少しずつ彼との関係が
悪くなり


別れた後で
千里を妊娠している事がわかり一人で産んだのだった





志乃は

「あんたは私より
強い子だから大丈夫だね」

そう言って
千里の頭を撫でた

No.9

3ヶ月後に千里と優也は
結婚した


まだ若かった事や
優也には両親が
いなかった事もあり

志乃と3人で暮らす
事にした


入籍をした翌日
千里と志乃に
異変が起きた……


朝から千里は
優也と志乃を交互に
キョロキョロと見ていた


優也が


「なに? どうかした?」

と聞いても


「あ…ううん
なんでもない」


とごまかした



一方、志乃は

千里をじーっと見つめていた


優也は


「二人とも今日変だよ
大丈夫?
俺、仕事行ってくるね」


と言い出ていった


その瞬間

「お母さん!」

「千里!」


と同時に言った


千里は


「優也の数字が見えない」

と言い

志乃は


「あんたの数字が見える」

と言った……………

No.10

《入籍》をした事で
変わったようだった


近い身内の数字は
見えないから


千里は今まで志乃の
数字が見えなかったし

志乃も同じく千里の
数字は見えなかった


でも千里と優也が
夫婦になった事で


千里は、優也の数字が
見えなくなるのと同時に
志乃の数字が見えるように

志乃は、千里の数字が
見えるようになったのだ


「お母さんは
優也の数字……見えてるよね?」

千里が不安そうに聞く


志乃は


「大丈夫。見えてるよ」


と言うと
千里は安心した


「私は結婚しなかったから
わからなかったけど
こういう風になるのね…」

と志乃は言った
そして


「私の数字……
言わないでね
少なくなっても
助けなくていいからね」


と言った


千里は

『まだまだ大丈夫』

と思いながら
何も言わなかった

No.11

千里は志乃に

「優也の状況がわかったらきちんと教えて」

と頼んだ




それからの千里は

優也の数字が見えなくなった事で

余計な事を考えずに済んだ

幸せな時間の為に
毎日せっせと優也の世話を
していた。




でも、別れの時は
日々確実に近づいている


千里は
早く子供を欲しがった


志乃が何かを言う前に
千里は


「お母さんの言いたい事は
わかってるつもり。

私は優也の子供が欲しいの

絶対に後悔なんかしないし
一人でも育てて見せるから」


そう言った。


志乃は
もう何も言わなかった



3ヶ月たったある日…


またもや
突然千里の【目】
に異変が起きた……

No.12

その日の朝も
いつもと同じように

千里が朝食を作り
出来ると、志乃と優也を
起こした


志乃がリビングに行くと

優也は
コーヒーを飲みながら


「お義母さん、おはよ」


と言った

志乃は優也の数字が
急激に減っていない事を
確認し


「おはよう、優也」


そう言って志乃は
千里のいる台所へ行き


「千里おはよう
今日はなぁに?」


と言ってお鍋の中を
覗き込んだ


千里は振り向きながら


「おはよ!
今日はね…………」


と言い掛けて止まった


志乃の顔を…
正確に言えば
頭の上を見ながら

瞬きしたり
目を擦ったりして
焦っていた

志乃は


「どうしたの?
まさか……」


と言った

志乃は自分の数字が
いつもと違うのだと
すぐにわかった


『私……
もうすぐ死ぬの……?』


そう思っていると


「違うの!
そうじゃないの!

ち…ちょっと私
新聞取ってくる!!」


そう言って千里は
慌てて外に行った


数分後に戻ってきた
千里の手には
新聞がなく


ただ茫然と立っていた…

No.13

優也に


「千里? 千里!
おーい大丈夫か?新聞は?」


と言われ
我に返った千里


「あ……あぁ
新聞…あれ? あはは…
ごめん、取ってくる!」


と言って
パタパタとまた外へ行った


『何があったの?!』


そう聞きたくても
優也の前で聞いても
仕方がない


焦る気持ちを押さえながら
優也が出かけるまで待った

優也は食事し終わり
新聞を取ってきた千里に


「具合悪いんじゃない?
大丈夫なのか?」


心配そうに言った

千里は


「ちょっと寝不足かな
ボーッとしちゃって…
全然大丈夫!気をつけてね」


と言い、優也を玄関まで
見送った

No.14

優也が出て行った事を
確認し、すぐさま志乃は


「どうしたの?!
何があったの!」


と千里に聞いた


千里は
嬉しいような
困ったような顔をしながら


「見えないの………
朝お母さんの顔を見た時
お母さんの数字が
見えなかった。


だから新聞を取りに行って
外を歩いてる人を見たの


そしたら他の人のも
見えなかった!


どうしちゃったの?私…」


と困惑していた


志乃は

『見えなくなった…?

何でかわからないけれど
見えなくなったなら
これからは普通に暮らせる
辛い思いをしなくて済む…』


そう思い


「理由なんて
どうでもいいじゃない!

