あいたい
自分の眼に映ったものが信じられなくて、俺は眼を三回眼をこすった
それでも彼女はいた
俺が一番愛した女だ
最後に会ったのは何年前だろう
すぐには計算できなかった
そのぐらい、彼女は昔と変わっていないように見えた
14/04/21 17:34 追記
書き散らしてる感じで、伏線もグダグダ、誤字脱字も後から気が付く有様です。
まぁ登場人物の性格もいい加減な性格なので(笑)
あまり細かい所はお気になさらず、楽しんで読んでもらえると嬉しいですm(_ _)m
14/04/23 11:47 追記
感想スレ
http://mikle.jp/viewthread/2086854/
よろしくお願いします
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「え?」
彼女は眼をまるくして俺を見返した。
大きな二重の眼、茶色い瞳が綺麗だった。
「今度遊びに行こうよ」
俺が同じ言葉を繰り返すと、彼女はパチパチとまばたきをした。
上野の繁華街にあるチェーンのファミリーレストラン。俺はその隣のビルにあるパチンコ屋の社員だった。
そのレストランは俺が働くパチンコ屋の従業員の社員食堂みたいな店で、俺は毎日遅い昼飯をそのレストランで食べるのが日課だった。
その店でウェイトレスをしているのが彼女だった。
名前は杉田ゆきと言った。
彼女が制服の胸につけた名札のフルネームを見て知った。
初めて彼女に客として以外の言葉をかけたのは、その半年前だった。
「どこの高校なの?」
そう尋ねると、その時もゆきはやっぱり大きな眼を見開いて、一瞬言葉に詰まった。
「…大学生なんですけど」
ちょっと拗ねたような口調でゆきはそう答えた。
「ふーん、1年生?」
「…4年です」
「へー、ずっと高校生だと思ってたよ」
俺が隣にいた同僚に同意を求めるようにそう言うと、ゆきは
「もう今度卒業です」
と怒ったように言った。
幸い、それで嫌われることもなく、そのレストランの常連だった俺は、段々ゆきと話す回数も増えていった。あくまで客とウェイトレスの関係ではあったが。
ゆきは名前の通り色が白く、髪も眼も茶色で、全体的に色素の薄い感じのだった。派手な造りの顔ではなくて、童顔でとてもおとなしそうに見えるが、話してみると案外さっぱりした元気な子で、おっさんの客からセクハラみたいなからかいを受けても、笑って切り返せるような女の子だった。
俺はそんなゆきがお気に入りだった。
一言で言って、ゆきは俺の好みのタイプだったのだ
ゆきは毎日のようにアルバイトに来ていた。常連客の中には、ゆきをそのレストランの社員と思い込んでいる者もいるくらいだった。
俺は中退だったが、大学生だった時期もあるので、多少は大学生の生活も知ってはいた。たまに交わす会話の中から、ゆきは就職の内定がとれたこと、単位もほとんど取っていて卒業までは大学が暇なことが分かっていた。
9月のある平日の午後、遅い昼食を終えた俺は、レジを打ちに来てくれたゆきに「今度遊びに行こうよ」と誘いの言葉を投げてみたのだ。
「あのー、私、彼氏いるんですけど」
ゆきは声を潜めるようにして俺に言った。
「うん、知ってるよ」
俺は軽い調子でそう言った。
俺はゆきの彼氏を見たことがあった。アルバイト前にデートでもしていたのか、彼氏らしい男がレストランの前で手を振って別れるのを何回か見掛けていた。
ちゃらちゃらした雰囲気だったが、顔はよく覚えていない。ゆきばかり見ていたから。
「へっ?」
ゆきはまた眼を見開いて俺を見返した。
「別に遊びに行くくらい、いいじゃん」
「でも」
「電話して」
俺はレジの横にあったメモに携帯の番号を書いて、ゆきに握らせた。
俺はゆきが何か言う前に、さっさと店から出て行った。
ゆきから電話がかかってくるかどうかなんて、自信はなかった。
あわよくばデートしてやろう、と思っていただけだ。
彼氏からゆきを奪ってやろうとまでは考えていなかった。ただ、アルバイト中以外のゆきが見てみたかった。
次の日の夜、ゆきは電話をかけてきた。
「あのー、杉田ですけど」
最初にそんな風に言ったと思う。
15分くらい話して、結局俺は次の休みに一緒に映画を観に行く約束を取り付けた。
案外簡単にデートの約束ができて、俺としてはラッキー、というところだった。
デートの日、ゆきとは日比谷で待ち合わせた。
地下鉄の駅の改札口に行くと、ゆきはストライプのブラウスに薄い水色のショートパンツを合わせた服装が良く似合っていた。
「制服しか見たことないから、なんか良いね。可愛いよ」
俺がストレートにほめると、ゆきは真っ赤になってしまった。
「あの、私、ほめられるの慣れてないんで、やめてください」
「照れてるの?可愛いね」
「もー、やめてください」
ますます顔を赤くするゆきが本当に可愛くて、俺はわざと何度も可愛いと繰り返した。
ゆきの希望でアクション映画を観て、その後お茶を飲み、ゆきの買い物に付き合った後、小奇麗なダイニングバーで軽く食事をしながら酒を飲んだ。
ゆきは酒に弱いらしく、軽めのカクテル1杯で顔を真っ赤にしていた。
「これあげるよ」
テーブルに細長い箱を置くと、ゆきは「なぁに?」と手に取った。
「デート記念にプレゼント」
「もらっていいの?」
「開けてみて」
ゆきは包みを開いて、中に入っていたネックレスを取り出した。
「可愛い」
「つけてみてよ」
ゆきはネックレスをつけると、「ありがとう」と言って俺に笑ってくれた。
甘いカクテルを舐めるようなペースで飲みながら、ゆきは俺の質問に答える感じで、自分のことを色々と話してくれた。
ふたり姉妹の妹だということ。
家庭は比較的裕福だということ。
内定した就職先が金属製品のメーカーだということ。
天真爛漫な雰囲気を裏付ける、絵に描いたような、両親に愛され、何不自由なく大事に育てられたお嬢さん、それがゆきだった。
ダイニングバーを出たのは9時過ぎだったと思う。
アルコールに弱いゆきは、結構酔っているように見えた。
俺が肩を抱き寄せると、ゆきは抗わなかった。
レストランで仕事している時のゆきは、いつも髪を後ろで結わえていたが、この日は下ろした髪がさらさらと揺れていた。時々髪の間から、白い首筋が見え隠れし、ふわりと良い匂いがした。
俺もいい加減酔っていた。
ビルの間の暗い路地に入り、ゆきにキスをした。
ゆきは下を向いてしまったが、顔を上げさせて唇を吸った。
なにか言おうとしたのか、唇が軽く開いたので舌を入れると、ゆきは抵抗せずに受け入れてくれた。
「松井さん…」
囁くようにゆきは俺を呼んだ。
「ゆきちゃん」
「…へへ、キス、しちゃったね」
ゆきはいたずらっぽく笑った。
「うん」
俺はもう一度ゆきにキスをした。
ゆきはまた受け入れてくれたが、離れると「ダメダメ、おしまい」と舌を出して見せた。
「帰ろ。松井さん」
酔った勢いとはいえ、キスまでできただけで、めっけもんか。
俺はおとなしくゆきと一緒に地下鉄の駅へ向かった。
ゆきの手を取ると、ゆきは「もう」とでも言いたげに、可愛らしく顔をしかめたが、俺の手を振り払いはしなかった。
☆☆☆☆☆
「うっそ、もしかして松井さん?」
目の前にゆきが立っていた。
紺色のいかにも事務員という制服姿。郵便物らしきものを胸に抱えている。
最後に会ったのは15年前だったろうか。ゆきは大学4年だったから、単純に計算すると今は37歳か。俺の3歳下だったはずだから、間違いない。
よく見れば、あの頃よりもちゃんと歳をとっている。
それでも37歳には見えなかった。下手をすると20代半ばに見える。童顔は変わっていない。
東京郊外の私鉄沿線の駅前商店街。
都会でもなく田舎でもない街。
車で5分も走ると住宅街やショッピングモールがある典型的なベッドタウンの街。
なんでこんなところに、ゆきがいるんだ?
