年上の男・年下の男

レス87 HIT数 56960 あ+ あ-


2012/02/20 16:21(更新日時)

年上の男



年下の男




---あなたはどちらが好きですか?




※閲覧注意※

「不倫」「浮気」「性」などの内容をリアルに書くつもりです。

その為、読んでいて大きな不快感を抱く方もいらっしゃると思います。


また、コメントいただける方はどんなことでも構いません(^-^)
良かったらお気軽にコメントしてやってください☆



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No.1723641 (スレ作成日時)

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No.51

店を出た私だったが、駅に向かって歩き始めて1分も経たないうちに後ろから呼び止められた。




『あのっ…!ちょっと…すみません…!』




ちょっと息を切らした様子で私を呼び止めたのは、今さっきまで隣の席に座り、私にティッシュを差し出してくれた男性だった。



私『はい…。』



(なんだなんだ?もしかして、ティッシュ返せ!…とか!?)



振り返った私に彼が何を言い出すのかと緊張したが、その後のやりとりで、彼の目的はティッシュではないことが分かった。




男性『急に呼び止めてすみません……。』



私『いえ…。』

(え~…なんだろ~。)


男性『いや…その…自分は怪しいものじゃないんです…。』



私『はい…。』

(別に怪しくは見えないけど…20代前半くらい?)



男性『あの……。』



私『…ティッシュ…やっぱりお返しします。』

(本当は買って返したいけど。)



男性『いやいや!本当にそれはいいんです!』



私『でも…。』

(じゃあ何さ~?)



男性『いや……あのですね………。』



私『はい…。』

(本当に何だ…?)



男性『……すみません…ナンパです。』



私『え…。』

(…ナンパ?これが?)

No.52

これがナンパだと言った後の彼は、さっき落ち着いた雰囲気で本を読んでいた人と、同じ人だとは思えない程あたふたしていて可笑しかった。



私『…ナンパって(笑)』


そんな彼の様子を見て、つい私も軽く笑ってしまう。



男性『すみません…さすがにちょっとひどいやり方ですよね。』



私『いえ…何かと思ったら…冗談ですよね?』



男性『あ、いや、冗談じゃ…ないです。僕、今ナンパしてます(笑)』






---これが雅紀との出会いだった。

No.53

その日、私はその場で雅紀の携帯番号とアドレスを受け取って別れた。



自分の番号とアドレスは『気が向いたら連絡してください。』と言われたので教えなかった。



(…と言うより、まだ茂とどうするか決めていない状態なのに、こんな事で浮かれている場合ではないと思い、聞かれても教えるつもりは無かった。)




雅紀から受け取った連絡先は手帳のメモページに書かれたものだったので、たたんで財布に入れておくことにした。






---それから家に帰るまでの間、これから茂とどんな話しをしようかと考えたが、結局また決め台詞のひとつも思い付かないまま家に着いてしまった。





『ただいま。』



玄関で靴を脱いでいると、茂がリビングから出てきた。




『おかえり。』



『うん。』



そのまま私達は無言でリビングへ行き、数時間前と同じようにテーブルを挟み、向かい合って座った。

No.54

私は何かを話し合うよりも、今口を開けば茂を罵倒することしかできないと思いながら茂の顔を見た。




茂の顔を見ると、次から次へと茂と恵美子を罵る言葉が浮かんでくる。





2人の関係はいつからなのか。


どうして恵美子なのか。


今日まで茂はどんな気持ちでいたのか。





言いたいことだけじゃなく、聞きたいことも沢山あった。



根掘り葉掘り聞きながら、滅茶苦茶に言ってやりたかった。








---でも、何も聞かないことにした。




もう今更聞いても意味がないような気がした。




茂を責めても、恵美子を責めても、茂が自分で決めてしたことだ。




そしてそんな茂を好きになり、付き合ったのは私なのだ。




どんなに茂と恵美子を責めたって、今日私が見た事全てが無かった事になるわけじゃない。



茂と恵美子の事も、無かった事になるわけじゃない。





『…疲れた…。』





私はそう言って、座っているソファに上半身だけゴロンと横になった。

No.55

>> 54 yumeさん はじめまして💖(^O^)

