彼女
「…そうやって擽られて床に転がったら他の子も加わって私を擽ったの。スカートが捲れて、でも両腕掴まれていて直せなかった。少し離れた所で男子も見てた。
ただの悪ふざけ。
泣きそうだった。止めてって言った。けど止めてくれなかったし、誰も止めさせてくれなかったの。
…やる子に加わる子、やられる子、見てるだけの子、見て見ぬふりの子。
強くならなくちゃいけない、誰も助けてくれないんだからって、思ってた」
たぶん祐子は俺じゃなくて、カシスソーダに喋ってる。
新しいレスの受付は終了しました
- 投稿制限
- スレ作成ユーザーのみ投稿可
…
「ね どうしたの?」
「看護師の前で泣いたのは虐待受けて育ったからじゃない」
「…」
「ごめん言ってないことがある
だから祐子に伝わってない」
「… 伝わってない?」
─ウワナンダコイツキモチワリイ─
─オーイキンタマコゾウノキンタマクサッテルゾー─
─スゲーモンミチマッタ─
─オレノバットデヤメロヨキタネエ─
─ウツルゾ─
─オハライダスナカケトケ─
「ひとごとのように生きていたけど レッスンが楽しみになった
先生は俺に弦長630㎜のギターを貸してくれた 家で鏡を見ながら 先生のフォームを真似て
どう弾いたらカッコイイか考えてた
先生はやさしくて いっぱいほめてくれた うれしかった ほめられてうれしかった 先生の家はいつもいい香りがして あたたかくて 安心した たったひとつの 俺の居場所だった」
「それから 少しだけど
クラスのヤツとも話すようになった
話してみると 何て言うか
いいヤツだったり それで 鏡みたいだって思ったんだ
俺がフワフワと 他人事のようにしてるから 周りもそんなふうになるんだと
よく言うだろ 人は自分を映す鏡だって 俺は10歳のときそう感じた
だけど 必ずしもそうじゃない
例えば 人は鏡だという理屈で
いじめられる側にも問題があるなんて さも正論のように語る奴がいたりする
それは全然話が違うんだ
虐められる側にも問題がある
浮気される側にも問題がある
レイプされる側にも問題がある
ころされる側にも問題がある
こういうの全部 問題があったらやっていいことじゃないよな
集団で個人を攻撃することも
問題があったらやっていいことじゃない
祐子
俺は10歳のとき
集団に殺された
パンツ下げられて
バットでチンチンつつかれて
砂をかけられた
放課後
校庭で押さえつけられて
男も女も 上級生も下級生も
みんなの前で」
忘れられない
「どうして…」
「ごめん」
「…泣いてごめん…教えて
どうしてそんなこと…」
「俺が生意気だったから
みんなと違ったから 病気で
睾丸が腫れていた」
「そんな…どうして…」
「俺たちは協調性を重んじられる
家で学校で叩き込まれる
みんな同じ みんな一緒に
みんなで力を合わせて
だから みんなと違うひとは
集団の輪を重んじないひとは
みんなで叩きましょう
みんなで消しましょう
そして結束を高めましょう
異なる者は排除
何百年も前から
何百年過ぎても」
「俺がされたことは学校中に広まった 俺のチンチンとキンタマがどんなかも 学校中に広まった
担任が家に来たり やった奴とその親が謝りに来たり
親父は自分を棚に上げて
ここぞとばかりに罵倒していた
慰謝料だなんだって騒いでたよ
で 俺はメシが食えなくなった
そして声が出なくなったんだ
正確に言うと 声帯を震わせることができなくなった
息を吐きながらヒソヒソと喋ることはできたでもこれは本当に苦しかったよ
もう声を出すことはできないと思っていたから
精神科だか心療内科だかわからないけど 行ったり
カウンセラーや臨床心理士が家に来たりした
何もかわらないし
何もかえられない
カウンセラー 精神科医 臨床心理士
あの時の俺にとっては
弱みにつけこんで商売する
何もできない大人達だった」
「何もできなくなった
大好きなギターもレッスンも だけど
先生が来てくれた
そのとき親父はいなくて
先生は玄関の外から俺を呼んだ
開けてくれないかな
会ってくれないかな その声に
多分 何も考えられないままドアを開けたんだ
先生は泣いていて 俺はごめんなさいって そしたら
抱きしめてくれた 俺の頭を撫でたり 背中をさすって カズ君は悪くない 悪くない 何度も