15年も経って、なぜ?今?
「私、目が悪いから、幻かと思ったぁ」
ゆきは昔と変わらない大きな眼を見開いていた。
「どうして松井さんがこんなところにいるの?」
俺はやっとの思いで驚きを抑え、
「俺、今、マンション屋やってるんだ。この先にマンション建つんで、営業で」
としどろもどろに言った。
「あぁ、⚪︎⚪︎病院の跡地でしょ。知ってる」
ゆきは首を捻って、そのマンションが建つ方へ視線を向けた。
「ゆきちゃんは、なんでここに?」
「私も今、この先の不動産屋で働いてるの」
ゆきはこの辺りで手広く商売している不動産会社の名前を言った。
「この近くに住んでるの?」
「うん、A駅」
二駅先の駅だった。
「松井さんも近くなの?」
「俺はB駅」
「そんなに遠くないね。この辺で仕事があるならまた会うかもしれないね」
ゆきはそのまま「じゃあまたね」とでも言って立ち去ってしまいそうな雰囲気だった。
「時間ないよな」
俺が慌てて言うと
「お使いの途中だから」
と、抱えていた封筒を掲げて見せた。
俺はポケットに入れていた名刺入れから一枚名刺を取り出すと、裏にスマホの番号を書いた。
「電話して」
ゆきの手に名刺を渡すと、ゆきがふふっと笑った。
「あの時とおんなじ。松井さん、見た目も中身も変わってない?」
ゆきは制服のベストの胸ポケットに名刺をしまうと、手を軽く振って郵便局がある方向へ歩いて行った。
俺は惚けたようにその後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。
☆☆☆☆☆
幻かと思った
ずっと会いたいと思っていた人が、通りを行く人の切れ目から現れた
私の人生で彼だけは特別だった
あの日からずっと、忘れていない
あれから何年経っただろう
それでも私は一目で彼を見つけることができた
☆☆☆☆☆
私が上野のファミリーレストランで働き始めたのは大学3年の夏頃だった。
自宅は郊外だけど、上野は通っている大学からも自宅からも電車の便が良かったから、アルバイトするには丁度良かった。都内の方が時給も良かったし。
繁華街にあるから、一日中忙しい店だったけど、バイト仲間も楽しい子ばかりだし、店長や社員もみんな良い人だったから、働きやすい店だったと思う。
繁華街にあるレストランだから、当然ランチとディナーは目が回るような忙しさだったけど、昼が過ぎた2時位から夕方はお茶を飲みにくるお客さんがちょこちょこ来るくらいで、割と手の空く時間帯だった。
その時間帯になると、隣のビルにあるパチンコ屋の店員さんがよくお昼ごはんを食べに来ていた。
松井さんもその1人だった。
いつだったか、「高校生?」ってからかわれたりしたけど、優しい気さくなお客さんだった。
松井さんは、ちょっとチャラい雰囲気だった。悪く言うと、老けたホスト風。なんとなく、女癖が悪そうだと思っていた。
でも、私はそういう雰囲気の人が好きだった。仲良くするには楽しい人の方が良い。
だから、初めて松井さんにデートに誘われた時、少し驚きはしたけど、意外だとは思わなかった。あぁ、やっぱりこの人、軽いんだな。と思っただけ。
私には大学3年の春から付き合っている彼氏がいた。康太という名の彼は、同じ学部だった。
私はあまりもてる方ではないと思う。ブスだとは思わないけど、なぜか同年代の男の子にはウケが悪い。年下の男の子には懐かれ、年上の男性には猫可愛がりされ、同年代の男の子には「ナマイキ」と嫌われるか「女じゃない」と色気のないマブダチとなるか、その両極端などちらかだった。
そういう意味で康太は同級生で私を好きになってくれた珍しい存在だった。
康太は昔の二枚目俳優をちょっと崩したような顔立ちで、それ程好みではなかったけど、同じ講義で初めて会った時から気が合って、割とすぐに付き合うようになった。
康太と付き合うまでは私もかなりいい加減な女の子で、何となくいい感じになった男の子と何となく付き合っては2~3ヶ月で何となく別れるというのを繰り返していた。二股こそしたことはなかったけど、適当なことには変わりない。
だから、康太は初めて真面目に付き合って、そこそこ長い付き合いになった彼氏だった。
康太は独占欲の強い彼氏だった。私がバイトをしていることもあまり良く思わない。バイト先の飲み会に行くのも嫌がった。服装や髪型にも注文をつけることもあった。
正直、私にとっては窮屈な彼氏だった。
私は男の子の友達もたくさんいたし、別に浮気するわけじゃないなら、他の男の子と遊びに行くのも抵抗はなかった。
だから、康太に内緒でバイト先の高校生の男の子とカラオケやゲーセンに行ったり、バイト先の社員さんに飲みに連れて行ってもらったりということはよくあった。
バレたら大喧嘩になるな、と思いつつ、遊ぶ相手は別に私を女として扱わない男の子ばかりだったから、康太にバレないようにうまくやっていた。
松井さんにデートに誘われた時、この人はちょっとまずいかな、とは思った。
なんとなく、松井さんは異性として私を見ているんだと思ったし、彼自身が軽い感じだし。
だから、ちゃんと彼氏がいると言った。それで済むと思ったから。
それでも松井さんは「知ってるよ」と言った。
やっぱり松井さんはちゃらくて軽い男の人だった。
松井さんに電話をかけるかどうか、迷ったといえば迷った。
松井さんは他の遊び仲間の男の子とは違うのが解っていた。
それでも電話をかけてしまったのは、松井さんが私の好みのタイプだったから。
きっぱり断ってしまうのが惜しかった。
それに、束縛激しい康太にうんざりした気持ちになっていたのもある。
当て付けではないけど、ちょっと逆らってやれ、という感じで。
でも、康太と別れる気持ちはなかった。いい加減だった私にやっと出来たまともな彼氏。うるさいところは多いけど、とても愛されていたし、私も康太が好きだった。
ちゃんと彼氏いるって言ったもん
自分でそんな言い訳をしながら、松井さんに電話をかけ、遊びに行く約束をしてしまった。
松井さんとのデートは楽しかった。
松井さんは少しタレ気味の目を細めながら、私のとりとめのない話をうんうんと聞いてくれる。あの映画が観たい、美味しいケーキが食べたい、買い物がしたい、何を言っても優しい顔で付き合ってくれた。
ダイニングバーにいる時に、松井さんからネックレスをプレゼントされた。
付き合っているわけでもない男の人からのプレゼント。単純に嬉しかった。
細い18金のチェーンに小さなダイヤの付いたハート型のヘッド。
すぐにつけたら、松井さんも嬉しそうに笑ってくれた。
店を出た後、自分で「これはヤバいな」と思っていた。
優しい優しい松井さん。ストライクに近い見た目といかにも私を甘やかしてくれそうな空気。
やっぱり松井さんは暗い路地に入って、キスしてきた。
…キスくらいならいいか…
実は私は結構色んな人とキスしていた。
レズの気はないけど、下手すると仲良しの女友達とでもできちゃうんじゃないかと思うくらい(したことないけど)、誰とキスするのも抵抗がない。
だから、男友達と飲みに行った帰りとか、遊んで送ってもらった別れ際とか、結構キスしたことがある。
そこから愛の告白なんてされたことないし、お互いキスしたくらいでその先の関係に進むでもないし、挨拶の延長みたいなものだと私は思っていた。
その辺がいい加減なんだと思うけど。
康太とは既に身体の関係があった。康太の前に付き合った人も、全員ではないけど、そこまで行った人が何人かいる。
だから、キスくらいで動揺するほどウブではなかった。
でも、松井さんにキスされたとき、ドキドキして、とても恥ずかしくて、顔が上げられなかった。
康太とは違う、慣れた感じの上手なキス。
お酒に酔っていたのもあって、このままもっと先まで進んでしまいそうな気分になった。
ダメダメ!