小説って 初めてのぞかせてもらいました😊

面白いけど アタシとしては yumeさんの 性格が 好きかな…😉


相手に 何をされても 『なんで アタシが?なぜ?』って 思わないところ。

相手を 責めない。


相手に 求めすぎないところが好きかな✌


アタシと 考え方が どことなく 似てるところ 共感できます😊


初めて 読んでみたいなぁと おもいました😃

楽しみにしてます(*^o^*)

No.56

>> 55 あむさん

レスありがとうございます😃


数ある携帯小説の中から私のスレを読んでいただいて、とても嬉しいです✨


小説は私が20代後半の時の話しなので、その頃の価値観や考え方でとった行動をそのまま書いています。


『人を責めない』ようになったのは25歳を過ぎた頃からで、それ以前は酷いもんでした😂(笑)



今の私はあむさんと似ているところがあるかもしれませんね☺


共感していただけると、これからも自分の言葉で書いていいんだという気持ちになります😊


どうぞこれからもよろしくお願いします✨

No.57

>> 56
またまた お邪魔します🙇🙇

お返事ありがとうございます🙇


『人を 責めない』わかります。😣
アタシも 20代のときは 責めて 求めてばかりでしたよ😣

この 小説を 読むと…きっと アタシも 茂になにも いわないだろなぁ😒とか 、こういう男を 好きになったのは アタシなんだから 仕方ない😒
さて これから どうしよう… はて?はて?


続きが みたい💖ですね😊

二回も レスして すいませんでした🙇🙇


寒いので 風邪を ひかないように☺


fight☺おじゃましました🙇🙇

No.58

ソファに横になった私は、天井を見つめながらポツリ…ポツリ…と話し始めた。





『…人を憎んだり怒ったりするのって…疲れるよね…。』




『…茂よりも…恵美子に対する怒りの方が大きいんだけど…本来ならそれは違うんだよな…。』




『…茂と別れたい気持ちと、やり直したい気持ちの…どっちが大きいのか…私はどうしたいのか…ハッキリしてないんだ…。』




『…こうしている今も、茂と恵美子を罵りたい気持ちが爆発しそうなんだけどさ…それでスッキリするかと言ったら…多分しないんだ…。』







---それは茂に言っているというより、ほとんど独り言に近かったと思う。




そんなまとまりのない思いを一通り話し終えた後、私は目を閉じて茂の言葉を待った。

No.59

『…ごめん。…本当に申し訳ないと思ってる。』



私の、のらりくらりとした話し方とは違い、茂はハッキリとした口調で話し始めた。





『俺がしたことは最低なことだ。…言い方がおかしいけど、Yumeに何の配慮もない行動だった。』





『…。』

(何の配慮もない?…あぁ、恵美子を家に入れていたことか。)





