瑠璃色短編集🌠
一作品、数ページほどの短編集を書いていきたいと思います。
スレ一覧でご覧になった時に、分かりやすいように、
新しいお話を始める時は、一番初めのページに「🌹」のマークをつけます。
内容は、
恋愛、ホラー、ミステリーなど様々なジャンルを載せていきたいと思います。
時間がある時に気軽に読める短編集を目指していくつもりですので宜しくお願いします🍀
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🌹『恋愛未遂』
ここは、昨日「恋愛未遂事件」の起こった現場である。
場所は、僕の部屋。
加害者は、友達の琴子。
被害者は、僕。
事件の内容は、こうだ。
いつものように、琴子は遠慮のかけらもなく、
「ちわ~っす」
と昔の酒屋みたいな挨拶と共に、この部屋を訪れた。
僕は、台所で鍋の下ごしらえをしながら、ちらりと彼女に視線を送る。
「・・・お前。挨拶ぐらい、もっと女らしく出来ないのか」
言っても仕方ないことを言ってみた。
別に本気じゃない。
すると、琴子は
「何それ!いまさら何言ってんだか」
とケラケラ笑う。
「そんなつまんないジョ―クは置いといて、鍋の用意出来てんの?」
琴子は玄関でブーツを脱ぎながら聞いてきた。
「あと少し」
僕が短く答えると、ブーツを脱ぎ終えた琴子が、ズカズカと部屋に入って来る。
琴子の服装は、いつもと変わらないジ―パンに、編み目の大きい真っ白なニット。
「ビ―ルの差し入れ、持ってきたよん」
そう言って、彼女はコンビニのビニール袋を掲げた。
「サンキュ」
僕はそう言うと、切りかけの白菜をまた切り始める。
すると。
「何か、やらせてばっかで悪いから、私も切る!」
そう言って、琴子は、さっと台所で手を洗うと、僕から、強引に、切りかけの白菜を奪った。
「いや、いいよ別に・・・・」
僕が、そう言って取り戻そうとした白菜に、ぐっと力を込めて離さない琴子。
「遠慮すんなよ!」
と、彼女は爽やかな笑顔をこぼした。
いや、遠慮じゃないんだけど・・・。
これで、琴子が、漫画の設定みたいに、「実は料理だけ得意」とかだったら、僕は快く白菜を渡しただろう。
しかし・・・
「なんか、この包丁切りづらくない!?」
一分も経たないうちに、沸き上がる琴子のブーイング。
見ると、彼女は白菜の葉を大量に束ねて、一気に切ろうとしている。
「・・・琴子」
僕は青ざめながら、再び彼女から白菜を取り戻そうとすると、やはり力を込めて、白菜を離さない。
「いいってば、私やるから。彰はテレビでも見てなって!」
琴子の揺るぎない意志の込められたセリフ。
僕はため息をつくと、そっと白菜の葉を何枚かザルに戻した。
不規則な包丁の音を聞きながら、琴子が野菜を切り終わるのをリビングで待っていると、
「お待たせ!」
満面の笑みをこぼしながら、琴子が野菜山盛りのザルを持って来た。
これは・・・
何切りだ?
