パニック障害と恋路の壁

湿気が篭った小部屋で、1人息を整える。


激しく高鳴る鼓動をどうにか鎮めようと、治まるのを待っていた。

ここは通常なら、トイレとして使うが
私はひと時の安らぎの場としても利用する。閉鎖空間で、誰にも心配かけずに1人でいられるから。

手に持っていた頓服薬を口にして、ペットボトルの水を口にする。
頓服薬は通常5分〜10分ぐらいで効果が現れるが、その時の症状によって様々。

動機が始まると手も震えて、目の前も揺れて頭が混乱状態に陥る。
と同時に死の恐怖が襲ってくる。

死ぬ、死ぬんだ、私は死んでしまう。
このまま心臓が爆発して、死んでしまう！！！

耐えられず、大体はトイレにいって治まるのを待つ。頓服薬を飲めば大体はすぐに戻って来られる。



今日は、5分後ぐらいに治まった。
安心してトイレから出ると会社の先輩2人と鉢合わせた。


「あれ、海野さん。さっきもトイレいなかった？」

「え、あ、気のせいじゃないですか？？」

「そうー？さっきもいたと思うけどー。」

私はその場からそそくさと逃げた。
私が立ち去るとワザと聞こえるような声で


「サボりなのかなー？よくないよね。ははっ」
2人で陰口を言った。




あぁ、またか。
決してサボりではない。サボりじゃないことを伝えたい。

けど、伝えたところで会社から解雇されるだろう。
精神疾患を持つ人間に対して、社会は優しくないのだから。


「ここも…そろそろ潮時かなあ」


私は海野塔子(ウミノトウコ)
24才 フリーター


持病のパニック障害のせいで、正社員になっても仕事に支障が起きて長く続けられない。

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今のバイト先は在庫管理の業務を主に行っている会社だ。
衣類の通販を運営しているので、頼まれた商品をピックアップ、在庫が多くなってきたら整理…
と単純作業が多い。

ここで働いて半年になるが、持病であるパニック障害のせいで度々トイレに駆け込むことが多い。

決してサボりではない。気持ちを落ち着かせる場所で最適なのがトイレなのだ。

でも、周りはパニック障害であることを知らないから「海野は頻尿なのか？」と思われている。
女の先輩からは「サボりだ」と言われてる。


パニック障害を伝えたところで、私にも会社にも利益はない。
最初の就職がそうだった。


面接で「何か、健康面で不安な所があったら教えてください」

と言われたので
「私は昔からパニック障害という持病を持っています。そこまで大きい病気ではないのですが、たまに発作…というか動機があるので、その際は落ち着くまでトイレや休憩室などでおやすみを戴くことがあるかもしれません」


「パニック…？障害」

面接官の顔が曇った。もう一人の面接官が、
「あー私の知り合いにもいたので、わかりますよ。精神的な病気ですよね？ちょっと苦しくなったりするような。そんな病気ですよね」


「あ、そうです！症状は人によって色々あるのですが、私の場合は稀に動機あるぐらいなので、5分程おやすみ戴ければ大丈夫です。」


「ふむふむ…それなら軽い方なのかな？でも、君はやる気あるみたいだし、こちらも採用したいと考えていますよ。
病気について詳しくは分かりませんが、苦しくなったりしたら遠慮なく言ってくださいね」

にこやかに面接官が答えた。


私は一週間後、その会社に就職した。

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その会社はアパレル関係の会社だった。私は販売員として採用された。最初は目立った発作などなく、問題なく1ヶ月を過ごした。



しかし、2ヶ月目……。

いつも通り店頭で接客していると、突然隣で大きな音を立てて何かが倒れた。


バタン！という音の方を見ると、
お客様が真っ青な顔で倒れている。


周りにいたお客様は悲鳴に近いような声を上げて、店長はすぐに倒れたお客様に駆け寄った。


倒れたお客様は、白目を向いてジタバタと手足を動かしている。
口元からはヨダレが垂れ、意識は全くないようだ。


その光景が目に入ってから私の中の記憶が鮮明に色々蘇る…。



過去の映像…
鳴り響く救急車の音。
目の前で痙攣を起こした人。
大切な人。
真っ青な顔。
大声で叫ぶ救助の声。


私はその場で立ち尽くし、震えが止まらなくなった。同時に息もしづらくなって、過呼吸になりそうになった。
過去の記憶が、私を縛り付けて動かせないようにしている。


店長は「海野さん、救急車！！！海野さん！！！ねえ！！！海野！！！！」


動けない。動けない。
頭を抱えて「あぁ…あああ」
苦痛の声が漏れる。そのまま過呼吸になり、自分も座り込んだ。

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倒れたお客様は急性の脳の病気らしく、一時的に意識は失ったものの、命に別条はなかったらしい。