茂の言っている意味は分かったが、私は目を閉じたまま黙っていた。




茂も私が何も言わずに聞くのを分かっていたのだろう。



私に返事を求めたり、いちいち話しを聞いているか確認をすることもなく話しを続けた。





『何を言っても言い訳にしかならないと思う。』



『Yumeの好きなようにして欲しい。と言ったのは今も変わらない。』




『謝られたところでYumeが納得できないのは承知のうえだけど…本当にすまない。…としか言えない。』






私は茂の言葉をひとつひとつ理解しながら聞いていた。




茂の性格は私なりに分かっているつもりだったので、その言葉の意味を考えても、彼の口から『許して欲しい』とか『やり直したい』なんていう言葉は出ないだろうと思った。

No.60

茂の話しが終わると、私は横になっていたソファから体を起こして茂を見た。




茂も私を見ていた。




…だが、私にはお互い無言で見つめ合っている状態が耐えられず、その時感じたことをそのまま口にしてしまった。





『…お腹空いた…。』




考えてみれば、朝もコーヒー一杯で済ませただけで何も食べていない。



それから口にした物もスタバのコーヒーだけ。




壁に掛かった時計を見ると、7時を過ぎたところだった。

No.61

茂『…腹、減った…って言った?』




私『うん…そう。』




茂『…何か食いに出る?…Yume、誕生日だもんな…。』




私『あー…今日ね。そうなんだよね。』




この数時間、今日は自分の誕生日だということもすっかり忘れていた。




朝起きて家に着くまでは、今日がどんな誕生日になるのか楽しみにしていたはずだというのに。




私『そうだね…とりあえず外に出た方が良さそうだから、どっか行こ。…あ、一応着替えたい(笑)』




無理していたわけでもないが、この時は自然に笑えた。



それからメイクを直し、オシャレをして出掛ける余裕もあった。





実際家の中にいるより素直に話せるような気がしたし、この際だからハイクラスなレストランにでも行ってやれ。とまで思った。

No.62

車に乗り、街へ向かって走り出す。




私は少しでも気分を上げようと思い、オーディオのボリュームを上げた。




…綾小路きみまろの漫談が流れていた。





私『…。』



茂『…。』



私『…なんでよ?』

(やばい…この展開…ちょっと笑ってしまいそうだ…。)



茂 『いや…この前Yumeのお父さんが貸してくれたからさ…。』



私『…それは知ってるけど…………ふっ。』





聞かないつもりだったのに、つい聞き入ってしまい、とうとう思わず笑ってしまった。





私『あはは!…あ~あ、なんだよも~…このタイミングできみまろってどうよ?』




とは言ったものの、私はきみまろのおかげでいつもの自分に戻ってきていた。

No.63

何かが吹っ切れた私は、その後いつもと変わらない口調で茂と話せた。





そして



『夜景を見ながら食事したい気分。』



という私の希望通り、私達は高層ビルの最上階にあるレストランに入った。




その日は土曜日だったので予約がないと無理かと思ったが、時間も8時をまわっていた為かすんなり席につくことができた。



そこは向かい合って座るテーブル席の他に、窓に面した長いテーブルに仕切りをされて並んで座る席もあり、私達はそちらの方に案内された。



------




2人で外食をする時、いつもなら私はワインを頼むところだが、この日はアルコールを飲まずに話したいと思ったのでやめておいた。



茂も私の気持ちを察したようで、勧めてくることはなかった。





前菜が運ばれてきたが、乾杯するワインもシャンパンもないので、ワイングラスに注がれたミネラルウォーターで乾杯をした私達。





茂『誕生日…おめでとう。』



私『ん…ありがとー。』



…こうした場所に来ると、茂は改めて『様になる』男だな。と思った。




もちろん口にすることはせず私は夜景を眺めていたが、茂は夜景を見ながら時々私の横顔を見ているのが分かった。

No.64

茂の視線に気付かない振りをしようと思ったが、今はそんな必要もないと思い、茂の顔を見ながら



『ちょっと~、誕生日プレゼントとか、何にもないの~?』




と、軽く悪態をついてみた。




『…本当はさ、店、予約してたんだけど…キャンセルしたよ。』



『え~!そうだったの?…まぁ、そうなるか…。』




『でも、プレゼントはあるよ。』




『え~?なになに?』




『家に置いてきた。』




『え、なんでよ?』




『受け取ってもらえないかと。』




『いいや、物によるね(笑)』









…そんなやりとりをしたが、本当はプレゼントなんてどうでも良かった。




…予定より早く帰宅した私を見て、驚きながらも喜ぶ茂の顔が見たかった。






…素敵なお店での食事やプレゼントより、茂から『愛されている』という幸せに満たされたかった。







---誕生日は、茂と楽しく過ごしたい。





願っていたのは、ただそれだけだったのに。


No.65

食事中はどんな会話をしたのかあまり覚えていないが、私は食べ始める前に




『こんな時でも普通にお腹が空いてしまう自分が恨めしいよ(笑)』




と言って笑って見せた。



(…ホント、こんな時でも…美味しい物は美味しいと思うんだよな…。)



