ブラックボックス
【今後の私】がまだ続いているのにも関わらず、また新たに書いてみようと思ったので書いてみます。
メインが【今後の私】ですので今から始めるこの話の更新は時に隔日・隔週になるかもしれませんが良ければ感想宜しくです🍀
※素人が書く物なので中傷誹謗がないようお願いします。文脈の誤字脱字は予めご了承下さい☝
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明日香は無言のまま起きると父をただ見つめた。
「どうした?おばあちゃんの事か?」いつもと違う明日香の様子を気付いたか、ネクタイを緩めながら父は話を続けた。
「病院なら仕事帰りに寄ってきたぞ、先生ともちゃんと話したし」父はワックスで固めた髪を崩し、冷蔵庫からビールを手にしようとする。
「お父さん…おばあちゃんの事もだけど…」
父の行動をただ一部始終を見ていた明日香だったが、父がビールを口にする前にようやく明日香は口を開いた。
お酒を飲まれては大事な話が出来ないからだ。
視線の先に倒れている写真立てに気付いた途端、麻子の表情は変わっていった。
陽平はそれを知らずに麻子の首筋に口付けをし、その行為を止める様子は一向に見受けられない。
麻子の手を握り、手の甲にも口付けようとした矢先、ようやく陽平も麻子の異変に気が付き始めた。
握ったままの手とは逆に、もう片方の麻子の手が倒れた写真立てに手を伸ばそうとする様子が陽平の横目に映り込んだ…。
最早、麻子の視界は写真立てのみに向けられ、陽平との行為どころではなくなっていた。
まるで嘘のように、つい先程まで赤く昂揚した麻子の顔色は今では青く血の気が退いていた。
そんな麻子の表情を見た途端、陽平は胸がざわめくような、胸が締め付けられるような想いに変わってゆく。
それが衝動から行動へと移り変わると陽平は麻子よりも先に写真立てを奪うような形で手を出していた。
「あ‥‥」麻子はなんとも言えぬ悲痛な声を出した。陽平は手にした写真立てを咄嗟に見た。
麻子が別れた夫の写真をまだ大事に持っているのだと思い、嫉妬に駆られた。思わずした自分の行動だが、写真を見た途端、陽平は麻子に掛けるはずの言葉を失ってしまった。
写真の中には大人2人とその間に小さな赤子1人が写っていた。
1人は麻子自身であり、赤子は恐らく麻子の娘(明日香)だろう。ただもう1人は陽平が思っていた人物とは違っていた。
2人、言葉を失えば辺りに静寂だけが漂う夜更けの出来事だった。
感情的になっていた2人はいつから時間を忘れていたのだろう。
酒に酔った事で感覚を狂わせ、欲に溺れ、時間を忘れていた2人の間にまた違う時間が刻まれようとしていた。
写真の中に映っていたもう1人の人物はとても麻子に似た人物だった。
しばらくして陽平は沈黙を破った。写真立てを麻子に返す際、また麻子を抱き締めた。
「麻子さん、また日を改めます」
「今日は帰ります」
その言葉に陽平の胸の中でコクンと麻子が頷くと陽平は麻子から離れた。そして陽平は振り返らずにドアへと向かう。
「気を付けて…」
そんな陽平の背を見送りながら今言葉に出来る事を麻子は言った。
身に付けていた腕時計を見る。時刻は午後11時を少し回っていた。
会社の定時が午後6時。会社の周辺では誰が目撃するかわからないため、麻子とは会社の最寄り駅から少し離れた駅で待ち合わせをし、スペイン料理店へと向かった。
店に着いたのは確か午後7時近くだったと記憶している。
そんな事を考えつつ、麻子のアパートを後にした陽平は歩きながら駅へ向かっていた。
幸いまだ終電には間に合いそうだ。この日、麻子に伝えたかった言葉を陽平は伝える事が出来ずに帰路する事になった。
「どうした?何かあったのか?」
父はビールを飲む事なく、元の場所に缶ビールを戻した。
「大事な話があるの…」
さっきまで父の様子を見ていた明日香だが、いざ父に話そうとすると言葉に上手く表せず、思わず顔を俯いてしまった。