見えなくなったんでしょ?
良かったじゃない!
これでやっと…………

やっと普通にくらせる。
辛い思いしなくて済む


あぁ…神様が試練を
終わらせてくれたんだよ。

良かった…本当に良かった…………」


そう言って涙をこぼした

No.15

千里は


「そうなのかな…
良かった…のかな……」


と言った


志乃は


「何言ってるの!
良いに決まってるじゃない
あんただって
この目のせいで

たくさん辛い思いを
してきたじゃない


小さい頃から
普通になりたいと
願っていたじゃないの!


その願いが叶ったんだよ」

笑顔でそう言って喜んだ。


千里は


「普通……
そうだよね?
私………普通に
なれるんだよね!」


そう…
素直に喜ぶことにした



「でもなんでだろう…?」

千里が志乃にそう言うと


「結婚して
優也君の数字が
見えなくなったのよね

って事は………

あ!あんたもしかして…」

と志乃が言った


「え…………? 
まさか……
だって今日辺り
生理きそうだもん」


と千里は言ったが志乃は


「わからないじゃないの!
ちょっと私
薬局行ってくる」


と言って
出て行ってしまった

No.16

30分後…志乃が

《妊娠検査薬》

を買ってきた


「ほら、今日から
出来るタイプの物だから」

と言って渡され


千里は
恐る恐るトイレに行き
検査薬を使った







1分後……………


結果


《陽性》



志乃は


「ほら!やっぱり!!
赤ちゃんが出来たんだよ

おめでとう!千里!!」


と志乃に言われたが
千里は
まだ半信半疑だった


『赤ちゃん欲しかったけど

ほんとに……?

ここに…赤ちゃんいるの?』


そう思い
お腹を触ってみるが

まだお腹はぺったんこ


でも


陽性が出た検査薬を
もう一度見た千里は


『私、妊娠したんだ』


と喜びが込み上げてきた


すると志乃が


「とにかく
冷やさないようにして

来週辺りに病院行きなさい」

と言った




千里は
今すぐにでも優也に
言いたかったが


直接言って
びっくりさせたくて


優也から


「今から会社でるよ」


の連絡をひたすら待った

No.17

夕方になり

優也から連絡が入った


千里は
言ってしまいたい気持ちを
抑え


「気を付けて
早く帰ってきてね」


と言った







1時間後…

優也は帰宅した


帰ってくるまでの時間


千里は
優也にどう報告するか
考えていた


『私……
赤ちゃんが出来たの』

『優也!パパになるんだよ』

色々考えた


でも
いざ優也を目の前にした
千里は



何て言ったらいいか
わからなくなってしまった

No.18

「優也…あのね
私…………」


そうもじもじしていると


「ん?どうした?
顔が赤いぞ?

熱があるんじゃないか?」

と優也は
千里のおでこに手を当てた


「熱はないなぁ…
もしかして
子供でも出来たか?」


そう優也は言った


千里はびっくりして


「えっ!なんでわかっ…」


と言い掛けると

優也の方が千里よりも
びっくりした顔をして


「まじ?
まじでできたのか?!」


そう言い、千里は


「もうっ!
何て言うか沢山
考えてたのにっ……

そう、赤ちゃん出来たの」

と言うと


「やったー!
俺がパパで千里がママか!
二人で精一杯可愛がろうな!
あ、お義母さんと
三人で…だな」

と喜んだ



気が早く


「男かなぁ?女かなぁ?
可愛いだろうなぁ~」


そう手放しで喜ぶ
優也を見て………

『赤ちゃんが産まれるまで
あと約8ヶ月…
優也は………
このままだと
赤ちゃんが産まれてから
すぐに…』 

喜びとは裏腹に
切なくなった


『事故なら…救える
絶対に救ってみせる!!

