同級生2⃣ ~《智也編》~

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2009/09/04 13:07(更新日時)

あの時の

《子供の言葉》

が、なかったら……

そして、

《その言葉》

を、俺が《あいつ》に言わなかったら………

今頃、俺達どうなっていただろう。



俺は、もう二度と……
《あんな思い》
は、したくない。

でも、そんな思いを経験して
《今》

がある………

No.944937 (スレ作成日時)

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No.1

俺は、藤谷智也。18歳。

家族は、
おふくろと、親父と、妹。



俺が小さい頃から
親父は、

《仕事》

ばかりで家にいない。
おふくろも昼も夜も
働いていた。

俺の物心がつく頃には、
夜、妹と2人きりだった。

誕生日に祝ってもらったこともないし、
サンタが家にやってきたこともない(笑)


俺と妹は、
特に仲が良いわけでも
悪いわけでもない。 

別に会えば話すし、
いなくてもなんとも思わない。

親も、俺のする事には
特に何も言わない。
言われた事があっても、
俺が折れなければ親が折れる。


まぁ、俺にとっては
《楽》
な家族だった。

それが
《普通》
だと思っていた…………。







俺は、最近高校を卒業したばかり。

ある会社に《営業》として
入社した。


そこには、なんとなく……
《見覚え》のある女の人が
《事務》としてそこにいた……………。

No.2

「智也???だよね?」


その事務の女の人は、
そう、話し掛けてきた。


「えーっと………誰だっけ(笑)」


そう聞くと、

「3年前まで、
智也んちの並びに住んでた百合だよ😠 
相変わらず失礼な奴ね!」

と言われた。


『百合………』
そういえば………
俺が小学生の時に、
近所にやたらと
《気の強い》
女がいた………。
おふくろ同士が仲が良かったらしく、

《お裾分け》
なんかをもらったり、
あげたりしてたっけ。

そこの一人娘で、
俺の3歳年上の
《百合》
とは、
しょっちゅう遊んでいた。

と、思い出した俺は、
「あーっ!百合!!
化粧ってこえーな。
見た事ある顔だとは、
思ったけど、わかんなかったよ」

と言った。


と、そこで上司が来たので
仕事に戻った。


『あいつ…大人っぽくなったな~』


そう思った。


その後の昼休みに、
「今度遊びに来いよ!
おふくろもビックリするよ」
そう言って、連絡先を交換した。

その時は、
ただ懐かしかった……。

No.3

俺は、家に帰り、
おふくろに、百合の話をした。

おふくろもビックリしていたが
懐かしそうだった。

俺は
「そういえば、
百合って何で引っ越したんだっけ?」


そう、おふくろに聞くと

「あんたには、
話してなかったっけ。
引っ越す少し前に、
百合ちゃんちのお父さんか倒れてね…
仕事を辞めなきゃいけなくなっちゃって。

入院費もかかるし、
百合ちゃんのお母さんも
あまり体が強くなかったからね…
家を引き払って引っ越したんだよ。
引っ越してからは、
私も自然と連絡を取らなくなっちゃって。」