形も大きさも、バラバラの色とりどりの野菜たち・・・。
あ、これ、あれに似てる。
昔、牧場で山羊にあげるために買ってもらった野菜の切りクズに・・・。
「山羊・・・」
「ん?何か言った?」
「・・・何でもない」
と答える僕の顔は、少し青ざめていただろう。
「さあ、鍋だ!鍋だ!」
祭だ、祭だ、みたいな景気の良い琴子の声と共に、山羊の野菜たちが、ドバ―ッといっせいに鍋へと放牧された。
「琴・・・少しずつ!」
僕の叫びもむなしく、放たれた野菜たちは、鍋の許容範囲を越え、山盛りになり、はみ出している。
「さ、どうぞ召し上がれ」
はちきれんばかりの笑顔を浮かべ、琴子は鍋をすすめてきた。
もう、何料理でも構わない。
どんと、来い・・・。
鍋らしきものを二人で平らげた後、琴子は、
「あ~食った、食った!」
とご満悦の様子で、カ―ペットの上に、ゴロンと大の字に寝転がる。
・・・もし、これが可愛い女の子だったのなら、僕は男として、当然、落ち着かないだろう。
でも、琴子なら、大丈夫。
こんな光景、今まで何度も見てるから、母親が隣で寝てるのと同じくらい、何も感じない。
一時間くらい経っただろうか。
一人で雑誌を見ていたが、喉が渇いたので、僕は立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。
その時だった。
「行かないで・・・」
不意に琴子の声がした。
起こしたかと思って、振り返ると、彼女は相変わらず、眠っている。
なんだ夢見てるのか、と思ったが、琴子の顔を見て、ギョッとした。
閉じた瞳から、細い涙が零れている。
それは。
朝露のように。
真珠のように。
彼女の頬を伝っていた。
そして・・・。
「彰・・・一人にしないで・・・」
その、いつもより甘ったるい彼女の声は、
僕をこの部屋に引き留める柔らかい蔦のように、絡まってくる。
その瞬間、僕は今まで思ってもみなかった感情を彼女に抱いてしまった。
琴子が、・・・
たまらなく愛おしい・・・。
まるでそれは、今までわざと気付かない振りをして、胸の奥に押し込めた秘密のように。
とめどなく、心の中で、逆流して・・・。
なおも、涙を零し続ける琴子の方へ、僕は吸い寄せられるように近づいていった。
そして、膝をついて、琴子の寝顔を見つめる。
こんなに幼い顔立ちだったのかと、今さら思ってしまうほど、琴子の面差しは、可愛かった。
ぐすぐすと、子供のように泣きながら眠り続けている。
僕は。
ごく自然に。
両手をつくと、
覆いかぶさるように、
琴子に、顔を寄せていった。
ただ、愛おしいと思った。
柔らかな頬に光る涙をそっと指先で拭う。
「・・・行かないでね」
「・・・行かないよ」
零れる寝言に、僕は優しく返す。
自分でも驚くほど、優しい声だった。
そうして、琴子の唇に唇を寄せ。
鼻先と鼻先が触れあい。
二人の吐息が、
重なって。
唇と唇が触れあったかと思った瞬間。
ぱっちりと、琴子の瞳が見開いた。
体をビクッと震わせ、頭の中が真っ白になる僕。
「彰・・・」
琴子の小さな呟きの後、僕らに訪れた沈黙・・・。
言い訳しようにも、これはもはや、出来るような状況じゃない。
こんな気まずい沈黙は、いつぶりだろう?
何分経ったのか、もう感覚がわからなかったが。
「彰、私ね・・・」
口火を切ったのは、彼女。
僕の心臓が、何かを期待するかのように、ドクドクと早鐘を打ち鳴らす。
「な、何・・・琴子」
「・・・お腹空いた」
「・・・・」
僕は。
糸の切れた人形のように、がくっと琴子の上に崩れ落ちた。
「何やってんだよ、彰。重いってば」
そう言うと、琴子は、僕の体をゴロンと横に転がして、食料の詰まった冷蔵庫目指して、歩いていく。
琴子。
お前って、やつは。
・・・鈍すぎるぞ!!
こうして、僕と琴子の関係は、恋愛へと発展することなく、友達という元のさやに収まった。
「彰。クリスマスは、恒例の闇鍋しようね!」
「なんで闇鍋・・・。しかも、いつから恒例になった?」
「今年からなった」
「あ・・・そう」
僕は深いため息をつく。
昨日のあれは。
ただの恋愛未遂。
僕らは友達。
でも、なぜだろう。
前より琴子の笑顔が、
可愛く思えるのは・・・。
おわり。
~あとがき~
友情と、恋愛の境目って、
微妙だったりしませんか?
どこからが恋心になるのでしょうか?
