【命の日数】

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2009/09/29 22:13(更新日時)

神様は


ごくたまに


【耐え難い試練】


を与える…………



ばぁちゃんは、


「【その人に耐えられる試練】しか、与えないから
大丈夫」


そう言っていたけれど…








私には…………


【命の日数】


が見える…………。









※ 完全フィクションです。 
不快に思われる表現などがありましたら申し訳ありません。

ご感想スレを、
別に立てさせて頂きますので、何かありましたら
そちらの方にお願いいたします。

No.1162215 (スレ作成日時)

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No.51

話が終わるのを
待っていたかのように

優が泣き出した


優也は

「俺は優のオムツ
替えとくから

顔洗ってこいよ!
鏡見てみ?
すげー顔してるぞ(笑)」


と言った


千里は

「元々ひどい顔ですよーだ!」


と言って
洗面所へ行こうとした時


「もう泣くなよ?
俺千里の笑顔が好きだよ」

と優也は言った


千里は
冷たい水で顔を洗い


『もう優也の前では
絶対に泣かない』


そう決めた













翌日からは
前と変わらぬ日々だった

一日一日を大切に
悔いが残らないように
過ごした

優也は、時折
恐怖で眠れない日もあった

そんな時は
千里と朝まで話をしたり

志乃もまざって
朝まで家で遊んで
気を紛らわした

No.52

4週間後……


千里が
朝、洗濯物を干していると

優也に


「千里ー!千里!!
ちょっと来てくれ!」


と呼ばれ、部屋に行くと


「優が俺の事
じーっと見て
笑ったんだよ!」


と凄く興奮していた


千里は


「まっさかぁ……
確かに目で追うようには
なったけど……」


と言いながら優に近づき


「優~
ママにも笑って見せて?」


と言ったけれど反応なし


優也が


「ほら、優~
さっきみたいに
笑ってごらん」


と言ったら………



一瞬だったけれど
確かに優は笑った



優也は

「ほら!今笑っただろ?
な? な?」


と得意そうに言った


千里は


「なんで~、優
ママにも笑ってよぅ…」


やっぱり笑わなかった



思えばこの時

優は…何かを
感じていたのかも
しれない









それから2日後…

30日目の夕方
優也は倒れた………

No.53

その日の優也は
朝から落ち着かず
あまり口も開かなかった

《今日で命を落とす》

とわかっているのだから
当然といえば当然だ

部屋で何やらガサゴソと
やっていた


でもそれが終わると
いつもの優也だった


志乃は


「今日は家族だけで
過ごしなさい

遠くには行かないから
何かあったら
すぐに連絡しなさい」


と言ってでかけた


千里と優也は
一緒に食事を作り
一緒に食べ

ずっと手をつなぎながら
色々な話をした

出会ってから今日までの
長いようで短すぎる
時間の話を……

余計な事を考える時間が
ないくらい
千里はしゃべり続けた


千里は
優也のぬくもりと笑顔、
声、仕草………
全てを焼き付けた



優也はと言うと
不思議と落ち着いていた

恐怖がないわけでは
なかったが
千里と優がそばにいる…

それだけで充分だった


午後、優也は
優と最後のお風呂に入り
寝かしつけ
千里と二人きりになった

No.54

優也は

「ごめんな……千里を
幸せにしてやれなくて…」

と言った


千里は笑顔で


「何言ってるの?!
私は優也に一生分の幸せを
もらったよ、ありがとね。

優也は……
私といて幸せだった?」


と聞いた


優也は

「うーん…どうかな(笑)」

と言い
千里を抱き寄せて


「幸せだったに
決まってるだろ!

