笑う人形
人の不幸は最高の幸せ。
小さな優越感に浸れ、一時の幸せをくれる。
後に虚しさが来ようが、その一時の幸せを得る為に私は今日も他人の不幸探し。
もう私の感覚は麻痺していた。
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『真理は絵が上手ね』
母が少しだけ微笑んでくれた。私は嬉しくて、母に抱きつく。
『ママ…ママ…』
もう大丈夫だよね?ママ笑ったよね?もう泣かないよね?
私はそんな風に思いながら、柔らかい母の胸から離れようとしなかった。
父が帰ってこなくなって1ヶ月が過ぎた頃、突然父が帰って来た。
『真理!ただいま』
パパは手にいっぱい荷物を抱えて、それを床に置くと大きく手を広げて私を呼んだ。
『真理…おいで…』
私はやり掛けてたブロックから手を離し父の手の中に飛び込んだ。
『…パパ…パパが居ないから真理ね…真理ね』
私は嬉しさと寂しさがぐちゃぐちゃで泣いていた。
母も少し涙ぐみながら
『あなた…お帰りなさい…』と言っている。
母が嬉しそうにキッチンで料理をしている。
私と父はリビングで、会えなかった時間を埋めるかのようにくっついて離れなかった。
『あっそうだ真理、ちょっと待っててな』
父は何かを思い出しだのか、さっき置いた荷物の方へと行く。
『はい、プレゼントだよ。』
戻って来た父の手には、可愛くラッピングされたプレゼントがあった。
ピンクのリボンをほどき、包装紙を開けると一体の人形が箱に入っていた。
『うわぁ…!!かわいい!』
私は箱から人形を取り出し、はしゃいだ。
『真理、パパ、ご飯にしましょ』
ママが笑顔で私達を呼ぶ。
母の料理が食卓に並んだ。母は嬉しかったのか食べきれないほどの料理を作っていた。
『ママの料理久しぶりだな~』
父の顔がくしゃくしゃの笑顔になる。
三人で食べる久しぶりのご飯。会話は途切れる事無く続いた。
パパは時々帰って来ない日があった。
さすがに1ヶ月も帰って来ない日は初めてで、母があんなに泣くのも初めてだったから子供ながらに色んな葛藤があったけど、今日父が帰って来た事でどうでも良くなっていた。
だってみんな笑顔になれたんだもん。
パパと久しぶりにお風呂に入る。
湯上がりに一杯飲んでる父に、パジャマに着替えながら私は聞いた。
『ねぇパパ…明日も帰ってくる?』
『明日も次の日も帰って来るよ』
父のその一言に安心し、私は貰った人形を抱えると父と母におやすみを告げ部屋へと駆け上がった。
良かった…
私は自分の部屋のベッドに入ると人形を寝かせ自分も横になった。
私はその人形に話し掛ける。
『パパ明日も次の日も帰ってくるって!真理寂しくない』
私はいつの間にか寝てしまい朝ママに起こされるまで、熟睡していた。
『…んん…ママ…おはよう』
まだ眠い目をこする。
『真理おはよう、下下りてご飯食べようね』
ママの明るいいつもの顔があった。
下に降りるとパパは居なかった。もう会社にいったのよと母に言われ、私は朝食を食べ園バスが来るまでテレビを見ていた。
『♪♭♪♭♪♭…』
ママの携帯が鳴る。
ママは一度携帯を手に取ったが、その電話には出なかった。
『真理いこっか』
母に言われ私は幼稚園の園バスに乗りいつも通り幼稚園に向かった。
あの日以来、本当に父は毎日帰ってきた。
ただ変わった事は毎朝、母の携帯が鳴る事だった。
幼稚園が夏休みに入ったある日、私は近くに住む祖父母の家に行く事になる。
いつもならお泊まりしないのに、なぜかこの日は私だけ泊まる事になる。
お泊まりが一回…二回…一週間…
パパもママも迎えに来ない。
寂しさのあまり祖父母に訴えた。
『…おうち帰りたい…ママに電話して』
祖父母は困った顔をしていた。
それでも私は引けず泣き叫んだ。
『分かったから、もう泣かないの…ばぁちゃんが今すぐ掛けるから…ねっ…』