私には康太がいる。初めて私を大事にしてくれた彼氏。これ以上裏切るわけにはいかない。
キスしてうっとりして、逆にそれが私を我に返してくれた。
「ダメダメ、おしまい」
これは自分に言った言葉だった。
ここで言えたのは、流されやすい私にしては上出来だったと思う。
「帰ろ。松井さん」
私がそう言うと、松井さんは手を繋いできた。
またドキドキしたのを隠すために、松井さんを睨んでみたけど、松井さんは優しく笑うだけだった。
もちろん、その手を振り払えるまでの強い意志はなかった。
☆☆☆☆☆
ゆきとデートはしたが、そこから先にはあまり進展しなかった。
俺がゆきのいるレストランに食事に行くと、以前と変わらない様子で俺に接してくれた。
そもそも彼氏がいる女の子にちょっかい出したのは俺だ。
デートしてキスできただけで、上出来だろう。
でもたまにゆきから電話やメールが来た。
話題は就職のこととか、友達の話、あとは「別に用はないんだけど…」とか。
ゆきからの連絡は嬉しかった。
たまたま早く寝ていて電話で起こされても、相手がゆきなら怒らなかった。
彼氏とケンカしたと、夜中に電話してきたこともある。
俺はそうかそうか、ゆきは悪くない、ゆきはいい子だと繰り返した。
ゆきに対しては下心だらけだ。
でも、段々手を出せない気分になっていた。
ゆきは彼氏と別れる気配はなかったが、俺に対しては甘えてくるし、ワガママも言う。
俺がゆきのすることなら何でも許せて、思い切り甘やかしてやりたいと思っているのを全て見通したかのようだった。
他の女なら、彼氏がいるだけでどうでもいい女に分類するのだけど、ゆきだけは特別だった。
付き合いたいでもない、遠ざけたいわけでもない、でも可愛くて仕方ない、大事な女だった。
そんな居心地の良い曖昧な関係が続いたが、その年の冬になる頃、俺には別の彼女ができた。
そして、その後すぐにゆきが彼氏と別れたことを聞いた。
俺の彼女は由香里といい、俺の1歳下の24歳だった。
ゆきとは真逆のタイプと言っていい女だった。
子供の頃の家庭環境が良いとは言えなかった。
両親は由香里が幼い頃に離婚して由香里は兄と共に母親に育てられ、由香里が中学に入る前に母親は再婚した。
お約束のように養父はろくでなし。酒乱気味、ギャンブル三昧。
当然のように由香里も兄も養父と折り合いが悪く、高校を卒業したら早々に二人とも家から離れた。
俺の遊び仲間が通っているスナックで働いていた縁で、俺は由香里と知り合った。
なんで由香里と付き合うようになったか。きっかけなんかなかったと思う。
いつの間にかお互いのアパートを行ったり来たりするようになっていた。
由香里は人肌に飢えていた。
俺はなんとなく寂しかった。
俺も由香里もお互いに好きだの愛してるだの、口にしたことなんかなかった。
一緒にいると、お互い求めているものがあるような気がしたから、それで良かったんだと思う。
ゆきにはそういう女ができたことを言った。
「でもゆきは特別だから。いつでも連絡して来いよ」
俺がそう言うと、ゆきは「うん」と言った。
実際、その後も、そしてゆきが彼氏と別れた後も、ゆきは時々電話やメールをよこしたし、俺にとっても由香里とは別の次元で、ゆきは手放したくない女だった。
俺の友達の今村が、正月の天皇杯に誘って来たのはもう暮れも近い頃だった。
「チケットもらったんだけど、克己一緒にいかね?」
俺の働いているパチンコ屋に遊びに来ていた今村は、出玉をじゃらじゃら鳴らしながら言った。
今村は俺が中退した大学の同級生で、こちらはちゃんと卒業し、今は自動車ディーラーで働いている。
俺もいい加減な男だが、今村もなかなかちゃらい男だ。
でも、悪い男じゃない。
「寒いな」
「どうせ暇なんだろ?行こうぜ」
「お前とふたりでかよ」
「チケットなら3枚あるけど、由香里ちゃんも行くか?」
由香里のいるスナックに俺を連れて行ったのが今村だった。
「由香里、サッカー嫌いなんだよ」
由香里が嫌っている例の養父がJリーグ好きで、贔屓のチームが負ける度に酒を飲んでは暴れていたからだ。
「俺のお気に入りちゃん、連れてっていいか?」
「あぁ、白うさぎちゃんか」
今村はタバコの煙を吐きながらニヤニヤした。
今村はゆきのいるレストランで一緒にお茶を飲んだことが何回かあって、ゆきのことも知っている。
酒を飲んでいる時に俺がうっかり口を滑らせたので、デートした事も知っている。
一度ゆきと店内で擦れ違った後に、「白うさぎちゃん、なんかいい匂いした」と言ったので、蹴り飛ばしてやった。
「白うさぎちゃんなら良いよ。かーいいよな」
そういうわけで、俺は9月のデート以来、久しぶりにゆきを誘った。
「今村さん?あぁ、あの熊みたいな人」
誘いの電話をかけると、ゆきはそう言って笑った。
「バイトじゃないの?」
「元旦だけ店がお休みなんだ」
「じゃあ行こうよ」
そんな感じで話は決まった。
俺と2人だったら、ゆきはOKしなかったかもしれない。
電話をしていると、ゆきは由香里のことを気にしていることがよくあった。
「彼女から電話来ない?悪いからもう切るね」
よくそんな風にゆきは言った。
確かに由香里にゆきの存在を話せば、由香里は面白くないだろう。
束縛するような女じゃないが、わざわざ不快にさせることもないと思っていた。
天皇杯の日、ゆきはベンチコートを着て待ち合わせ場所に現れた。
「寒いから厚着してきた」
ゆきは寒がりらしい。
時間にルーズな今村も、珍しく時間丁度に姿を見せた。
「こんにちは、今村さん。図々しく来ちゃいました」
ゆきがそう言うと、今村は
「克己がお気に入りのゆきちゃん連れて行きたいってきかなくてね〜」
とニヤニヤ笑うので、一発殴っておいた。
冬晴れの国立競技場は、日差しがあってもやっばり寒かった。
ゆきは水筒とオヤツを持ってきていた。
「クッキー焼いてきた。あと熱い紅茶持ってきた」
案外家庭的なところがあるらしい。
チケットをくれた今村に気を使い、俺より先に紅茶とクッキーを勧めるのを見て、俺はちょっと悔しい気分になった。
ゆきは寒い寒いと言いながらも、サッカー観戦は初めてだと言って、俺や今村に説明を求めながら、楽しそうに観戦していた。
試合が終わると、とりあえず寒さから逃れて喫茶店に入り、どうせ暇なんだからと俺のアパートに移動して、飲み会にしようという話になった。
由香里は母親の具合が悪いらしく、珍しく実家に帰省していた。
ゆきは今村も一緒というのに安心して、あまり抵抗なく一緒に来てくれると言った。
電車を乗り継ぎ、俺のアパートがある駅まで移動した。
駅の近くのコンビニで食べ物と酒を買い、アパートに着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
「わー、なんにもない」
俺の部屋に入ると、ゆきはそう言って笑った。
ミニキッチンのついたワンルーム。ベッドとローテーブル、カラーボックスとパイプハンガー。
由香里が時々来るが、そんなに家庭的な女じゃないから料理はしないし、由香里の私物も置いていない。
まぁゆきの男友達のアパートも似たり寄ったりだろう。
冬だというのに缶ビールで乾杯し、下らない話をしながらの宴会になった。
ゆきは、自分のポジションを良く心得た女の子だと思う。
歳が上の男二人の中で、ニコニコ笑ながら俺や今村の仕事の話を聞き、合間にツッコミを入れ、俺や今村の冗談に笑う。
ゆきは可愛い。
ゆきのバイト中の姿をいつも見ているが、ゆきはおっさんに可愛がられる。常連客にも、店の人間も、ゆきは人によっては娘や孫だったり、妹だったり、俺を始め、歳が上の人間にとっては、とにかく可愛がったりからかったりしたくなる空気を持っていた。
実際今村も、わざとゆきを怒らせるような冗談を言っては、ゆきに叩かれて嬉しそうににやけていた。
ゆきは最初の缶ビールを半分残して、その後は缶チューハイを飲んでいた。相変わらず酒には弱いらしく、ちびちびと飲んでいた。
割と早い時間から飲んでいたので、酒が切れた。ジャンケンで買い出しに行く人間を決めたら、まんまと俺が負けた。
でもゆきを今村と二人きりにするのが嫌で、俺は無理矢理今村を引きずってコンビニへ行った。