息が止まりそうでこわくて
だから必死に息をはきながら
俺も泣いた 声が震えた
ずっと抱きしめてくれて
一緒に泣いてくれた
俺に声を戻してくれた」
「そして隣町の学校に転校した
カウンセリングも転校も大人達
学校関係者の意向だった
心のケア 笑わせるよ
俺に配慮してなんて嘘さ
学校は追い出したかったんだ
はやく面倒を片付けたかった
体面を気にして 教育委員会だの何だのに怯えて
学校PTAが配慮したのは俺じゃなく俺のパンツを下ろしてチンチンつついた奴らだよ
"君はみんなとは違う"
"出ていきなさい"
お揃い協調教育で育った教師
知識だけで経験のないカウンセラー
彼らにできたのは
俺を追い出すことだけ
先生だけが一対一で
受けとめてくれた」
「これが言えなかった俺の経験
手術したとき25歳だったけど
社会に出て10年目だった 10年見知らぬ地で 自分の力で生きてきたんだと 俺は強い男だと
十分大人になったつもりでいた
それが
ヘルニアになって ジャージとパンツ下ろされて フラッシュバック
泣いて 座薬入れられて
笑われて ウンコもらして
築いてきた全てが崩れた
笑いながら座薬突っ込んだり
いーや脱いじゃえなんて掛け声でパンツ下ろす医療者も実際にいた 俺は経験した
それでも
一人の看護師に救われた
中途半端な経験で
祐子の仕事を語った訳じゃない」
「祐子 お前は言わないよな
医療者は不足していて 患者は溢れかえっているんだろう?
ヘルニアとトラウマを抱えてくる男もいれば やってもらうのが当たり前の 暴言吐いたりするそんな患者もいるんだろう?
私情は挟まずこなす そうしなければ医療者だって心が壊れてしまうだろう
ただ俺は 畠山さんに教わった
人は心を持って生きているから
心で向き合うんだってこと
自分の地獄 苦痛 屈辱と向き合う中で 完璧な闇の中で
畠山さんは言葉じゃなく姿勢で示してくれた 認めてくれた
ほんの数分だったけど きっと死ぬまで忘れない 俺の中の看護師は畠山さんなんだ」
「10年も答えを出さないまま
祐子のまま続けてきた事が
向き合ってきた証だと思う
看護師をやめるって答えも
向き合ってきた証だと思う
四月から一緒に暮らそうか
心とからだ休ませてやれよ
一緒に暮らすと言っても土日は俺帰れないし
祐子一人の時間は…」
「…」
「祐子」
「どうしてそんなふうに…」
「え」
「そんな酷いことを 、
されて 傷つけられて
高校受験に 失敗して
誰も頼らず横浜に来て
…
どうして思いやりをなくさずに生きてこれたの?」
「思いやり そんなないけど
愛情をくれた人がいたから
その人たちと
自分の意思で別れて
一番大切にすべき人を傷つけた
コウジさんケンさんに出会って
一言で言えないけど
色々沢山感謝してる
それと
負けられない男がいた 今も」
「友達?」
「うん」
「私たち
付き合って2年になるね」
「うん」
「それなのにカズ君は変わらない 私のことをあたり前にしない 大切にしてくれる」
「そうでもないよ」
「(笑) カズ君はすごい人」
「…」
「私の彼」
「あのさ」
「ん?」
「矢沢君のこと
続ききかせてよ」
「…
転校しちゃったの
5年生の秋」
「え?」
「…」
「…」
「ね ホテル行こう」
祐子はトイレ
「ごちそうさま」
ミキシンググラスを洗うケンさんに声をかけた
「話し込んでたのか」
「うん」
「プロポーズか」
「うん」
「?」
目で訊いた
俺は2ミリ頷く
通じてると思っていても…
「言葉にしないと伝わらない事
きっと 本当はすごく多いね
ケンさんに会えてよかった
ありがとう」
ストレーナーを持ったまま眉間に皺を寄せ左の口角を少し上げて俺を見た
へんな顔だ
祐子がきた
「本当にごちそうさまでした。
ケンさん、いつもありがとう」
ーーー
彼女のレイヤードマフラーが柔らかく風に揺れた
ささやかにイルミネートされた通りを寄り添い歩き駅前のタクシーに乗る
「──までお願いします」
ひと駅とばして次の駅
彼女の最寄り駅から三つ目の駅をドライバーに告げた
後部座席に凭れると
アルコールがまわるのを感じた
俺だけ違うところへ行ってしまいそうで
だから彼女の左手を握った
「近くで大丈夫なのに」