食べる量こそ普段より少なかったものの、お腹もそれなりに満たされた私は、この日で一番穏やかに、落ち着いた口調で話し始めた。







『…ねぇ…私さ……今日のことを忘れることはできない………今こうしていても、頭の中では今朝見た光景と2人のことを考えている自分がいるんだ。』





茂は黙って聞いていた。




『…これから先も私は何度も思い出すだろうし、その度に茂を責める気持ちでいっぱいになると思う。』



(本当に…今ここで茂を責めて解決するなら、そうしたいくらいだ。)





ここまで話した後、私も少し黙ってしまった。




頭ではしっかりと台詞が用意されていて、潔く口にしている自分はイメージできているのに。





…次に言おうとしていることが、自分にとって一番望んでいないことだったから---。

No.66

(これは、しっかりと茂の目を見て言わなくてはいけない。)




私はそれまで夜景に目を落としながら話しをしていたが、大きく息を吸い込み、体を少し茂へ向けて彼の目を見た。



そうしないと、最後まで言えないような気がした。



茂も私の方を向き、私の顔を見つめて言葉を待つ。



(ちゃんと、正直に、意地を張らずに…自分の言葉で言おう。)



私は静かに、丁寧に話し始めた。




『裏切られたと思うのも、自分が惨めだと思うのも、結局は私の気持ちでしかないんだけど…その気持ちを押し殺そうとすればする程、茂を好きだっていう事なんだと思って、どうしようもなくなるんだよね。』





『これから先も、一緒にいる限りそれはずっと続くと思う。…時間が経てば…傷も癒えていくのかもしれないけど…そうなるまでにどれくらい自分の中で葛藤するのかと思うと…今の私には耐えられそうにないよ。』





…絶対泣かないって決めていたのに。





『このまま結婚したら…きっと、もっと辛くなる。』





…茂の肩越しに見える夜景がぼやけてきた。





『…茂のこと本当に好きだけど、許せそうにない………………だから………別れたい。』





…グラスに置いた手の上にポタポタと落ちてくるものはグラスの水滴ではなく、私の大粒の涙だった。

No.67

私は涙を止める事ができなかった。




茂の顔を見ることもできず、両手で顔を覆い、体を窓側へ向けた。





『…分かった………ちょっと、待っててな。』




茂はそう言うと席を立った。




私は茂が席を外したことでいくらか気を取り直し、今度こそバッグに入れてきたハンカチとティッシュで顔を整えた。





(言えた…。茂はどう思ってるんだろう…。)




茂が戻る前に自分の顔を確認しようと思い、携帯の画面に映る自分の顔を見た。




マスカラが落ちて、繊維が目尻に付いていた。




(ウォータープルーフって書いてあったじゃん…。)




(……って…こんなこと思える余裕があるなんて………私、本当は茂が『嫌だ。別れたくない。』って言うのを期待してないか……?)




(もし、茂がそう言ったら………戻っちゃうんじゃないの?)





そう考えると、また胸が苦しくなった。

No.68

程なくして、茂が席に戻ってきた。




『お待たせ。…出ようか?』




『うん。そうだね。』




茂の素振りから、彼は支払いを済ませてきたのだと分かった。





レストランを出て、ビルの地下にある駐車場へ向かう。



地下へ降りるエレベーターの中は私達だけだったが、お互い無言のまま駐車場に着いた。



車に乗り、駐車料金を支払って外へ出る。




車は家の方向へ向かっていたが、私は家に帰りたくなかった。



家に帰れば、今朝見た生々しい光景を嫌でも思い出してしまうだろうと思った。




かと言って、他に行く場所も思い付かない。




どうしようかと考えているうちに家に着いてしまった。

No.69

家へ着いてリビングに入ると、やはり今朝の光景を思い出した。




でも、思い出したからといってどうすることもできない。




今、私が暮らせる場所はここしかないのだから。




…たいした会話もしないまま、私は先にシャワーを浴びた。




シャワーを浴びながら、私はまた考えていた。




(私に配慮のない行動だった。ってことはさ…結局私は配慮する相手じゃないってことだよね…。)