だからお願い……
病気じゃありませんように……』


千里は
そう願った

No.19

2週間後千里は

緊張しながら
病院へ行った


名前を呼ばれ
ドキドキしながら
診察室へ入り

産まれて初めて
診察台に乗った


『恥ずかしい』


そう思いながら
エコーの画面を見る


先生が


「妊娠してますねー

見えますか?
この丸いのが
赤ちゃんの袋ですよ
その中に輪があるでしょ?
それが赤ちゃんの
栄養の素なのよ

そしてこれ…

チカチカしてるの見える?」


と聞かれ千里は


「はい。見えます」


そう返事をすると


「チカチカしてるのは
赤ちゃんの心臓よ」


と先生は言った


大きさはまだ
1センチにも満たない
私と優也の赤ちゃん…


顔も体も
まだわからないのに


『かわいい………
本当に赤ちゃんいるんだ』


改めて千里はそう思った


家に帰り
先生がくれた
エコーの写真を
アルバムに入れた…


夜には優也にも見せ


「産まれてからで
いいのに……」


そう言われながら
エコー写真を持つ
優也の写真も撮った


そんな千里と優也を
志乃も幸せな気持ちで
見ていた

No.20

妊娠をきちんと
意識したからか

翌週から
千里のつわりが始まった


お腹が空くと
気持ち悪いし

食べても吐いてしまう…


想像していた以上に
つわりと言うのは
きついものだった


体重もあっという間に
3キロ減り
優也も心配した


千里は


「つわりは赤ちゃんが
元気な証拠だって
先生が言ってた

赤ちゃんの為だもん
大丈夫! 頑張る!!」


と言った


優也は
そんな千里を見て


「なんだか
もうママだなぁ…」


としみじみ言った








妊娠経過は順調で
4ヶ月の終わり頃から
徐々につわりもおさまり

お腹もふっくらしてきた


千里はお腹の子が
いとおしくて
たまらなかったが


この頃になると

《性別》

が気になり始めた


『男の子でありますように…………』


そう願った


もし…女の子が産まれて
志乃や千里と同じ
【目】
を持っていたら………


そう思ったからだ

No.21

6ヵ月に入ったある日

お腹の中で
プクッ ポコッ
とシャボン玉が
割れるような
感覚がした


『なんだろうこれ…』


そう思い志乃に
説明をすると


「胎動じゃない?」


と言われた


『これが…胎動』

感動だった


今まで病院に行かないと
赤ちゃんが元気か
わからずに

毎回楽しみでもあり
不安だった


まだ横になり
じっとしてないと
わからなかったけれど


毎日ポコッポコッと
胎動を感じる事で


『今日も元気だ』


と安心する事が出来た


優也はまだ
お腹に手を当てても
わからず


「早く大きくなれよー」


と毎日お腹に
話し掛けていた


その頃になると
もう女の子でも
男の子でも
どちらでもいいと

思うようになっていた





でも…………8ヶ月目の
健診の時…


先生に


「女の子かなぁ…?」


そう言われた…

No.22

現実的に女の子と
言われてからは


『普通の目で
ありますように』


と願わない日はなかった


志乃にも相談した


志乃は


「もし…私達と
同じ目でも、三人で
励まし合いながら
頑張ろう!

二人より三人の方が
心強いわよ!大丈夫

赤ちゃんには
あんたがついてる

あんたには私がついてる」


そう言って励ましてくれた


とても心強かった
有り難かった



そんな矢先…………


会社で優也が倒れたとの
電話が入る………

No.23

志乃と千里は
慌てて病院へ行った


病院の先生は


「持病とは関係ない」

「詳しく検査をしないと
何とも言えないので
1週間、検査入院
してください」


と言った




説明を受け、志乃が


「私は荷物を取りに
一度家に帰るから

あんたは優也君に
ついていてあげなさい」


と言い帰って行った


千里が病室に行くと
優也は眠っていた


『優也はもしかして
このまま……』


そんな最悪の事を
考えてしまい
涙がこぼれた……


すると優也が目を覚まし


「あ…千里
ここは……?
あれ? 俺会社で……」


と言った



千里は


「優也
会社で倒れたんだよ

きっと疲れてたんだよ…

一応検査するらしいけど
すぐ退院できるよ」


と言った


優也は


「検査って…俺悪いの?
千里泣いてるし」


と言うので


「まさか!
一応検査するだけだよ

赤ちゃんがいると
涙もろくなるんだよ」


とごまかした

No.24

優也は


「そっか。でも千里…

検査の結果が出たら
良くても悪くても

正直に教えるって
約束してくれ


俺は持病もあるし
何度も死を考えた
事があるんだ


これから赤ん坊も産まれる
もし…考えたくないけど
残された時間が短いなら
短いなりに
やれる事をやっておきたい
だから頼む!
約束してくれ!」



そう必死な顔をして言った


「優也は
心配性なんだから!