ちなみに私は、
友達になれない人とは、恋愛に発展できません。
異性として惹かれるだけじゃなく、
人としても信頼出来ないと無理だからです🍀
🌹『私が春を嫌いな理由』
冬・・・。
空気が水のように透明で、清々しくて。
雪が積もれば、世界中が純白に染まる。
私は、冬が好き。
反対に、春は嫌い。
何で嫌いかって聞かれると・・・これといって理由はないんだけど。
あのもやもやした、生暖かい感じが嫌なのかもしれない。
桜も、あんまり好きじゃないな。
綺麗さよりも、散り際の寂しさが、何となく目について。
お花見とかしようと思わないもんね。
人にそう言うと「あんた、変わってるわね」なんて言われちゃうけど。
土曜日の授業が全て終わって、私は真っすぐ家に向かっていた。
帰宅部だから、学校が終われば、さっさと撤収する。
寄り道したい所もないし。
私は、肌に程よく染みる冬の空気を吸いながら、いつもの道を歩いていく。
と、額に微かな冷たさを感じて、私は空を仰いだ。
「あ・・・雪」
空から、白い結晶が、花びらのように降り注ぐ。
「綺麗」
私は一人呟きながら、空から舞い散る、真っ白な祝福を受けた。
冬は・・・美しい。
だから、好き。
ずっと。
この白い世界で、時が止まってしまえばいい。
・・・春なんて来なければいいのに。
家に着くと、私は「ただいま」と言って、誰もいないリビングに入っていった。
そして、冷蔵庫を開けて、牛乳を取り出す。
グラスに注ぐと、それを片手に、スキップで階段を上がって、二階の自分の部屋に入った。
私は、真っ白な牛乳を一気に飲み干すと、暖かいベッドに、ぽ―んと飛び込んだ。
ベッドの弱いスプリングに、少しだけ押されて、体が跳ねる。
「ん~~幸せ」
私は枕を抱きしめながら、ベッドの柔らかさを心ゆくまで楽しんだ。
・・・どれくらい時間が経っただろう?
ベッドがだいぶ温まってきたのか、体中がほかほかしている。
目は覚めていたけれど、その温もりが気持ち良くて、私は目をつむったまま、ごろごろしていた。
すると、顔や、手のひらに何かが触れてくる感触がある。
「・・・雪?」
私は少しだけ寝ぼけながら、呟きを零した。
あれ?
でも、私、今家にいたよね?
何で雪が?
不思議に思って、私はゆっくりとベッドから起き上がった。
そして、言葉を失う。
「これは・・・」
私の顔や手のひらに落ちてきているのは、雪ではなかった。
「桜・・・?」
辺りを見渡すと、私は、終わりの見えない桜色の世界にいた。
こんなことって・・・。
私は家にいて、しかも今季節は冬じゃない。
なんで?
延々と続く桜並木の世界で、ぽつりとベッドの横に立ち尽くす私。
「う~ん」
ぽかぽか春の陽気の中、私は一人首を傾げた。
そして、少し経って。
「あ、ここ夢か」
と納得した。
しかし、よりによって嫌いな春の夢を見るなんて。私もついてないわね。
現実通りの冬でいいのに。
ぶつぶつ言いながら、私は桜の木々の間をゆっくりと歩き始めた。
すると・・・・。
「恵梨香」
不意に名前を呼ばれた。
「えっ」
私は後ろを振り返る。
そこには・・・・
とても懐かしい顔の男の子が立っていた。
「桐島君・・・」
振り返ったその先には、小学五年生の春、転校していった桐島君が立っていた。
「恵梨香、久しぶり!」
あの頃と変わらない声と姿で、桐島君は呼びかけてきた。
「桐島君!何でここにいるの?」
「何でって言われても・・・」
困ったように彼は頭をかいて、ぽつりと。
「夢、だからさ」
そう言って、ころころと笑った。
何だか当時と全然変わらない桐島君に、私もつられて笑ってしまった。
「そうだよね。夢だもんね!それにしても懐かしいなぁ。五年振りだもんね!」
思いがけない再会に、私は子供のように、はしゃいだ。
それから、二人で、あの頃のいろんな思い出話に夢中になった。
ここが、夢の世界であることも忘れて。
ひとしきり話した後、私は、あらためて、この夢の世界を見渡した。
「それにしても、ここ、すごいよねぇ。見渡す限り、ずっと桜並木」
「ああ」
二人して、夢の世界をぐるりと見回した。
青い空と、一面の桜並木。
そして、この夢を全て覆い尽くすかのように、舞い散る薄紅色の花びらたち。
私は、深いため息をついた。
「まったく何だって春の夢なんか・・・」
私が、そう言うと、桐島君は小さな手のひらを空に向けた。
色白の手のひらに、桜の花びらが、ふわりと舞い落ちる。
「なぁ、恵梨香、覚えてる?お前、オレのために、いつもノ―ト書き写してくれたよね」
桐島君の言葉に、私は笑った。
「だって、桐島君、ちっともノ―ト取ってないんだもん」
「あれさ・・・めちゃくちゃ助かったよ。すごい分かりやすく書いてくれてて」
彼は、一枚の花びらを指で挟んで、それを見つめながら、言った。
「そうだったね。懐かしいなぁ。自分のノ―トを取った後に、桐島君用のノ―トにも書き写して。だから、私のノ―トは全教科、二冊のノ―トがあったんだよ」