そう言った。


俺は、
「ふーん」
とだけ返事をした。


おふくろに
「今度、
百合を家に連れて来るから。」

そう言うと、

「私も久しぶりに会いたいから、
みんなでご飯でも食べよう」

と、おふくろは言った。


翌週の週末、
仕事帰りに待ち合わせて
百合を連れて
家に帰った…………。

No.4

家に帰ると、
おふくろが、
食事の支度をして待っていた。


「こんばんは。
お久しぶりです」

と、百合が言うと

おふくろは、
「あら~、大人っぽくなっちゃって…
さぁさ、あがって!」

そう言って、
パタパタと台所へ
戻っていった。



乾杯して、食事をしながら
昔話などで盛り上がった。


おふくろが
「そういえば、
お母さんは? 元気?」

と、聞くと
百合の表情が曇り、

「実は…今、
入院しているんです。」

と言った。

俺も、おふくろもビックリした。

続けて、百合は
「3年前に、引っ越して
母も働きはじめ、
私も、高校を卒業してから働いて…なんとかやっていた
んですけど、
半年後に、父が亡くなって………

1年前から、
母も調子が悪くなっちゃって………」

そう言った。


おふくろは、
「そうだったの………
大変だったね。
こんな食事でもいいなら
いつでも食べにおいで。」
と百合に言い、
百合は

「ありがとうございます」

と言った。


その後も、
暫くの間、3人で話をして、
俺は、百合を車で送っていった…………。

No.5

百合の家は、
俺の家から
車で40~50分くらいの所
にある小さなアパートだった。

百合が

「あ、あそこの角で大丈夫」

と言うので、車を止めようとした時………

突然、百合が言った。

「止まらないで!!
そのまま真っ直ぐ行って!」


もう止まりかけていた
俺があたふたしていると

「早く!!」

そう言われて、
慌ててアクセルを踏んだ………。


暫く走った所で車を止め、
「何だよ?
急にどうしたんだよ!?」

俺がそう言うと、

明らかに、強ばった顔をしながら

「またあいつが………
元彼が…………いたの。」

と、百合は言った。

「元彼? どういう事?」

と聞くと、百合は
少しずつ話し始めた………。

No.6

百合は、

《1年半ほど前に、
ある男と付き合い始めた》事。

《母親が入院してからは、
会える日が少なくなり
仕事と、母親の看病で
疲れていて喧嘩が増えた》
事。


《半年前に、
別れたけど、その後も
つきまとわれている》事。

《本当は、引っ越したいが、
お金に余裕がない》事。

百合は、

「ここんとこ、
いないからホッとしてたのに………何で……」

と、今にも泣きそうだった。

今まで、百合の事を

『物凄く気の強い女』

としか思っていなかった俺は、
ただ、意外だった。


「どうしよう……」

と困り果てている百合を、
放っておく事も出来ず、
とりあえずそのまま、また俺の家に
連れて帰った…………。

No.7

家に着くと、おふくろは

「あら?忘れ物??」

と言った。


大体の話をおふくろにすると、

「百合ちゃん一人じゃ
危ないし、
今日は泊まって行きなさい。」

と言った。


百合は、

「でも………」

と言ったが、俺も

「とりあえす明日は休みだし
今日は泊まってけよ。」

そう言うと、


「すみません……」

そう言って、少し安心したようだった。


翌日の昼間……
また送って行くと、
男はもういなかった。


百合は

「ありがとう。
じゃあまた、明日会社で…」

と言った。


俺が
「大丈夫なのか?」

そう言うと、

「なんとかなるよ!
怖いから、直接話す気はないけどね。
そのうち、諦めるでしょ。
じゃぁね!」

と、言って
走って家に入って行った………。

『本当に大丈夫なのか!?』


そう思いながらも、
俺は家に帰った……。


でもやっぱり、百合は
昔からの知り合いだし
放っておけなかった俺は、

翌日から、会社帰りは、
極力百合を
家まで送っていく事にした…………。

No.8

百合は、最初
「悪いからいーよ。」


そう言ったが

「おふくろが、
そうしろって言うしさ。
まぁ、暫くの間だけでも。


と、俺が言うと

「ありがとう。
実は、この間いたばかり
だから、
帰るの怖かったんだよね…」

と言った。


それから毎日送って行った。


おふくろに

「あんたが送ってあげられない日は
うちに来させなさい。」

そう言われていたから、
俺が送っていけない日は、
百合は、俺の家に家に来ていた。

そんな生活が、
数ヶ月続き、それが
《当たり前》
のようになっていた。


その頃から、俺は………
少しずつ、百合を
《女》
として意識し始めた……。



半年後のある日………

具合が悪く、入院していた
百合の母親が、
亡くなった……………。

No.9

《その日》は、
急にきた。


おふくろと、俺と、百合で
おばさんのお見舞いに行った
《2週間後》
の出来事だった…。

おばさんは、元々心臓が弱く、
そのせいもあって、
子供は、百合一人だった。

数日前から、
あまり調子は良くなかったが、
まさか………
と言う感じだった。


丁度、百合を送り届けて
帰る途中、
百合から電話があり、
泣きじゃくりながら

「お母さんが……………」
と言われ、急いで引き返し
病院へ行った。
おふくろにも電話をして
すぐに来てもらった。

でも………間に合わなかった。


二度と目を開けることのない
母親の横で、百合は
いつまでも泣いていた。


俺は、何て声をかけていいか
わからなかった。
ただ、傍にいる事しかできなかった。


少し落ち着いた百合は、
俺に

「私……独りになっちゃったよ」

そう言った。


《独り》

その言葉を言われて、
凄くかわいそうになった。

それと同時に

『守ってあげたい』

そう思った…………。

No.10

親戚も、ほとんどいない百合は、
《葬儀》など
1人でどうしていいかわからず
おふくろも手伝いながら

なんとか、49日を迎えた。

少しずつ百合も落ち着き、
少しずつではあったが、
笑顔も戻ってきた。




気が付けば、
いつの間にか元彼は
もう現われなくなっていた。


それからも、どちらからともなく
いつもの様に、
一緒に帰っていると、

百合が、

「今までありがとね。
もう、元彼も来なさそうだし
大丈夫だから。
おばちゃんにも、
沢山お世話になっちゃって…
よろしく言っといてね。」

そう言った。


俺は、

「これからどうするつもり?」

と聞くと

「わからない」

と答えた。


俺は、何を思ったか

「一緒に暮らさない?」

気が付いたら、
そう言っていた。


この時、俺は19歳、
百合は22歳になる少し前だった。