わかりました!
きちんと教えるよ
約束ね!!」



と………
泣くのを必死に堪えて
千里は言った


優也は


「赤ちゃんが出来ると
心配性になるんだよ」


と笑った


その笑顔を千里は
見ていられなかった…


『言える訳ない…
あと数ヶ月も
生きられないなんて…

私には言えないっっ』


そう思った………

No.25

家に帰り志乃に


「優也……
残り何日だっけ………」


と聞いた


入籍するまでは
見えていたから
なんとなくは
わかっていたけれど…


すると志乃は静かに


「あと3ヶ月くらい…

なんで急に聞いてきたの?」


そう志乃に言われ
千里は
優也に言われた言葉を
言った


志乃は


「どうするの?」


と聞いた



千里は


「そんなのっ……
言えるわけないじゃない!
優也の命が……
あと3ヶ月しか
ないなんて!!」


と言うと志乃は


「私は…
最期くらい
普通の人みたいに
死にたいから……

あんたに知らせないで
って言ったけど

優也君の気持ちも
なんとなくわかる
気がする………

あんたなら…どう?」


と千里に聞いた

No.26

「私…?」


そう言って考えてみた



もしも………


残りの命が
3ヶ月だったら……


そういう病気に
なってしまったとしたら…


千里は


『知りたい』


そう思った



ショックだと思う
自棄になるかもしれない


知らされた後で


『知りたくなかった』


そう思ってしまう時期も
あるだろう


それでも産まれてくる
子供の為

残せるものは残したい



出来るだけの事をしたい



そう思った事を
志乃に言った



「まだ時間はある
ゆっくり考えなさい」


と志乃は言った




千里は考え悩んだ末


検査の結果が出たら

優也との約束通り
良くても悪くても
正直に言おうと決めた



それと同時に

《目》

の事も
言ってしまおうか……?
そう考えていた。

No.27

志乃は


「そこまで
言わなくたって…」


と言ったけれど


千里は


「私だったら…
どうせ分かっているのなら
その日が…時間が
分かっている方がいい」


と言い、志乃は


「本当に
わかっていた方が
いいかい?

近づくにつれて
物凄い恐怖だと
私は思うよ

だから私は反対よ」


と言った


千里は悩み続けた……






毎日千里は
優也のお見舞いに行った

顔色も良く


『検査の結果が
悪いはずがない』


そう思うほど
優也は元気だった


優也も


「早く家に帰りたい」


そう言っていた


千里は


「もうすぐだよ。
検査が終われば
帰れるじゃない」


そう言った


優也は心の中で


『結果が良ければ……な』

そう思っていた



1週間後………


志乃と千里だけが
先生に呼ばれた


いやな予感がした……

No.28

先生と看護師さんと
千里と志乃


静かな時間が
不安を倍増させる


千里は我慢できずに


「あの……」


そう言おうとした時
先生が口を開いた


「大変申し上げ
にくいのですが…」


そう言われた瞬間
何も考えられなくなった


その言葉で充分


《良くない結果》


だと言うことが
わかったから……



志乃に


「大丈夫?」


そう言われて
我に返った


先生は


「優也さんの病気は
思っていた以上に
進行が早く

もう…完治する見込みは
ありません

手術も難しい場所です」


と淡々と言った


千里は


『事故だったら
救えると思ったのに…

病気じゃ
何も出来ないじゃない!』

『嫌だ……嫌だ!!
優也がいなくなるなんて
そんなの嫌ぁ!!』


もう何が何だか
わからなかった


続けて先生は…


「優也さんは…
もって1ヶ月でしょう」


と言った

No.29

先生はその後


「優也さんに……
告知しますか?
それともこのまま………」

と言った


千里は


「少し…
考えさせて下さい」


と言った


検査結果は
偽りなく教えると
優也と約束したのに…

優也に面と向かって
言える勇気など
今の千里にはなかった


先生は


「わかりました

では、優也さんには
少し良くないところが
見つかったので
もう少し入院……
と説明しておきます


よく
お考えになってください」


と言った





千里は廊下に出るなり
泣き崩れた


優也の残りの命が
長くない事は
出会った頃から
わかっていた…


それでも
救える可能性に
賭けていた


その可能性が0になり
悔しさと悲しさと
虚しさで

しばらくの間
千里は泣き続けた


黙って隣にいてくれた
志乃に


「ほら、いつまでも
ここにいたら
優也君が変に思うわよ

顔洗ってきなさい
そんな顔のまま
会えないでしょ?」


と言った


『優也の前では
笑顔でいなくては…』


そう思い千里は
トイレに向かった…

No.30

鏡を見て千里は


『酷い顔……』


そう思った


目は真っ赤に腫れているし
鼻も赤いし
化粧はほとんど落ちていた

一度家に帰りたかったが
いつも来る時間に
来ないのも優也が
変に思うだろう……


顔を洗い化粧をし直して
少し買い物をして
千里は志乃と一緒に
優也の病室へ行った


ガラガラ………


ドアを開けると
優也は
もう先生からの話を
聞き終わった後のようで


「千里!
今日は少し遅かったな

先生に会ったか?
検査結果聞いちゃったよ

何かちょっと
ひっかかっちゃってさ…
もう少し入院だってさ」


と笑顔ではあったが
寂しそうに言った


千里は


「あ、さっき会って
聞いたよ。だからほら…
優也へこんでると思って
これ!買ってきたよ~」


と言って千里は
優也の大好物を見せた


優也は

「お!サンキュー
それ食って
早く退院できるように
頑張るよ!」


とさっきよりも明るい
笑顔で言った


千里は
家に帰宅してから
優也の前で我慢していた
糸が途切れ
また泣いた

泣いても泣いても
涙が枯れる事はなく

泣きながら眠りについた

No.31

翌日も、その翌日も
千里の答えは
出ないまま
時間だけが過ぎた


『こうしている間にも
優也の残りの時間は
確実に減っている…』


そうわかっていながらも
優也の顔を見てしまうと

どうしても言えなかった
毎日毎日
泣いて過ごしていた


志乃は、そんな千里を
見守るしかなく
それもまた…辛かった


でもそんな辛さを抑え
志乃は、千里に


「あんたいい加減に
しなさい!