そう言って俺の肩に凭れた
多分祐子は目を閉じている
俺は前を向いていなくては
右肩にかかる柔らかな重みが繋ぎとめてくれる
‐俺が守ってやるからな‐
すごいな 10歳で
もう男だったなんて
俺が守ってやるからな
矢沢君の声をきいた
ドラッグストアを過ぎたところでとめてもらった
5分ほど歩き
気持ちひっそりたたずんでます
といった感じのホテルに入った
くどいほどシンプルなモノトーンの部屋
何故この部屋にしたんだろう
俺が選んだのだけど
祐子に集中するため
答えを出し、冷蔵庫から水を2本取り出して無頓着なソファに腰を下ろした
形容できない壁を眺めながら
今までどんな部屋で寝てきたか思い出そうとしたが駄目だった
ペットボトルの水を飲む
何をするべきか考える
ラブホテルに来て何をするべきかを考える
「風呂のお湯出してくる」
「うん」
言う必要があっただろうか
ダークブラウンで覆われた浴室
白い大きなバスタブ
バスタブにスポットライト
ため息がもれた
バスタブにスポットライト
何を考えてるのかサッパリ解らない
Don't Think Twice
It's All Right
ちょっと迷ったけれど
乳白色入浴剤を入れた
決め手は効能疲労回復
こんなにデカイ必要あるか
バスマットにまで疑問を抱く
つまらないところに気づく自分のつまらなさに気づきイヤな気分になった
祐子のいるモノトーン部屋に戻る
洗練とは言えない只のシンプル
Simple is best
そんなことない
時と場合による
やらないで後悔するより
やって後悔した方がいい
そんなことはないだろう
どちらにせよ後悔は嫌だ
ーーー
「入れるよ」
「先に入って」
「は」
「後から行くから
入ってまってて」
…
黙って風呂に向かう
俺たちは
一緒に風呂に入ったことがない明るいところで
互いの裸を見たことがない
服を脱ぎ
顔頭体を洗いバスタブに浸かった
考えるな 考えるな
「失礼しまーす」
祐子が入ってきた
眼鏡を外し髪をアップしている
どうしてライト浴びてるの?
そう言って笑った
タオルを持った右手に左手を添えてお腹の前に置いている
小さな胸も三角の陰毛も当然のように彼女だった
美しかった
つらいほど勃起した
あたり前なんだと言い聞かせる
「どれがどれか教えてくれる?」
左手で思いきり押しつけながら
バスタブを出て祐子の左に屈んだ
「これが洗顔フォーム セッケンに ボディソープ黄緑がボディソープな 左からシャンプー コンディショナー トリートメント」
「ありがとう」
鈍い痛みが胸の辺りを過る
彼女の肩は微かに震えていた
―
男は恥ずかしがることが恥ずかしいし動揺を見せることが屈辱なんだ
―
オトコオンナ関係ない
祐子
何か伝えようとしているのか?
――――――――――――
祐子が顔を洗っている間
俺はバスタブの中でキトーを強く握っている
鎮チン
菜食主義者は肌に潤いが足りないとか玄米食の人は肌が玄米色とか関係ないことを考えてもたったままだった
洗顔を終えた祐子がこっちを向いた
「入っていい?」
俺はおいでおいでした
濡れてはりつく陰毛に目がいく
湯に浸かった彼女と目があう
両手を広げるとこっちに来
あ
彼女の脚がチンチンにあたった
「ごめん」
「こちらこそ」
「こちらこそって(笑)」
感情や想いを口の動きで伝えようとするように長くあたたかな口づけを交わす
そのまま抱きしめながら膝をついて少し持ち上げ、首に、肩に鎖骨にキスをした
乳首を唇で挟み舌先をあて
そっと歯をたてると深く震えるような息を吐いた
割れめに指を這わせた
触るか触らないかくらいに小さな突起を指先で撫でる
ふるえる脚が俺の手を挟んだ
動かすのをやめ頬に首筋にキスをするとその力が抜けた
ゆっくりと続けて祐子のタイミングを待つ
‐もうすこしつよくして‐
俺は指先でこたえる
このまま すこしだけつよく
すこしだけはやくして
祐子はしがみつき
ギュッと脚を閉じた
そして何度も体を震わせた
ーーー
俺の胸に頭をつけて呼吸を調え、すこし離れると、目を閉じてゆっくり鼻まで沈んだ
ブクブクブク
それが可笑しく、妙に可愛くて俺はおでこにキスをした
「のぼせちゃう」
バスタブの縁に座らせヘソの下に顔を近づけると手で隠した
その手にキスをして