この時は…………

『守ってあげたい』

そう思った気持ちを

《愛情》

だと、思っていた………。

No.11

百合は、驚いた顔をして

「何言ってるの?」

と言った。



俺は、

「これからは、
俺が百合の事、守るよ。
守りたい。そう思ったんだ。」


と言うと、百合は暫く
考えてから、


「本当に…いいの?」


そう言った。


俺は

「いいよ」

そう言って、
初めてキスをした……




そのまま、俺の家へ行き
おふくろに、
「百合と一緒に暮らすから」

そう言った。


百合の事は、気に入ってるはずだし、
反対されるわけがない。

そう思っていたのに………

《若すぎる》

《まだ早い》

《同棲なんて……》


と、反対された。



反対された事にびっくりしたし
おふくろに腹も立った。



なんとか、おふくろにだけでも認めてほしくて
暫くの間、おふくろと顔を合わせれば

その話で揉めていた。


普段は、すぐに折れるくせに
今回は折れるまで
半年かかった………。

No.12

俺は、もうすぐ20歳に
なろうとしていた。


おふくろと揉めている間、
反対されればされるほど、

『百合を守るのは俺しかいない』

その思いは強くなり、
おふくろには

「同棲が駄目なら結婚する」

と言った。


おふくろは

「まだ20歳のくせに。
うまくいかないに決まってる。


と反対されたが、


最終的に、百合とも相談し
『おふくろに認めてもらえなくてもいい』

そう思い、

「許してくれないならそれでもいい。
俺、来月出てくから」


そう言ったら
なんとか折れてくれた。

今思えば、折れるしかなかったんだろう…。


親父は、最初からおふくろほど
反対をしてなかったし

「しっかりやれよ」

と言われただけだった。



こうして俺は、結婚することが決まり


百合と新居を探し始めた………。

No.13

金のない俺達は、
式はしない事にした。

指輪だけは、ペアリングを買った。

同じ会社だったから、
2人の会社に近い所の
アパートを借りた。


20歳の俺の誕生日に
俺と百合は、

《夫婦》

になった。


結婚してから初めての正月………

いつも親戚が集まってる
祖母の家に、
百合を会わせる為に2人で行った。

行った時には、
もうみんなが集まっていた。

ところが……

祖母は

「会いたくない」

と言って
会ってくれなかった。


それどころか

俺達は、玄関先で帰らされた………………。


ショックを受けているのか
腹を立てているのかわからないが

黙ったままの百合を見て
ムカついた俺は、
百合に

「ごめん」

と言って


『こんな所二度と来ねぇ!』


そう思った。





周りの人間が何故反対するのか…………

その頃の俺には、全くわからなかった。

No.14

俺と百合………


本当にうまくいっていたのは、

最初の半年だけだった。

俺は、結婚したからには

《子供》

がほしかった。

なんとなく、

《若いパパ》

に憧れていたのかもしれない。


百合は、

「子供は、まだ欲しくない」

と言っていた。


会社でも一緒。

帰宅時間こそ違っていたが
家に帰っても一緒。


会社で、

《営業》



《事務》

として関わることも多く、
仕事上で揉める事もあった。


元々気の強い百合は、
絶対に自分の意見を曲げなかった。


仕事中に揉めた日は、
家に帰ってきてからも
喧嘩になった。

喧嘩をすると、決まって
「年下のくせに!」
そう言われた。

共働きだから仕方がない
と言えばそれまでなのだが
家の中も、いつも散らかっていた。

夕飯は、ほとんど外食だった。

百合も仕事で疲れてるのはわかる。
でも、

『結婚したんだから……』
そんな風に思う事が
増えていった。

No.15

おふくろと、百合も
結婚して

《嫁》

になったら、うまくいかなくなった。

おふくろは

『息子を取られた』

そんな風に思っていたのだろう。


結婚して半年経った頃から
百合と喧嘩ばかりするようになった。



家では、
口をきかない日もあった


俺は、その頃になって
自分が思っていた

『守ってあげたい』

『そばにいてあげたい』

そんな気持ちが、

《愛情》

ではなく

《同情》

だったことに気付く………






そんな自分の気持ちに
気付いたからと言って、
あれだけ、
親に反対されたのに
無理矢理結婚した俺は…

今更どうすることも
出来なかった。


『俺と別れたら、百合は
また独りだ』

『子供はいなくても
結婚したからには
責任がある』


そう考えると、
別れる事も出来ず

なんとか、うまくいくよう自分なりに努力はした。

仕事でも、家でも顔を合わせるのが
良くないと思い、百合に

「もう少し、
早く終わる仕事に変えてくれないか?」

と言う話もしたが、
却下された。

あまりにも歩み寄れない
百合に対して
同情さえも薄れていった………

No.16

数か月もすると
完全に、
お互いの気持ちは、冷め切っていて

お互いに
好き勝手に自分の
したいようにしていた。



その内顔を合わせるのも
嫌になり

話し合って、とりあえず

《別居》

をする事にした。


会社の周りの人間も、
もちろん、俺と百合が
夫婦である事は知っていたから
周りに気を遣わせたくなかったのかもしれない。

だから

《離婚》

ではなく

《別居》

をしたのだ。


別居をしても、
会社で顔を合わせるし、
仕事上の関わりもあったから
きつかった…………


《普通の会話》

すら出来なかった



いつしか、お互いに

憎しみ合うようになっていた。



2年間、別居生活は続いた。

最初こそ、憎くて会社がきつかったが
2年も経つと、お互いが冷静になり

《会社の同僚》

として、それなりの付き合いが
できるようになった。

《戸籍上は妻》

である事が、信じられないくらいだった。



結果、

「これ以上、夫婦でいる意味がない」

と言う話になり
俺が23歳、百合が26歳
の時に、俺は

《離婚》

した………………

No.17

おふくろには、

「だから言ったじゃない」
と、言われた。
そう言われるのが嫌で
離婚するまで、
おふくろには言わなかった。

でも、

《息子が帰ってくる》

事は嬉しかったんだろう。

「帰ってきなさい」

と言われ、俺は実家に帰る事にした。





それから、3年間は
今まで遊べなかった鬱憤を
晴らすかのように、遊んだ。

学生時代の

《大輝》と

《義秋》と

バンドを組んだ。
俺はボーカルだった。


3人で、よくつるんで
朝まで遊んだりもした。


《独り》