だから最初に
反対したじゃないの

その時に
自分が言った言葉を
思い出しなさい!

あんたこのままで
本当に一生分
幸せになれるの?

あと3ヶ月も
しないうちに
赤ちゃんも産まれるのよ」


そう言った


千里は、ハッとして


『そうだった…
あの時、私…そう言って
お母さんを説得
したんだった…

今のまま
何も出来ないままじゃ
幸せになんてなれない

産まれてくる
赤ちゃんにも……
優也は何も残せない…』




『言わなきゃ駄目だ』


そう思った



千里は、涙を拭いて
志乃に


「お母さん!ありがとう
行ってくる」


そう言って
病室に向かった

No.32

千里は
病院に着くと、まず
担当の先生の所へ行った


そして


「今から優也に
本当の事を知らせようと
思ってます

それで…………

優也を退院させて
頂けないでしょうか?

お願いします。

残り少ない時間を
病院ではなく
家で過ごしたいんです

家族の時間を
出来るだけ沢山
持ちたいんです。

お願いします!」


と頭を下げた


すると先生は
暫く考え


「わかりました

その代わり
2週間毎に必ず
受診して下さい

それと…
具合が悪くなったら
すぐに来て下さいね」


と言った


千里は


「ありがとうございます」


と言って部屋を出た

No.33

優也の病室に行くまでの
足取りは重く

覚悟を決めたはずなのに
いざとなると怖くなった



その時

お腹がボコッと動いた
今までは、ポコンポコンと
蹴ったりするだけだった
のに

その時は
激しく蹴ったりパンチ
しているかのようだった


千里は

『そうだね…
あなたもいる。
あなたの為にも
勇気を出さなきゃ!』


赤ちゃんに
背中を押され
病室に入った



「あれ…………。
千里どうしたの?
こんな時間に……
何か忘れ物?」


と優也は言った

笑顔だったが
いつもの優也とは
どこか違って見えた



千里は


「ううん…。」


としか言わなかった



すると優也に


「俺さぁ…
いつになったら
退院できるのかなぁ

先生に聞いても
ハッキリ教えて
くれないんだよな…

なぁ千里………
俺やっぱり……」


そう言われ


千里は
自分の手をぎゅっと握り
真っすぐに優也を見て


「優也…あのね……

優也の病気
治らないんだって」


そう言った…

No.34

優也は、小さい声で


「やっぱり…そうか」


と言った


そして


「俺…あとどれくらい
生きられるって?」


と聞いた


千里が


「先生は………
1ヶ月って…」


と言うと


「え…?1ヶ月?
たったそれだけしか…
マジかよ………」


と茫然としていた


千里は


「でもねっ、先生に
退院の許可を
もらってきたの

家に帰って
おいしいもの食べて
楽しい事沢山してたら

きっともっと長くなるよ」

と言った



優也は


「いい加減な事
言わないでくれよ!!

長くなるったって
1週間や2週間くらい
死ぬのが遅くなったって
何もできねーじゃねーか!

何でなんだよ……
何で俺が………

1ヶ月じゃ赤ん坊の
顔も見れないのかよ…」


と言った


千里は…


「大丈夫だよ
赤ちゃんの顔は
見れるから」


と言った

優也が


「だから、気休めは…」


そう言い掛けた時 
千里は


「私にはわかるの!

優也は赤ちゃんが
産まれて来る前には
絶対に
死んだりしない!!」


と言ってしまった


優也は


「どう言う事だよ…」


と言った

No.35

千里は、言った瞬間


『しまった』


と思った


志乃の言う通り
確実な死ぬ日が
わかってしまったら
恐怖だと思ったから…

《目》の事は
言わないつもりだった


『どうしよう…』


と思い
千里が黙っていると


「千里!
わかるって
どう言う事なんだよ?!
教えてくれよ…」

と優也は言ってきた


『もう隠せない』


そう思った千里が


「信じてもらえないかも
しれないけど……

私ね
人の寿命がわかるの」


と言うと


「そんな……まさか
嘘だろ?
俺を少しでも
元気づけるために
言ってるんだろ?」


と言った


「嘘じゃない。本当なの。
今までずっと
隠しててごめん」 


そう千里が言うと


「じゃぁ……俺は
本当は後どれくらい
生きられるの?」


と聞かれ、千里は


「3ヶ月くらい」


と言った


優也はまだ
信じられない様子だった

No.36

それから千里は
《目》の事を詳しく話した

一通り聞き終えた優也は


「………って事は
俺の命が長くないって事
最初から知ってて
結婚したのか?」


優也は、そう言った


千里は


「うん…黙っててごめん」


と謝った


優也は


「そっか……

まだ信じられないけど
千里が言うんだから
本当なんだろうな


悪い……
今日はもう帰ってくれ」


と言った


千里は
そばを離れたくなかった

命の宣告を
してしまったから…
優也の事が心配だった



「帰ってくれって
言ってるだろ!!