どかそうとしたけど動かない
「カズ君がのぼせちゃうよ」
スルッと湯の中に入ると俺の脇に手を入れ持ち上げるような動作をした
「俺が座るの?」
祐子は頷いた
今バスタブの縁に腰掛けたら
チンチンはスポットライトを指し示す
ちょっと当惑したけど
彼女はそれにブレたりしない
それでもいきなりは照れるから体を横に向け立ち上がった
一瞬目眩が
祐子が心配になる
「あつくないか?」
「ちょっとあついね」
「冷たいモン取ってくるわ」
「洗面台に、お水持ってきたよ」
「ああありがと でもやっぱり、冷たいモン取ってくるわ」
祐子は微笑んだ
‐俺が守ってやるからな‐
心の中で矢沢君の真似をした
ーーー
バスローブを着る男は十中八九変態だと思っていた
けどこんなときは便利だ
しかし勃起状態で着たら100%の変態だからやっぱりバスタオルで拭き裸のまま部屋へ向かう
変態でかまわない
冷蔵庫から缶のポカリスエットとウーロン茶を取り出しそれを持って風呂に戻った
右手にポカリとウーロン茶
左手はチンチン
「ありがとう」
「どっちがいい?」
ポカリスエットを手に取り
バスタブの縁に腰掛け
そっと壁に凭れた
右に腰掛ける
祐子はポカリをおでこにあてて目を閉じた ほっぺたにもあてた
俺はウーロン茶に唇をあててから
祐子の右肩にキスした
ピクッとした
もう一度
缶にあててから唇を重ねる
缶にキス 祐子にキス
缶にキス 祐子にキス
缶にキス 祐子に
「飲もうよ(笑)」
忘れるところだった
膝を抱えてポカリスエットを飲んでいた祐子が湯に足を入れ立ち上り 湯の中を歩き
そのまま出ていった
なんて自由なんだ
スポットライトが消えた
バスタブの中にブルーの灯りが
間接照明
祐子が顔を出した
照明が絞られていく
ユ「きれい」
天井から壁に向く四つの照明とお湯の中の青い光で見る祐子は本当にきれいだった
勃起した
「きれいだ」
ユ「ねー」
俺の左に座り消したライトを差した
ユ「どうしてあれだけつけたの?」
「スイッチ押したらあれだけついた」
ユ「(笑) 他のは押そうと思わなかったの?」
「そういう趣旨だと思ったから」
ユ「どんな趣旨?」
「バスタブにスポットライトっていう」
祐子は笑った
ユ「そう思ったカズ君も可笑しいけど、それを受け入れて入ってたのが可笑しい」
「お前のことで一杯だったんだ 頭ん中」
祐子はとても小さな声で「すごいなあ」と言い、俺の正面に立った
顔 胸 へそ ヘア 胸 そして顔を見上げた
祐子は俺の両肩に手をつくと
腰を屈めて唇を重ねた
少しずつ体を沈めながら
胸の真ん中 鳩尾 そして包むように触れると口に含んだ
やさしく握り小さく動く掌
舌はねっとりと亀頭に絡みつく
祐子の口の中は熱くて
じんじんと快感が押し寄せる
だけど
…
「ありがと」
肩を押した
なのに祐子ははなさない
「もういいから」
…
「祐子」
ユ「もうすこしさせて」
…
気持ちいいし
愛情を感じる
でも小さくなる
愛する女の口の中で
俺のペニスは小さくなる
いつも
------
本当は確信なんてない
上等なスーツ着ても、子供の頃から欲しかった車に乗っても
アグアド弾いても
裸になれば何もないただの男
お前が教えてくれる
俺にも何かしらいいところがあると
お前を愛することができる特別な男だってことを
-----
包皮をめくり唇で包んだ
そっと吸いながら舌先で
一定のリズムで愛撫する
祐子は俺の頭を触りそして肩をつよく押した
彼女の手の甲を親指で撫でる
俺は欲求し
湯の中でペニスを握り小さく動かしながら続けた
祐子は今までで一番大きくて切ない喘ぐような声をあげ
‐‐
溢れるものを俺は飲みこむ
できるだけ溢さないように
脊髄から痺れるような快楽が内腿を伝いペニスに向かう
手を止めたがもう駄目だった
強く何度も脈打つ
祐子は収縮を繰り返した
顔を上げ、お腹にキスをすると俺の頭を抱きしめた
手をひかれ立ち上がる
祐子がペニスを触った
触れたまま立ち上がり俺の手を握ってキスをした
「しょっぱい」
「祐子だよ」
彼女の頬を撫でる
素敵な笑みだった
使いきりのボディソープを祐子の体で使いきると祐子はモコモコになった
「プリンセステンコーか(笑)」
ユ「(笑)イリュージョン」
「何に変身すんの?」