「さみーんだよ」
コンビニからの帰り、今村はブツブツと文句を言った。
「うるせーな、ケダモノとゆきを二人きりで残してなんか行けねーだろ」
「克己のお気に入りちゃんに手なんか出さねーよ」
「わかるもんか。お前は女癖が悪くて有名だろ。大学の頃には今村とすれ違うと妊娠する、って言われてたじゃないか」
「それは克己だろ」
今村がタバコに火をつけたので、一本もらってやった。
「でもまぁ、お前がいてくれて良かったよ。ゆきと二人だったら、俺なにするかわからん」
「珍しいよな。克己がまだ手を出してないなんて」
とりあえずデートした時にキスしたことは黙っておいた。
「ありゃ~寝てるわ」
玄関で靴を脱いでいると、俺より先に部屋に入った今村の声が聞こえた。
見るとテーブルにうつ伏せる体勢でゆきが寝ていた。
「無防備だなぁ」
今村が苦笑いした。
「ゆき、風邪引くぞ」
肩をゆすると、ゆきはハッとしたように目を開けた
「私、寝てた?ごめんなさい、今日早起きだったから」
「寝てると今村に襲われるぞ」
「違うだろ、危ないのは克己だって。ゆきちゃん、ちゃんとパンツはいてるか?」
ゆきはあははと笑って目をこすり、座りなおした。
そこからまた飲み直しになった。
俺と今村はウイスキーのロックに変えた。ゆきは相変わらず缶チューハイをちびちび飲んでいた。
「おい、克己。俺帰るな」
今村の声で目が覚めた。いつの間にか、今度は俺が寝ていたらしい。
携帯を手に取ると、上り電車の終電が近い時間だった。
「帰るのか」
「明日用事があるんだよ」
「そうか」
「じゃあな」
今村はもうダウンジャケットを着ていた。
「襲うなよ、っても無理か」
そう言われてゆきを見ると、ゆきはまた寝ていた。今度は床に座ったままベッドに寄りかかって、器用にも倒れずに眠っていた。
「うるせぇな」
「まぁ、俺は何も知らないということで」
「何もやらねって」
俺は玄関で靴を履く今村の背中にタバコの空き箱を投げつけた。
「じゃぁな」
今村はくつくつ笑いながら出て行った。
気をきかせたつもりなのか。
単に終電で帰りたかっただけなのか。
さて、俺はどうしようか。
ここでお利口にできるような男じゃないのは俺が一番わかっている。
☆☆☆☆☆
松井さんとのデートの後も、表面上私の生活には変化はなかった。
就職は決まっていたし、大学の講義も最低限だけ。
ただ、康太との関係は段々煮詰まってきているような気がした。
康太の束縛は卒業が見えてきて、ますます激しくなってきた。
バイトに行けば文句を言われ、友達と遊びに行けば誰と遊びに行ったか細かく聞かれ、常に監視されているような気分になっていた。
会っても電話してもケンカばかり。
卒業してお互い違う職場で働き始めたら、束縛はもっと激しくなるのが簡単に想像できて、私は康太との付き合いに限界を感じていた。
結局、秋の終わり頃、私から別れを切り出した。
最後はもめたけど、まぁどうにか綺麗に別れることができた。
松井さんとはバイト先でよく顔を合わせたけど、お互い以前とあまり変わらない感じだった。でも時々電話やメールで連絡をとるようになった。
康太とケンカした日の夜中に電話して、寝ていた松井さんを起こしてしまったこともある。
松井さんはいつも優しかった。
何をしても何をやっても怒らない。
甘やかしてくれるお兄さんみたいだった。
私にとってはその関係が心地よかった。
康太と別れた直後、私は精神的に落ち込んだ。1週間くらい、ろくに食べられなかった。
初めてまともに付き合えた彼氏。
将来のことを話し合ったこともあった。
そこまで真剣に付き合った人を、嫌いになってしまったことがショックだった。
その時は松井さんには連絡しなかった。
松井さんに醜いところを見せたくなかったんだと思う。
私はやけくそみたいに、その頃通っていた短期のパソコンスクールで知り合った別の大学の男の子と付き合ってみたりした。
当然、長く続くような付き合いはできず、すぐに自然消滅したけど、とりあえず康太と別れた後のショックは紛れた。
でも私は、康太と付き合う前と少しも変わらず、いい加減なままだった。
それでも、なんとなく立ち直った気分になってきて、バイト先のレストランが一番忙しい12月は、ほとんど休みもとらずに働いた。
バイトが終わったら、バイト仲間と遊び歩く毎日。
それはそれで楽しかった。
その頃に松井さんから彼女ができたと聞いた。
えー、そうなんだ。良かったね。
私はそんな風に言ったと思う。
松井さんがいつまでも私に執着しているようなタイプではないのはわかっていたし、何よりそのままの関係の方が居心地良かった。
付き合えば束縛したりヤキモチやいたり。
でも、付き合ってない状態だから、松井さんは私の深いところなんて見ないでひたすら「ゆきは可愛い、ゆきはいい子だ」と言えるだろうし、私も彼氏じゃないから松井さんにワガママも言えるし、甘えられる。
普通の男友達よりも近くて、彼氏よりは遠い関係。
それで良いと思った。
松井さんに彼女ができたのは、やっぱり残念だったけど。
ぬるま湯の方が居心地はいい。
そして年末近くなった頃、松井さんがお正月の天皇杯に誘ってくれた。
多分、2人だったら行かなかった。彼女に悪いなと思っただろうし。
でも、何度か松井さんと一緒にバイト先のレストランに来たことのある今村さんが一緒だというから、連れて行ってもらうことにした。
今村さんも感じの良い楽しそうな人だったから。
2人きりだともやもやするけど、3人だったらいつも一緒に遊んでいる男の子たちと同じ感覚で過ごせそうだと思った。
松井さんのアパートへ女ひとりで付いていったのも、別に危機感なんてなかった。
他の男の子のアパートにもよく行ったりしていたし、それで嫌な思いをしたこともなかった。
でも、私は根本的に間違えていた。
遊び仲間の男友達とは、うっかりキスしようがそれ以上の恋愛感情なんてまるでないけど、松井さんに対してはそれ以上の気持ちがあった。
わかっていたのに、気付かないフリをしたんだと思う。
本当に私はいい加減な女の子だったんだ。
本当に私はズルい女の子だったんだ。
松井さんのアパートで、松井さんと今村さんと3人で飲んだ。
私はお酒に弱い。でもこの日は結構飲んでしまったと思う。
松井さんと今村さんは優しかったし、話も面白かった。
2人とも私より年上で、もう社会人だから、大学の同級生よりも大人だったし、2人とも紅一点の私を可愛い可愛いという感じで扱ってくれるのも嬉しかった。
お酒がなくなって、ジャンケンに負けた松井さんが無理矢理今村さんを連れて買出しに行くと、私は急に眠くなってしまった。
お酒に弱い上に、朝が早かった。
松井さんに可愛いところを見せようと思って、朝からクッキーなんか焼いたからだ。
ダメだと思った時には眠っていて、帰ってきた松井さんたちに起こされた。
少し眠ったからか、頭もスッキリして、また飲んだ。
それがいけなかったんだろう。
アルコールの許容量を越えてしまったらしく、気がついたらまた眠ってしまっていた。
遠いところで、今村さんが「じゃあな」と言っているのが聞こえた。
まずいな、私も起きて帰らなくちゃ。
そう思ったけど、目が開かなかった。
そしてしばらくの間、何も聞こえなくなった。
松井さんが近づいてくる気配を感じた。
その時には自分が眠ったフリをしていることを、自覚していた。
だって、松井さんの衣擦れの音が、こんなにはっきり聞こえる。
松井さんがつけている何かの香りが
松井さんがのタバコの匂いが
こんなに近くに感じていたから。
☆☆☆☆☆
「ゆき」
克己はそう言いながらそっとゆきの肩に手を置いた。
「風邪引くから、ベッドで寝な」
「………うん」
克己が布団をめくって促すと、ゆきは一瞬ためらったように克己の顔を見上げたが、言われる通りにベッドに入った。
克己に背を向けるように少し丸くなって横になったゆきに、克己は布団を掛けてやり、自分はその横に腰掛けた。
克己からゆきの顔は見えない。
「寒くないか?」
「……うん」
音が、消えた。
外を走る車の音もない。
アパートの他の住人の気配もない。
ゆきの寝息は聞こえない。
