これは、作者の小説のラフみたいなものです。
しばらく廊下に沈黙が続く、と、思ったのに、予想外な反応が跳ね返ってきた。
「あっははは、ふっ…」
どうやら、大爆笑らしい。
何が楽しくて面白いのかわからないけど、怒られるよりはマシかな?
「えっと…。す、砂原君?」
数分間大笑いするものだから、流石に心配になってきた私は、砂原に問い掛ける。
「あ、あぁ。ごめん。ふっ、あまりにもっ面白くて、っあっは」
所々笑いが混じった返答だったが、そこは気にしないでおこう。
というか、どこにそんな面白さを感じたのだろう。そこまで、面白いことはしていない。寧ろ、薄暗い廊下で一人ブルブル震えながらブツブツ呟いているだけであったのに…普通は引かれる、という反応が妥当だろうに。
そんな常識的なことを考えていると、いつのまにか正常を取り戻した砂原が言う。
「こんな奴が、弱いものいじめとか姑息なことやるわけねーな。てか、虐めてたら立花の事助けないもんな」
「こんな奴」、と言われたことで、地味に憤怒の感情が湧き出しそうだったが、どうやら立花さんへの誤解は解けたようなので我慢して気持ちを抑える事にした。
でも、まだ安心はできない。もしかしたら、そうやって信用したフリをして次の日。今日の一連の出来事、「橘羽夜が方向音痴で怖がりのバカだ」って言いふらされるかもしれない。
誤解が解けてるかの確認も込めてもう一声言っとこう。
「た、立花さんの事は本当に誤解だからね!あれは、起きあがらせようとしただけで…」
そう再度叫ぶように訴えると、砂原は、申し訳なさそうな瞳で言った。
「分かってるよ。俺が悪かった。まじごめん。」
こんな紳士に謝ってくれるとなんだか責め辛い……
まぁ、立花さんを守ろうとして誤解しちゃったわけだから、根はいい人なんだよね?なら、これくらいいいか。
なんともルーズな決め手だが、砂原にとってもこれが最善策だろう。
「いや、もう全然気にしてないからいいよ。結局誤解は解けたしね。」
そう言って爽やかに笑って見せたのだが…
ちゃんと笑えてるかな⁈てか、喋り方おかしくないかな⁈
小学生の頃に、友達という友達がいなかった羽夜にとっては、このような些細な行動でも死ぬほどの労力を使うのだ。
当の笑顔を向けられた砂原は、そのぎこちないながら優しい笑みに、愛らしさを抱いていた。
色恋沙汰なんて嫌いだ。そう思っていた心の鍵を一錠開けられた気がしたのは気のせいだったのか、はたまた本当だったのか、今の砂原には確認するほどの余裕が無かった。
「そういえば、お前、名前なんて言うんだ?」
名前……これで誤解を生んだんだよな〜
「橘羽夜。『橘』は木編の方だから、た…彩さんとは漢字違いなんだ。それでクラスの子にも誤解されたらしくて。」
それを聞いた砂原は、少し驚いたような瞳をして反応をする。
「そうだったのか、まぁ立花が隣じゃないなら他の『たちばな』って名前の人だと思ってたけど、まじか。」
驚いたものの、半ば、想定内のようだった。
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「ややこしいよね。私自身も同じ名前の人がいるのは、間違えちゃうから、あんまり嫌だなぁ。あ、でも別に彩さんが嫌いとかじゃなくてーー」
慌てて言い換えると、砂原は、優しそうに笑う。
「あはは、分かってるよ。俺は、そうゆう経験ないけど、話し掛けられて違う人だったら恥ずいしな。」
うんうん!そうなんだよ。先生も、離してくれればよかったのに…まぁ能力の問題で仕方ないんだろうけど。
「誤解が解けて良かった。砂原君は、あんまり被らなそうな苗字だよね。」
「まぁーそうだな。でも、自分が気付いてないだけで、同姓なんてそこらじゅうにたくさんいると思うよ。百七十万人の中で同姓同名が起こるだろう人は 三五万八千人になる。 これは 百七十万人のデータの 三三%。だから、三人に一人はになりうる相手があるということになる。 これでは漢字の名前といえども個人を識別する能力は無くなってるな。」
へーそんなにあったんだ。
でも、まぁ…
「最近は、綺羅綺羅ネームが増えて被らなくなってるけど、昭和以後の名前とか、完全に同じじゃなくても、似ているの多いもんね。」
「そうだな。 因みに、女性名で同姓同名が多いもの一位は、『鈴木和子』だ。昭和以後の名前で多い『和子』なんだが、『鈴木』の苗字は、男女平同に関東地区で多い。俺としては、同姓同名にどの程度の情報を付加することによって個々人を意識することが可能であるかが重要だと思うな。」
そんなこと考えもしなかったなぁ。
でも、そっか。立花さんの事だって、今日の出来事ではじめて意識したし、自分達のために情報の付加は必要なんだろうね。
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
「あ、最終下校の予鈴だ。」
「お、そうだな。じゃあ帰るか。」
生憎、鞄を二人とも持っていたので、教室に戻ってから行く必要はなさそうだった。
「橘は、家遠くないのか?」
なんでそんなこと聞いて…って!