「まず風呂に入ってからでもいいか?」
そんな時、突飛な言葉が父の口から出た。思わず明日香は顔を上げる。そしてそのまま父は話を続けた。
「明日香、もうご飯は食べたのか?」
「まだ食べていない…」
「じゃあ、お前の食事が終わってから話すか?」
「わかった…」
父はそれ以上深く問う事もなく、淡々と明日香に話すとバスルームへと姿を消した。
食事をする気分ではないが、とりあえず明日香も気持ちを切替えるために食事をする事にした。
一口二口と食べ物を口にしたのはいいが、
これ以上食べる気にもなれず、明日香は食事を早く切り上げキッチンを後にした。
リビングに向かい、ソファに座るなり小さく息を吐く。ソファに深く背をもたれ、静かに目を閉じると明日香は色んな事を頭の中で巡らせていた。
“父と母が別れた理由”
“祖母と母の関係”
“母の事や手紙の事”
“そして私の事…”
どれからまず話せばいいのだろう。どれが触れていい事なのかわからない。いや、触れにくい話ばかりだ。
ただどれもがいずれ話す機会があると明日香は本能的に感じていた。
「もう食べたのか?」
明日香の背後から父の声が聞こえたかと思うと父も明日香と向かい合わせる形でソファに腰を掛けた。
「お父さんもお風呂早かったね」
自然と明日香の口から言葉が零れた。あまりにいつも通りの父に少し安心したかもしれない。
「ところでさっきの話だが進路の事か?」
安堵も束の間で見当違いの話をし出す父に明日香は苦笑した。
「違う、家の話」
父の問いに即否定をするとするりと出た自分の言葉に明日香は驚いた。
「おばあちゃんの事じゃないって言ってたな…母さんの事か?」
父は腕を組むと何かを思い出すようにしてポツリと呟いた。
「私、今日…おばあちゃんの部屋から手紙を見つけたの」
「手紙?」
父は明日香を見据え、明日香は静かに頷いた。
「どんな?」
父がまだ入浴中だった時に明日香は祖母の部屋から手紙を拝借し、自分の服のポケットに入れていた。ポケットの中からその手紙を取り出すと明日香は父に手渡した。
黙ってすぐに受け取ると父は手紙を読み始めた。
その様子に明日香は“この手紙は父も知らない物なのか?”という疑問が脳裏に過ぎる。
封筒の中には2枚綴りで祖母に宛てた内容が綴れており、母自身の今の近況報告と離婚の時の事が記されていた。
明日香が真相を初めて知ったのは後者である離婚の事だった。
明日香はずっと離婚の原因は自分にあると思い続けていた。
両親にいつ捨てられてもおかしくないと思っていた。
だからどうしても幼い日から両親に興味が持てずにいた。
寧ろいつ捨てられてもいいと思う事で、
自分の心の均等を幼心ながらに保たせていたのかもしれない。
手紙を読み終えると父は言った。
「言わずにいた俺にも責任はあるな…」
「今頃になったが明日香…初めて自分から聞いてきたな」
父は立ち上がると大きな手で明日香の頭を撫ぜた。その手の温もりに明日香の緊張の糸が切れ、明日香の目から大粒の涙が零れた。
父も母もずっと自分の側にいた。
こんな自分を大事にしてくれていた。
二人と距離を置いたのは臆病な自分。
ずっと愛してくれている二人の愛にどう触れていいか解らずにいた自分。
未熟過ぎる自分の心に明日香は悔いるだかりだ。
涙は拭っても拭っても止まらず、時折、気管に入りむせる事もあった。
父は明日香が落ち着くまで待ってていてくれた。
そんな無器用な優しさにまた明日香は涙が止まらなくなる。
やっとの思いで明日香が泣きやむと父がソファに座り直し、静かに話始めた。
今は住むこの家は元々父方の祖父の物で、
祖父が亡くなってからは名義は祖母に変更されその後、数年は祖母がこの家で一人、暮らしていたらしい。
父も母も結婚した当初は両家の実家から離れた場所に住んでいたが、一人身寄りのない祖母を置く訳にはいかないという話になり、