本当にありがとう…」


と言った


千里は泣きそうになり


「ちょっとトイレ
行ってくる」


と言って部屋を出た


洗面所にいると


『ガタン!!』 


と大きな音がした


千里が慌てて戻ると


優のそばで
優の手を握りながら

優也は倒れていた……

No.55

千里は
急いで救急車を呼び
志乃にも連絡をした


志乃は近くにいたようで
救急車が着く前に
帰ってきた


優也は息はしているものの
意識はなく
苦しそうだった


数分後…救急車が到着し

千里はは救急車で
志乃は優を連れて車で
病院へ行った


千里はただ
ボーッと処置をしている
部屋の前で座っていた


普通ならば

『助かりますように』

とか

『たいしたことない』

とか考えたりするの
だろうけれど……




少しすると
先生が中から出てきて


「今までもったのが
不思議なくらいです

おそらく今夜にかけてが
峠でしょう

30分ほどしたら
中に入れますよ」


と言った


千里は


『良かった…
もう少し一緒にいられる』

そう思った


30分後……
病室に入ると
呼吸器とモニターが
優也についていた


優也の意識はまだ
戻っていないようだった


千里はずっと優也の手を
握っていた……

No.56

数時間後…

優也の手が
ピクッと動き
ゆっくり目を開けた

「千…里………」

優也は、話す事さえ
苦しそうだった


千里が

「私はずっとここにいるよ

痛いところはない?
大丈夫?」


と聞くと、優也は


「痛みは………ない
少…し……苦しい…だけ」

と言った


そして……………


「千…里……
あり…が…とう
優を………頼……む」


と言って静かに目を閉じた


千里が

「優也?優也!」

ハッと時計を見ると
午後11時33分だった


次の瞬間

《ピーーー》

とモニターの音がする


慌てて先生が入ってきて
千里は隅で見ていた


3分後……先生は


「残念ですが……」


と言った



11時36分……
優也は亡くなった

No.57

千里は
泣かなかった


優也の前では泣かないと
決めたから……


病室の外では
何も知らない優が
志乃に抱っこされ
すやすやと眠っていた…








通夜や葬式には
辞めた会社の上司や
同僚、後輩も来てくれた

学生時代の友人なども
沢山参列してくれた

みんな口をそろえて


「早すぎる……」


と涙をこぼしていた
千里はそんな姿を見ながら
改めて優也の人柄に
尊敬した


『優也と結婚できて
本当に良かった』


そう思った






1週間が過ぎ

優也がいない事を除けば
今までと変わらぬ日々が
少しずつ戻ってきた


優がいたから
千里は頑張れた



ふと部屋に戻ると
DVDが目についた


「誕生日まで見るなよ」


そう言われていたけれど
優也に会いたくて


《23歳の千里へ》


と書いてあるDVDを
セットした……

No.58

パッと画面が明るくなり
椅子に優也が座っている


すると………


「こらっ!千里
誕生日まで見るなって
言っただろ!」


と優也が言っている


『嘘……なんで……』


と思っていると
続けて


「なぁんてね!
千里の事だから
絶対に俺が死んだら
すぐに見るかと思って…


もし、本当に誕生日まで
我慢してたらごめん!


では改めて、千里!
誕生日おめでとう!

優は元気か?
……………………」


と優也が笑顔で話してる


『あはは……
バレてた………』


千里の目から
大粒の涙が溢れる


「優也ぁ………」


千里は


優也が亡くなってから
初めて泣いた………

No.59

「お母さんっ
どうしよう?」

「どうしたらいい?」


と千里が聞く

志乃は


「落ち着きなさい
まずは優が
本当に見えてるのか
確かめないと…」


そう言って
おやつを食べている
優の所へ行き


「優…ばあちゃんの
頭の上に数字が
あるかい?」


と聞くと
ニコニコしながら


「うん!
たくさーんあるよ!」


と優は言った

志乃は


「そう……いいかい?
この数字は、優にしか
見えない特別な数字
なんだよ…。

だからママとばあちゃん
以外の人には
絶対に言ってはいけないよ
ばあちゃんの言ってる事
わかる?」


そう優しく聞くと


「うーん……わかった!
ママと、ばあちゃんと
優だけの秘密だねっ

でも…どうして他の人は
見えないの?」


と優は言った

志乃は


「ばあちゃんと優にしか
見えないんだよ……
何でだろうね?

だからこの事は
他の人には内緒だよ」


そう言い、優は


「ばあちゃんも
見えるんだ!一緒だね!
秘密!秘密!」


と楽しそうに笑った


千里は、そんな優を見て


『これからどうなるんだろう………』


と心を痛めた

No.60

その夜、志乃と千里は
優が寝てから話し合った

志乃は


「あんたもそうだったけど
今はまだ大丈夫
とにかく外では
言わせないように
するしかない

大変なのは、
この目の意味を…
数字の意味を
知ってからだよ

あんたは
小学生の時に
30を切った人を
見てしまって…

その時に教えたんだよ


とにかく見えてるものは
仕方がないよ

あんたのせいじゃない

あの子が出来るだけ
辛い思いをしないように
頑張っていこう」


と千里を励ましたが
千里は自分を責めていた


そんな姿を見て志乃は


「私も
あんたのばあちゃんも…
自分を責めたけど

《きっと神様の試練だ》

そう思って今まで
やってきたんだよ

誰のせいでもないんだよ

あんたは優を授かって
見えなくなったんだから
優だって………

この力が弱くなってきてる
事を信じよう」


と言い、千里は弱々しく


「うん………」


と言った

No.61

優は、頭のいい子で

翌日から外に出ても
ばぁちゃんとの約束どおり

人の数字は言わなくなった

千里は


『30をきった人に
会いませんように……』


とそれだけを今は願った



普段は数字が
並んでいるだけだから
まだいい

でも…数字が少ない人に
会ってしまったら…

時間とその人の最期の姿が
見えてしまう………


小さい子にとって
恐ろしい光景に違いない
と千里は心配した


千里はそれからと言うもの
優をおじいちゃん
おばあちゃんに
近付けなくなった

公園も時間帯を選んで
行った……

そんな日々が近づき
千里は疲れていった



千里は何かがあると
必ず優也が残してくれた
DVDを見た


その日も


『私の誕生日まで
あと1週間だし』


そう思い


《25歳の千里へ》


と書いてあるDVDを
セットした

No.62

優也が笑顔で


「千里、25歳の誕生日
おめでとう!

優も3歳か……

優はおとなしいか?
それともおてんば?

