雪を彩

レス19 HIT数 2050 あ+ あ-


2009/03/14 00:02(更新日時)

誰も居ない静かな美術室。。。

時間はもう6時半を回ってるせいか降雪地帯のここらではもう外は真っ暗だった

それもいつもの事

私は時間を気にする事なくカンバスに筆を走らせては眺めまたパレットに新しい色を加えていた


…すると突然足音が近付く
さすがにその足音には気付いた

『ガラッ』
美術室のドアが開いた

「広瀬お前また…」
足音の主は溜め息混じりにそう言った

「あっ先生、スイマセン…あと…もう少しなんですが…」

私は先生に気を配りながらもカンバスから目を離す事が出来なかった

それはある美術展覧会に出品する作品で、締め切りがあと5日しか無かったからだ

その展覧会には一年生の頃から何度も出品してきた
…しかし未だに入選した事が無く、高校生活が残り3ヶ月となった今、進学を決める時期であり私にとってはラストチャンスだった
当然今までに増して力が入っていた

No.1159110 (スレ作成日時)

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No.1

私は小さな頃から絵を描くのが好きだった

父の仕事が公務員という都合で3年程で引っ越しというのを何度もしてきた為、新しい土地や学校に慣れる頃にはまた転校というのが例だった


その為に私は自分から積極的に友達を作る事をしなくなった
二度目に転入した小学校でも私は周りの子達となかなか打ち解けられず、それならば仕方ないと諦めていた

そんな小学校五年生の夏休み
担任の若い男の先生が突然家に来た
先生は私にこう話した
「広瀬、おまえの好きな事は何だ?先生はお前にもっと自由になって欲しいんだ」
私は一人っ子だったけど、両親からは期待もされていなかったし、だからと言って仲が悪かった訳では無かった

先生が家に来た事で両親は学校での私の様子を初めて知った様だった

それでも私は全然辛くなかった
だから可哀想な子では無かった

でも初めて私の事を知ろうとしてくれた先生を嬉しく感じた

「…絵」

「絵?」

「…絵を描く事が…絵を描いてる時が一番楽しい…」

私がそう話すと先生は嬉しそうに私の目を見た

「そうか!!じゃあ出掛けるぞ!!」

「?!」

No.2

『どちらへですか?』
両親も驚いて聞いた


25歳の若い教師が
『画廊です。…実は僕の父が開いている小さな画廊があるんです。』

画廊…?まだ11歳の私にはどんな場所か良くわからなかった

でも先生の熱意が両親にも伝わった様で、私はその画廊と言う所に行く事になった

玄関先で母から失礼の無い様に…と耳元で囁かれた

母は昔から周りの世間体など人目を気にするタイプの人格だった

そして先生の乗って来た小さな車に乗り30分程で画廊に到着した

移動中の車内では先生が自分自身の子供の時の話をしてくれた

先生も私と一人っ子だとか…


画廊という所の第一印象は古いけど大きな家。

ずっとアパートを転々としてきた私にとってはこんな大きな家を間近で見たり入るのも初めての経験だった


車を降りて緑色のトンネルと石畳で出来た入り口を進むと家とは別の小さな家が見えた

看板らしき木の板がかかっていたが何が書いてあるか子供の私には読めなかった…

No.3

先生が鍵を開けて中に入る

私は外にいたが部屋の中から今までに嗅いだ事の無い匂いがした

その匂いは嫌では無くむしろ心地好い

上手く表現出来ないが恋愛に似た胸の傷みを感じた…


『おーい、広瀬』

部屋に明かりが点くと中から先生が私を呼んだ


私は深い呼吸をしてから中へ足を踏み入れた

No.4

部屋は12、3坪の小さな一室で想像よりは狭く感じた


中には大小様々な絵が幾つか飾ってあり、それとは別に何枚かの絵らしきカンバスが隅に重ねて立て掛けられていた


『これは…俺の親父、つまり先生のお父さんが趣味で集めた絵達なんだ』

そう話すと私に一枚の絵を指さして言った

『これは何に見える?』

『…』

その絵は赤い服を着た男とも女ともとれる人が両腕を抱えてこちらを見ている絵だった

私は見た通りに答えた

『…多分…お婆さん』

また先生は私に聞いた

『じゃあ何をしてる?』

?!…何を?