(私と暮らす部屋に他の女を連れ込むなんて、どう考えても普通じゃないだろ~。)





そう思っているうちに、頭の中がどんどんクリアになってきた。




(やっぱり、別れる。部屋を探して、ここを出て行こう。)





そして髪を乾かしている間に、私の気持ちはすっかり決まっていた。

No.70

『部屋を探そうと思ってるんだけど、それまでは同居人ってことで、いいかな?』




私は茂がシャワーを浴びてリビングに戻るのを待ってから、そう切り出した。





茂『…部屋を探すって……。』




私『そうだよ。別れるって、そういうことでしょ。とりあえず今からネットで調べてみて、いいとこあれば明日早速不動産屋に行くわ。』





茂『そうだけど…展開が早過ぎないか?』





私『早過ぎるも何も、そうするしかないでしょ。いいから、そういうことで了承して。』






ついさっきはレストランで大粒の涙を流していたのに…………明らかに戸惑った表情を浮かべる茂を前に、今の自分は何て潔いのだろうと思った。

No.71

それから数時間、私は寝ることも忘れてパソコンにへばり付いていた。





自分の希望条件を紙に書き出し、物件を検索する。




それから何件か良い物件をピックアップし、それぞれの家賃や敷金等の計算をする。




時々茂がパソコンを覗いてきたが、私は何も話さずに作業を続けた。





とにかく何かに集中していたかった。






そうでもしないと、気を緩めた途端に湧き上がる悲しみに押し潰されてしまいそうだったから。





自分を潔いと思ったのは間違いない。





…でも、茂の目の前で半ばムキになってこうしているのは、自分を守る為の精一杯の強がりなのだということも分かっていた。

No.72

もうとっくに日付も変わり、私も少し休みたいと思い始めた頃





『Yume…そろそろ寝た方がいいだろ。』




茂がパソコンに向かう私にそう言った後、寝室から来客用のシングル布団を運んでリビングに敷き始めた。






(あぁ…もうあのベッドは使いたくないって言ったからね…。)





いつも2人で寝ていたベッドは寝心地もデザインも気に入っていたベッドだったので、突然こんなことになった理由が理由だけにまた腹が立った。




『ありがとう。』





腹が立ったまま気持ちのこもっていない『ありがとう』を言い、パソコンの電源を落とす。






『あとは適当に寝るからさ。茂も休んで。』





そう言って、私は茂の顔を見ずに、紅茶を飲んでいたカップをキッチンへ下げに行った。

No.73

私がカップを洗ってリビングへ戻ると、茂はソファに座っていた。




茂『少しでもいいから、話さないか?』




私『話す?…何を?』




茂『…本当に出て行く気なのか?』




私『だから…何度も言うけど、別れるんだからそれが当たり前でしょ。私、もうここには住みたくない。』




茂『それは分かるよ。…でもさ………。』




私『でも何?』




茂『………ごめん。俺は、別れたくない。』




私『…は?』







---口ではそう言ったが、茂のその言葉を聞いた途端、私は全身の力が抜けてしまった。

No.74

(やっと言ったよ…。)


そう思った。




茂『ごめん。もっと早く言いたかったんだけど、自分のした事を考えたら言えるわけないだろ。』



私『…結局言ってるじゃん。』




茂『勝手なのは充分分かってるよ…だけど、どうしても別れたくないんだ。』




私『本当に勝手過ぎるよね。』




茂『分かってる…でも今言わないと、Yumeは本当に明日部屋決めるだろ。』





私『…そうだよ。よく分かってるじゃん。』




茂『…一緒に…引っ越して、やり直せないか?』





『別れたくない』『やり直したい』…そんなことは言わないと思っていた茂が、今目の前でそう言っている。




(どうしよう…。)




私は何も答えられず、敷かれた布団の上に座っていた。

No.75

私は何も答えられないまま座っていたが、茂の言葉に激しく揺れていた。



そんな私の様子をみた茂は




『今すぐに答えてくれなくていいから…時間かけていいから…頼む。俺ともう一度やり直すこと、考えて欲しい。』





と言って、寝室へ入って行った。




私は無言のままだったが、頭の中はぐちゃぐちゃだった。




茂の言葉ひとつでこんなに動揺する自分が情けなかった。





(強く潔く、前に進むんじゃなかったの?)