……大丈夫だよ
どうせ何もしなくたって
もうすぐ死ぬんだから
自分から死のうなんて
思わねぇよ

一人になりたいんだ
頼む………」


そう言われ、千里は


「わかった…
じゃぁまた…明日…ね」


と言って
無言のまま下を向いている
優也の病室を後にした…

No.37

どうやって家に帰ったか
よくわからなかった


気が付いたら玄関の前に
立っていた…


中に入ると
すぐに志乃が
部屋から出てきた


志乃の顔を見て
千里は


「やっぱり
言わない方が
良かったのかな……」


と言った


志乃は


「すぐに受け入れられる
訳がないじゃない。

でもきっと大丈夫
優也君を信じなさい

暫くそっとしておいて
あげなさい」


と言った






翌日病院に行くと
先生から


「来週退院できるよう
手続きをしましたから」


と言われた

お礼を言い病室に入ると
優也は
ベッドに座り
ずっと外を見ていた


千里が


「優也おはよ」


と言っても


「あぁ」


としか言わない


「果物でも食べる?」


と聞いても


「いらない…」


とだけ


10分もしないうちに


「もういいよ」


そう言われてしまい

洗濯物を袋に詰め
帰った……


そんな日が1週間続き
退院の前日………


やっと優也が
口を開いた

No.38

その日も千里は
朝から病院に行った


『明日退院なのに
どうしよう……』


優也にどう接したら良いか
わからなくなっていた


いつものように
そっとドアを開けると


「千里おはよう!」


と優也が言ってきた


昨日までとの変わりように
戸惑いながらも


「おはよう」


と言って座った




「ごめんな……
自分から
結果が悪くても教えろ
って言っておいて
八つ当たりしちゃって…」

と優也は言った


続けて


「もう大丈夫だから

悔しいし悲しいけど
仕方ないと思うようにした
やっと少しだけ
吹っ切れたよ

俺に言うの…
辛かっただろ?
言ってくれてありがとな


《目》の事も…
ずっと辛い思い
してきたんだな


でも千里もバカだなぁ
どうせ寿命が見えるなら

すっごく長生きする奴と
結婚すれば良かったのに」

と笑って言った


千里は


「だって…
優也の事が好きだから…

優也だから結婚したいと
思ったんだもん……」


千里の目から
ポロポロと涙が溢れる


優也は


「泣くなよ…
俺と結婚してくれて
ありがとな」


そう言って千里を
抱き締めた

No.39

そして優也は

「退院したら
沢山思い出作ろうな」


と言った






翌日…予定通り
退院し、家に帰ると


志乃が
優也の好物ばかりを
作って待っていてくれた


優也は志乃に


「心配かけて
すみませんでした!」


と言い、志乃は


「何言ってるの!
私の本当の息子のように
思ってるんだから

心配くらい
させてちょうだい

その笑顔がまた見れた
だけで充分よ」


と言った


久しぶりに
三人で楽しく食事をした



夜、手をつなぎ
ベッドに入ると優也は


「千里…
俺、会社辞めても
いいかなぁ?