ユ「…歌のおねえさん」
「どうぞ」
ユ「どーぶねーずみー
みたいにー」
「子供固まるぜ」
ユ「うーつーくーしーくーなーりー
たいー
しゃーしんーにはー
うつらないー
うーつーくしさー
があーるーかーらー…」
モコモコの祐子を抱きしめると彼女は俺の肩に顎をのせてリンダリンダを歌った
途中涙声になりながら最後まで歌った
仲良く体を拭いた
調子に乗ってバスローブを着る
部屋に戻り驚いた
ユ「すごいでしょう?」
天井と壁、壁と床、ベッドにも
コーニス照明を駆使していた
不自然なほど飾らない、シンプルが鼻につく部屋が照明によってどれほど変わるか
コーニス照明とはどういうものかを表していた
くどいほどのシンプルはそのためだった
「明るさは調節できるの?」
ユ「うん」
得意げに頷くと俺から離れ、壁の小さなツマミに触れた
天井と壁
壁と床
ベッドの縁
パブリックスペース…と言えるのかな?のそれ
それぞれ調節できるようになっている
「すごいな」
ユ「いかがなさいますか?」
「…なんだよ」
ユ「ご主人様?」
「…は? ねえちゃんのオススメで」
祐子は微笑み、天井と壁、壁と床の照明を絞った
ベッドが美しく光る
俺を見た
「ちょっと一服していい?」
ユ「もちろん。ビール飲んでいい?」
「そりゃいいよ」
ユ「カズ君は?」
「…飲む」
祐子は冷蔵庫からラバットブルーを二本取り出した
乾杯
「おいしい」
「うん」
缶のミックスナッツを開けた
俺にラバットブルーを教えてくれたのは日本橋の南米料理店で会った日系二世の男だった
もう10年前か
互いに名前は訊かなかった
「チリのワインうまいよ。ビールは…
ラバットブルー知ってるか?
カナダのビール、あれは染み渡る」
パラグアイから来たという男
彼の言うことは本当だった
チリ産のワインはうまいし
ラバットブルーは染み渡る
海底にいるようだ
誰の声も届かない
ここが終わりなんじゃないかと思った
このまま二人
沈んでいられたらいいと
「何だか本当に特別な日だね」
「ああ」
「こんな一日になるなんて思わなかった」
「うん」
「今日のことがわからないのに、明日のこと、ましてや一年後なんて 全然わからない」
「うん」
「どうしたの?」
「どうもしないよ」
時々
お前が俺の彼女だってことが
信じられなくなる
「カズ君 虐待受けたんだね」
虐待受けたんだね
祐子の言葉が 記憶が
全てが遠い
「優しいけど冷たい人
たくさんいる
私もそうかも知れない
常識的で 協調性があって
親切で丁寧 でも冷たい人
たくさんいるでしょう?」
わからない
俺は人を知らなすぎる
「私は虐待を受けたこと
無いから、何も知らなから、 わからない
だからせめて、わからないってことだけは、しっかりわかっていなくちゃって、思ってる
たかだか数百の、たった数百の例に触れただけでは、解り得ないと思うし」
たった数百
「だってそこにカズ君はいない」
「きっと、虐待を受けた殆どの人は、 誰にも言わずに
たたかっているんだと思う
愛すること
愛されること
たたかっているんだと思う」
愛すること 愛されることとたたかう
それは、虐待を受けた受けない関係なくないか
子は親の期待に応えようとするもの
祐子は言っていた
父親と一緒にいたかったのだと
---
私はお父さんといたかった
だけどお母さんと妹と、横浜に行かなくちゃいけないことはわかっていたの
お父さんといたいってお父さんに言えなかったこと
今も後悔してる
私はお父さんが大好きだった
---
虐待も別れも
親を想う気持ちがあったなら
それはどんなにつらいだろう
そんな気持ち全然なかった
俺は俺の虐待しか知らない
祐子
お前はたたかっているのか
愛すること 愛されることと
ユ「すごいこと言っちゃった」
「何が」
ユ「トーフにぶつかって死んじまえ」
「大丈夫だよ」
ユ「…」
「死んじまえじゃない
トーフにぶつかって、死んじまえだ。ただの死んじまえとは意味がちがうさ」
ユ「…でも本当に、元気くれる曲。がんばれってきこえるから」
「ゼイドントケアアバウトアスも、元気、くれるよな」
ユ「うん。 何度も救われた」
……………………………………
あたりまえのことだけど
俺たちは全然ちがう人間
だからこそわかろうとする