克己はゆきの頭の方へ手を伸ばしかけたが、その手を引き、代わりにテーブルの上のタバコをとって火をつけた。
ライターのカチ、という音がした時に、かすかにゆきの肩が揺れた。
ふぅー、と克己が煙を吐いた。
克己は短くなったタバコを灰皿で揉み消した。
ゆきを見ると、さっきから1ミリも動いていないように見えた。
克己はゆっくりとゆきの頭の横に手をついて、ゆきの耳に顔を近付けた。
「顔を見せて」
囁くように言うと、ゆきの髪がかすかに揺れた。
「狸寝入りしちゃダメだよ」
今度は普段と同じ調子で言うと、ゆきは思わずといった感じでくすくす笑いながら克己の方へ振り返った。
「さっきまでホントに寝てたんだよ」
「もう眠くないの?」
「目が覚めた。帰らないと」
体を起こしかけたゆきの肩を克己は軽く押さえた。
「顔を見せて」
「顔赤いからイヤなんだけど」
ゆきは手で顔を覆おうとしたが、克己がそっとその手を掴んだ。
「ゆきの顔が見たいんだよ」
「こんなに近いと恥ずかしいんだけど」
「可愛いよ」
克己がそう言うのと唇が重なったのは同時だった。
克己が挿し入れた舌は、ゆきの唇でそっと押し返された。
「酔ってるとダメだね。またキスしちゃった」
ゆきはそう言ってへへっと笑った。
「俺はずっとしたかったよ」
「彼女がいるでしょ」
「ゆきは特別なんだよ」
「また調子のいいこと言って」
ゆきの言葉は克己のキスで遮られた。
喋っていたから、今度は克己の舌がするっと入って行った。
「…松井さんに、嫌われちゃう…」
やっと聞き取れるような声でゆきが囁いた。
「どうして?」
唇が離れないように克己も囁き返した。
「…だって………私もずっと……こうしたかったから」
そう言ったゆきの手が克己の首に絡みついてきて、克己にほんのわずかに残っていた理性が消えた。
「もっとしてって言って」
「…もっと……して…」
「ゆき…ホントにお前は、可愛いよ」
克己はそう言いながらゆきに掛かっていた布団を横にどけた。
「ゆき、ホントに寒がりなんだね。何枚着てるの」
ゆきが着ていたニットのワンピースを脱がせながら克己は笑った。
ニットの下からフリースのハイネックが現れたからだ。
「だって、寒いんだもん」
「俺があったかくしてあげるよ」
ゆきはハイネックの下に長袖のTシャツを着ていた。
「これ…」
ゆきの鎖骨の辺りに細い金のチェーンが波打っていた。
克己がチェーンの下に指を滑らせると、ゆきの肩がぴくりと動いた。
「松井さんがくれたネックレス…」
「つけてくれてたんだ…」
克己がそう言いながらチェーンに沿って唇を這わせると、ゆきは小さく「あっ」と声を漏らした。
克己はそのままゆきの首筋から耳まで唇と舌をなぞるように動かした。
ゆきが軽く身をくねらせた。
「ん?」
克己がそのまま首や耳の辺りを舐め続けると、ゆきは何度か「ダメ」と言った。
「ダメなの?」
「ダメなの」
ゆきの息遣いがいつもより荒くなっていた。
「首、弱いんだね」
「ダメ…」
「ダメじゃないでしょ。もっとして欲しいんでしょ」
「違う…」
「だって、熱くなってるよ」
ゆきのジーンズのファスナーを開けて少し強引に差し込んだ克己の手には、下着越しでもわかるくらい、湿った熱気が感じられていた。
Tシャツとジーンズを脱がせると、ゆきは下着だけの姿になった。
「ゆきは本当に色が白いな」
克己はゆきの両脇に手を付いた姿勢で見下ろしながら、下着姿のゆきを見て言った。
「明るいと、恥ずかしい」
「ダメだよ。ゆきが見えなくなるから」
克己はそのままゆきに覆いかぶさり、さっきより激しく唇を吸った。
「…ずるい……私だけ…」
「ふたりで暖かくなろうか」
克己は着ているものを全部脱ぐと、ゆきの背中に手を回して抱きしめた。
「折れちゃいそうだ」
ゆきの細い体が、克己の中を熱くさせた。
背中に回した手をそのまま下に動かし、お尻の方から下着の中に手を伸ばすと、すべすべした肌の奥に指が滑り込んだ。
「あ」
「まだなんにもしてないのに…キスしただけでこんなになっちゃうんだ」
「や……だって……」
「熱いよ」
克己の指が動くと、抑え切れない声がゆきの口から漏れた。
「全部見せて」
克己はゆきの下着を全部取った。
「綺麗だね」
ゆきは怒ったように何かを言おうとしたが、克己に乳首を口に含まれ、体を震わせて、言葉にならなかった。
「そんなに、見ないで」
途切れ途切れにゆきが言った。
「ここも見たらダメなの?」
克己がゆきの脚を開かせ、さっきよりも熱くなった部分に口をつけると、「あぁ」とため息のような声をあげた。
☆☆☆☆☆
松井さんの手も唇も
どこもかしこも
電気が流れているみたいだった
松井さんの手が私の体に触れるたび
唇が押し付けられるたび
舌が這うたび
脚が絡まるたび
私の体は松井さんの全てに反応した
嬉しさに心が震えた
そう
私は松井さんに抱かれたかった
ずっと
☆☆☆☆☆
俺の腕の中にゆきがいた
ためいきも
俺を求める手も
体のどこもかしこも
熱かった
ゆきが身をくねらせるたび
俺の中も熱くなった
恥ずかしいと言いながら
俺の手に、脚に、絡みつく
もっともっと乱れさせたい
今だけはゆきの中を俺だけで満たしたい
俺も今はゆきしか見えない
☆☆☆☆☆
「あっ…ダメ…」
ゆきは克己から逃れようと腰を捻った。
克己はそれを許さず、ゆきの反応を追いながら舌や指を執拗に動かした。
「ダメ……お風呂…入ってないのに」
「ゆきは綺麗だから、大丈夫」
「でも…」
克己は返事の代わりにゆきが一番反応する部分に手を伸ばし、漏れてくる声をキスで塞いだ。
「……!」
ゆきの体が大きく震え、うわごとのように「ダメ」という囁きが続いた。
それでも克己は動きを止めなかった。
「もっと感じてるゆきが見たい」
ゆきの中を指でかき回しながら、克己はゆきの舌を吸った。
「もっと…?…ムリ…私」
克己はこの何時間かの間に知ったゆきが反応する部分を丁寧に攻めた。
ゆきは克己が思う通りに反応した。
大きな波が来そうになると、克己はわざと手を止め、そのたびにゆきは切なげに顔を歪めた。
「…どうして欲しい?」
「…もっと…して」
「何を」
「どうして……そんな意地悪言うの…」
「もっといやらしいゆきが見たいから」
「松井さんが……松井さんが……私を…こんなに」
克己の指が激しく動いて、ゆきは声にならない声をあげながら何度目になるのか、また大きく体を震わせた。
「松井さん…私、もう」
「もう、何?」
「もう、ダメ…」
「ちゃんと言ってごらん」
「…言えない」
「ゆきに、おねだりして欲しい」
「恥ずかしいよ」
「ここが、こんなになってるから?」
「あっ……だから…っ……もう…」
「言って」
「あっ…い、いれて、ください」
「やっと言ってくれた…俺も限界だよ」
ゆきの中が、ゆっくりと克己で満たされていった。
「……松井さん…」
ゆきは両手で克己の頬を撫でた。
「ゆき、可愛いよ」
克己がそのままゆきにキスすると、ゆきは背中に手を回した。
「ゆきの中、熱い」
「松井さんも、熱い」
「やっと繋がれたのに、動いたら、すぐ終わっちゃいそうだ」
「いいよ…」
克己がゆっくりと動き出した。
その動きに合わせて、ゆきは切ない声をあげた。
「あっ、ごめんなさい……もぅ…」
「いいよ…何度でも…」
克己が動きながらゆきを抱きしめると、ゆきの全身が痙攣した。
「ゆき…」
ゆきの快感が克己に伝わり、克己も顔を歪めて堪えた。
「もっと、していたい」
「…なんど、でも……して」
克己は耳元をゆきの囁きにくすぐられ、すぐに再び高まっていたゆきと一緒に果てた。
克己とゆきは抱き合って眠った。
少し眠ってどちらからともなく目覚めて、克己はゆきを求めて、ゆきも克己に応えた。
何度となく繰り返しても、飽きる事がなかった。
そのたびにゆきは何度も体を震わせ、克己はゆきを抱きしめて果てた。
さすがに力尽きた克己が深く眠った明け方、ゆきはそっとアパートから出て行った。
始発の電車に乗ったゆきは、まだ克己の気配を全身に感じながら、電車に揺られていた。
愛を指すような言葉は、とうとう最後までお互い口にしなかった。
ゆきは、それでいいと思った。
☆☆☆☆☆
あの夜のことは夢だったのか?
