沼に架かる橋

レス1 HIT数 432 あ+ あ-


2023/10/24 23:35(更新日時)


また来てしまった。もうずいぶん冷えるようになった。デジタル時計に目をやる。夜中の一時。毎晩毎晩、俺は何をしてるんだろう。欄干の上で腕を組み、もたれ掛かかる格好で空を見上げてみる。あの星、あれが一番光ってる。あの星、あれはなんだか赤いな~。あ、飛行機。凄いな~、星と並んで飛んでるよ。月って、あんなに丸いんだ。首が痛くなった。それからぐったり項垂れて、深いため息をつく。何をやっても上手くいかない。誰ともわかり合えない。何も興味がない。やりたいこともない。何も思い付かないんだ。俺、どうしたらいい?つまらないよ、こんな人生、、。煙草に火をつける。ずっと先の対岸に見える、何の明かりかわからない、その明かりに向かって、思いっきり煙を吐き出す。、、、つまらないよ、こんな人生。

俺は先月で28になった。繰り返す転職、先日また一つ記録を更新したばかり。今は働いていない。人生で初めて、失恋というものを経験した。鈍い痛みが今も残っている。自分がどうしようもなく惨めで不甲斐ない男に思えた。世界中のどんな女性にも、きっと釣り合えないんだろうと、感じた。仕事なんてもう、できなかった、、。
俺は家族と縁を切っている。地元から遠く離れた地で、安いアパートを借りて、一人暮らしをしている。友達なんて一人もいない。知り合いもいない。元来孤立型の人間なのだと自覚しているが、それでも時々、どうしようもない寂しさに襲われる。そんな時、ふと思い立って散歩に行く先は決まっている。アパートから5キロくらい離れた所にある、広い沼のある公園だ。広場から森の中へと続く細い道があって、そこ突き進むと途中に、沼に架かる橋のある所に出られる。俺がここに来るのは決まって夜中だ。真っ暗で、誰も来なくて、一人になれるから。ここは本当に暗い。何度も来ている俺でさえ、その場の雰囲気に慣れるのに多少時間がかかる。でも好きなんだ、ここが。欄干にもたれ掛かり、遠くを見るともなしに見つめながら、これからの身の振り方について考える。ずっと独りは寂しいよな~。やっぱり家庭は持った方がいいのかな、、。この俺が!?まさか、、できないよな(笑)相手もいないんだもん。何かやりたいことはないか?なんでもいんだぞ?自由なんだからさ。、、やりたいこと、ないな、、。もう気になることは一通りやって来たんだし。今さらな。橋の上を、端から端まで行ったり来たりしてみる。失恋のことや、次の仕事のこと、学生の頃の友達のことを思い出してみたり。やり場のない気持ちを、少しでも言葉にして吐き出してみる。寒い。ポケットに手を突っ込み、ジャンパーに顔を埋めるようにして歩く。タバコを吸う。缶コーヒーを飲む。また歩く。考えることがなくなっても、ひたすら繰り返す。まだだ、まだアパートには帰りたくない。もう少し、もう少しだけ、気晴らしをしたい。ポチャン、、魚が跳ねた。この沼、けっこう魚いるんだ。カモが列を成して泳いでる。俺はただ、茫然とそれを見つめる。何も感じない。ただ、見ているだけだ。
「はぁぁ、、じゃ、また来るわ」。沼にさよならを告げる。今夜も、何も思いつかなかったな。なんで俺、いつもここ来ちゃうんだろ。、、、なんでだろうな(笑)
その答えが、いつかわかる日、くるのかな。(終)

No.3903768 (スレ作成日時)

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No.1

とても読みごたえがありました

せっかくなので、(終)ではなく、
続きをお待ちしております

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