千里に似たら
おてんばだな(笑)」


と言っている


自然と千里からも
笑みがこぼれる

すると


「千里…優の目はどうだ?
そろそろ
話し始めてるだろう?
まだ数字やひらがなは
読めないかな……?」


千里は真剣な顔になり
画面に釘づけになった

No.63

「千里…万が一優の目が
お前と同じだったとしても自分を責めるな。

俺は、その目を持つお前と知り合えて一緒にいられて本当に良かったと思ってる

辛い事も沢山あると思う
俺はそばにいて
支えてあげる事が
出来ないけど…

頑張れ!千里なら大丈夫だ
お義母さんだっている

俺も遠くから
見守ってるから…

優は、俺と千里の子だ
きっと強い

だから大丈夫だよ

頑張れよ!
じゃまた来年……」

と優也は笑って
DVDは終わった……


優也は未来の事を考え
その時々で起こるであろう
事を予想してメッセージを
残してくれていた…


優也がすぐ傍にいて
言ってくれている気がした

『優也………ありがとう
私頑張るから見ていてね』

そう思った

No.64

4月になり
優は幼稚園へ入園した


千里は、とにかく

《人前で数字の事は
絶対に言わない》

これだけを徹底した

まだ小さい優に
あれこれ難しい事を
言っても仕方がないと
思ったからだ


そして


「もしも
数字ではないものが
見えたらすぐにママか
ばぁちゃんに言うのよ」


と教えた


優は、幸いにも
30をきった人には
出会わず

毎日元気に幼稚園に通った

遠足に運動会
発表会に芋掘りや餅つき…

とても楽しそうだった


DVDの中の人が
自分のパパである事は
理解できていたが


行事があると
他のお友達は、パパも
参加したりしていたので


「どうして優のパパは
おうちにいないの…?」


と時折寂しそうに言った

No.65

千里は


「パパは病気でね
死んでしまったから
お星さまになって
ずっと遠くにいるの」


と説明しても


「どうして死ぬと
お星さまになるの?

死ぬってどういう事?」


などと質問攻めにあった


幸いな事に身近での
お葬式もなかった

まだ《死》を理解できて
いなかったから
説明が難しかった

でも優なりに理解したのか
少しずつ聞かれなくなり
何かがあると写真の優也に
話し掛けていた


あっという間に3年間の
幼稚園生活も終わり

小学生になった


千里も志乃も
これからの事を
心配した


優が見てしまう前に
説明するべきか
見てしまった時に
説明するべきか……


二人で夜な夜な話し合った

志乃は、千里の時の事を
踏まえて


「先に言うべきだ」


と言った


知らずに見てしまった
千里を落ち着けるのが
相当大変だったらしい


でも千里は


「もしかしたら
まだまだ出会わないかも
しれない。

そうしたら今、言う事で
恐怖になり、人の顔を
見れなくなるんじゃないか?」


と心配した


結論はなかなか出なかった

No.66

結局、志乃の言う通り

見てしまう前に
優に説明する事にした


優が、学校から帰り


「ちょっと大事な
話があるの」


と言い、三人で座った


千里は


「優の目の事なんだけど」

と言いだすと、優は
真剣な顔つきになった


「あの数字はね
《人の生きられる時間》
なの……

数字が0になってしまうと
その人は死んでしまうのよ………」


と説明した


「じゃぁ…
0になった人には
もう会えないって事?」


死ぬ=二度と会えない
と思っている優は
そう言った 


千里は


「そうよ
ここまでは…わかる?」


と聞き、優が頷いたので


「それでね…
数字が30よりも小さく
なった人に会うと

その人が死んでしまう
時間とか場所とか
どんな風に死んでしまうがが見えるの」


優はあまり良く
わからないようだった

No.67

「もしね…
数字以外の事が見えたら
少し怖いと
思うかもしれない

だから
すぐにその人を見るのを
やめるのよ?わかった?」

なるべくわかりやすく
説明したつもりだった


優は、話を聞いて
少しだけ怖がったが

『見なければ大丈夫』

そう理解し


「わかった」


と言った














それからも優は
千里や志乃の
心配をよそに

辛い思いをしないまま

小学5年生になった…




ある日…
優が、学校から
血相を変えて走って
帰ってきた


千里が


「何かあった?」


と聞くと


「詩織ちゃんが…
詩織ちゃんが1週間後に
死んじゃう!!」


と泣きながら言った

No.68

詩織ちゃんとは
優が3年生になった時
転校してきた子で

家も近く
すぐに仲良くなった


千里と詩織の母親も
子供を通して仲良くなった

詩織の両親は別居しており
境遇も似ているせいか
親子でよく遊んでいた



千里もびっくりして


「ちょっと落ち着いて
昨日までは?
いくつだったの?」
 

と聞くと、優は


「昨日までは大きかったよ
なんで?なんで急に…」


千里は
優を落ち着かせるように
志乃に頼み

詩織の母の携帯に
電話をした


すると、詩織の母は


「実は、離婚が決まってね
詩織も
一人で留守番できるし
本格的に働く事にしたの」


と言った


千里は

『これだ……』

と思った


適当に話を切り上げ


「優。もう泣かないの!
見えた事を詳しく
話しなさい

もしかしたら
救えるかもしれない…」


と言った

No.69

優は少しだけ泣き止み

「1週間後の
午後5時13分

場所は
詩織ちゃんの家の近くの
信号がない道

詩織ちゃんが自転車で
道路を渡ろうとした時に

速い車に
跳ねられちゃう」


と、思い出しながら
千里に教えた

優は、震えていた……


千里は


「事故なら救える
可能性はある!