なのが楽しかった。


女の子とも、合コンをしたり、
遊びに行ったりはしたが、
特定の

《彼女》

は作る気にはなれなかった。



でも…………

26歳の時………

後に、俺の人生を変える

《結衣》

と出会う…………。

No.18

ある時、大輝から、

「会社に仲良くしてる
1個年下の女の子が
いるんだよね。
智也とも、気ぃ合うと思うし
今度、一緒に飲もーぜ!」
と言われた。


まぁ、飲みに行くのは楽しいし、

『大輝が仲良くしてるなら
面白い子なんだろう』

そう思って、了承した。



その話が出て1週間程
経った頃、突然

「原田結衣、25歳です

大輝君とは仲良くさせてもらってます。
飲みに行ける日を楽しみにしてます!」


とメールが来た。


『原田結衣?………誰だ?
大輝………?
あーっ!この間の………』

そう思った俺は、

「結衣ちゃん!! 大輝から話は聞いてるよ!
俺智也。宜しくね!」

と送り返した。


それから毎日、メールで
結衣と話すようになった。

『ちょっと気が強くて
面白い子』


そんな印象だった。


そのうち、

『どんな顔をしてるんだろうな……』

そう思うようになっていた。


百合と別れて以来
初めてメールでの結衣に
惹かれ始めていた……。

No.19

3週間後の土曜日に
飲みに行く事になり、
久しぶりに、少し緊張した。
メールでの結衣に、
惹かれ始めていた分

《容姿》

がどんななのか気になった。
大輝は、結衣の容姿を

「可愛い………と言うよりは
どっちかっつーと、美人かな!」

なんて言っていたけど、
あいつとは、全く女の趣味は合わない。

大輝の言葉に半信半疑で
当日を迎えた………。





初対面の結衣は、
大輝の言った通りだった。

顔も、好みのタイプだった結衣にどんどん惹かれていった。

飲み会は、普通に楽しく
他の女の子達とも連絡先の
交換をして解散した。


家に着いてからも、
なんとなく寝付けなかった………

『次はいつ会えるのかな……
もう会う機会はないかも?



と、思ったら無性に会いたくなり、

何て誘おうか迷った挙げ句、電話をして

「今日、仕事でそっちいくんだけど会える?」

と、嘘臭い理由で誘ってみた。


明らかに、寝呆けていた
様子だったけど

「いいですよ~。何時くらい?」

と、聞かれ
1時間はかかるだろうし、
仕事のついでって事に
したから…………と
考え、夕方にした。

No.20

着いて、そのまま
ファミレスへ行き、
夜ご飯を食べた後ドライブに行った。


途中、車を止めて話をした。

百合に抱いていた気持ちとは、
全然違う気持ちだった。

『守りたい』

とか、そんなんじゃなくて
ただ

『一緒にいたい』 

『離れたくない』

そう思った。


だから、俺は
『まだ早いか?』
とも、思ったけど

「会ったばっかりだけど………付き合って」

と言った。


結衣は、

「いーよ。」


そう言ってくれた。





それからは、毎週土曜日に
結衣を迎えに行き、ホテルに泊まり
日曜日に結衣が帰る。
そんな生活を送っていた。

本当は、家に連れて行きたかったが、
まだ、バツイチである事も結衣には言ってない。

おふくろに、へたな事を
言われても困る。

と思い、外で会っていた。

『いつまでも外でだと…
変に思うかな』


そう思って、
ある日………

母親に話をした

No.21

『また反対されたら……』
そう思いながら
おふくろに

「実は…結婚したい人がいるんだ………」


と、言うと

「そうなの!? 
今度連れていらっしゃい」
と、喜んでくれた。


『百合の事が、気に入らなかっただけなのか……?』
そう思いながらも、
ホッとした。

すると、おふくろに

「百合ちゃんの事は…
話してあるんでしょうね!?」

と言われた。

俺は

「これから………」

と言うと、

「早めに言いなさいよ!隠し通せることじゃないんだから!」

と、言われ

「わかってるよ!!
でも……今も同僚だって事は
絶対に言わないでくれよ!!
余計な心配させたくないから
それだけは、一生隠し通す………」

と、俺は言った。



その夜、結衣に

「金曜日からうちに泊まりに来ない?」

と言った。


結衣が迷っている様子だったから、つい

「おふくろに、結婚したい人がいるって言っちゃった!」

と言った。


結衣は、ビックリしていたみたいだったけど、

「何着ていけばいい?
お母さんは、お菓子とか…何が好き?」

と緊張しているようだった。

No.22

結衣とは、
同じ血液型のせいもあってか
感覚が似ていた。
だから一緒にいて、すごく楽だった。

確かに

《結婚》

に対しての不安もあった。

《離婚》



経験している俺は、

『もうあんなに人と
いがみ合い、憎しみ合い、疲れるのは嫌だ』

そう思っていた


でも………不思議と

『結衣となら大丈夫』

そう思った。
自分が一生好きでいられる自信があった。


だから、自然と

『結婚したい』

そう思えた。


でも、そう思えば思うほど百合との事を言いだせずにいた。

俺がバツイチだと知って…どう思うだろう………。

それだけでも、もしかしたら結婚を断られるかもしれないのに
百合の事なんて…………

絶対に言えないと思った。

家に来る日までに、バツイチである事は言おう。
そう思っていたのに、
結局言えないまま………

週末……結衣が来た。

No.23

妹は、彼氏の家に泊まりに行っていた。

結衣は、緊張していた様子だったけど、
おふくろも、親父も気に入ってくれた様子だった。






翌週……………

結衣と外をプラプラしていた時に、ふと
ジュエリーショップが目に入った。

思わず俺は、

「指輪を買いに行こう!」
と言い、店に連れていった。
センスに自信がなかったし、
結衣の好みもわからなかったから

自分で選んでもらうことにした。


合うサイズがなかったので
直しを頼んで店を出た……。


指輪が出来るのは1週間後……。

それまでには言わなくては……………


毎日そればかりを考えながら、
でも、とうとう言えないまま……………

指輪を取りに行った。

No.24

指輪を受け取って、渡す時…………


「俺と、結婚してください」

と言った。


結衣は、にっこり笑って

「はい!」

と言ってくれた。
嬉しかった。



と、同時に………………

まだ、結衣に言えていない
《秘密》

に悩んでいた。


『このまま、結婚するわけにはいかない』


『離婚理由も話さなきゃな………なんて説明しよう』


数日間、そればっかり考えていた。

でも、もう言うには遅いくらいだ。

次に会ったら、いい加減覚悟を決めて言おう!