(茂にとって、私という存在は配慮しなくてもいい人間だって思ったんじゃなかったの?)





布団に入って、同じことを何度も自問自答する。



その最中も、寝室にいる茂はもう寝たのだろうかと気にする自分がいた。

No.76

そんなことを気にするばかりで、結論を出すこともできずに朝を迎えてしまった。




もう眠れそうになくなったので、布団を畳んで部屋を片付けた。




それから身支度を整え、とりあえず出掛ける用意をした。




不動産屋に行く気持ちも大きかったが、それよりも『この部屋に居たくない。』という思いの方が強く、それがまた私の気持ちを掻き乱した。




出掛けるにしても何か一言声を掛けようかと思っていたところに茂が起きてきたが、茂の顔を見ると彼もほとんど寝ていない様子だった。





茂『おはよう。…早いな。もう出掛ける準備終わったの?』




私『うん。とりあえずね。』




茂『俺も一緒に行くよ。』




私『…いや、いいよ。』




茂『……そか。分かった。…気を付けてな。』





茂はそれ以上何も言わず、私も茂の顔を見ずに『うん。じゃあ、行ってくるね。』と言って家を出た。

No.77

いざ家を出たはいいけど…真っ直ぐ不動産屋に向かう気持ちにはなれずに、モスに入った。




席について一息つくと、ドッと疲れが出た。



そのまま眠ってしまいそうだった…。




そのまま壁にもたれかかってウトウトしかけた時、ふとある事に気が付いた。








---そういえば…今月はまだ生理がきていない。


…一気に眠気が飛んだ。



私は壁から身を起こしてバッグの中から手帳を取り出し、前回の生理を確認した。





(今回の予定日から二週間近く遅れてる…。)




自分の周期は割と正確だったので、一週間以上遅れることはごく稀だった。




(まさかね…。最近仕事もかなり忙しくて、不規則な生活してたせいかな。)