解らなくても、解ろうとする
全然ちがう別々の人間だから
好きなものが一緒だと嬉しい
でもそれよりもありがたいこと
俺と祐子は嫌いなものが一緒
多分これはとても大事なこと
集団嫌い 群れるの嫌い
祐子は看護師
医療集団の一員
個であろうとすることが、個であることがれほど難しいかを、想像する
尊敬する
……………………………………
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨‐
‐俺が守ってやるからな‐
‐
‐これ乗って東京いこうぜ
つれてってやるからな‐
「ムーンウォーク!」
‐できてるだろ?‐
「うん! すごいなあ」
‐内緒な‐
「ふたりだけの秘密だね」
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
They Don't Care About Us
俺にとってこれほど力をくれる曲はない
「今日は話してくれてありがとう
わかったなんて言えないけれど
私なりに納得できた 色んな事
もっと話そう
他愛無いことも
簡単に話せないことも
他の誰にもできないこと
誰にもさせられないことを
一緒にお風呂入ったみたいに」
「… 風呂は祐子が嫌がってたから、一緒に入れなかったんだろ」
「一度だけじゃない。はじめの頃、一度だけ断ったら、それから誘ってくれない。カズ君そういうところあるよ」
… は?
「カズ君は私を尊重してくれる。でも不安になるの。 もっと、
私にぶつけてほしいよ」
…
祐子は仕事の話を殆どしない
それは看護師としてのプライドだと思っていた
言わせなかったのかも知れない
俺は仕事の話をしない
ましてやお客のことなど絶対に他言しない
祐子のように守秘義務がある訳じゃないけれど、業務上知り得たお客のプライバシーを他言するなんてプロじゃない クソだ
これは話していいだろう
これは話してはいけない
オフの時そんな仕分けしたくない
だから俺は仕事の話をしない
祐子を尊敬している
厳しい目で見ていたのか
大好きなのに 愛してるのに
我慢を強いていたのは
祐子を追いつめたのは
俺だったのかも知れない
ひとりじゃないとか
そばにいるよとか
そんな言葉が嫌いだった
「一人に慣れちまってたから、それだけじゃないんだけど祐子といるの、いつも特別で
そういうの悪いことじゃないと思ってた、でもやっぱり
そんな俺のかたさが、祐子を、祐子の気持ち軽くしてやれないことも、あったと思う
気持ちぶつけるの、あんまり
できなかった かも知れない
わからない、おまえがいなくなったら生きていけないから
びびってたのかも
ずっと一緒に
ずっと一緒にいてくれるって、なら、いろんなこと話そう
何でも話せる仲は言っちゃいけないことまで話す仲みたいで嫌だけど、そうじゃなくて
色んなこと話そう
ずっと一緒にいてくれるなら
それなら俺も 話すから」
ゴチャゴチャのまま言葉にした俺に
祐子は
ずっと一緒にいようねと言ってくれた
---
ユ「歯みがいて、 エッチしようね」
「はい」
ユ「(笑)」
歯を磨いたら祐子を抱く
ドブネズミみたいに
鏡の前 並んで歯を磨く
俺は祐子の歯磨きを見るのが好きだ
家じゃ電動だし普段並んで磨くことなんてないから特別に思う
祐子の歯磨きは変だ
手首をあまり使わない
よって肘がブレまくってる
本人はまるで気にしてない
「祐子右利きだよな」
「そうだよ?」
子供の頃から変わっていないのだろうと思う
---
青く光る美しいベッドに並んで腰掛けるとどちらからともなくキスをした
彼女の後頭部を支えながら押したおす
バスローブの紐を解く時、これ以上のプレゼントはないななんて思ったら俺もそう捨てたもんじゃないと思えた
風呂で集中的に愛撫してしまったから
胸やあそこ以外の、肩や背中や腰お腹ふくらはぎやふとももをゆっくり愛そうとしたのだけど
どうにもこうにも
おさまりがつかない
「ごめんちょっともう入れたい」
「うん」
祐子は俺を引き寄せキスをした
傷口にあてるようだ
祐子にだけ見える俺の傷に
どうしてこんなに優しい
多分それは
祐子にも傷があるから
癒えることのない傷を 痛みを持ち続けているからだと
そんなふうに思った