「ありがとな、恵梨香。オレ、ほんとに嬉しかった」
そう言って、桐島君は、まっすぐ私を見つめて微笑む。
彼の色白の顔は、薄紅色の花びらが舞い散る中で、どこか、はかなげに見えた。
「オレが入院してる時、毎週お見舞いに来てくれてさ。オレね、ほんとに嬉しかったんだ・・・」
「そうだったねぇ。桐島君、サッカーで足怪我して、入院した事あったもんね。あの時も、ノ―トを・・・・」
「なぁ、恵梨香」
不意に、桐島君が私の言葉を遮った。
「まだ・・・思い出せない?」
「・・・え、何を?」
桜の木々が、風に吹かれて、さわさわと音を立てる。
「オレ・・・サッカーなんて、してないよ」
桐島君は、ぽつりと呟くように言った。
「え・・・。何言ってんの?だって、桐島君はサッカー大好きで、それで、いつも休み時間は・・・」
桐島君は、桜の花びらを乗せた自分の白い手のひらを見つめながら、ふっと悲しげに笑った。
「オレは・・・サッカーなんか出来る体じゃなかった。病気でずっと入院してたから・・・」
「ずっと・・・入院・・・・・」
私の中で、何かが音を立てて崩れそうな予感がした。
「オレが何で、この夢に出て来たか分かる?」
桐島君と私の間に、たくさんの花びらが降り落ちてゆく。
「お前が春を嫌いなのは・・・・」
「ダメ・・・!聞きたくない・・・っ」
彼が発する言葉の先を塞ぐように、桜色の花びらが、嵐のように激しく吹き荒れる。
「オレが・・・死んじゃったからだよね?」
吹き付ける桜色の吹雪の中、私の頬を熱い涙が伝ってゆく。
・・・神様。
そうです。
本当は知ってました。
私は、春が嫌いなわけじゃなくて。
あの春の日に、桐島君が死んだ事を受け入れられず。
ただ、春が嫌いな事にして。
ずっと、ずっと・・・
彼の死から。
目を背けてただけなんです・・・。
「オレは、生まれつき心臓が悪くて、学校には行ったり行かなかったりだった。そんな中で、恵梨香は最後まで、オレに優しくしてくれた」
今まで蓋をしてきた記憶が、一気に溢れだしてきて、私は桜色の地面に、膝をついた。
不意に、突き付けられた現実を受け止められなくて、私はただ俯きながら、涙を流した。
「本当に、感謝してるよ。だけど・・・・だから・・・・」
桐島君がゆっくりと近づいて来て、私の目の前に立った。
彼は、小さな手のひらで、優しく私の髪を撫でる。
「もう人を好きにならないなんて、思わないで欲しい・・・」
そう言った桐島君の声は、とても優しかった。
「恵梨香・・・。人はさ、出会えば、必ず別れる時がやって来る。でもね、別れの辛さばかり見ちゃ駄目だよ」
桐島君の手のひらに。
私の髪に。
二人の肩に。
静かに、桜の花びらが降り積もる。
「出会えたことが、何よりも幸せなんだ。別れは確かに悲しいけど・・・。出会えた喜びを何より感じて欲しいんだ。・・・お前がいつまでも、そんなんじゃ、オレ・・・安心して『向こうの世界』に旅立てないよ・・・」
桐島君の小さな腕が、うづくまる私の体を柔らかく抱きしめた。
「ねぇ、恵梨香。約束して?もう、人を好きにならないなんて言わないと。お願いだ、約束してくれよ・・・」
薄らと瞳を開けると、涙に滲んだ桜色の世界が映る。
「オレも恵梨香のこと、本当に好きだったから。だから・・・約束して欲しいんだ・・・してくれるよね・・・?」
桜色の世界の中で。
桐島君の、春のような温もりに包まれながら、私は、ただただ子供のように泣き続けた。
流れ落ちる涙のように、桜の花びらが、とめどなく舞い続ける・・・。
あの夢から、十五年の月日が経った。
私は結婚して、一人の娘がいる。
膝の上に乗せて、娘の髪をとかしていると、不意に娘が、私に聞いてきた。
「お母さん、どの季節が一番好き?」
可愛いらしい問いかけに、私は、こう答える。
「お母さんは、春が一番好きよ」
すると、娘はくるりと、こちらに向き直って、笑った。
春の日だまりのような、笑顔だった・・・。
終。
~あとがき~
私は、身近に亡くなった方の夢を必ず見ます。
亡くなって、ほんの少し経った後にです。
生前と同じ生活をしている夢とか、
中には、綺麗な花畑で、亡くなった人と遊んでいる夢を見たこともあります。
苦しい時に、そっと側にいてくれる夢だとか、
引っ越した時に、新しい家を見に来てくれる夢だとか…
様々です。
…私の小さな小さな大切な家族は、
別れる前に、夢で知らせてくれて、
数ヶ月後に、新しい夫婦の元に、生まれ変わる…
そう伝えたいような夢を見させてくれました。
その夢の時は、さすがに泣いてしまいましたが…
夢は、亡くなった人が何かを伝えたいのか、
私が会いたいから見てしまうのかわかりませんが…
不思議なものだなって、
思います。
🌹『子猫日和』
こら、ミ-コ。
クッションに、じゃれるんじゃない。
さらに、かみつくんじゃない。
それは、優子のお気に入りなんだから。
優子は、普段は優しいけど、怒ると恐いの、お前だって知ってるだろう?
