巡る巡り逢い
由紀子。
愛している…
また巡り逢えるなんて…
こんな奇跡って…
あるんだ…
♦前作【生まれた時から愛してる】にお付き合い頂いた皆様、お久しぶりです。
そして、初めて読んでくださる方、宜しくお願いします。
感想や、ご意見は前作の【生まれた時から愛してる 感想スレ】に、お願いします。引き続き、激励のレスを募集中!です(笑)♦
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由紀子とは、俺が毎朝行く喫茶店で一年ほど前に出逢った。
ある朝、いつものように俺は“喫茶バロン”のドアを開けた。
そして、いつものようにマガジンラックから新聞を手に取り…
いつもの窓際のテーブル席に座った。
『いらっしゃいませ。』
若い女が、爽やかな笑顔で、水とお絞りを持って来た。
新しいバイトの子…、かな。
『ご注文はお決まりですか?』
カウンターの中からマスターの声がした。
『由紀子、その人…板倉さんはモカのブラックだ。』
『はい。わかりました。』
マスターに返事をすると、俺の方を向いて
『少々お待ちください。』
と言ってから、カウンターの中へ入って行った。
俺が勇気を出して、由紀子を映画に誘った時には、カウンターの中からマスターがニヤリと笑うのが見えたが、干渉はされなかった。
俺に誘われた由紀子は、恥ずかしそうに俯いてから
『はい…。』
とだけ答えた。
何度かデートを重ね…
俺は由紀子に結婚を前提とした付き合い…
要するにプロポーズを申し込んだ。
その時も、由紀子は恥ずかしそうに
『はい…。』
と、答えた。
俺は、幸せという高山への登頂に成功したような、感動すら覚えた。
由紀子…
愛してる…。
その日も、俺は仕事を終えてから由紀子と待ち合わせをして、食事に行く約束をしていた。
“喫茶バロン”の前に、由紀子の姿が見えた…
信号が変わり、由紀子は道を隔てた場所にいる俺の方へ笑顔で駆け寄ってきた…
『由紀子ぉおーーーーーー!!』
俺は…
自分の声…
寝言で目を覚ました。
由紀子が事故に遭った、あの光景がリアルに蘇る…
《おはようございます。6月1日 朝のニュースです。》
また…
テレビを点けたままに…
まてよ…
“6月1日…?”
同僚の野田が、俺に声をかけてきた。
『よお、板倉。また飲んでたのか?気持ちは分かるが、そろそろ前向きになった方が良いぜ。こんな事を毎日続けてたら、お前の身が持たんぞ。』
『…ああ、分かってる。』
昨日と同じ台詞を野田は言った。
昨日と同じニュースを…
俺は見た…
さすがに飲み過ぎだな…。
俺は、どうかしている。
帰りに、“喫茶バロン”のある向かいの信号で、立ち止まった。
笑顔でこっちに向かって走って来る由紀子を思い出していた。
由紀子が死んでからは、この店には入っていない。
ふいに…
後ろから誰かが俺にぶつかってきた。
『ちょっとぉ!こんな所で、ボケっと突っ立ってんじゃないわよ!』
『あ…、すみませ…』
その顔は…
由紀子だった…
確かに由紀子の顔だが、化粧の濃い女。
“可憐”と呼ぶにふさわしい由紀子とはまるで別人の化粧だ。
この世に、よく似た人間が三人はいるということを聞いたことがある…
似ている…
どころでは無く、まったくの別人だが、顔は確かに
由紀子だ…
俺は、虚しく立ち止まったままで、その女が信号を渡り、バロンの方へ向かって行くのを黙って見送った…
やがて…
ブラインドの隙間から陽が射した。
朝か…
ほんの一瞬だけ、ウトウトとした。
《おはようございます。5月31日 朝のニュースです。》
なんだって…?
昨日の朝には、“6月1日”だと言っていたはずだ!
俺は、ポストに溜まった郵便物と一緒に無理矢理に詰め込まれた新聞の束を取り出した。
ダイレクトメールや、ピンクのチラシを投げ出して、一番新しく届いた新聞の日付を確認した。
《おはようございます。5月29日 朝のニュースです。》
俺のアルコール中毒は、かなり酷いようだ…。
まだ妄想が治ってはいない。
会社に行き、野田に駆け寄った。
『おい、野田!今日は何月何日だ?』
『ちょっと待てよ。何だよいきなり。お前、また二日酔いか?』
『いいから、教えてくれ!今日は何日だ?』
『いいか、今日は5月29日だ!…おい、本当に大丈夫か?お前…。』
ふらふらとデスクに着いた俺は、覚えのある仕事内容を同じようにこなした。
夢では無い…
酒のせいでも無い…
間違いなく、俺は時間…
いや、日にちを逆行している…。
あり得ない…
やっぱり酒のせいか?