二人のこれまでとこれからを壊さないように彼女の中に入った
‐‐‐‐‐
祐子
クールとかドライとかそんなスタンスに学ぶことなど一つもない
それはガキの頃の俺
全然ちがう
まっすぐなおまえを愛してる
‐‐‐‐‐
動けない俺を抱きしめてくれる
彼女の温もりに
苦しいくらい
ずっとこのままでいたい
受けとめてくれてありがとう
「お疲れさまでした」
「お疲れさま」
カウンター営業時間終了
ハードな一日
不景気不景気言われる御時世に俺の店は売上を伸ばしている
男性専用サウナなんて時代錯誤甚だしいだろう
何故サウナなんだと皆が言う
しかし俺から言わせればだからこそだ
男をなめてる女
女をなめてる男
患者をなめてる医療者医療者をなめている患者患者家族
従業員をなめている経営者経営者をなめてる従業員 子供をなめてる大人大人をなめてる子供
駄目になるにきまってる
俺は下らない男
経営者の器じゃない
でもこれは胸を張って言える
ここのスタッフは一流だと
このサウナから徒歩5分のところに
スーパー銭湯ができたとき常連が
「ライバル出現だね」と言った
…
全く懸念しなかった
スーパー銭湯
7つの風呂にサウナ
広い休憩スペース etc.
疲れるだろ
7つも風呂に風呂に入ったら疲れるだろ
おまけにサウナなんて拷問だ
スーパー銭湯
オッサンジジイ溢れ子供騒ぐ
疲れる
大体銭湯にスーパーな要素など誰が求めるのか
子供だ エネルギーの塊
近くにスーパー銭湯ができたとき
まあがんばれよと思った
スーパー銭湯はライバルじゃない
全然ちがう
うちと同じコンセプトの店があるだろうか
…
ホストクラブ
そんなもん知るか
クラブ スナック ラウンジ …
ラウンジって何だろう
クラブとスナックの中間てどういう
…
母父みたいなもんか
母と父の中間でボブ
ーーー
なあ馬場ちゃん
父ちゃんになるんだな
馬場パパ オバケか
赤ちゃん
無事に生まれてくれ
男でも女でも願いは一つ
馬場の遺伝子は否定しろ
あれから赤ちゃんの名前色々考えたよ
自由太でフリータ 仁人でニート
働に不破でワーキングプアとかけどやっぱりボブがいい
馬場母父
レディーガガより多いぜ
お祝いは焼売だ
88個送ろう
To Barbapapa
マッサージを終えた岡さんがカウンター席に腰掛けた
トマトジュースを出す
岡さんはいつも
マッサージのあとはトマトジュースを飲む
2年前トルコ産にかえたとき何も言わず差し出した俺にうまいねと言ってくれた
「畠山は何が違うんでしょうか」
岡さんはグラスにはりついたトマトの残骸を見た
「とにかく気持ちいい
体が軽くなるんだ」
「全然違いますか」
小さく頷いた
つまらない北欧映画を見るように
―休憩室―
ドリップのインスタントコーヒーを淹れる
俺のカップは祐子がくれたもの
陶芸教室で作ったらしい
何故かヒヨコが描かれている
「お疲れさまです」
喫煙コーナーから畠山さん
カ「お疲れさまです。コーヒーいかがですか」
「あ ありがとうございます」
コーヒーをテーブルに置き向かい合い腰掛けた
カ「ここで吸えるといいんですけどそうもいかずで」
「喫煙コーナー好きです。ここならいいよって、安心します。それと、喫煙コーナーに空気清浄機って素敵ですね」
素敵…
どうも
カ「どんな銘柄吸われているんですか?」
紺の麻生地ポーチを開けた
「これです」
エヴァローズスリムメンソール
「サイズとデザインがよくて」
デザイン
喫煙はあなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます
「吉井さんは吸わないんですか」
新しいレスの受付は終了しました
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
折り紙のおともだち
2レス 114HIT たかさき (60代 ♂) -
無し
0レス 104HIT 小説好きさん -
地球上回る都市
1レス 87HIT たかさき (60代 ♂) -
人生終わりに近づいてくる
0レス 116HIT たかさき (60代 ♂) -
真夏の思い出 フィクション
0レス 74HIT 寿司好きのたけし (80代 ♂)
-
where did our summer go?