「電車がもうない!」
そう、私は電車通学なのだ。
行った通りに、電車の終電は終わってしまった。
それも、今は七時半なのだが……
「あちゃー、今日七時二十五分から運行終わりだもんな。道路交通法関係で、」
そうなんだぁよ。
「ど、どうしよう」
現実を受け入れると、本格的に絶望が広がってくる。
「いや、でも…歩いていけるけるはずだし…。だ、だいじょう…」
それを即座に自嘲的な笑みで遮られる。
「その、学校でさえ迷っちまう方向音痴がか?」
うぐっ、ごもっともです。
「スマホないのか?微妙に遠いし、送り届ける事はするけど。」
私はスマホを所持していない。これも養子の身、だと言うところからの遠慮と意地だ。
「持ってないんだ。送り届けは、しなくていいよ。砂原君も早く帰らなきゃ親御さん心配するだろうし、」
「いや、だったら橘は女子だからもっと心配じゃん」
うーん。正直、女子って所を誇張されると、覆せない事実だから嫌だな。
でも、やっぱり…
「大丈夫だよ。今日はたまたま迷っちゃっただけだから、自分の家の道のりくらいわかるよ。中学入る前に、下見?も兼ねて確認に行ったこともあるしね。」
それでも説得力がないのか、不安そうな顔を浮かべる砂原。
「あのさ、道のりとか以前に、襲われるとか思ったりしないのか?」
襲わ、れる?
「考えたこともなかった。」
正直な感想を述べる。
「……やっぱお前、ズレてるしトロいな。」
どこか楽しそうにしている口調で砂原が言った。
むぅ、ズレてないし、トロくない‼︎
「私なんか、誰も襲わないでしょ⁉︎」
そう叫びながら言い放つと、砂原は私の顔と体を数秒間凝視してからポツリと言った。
「いや、そんなわけないね。出逢ったら襲われる奴ナンバーワンじゃねーか。」
そんなわけないのにっ!
悲痛な叫びは、砂原によって静止されてしまった。
「まぁ、いいけど。迷って困るのはお前だしな。」
………砂原は、ずるい。
数秒間の沈黙の後、私の結論は出た。
「もしよければ、…送ってくれない?」
砂原に少々、いや結構イラついていたので睨みを効かせながらそう言うと、砂原はキョトンとした顔になってから盛大に吹き出した。
え、な何⁈
「ぷっはは、その上目遣いも計算じゃないことだけは分かるよ。」
はぁ、上目遣い?ガン飛ばしの間違いでしょ。
「ちょっと砂原君の言ってること理解できない。でも今は、禄が家で待ってるから早く帰っていいかな?」
そう失礼な物言いで砂原に向かうと、砂原は瞳を少し疑念の色に変えて問いかけてくる。
「禄ーーって誰だよ。」
え、別に誰でも良くない?
悶々と胸に何か突っ掛えた気がしたが、送ってもらう身なので話そうとしたら、砂原は昇降口を目指して歩き始めた。
「早く帰りたいんだろ、行くぞ。」
そう言ってスタスタ歩く砂原と少し距離ができてしまったので、とてとてと急足で小走りする。
ふぅ、やっと追いついた。
「で、禄って誰?彼氏とかか。」
「えっ!違うよ⁉︎」
どこから聞いたら彼氏という結論になるのだろう。 それに禄は私の弟だ。血は繋がっていなし一才違いだけど、一応家族と言う以上、付き合えるはずもない。
「禄は、弟だよ。一才違いなんだけど、すごく可愛くて。今日も私と勉強会するつもりだったんだ。随分遅くなっちゃったけどね。」
だから、なるべく早く帰りたいんだ。と、付け足しながら事実、経緯を淡々と述べると、砂原はふっと優しい表情を見せる。
「お前のそうゆうとこ、好き。」
……What are you talking about? (何言ってるの?)