お母さん
頑張って助けるから

もう泣かないの」


そう言って
優の頭を撫でた


優は、千里に抱きついて
泣いていた


千里は


『優に、辛い思いは
させたくない
させられない』


そんな気持ちで
いっぱいだった


その日に詩織を家に
呼んだら詩織は救えるが

違う人が犠牲に
なってしまう……

それではダメだ

事故が起きる時間に
その場所へ行き

事故が起きる時に
どうにかするしかない…


『優也……見守っててね』

そう思いながら

《その時》

を待った………

No.70

その日の夕方……


志乃は


「本当に大丈夫なの?
気を付けてよ……
あんたに何かあったら…」

と心配した


確かに詩織を救えても
千里が代わりに
跳ねられてしまったら
意味がない


千里は


「うん、わかってる
優の為に頑張ってくる!」

と言った


優は


「私も行く!」


と言ったけれど
志乃と待っているように
言われ


「お母さん……
気を付けてね」


と言った


千里は


「すぐに帰ってくるから」

そう言って出かけていった

志乃と優は
二人で祈りながら待った








千里は
詩織が来る道からは
見えないように隠れて待ち

車とぶつかる瞬間に
詩織を助けた……


自転車は壊れてしまったが
詩織は無事だった


少しだけ
怪我をしてしまったので
千里は詩織を家まで送り
手当てをして帰った



「ただいまぁ~」


と家の中に入ると
二人が凄い勢いで
走ってきた


千里は


「電話してきなさい」


と笑顔で言った


優は泣きながら


「お母さん!ありがとう」

と言って
電話を掛けに行った


千里は
その場に座り込んだ……

No.71

「ひっさしぶりに
怖かったぁ~……」


と千里は志乃に向かって
笑った


志乃は


「昔も、よくこんな怪我
してたわよね……
全く無茶して………
もう心配させないでよ」


と言った


そう…千里は昔

《救える人も救わないなら
目を持ってる意味がない》

と志乃に言った事があり
知らない人だろうが
命の危険が迫っている人を
助けようとした
時期があった……


志乃が反対するので
志乃にも黙って一人で…


擦り傷や打撲は
しょっちゅうだった


志乃に


「いい加減にしなさい!
助けようとして
千里が死んでしまう
事もあるし

助けられずに
千里まで………って
事もあるんだよ!

そんなに助けたければ
今は我慢して
そう言う仕事に
就きなさい!!

私には千里の数字は
見えないんだから

千里がいつ死ぬか
わからないんだよ!!」


と言われたがやめなかった

No.72

でもある日……

川で溺れて死んでしまう
子を助けようとして
千里が川に飛び込み


それを見ていた近くの
男性が千里を助け

もう一人も助けようとした

結果………その子と
千里を助けた男性二人が
亡くなってしまった事が
あった


千里は、その時初めて
志乃が言っている意味が
わかった気がした


志乃は千里を責めなかった

返って千里には
それが堪えた


千里はそれからしばらく

《自分が死ぬ恐怖》

が忘れられず
助けられなかった


結局その事が頭から離れず
そういった仕事にも就かず
普通の人のように
生活をし、優也と出会い
結婚した…………





千里が、そんな事を
思い出していると

優が電話を切り
笑顔で戻ってきた


千里は、優の笑顔を見て


『良かった……
でも………

昔の私のように
ならなければ
いいのだけど……』


と思った

No.73

翌日は休みだった為


千里は、優に


「昨日は、たまたま
助けられたけれど
優は、あんな事しちゃダメよ」


と言った


優は


「なんで……?
助けられる人は
私だって助けたい!」


と反発した


千里は


「気持ちはわかる
お母さんも
昔はそう思ったの……」


そう言って
昔の…川での出来事を
優に話した


その後に


「優は、昨日……
お母さんを待っている間
どう思った?」


と聞くと


「………凄く
怖かった………」


と小さい声で言った


千里は


「そうだよね?
優が助けようと
昨日のお母さんと
同じ事をしたら…

昨日の優と同じ思いを
お母さんもばあちゃんも
するんだよ……?」


続けて、昔志乃に
言われたように


「助けたければ
今は我慢して

大人になったら
そういった仕事に
就けばいいじゃない?

その時は反対しないわ」


と優しく言った


優は


「うん………わかった」


そう頷いた



千里は


『わかってくれた…』


そうホッとした

No.74

それから優は


「今わかっている
目の事、全部教えて」


そう言った


『優も12歳になるし
そろそろ
知っていてもいいか…』


そう思い、志乃と千里は
知っている事を
全て話した


優は真剣に聞いていた


そしてその日から
目の事や数字の事を
一切口にしなくなった…



志乃は、優の数字も
見えているし

千里と志乃は
安心しきっていた…








ところが1年後のある日




《佐川》


と言う人から電話があり
その人は


「優さんには、何と
お礼を言っていいか…」


と言った


千里が


「あの…うちの娘が
何か………?」


と聞くと

その人の
2歳になるお子さんが
優に助けられたのだと言う


その際に、優が
中学の生徒手帳を落とし

それを見て
連絡したのだと言った…

千里は
わざわざ連絡をくれた事にお礼をいい

生徒手帳を取りに行った



そして、その出来事が

《偶然》

だったのか

《わかっていたから》

なのかを聞く為に
優の帰りを待った…

No.75

優は
いつもと変わらぬ様子で


「ただいまぁ」


と帰ってきた


「優~、ちょっと
こっちへ来て」


と千里が呼ぶと


「なぁに?なんか
おいしい物でもあるの?」

と言いながら
リビングへ来た


千里の顔と、テーブルの
上に置かれた手帳を見て
言われる事を察した様で


「あ…あれはね
たまたま通りかかったら
ちっちゃい子が
遊んでて……

かわいいなぁと思って
見てたら高い所から
落ちそうになって…」


と、優は説明した


千里は


「そう…じゃぁ優は
なんで公園にいたの?

しかも昼間に…学校は?」

と聞くと
優は焦った顔をして


「それは……」


と言い訳を考えていた


千里が


「正直に言いなさい

学校で何かがあったから
休んで公園にいたの?