そう決めた。





その週の金曜日、

いつものようにメールで
連絡をとりあっていたが、
仕事どころではなかった。

『今日こそ言うんだ……』
『どう思われるだろう…』

そればかり考えていた。


勘の鋭い結衣は、
俺の様子がいつもと違うことに
気付いたようで


「なんかあった?」

とメールを送ってきた。

メールで話す内容でもないと思い

「夜、話す。」

とだけ送った…………

No.25

結衣は、きっと一度気になりだすと、
わかるまで気になり続けるタイプなんだろう…


「なんなの?!」

と、段々不機嫌になってきた
感じがしたから、観念して
バツイチである事をメールに書いた。

すると、

「子供は?」

と聞かれたので、いないと答えた。


すると…………次に

「今、前の奥さんはどこにいるの?」


と聞かれてしまった。

今も同じ会社にいるとは、
口が裂けても言えない。
言いたくない。
今ではお互いに、

《過去に結婚していた》

なんて信じられないくらいだ。


俺は………

「どこにいるかもわからない」

そう言ってしまった。


結衣は、

「だったら、もっと早くいってくれれば良かったのに」

と言った。


バツイチでも、
子供がいなくて、
前の嫁さんと今現在
関わりがなければ
大丈夫だったのか……

と心底ホッとした。


もう、百合の事は………
どんな事をしてでも隠し通すしかない。

そう思った。

No.26

その夜、結衣に

《離婚理由》

を聞かれた。


だから、自分が悪かったのだと
説明をした。


『助けたい』

と言う気持ちを 
『愛情』
だと勘違いした事。

相手は、年上の人で、
20歳で結婚し、23歳で別れた事。


「決して浮気とかではない」


これだけは信じてほしかった。



結衣は、信じてくれたようで

その後、結衣の両親に挨拶したり
式場も決めたり、
順調に話は進んでいった。
結衣が26歳、俺が28歳の時に、入籍をして式も挙げた。


百合の時……………

会ってもくれなかった、
祖母も、親戚も、
喜んで式に出席してくれた。

嬉しかった。

『結婚って、本当は
こういうものなんだ。』

そう思った。

No.27

俺の会社の近くにマンションを買った。

暫くは共働きをして、
週末には2人で出かけた。
結衣も働いてはいたが、
俺が帰る時間には家にいて、
食事も作ってくれたし、
それなりに家の中も綺麗にしてくれていた。

家に着いた時に、
家の中の灯りがついていることが嬉しかった。

結衣は、色々と俺の世話をやいてくれた。

風呂に入れば、
バスタオルは用意してあったし、
共働きでも、家事は全て結衣がやってくれていた。

俺は《主》として、扱ってもらえて嬉しかった。



百合には、結婚していても
何かあるごとに

《年下》

と言う言葉を言われていたから………




半年後…………
結衣は、妊娠した。


お腹の中の子は、男の子だった。


俺は、親父みたいに

《仕事人間》

には、絶対にならない。

子供が男の子と聞いて、

『大きくなったらキャッチボールしたいな』

などと、楽しみにしていた……………

No.28

そして、俺が29歳の時……
長男が産まれた。
陣痛中、結衣は凄く辛そうだった。
でも、

「大丈夫!」

と言って、痛みが引いてる時には笑っていた。


長男が産まれて

『子供って大変なんだぁ』
そう思った。


俺が朝起きると、
結衣が、乳丸出しで寝ている
時もあった(笑)

俺は、あまり泣き声には
気付かなかったが

ひどい時には1~2時間起きに泣くらしく、

朝もフラフラしながら
起きてくる時もあった。


最初の頃は…
たまにおむつ替えも手伝った。
でも、うまく出来なくて
そのうち結衣が
「やって」
とは言わなくなった。

沐浴も、何度かやったが
俺が入れた時に限って
大泣きされ、怖くなった。

しばらくすると、
長男の夜泣きがひどくなり

結衣が、

「智也が寝不足になって、
仕事に差し支えたら大変だから………」


そう言って、
夜泣きの時期は別々の
部屋で寝た。


それでも、長男だけの時は、
俺の事も気に掛けてくれて、
仕事で遅くなっても
極力起きて待っていてくれた。

でも、その3年後……
次男が産まれてから、
結衣が、少しずつ変わっていった……………

No.29

結衣は、次男が産まれてから
とにかく忙しそうだった。

夜も、

「子供達寝かせてくる」

そう言ったまま、
リビングには来ない日が増えた。

『疲れてるんだな』

そう頭ではわかっているけれど、
やっぱり1人でテレビを見ながら
食事をするのはつまらなかった。


次男が産まれてからは
当たり前のように、
別の部屋で寝ていたからか、
セックスもしなくなった。
次男が出来るまでは、
結衣の方から、
言ってきたこともあったのに………………。