そんなの分かる訳がない


私がそう思って黙っていると先生は続けた

『広瀬が感じたままに感想を言ってごらん。何、正しい答えなんて作者にしか分からない、先生だって分からないんだから』

私はしばらく考えた

『多分…このお婆さんは…何かを恐れてる。…病気、死…そうだ寒いのかも…』

そう言うと先生は笑った

『そうか、寒いのか(笑)!!じゃあ季節は冬かな。このお婆さん寒くて可哀想だな~』

No.5

私は少し笑ってしまった

まさか先生が私の感想を真に受けると思わなかったからだ

『広瀬、それでいいんだ。お前はお前の価値観や個性を大事にすればいい。でも表現する事も大事だ!でないと周りがお前を理解しようとも出来なくなってしまうんだ』


そう言われて私は今までの自分の生活と重ね合わせてみた


それから私と先生はその部屋にある何枚かの絵に対しても感想を言ったり想像して時間を過ごした


気が付くと外はやや薄暗くなっていて19時近くになっていた

『そろそろ帰るか』

そう言われて私はまた先生の車に乗った

帰り道、私はいつの間にか眠ってしまっていた

女の人の声で目覚めると先生はドライブスルーでハンバーガーを買っていた

『おっ、起きたか!チーズバーガーの方がいいのか?』

私は寝ぼけながら頷いた

『腹減っただろ?悪いな!先生給料日前だから…でもクラスの皆には内緒だぞ』

そう言われて私はまた少し笑った

No.6

ハンバーガーを食べて終わる頃、私の家に到着した

玄関へ行くと両親が揃って私達を出迎えた


先生は遅くなってしまった事を誤っていたが、両親は先生にお礼を言い夕食を食べて行く様に勧めていた

先生は仕事が残っているので…と丁重に断り、帰りがけに私に一冊の画集を渡した

これはプレゼントだから返さなくていいと言った


私は寝る前にその画集を開いた

全て外国人の画家が描いた洋画の様だったが、最後の絵だけは日本人の描いた物だった

私は初めて嗅いだ絵の匂いにまだ少し興奮して胸がドキドキしていた




それから夏休みが終わり2学期が始まった


私はまた独りぼっちの生活が始まると考えると気が重かった


しかし2学期になると不思議と私の周りには話をする友達が増えていった

友達が次々と増えるのは小学校の入学以来初めての事で戸惑いもあったが、学校生活が楽しく感じてきていた


そして私は六年生になる頃には学級委員をつとめる様にもなっていた

No.7

そして卒業式になり、私は地元の中学へ進学する事になった


卒業後の春休みになると、新聞に離任される先生方が発表されていた


私は新聞を見てはいなかったが母が新聞に目を通しながら言った

『藤田先生離任されるのね』

藤田先生とは私を画廊に連れて行ってくれたあの先生だった

五年生の夏休み後も先生はクラスの皆と同じように接してくれていた


小学校を卒業した今、私の学校生活が楽しくなったのは藤田先生のお陰だったと時々考える様になっていた

でもまだその時のお礼を言えずにいた

私は先生がいなくなると聞いて急に先生に会いたくなった


私は春休み中、卒業した小学校に行ってみた

しかし先生はもう居なかった


他の先生に聞いてみた

『藤田先生は教師をお辞めになったのよ』


『…!』
私は愕然とした

ついこの間まで廊下で普通にすれ違って挨拶をした先生はもう居なかった

No.8

それから私は中学生になり初めて部活動を始める事になった


もちろん美術部!