千里には悪いけど
俺…千里とお義母さんと
……産まれてくる赤ん坊と
残りの時間を過ごしたい」


と言った


千里は

「もちろん!
ただ家にいたら大変だよ~
お母さん人使い荒いから」


と言って二人で笑った




千里は
優也の手のぬくもりを
感じながら
久しぶりに
深い眠りについた……

No.40

優也は、翌日

会社に退職願を出しに
行った


「引継ぎとかが
何日かあるかも
しれないけど

事情を説明して
早めに辞めさせて
もらえるようにするから」


と言っていた


夕方、優也から


「今からちょっと
寄り道して帰るから」


と連絡があった




帰宅した優也の手には
紙袋がぶらさがっていた



「赤ん坊が産まれる直前に
買おうと思ってた
んだけどさっ」


と言って、袋の中から
ビデオカメラを取り出した

「仕事の方は明日迄で
いいって言われたし

明後日から取りまくるぞ」


と優也は張り切った


千里と志乃は

優也にバレないように
涙を拭いた………

No.41

優也の仕事が最後の日

千里は


「帰りに会社の近くまで
行くから
たまには夕飯外で食べよっ

赤ちゃん産まれたら
忙しくなるしね」


と言った


もうお腹もだいぶ大きく
お洒落と言っても
難しかった


千里は


「ヒールもはけないしな
ま、こんなもんでしょっ」

と、今出来る最高の
お洒落をして出かけた


ちょっとお洒落な
イタリアンレストラン
へ行き
デートを楽しんだ


それからは
二人でカメラを持って
よく出かけた


お互いに撮り合ったり
家では志乃が
撮ってくれた


1ヶ月もすると
千里は妊娠9ヵ月に入り
お腹も張りやすく
なかなか動くのも
しんどくなった。


その頃から優也は
私が寝た後に

ゴソゴソと一人で
他の部屋へ行くように
なった


千里が


「優也?どうしたの?」


と聞いても


「千里は寝てろよ
ちょっと喉が
渇いちゃって……」


などと言い部屋を出て行く


ある日の夜中
お腹を赤ちゃんに蹴られて
目が覚めると隣に優也が
いなかった


そぉーっと
明かりが漏れてる
部屋へ行ってみると…


自分にカメラを向けて
座って話していた…

No.42

優也に見つからないように
こっそり覗く千里


するとかすかに
優也の声が聞こえてきた


「………してるか?
ママの言う事
ちゃんと聞いてるか?

もう『わんわん』
とか言えるか?

って言ってもまだ2歳じゃ
俺の言ってる事が
わからないか(笑)

とにかく………
ママとおばぁちゃんの
言う事をよく聞いて…
いっぱい遊べよ!
《優》…………」



優也は立ち上がり
ビデオを止める


千里は慌てて
音を立てないように
部屋に戻った


《優》………


退院してすぐ
赤ちゃんの名前を考えた


千里は


「女の子って
言われてるけど……

たまに産まれてきたら
男の子って事もあるみたい

目の事があるから
出来たら男の子がいい」


と話をした


優也は


「だったらどっちでもいい
名前にしようぜ!」


と言った


千里は


「優也の一文字とって
《優》じゃダメ?」


と聞くと


「優か…うん!
男でも女でもかわいいし
いいんじゃない?

でも……いいのか?
俺だけで(笑)」


と笑った


そうして赤ちゃんの名前は
《優》

に決まった

No.43

優也は、翌日も

産まれてくる
優へ……
メッセージを残していた


千里は、
起きていたけれど
寝たふりをした


そして遠くから

優に話し掛けている
優也を見ていた


「優!
3歳の誕生日おめでとう!
もうすぐ幼稚園だな
公園で友達はできたか?
仲良く遊べてるか?

お友達は大事にするんだぞ

ママとおばぁちゃんは
元気か?

好き嫌いしてないか?

パパは優くらいの時
ピーマンが嫌いだったなぁ
無理矢理食べさせられたよ

でもそのおかげで
今は大好きだよ

優も嫌いな物でも
ママの言う事聞いて
ちゃんと食べろよ!