『子供は2人欲しい』
お互いにそう思っていた。
だから……次男が産まれたら、
もう用なしなのか?
そう思った。

休日、一緒にいても何もする事がなかった。
次男が小さいから
外に長く出かけることもできないし、

長男も、まだキャッチボールなどが出来る年齢でもない。

子供が何をすれば喜ぶのか……………

親父に遊んでもらった記憶がなくてわからなかった。

『男の子だから』

と、たまに体を使った
遊びをすれば、
結衣に

「ちょっと!危ないからやめて。」

と言われてしまう………


『結衣は神経質なんだよ………』

そう思った。

No.30

子供の相手をすれば、

「やめて」

と言われるから、
子供達には、

「あっちで遊んでこいよ」

と言うようになった。


家事を手伝おうにも、
何をどうすれば良いかわからない。

別に

「手伝って」

とも言われないから、
仕方なく邪魔をしないように
テレビを見ていることが多くなった。


俺は、何にも悪いことはしていないつもりなのに
結衣が不機嫌な時が多かった。

なんだか、俺も面白くなかった。


変な話、男だから性欲もあるし、しなければたまる。
『もう数ヶ月、セックスもしてないな………』

自分で処理をしても、
スッキリするのは体だけで虚しかった………。



ある日の夜、意を決して
物凄く久しぶりに、
誘ってみたが、

「具合悪いから」

そう、あっさり断られた。

それから、断られるのが怖くて誘えなくなった。

もちろん、俺から誘わなければ、

誘われることなどなかった…………………。

No.31

俺が風邪を引いても

「早く寝たら?」

としか言われず、
心配してくれている様子もなかった。


給料や、ボーナスを持ち帰っても

「ご苦労様」

などと言われた事はなかった。

別に毎回

「ご苦労様」

の言葉を言って欲しいわけでは
ないけど、

『働いて当たり前!』

結衣に、そう思われていると思うと
なんだか腹が立った。

俺が一生懸命働いたって、俺の小遣いは少ない。
それでも、

《家族の為》

そう思って働いてきたのに……………

『俺は、結衣にとってなんなんだろう………
ただ、働いて金を稼いでいればいいのかな………』


そう思ったら、

『俺は、何の為に働いてるんだろう………』

と虚しくなった。


その頃から………


いや、次男が産まれてからずっと…………


俺は、

『愛されてる』

そう思えなくなっていた……………

No.32

そんな事を考えていたら、
家にいるのが…
つまらなくなった。


『別に俺なんていても
いなくても同じ』


そんな扱いしかされなかったから


休みの前の日は、
遅くまでやりたい事をやった。


朝も、目が覚めるまで寝ていた。


起きて

「腹減ったんだけど…」

その一言でも、
結衣は
機嫌が悪くなった……


『俺が一体、
何したっつーんだよ!!』

ただ、日に日に苛立っていった…………。




そんなある日…

仕事から帰宅後に、
1本の電話が入った。

番号表示を見て、

『やばい!百合だ………』
そう思った。

No.33

『百合の事は
結衣は知らないはず…』


『本当にやましい事は
ないのだから大丈夫』


「あ、会社の奴だ」

そう、言って
電話に出た…………


こんな時間に
かかってくるくらいだ。
急用なのだと思い、
電話に出ない訳には
いかなかった。



電話の内容は、
翌日回るはずの
取引先の事だった。
俺は、翌日直行する
予定だった事と
自分が休みだった為、

仕方なく
かけてきたようだ。


百合に使い慣れない
言葉を使って、
会話をした。


俺は、話の途中

「田村さんは、
明日は、休みだったよね?」

そう聞いた。

まさか

『お前、
明日休みだよな?』

とか

《百合》

と名前は、呼べなかったから…。


この

《一言》

を言わなければ………

名字さえ呼ばなければ……
俺は、最大の失敗を
犯してしまった………

No.34

仕事上の話を終え
電話を切ると………

結衣が
冷たい視線を
こちらに向けながら


「もう一度だけ聞くけど、
前の奥さん…
どこにいるの?」

と聞かれた。


一瞬にして、
パニックになった。

でも必死に動揺を隠し

『結衣が、
百合の事を
知るはずがない』

そう思い


「なんだよ、突然。
今どこにいるかも
わからないって
言っただろ?」


と、言うと……


結衣の口から
信じられない言葉が
出てきた。


「私、智也の前の奥さん
の名前知ってるんだよ」

と……………


今思えば、
かまをかけられたのかも
しれない。

でも……動揺を隠せなかった……

No.35

動揺を隠せず、

『バレてる』

そう思った俺は、

「ごめん!でも本当に
何もないから。
変に心配させたくなくて…………」

と言った。

必死で

「本当にお互いに
今はただの同僚としか