俺がそう思うくらい、以前と変わらない日常に戻った。
あの後初めて、ゆきのバイト先のレストランでゆきと顔を合わせた時、ゆきはまったく以前と変わらなかった。
俺を避けるでもなく、馴れ馴れしくするでもなく、ただ普通だった。
笑顔も見せてくれたし、軽い世間話もする。
「天皇杯、楽しかった~。ありがとう!」と絵文字入りのメールも来た。そのまま今村にも同じメールが行ったんじゃないかというような文面だった。
それでいいんだろう。
俺はゆきに何か言えるような男じゃない。
もうすぐゆきは大学を卒業して、バイトも辞めて、就職する。
今は彼氏もいないが、ゆきならすぐに良い男が現れて、そのうち結婚して、子どもを産んで、幸せに生きていくんだろう。
その相手が俺じゃないことは、確実なんだろう。
俺はゆきをセフレにしたいわけじゃない。
でもちゃんと付き合いたいかと言えば、ゆきを幸せにしてやる自信もなかった。
ただ、やっぱりゆきは特別な存在であることに、変わりはなかった。
正月に帰省していた由香里が帰ってきたので、由香里のアパートへ行った。
そこで俺は、由香里から妊娠したと告げられた。
もちろん、驚きはしたが、意外な話ではなかった。
俺も由香里も避妊がいい加減だったから、あぁそうか、出来たのか、という感想だった。
由香里には入籍して子どもを産もうと言った。
でも由香里は「産めない」と言った。
お世辞にも幸せに育ったとはいえない女。精神的に脆いところもある。
俺と付き合う前は心療内科での治療が必要な時期が長く続いていたらしく、今もたまに薬の世話になることがある。
由香里は妊娠、出産、育児をしていく自信がないと言った。薬の影響も怖いと。
俺はパチンコ屋とはいえ正社員だし、会社は関東一円に店舗を持っている。由香里と子ども1人くらい、贅沢はさせられないけど養ってやれる。体調は一時期より悪くないんだし、薬だって今は強いものを使っているわけじゃないんだから、医者に相談してみればいい。
俺はそう言ったが、由香里は「うん」とは言わなかった。
それ以上、俺にしてやれることはなかった。
中絶費用を銀行から下ろし、手術の日には送り迎えをした。
由香里のアパートに戻り、俺は横になった由香里の手をさすってやることしかできなかった。
☆☆☆☆☆
とりあえず、何もなかったことにしよう
それが私のとりあえずの結論だった。
あの夜のことを忘れられるわけもない。
でも、松井さんには彼女がいる。お互いそれを承知の上だった。
考えれば考えるほど、あの夜を思い返すほど、私の気持ちが松井さんに傾くのは解っていた。
だったら考えるのをやめよう。
いつもと同じようにしていよう。
そうしているうちに、今は自分に嘘をついている所も、いつか本当になるかもしれない。
たまに大学へ行って、毎日バイトに行って、友達と遊んで
忙しく過ごしていれば、余計なことは考えずに済んだし、卒業までの自由な時間は純粋に貴重で楽しかった。
大学の後期試験が終わった後には、ゼミの仲間と鬼怒川温泉にお別れ旅行に行った。
その面子には秋に別れた康太もいたけど、康太はすでに別の彼女ができていて、その彼女の愚痴を飲み会の席で延々と言うので、これも元彼女の務めと思って聞いてやった。
ゼミの中で一番仲良くしていた男の子とは、みんなが見ていないところでキスもした。
友情のキスといったところか。
女の子の人数は少なかったから、飲み会がお開きになった後に、一部屋に集合して恋バナ大会もした。
話すと自分がどうなるか分らなかったから、松井さんのことはみんなに内緒にしておいた。
旅行に行った後は、卒業式で着る袴の用意をしたり、高校時代の親友と卒業旅行でハワイへ行ったり、それ以外はやっぱりバイト中心の生活だった。
忙しく過ごしているうちに、3月になっていた。
☆☆☆☆☆
「ハワイに行ってきたの!」
ゆきは電話口で楽しそうにそう言った。
「へー、楽しかったみたいだね」
「うん、年取ったらハワイに永住したいくらい」
3月、ゆきから久しぶりの電話だった。
ゆきのバイト先では顔を合わせていたが、世間話の端々から、ゆきが大学の卒業を控えて、色々と忙しく過ごしていることは知っていた。
「松井さんにもお土産買って来たの」
ゆきがそう言うので、お土産をもらうついでに卒業祝いをしてやろうという話になり、お互いの次の休みの前の晩に会う約束をした。
約束の日、早番だった俺は一度アパートに帰ってから、最寄り駅から2駅隣の駅まで行った。
ゆきが俺のおすすめの店に行きたいと言ったから、女の子でも入りやすい店構えの焼き鳥と日本酒を出す店を予約しておいた。
ゆきは9時までバイトして、直接待ち合わせした駅の改札までやってきた。
「お腹すいた!」
会った第一声がそれだった。
この日ゆきと会うのに、俺も何も考えなかったわけじゃない。
あの夜以来、俺とゆきの間には何もなかったような関係が保たれていた。
でも、会ってしまったら、俺はまたどうなるか分らない。
それでも、俺はゆきに会いたかった。
もうすぐバイトも辞めて、俺から離れていってしまうゆきと、やっぱり会いたかった。
屈託のない笑顔を見て、俺はほっとした。
そうだ、俺はゆきのこういう所が可愛くて仕方ないんだ。
俺はゆきと連れ立って、店に向かった。
「今日は飲まない!」
席についてメニューを広げるなり、ゆきは子どもが威張って言うように宣言した。
「酒、弱いもんな」
「このかぼすソーダっていうのにする」
俺が店員に飲み物を注文すると、ゆきは楽しそうにメニューを隅々まで見て、食べたい物をいくつか決めた。
「お土産お土産」
ゆきはバッグの中からビニールバッグを取り出した。
「コナコーヒーなの。すごく気に入って、毎日何度も飲んでたから、自分の分もいっぱい買ってきちゃった」
「ありがとう。そういえばコーヒーメーカー、どっかにあったな」
「うん、彼女と飲んで」
……これは牽制されているんだろうか
今日は飲まない宣言してるし
でもゆきは特に普段と変わらない様子で、運ばれてきた焼き鳥をいかにも美味しそうに食べている。
気にしないことにして、俺も皿に手を延ばした。
ゆきはハワイで楽しかった場所の話をたて続きにし、その前に行ったという大学の友達との温泉旅行の話をし、その時に別れた彼氏の愚痴を聞かされたと文句を言い、とにかく楽しそうに喋り続け、俺はうんうんと相槌をうった。
俺が最初のビールから日本酒に切り替えた頃、やっとゆきのテンションが落ち着いた。
俺はそこでずっと気になっていた話を切り出した。
「こんなこと聞くのもナンだけど、ゆき、生理きた?」
ゆきはマンガみたいに「ぶっ」と口にしていたストローを吹いた。
「びっくりした~。もぅ。…でも心配してくれたんだ。うん、大丈夫。あの後、週明けくらいに来た」
そう言って、さすがに少し照れくさそうに顔を赤くした。
「そうか、良かった」
「いくらなんでも、私も危なかったら言うし…」
あの日は危ない日ではなかったという意味だろう。
「由香里が、俺の彼女が妊娠したんだ」
「…え」
ゆきがすっと真顔になった。
「まぁ色々話したんだけど、今回は、堕ろした」
「…そう…」
「だから、ちょっと心配になったんだ」
「うん、大丈夫」
少しの間、気まずい空気になったけど、元気な店員がゆきの注文したアイスクリームを持ってきて、なんとなくまた場が和んだ。
それからまたしばらく話しながら俺はもう1本日本酒を頼み、ゆっくりとしたペースで空けてから、2人で店を出た。
☆☆☆☆☆
もうすぐ卒業。バイトももうすぐ卒業。
就職したら、新しい環境で、きっと忙しい毎日になるんだろう。
好きな人も、できるかな。
忙しさがひと段落して、私は松井さんに会いたいと思った。
バイトに行けば時々松井さんと会う。
でもそうじゃなくて、ちゃんと話をしたいと思った。