私はクラスの友人と一緒に部活動の見学をしに行った


…しかしそこには私の求めるものはなかった


美術室の中でみんなは静かに絵を描いたり、デッサンをしているのかと思っていた…

しかし実際にはスケッチブックを拡げ鉛筆を持ち雑談をしている十数人の美術員がいるだけで、誰一人黙々と絵を描いている者は居なかった


私はそれでも美術部に入り、自分は好きな絵を描こうと思った


クラスの友人は吹奏楽に入り、私はその年入部した美術部員20人の一人になった

No.9

部活動初日…


まずは新入部員の自己紹介から始まった


一年生が端から一人ずつ自己紹介をする


その様子を二、三年生の先輩達が見ていた

三年生は15人
二年生は11人だった


三年生の先輩たちは自己紹介が終わると笑顔で拍手をしてくれていたが、二年生は無表情で手をたたいていた


入部したて一年生の活動はまずスケッチ


スケッチブックを抱えて校内を散策し、最低でも五枚のスケッチをしてくる事

そして次の週は先輩たちと一緒に石膏像のデッサン…


私は楽しかった


見学で見たイメージとの違いには驚いたが、これが本来の姿だと思っていた


しかし2学期に入った頃には急に部員の数が減っていった


三年生が高校受験の為、部活動の出席が自由になった為、殆んどの三年生が部活に参加しなくなった


そしてちょうどその頃から活動内容が各自自由となりそれぞれが好きな事をしていた

No.10

そうなると徐々に部活に参加する者も減り、参加している一、二年生も雑談などをして時間を過ごす生徒が増えていた


顧問の先生も名ばかりであった為、テスト期間や忙しい時は殆んど顔を出す事は無かったので、誰もが自由だった


しかし…


三年生が卒業し、私達が二年に上がる頃
それは起きた


新三年生の数人の先輩が私達二年生が先輩達に対し挨拶がなってないと二年生全員を集めた


私達にとっては見に覚えは無かったが…


『てめぇらは挨拶もロクに出来ねえのかよ!』


『今度ちゃんと挨拶出来なかったらシメる』

など…


私達二年はただ黙って聞いていた

No.11

次の日


部活が始まっても美術室はがらんとしていた


いつもの席で三年生が何やら話していた


二年生はいなかった


私は『こんにちは』
と三年生の方へ挨拶をして美術室に入ったが、三年生は挨拶を返してはくれなかった


それでも私はいつも通りデッサンの用意をしていると三年生が近付いてきた


『チクったのはてめぇか?』


私は何の事か分からなかった


『昨日の事だよ!!てめぇら二年の誰かがチクりやがったせいであたしらが担任に注意されたんだよ!!』

No.12

私は

『…私じゃないです』

と伏し目がちに言った


『じゃあ誰なんだよ!』



『…私は…分かりません』


と言うと



『なめてんじゃねーよ!』
と言って、先輩の一人が私の用意したイーゼルを倒した



殴られる…


私は恐怖を感じた


何故?私はただ絵を描きたいだけなのに…


『だいたいいつもクソ真面目に絵ばかり描いて、目障りなんだよ!!』


……



私はただ黙ってうつ向いていた

No.13

その時


顧問の村田先生が入って来た


『…?何してるの?』


先生が入って来ると先輩達は黙って席に戻って行った



私がイーゼルを立て直そうと座ろうとしたが、足が震えて上手く座れなかった



私のそんな様子を見た村田先生が私の所に来た


『大丈夫?何があったの!?』



私は村田先生の後ろからこちらを睨む先輩達の視線を感じた


『…な、何でも無いです。』



そう言うと村田先生は
今度は三年生の方を向いた

No.14

『あなた達…』



『今日、担任の先生からも言われたと思うけど、二年生をいじめるのは止めなさい!!』


三年生達は黙って聞いていたが、私はまたその報復が恐怖だった



私はそのまま片付けて美術室を離れた



どうしよう…


明日から私は先輩のいじめの標的になるかも知れない…



そう思うと気が重くなり息をするのも苦しく感じた

No.15

次の日



私は学校を休んだ


親には頭が痛いと仮病を使った


でもいつまでも仮病が使える訳ない…


どうしよう…


そんな事ばかり考えていると本当に病気になりそうだった


私は両親に心配をかけたくはなかったが、次の日もその次の日も

身体の不調を訴えて学校を休んだ



母に
『もしかして…学校で何かあったの?』

と言われたが
やっぱり心配をかけたく無かったので


『何にも…無いよ。』


と言った


でも母は
私の様子がおかしいと思い、担任の先生に電話をかけていた


担任の河上先生はまだ若い女の先生で、私の学校での生活の様子に気になる事は無かったと話したそうだ

No.16

学校を二週間近く休むと、もう学校に行く事がすごくツラくなる一方だった


学校に仲の良い友達も何人かいたが、それより部活の先輩達に会うのが怖くて学校に行きたいと思わなかった


こうして私は不登校になった


家の中で私は絵を描いていた

覚えたてのデッサン画を1日に10枚程描いて過ごした


両親は心配していたが、家では引き込もっていた訳では無かった為、私の事を心配しながらも見守ってくれていた




そして二年生の二学期が終わる頃、母が私に画集を渡してくれた

No.17

それは小学校の時の担任
、藤田先生からプレゼントされた物だった


私は大事にしまっておいたつもりだったが、いつしか何処にあるのかわからなくなってしまっていた



それを母が見つけ出し、私に渡してくれたのだった


母は

『由希がやりたい事をちゃんと見つけられるのなら私達は応援するから』

と温かい言葉をかけてくれた


私は両親に心配をかけているのも分かっていたけど、どうにもならない気持ちが葛藤して苦しかった


そんな中での母の言葉に私は助けられた

そして心の中で泣いていた

No.18

学校に行かなくなってからあっと言う間に時間が経ち冬になった


例年通り毎日雪が降り続き、街は一面銀世界になった

冬生まれと関係はないと思うが私は冬という季節が一番好きだった


そんなある日また父の仕事が転勤になり私達家族は引っ越しする事になった

No.19

新しい引っ越し先へは車で二時間とそれほど遠くは無かったが、私は新しい生活が始められる期待と希望で一杯になった


ある晴れた日曜日、私達家族は引っ越しをした

今度の街は前より少しだけ都会的だった


中学校も近かったし、何より目新しさが何もかも新鮮だった


転校し始めての登校

期待と希望よりも緊張と不安があり何度も帰りたくなったが母も一緒という事もあって言い出しにくかった

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