突然好き、という単語が砂原からどうして出てきたのか、理解に苦慮する。
ただ早く帰りたい、と、私欲を伝えただけなのに…わがままになっただけなのに、可笑しい反応だ。
「う、ん。ありがとう?」
まぁ、砂原のことだろうから、これは友情の中での「好き」ということだろう。認めてもらえたということで、お礼は伝えておく。
「そこで御礼を伝えるあたり、やっぱりズレてるな。そこがいいと思うけどさ」
はい⁈ズレてるのは貴方でしょ!しかもズレてることって全然いいことじゃないし…。
ーー私は、人と違う。それ自身を否定するつもりはないし、その事について諦めることもない。それでも、どうしてか思ってしまうのだ。
普通だったらどんなに良かったか。
実の親の記憶はなく、体も人より成長していて、国語の能力だけが長けている。
一概に、メリットがあることだってある。でも、デメリットの威力は、数こそないものの一つの刃が凄まじかった。
親がいないことで苦労した事は勿論あった。
それでも壊れずにいられたのは、雪さん達ーー養父母のおかげだろう。そして、壊れかけているのも同様に、養父母の所為だった。
弟は可愛い。でも、私が弟と呼んでいいのだろうか?
その事で禄に嫌われてしまうかもしれないのが恐くて、禄の目の前で、おおっぴろに弟ということを公言する事はなかった。
もし、私が普通に暮らせたらーー
そんな願いだって、自分が普通じゃない以前には成り立たない事であった。
何か、聞こえてくる。暗闇の中から何か……
「たーーなーーーーたっーーー羽夜‼︎」
ふぅえ⁈
気がつくと、砂原の顔が目の前にあった。
ぎょえぇえー、ちっか‼︎
「す、すすすす砂原君⁈」
即座に退けぞってから、呼吸を整える。
動揺して、告白する前に「好き」といえず、頭文字だけを何度も言っている様な言い回しになってしまったが、今はさほど気にすることではない。
「!……びっくりした。急に意識戻んなよ。」
なんとも理不尽な。まぁ、砂原がいるのにぼーっとしちゃった私も悪いけど…
「顔近づけてきた砂原君もどうかと思うよ⁉︎」
そうだそうだ、と、心の中で自分の意見に同意する。
年頃の女子にこれをやったらイチコロだったと思う。
無論、私だって年頃の女子なのだが、美形な兄と弟のおかげ、と言ってはなんだが、耐性があったので砂原に堕ちずにすんだのだ。
「あーそれは、悪かった。だけどな、急に隣にいる奴が話し掛けても応答しないでぼーっとしてたらほっとけないだろ。」
うっ、分かってるけどぉ…
私がそれでも諦めず文句を紡ごうとした瞬間だった。
「はーちゃん‼︎」
「羽夜…」
「「羽夜ちゃん〜」」
各々のテンションで、家族(仮)が私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
ちなみに、右から義弟、義兄、養父母の順だ。
「みんな⁈どうして、学校にいるの。」
ここは、学校を出て直後にある露店の近くだ。簡易的には、学校と言ってもいいだろう。
しばらく黙っていた皆んなは、顔を安堵の色に変えてから言う。
「はーちゃんが、全然帰ってこないから…」
「電車、七時くらいで終電だったろ。だから、迎えにきた。」
「心配したのよ〜。でも、お友達と一緒に帰れてて、安心したわ〜」
「いや、雪さん!これは、友達なんてものじゃないだろう。もしやっ⁈か、彼氏…」
十人十色、個性の強い家族である。
「皆んな、心配させちゃってごめんなさい。この子は、砂原君。お義父さんが思うような関係ではないから安心して!」
明らかに安堵したお義父さんーー夏樹さんと、あからさまに残念がるお義母さんーー雪さんが、互いの思考を確認し合うような目線を送っていた。
砂原が、改めて養父母と兄に挨拶を交わす。
そんな中、私は、義弟を見つめていた。
禄……眠そうね。
私が見つかった安心からすっかり緊張が外れ、欠伸をしている禄に近づく。
「ごめんね、勉強会できなくなっちゃって。あと、眠かったのに来てくれてありがとう。」
それを聞いた禄は、少しキョトンとしていたが、すぐに向日葵の咲くような笑みを浮かべて言った。
「当たり前だよ!はーちゃんが無事だっただけで僕は、十分‼︎早く帰って、勉強会の代わりに一緒に寝よう。」
勉強会の代わりを提示してくれるのは、私に罪悪感を抱かせないためか。なんともできた子だろう。姉として誇らしい。
我ながら弟バカだとは思う。けれど、やはりこの可愛さには抗えない。
だから気が付かなかった。禄がーー砂原に向けて、不敵に微笑んでいるのを。禄の想いに、気づくはずもなかった。
⁑ ⁑ ⁑
「改めて砂原君、送ってくれてありがとう。」
あの後、家族と合流した私は、家族が乗って来た車に砂原と乗車した。
「いや、結果的に俺が送られる側になっちゃったし、逆に御礼を言う側だよ。ありがとな」
そう、今私達は、砂原の家に向かっている。
折角だから〜、と、雪さんがいった時に私は、サムズアップをしそうになった。それくらいナイスな提案なのである。
「いやーでも、翔君の家が砂原ミートだとはねー。驚き、驚き。」
さして驚いていない様子で夏樹さんが、言う。
「でもねぇ、これで将来安泰ね〜。翔君は、継ぐんでしょう?それとも、他の夢があるのかしら!」
「いいえ、継ぎます。ですが、……夢は、あります。」
「まぁ!夢のある男の子は良いわね〜。羽夜を安心して送り届けられる将来性もあるしね〜。」
はっ⁈雪さん何言ってんの!