初めてデートした時も、お正月の時も、私はお酒に酔っていた。
酔った勢いでキスして、酔った勢いでセックスまでして。
酔っていたことを言い訳にして、どっちもなかったことのようにしている。
お酒の力を借りないで、松井さんと会いたかった。
予定を詰め込んで忙しくして、考えないようにするのも、限界だった。
彼女がいることはわかっている。
それでもいいから、会いたかった。
けじめをつけるとか、そんなことじゃなくて。
松井さんと離れる前に、もう一度、ちゃんと会いたかった。
松井さんに会う口実はあった。
卒業旅行でハワイに行った時に、お土産を買っていたから。
久しぶりに電話をかけると、松井さんが2人で卒業祝いをしようと言ってくれた。
約束した日はバイトだったけど、上がる9時までが長く感じた。
そわそわしているのがバレて、店長から「デートか?」とからかわれたので「そうですよ」と言っておいた。
バイトが終わり、松井さんと約束した駅まで電車で行くと、改札口で松井さんが待っていてくれた。
松井さんの顔を見たら、なんだか切なくなったので、わざと「お腹すいた!」と言って、自分を励ましてみた。
店に着いてからも、頑張ってテンションを上げた。
今日は飲まないと宣言して素面だったけど、幸い、話のネタはたくさんあった。
でも、一通り話し終わると、それを待っていたかのように、松井さんが彼女を妊娠させて、しかも中絶した話をした。
正直、ショックだった。
妊娠と中絶という話がショックだったんじゃない。
松井さんの言葉の端々に、彼女を労わる気持ちが見えたのと、そんなことがあっても、松井さんと彼女は別れる気配もなかったことが、ショックだった。
それだけ彼女は松井さんを愛してるんだろうし、松井さんもそんな彼女を大切にしてるんだろうということに、私は打ちのめされた。
松井さんは彼女がいても、いつもゆきは特別だと口癖のように言ってくれた。
私もそうなんだと自惚れていたから、付き合わなくてもいいと思っていた。
でも、本当はそうじゃなかった。
私は、松井さんが好きだった。
彼女より大事にして欲しかった。
私は本当に嘘つきだった。
松井さんへの気持ちを、終わりにしたいと思った。
☆☆☆☆☆
「少し歩きたい」
店を出た時ゆきがそう言い、どこへ向かうでもなく、並んで歩きだした。
線路の上を通る歩道橋の階段を上り、克己はそこでゆきの手を握った。
「まだ夜は寒いな」
「うん」
手を繋いでゆっくり歩いた。
「あのね、今日は素面で会いたかったの」
ゆきが克己の顔を見上げて言った。
「酔ってると、キスしちゃうから?」
「ううん。酔っ払ってない時に、キスしたかったから」
立ち止まって克己がゆきの方を向くと、ゆきは少し困ったような顔で克己を見つめ返した。
「会いたかったの」
克己がゆきのもう片方の手も取ると、ゆきの体が引き寄せられた。
「ちゃんと会いたかったの」
ゆきは克己の肩に顔を埋めて言った。
「彼女がいるのはわかってる。でも、会いたかったの」
「ゆき…」
克己はそっとゆきを抱きしめた。
「松井さんちに、連れてって…」
駅のタクシー乗り場でタクシーに乗り、克己のアパートに行った。
部屋に入り、克己が照明をつけると、部屋の中はあの夜とほとんど変わっていなかった。
克己が自分とゆきが脱いだ上着をハンガーにかけていると、克己の背中からゆきの両腕がするっと巻き付いてきた。
「私ね、嘘つきだったの」
克己の背中でゆきが言った。
「嘘つき?」
ゆきの手を探り、その甲を撫でながら克己が聞いた。
「うん。私はずるいから。いつも、嘘ついてた。私は松井さんが思っているほどいい子じゃないの。でも、嫌われたくないから、松井さんがいい子だと思ってくれるような女の子のフリをしてたの」
克己はそっとゆきの両手を外して、ゆきの方へ体を回した。
「俺はゆきがどんな子でも、嫌いになったりしないよ」
克己はゆきの手を取って、ゆきを膝に乗せるようにしてベッドに腰かけた。
「松井さんは、いつも私に優しいね」
「ゆきは特別だって、言ってるだろ」
「松井さんがそう言ってくれるから、私がワガママになるんだよ」
「別にワガママでもいいよ」
「ホント?」
「うん」
ゆきは少し体をずらして、克己に顔を寄せた。
「じゃあ、キスして」
「それがワガママなの?」
「うん」
ゆきはそういいながら軽く克己にキスをした。
「キスしてっていったのに、自分からしてきた」
「したかったんだもん」
「俺だって、したいよ」
克己はゆきの膝の下から抱えて体を入れ替え、仰向けに倒れたゆきに、さっきのゆきと同じようにキスをした。
「もっとして」
「お互いしたいと思ってることは、ワガママって言わないよ」
「じゃあ、キスだけじゃ、イヤ」
「それも、同じだから、ワガママじゃないよ」
ゆきのくすっという笑い声のあと、長いキスになった。
「バイト中に松井さんがいると、恥ずかしかった」
「思い出してた?」
克己はゆきの着ているシャツのボタンを外しながら言った。
「考えないように、頑張ってた」
「俺はいつも考えてたよ」
克己はゆきを下着姿にして、下着のないところに手を滑らせた。
「ここにキスすると、ゆきが感じてたな、とか」
克己の舌が、ゆきの首から胸元まで這った。
「脇とか、背中にもキスしたかったのに、しそびれたなとか」
ゆきは腕をあげさせられ、克己は言葉通りに動いた。
「もっと焦らして、いじめれば良かったなとか」
克己の手が下へ動いて、下着の中心を軽く撫でた。
克己が動くたびに、ゆきは声を殺して体だけが反応した。
「いじめないで…」
「いじめられてるゆきが可愛いのがいけないんだよ」
「もう…Sなの?」
「ゆきにだけかな」
克己の指が動き、ゆきは体をのけぞらせた。
下着をとらないまま、ゆきの体は、克己の手で何度も激しく震えさせられた。
何度目かにゆきは克己に懇願する目を向けた。
「もう…お願い」
「強情だったね」
克己はそこでやっと自分も着ているものを脱ぎ、ゆきの下着も取った。
克己の手が直接触れると、ゆきはまたすぐに登りつめた。
「ホントにゆきは感じやすい…」
「松井さんだから…」
「本当?」
「私…ここまで、なったこと、ない」
「この間より、すごいよ」
克己がそこに触れただけで音が響いた。
克己を求める言葉をゆきが自分から口にした。
ゆきは克己に促され、仰向けになった克己の上で、自分から克己を受け入れた。
「松井さん…」
ゆきはゆっくり動きながら、克己の手を握った。
「松井さんと、したかったの」
「俺もだよ」
「だから、会いたかったの…」
「俺も、会いたかったよ」
「嬉しい……」
「ゆき」
克己はゆきと体を入れ替え、ゆきがまた何度か登りつめるのを見届けてから、最後には一緒に果てた。
☆☆☆☆☆
嬉しかった
松井さんの全部が
このときだけは
私のものだと思えた
ごめんなさい
顔も知らない松井さんの彼女
一瞬だけでいいから、私に松井さんをください
あんなに愛してもらって
何度も愛してもらって
本当に嬉しかった…
☆☆☆☆☆
もう一度この腕でゆきを抱けると思わなかった
笑ったり怒ったりするゆき
俺の腕の中で快感に震えるゆき
このまま俺のものにしたいと
何度も思った
この細い体を
切なげな顔を
俺だけのものにしたいと思った
でも
俺にはそんな資格はなかった
☆☆☆☆☆
克己とゆきは、朝まで眠った。
外が明るくなりかけていることに気付き、ゆきはベッドから出ようとしたが、克己の手でベッドの中に戻された。
「俺から離れたらダメだよ」
「どこにも行かないのに」
「ここにいて」
そう言いながら、カーテンの隙間から漏れる光の中で、また克己とゆきは抱き合い、求め合った。
再び昼近くまで2人で眠った後、ファミリーレストランの出前を取って、朝と昼の兼用の食事をした。
そして夕方になるまで、ゆきは外の気配を気にしながらも、また克己の求めに応えた。