一抹の不安はあったが、そう思うことで勝手に納得することにした。

No.78

それからその日は一件の不動産屋に行き、その後はまっすぐ家に帰った。




生理が遅れていることに気が付いてからは、心当たりばかり考えてしまう。





…その日、茂とはろくに会話をしないまま終わってしまった。






月曜日になり会社へ行くと、恵美子が体調不良で数日休みをとったという話しを聞いたが、私はどうでも良かった。





それよりも、今朝方から突然起きた自分の体の異変を、どう受け止めたらよいのか必死に考えていたからだ。







私は、妊娠していた。

No.79

月曜日、なんだか熱っぽいなと思って目が覚めた。



いつも通り朝の支度をしていると、やたらゲップが出る。



一応熱を計ってみると37度少しあったが、出張明けでやらなければならない仕事があった為、栄養ドリンクだけ飲んで出勤した。




会社に着いて仕事にとりかかるものの、熱っぽさと倦怠感で集中できなかった。




なんとか1日が終わり家に帰ったが、今度は家に着くと何もできない程の眠気に襲われた。




いつの間にかソファで眠ってしまったようで、私より後に帰宅した茂に起こされて夕飯を買ってこようかと言われたが、食欲もなかった。





そんな状態が3日程過ぎて、今まで経験したことのない体の状態から半ば確信しながら妊娠検査薬を使用したところ、1分も経たないうちにクッキリと陽性反応が出たのだった。

No.80

妊娠検査薬で陽性と出た翌日、私は会社を半日休んで産婦人科へ行くことにした。




病院の待合室にいた妊婦さんを見て、私も妊婦なんだよなぁ…と思ったが、なんだか実感が湧かない。




名前を呼ばれて採尿をしてから数分後、診察室に入るように言われた。




問診の後に内診。




画面に映し出された子宮の中に、豆粒のようなものがチョコンとあった。




『ほら、これが赤ちゃんですよ。今はこんなに小さいけどね、これからどんどん大きくなりますよ。』




年配のおじいちゃん先生が笑顔でそう説明してくれた。




私は画面を見ながら




『あっ、本当だー。小さいけど、可愛いですね。』



と無意識に言ってしまい、後から『可愛い』と言った自分が既に母親になろうとしているんだという事に驚いた。




予定日や妊婦検診、母子手帳の説明を受けてから病院を出た後は、ベビー用品を見て帰った。




待合室では自分が妊娠している実感がなかったのに、お腹の赤ちゃんを見た途端溢れるように母性が出た。






ふとした時、ついお腹に手を当ててしまう。


煙草もキッパリやめた。

栄養が偏らないように食事も気を付けた。






そして茂も、喜んでいた。

No.81

茂に妊娠していることを伝えたのは、病院に行った翌日だった。



一週間前には別れ話しをしていたのに。



一週間後の今は、それとは真逆のおめでたい話しをしているのだ。





茂は話しを聞いた時




『マジで?…俺達の子だ…!Yume、ありがとう!』



と言ってとても喜んだ。



私は茂に対しては複雑な気持ちだったが、親になるからには自分の気持ちよりも今後はお腹の子の事を最優先に考えて行動しようと思った。





その日から、茂との間を修復し、家族としてやっていくのだと心を決めた。




それからお互いの両親に伝えて入籍の日にちを決めるまではあっという間だった。




私は悪阻とうまく付き合いながら仕事をしていたが、その傍らでは入籍後に引っ越す予定の新居を探すこともしていたので、茂と恵美子の事を思い出して感傷に浸る時間は徐々に減っていた。

No.82

恵美子はしばらく会社を休んでいたが、また普通に出勤するようになっていた。



幸い、なのか、私と恵美子は部署も違うしフロアも違う。



顔を合わせることがあるとすれば、更衣室か社員食堂くらいだ。



と言っても、妊娠をきっかけにほぼ毎日お弁当を持参するようになってからは社員食堂を利用することもなくなったので、出社時間と退社時間が重ならなければほとんど姿を見ることもなくなった。




もちろん2人のことを忘れる事はできなかったが、それを口に出したところで、それがお腹の子の為になるかと言えば答えは明らかにNOなのだ。




それに、茂とやり直そうと決めたのは私自身だ。




だから私は2人の事で茂を責めることもしないと決めた。

No.83

それから少しの間、私が安定期に入るまでは何事もなく平穏な日々が続いていた。


悪阻も治まり、デスクワークなら以前と変わらないペースでこなすこともできた。




そして茂と入籍するまで、あと数週間というある日。



仕事を終えて帰宅する途中、突然激しい腹痛と眩暈に襲われた私は、駅のホームでうずくまってしまった。





ズキンズキン・・・という痛みと共に、下半身から生暖かい物が滲んでくるのが分かる。

(嘘・・・なんで・・・嫌だ・・・助けて・・・!)


赤ちゃんのことしか考えられなかった。





私の後ろに並んでいた学生風の女の子が





『大丈夫ですか!?大丈夫ですか!?』





と聞きながら私の顔を覗き込む。




『すみません・・・救急車を呼んでください・・・妊娠してるんです・・・。』





私はそう言うのが精一杯で、そのまま横に倒れた。




『救急車ですね!分かりました!』




女の子は携帯を取り出し、救急車を呼んでくれた。



私の周りにはあっという間に人だかりができたが、自分の上着を脱いで掛けてくれる人達、駅員を走って呼びに行ってくれたサラリーマン、手を握り『しっかりね!大丈夫だからね!』と言って励ましてくれた売店のおばちゃん。