それとも………」


と言うと、優は


「ごめんなさいっ!
でも…あんな小さい子が
死んでしまうのを
放っておけなかったの

時間は14時過ぎ
だったんだけど…

場所が病院で、その前に
公園で落ちたのが
見えたから……

朝から公園で
その子を待ってた」


そう説明をした

No.76

「むやみに助けるのは
やめなさいって
言ったじゃない!

優にまで何かあったら
どうするのよ

お母さんが前に話して
わかってくれたんじゃ
なかったの?!

もうするんじゃないわよ!
いい? わかった?!」


と…つい心配のあまり
千里は頭ごなしに
怒ってしまった……


優も険しい顔になり


「だったらどうしろって
言うのよ!

お母さんの言ってる事も
わかるよ?

今回は
自分も危ない目に遭わず
助けられると思ったから

そう思ったら助けたの!

情けないけど私だって
死ぬの怖い…


だから…自分の命も
危なくなるような事
だったら

助けに行けなかったかも
しれない


救える人だけでも
救いたいの!

だって……
見えちゃうんだよ?

それなのに救える人を
放っておくなんて
私には出来ない!

お母さんは平気なの?
救いたいとは…
思わないの?


どうしてもダメだって
言うなら……

この目を
見えなくしてよ!

普通の子と
同じようにしてよ!!

お母さんなんて大嫌い!」


そう言って
外へ出て行ってしまった…

No.77

「優……」


千里は、初めて

《大嫌い》

と…言われてショックを
受けた


千里は、優の気持ちは
痛いほどわかる

自分もそうだったから…


でも、母親になった今は
昔の志乃の気持ちの方が
理解できる


『どうしたらいいの…』


そう思っていると


話を聞いていた志乃が


「あんた達……
そっくりね(笑)」


と笑った


「え……?」


と、千里が言うと志乃は


「千里と優は
似たもの親子だって
言ったのよ」


と言った

No.78

志乃は


「千里が優也君と
結婚したいって言った時の事……覚えてる?