「だ、だから!砂原とはそんな関係じゃないですって。しかも、今日話したばっかだし…」
雪さんは、冗談だか本当だかわからない口調で言ってくる事が度々あるので少々、いやかなり困っている。
雪さんは、そう?と、悪戯な笑みを浮かべながら言った。
「私はね、分かるのよ。結婚したら、翔君は必ず…大切にしてくれる。あらあらぁ私ったら、中学生のあなた達にはまだ早かったわね〜。うふふ」
早いも何も、砂原は遠い目をしている。完全にやばい奴だと思われたよ…。
「砂原君も、気にしなくて良いからね!」
フォーロは入れとくが、砂原の耳には、てんで届いていないようだった。
バタンッ
車が閉まる。
私は、砂原が工場に入るまで、窓越しからずっと見つめていた。
そして、工場に入る直前、再び車の方向に向き直った砂原は、歯を見せて笑いながら、車が発車するまで手を振り続けていた。
「きゃ〜。あれは、羽夜ちゃんの事が好きね!ドキドキね〜!うふふ、応援してるわ〜」
勝手に応援されては困るのだが、あれは正直、自分もドキドキした。
プリンセス発言は、砂原のような美形な人にされたら、誰でもドキドキするだろう。それにプラス髪に口付けだ。意識しない方が可笑しい。
「なっ!お義父さんは、認めないからなー!」
「羽夜!アイツは誰だ?」
「はーちゃんは僕のお嫁さんだもん!」
私は、五月蝿い男性陣に負けじ劣らずに五月蝿いため息をついた。
「っはぁーーー」
砂原のドキドキよりも、学校で目立つかもしれないことへの、恐怖へのドキドキがひどく優っていたからだった。
3
次の日、私は学校で四六時中砂原と談笑していた。
いや、砂原がやけに話しかけてくるからだけどね⁈
「す、砂原君…そろそろ体育の時間だよ。」
そう言うと、砂原は、だからなんだ、と純粋な瞳で問いかけてくる。
「体育、そうだな。橘は、得意なのか?」
「えっ、あっ…。得意では、ないかな。」
素直に質問に答えてしまったが、それ以前に問題だ。
「あっあのね!今から更衣室行くの!着替えるの!流石にそこまで一緒は、モラル的にどうかなぁって…。他の子もいるしね。」
やっと伝えたい事が、言えた。
そこまで聞くと、砂原ははっと気がついたような表情を浮かべていった。
「ごめん、そうだよな。忘れてた。じゃあ、また体育の時間で。」
男子更衣室を目掛けて走る砂原を見送ってから、私もまた、女子更衣室を目指した。
ガラッ
女子更衣室の中には、数人の生徒がいた。もう何人かは、着替えが終わっているらしい。複数人で固まって大暗唱している様子の人がいた。
私は、目立たない隅の方に移動する。
参考:探偵チームKZ事件ノート
主人公 橘羽夜
あらすじー羽夜は、KZに所属している彩と外見がとても似ているため、間違えてKZ会議に連れられてしまった。半ば、勘違いでKZに所属することになる。
中学一年生になり、学校に行くと、またもや彩と間違われ、いじめられる。
そんなところに彩が来て、誤解を解く。彩が蹴られたので、起きあがらせようと手を差し伸べたら、美形な男の子によって阻止されてしまう。それが、砂原翔だった。
自分がいじめに介入していると誤解された羽夜だったが、ホームルームで彩を助けたことにより砂原からのいじめ疑惑はほとんど消失。
帰ろうとしたところ、道を間違えてしまったのか羽夜は学校ないで迷ってしまう。
突然、腕を掴まれたので、変な悲鳴をあげて振り向くとそこには砂原がいた。砂原をお化けだと思ったと言ってしまい、謝る羽夜。
そして、このシーンからの始まりです。
(語彙力は墓に埋めてきました。すみません)
丁度私が、談笑している彼女達から気付かれないように隅に移動した時だった。
彼女達の一人が、悪意のある笑みを浮かべてこう言ったのだ。
「たちばなさんってさー、ウザイよね。」
………あぇ?これって――彩さんの事!?陰口(悪口)?!