「そろそろ帰る」
ゆきは役所が子どもの帰宅を促す放送が聞こえる中、ベッドから起きた。
「…そっか」
ゆきは身支度を終えると、克己の首に腕を回してキスをした。
「ずっと一緒にいられて、嬉しかった」
「もっと、一緒にいたかったよ」
もう一度キスをすると、ゆきは上着を着て玄関に向かった。
「送るよ」
克己も上着に手を伸ばしたが、ゆきが首を横に振った。
「ここがいい」
「どうして」
「キスしてバイバイしたいから」
「ゆき」
克己とゆきはもう一度抱き合って、少し長くキスをした。
「またね」
そう言って、ゆきは笑って出て行った。
☆☆☆☆☆
確かに「またね」だった。
実際、何度かゆきのバイト先で顔を合わす機会はあった。
でもその後、ゆきは卒業してバイトを辞め、俺に連絡が来る事はなかった。
メアドも、携帯の番号も、いつの間にか通じなくなっていた。
「またね」
それが15年後になるとは、俺もゆきも、まったく考えてはいなかった。
☆☆☆☆☆
久しぶりの休みだった。
9時頃に起きて3日分の洗濯をし、狭い部屋を掃除すると、昼にはやることがなくなってしまった。
面倒なので、正午をだいぶ回ってから、買い置きのカップ麺で朝昼兼用の食事を済ませ、タバコを吸いながら窓から外を見ると、窓の下の道を黄色いカバーをつけたランドセルを背負った小学生の男の子が1人でヨタヨタと歩いているのが見えた。
「今日は何曜だったかな…」
先週はなんだかんだと仕事があって、休みが潰れてしまった。今日はその代休だ。
マンション販売という商売柄、週末は書き入れ時で、基本休みは平日にしか取れない。
なんとなく目で追っていた小学生の黄色い帽子から視界から消えたので良く見ると、その子は道端に何か見つけたのか、しゃがみこんでなにやら熱心にいじっているようだった。
「クリーニング屋にでも行ってくるかな」
俺は仕事用のワイシャツを何枚かビニールバッグに入れると、アパートから出た。
5月の連休明けで、もう汗ばむ陽気だった。
「あっちーな…」
俺は駅前のクリーニング屋まで10分くらいの道のりをブツブツ言いながら歩いた。
今の仕事を始めてから、5年くらいになる。
貴重な休日に出かける先がクリーニング屋しかない。
俺の代わりにワイシャツにアイロンをかけてくれる人はいないということでもある。
40歳の独身男の侘しい現実だった。
さっきアパートの窓から見た小学生の姿を思い出す。
本当は俺にもあれくらいの子どもがいてもおかしくないんだな。
いや、待て。さっきの子はどう見ても1年生という感じだったから、6歳くらいか。40ひく6で34。34歳の時の子なら、さらにもっと大きい子どもがいてもおかしくないのか。
意味のない計算に、俺はなんとなくげんなりした気分になった。
クリーニング屋に行った後、思いついて駅から電車に乗った。
この間ゆきに会った場所へ行こうと思い立ったのだ。
俺の最寄駅から2駅目で乗り換え、そこからまた2駅。
駅から出て、ゆきとばったり会った駅前商店街を歩いた。
ゆきが働いているという不動産会社の名前を思い出し、その前まで行ってみたが、その会社のビルはシャッターが閉まっていた。
「そうか、今日は水曜だったか」
同じような業界にいるというのに、不動産屋の定休日が水曜だということを今思い出した。
ゆきと再会したのは、先週の金曜だった。
ゆきから電話はない。
よく考えたら、37歳になったゆきには家庭があるのだろう。
会った時には、思いもかけない再会に舞い上がって、後先考えずに連絡先を手渡してしまったが、そういうことなら連絡がなくても不思議はない。
なんだか馬鹿らしくなって、俺は元来た道を引き返して駅に向かった。
駅に着いた時に、ジーンズの尻ポケットに入れていたスマホが振動した。
画面には見慣れない番号が表示されていた。
会社では専用のガラケーを持たされているので、これは完全にプライベート用だ。だから客や会社の人間からの電話ではないはずだった。
ちょうどゆきのことを考えていたタイミングで電話がかかってくるわけもない、と思いながら出ると、ゆきだった。
「松井さんですか?ゆきです」
俺がゆきの都合を聞くと、夕方までなら時間があると言った。
俺が今いる場所を言うと、ここから4駅離れたターミナル駅のそばのコーヒーショップで会おうと言われた。
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仮名 轟新吾へ(これは小説です)
【ストーカー、サイコパスは】完全に❗ コミュニケーション能力が、欠け…(匿名さん72)
225レス 3316HIT 恋愛博士さん (50代 ♀)
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🌊鯨の唄🌊②4レス 152HIT 小説好きさん
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人間合格👤🙆,,,?11レス 175HIT 永遠の3歳
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酉肉威張ってマスク禁止令1レス 215HIT 小説家さん
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また貴方と逢えるのなら16レス 493HIT 読者さん
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今を生きる意味78レス 552HIT 旅人さん
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また貴方と逢えるのなら
『貴方はなぜ私の中に入ったの?』 『君が寂しそうだったから。』 『…(読者さん0)
16レス 493HIT 読者さん -
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 152HIT 小説好きさん -
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 175HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 215HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1435HIT 檄❗王道劇場です
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泣ける曲教えてください。
泣きたいです。
24レス 482HIT 匿名さん -
彼氏との関係にモヤモヤ
SNS一切やらない彼氏のことで愚痴です 大学生カップルです 最初はSNSやらない人のが浮…
20レス 307HIT おしゃべり好きさん -
恋人いない歴=年齢。アラフォー女子。
彼氏いない歴=年齢な女子です。 現在42歳、生まれてこの方、男女交際というものを一度たりとも経験し…
9レス 264HIT 匿名さん (40代 女性 ) -
知らない人から殺害予告
これは昨日の話です。 電話がかかってきました、だけど見覚えも無い電話番号。 気になったので返事を…
12レス 323HIT 匿名さん -
美人で仕事ができるのに
職場の女性で、美人で仕事も出来るのになんとなく男女共に全員にあまり好かれてない人がいます。 私…
7レス 205HIT 匿名さん -
心配性すぎる母親
つい最近、婚約しました。 私は35才、彼が45才です。 お互いの年齢もあり結婚前提で交際しスピー…
7レス 205HIT 婚約中さん (30代 女性 ) - もっと見る