今の優と同じような事
千里は言ったのよ


『目をなくしてよ!
普通にしてよ!』


ってね………

あの時は参ったわよ」


と志乃に言われ、千里は


『そういえば……』


と思い出した

命が短い事で
結婚を反対され

たったら目を
なくしてくれと
志乃に八つ当りをして

後で凄く後悔したんだった


「あの時…言った後に
千里はどう思った?」


志乃にそう聞かれ、千里は


「もの凄く後悔した
言っちゃいけない事
言ったって………」


と言うと、志乃は


「今の優も、あの時の
千里と同じだと思うよ?」

と言った



千里は


「ちょっとそこら辺
探してくる
ありがと!お母さん」


そう言って外へ出た…

No.79

千里は、本当に
志乃に感謝していた

余計な口は出さず
いつも見守っていてくれて
いつも自分の味方で
いてくれる…

何かあった時には
いつもいつも
大切な事を
思い出させてくれた…


『私もあんなお母さんに
なりたい』

千里は、そう思いながら
走った。
そこらじゅうを探したが
優は見つからなかった


駅の方まで
行こうとした時……


何かを追い掛けて
子供が道路に
飛び出そうとしていた


乗用車が近づいている


『危ないっ!』


そう思った瞬間
千里は、何も考えず
その子を突き飛ばしていた

〈キキーッ!!ドンッ〉

No.80

ザワザワと野次馬が
集まってきた

近くにいた人が
慌てて救急車を呼んだ





優は、フラフラと駅前を
歩いていた


『なんて事言っちゃった
んだろう……


お母さんが
頭ごなしに怒るから…

でも《大嫌い》は
まずかったかな……

あんな事言うつもり
なかったのに……

帰りづらいけど
謝らなきゃ……』


そう思い歩いていくと
人だかりができていた


『なんだろう?』 


と思い近づいてみると
救急車に女の人が
乗せられる所だった

道路には血が流れていた


優は


『あの人…大丈夫かなぁ』

そう思いながら
数字を見ようと頭を見た


『あれっ?ない!!』


周りを見渡すと
みんな数字がある


『まさか………』


そう思い顔を見ると

その人は、千里だった…

No.81

「お母さんっ!」


優は、慌てて近寄った


救急隊の人に


「娘さんですか?」


と聞かれ


「はい!」


と答えると


「では、同乗して下さい」

と言われ救急車に乗った


近くの病院に搬送され
優は、急いで志乃に
連絡をした……


『ばあちゃん……
早く来て!!』


『お母さん!!
ごめんなさい…
ごめんなさい…
私があんな事言ったから

もしもの事があったら
どうしよう……』



「優!!」


志乃が病院に着いた


「千里は?」


と聞く志乃に


「今処置してる
頭を打ってるみたいで…
事故だったみたいなの

私のせいだ………」


ポロポロと泣き出す優


「大丈夫だよ
出て行く時、数字は
変わってなかったし
大丈夫…泣かないの」


と志乃が言うと
優は、泣きながら


「ほんと?
本当に大丈夫??
私にはお母さんの数字
見えないから………」


と言った


志乃は


「本当だよ。だから
安心しなさい
それに…優のせいじゃ
ないんだから」


と優を慰めた

No.82

暫くして処置室から
先生が出てきた


「母は………?」


と優が聞くと


「頭を打たれたようですが
脳震盪を起こしてるだけ
なので問題ありません

腕の骨にヒビが
入っているのと

足の傷が深く
今縫合しています

命に別状はありませんが

念のため1間程
入院して下さい

今日1日ICUで様子を
見ます

何かありましたら
連絡いたしますので
ご自宅へお帰りください

完全看護ですので…」


と言った


優は


「良かった………」


と力が抜けたようで
椅子にもたれかかった






志乃が


「とりあえず帰ろう
入院の準備もしなきゃ
ならないしね……」


と言って、二人で
家に帰った……

No.83

家に着き
どっと疲れが出た二人は


「とりあえずお茶でも…」

と言って座った



「お母さん…何で…」


と優が言うと


「昔の自分を思い出した
んじゃないかしら」


と志乃は言った


「昔って……?」


と優が聞くと、志乃は

千里と優也の結婚に
反対した時の話をした


「………それで
千里ったら、さっきの
優と同じように


『お母さんの目も
私の目もなくしてよ!』


って言ってね……」


と言うと、優は


「私と一緒だ…」


と言った


「さっき千里にも
それを思い出させちゃったから………

私のせいだよ……」


と志乃は、珍しく
落ち込んでいた


「ばあちゃんの
せいじゃないよ…

私がきちんと
説明しておけば
良かったんだ

明日病院行って
ちゃんと謝らなきゃ…」


と優は言った


志乃は


「そうだね……

それにしても
たいした事なくて
本当に良かったよ

さ、明日の準備して
適当に何か食べて
今日は早めに寝なさい」


と言った


優は、部屋に行き


翌日持っていく荷物の中に
1枚のDVDと
プレーヤーを入れた………

No.84

翌日……


病院へ行くと
一般病棟へ移っていた


病室へ行こうとすると
千里の部屋から
親子が出てきた


『個室のはず……』


と思いながら近づくと


「あの…千里さんの
ご家族の方ですか?」


と聞かれ
そうだと返事をすると


「この度は本当に
ありがとうございました

千里さんがいなかったら…
この子はこんな軽い怪我
では済みませんでした

いくらお礼を言っても
足りないくらいです…

うちの子のせいで
千里さんに怪我を
させてしまって
申し訳ありません…」


と言った


志乃は


「とんでもないです
あの子が勝手に
飛び出しただけですから
お気になさらないで
下さいね。

お子さんが軽い怪我で
済んでなによりです」


と言った


「ありがとうございました」

と、もう一度頭を下げ
親子は帰って行った


志乃は


「やっぱりこういう
事だったのね…
全くあの子は………
優の事
言えないじゃないの」


とため息を吐いた

No.85

優は


「お母さん…
あの子を助けて
怪我したの??

ばあちゃん知ってたの?」

と志乃に聞いた


「まぁ…ね
確信はなかったけど。

だから昔の事を
思い出させた私の
せいだって言ったでしょ?

ほら、入りましょ」


と志乃は言って
病室のドアを開けた


志乃が


「千里おはよう
具合はどう?さっきそこで
親子に会ったよ」


と言うと、千里は


「優、お母さん……
ごめんね、心配かけて…

あはは…失敗しちゃって

35歳なの忘れてたよ
体は若くないね(笑)」


と笑った


志乃は


「笑い事じゃないでしょ
全く……どれだけ優が
心配したと思ってるの!」

と言うと千里は
真顔になって


「ごめん……」


と言った


志乃は


「ちょっと売店に
行ってくるから」


そう言って、病室を
出て行った

No.86

優が


「お母さん……」


と言うと
それを遮るように


「優…ごめんね
優の気持ち、一番良く
わかってるつもり
だったのに……

目の前に危険な人がいたら
助けたいと思うよね…

お母さんも昨日
咄嗟に体が動いてた……

これじゃぁ
優の事怒れないわね…」

と言った


優は


「昨日はごめんなさい!
大嫌いなんて言うつもり
なかったのに…

お母さんにもしもの事が
あったらどうしようって
私………」


と言って泣き出した


千里は


「いいのよ…お母さんが
悪かったんだから

これからは一緒に
助けられる人は
助けていこう?ね?」


と言って優の頭を撫でた


優は黙ったまま
うん…と頷いた


千里が


「でも危ない事は
しないでよ?」


と言うと、優は


「わかってる

これでも私
頭使ってるんだよ?

パパにもそう
言われてるから…」


と言ってDVDを取り出し
プレーヤーにセットした


「これ……なに?
パパってどういう事?」


と千里が聞くと優は


「これ10歳の時のやつ
見ればわかるよ」


と言って再生をした

No.87

久しぶりに見る優也の顔


「優…10歳の誕生日
おめでとう!

小学校はどうだ?
楽しいか?勉強は?

……………………

ところで…優………
優は、誰かを助けたいと
思った事あるか?

例えば…
困っている人とか
危険が迫っているような
人とか……

まだ難しいかな………


ま、とにかく
この先誰かを助けたいと
思ったら……

優、無理はするな
お前には
まだ出来る事と
出来ない事がある

それは仕方がない事
なんだぞ

助けたくても助けられない
時もあるかもしれない

でもそれは
お前のせいじゃない

助けてお前に何かあったら
意味がないんだからな?


でももし…どうしても
助けたいと思ったら…
頭を使え

自分も怪我をせず
助けられる方法を
よーく考えるんだぞ

お前はママに似て
度胸がある!パパに似て
頭が良くて美人なはず(笑)

だからお前にならできる!

わかったか?
ママやおばあちゃんに
心配かけるなよ?

じゃぁまた来年な!」


ここでDVDは終わっていた

「ねぇお母さん…
パパは、私の目の事
わかってたのかなぁ……」

と優が言った

No.88

千里は


「お母さんの目の事
知ってたからね……

もしかしたら…って
思っていたのかも」


と言った


優は


「パパって…凄いね
これ…私が生まれる前に
撮ったんでしょ?」


と言った


千里は


「ね?凄いね
一生懸命10歳になった
優を想像して
撮ったんだと思うよ?