オレだって、この間、お気に入りのグラスを割っちゃって、大変なことになったの見てただろう?
こら、ミ-コ。
絨毯をひっかくんじゃない。
さらに、ソソウをするんじゃない。
それは、なかなか高かったって。
優子が、前に言ってたぞ。
ローンまで組んだんだぞ。
なのに、お前の世界地図が・・・・・。
「静かにする」って言葉、知ってる??
これだから、子猫ってやつは・・・
世界が自分中心に回ってるって、思い込んでるんじゃないか?
まるで、世界の王様気取り。
子猫王国のミ-コ姫・・・・?
うっ。笑えない、ネ-ミングだ。
だから、ミ-コ。
言ってる側から、ミルクをこぼすんじゃない。
さらに、皿をひっくり返すんじゃない。
・・・まったく、お前が来てからというもの。
この家は、毎日がお祭り騒ぎ。
ラブラブだった優子さん。今じゃ、すっかり、お前の虜。
はぁ。まったく。
ため息が出ちゃうよ。
平穏な過ぎし日よ。
願わくば、カム・バック!!
・・・・これからは、もっと厳しく、しつけなきゃ。
🌹『お茶会は、突然に』
「これが・・・お茶会?」
里菜は、呆れたように、呟いた。
「い、一応そうだけど」
彼女の表情に、気圧されながらも答える。
「お茶会って、もっと大勢でするもんじゃない?」
そう言って、里菜は眉をひそめた。
今日は、友人の経営する小さなカフェを貸し切りにさせてもらった。
いつもは休日のオ-プンカフェに、里菜と僕の二人きり。
「『お茶会を開きますので、ぜひ、足をお運びください』な-んて、バカ丁寧な招待状を頂いたから来てみれば、いるのは春樹だけじゃない」
紅茶姫の、キツイ一撃。
さすが僕の恋人!
って、これ、褒めてるのかね?
