花火7

レス0 HIT数 941 あ+ あ-


2016/01/26 22:47(更新日時)

「何か呑む?」

「俺達、研修医の手前、アルコールは御法度だしな~」

「そういうかと思って、アルコールとノンアルコールと、どっちも入れてたりして」

俺は、部屋ですき焼きの準備中の聡史に言った。

俺のアパートの方が大学病院に近い為、ほぼ、半同棲のようになっている男だ。

圭介にも、裕太にも、まさか、男と半同棲しているとは言えない。

この戸巻聡史という男、実は、うちの大学病院の産婦人科の戸巻教授の御子息なのだ。

結構な高級マンションに一家3人で住んでいて、さらに通いの家政婦がいるらしい。

いつまでもここにいて、大丈夫か?
実家の方が居心地がいいだろうに、と何度も言っているのに、安アパートに入り浸る。どういうつもりなのか。

「なぁ、裕太。お前から、今日は折り入って、相談したいことがあるって言われて、
それなら、すき焼きにしないといけないし、肉も実家から良い肉を持ってきてくれって、家政婦の八重さんに頼んで持ってきてもらったけれど、どうかな?」

まったく、ボンボンは、家政婦に高級和牛宅配してもらえるのかと、俺は、羨ましくもあり、驚いてもいたりして。

「ありがとう。まぁ、すき焼き、美味しく頂いてからにしよう」

俺達は、しばらく、黙々とすき焼きを口に運んでいた。
もう、上手すぎて、肉が違えばこうも違うのかと思わずにはいられない。
部屋中に充満しているこの匂い。瓶に密封して、食事代に事欠いたら、蓋を開けて、クンクンと匂いを嗅いで白いごはんを食べたい。

「そろそろ、言ってくれてもいいだろう。」

「うん。俺さ。地元に友人がいてさ。高校の頃に、そいつと従兄弟と3人でバンドを組んでいたんだ。よくある青春のヒトコマだよな。俺は、いまだに夢を追いかけてる二人が羨ましくもあり、疎ましくもあり、
それで、悩んでる。医者で良いのか。俺なんかが医者で良いのか。」b

「う~ん。裕太は俺と同じ医者の息子で、でも、俺と違う道にいけるのが、俺は、羨ましいけどなぁ。音楽で挫折感を味わいたくない。傷つきたくないってのが、本音じゃないか?」

「痛いところをつくな。そういうのもある。人の評価に左右される商売だ。この前、二人が俺にって、デモテープをくれた。久々に、医学から離れて、純粋に良いと思えた。」

「そうか。俺は、お前が医者でなくても良いとは言えない。もう、こうして入り浸るところも無くなる。だが、最後は、自分で決めろ。」

俺は、一瞬、聡史と圭介が重なって見えた。
決断と選択が苦手な俺は、徐々に窮地に追い込まれていくような気がした。


No.2296678 (スレ作成日時)

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