私もその後は、救急車には乗らなかったものの救護室のような場所に行ってしばらく寝ていた。


その日は店長の配慮で早退させてもらったが、次の日…


店長に呼び出され急遽ミーティングになった。そこには面接の時に「パニック障害」を知っていると言っていた面接官…上司もいた。


「海野さん、先日はお客様が急病で騒ぎになった中大変だったと思います。けどね、販売員がお客様の安全を第一に考えないといけないの」

「海野くん…君の持病は会社側も知っている。店長にも伝えてはいる。
しかし、救急車一本も呼べないのはちょっとどうかなーって思うんだよね。」


「あの時は本当に申し訳ありませんでした。」


「海野さん、救急車呼ばなかったらどうなってたのかわかる？？
たまたま、騒ぎで駆けつけた隣のテナントさんが救急車呼んでくれたけど。
確かに、あの姿はショッキングでした。私も震えてた。

けどね、お客様の命を考えれば立ち止まっていられないのよ。
あなたは、他人の命を考えてないの？？」


「それは、それは違います！けど…」


「けど？なんですか？？
持病のパニック障害のせいとでも、言いたいのですか？
パニック障害持ってるから、救急車呼べずにボーッと突っ立てていいんですか？

そこは海野さんの勇気と行動力じゃないの？！」

「まあまぁ、店長…声を荒げないで…。」

私は何も言えなかった。言い返していい立場ではない。
パニック障害の発作が出て、トラウマが蘇って…動けなかった。

なんてことを言っても通用しない。


店長はまだ怒りが治まらないらしく、私に傷つく事を言ってきた。





「持病を持ってるからって、悲劇のヒロインぶるのやめてほしいんだけど」

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さすがの私もびっくりして、
「店長、わたしそんなこと…そんな風にした覚えはないです…！」


「あーこれだから私は嫌だって言ったんですよ山田部長！
精神的な病気持ってる子はいつもこれ！！大事な時にいつもいつも病気を理由にする！！」

「すまんな、店長。
君の気持ちも考慮すればよかったな。ちょっと席を外してもらえるか？海野くんと2人で話したい」


店長は涙目になりながら、怒りが治まらない様子で出て行った。


「海野くん。君に持病があるのは分かる。
だが、お客様の一大事の時に何も出来ないようじゃ困るんだよ。

こっちは、ビルの一部を借りてここで営業出来ているんだ。
なのに、此方がビル側に不便をかけたら…どうなる？
不利だよね。もしかしたら撤退してくれと言われてしまうかもしれない。
君の判断と行動一つで、我々の評価が変わるんだ。それを念頭に置いて今後は働いてほしい。

もちろん、無理をしろとは言わない。

けどな、緊急時に活躍した者こそ賞賛されるのがドラマやアニメでも同じだろ？」




これは後から聞いた話だが、ビルの運営会社に気に入られると、また別の地域でお店を出してみないか？と言った上手い話が寄ってきやすいそうだ。

特に前いたビルの運営会社社長は、人の良し悪しをすぐに評価する性格だった為、入っているテナントはご機嫌とりに必死なのだ。

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【お知らせ】
こんばんわ。ゆいです。
以前にミクルの携帯小説スレで掲載していました。覚えてる方いらっしゃったら、嬉しいです^o^

こちらの物語は、精神疾患のパニック障害に悩む主人公を舞台に社会や人付き合い等描いていきたいと思っています。
見聞きしたり、体験したことを文章に落とし込んでいるので少しでもリアル感が伝われば嬉しいです。

文章書くのは上手くないので、お見苦しいところもございますが、温かい目で見守っていただければ幸いです♡

そして、この度感想スレを設置致しました！よろしければ、カキコミしてみて下さいね。
→http://mikle.jp/viewthread/2220027

それでは、よろしくお願いします（＾ν＾）

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