紅茶姫こと、笹本 里菜は、僕の恋人。
なんで紅茶姫かっていうと、彼女が、紅茶コ-ディネ-タ-だから。
コ-ディネ-タ-の彼女は、パーティーなどに呼ばれると、その場に合った紅茶や茶器、お茶菓子などをセッティングし、お茶を振るまうのがお仕事。
「美味しい紅茶の入れ方教室」というのも開いていて、生徒数は二百人を越える、人気の紅茶コ-ディネ-タ-だ。
オ-プンカフェのテ-ブルに用意したのは、彼女の好きなア-ルグレイ。
定番だけど、香りが好きなんだよね、と以前言っていたから。
「あの、とりあえず席に・・・・」
僕は、怪訝そうに立ったままの里菜の横の椅子を引き、彼女を座らせた。
「春樹、またウェイタ-のバイトでも始めたの?」
紅茶姫、二度目の攻撃。
「いや、今はおかげ様で、副業はやってません・・」
溜め息混じりに答える僕。
僕は、フリーのイラストレーター。
数ヶ月前まで、ウェイタ-のバイトもしていた。
イラストレーターの収入だけじゃ、キツかったからだ。
里菜と知り合ったのは、雑誌の紅茶特集の記事の仕事の時。
僕は、里菜のインタビューのページに添える挿絵を任されたのだった。
打ち合わせで、出版社に行った時、彼女と初めて会った。
第一印象は「キツそう」の一言に尽きる。
縁なし眼鏡に、黒髪のストレート。
眉は太めで、目は切れ長。
紅茶コ-ディネイタ-ってのは、もっとこう柔らかい雰囲気の人だと思っていた。
「こちらは・・・」と言って、雑誌の記事編集の担当者が、僕達をお互いに紹介した。
「どうも」
と素っ気なく僕が挨拶すると。
「あなた、『ミューズ』の七月号のパスタ特集で、イラスト描いてた人よね?」
・・・不意の言葉に面食らう僕。
その頃には、もう紅茶コ-ディネ-タ-として名前が知られるようになっていた彼女。
紅茶なんて興味のない僕でさえ、知ってるぐらいに。
そんな彼女が、まだ、たいして売れてもない僕のイラストを気に留めていた事に、驚いたのだ。
思ってもみなかった褒め言葉に、戸惑う僕。
そんな、お礼の言葉すら出ない、不器用な僕に、彼女は言った。
「私、あなたの絵が好き」
そして、里菜は微笑んだ。
太めの眉が優しく下がり。
切れ長の目が、三日月になる。
無邪気なその微笑みに。
僕は、簡単に、恋に落ちた。
・・・それから、二年の月日が流れ・・・
貸し切りのオ-プンカフェで、お茶会をする、里菜と僕。
「あとさ、何で、ス-ツとか着てるわけ?普段、ジ-パンばっかりじゃん」
さらに続く、彼女の疑問。
「ここ、貸し切るの、いくらかかったの?」
手にしたトレイを危うく落としそうになる僕。
・・・そんな現実的なこと、言うなよな。こんなセッティングした僕が、バカみたいじゃないか。
僕が用意したお茶会は、
もっと特別な意味があるんだから。
「まあまあ、疑問はそのくらいにして、とりあえず、お茶を楽しんでよ」
僕はそう言って、ティーポットと、ティーカップをテーブルに運んだ。
そして、ほどよい温度に保たれた紅茶を彼女のティーカップに、ゆっくりと注ぐ。
「いい香りね」
ほのかに立ちのぼる湯気に、里菜は、満足そうに、微笑んだ。
「さあ、どうぞ召し上がれ」
僕が言うと、里菜は、ほどよい熱さのティーカップに、口づける。
勝ち気な唇も、紅茶の前では、おしとやかなものだ。
「…美味しい」
里菜は、目を細めて、僕のアールグレイを称賛する。
「恐れ入ります」
僕は、得意げな気持ちで、胸に手を当て、会釈した。
「…でも、一つ引っ掛かることがあるのよ」
里菜は、ティーカップの横にある物に視線を落とす。
「春樹、あなた、私が紅茶はストレートでしか飲まないの知ってるくせに、何で今日は、シュガーポットが置いてあるわけ?」
里菜の言葉に、僕は心を整えるため、軽く咳ばらいした。
「それは…今日が『特別なお茶会だからだよ…」
「特別な…?」
首を傾げる里菜。
「…シュガーポットを開けてみて」
彼女の黒い綺麗な瞳を真っすぐ見つめながら、僕は言った。
何だろうと、不思議そうに、シュガーポットを開ける里菜。
「…っ、春樹、これ…」
里菜の瞳が、大きく揺れる。
「結婚しよう、里菜」
僕は、驚く彼女の手を包むように優しく握り、言った。
シュガーポットの中には、真っ白な砂糖の上で輝く、銀色の指輪…。
めったに濡れることのない、黒耀石のような彼女の瞳を、涙が縁取った。
「…何よ。いつもダサいのに、こんな時はずいぶんお洒落なことするのね、春樹…」
強気な言葉は、驚きと嬉しさで、切なげに揺れている。
僕は、シュガーポットの中で光る銀色の指輪を手に取ると、里菜の指にゆっくりとはめた。
「これからずっと、悲しみも、喜びも、君と分かち合いたい。君しか考えられない……。僕でいいかい?」
震える真紅の唇が、小さく答える。
「……ええ」
いつもより細く見える彼女の肩を僕はそっと抱き寄せた。
初夏の風が、木々の葉を淡く揺らす。
僕らは、降り注ぐ午後の優しい光の中で、長い口づけを交わした。
🌹『陽炎』
君は、音もなく、
僕の前に現れては、
儚げな微笑み浮かべて、消えていく。
僕に何を伝えたいの?