明日香が物心付くか付かない頃に明日香と母を連れ、実家に戻ると祖母と合わせて家族4人で暮らし始めた事を教えてくれた。
ただここからは父の見解であり実際、母の口から聞かないとわからない事だが、どうやら母と祖母は不仲だったみたいだと父は言った。
「結局、嫁姑問題に気付けなかった俺にも原因があるし…」
「俺への不信感と俺の母親が嫌で堪らなかったんだろうな…」
と父は言うとそれ以上話そうとはしなかった。
話は途中で中断し、父と娘の間になんとも言い難い空気が流れ始めた。
明日香はまだまだ聞きたい事が山程あったが、またどうしていいか分からず俯くしか出来なくなっていた。
正直言葉を紡ぐ事の出来ない自分に対し、明日香は苛立ちさえ覚えた。
視線を落とした矢先、明日香の耳元で何か小さな物音が聞こえ始めた。
カリカリカリ‥‥
もう一度顔を上げ、父の方へと視線を戻すと、明日香の目の前でテーブルに置いてあったメモ帳に向かい、父が徐にペンを走らせていた。
「?」明日香は不思議に思い顔を紙に向かって覗かせた。
紙には数字の羅列が記されている。出だしの数字から見て携帯番号だとすぐにわかった。
「番号が変わっていなければ繋がるはずだ」
そう言い、書き終えると紙をちぎって父は明日香に手渡した。
「これ誰の番号??」
「お前がまだ聞きたいと思う事があればお母さんに聞けば分かる」
「‥‥‥。」
「俺が今話せる話はここまでだ」
父は私が聞き足らない事に気付いたのか?
ソファから立ち上がると父はキッチンに向かい、ビールの缶を開けた。
パシュッ!開いた瞬間の心地良い音が鳴る。
その音がソファに座っている明日香の元まで聞こえたが、明日香はその場から微動だする事なく、渡された紙をじっと眺めていた。
空は粉雪が舞う早朝の事、墓前には白い百合の花が供えられ、お線香に火をつけると白檀の香りが周辺に籠める。
墓前の上には前夜から降り続けた雪が積り、手で軽く雪を落とすと麻子は墓前の前で手を合わせた。
墓石に彫られている名は宮下ある。シンシンと舞い散る粉雪は肌に当たると肌の温もりですぐに溶けてゆく。
墓石の裏には麻子の祖父母の名を始め、麻子の両親、そして麻子の姉の名が刻まれていた。
祖父母は老衰で亡くなっているが、両親に関しては交通事故という不慮の事故に遭い、この世を去っている。
姉に関しては両親が他界した後、麻子にとって唯一残った肉親であったが、当時は姉まで麻子の前からいなくなるとは夢にも思わなかった。
麻子が今住む四畳半の木造アパートの一室には小さな小窓が二つあり、
その内一つの小窓は建物の構造上、位置が悪いのか、あまり陽の光が当たらない場所に設けられていた。
陽の光があまり入らないその小窓はどこか淋しく、殺風景だった。
麻子はその場所に幾つか飾り物を置き、その中に写真立ても立て掛けていた。
写真は勿論、姉と娘の明日香と自分が映っているのだが、その写真は姉が生前生きていた最後の写真でもあった。
あれ以来、麻子と陽平は職場で顔を合わす機会が少くなっていた。
正社員の8時間労働に対して、パート社員である麻子の勤務時間は4~6時間であり、正社員に比べて勤務時間も短い。
時間のズレも勿論の事だが、あの日の翌日、
工場長により麻子は陽平がいる第一生産課から第二生産課への移動が命じられ、部署が変わってしまう。
第一生産課は技術がいる仕事が多く、機械の整備は勿論、それに見合うある程度のスキルが必要する所でもあった。
ここが主力の製造ラインでもあり、工場の生産はここで全て行われていた。麻子はここで封筒を箱に詰め込む流れ作業を行っていた。
一方、第二生産課は製造された品物の検査や検品を始め、在庫の管理や出荷といった主に最終工程を行う場でもあった。
麻子や陽平が勤める工場は2階建てで、搬送用の在庫置場・事務所・食堂が1階にあり、第一生産課と第二生産課は2階に位置する場となっている。
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