そばにはいないけど…
お母さんも今でも
パパに助けられてるの


そっか…パパは
お母さんより優の事
わかっていたのかも
しれないわね

よし!退院したら
一緒にお母さんも
頭使って考える!」


と言った


優も


「うん!」


と言った




志乃が売店から戻り
果物を食べて


志乃と優は帰った


千里は

何度も何度も
優也のDVDを繰り返し
見ていた……


『優也…優を守ってね』


DVDの中の優也に
そう言った

No.89

それからは
助けられそうな人を
優が見た場合

必ず志乃と千里に
相談した


みんなで
出来る限りの事はした


電車の事故や
飛行機事故…土砂崩れ等は
どうやっても
救う事ができず

三人で泣いた夜もあった


千里も何度か一人で
買い物中や、散歩中に
階段から落ちそうな
お婆さんや

いきなり倒れたおじいさんに会い、助けた事もあった

見えてしまうからこそ
助ける事が出来たが

見えてしまうからこそ
辛い事も沢山あった…






優も高校生になり


「何で三人共同じ力
なんだろうね?

誰かが時間を
一瞬でも止められたら
みんな救えるのに…」


なんて言っていた



優也のおかげで
自分の出来る範囲で
助けられる人を
助ける事によって


《目を持つ意味》


があると思おうと
していた……






優は17歳の夏…
初めて彼氏《裕樹》
ができた


人懐っこい性格で
よく家にも遊びに来た

優の事を大切にしてくれて
千里も志乃も
見ていて安心できる
男の子だった


でも、付き合って半年
経った頃…急に
顔を見せなくなった

No.90

千里は、優に


「最近、裕樹君
顔見せないわね
もうすぐクリスマス
なのに……

あんた達
喧嘩でもしたの?」


と聞くと


「喧嘩なんてしてないよぉ
裕樹のお爺ちゃんの
具合が悪いみたいで…

冬休み入ってから
ずっと田舎なんだよね…


あ、でもお爺ちゃんが
落ち着いてたら
イブだけは、私の為に
新幹線で帰って来て
くれるんだ~!」


とのろけた


千里は


『心配して損した』


と思い


「そうですかっ
ごちそうさま」


と言った


『全く…いっちょ前に
色気づいちゃって…

優也が生きていたら
裕樹の事目の敵に
するかしら(笑)

優也の事だから
心配しながらも
優の好きなように
させるわね、きっと…』


などと想像していた


クリスマスイブ当日…


新幹線が着く駅まで
優は迎えに行き、

一人で帰宅するため
うちに泊めることに
なっていた


親同士も交流があったので

「よろしく親お願いします」 


と言われていた


でも、その日
裕樹は来なかった……

No.91

夕方優から電話があり


「裕樹…帰って来られない
んだって……

で、詩織も暇だって言うし
今日は、詩織んちに
泊まるから!」


と言われた


千里は


「えぇ~っ

料理も用意しちゃったし
詩織をうちに
呼びなさいよぉ~」


と言ったが


「ごめーん!
詩織んちのお母さん
仕事でいないんだって

だから女二人で
積もる話を………ね

料理は責任持って
明日食べるから…」


そう言われてしまった…


「わかったわよ!
でも、まだあんた達は
高校生なんだからね?

夜、外を出歩いたり
あんまり夜更かしするんじゃないわよ?!」


と千里が言うと、優は


「わかってますって

お母さん……ごめんね…」


と言った


「何よ、そんな謝り方
しちゃって変な子ねぇ…
じゃぁ明日ね。

夜までには
帰ってきなさいよ」 


と言って電話を切った


千里は、志乃と二人で
過ごした……








もし、千里が優を
無理矢理にでも
帰ってこさせていたら…

《変》だった事を
気にして連絡していたら…



この時

優が一人で思い悩んでいる
事を千里は知らなかった…

No.92

『やばい!
裕樹の乗った新幹線
10時8分に
着くんだった!

間に合うかなぁ……』


そう思いながら優は
走った


これ以上の走りは出来ない
と思うほどの全速力
で走ったおかげで

裕樹が着く2分前には
駅に着いた


「はぁ~…疲れた……」


と、優は独り言を言い
近くの自販機で
お茶を買った


5分後…


「優!」


と裕樹は呼んだ


「裕樹~、久しぶり!
すっごく会いたかった…」

と優が言うと


「俺も会いたかったよ…
ごめんな…

実はじいちゃんの具合
あんま良くなくて…

明日の夕方には
また戻らなきゃいけない」

と裕樹は言った


優は


「ううん…
大変な時なのに

《イブだから会いたい》
なんて
我が儘言ってごめんね…

お母さんとか…
大丈夫だった?」


と言うと、裕樹は


「大丈夫、大丈夫!
ほら、うちの親
優の事、大好きだから(笑)
明日帰るって約束で
すぐに許してくれたよ

優んちに泊まらせて
もらえるしな!