だが、数秒たってから意見を改める。
いやいや、まだ決まった訳じゃないよね。私の可能性だって十分あるし……。
「分かる。今日も、国語の授業中出しゃばってたよね!」
あ、彩さんだ……。
今日の国語の授業は、それなりに難しかった。
私としてはそれほどでもなかったのだが、皆が先生からの問いに答えられていなかったところから、一般的には難しかったのだろう。
答えられたのは、こっそり答えを先生に耳打ちした私と、彩さんであった。
そのことで彩さんはクラスメイトから称賛を受けるのだが、彼女達はそれを面白くないと思っているのだろう。
うーん。正直言って陰口は嫌だけど、直接手を出されているわけじゃないし、わざわざ危険を犯してまで止める必要はないよね。
モヤモヤとした心に整理を付けた時だった。
ガラッ
「なっ!立花さん…。」
リーダーらしき人物が、予想外の本人登場に驚いたようにその名前を呼ぶ。
「はい?何でしょうか。」
彩さんは状況をつかめていないものの、少し警戒をあらわにして言った。
噂をすれば、とは、このような時に使うのだろう。
胃が、途轍もなく痛みを覚えた気がした。いや、気がした、ではなくそうなんだろう。
はぁ…憂鬱
なんで秋って、スポーツがあるんだろう。
クラスでトップ10に入るくらい足が速い子はいいと思うよ?でも私みたいな鈍足は、持久走とかトラック走は地獄でしかないんだよなぁ。
彩ちゃんもスポーツは苦手って言ってたけど、きっと私よりは体力も筋力もあると思う。
だって私、持病があるもの。少し走っただけで肺がキュッて締め付けられて、心臓がキリキリ痛くなる。
だから私は、単純にスポーツが嫌いだからってだけじゃなく、病気の所為でもあるんだ。
でも病気の所為にするのは嫌なんだよね。だから極力体育も見学したくないし。
でもやっぱりやだなぁ。
なんて思いながら体育着に着替えていると、いつのまにか着替えが終わっていた凜花ちゃんが話し掛けてきた。
「羽夜ちゃん、さっきから溜息ばっかり吐いてるね。どうしたの?」
凛花ちゃんに心配を掛けさせてしまった。
「なんでもないよ。強いて言えば、ちょっとトラック走が憂鬱だっただけ」
また溜息が出そう…
「あぁ、羽夜ちゃん持病持ちだしね。大丈夫?先生に言ってるの」
凛花ちゃんには持病の事を伝えている。もっとも、凛花ちゃんが質問してきた先生には言っていないんだけどね。
「先生には秘密にしてるんだ。この事で特別扱いはされたくないからね」
そう言うと、凛花ちゃんは険しい顔持ちで言葉を溢す。
「初めて会った時も思ったんだけど、羽夜ちゃんって自虐?というか自分自身を軽く見過ぎてると思うんだよね。」
えっ…そんな事初めて知ったんだけど!
「そっ、そんな事ないと思うよ?」
「いや、そんな事あるよ!昨日だって校門の前で不良に絡まれてる人を助けるために、自分のことないがしろにして突っ込んでいったじゃん!」
そ、それはしょうがないと思うんだけどなぁ。
「だって困ってる人がいたら、助けたくなるのが当たり前でしょう…?」
世の中が全員善人な訳じゃない事は知っている。全人類善人だったら、争いなんて起きないもの。
でも、そんな中で罪のない人が理不尽に振り回されているのだけは許せない。
理不尽な病気や出自に苦しんでいる私だからこそ思うところがあるのだ。
「…はぁ、もう羽夜ちゃんの好きにして。でも、自分を壊す程無理はしないことね!」
いつもの凛花ちゃんにしては、随分と強気だなぁ。
「わかった。あと、今までも無理はしてないよ?」
凛花ちゃんは、やれやれと言うように更衣室を出て行った
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