君は、どうして、
そんなにも壊れそうな笑顔で、僕を見つめるの?
捕まえようとすればするほど、
君は夏の陽炎のように、
ゆらゆらと揺れては、
音もなく、消えてゆく。
僕に、淡い恋の香りだけ残して……。
君とは、本当に良く出会うね。
学校に向かっている電車の中で。
昼休みの窓際で。
夏の木漏れ日の射す校庭で。
家の近くの書店で。
月明かり浴びた夜の公園で……
君は、もしかすると………。
でも、それでも、僕のこの気持ちは変わりそうにない。
この陽炎の恋は、
淡くとも、無くなることはないんだよ。
君の髪に、
その白い手に、
触れたいと思うのに、
いつでも、するりとすり抜けて、
幻のような余韻だけが残るんだ……
君を強く想えば想うほど、
君を見ることが多くなる。
僕の心の見えない力が
君を引き寄せるのか?
今日も同じ電車だね…。
約束したわけじゃないのに、
いつも同じ車両になる。
たくさんの人間の顔の中で、
君の白い横顔だけが、
淡い光に包まれている。
人の壁で、これ以上近づけないけれど、
その美しい君の横顔を見つめるだけで、
時間は優しく止まるんだ。
こんなにも
誰かを好きになることが初めてで、
甘い痛みにくらくらする。
世界が まるで
君を軸にして動いているよう。
昼休みのチャイムの音。
昔はあんまり好きじゃなかったけど、
いつからか、遠い海辺で鳴るサイレンみたいに聞こえるようになった。
君は、校庭の銀杏の木の下で、静かに読書をするのが好きなんだよね。
初夏の熱を孕んだ風も、木陰では緩やかな空気のヴェールになる。
君の長い黒髪に、生い茂る葉をすり抜けて漏れる光が、ところどころに射している。
まるで一枚の静かな絵のようで、
こんな光景も、僕は好きなんだ。
大切な夏の想い出の一つだよ。
空に茜射す頃、
君は学校の門をくぐる。
そして、君の足は、そのまま書店へと向かう。
少しだけ古びた小さな書店。
明かりは、どこかほの暗くて、開いた本のページが、優しいベージュに見える。
本を読む君の長い睫毛が、
瞳に柔らかい陰を落として……
僕も、本を手に取るけど、
視線も、心も、君に奪われたまま。
レトロな一枚の写真のような
心地よい君との時間……。
そして、夜の公園で、
また、君と会う。
君が夜の公園に出る時は、
犬の散歩の時もあれば、
一人きりの時もある。
今日は、一人きりだね。
僕と同じで、
君も静かな時間が好きなんだろう。
昼間の喧騒は溶けてなくなって、
夜の空気は、静かに澄み渡っている。
君の長い髪が、
風に洗われて波打つのを
僕は、飽きもせず、ずっと見てる。
夜空を見上げた君の顔が、
月明かりを浴びて、
美しい幻想のようだ……
君のその悲しそうな微笑みの意味を
僕が知ることはあるのだろうか……
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ドアーズを聞いた日々 500レス 1121HIT 流行作家さん -
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真夏の海のアバンチュール〜ひと夏の経験 500レス 2052HIT 流行作家さん -
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where did our summer go? 500レス 1818HIT 作家さん -
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20世紀少年 2レス 245HIT コラムニストさん
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仮名 轟新吾へ(これは小説です) 〔学んだ事〕 人に情けをかけると 後で物凄く、不快な気持になる…(匿名さん339)
500レス 8952HIT 恋愛博士さん (50代 ♀) -
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ドアーズを聞いた日々 私がピアノを弾く番になりロングドレスのママさんがピアノを弾いてと言った…(流行作家さん0)
500レス 1121HIT 流行作家さん -
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生きていたいと願うのは 私は自分が嫌いだ。 なぜかと聞かれたらいくらでも答えられる。 …(小説家さん0)
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真夏の海のアバンチュール〜ひと夏の経験 オクマビーチに到着してみんなで夕焼けをながめた 1年後も沖縄で楽…(流行作家さん0)
500レス 2052HIT 流行作家さん -
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where did our summer go? そして、例様がケニーロジャーズのLady を歌う 聖子とミスター…(作家さん0)
500レス 1818HIT 作家さん
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