思っていない」

そう言った。


結衣は、
信じてくれたかどうか
わからないが

ショックを受けていて
話は、それ以上
続かなかった…………


『こんな事になるなら…
早く言えば良かった。
隠し通す
つもりだったのに………


今更、こんな事を
考えても仕方がない
のだけど…………


結衣を、
傷つけてしまった………


それから俺は、

結衣が、
不安にならないように
マメにメールを送った。


始めのうちは
ギクシャクしていたが
1週間もすると
結衣も、徐々に普通に
なっていった。


『信じてくれたんだ…』

そう思って安心した。

No.36

それから2週間後…

結衣が

「友達と飲みに行くから
1泊だけ、実家に
帰っても良いかな…?」

と言って、週末
実家へ帰って行った。


実家で気晴らしが
出来たのか、
帰ってきてからは、
元通りの結衣だった。


でも………
その数日後、俺が
仕事で遅くなった日…

リビングで寝ていた
結衣を見てなんとなく
腹が立った……



そんな些細な事で
初めてと言って良いほど
大きな

《喧嘩》

をしてしまった………

No.37

俺は、今まで
思っていた事を
ぶちまけた。

元々、喧嘩をすると

『思っていない事』

を言ってしまったり、

『傷つける』

と、わかっている事を
言ってしまう。


それがわかっていたから
極力喧嘩を
したくなかった。


でも、その日は
止まらなかった……


俺が遅くまで
仕事をして帰っても
いたわってくれない。

給料を持ち帰っても
「ご苦労様」
の言葉がない。

俺が風邪を引いても
「大丈夫?」

の言葉もない。

どれもこれも
一つ一つは
大したことじゃない

でも、全てをひっくるめて
『愛されてないんじゃ
ないか………』

それが言いたかった…。
それを聞きたかった…。

でも、口下手と言うか
うまく思っている事を
結衣に、伝えられず

喧嘩はどんどん
大きくなっていった……

No.38

結衣も、相当怒っていた。

「帰ってくる時間に
起きていて欲しいなら
連絡すればいいじゃない」

「主人として、
働くのは当たり前でしょ?子供もいるのよ!」


「『具合が悪いなら
早く寝たら?』も
『大丈夫?』と
同じでしょ?」


こんな風に返ってきた。


付け加えて

「私が、どんなに
忙しそうにしていても
『手伝うよ』の
言葉もない。」


「子供の相手もしない。」

「子供の事かわいいと
思ってるの?」


俺は、頭に来て

「俺が仕事して
当たり前なら
お前が家事と育児を
やるのも当たり前だろ!」

そう言うと、
結衣は泣きながら

「育児は違う!!」


そう怒鳴った………

No.39

結衣は

「私と、子供の事なんて
どうでもいいんでしょ?」
そう言った。


どうでもいい訳はない。

俺は、状況にもよるが
結衣が一番優先だった。

クリスマスには、
結衣に服や
靴やアクセサリーを
買っていた。

その話をすると、

結衣は
「私は、物を貰うより
みんなで食事に行く方が
よっぽど嬉しいのよ!」

そう言った。


「結衣の方こそ、
俺の事はどうでも
いいんだろ?
子供が産まれてから
2人で出かけた事もない」

そう言うと、

「なんで『私と』
だけなの?
なんで『4人一緒』の
事を考えてくれないの?

そう言った。


結衣の言っている
言葉の意味が
わからなかった………

No.40

俺は、結衣が一番だ。
子供も大事じゃない
訳ではないけど………。

だから、結衣にも
俺の事を一番に
考えてほしい。
それだけなのに………

それがそんなにいけない
事なのか………??


俺が一番悩んでいた
《セックス》
の事で


「俺から誘わなきゃ
誘っても来ない」

そう言うと


「断ってないんだから
それでいいじゃない。」


そう言った。


そうじゃない。
夫婦ってそんなもんじゃない。


俺は、

「子供だけで
繋がっているのは
嫌なんだよ!
今、お互いを
見れなかったら
子供が手を離れたら
終わりじゃねーか!!」


そう言った…………

No.41

すると、結衣は


「何を言ってるの?

普通は、
子供が小さい
《今》
2人が一緒に、
子供にむいているから
子供が、離れた時に
お互いを見れるんじゃ
ないの?

私達が、今お互いを
一番に考えてたら
自分の事もろくにできない
子供はどうなるのよ!

それに、智也が

《父親》を

してくれないから
私は、ずっっと

《母親》を

してなきゃいけないのよ。
智也に都合良く
《女》
になんてなれない!」

泣きながらそう言った。



話せば話すほど………

結衣が、
わからなくなった………


言っている意味が
わからなかった………


その後、

結衣から

「智也が、
そんなだから…………
そんな

《父親だから》…………

長男に

『パパなんていらない』

なんて
言われるのよ!!!