じゃぁまたな!優!」


優也は立ち上がった


千里は
また音を立てないように
部屋に帰る



優也は、毎晩毎晩
繰り返した


千里は、なんとなく
見てはいけない気がして
次の日から
覗くのをやめた……

No.44

あっという間に
退院してから2ヶ月が過ぎ
千里は
もういつ陣痛がきても
おかしくない時期だった


ある日の昼間
いつものように
千里と優也は
ビデオ片手に
散歩をしていた


すると千里が


「あれ……?
なんかお腹痛い……」


と言い出した


優也は


「産まれるのかっ?」


と慌てた


千里は


「初産だからまだまだ。
陣痛かどうかも
わかんないし」


と言って
とりあえず急いで
家に帰った


時計を片手に
時間を計ってみると

痛みの間隔は15分

千里は優也に


「陣痛だと思うけど
まだ間隔が長いから
今のうちにシャワー
浴びてくるね!」


そう言ってシャワーを浴び
志乃がその間に
おにぎりを作ってくれて
みんなで食べた


千里の痛みは徐々に増し
お腹から腰へと移動した

間隔も10分を切り
三人で病院へ行った


千里は辛そうだったが


「大丈夫……
優也……もうちょっとで」
優に…会えるよっ」


と言いながら
痛みと必死に戦っていた

優也は、そんな千里の
腰をずっとさすっていた…

No.45

病院に着いてから
12時間ほどが経ち

陣痛の間隔が1分になった

千里は

陣痛の波が去ったと
ホッとしたのも束の間
また次の陣痛が来る…

といった感じで
もう口を開く事もせず
ただ痛みに耐えていた


優也は
そんな千里に
何もしてあげられない
自分が歯痒かったが


「頑張れよ!
もうちょっとだからな!」

と励ます事しか
出来なかった



「そろそろ分娩室へ」


と助産師さんが言い
千里は


「優也!待っててね!
もうひと踏張りして
元気な赤ちゃん
産んでくる!!」


そう言って
笑顔を見せた


優也は
出産の大変さを
目の当たりにし


志乃に


「千里って…女の人って…
凄いね…強いね!」


と言った


志乃は


「あなただって…
充分強いし凄いわよ

あなたがいるから…
千里も頑張れるのよ」


と言った



分娩室に入り30分後…
中から赤ちゃんの
泣き声が聞こえた


志乃と優也は


「産まれたっ?!」


と立ち上がった

さらに10分後
助産師さんが
タオルにくるまれた

《優》

を連れてきた

No.46

助産師さんは


「おめでとうございます
元気な女の子ですよ」


と言って
優也に抱っこさせてくれた

「優………
はじめまして、パパだよ

産まれてきてくれて
ありがとう……」


そう言いながら
優也の目には涙が
浮かんでいた


志乃も優也の姿を見て
嬉し涙をこぼした


暫くして千里が
病室へうつされた


千里は


「優の事見た?
優也にそっくり
だったでしょ?」


と疲れてはいるが
興奮して眠れない
ようだった


優也も


「抱っこしたよ!
ちっちゃいなぁ~

千里………
お疲れ様、よく頑張ったな
俺に《家族》を
作ってくれて
本当にありがとう

もう、思い残す事はないよ」


と言った



千里は


「な…何言ってるのよ
これから世話が大変
だよ!
頑張ってよね!パパ!」


と涙を浮かべながら
明るく振る舞った

No.47

5日後…

優と千里は退院した


毎日が大変だったが
充実していた


オムツ替えやお風呂など
優也は
率先してやってくれた


お風呂は
最初難しかったようで


「千里!すべる…
わっ!優!!暴れるな
ちょっと押さえてて!」


等とてんやわんやだったが
3日もすると、優は

優也の大きい手に
安心して身を任せ
気持ち良さそうに
していた


千里は、そんな光景を
ビデオに撮っていた


夜は、最初ベビーベッドで
寝かせていたが
抱っこでスヤスヤ
寝るくせに
ベッドに置くと
起きてしまい


三人でベッドに
寝てしまうこともあった


優也は


「寝返りしたら
つぶしちゃいそう」


と言って、優がいると
眠れなかった


でもすぐ隣で
静かな寝息を立てている
優を見ながら
幸せを感じていた




しかし2週間後……

千里は、志乃から


「見えたよ………」


と一言言われ、


優也の残りの命が

《あと30日》

になった事を知る……

No.48

優也に優のお風呂を頼み

千里は志乃に
詳しく聞いた


志乃は


「30日後の
午後11時36分

場所は病院だね……」


と言った


千里は


《その日》に
病院へ行くのか

何日も前に
病院へ行くのか

気になった



夜になり

千里は優也に


「後30日に……
なったよ」


と言った


病院で目の事を
話した時……


優也は


「日にちだけは
教えて欲しい

30になったら…
教えてくれ

時間と場所は……いいや!
時間までわかっちゃうと
怖くて
何も出来なそうだから…」

と言っていた



優也は


「そっか、サンキュー
そうだよな……
優が産まれて
もう2週間だもんな…

俺……優が産まれた日
もう思い残す事はないって
言っただろ?

あの時は本当に
そう思ったんだよ

けど…今は……
優の成長を
もっともっと見たい

もっと色んな事したいって
どんどん欲が
出てきちゃって…


俺………
死にたくない……

死にたくねぇよ…」


と初めて悔し涙を
こぼした………

No.49

千里は何も言えずに
ただ黙って優也に
抱きついた


優也は、暫くして
落ち着きを取り戻し


「ごめん……
俺、かっこわりいな

大丈夫

千里の目のおかげで
医者に1ヶ月って
言われていたのに
3ヶ月以上生きられる事が
わかって、やる気出たし

医者に言われただけ
だったら、俺
自棄になって

何も出来ないまま
死んでたかも……

千里…
本当にありがとう

あと30日あるけど
いつ話せなくなるかは
わからないから
今の内に言っておくな

千里……
優の事頼むな

良い奴見つかったら
俺の事は気にせず
再婚しろよ!


あと…頼みが一つあるんだ」


そう言って


たくさんのDVDを
持ってきた………


千里は、手にとって
見てみた…


1枚1枚に

《1歳の優へ》
《2歳の優へ》

とタイトルが書いてある


《20歳の優へ》


まであった


『まだある………』


そう思って他のを
手にしてみると


《23歳の千里へ》


と書いてあった……

No.50

一気に涙が溢れてきて
止まらなくなった


千里宛のも20枚

《42歳の千里へ》

まであった


「これ……」


と千里が言うと


「誕生日まで見るなよ!

それと、もし再婚したら
悪いけど処分してな」


と笑顔で優也は言った


千里は

「そんな悲しい事
言わないでよ!

再婚なんて
するわけないじゃない!

私は…死ぬまで
優也の奥さんで
いるんだから!!

優也の奥さんでいたいの!

私の旦那さんは…
優のパパは、優也しか
いないんだから……っ

だから………」


もっとたくさん
言いたい事はあった


でも、それ以上はもう
言葉にならなかった



優也は、千里を
力一杯抱きしめ


「わかった
わかったから……

ごめん
それから…ありがとう

あと30日…よろしくな」


と言った

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