ご主人は行かないそうだ。ご主人はゴルフして来るそうだ(作家さん0)
419レス 1509HIT 作家さん -
神社仏閣珍道中・改
(続き) 法然の生まれ生きた時代、人々は現世の地獄を生きてい…(旅人さん0)
180レス 10590HIT 旅人さん -
折り紙のおともだち
もこちゃんは、猫さん犬さん、キツネさん、ウサギさん、お猿さん、たくさん…(たかさき)
2レス 114HIT たかさき (60代 ♂) -
仮名 轟新吾へ(これは小説です)
続き この時点で!互いの 歯車が噛み合わなくなりました。 …(匿名さん339)
451レス 7897HIT 恋愛博士さん (50代 ♀) -
20世紀少年
東京 東京に戻ってきて暮らす所は、以前の社宅と違う場所。社宅は以…(コラムニストさん0)
90レス 2056HIT コラムニストさん
-
-
-
閲覧専用
20世紀少年
2レス 183HIT コラムニストさん -
閲覧専用
モーニングアフター モーリンマクガバン
500レス 3410HIT 作家さん -
閲覧専用
フーリーヘイド ~読む前の注意書きと自己紹介~
500レス 5903HIT saizou_2nd (40代 ♂) -
閲覧専用
おとといきやがれ
9レス 340HIT 関柚衣 -
閲覧専用
ウーマンニーズラブ
500レス 3413HIT 作家さん
-
閲覧専用
モーニングアフター モーリンマクガバン
お昼ご飯のお刺身を食べ終わり私はレンタカーで例様を社員寮へと送る …(作家さん0)
500レス 3410HIT 作家さん -
閲覧専用
20世紀少年
1961 生まれは 東京葛飾 駅でいうと金町 親父が働いて…(コラムニストさん0)
2レス 183HIT コラムニストさん -
閲覧専用
ウーマンニーズラブ
聖子の旦那が有能な家政婦さんを雇ったおかげで聖子不在だった機能不全の家…(作家さん0)
500レス 3413HIT 作家さん -
閲覧専用
フーリーヘイド ~読む前の注意書きと自己紹介~
やはり女性は私に気が付いている様である。 とりあえず今は、 …(saizou_2nd)
500レス 5903HIT saizou_2nd (40代 ♂) -
閲覧専用
今日もくもり
たまにふと思う。 俺が生きていたら何をしていたんだろうって。 …(旅人さん0)
41レス 1364HIT 旅人さん
-
折り紙のおともだち
2レス 114HIT たかさき (60代 ♂) -
仮名 轟新吾へ(これは小説です)
451レス 7897HIT 恋愛博士さん (50代 ♀) -
20世紀少年
90レス 2056HIT コラムニストさん -
神社仏閣珍道中・改
180レス 10590HIT 旅人さん -
where did our summer go?
419レス 1509HIT 作家さん
-
閲覧専用
サブ掲示板
注目の話題
-
どうすれば分かってもらえるんでしょう。
私は色々と調べ、愛着障害ではないかと考えました。昔からいい子でないと嫌われると思っていました。嫌われ…
40レス 379HIT 女 (10代 女性 ) -
私が悪いでしょうか。アドバイスお願いします。
0歳と3歳の子供がいます。 先日上の子の食事中、夫が「絶対こぼすなよ!」と何度も強く言っていて娘は…
23レス 341HIT 匿名さん -
ダンナがソープに行っていた、心の整理が
旦那が会社の同僚達と仕事だと偽ってソープランドに行っていました。 気持ちの整理がつきません。 5…
30レス 327HIT おしゃべり好きさん -
好きなのに付き合わないって変?
告白されて好きでも付き合わなかったことってありますか? 2週間ほど前に好きな男性に告白されましたが…
17レス 219HIT 恋愛勉強中さん (30代 女性 ) -
恋愛でマイルールを押し付けられやすいです
恋愛で男性にマイルールを押し付けられやすいです。 マイルールというか、めちゃくちゃな考えをゴリ押し…
10レス 187HIT 社会人さん (20代 女性 ) -
運命の出会いはいつなの
出会いを求めて行動しているのですが、疲れてきました。 結婚願望のある25歳女です。 趣味の集まり…
8レス 168HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) - もっと見る