祖父母はため息を付き、電話をやっと掛けてくれた。
…だけどママもパパも電話に出なかった。
『やだ!帰る!おうち帰る!』
私はパパとママに会いたくて祖父母の家を飛び出した。
自宅から祖父母の家は車ではすぐでも六歳の足では物凄い距離だった。
私は案の定迷子になり近くにあった小さな公園で泣いていた。
暑い日差しが照りつけて、公園には誰も居ない…。
『…っ、んっ…怖いよ…ママ…パパ…怖いよ』
しばらくして女の人に声を掛けられた。
『どうしたの…?』
こぼれ落ちる涙を必死にぬぐい、ぼやけてた視界に現れた女性は私の知らない人だった。
白い日傘を差したその女性はしゃがみこむと私の顔を覗き込む。
『…誰かに虐められた?それとも迷子かな?』
私はたまらず答えた。
『…真理、おうち帰りたい…の…ママお迎え…お迎えこなくて…だから真理…』
『真理ちゃん、お姉さんがママのとこ連れて行ってあげる…だからもう泣かないで』
そう言うとお姉さんは私を木陰のあるベンチに促し、話を始めた。
一方祖父母の家では、みんなが私を必死で探していた。
やっと母と連絡が付き、母も駆けつけていた。
『…警察に頼もう』
母も祖母も頷く。
その時母の携帯がなる。
母は躊躇いながらもその電話にでた。
『…もしもし』
『…ママ?』
『…!!…真理!?真理なの?』
それは母にとって予想もしてない事だった。
ずっと避けてたある女性の携帯から娘の声が聞こえたのだから。
母は戸惑いながらも、迎えに行くから絶対そこから動かないでねといって電話を切った。
母や祖父母の様子なんて分かるわけもなく、私は母の迎えを待っていた。
側にはお姉さんもいたしもう寂しくは無かった。
『真理ちゃん…お母さんとお父さん好き?』
お姉さんが話をし始めた。
『うん!真理、パパとママ大好き』
私は笑顔でパパとママの話をお姉さんにした。
お姉さんは笑顔から寂しい顔に変わっていった。
『…真理ちゃん…私ね…真理ちゃんにずっと会いたかったの』
おねぇちゃんの寂しい顔が涙で今にも溢れそうになり、私が戸惑ってるとおねぇちゃんは私を抱き締めてきた。
『…お…ねぇちゃん?』
その時だった。
『やめて!!』
駆けつけた母の声が静かな公園に響く。
ママだ!側には祖父母もいる。
私はママの姿に駆け寄ろうとしたがおねぇちゃんが離してくれない。
『おねぇちゃん離して!ママー!』
私は母の方に行こうと必死にもがいた。
母も私の方に近づいて来て、おねぇちゃんから私を引き離そうとした。
『百合子さん!真理を離して!お願い!』
大人二人が私を引っ張りだし、私は痛くて怖くて泣き出してしまう。
私のただならぬ泣き方に、おねぇちゃんの力が緩み母の胸に引き込まれた。
『真理、真理ごめん…』
ママにぎゅっと抱きしめられ、私は必死にしがみついた。
泣く私をママは離すことなくおねぇちゃんに話かける。
『百合子さん、もうすぐ彼も帰宅します。もう逃げません。話をしましょう』
母の問いにおねぇちゃんは頷き、みんなで祖父母の家に戻り父の帰宅を待った。
静かな沈黙が続いた。
父が帰宅し、リビングに全員が揃った。
私は少し離れたとこに祖母とその様子を黙って見ていた。
初めに口を開いたのは祖父だった。
『百合子さん、もう体は大丈夫なのかい?』
『…はい、色々ご心配お掛けしましたが大丈夫です』
祖父母もおねぇちゃんを知っていた。ママもパパも…当たり前だった。
それは私が産まれる前から始まっていたんだから。
それはまだ三人が学生だった頃の話。
父恭治、百合子さん、母美紀はともに同じ大学に通う先輩後輩だった。
百合子と父の付きあいは高校時代からで、大学に入ってからもその仲は壊れる事無く続いていた。
バイト先に美紀が入った事をきっかけに三人は仲良くなり母美紀にとって、二人は良き先輩だった。
二年目の春、百合子から美紀に電話が入る。