見ず知らずの皆の優しさが嬉しくて、とてもありがたかった。

No.84

救急車が到着した辺りから、あまり記憶がない。




鮮明に覚えているのは、病院のベッドで目が覚めた時から。




左腕に点滴をされていた。



私がいたのは処置室と呼ばれる部屋で、部屋には私だけだった。




ズキン!という腹部の痛みを感じ、自分の身に何が起こったのかすぐに思い出して、右手をお腹に当てた。




(お腹は・・・赤ちゃんは・・・?・・・大丈夫・・・膨らんでる・・・)





お腹をさすりながら周りを見渡すと、カーテンを閉めたすぐ隣に看護師さんの姿が見えた。





『すみません・・・起きました・・・。』






私が声を掛けると、40代前半くらいの女性看護師さんがベッドまで来てくれて





『目が覚めたのね!良かった!・・・あ、喉乾いてないかな?何か飲もうか?』





そう言ってニッコリ笑ってくれた。

No.85

看護師さんから飲み物を受け取ってボーッとしていると、間もなく先生がやってきた。




私の調子を伺うやり取りをした後、先生から言われた内容はこうだった





『赤ちゃんが大変弱っていて、危険な状態です。母体に問題があるわけではなく、赤ちゃんの問題です・・・このまま入院していただいて、経過を見たいと思います。』






『赤ちゃんが弱っているって・・・どういうことですか?』





この時の私は明らかに冷静ではなかった。




目には涙を溜めて、震えた声で、もう一度先生に聞いた。





『先生・・・赤ちゃんが弱っているって、どういうことなんですか?』




先生は優しい口調で詳しい説明をしてくれたが、私は自分で聞いておきながらまともに聞くことができなかった。





ただただ、





『先生、お願いします・・・赤ちゃんを助けてください・・・助けてください・・・私ができることは何でもしますから・・・!!』





そう繰り返すことしかできなかった。





そんな私の背中を、先ほどの看護師さんがずっとさすってくれていた。


No.86

なんとか少し落ち着きを取り戻した私に、別の看護師さんが




『・・・どうかな?・・・どなたかご家族に連絡できるようなら、連絡しようか?安静にしてないと駄目だから、ここで連絡していいからね。』




と言って、入院に必要な物が書いてある紙を持って来てくれた。





(早く茂に連絡しなくちゃ・・・。)






携帯を開くと、茂からメールが入っていた。





『今夜は金子さんとノブと飲んで帰ります。遅くなるから、先に寝ててな。』





受信時間は夕方6時半。




私がホームにいたのは6時前だ。



救急車の中か、病院に着いてから受信したのだろう。






ベッドに横になったまま茂に電話をする。





『・・・電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません・・・』




何度電話をかけてもこのアナウンスが流れる。




私の両親に電話をしようかと思ったが、今はまだ心配をかけたくないと思い、茂にメールを送信してから携帯を閉じた。






看護師さんにその旨を伝えると





『今夜は大丈夫よ。パジャマやタオルは病院のを貸し出しできるから心配しないで!隣の部屋にいるから、何かあれば遠慮しないでコールしてね!』






そう言ってサイドテーブルにプリンを置いていってくれた。






No.87

茂が病院に到着したのは、朝の5時過ぎだった。



息を切らして病室に入ってきた茂を見て、最初に思ったのは




『お風呂入ってきたのかよ・・・。』





・・・茂はいつも軽くパーマのかかった髪の毛をセットしているので、髪の毛を洗わない限りはワックス類が付いている。


だが、この時の茂の髪型は、髪の毛を洗った後の洗いざらしの状態だった。




確かに送信したメールには、入院に必要な物を入力し、それらを持ってきて欲しいと入れておいた。




しかし、私は茂を見た時、普通ならそんなメールを確認した場合、帰宅して準備をしたら一目散に病院に駆け付けないか?と思ったのだ。




飲みに行っていたから酒臭いとか、周りのタバコのにおいが付いたとか、そんな理由があるのかもしれないが、少し疑問に感じた。




それからとてもモヤモヤした物を感じたが、私は茂に『ごめんね。来てくれてありがとう。』と言ってから、まず最初に先生から言われたことを説明し、病院へ運ばれた経緯を話した。






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