今日は、ずっと一緒に
いられるな!」

と言った

No.93

優と裕樹は

映画を観に行き
昼食を食べ


買い物をしていた


そこで裕樹が


「俺は
優より1つ上だから
来年の春
卒業して働くし

頑張って早く一人前に
なるから


優が卒業したら……
結婚して欲しい


俺、まだガキだけど…

ずっとずっと優と
一緒にいたい」


そう言って指輪を渡した


優は


「私で……いいの?」


そう聞いた


裕樹は


「優じゃなきゃ嫌だ」


と言っておでこに
軽いキスをした


優は


「嬉しい
私も…裕樹とずっと
ずっと一緒にいたい」


そう言った



裕樹は、優に指輪をはめ


「幸せだよって……
優に、いつか
言ってもらえるように
頑張るから!」


と言った



裕樹が


「さ、夕方に
なっちゃったし、

そろそろ優の家へ行って
優のお母さんの
おいしい飯でも食うか!」


と言って
優の家に行こうとした時

裕樹の携帯が鳴った……

No.94

電話の相手は
裕樹のお母さんだった


「もしもし?」


『あ、裕樹?お母さん
だけど』


「じいちゃんに
なんかあったのか?」


『ううん、じいちゃんは
相変わらずよ

だけど、お医者さまから
明日の昼に話があるって
言われてね

お父さんも、お兄ちゃんも仕事で無理だし…

悪いんだけど一緒に
行ってくれない?』


「そっか……わかった
じゃぁ、朝早く新幹線で
そっち戻るから

直接
昼までには病院に行くよ
それでいい?」


『悪いわね
優ちゃんにも謝っておいてね』


「うん、わかった
じゃ、明日」




優は


『裕樹と結婚……
ずぅっと一緒にいられる』

そう思いながら
裕樹にもらった指輪を
ずっと眺めていた


「なに一人で
ニヤニヤしてんだよ(笑)」

と、電話を切った裕樹に
言われ


「ニヤニヤなんて
してないよっ」


と言って裕樹を見た瞬間
優は目を見開いた…

No.95

裕樹は


「ごめん!!明日の昼に
病院行かなきゃ
いけなくなっちゃった

朝一の新幹線で
戻らなきゃ………

本当にごめん」


と言ったが
優の耳には
入ってこなかった


「優?………優!」


と目の前で手を振られ


「え? あぁ………
なんだっけ……?」


と優が聞くと


「だから、明日の朝一の
新幹線で戻らなきゃ
いけなくなっちゃった
って………

もしかして怒ってる?」


と裕樹は
心配そうに聞いた


優は


「おじいちゃんに
なにかあったの?!」


と心配そうに聞いた


「じいちゃんは大丈夫
病院の先生が、何か
話あるんだってさ!

母ちゃんも一人で
行ってくれれば
いいのになぁ………」


と裕樹はブツブツ
言っていた

No.96

『まさか……なんで?!

なんで急に《1》に
なってるの??

これ……新幹線の…
事故………?』


優は、動揺を隠せなかった

『こんな事故……
防ぐ事なんか出来ない…

裕樹が死んじゃう!!

私が………私が
今日、会いたいなんて
言わなければ………』


ショックと後悔で
頭がどうにか
なってしまいそうだった


『とにかく…
落ち着いて考えなきゃ…

裕樹を死なせるわけには
いかない!

絶対に嫌!!』


その時、裕樹が


「優んち行こうぜ!」


と言って歩きだした…

No.97

「待って!裕樹!!
ちょっと待って……

私…詩織んちに寄る
約束してたの忘れてた

一緒に寄ってくれない?」

と、優が言うと


「いいよ!じゃ行こう」 

と裕樹は言った


優は慌てて


「今から行くって電話
してくる!」


と言ってその場から離れた


『変な奴…携帯なんだから
ここで電話すりゃ
いいのに……』


と思いながらも
裕樹も幸せな気持ちで
いっぱいだった


『よーし!
頑張って働いて……
優を幸せにするぞ!』


と考えていた……

No.98

『お願い…詩織…
家にいて…………』


そう思いながら、優は
詩織の携帯にかけた


《プルルル…プルルル…
ガチャ》


『もしもーし! 優?
どうしたの?
裕樹とデート中でしょ?』

「詩織………今どこ?」


『家~
ちょっと聞いてよぉ~
お母さんったらさぁ……』

「ご、ごめん!詩織
今から詩織んちに
裕樹と一緒に行っていい?
その時にゆっくり
話聞くから」


『まじ? うれしー!!
今日は一人だぁ~!って
へこんでたんだよね

待ってるから!』


「うん
じゃ、30分後くらいに
そっち着くから!
後でね…」



『良かった……』


そう思い、優は
裕樹の所へ戻った

No.99

「お待たせっ」


そう言って、優は
裕樹に近づいた


「おう、じゃ行こうぜ」


と言って歩きだした


その間も優は
ずっと考えていた

裕樹を救う方法を……


『詩織…一人だって
言ってたよな
泊めてもらえるかなぁ…

お母さんは見えないから
いいけど……
ばあちゃんに裕樹を
会わせられない…』


いつもならば
こういう時の優は

志乃と千里に即座に
相談していた

でも今回だけは……


《救う手立てがない》


と言われるのが
わかっていたからか
相談する気には
なれなかった……

No.100

30分後…
詩織の家に着いた


詩織は

「待ってたよ~!
裕樹!久しぶり!!

あれ?その指輪……
もしかして………」


とニヤついた


優は


「後でゆっくりね!
それより…今日は一人だ
って言ってたよね?
お母さんいないの?」


と聞くと、詩織は


「そーなの!酷いでしょ?」

と、ふくれた


「あのさ……今日……
泊まってもいいかな?」


と優が聞くと


「ほんとに?
泊まってくれるの?
超嬉しい!!」


と詩織は喜んだが、
裕樹は


「優…勝手に決めて
平気なのかよ?
お母さん達
待ってるんじゃないのか?」


と心配した

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