『美紀ちゃん…今日のシフト変わって貰えないかな』
その日体調が優れないという百合子に変わって、美紀はバイト先に顔を出した。
『あれ~なんでお前来たん?』
恭治先輩が聞いてきた。
恭治は百合子から今日の事は聞いてないようで少し気になってるようだった。
バイトが終わってすぐ、恭治は百合子に電話をかけるが出ない。
『俺、百合子んとこいってみるわ。今日は百合子の変わりサンキュ!~』
恭治は美紀にそう告げると百合子のアパートに向かった。
百合子はアパートで一人溜め息をついてた。
『妊娠5週ですね…ほらここ。まだはっきり見えないけど妊娠してますよ』
百合子は昼間病院で言われたこの現実を受け入れられず一人悩んでいた。
『はぁ…』
何度目の溜め息だったろう、チャイムが鳴った。
恭治だ…百合子には分かってた。
話さなきゃ…百合子は玄関に向かった。
やっぱり恭治だ。
ドアチェーンを外し、ドアを開けた。
『おい大丈夫かよ~電話でねぇし、美紀から聞いて心配したじゃん』
恭治は百合子の顔を見て安心した様子だった。
『…あ…ごめん。』
百合子はどう切り出したらいいのか言葉に詰まった。
『大丈夫だよ、今日俺泊まってくし看病してやっから』
恭治は靴を脱ぐと近くのコンビニで買って来たゼリーやらスポーツドリンクを出した。
『ゼリーなら食えるべ?後は適当に買って来た…熱あんの?腹いてぇの?』
恭治は優しい男で本当に百合子を心配していた。
『…ごめ…ん、あのね…私…』
百合子は上手く言えなくて泣きだしてしまった。
百合子は昼間病院で言われた事、生理が遅れて検査薬を試した事、泣きながら不安だった気持ちを恭治に伝えた。
恭治も百合子の話を黙って聞いていた。
だけど、この日二人は決断出来なかった。
そりゃそうだ。いくら成人してるとはいえまだ学生の二人。妊娠は想像もしてなかった。
妊娠した事で百合子は情緒不安定になっていた。
『産みたい』
『中絶する』
その日によって百合子の気持ちは揺れていた。
恭治は恭治で、中絶だけは考えてなく親にどう切り出すか、大学はどうするかそればかり考えていた。
でもお腹の子供は待ってくれない、恭治は百合子に切り出す。
『百合子…俺と結婚しよ。
親に話して、百合子の両親にも挨拶いく。』
百合子も決心した。
それからはもう大変だった。
お互いの両親を巻き込み、何度も話し合いをした。
初めは中絶しなさいと言っていた両親だったが、最後は条件付きで許してくれた。
百合子は大学を休学し、恭治の住む実家に移った。
恭治は大学を辞めて働くつもりだったが、産まれて来る子供や百合子ちゃんの為にも卒業はしなさいと言われた。
親の援助を受けながら二人は自立を目指した。
百合子は悪阻が酷く安定期に入るまで、食事がまともに取れず体重も落ちていった。
悪阻が無くなったと思えば、有り得ない食欲に襲われた。
戸惑いながら、5ヶ月を迎えると体も妊婦らしく変化をし始める。
百合子は自分の体が変わって行く事、体重を増やせないプレッシャー、慣れない同居…精神的に参っていた。
私の人生これで良かったのかな…
百合子は後悔し始めていた。
夜の8時に病院についた百合子は一人病室に通された。
立ち会い出産を希望してなかった為、恭治と両親は帰らされた。
『まだ赤ちゃん産まれないから横になっていてね。息んじゃだめよ。』
看護師さんにそう言われ百合子は耳を疑った。
嘘でしょ…まだ産まれない…
あ゛~
変な汗が出始め、横にもなってられずひたすらウロウロする。
ジワジワと止んでは襲う陣痛の痛みに、百合子は一人耐えていた。
何度か看護師が訪れ、朝方近くやっと分娩室へと向かった。
その頃、病院から連絡を受けた恭治、両親、百合子の両親が病院に向かっていた。
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