帰りにバロンの向かいの信号で足を止めた俺に、また女がぶつかってきた。
『ごめんなさい。急いでいたので…』
俺を見上げたその顔は
また
由紀子…だった。
OL風のスーツを着たその女は、俺に謝ると慌てて駆けて行った。
よく似た人間が三人いるって…
二人目かよ…?
そして…
由紀子の顔をした女は、毎日のように俺の前に現れた。
ある日は、エプロンをして花束を抱えた、花屋の店員だったり…
ある日の午後に、取引先へと向かう俺の前に現れた女は、子供を引き連れた幼稚園の先生だったり…
とにかく、いろんな職業の格好をした由紀子の顔をした女が俺の前に現れた。
《おはようございます。5月2日 朝のニュースです。》
由紀子が死んだ次の日まで遡った。
その日に、俺はバロンへ入った。
『板倉さん。お久しぶりですね。』
マスターが、寂しげな笑顔で迎えてくれた。
『ここには、由紀子の思い出が多すぎて、つい…足が遠のいてしまいました。すみません。』
『いえ。私も同じですよ。あの子が逝ってから、元々この店には私一人だったことを忘れてしまって、寂しくなります。』
俺もマスターも、黙って由紀子を想った…。
俺が…
ポツリと言った。
『由紀子は、笑顔の素敵な子でした。』
『そうでしたね。あの子は、病気で一年間も入院したことがありました。その病気の時でさえも、笑顔を絶やさない、思いやりのある子でした。』
『入院?そんな事があったんですか?僕にはとても元気に見えましたが…。』
『当時、医者からは治る見込みが無いと、余命まで告知されましたが、手術が成功して、奇跡的に治ったんですよ。…ところで板倉さん、いつものモカで良いですか?』
『あ…、はい。』
“お待たせしました。”
と…
あの可憐な微笑みで、コーヒーをトレイに乗せて窓際のこの席に運んでくる由紀子を思い出していた。
『お待たせしました。』
そう言ってコーヒーを運んできたのは、もちろん由紀子ではなくてマスターだった。
久しぶりの挽きたての香りのコーヒーを一口飲んでから、
『マスター、実は…』
俺は、信じてもらえないだろうと分かりつつ、よもや話のように、ぼんやりとした口調で言った。
『実は…、ここ1ヶ月、毎日のように由紀子によく似たいろんな女性と会うんですよ。』
『いろんな女性…、ですか。そう言えば、由紀子は入院している時に、“もし、退院したら”と言いながら、こうしたい、ああしたいって、いろいろな職業の話をしていました。花屋の店員だとか、ごく普通のOLだとか、幼稚園の先生になりたいだとか…。』
マスターは、向かいの席に腰を下ろすと、胸のポケットからタバコを取り出し、俺に勧めた。
俺は、一本抜き取り、火を点けた。
マスターもタバコに火を点けると、ため息と一緒に煙を吐き出した。
『そう言えば、スナックのホステスになろうか、なんて話もしていましたよ。』
懐かしむように笑いながら、マスターがそう言った。
最初に会った、由紀子によく似た厚化粧の女を思い出した。
ホステス…
俺は、由紀子のやり遂げられなかった“夢”を、由紀子の代わりに見ていたのか?
叶えられなかった由紀子の“夢”の幻を見ていたのか?
それとも…
死を宣告された時の由紀子の強い意志が…
“生きたい”という思いが、時間を超えて届いたとでもいうのか?
俺にとっての“明日”は、由紀子が死ぬ日だ。
なんとしてでも、それを止めなくては…!
《おはようございます。5月1日 朝のニュースです。》
俺は、いつものテレビで日にちを確認した。
間違いなく、今日…
由紀子は死ぬ。
俺は、あの事故を阻止すべく、待ち合わせの時間よりも早くバロンの前に着いて、由紀子を待った。
由紀子…
由紀子が生きている!
良かった…
俺達には、まだ未来がある。
もしも明日になって、また日にちが遡っていたらどうなるんだろう…?
いや、今はそんな事どうだっていい。
由紀子が生きてくれてさえいれば…。
《おはようございます。…月…日 朝のニュースです。》
いけない…
またテレビを点けたまま眠っちゃったのね…
板倉さんが亡くなって、もう1ヶ月も経つっていうのに…
眠ると、板倉さんが跳ねられた時の、あの夢ばかりを見てしまう。
もう、忘れなきゃいけないのに…
あれ?…
今、テレビで6月の何日って言ってた…?
【完】
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