もう……別れたほうが
いいかもね……」

と言われた。


長男にそんな風に
思われていたなんて……

ショックで言葉が
出なかった。

No.42

『別れる………?』


こんな事になるとは
思わなかった。


そんなつもり
じゃなかった。


別れる=離婚


《離婚》


そう考えただけで
過去の体験が
蘇る……………

あの、
いがみ合い
罵り合い

結婚したことすら
後悔した日々…………


『離婚だけは嫌だ……』



俺は、

「離婚はしたくない」


結衣に、そう言った。


それから、毎日
家に帰ると
話し合いだった。


でも、その頃の俺は、

まだ

《自分が悪い》

なんて、少しも
思っていなかった。


ただ

『離婚だけは
したくない。』

それだけだった。


でも……
結衣の態度からは、もう

《愛情》

は、感じられなかった…。

No.43

毎日、毎日
同じような
話し合いだった。

家事の事にしても

「どうして私が
忙しそうにしていて
子供が泣いていても

『どちらか手伝おう』

そういう気持ちに
ならないの?」

そう言う結衣に、俺が

「結衣だって
仕事で疲れている俺に

『お疲れさま』

の言葉もないんだから
同じだろ?」

と言う。


すると、結衣が

「全然違うでしょ?
私は智也が、
どんなに忙しいか
目の前で
見ているわけじゃない。

私は智也が、
目の前で大変そうに
していたら、

『手伝おうか?』

と声をかけるわよ!」

そう言う。


仕事の事に関しても、
結衣は

「働いてくれている事に
感謝してない訳じゃない。
ただ、智也自身が

『自分は働いて
当たり前なんだ』

そう思っていて
くれないと困る。

そう言っているだけ。



と言った。
意味がわからない。

結局、結衣は
俺が働いて当たり前だと
思っている事に
変わりはない。


どちらも折れようとは
しなかった。

No.44

セックスの話にしても

結衣は

「私は平日、智也より
早く起きなきゃ
ならないの。
するなら週末…………
そう思っても、週末は
智也が自分の
好きな事していて
夜中まで寝ないじゃない。

それに…
してなくたって
仲のいい夫婦は
沢山いると思う。

私は、今、セックスが
それ程大事だとは
思えない。」

そう言った。


俺が

「セックスレスになった
友達は、みんな
離婚してる」

そう言っても


「それは、
セックスレスだから
離婚したんじゃなくて、
うまくいかなく
なったから
セックスレスに
なったんじゃないの?


《セックスするから
仲が良い》

んじゃなくて


《仲が良いから
セックスもする》


んじゃないの?」


と言った。

俺にはそれも
よく理解できなかった。





そんな話し合いの日々が
続いていたある日…
結衣に

「1人で冷静に考えたい。
来週、1週間
実家に帰らせて。」

そう言われた。

No.45

長男は、まだ
冬休みに入っていない。

本当は、止めたかった。
何故だか今、離れるのは
怖かった。

《離婚》

の事が頭から
離れなかった。


でも、確かにこのまま
毎日言い合いを
続けていても
解決しそうになかった。


『仕方ないか………』


そう思って


「わかった。
気を付けて」


とだけ言った。


翌週、結衣は
実家に帰って行った。


俺は、俺なりに
その1週間……………

《自分の気持ち》

《結衣に言われた事》

を何度も何度も
考えていた…………

No.46

結衣の言葉………
俺の考え…………


《考え方が違う》


のだと思った。

でも、よく考えると
結衣の考え方が
間違ってるとも
思えなかった。

俺は、自分の事ばかり
だった。

俺が間違っている
のだろうか…………?

俺は………

『母親が相手を
してくれなくて
駄々をこねている』

《子供》
なだけなのだろうか……?

No.47

子供が産まれても、

『旦那が一番』

そういう女の人も
中にはいるだろう。


逆に、子供が産まれたら
嫁さんの事を

『母親』

としてしか見れなくなる
男もいるだろう。


俺が、結衣の事を
『母親』
として
見る事ができたら……


元に戻れるのだろうか…。

俺にそれが………
出来るのだろうか…。


いや、しなきゃいけない。
長男の言葉は
本心だろう。
あれは、こたえた。

俺は、確かに
良い父親じゃなかった。
それだけは、

《自分が悪い》

そう思った。

『親父みたいに
なりたくない』

そう思っていたのに……。

結衣は
今、どんな事を
考えているだろう…。

少しは俺の事を
気にしてくれて
いるかな………。


俺から連絡しなければ、
連絡も来ない。


返事もそっけない。


もう…………
遅いのかな…………。

No.48

1週間して、
結衣と
子供達が帰ってきた。

子供達の
顔を見れて
こんなに嬉しかった事は
今までなかった。


結衣は、
まだ迷っている様子で
ぎくしゃくしていた。

でも俺は、何故だか

《結衣とぎくしゃく
している事》

よりも

《子供と過ごせる事》

がとにかく嬉しかった。


一人にされた事で

俺の中の


《何か》


が変わった気がした。

No.49

1週間1人で
生活をしていて

『家事も大変』

なんだろうな
と思った。


1人だから、夕飯も外食。
でも、何かと
汚れた食器も出る。

毎日着替えるから
洗濯物の量も
凄かった。

これが4人分だったら…
俺みたいに

《休日》

がなかったら…

子供の相手を
しながらだったら……

少しだけ
結衣の大変さが
わかったような
気がした。

でも、結局俺は、
洗濯のやり方さえ
わからず、
そのままにしていた。




それからも
話し合いは続いた…。

結衣の

『離婚したい』

と言う気持ちは
変わらないようだった。


俺の

『離婚したくない』

と言う気持ちも変わらず
結果は出なかった。


結衣は、
もう話し合いさえ
疲れている様子だった。


俺が、

《初婚》

だったら……
ここまで、
離婚が嫌だとは
思わなかったのかな……


あんなに好きで
結婚したのに……


どうしても
別れたくなかった俺は、

少しずつ、家の事も
出来る事はやるようにした。

No.50

そうこうしているうちに
長男の冬休みに入り、
結衣と、子供達は
また実家へと………
帰って行った。


俺は、風呂上がりには
風呂を洗ったり、
自分の食器も下げたし
洗う事もあった。

それでも結衣は変わらなかった。


《私がどんなに忙しそうにしていても
手伝おうともしてくれない。》

そう言うから、手伝ってるのに……

それでもダメなのか…。

俺は、徐々に諦め始め、
離婚の事を考えるように
なっていった。

バツイチだからこそ
離婚はしたくなかった。


でも………
バツイチだからこそ
《一度なくなった気持ちは
戻らない》

と言う事もよくわかっていた。

実際に自分も…
そうだったのだから。。。

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