✨磯野家外伝👪✨💖UKIE&KATSUO
(⚠はじめに…この携帯小説は雑談掲示板過去ログ《2007ー10/02~》内にある✨磯野家外伝👪✨の続きです📖ですので必ずそちらを先にお読みになってからこの新スレに読み進んで下さい‼必須です‼よろしくお願いします💀)
🌷君を想うだけで胸が熱くなる…君を感じるだけで切なくなる…全国の👪磯野家ファンの皆様お待たせ致しました‼あの伝説のカッコイイ女、伊佐坂浮絵が帰って来ました✨
2年前に反響を呼んだ奇作👪磯野家20years later…の外伝で浮絵目線の未完に終わっていた物語が今ここに再開されます‼あなたは伊佐坂浮絵の全てを目撃する✨
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>> 50
🌷200🌷
『…さ、佐々木…君は?』
浮絵は辺りを見回した…当然見送りに来ているであろう佐々木孝の姿がそこにはなかった…
『タカちゃんとは昨日サヨナラ言いました…彼はこんなおセンチなの苦手なんです…逆に何で帰るんだッッ!こっちにいろッッ!って私怒られちゃって…ハハハ』
浮絵は進藤聡美に対する佐々木孝の思いは浮絵の想像を遥かに超える物であると改めて再認識していた…本当の兄妹以上の深い絆いや、それ以上の信頼関係のような…聡美は床にあった鞄をヨイショと担ぐと浮絵を見た…
『浮絵さん…じゃタカちゃんの事よろしくお願いしますッッ!』
聡美は頭を下げた…
『!ッッ、ち、ちょっと聡美ちゃんッッ、よ、よろしくってッどッ!』
何を言い出すのかと浮絵は慌てて聡美に詰め寄った…
『フフフ…冗談ですよ冗ぉ~談ッッ!…だって浮絵さんには他に想いを寄せてる方がいるんでしょ?』
浮絵の鼓動が加速し始めた!
『な…何故そ、それを?』
『そんなの尋ねなくたってホラ、ちゃんと顔に書いてますよッッ!ウフフ…』
(う…嘘ッッ…!)
浮絵は思わず頬を掌で押さえた!
『誰かを本気で愛する女はそんな同じ境遇の女性をかぎ分ける事が出来るんですよッッ!』
>> 51
🌷201🌷
『ねぇ浮絵さん…タカちゃんは悪い人間じゃないけど恋愛に不器用な所あるんですッ、けど浮絵さんを好きになったタカちゃん私少し見直しました…失礼な言い方だけどタカちゃんも女性を見る目あるんだなって…』
『み、見る目…アハハハ、あんのかな…』
浮絵は言葉に詰まった…
『浮絵さんは私みたいな女から見てもとても素晴らしい女性ですッッ、だからタカちゃんの想いに答えてあげてだなんて厚かましい事私言いませんッッ!振る時は思いっッッッッッッッッ~きり後腐れなく振ってやって下さいッッ!』
それだけ言うと聡美は笑顔で踵を返し改札口に向かった…
(聡美ちゃん……フフフ…ありがとうッッ!)
改札に入った聡美は重い鞄を何度も肩からずり落ちそうになりながら身体いっぱいで手を振ってエスカレーターに消えて行った…
(思い切りフッて下さい……かっ…フフフ…)
浮絵は一度肩を大きく回すと振り返り駅の玄関から外に出た…
(私はこれから何処に向かっていくのか…風の向くまま気の向くまま…ハァ~んな悠長な事言ってる場合じゃないよ浮絵ッッ!40だよ40ッッ!)
浮絵はやるせない独り言を呟くと作りそびれた晩ご飯の惣菜を買いに地下のモールに消えて行った…
ビリケン㍼💀さん、こんばんは!
磯野家👪外伝過去スレから読んであぁ~こうだったと思い出しながら気が付くと一気に此処まで読んでました。
然し、ビリケン💀さんの全作品を読んでいて感心するのは心の描写が凄い。だからキャラが生き生きとそして、何気なく季節を表す言葉や仕草などが読み手から想像しやすいように表現してある。この👪外伝も浮絵の心の葛藤など上手く男の自分でも女性の心理状態を垣間見た気がします。これから先、浮絵と佐々木そしてカツオにカオリがどう絡んでくるのか続きを楽しみに待ってます。
草場の陰から応援するアル🍺より
PS 短編集の続きも待っとるばい😁
🚗💨 🚓💨
😨まだ付いてきよる💦
では、ビリケン💀さんまた集いにて👋😨💦
>> 58
🌷202🌷
余裕を持ってかなり早く来たつもりだったが浮絵が磯野家に着くと同時に僧侶がタクシーから今正に降りて来る所だった…
『!ッッ、い、いけないッッ!』
黒ずくめの喪服のいで立ちで浮絵は慌てて駆け出し磯野家の玄関の戸を叩いた…
『す、すみません遅くなっちゃってッッ!』
僧侶の後を追うように玄関に入った浮絵はカツオの義兄マス夫と顔があった…
『あッ…浮絵さんいらっしゃいッ、さ、どうぞ中に…まだ時間より早いから慌てなくてもいいよッッ…』
ずり落ちる眼鏡を指で押し上げるとマス夫はいつもの優しそうな口調で浮絵にそう言うと電話機の辺りでお昼の仕出し弁当屋のパンフをしきりに探していた…
『いらっしゃい浮絵さん…今日は忙しいのにわざわざ有難うねッッ…』
奥からエプロンで手を拭きながらカツオの母フネが浮絵を応対した…
『いぇ忙しいだなんてとんでもないッッ、今日来る事の出来ない母の代理でもありますから…』
『先に居間に上がっててよ…今少しバタバタしてるから…』
『あの…何かお手伝い出来る事あれば…』
浮絵は忙しそうに走り回る磯野家の家族を見て自分だけ何もせず座る訳にはと恐縮した…
>> 59
🌷203🌷
『フフフ、お客さんなんだからじっと座ってりゃいいのに…じゃぁそだね、奥で着替えてらっしゃる御住職にお茶でもお出しして貰おうかしらね…』
浮絵は台所で昼ご飯の仕出し弁当の横に添えて出す予定の汁椀の具を煮詰めているフネに何でも手伝いますからと詰め寄った…浮絵は盆に乗った急須でお茶を注ぐと隣の部屋で法要の衣に着替えている住職に丁寧にお茶を出した…
『!…どうしたんですかおばさま?』
浮絵はお茶を出し終え台所に帰って来た時にフネの含み笑いを見た…
『相変わらずよく躾けられてるわね、そんな所おかるちゃんそっくりッッ!』
『あ…ハハハ…そ、そっかな~』
照れ笑いする浮絵をフネはまるで我が子のように優しい目で眺めた…
《あそこでねぇさんが粘るからだろみっともないッッ!》《何を~アンタだってじっと眺めてたじゃないのッッ!人の事言えないわよッッ!》《んも~お父さんの法事ん時くらい喧嘩止めれない?》
勝手口のほうから賑やかな声がしてきた…
『ほらほら、騒々しいのが帰って来たよッッ!』
フネは浮絵に一度ウィンクをするとおたまで汁の味見をした…
『ただいま、ちょっと聞いてよ母さんッッ、カツオったら…ら…あ、浮絵ちゃん来てたの…オホホ』
>> 60
🌷204🌷
『どうも浮絵さんお久しぶりですッッ!』
カツオとワカメは酒屋から購入したビールのケースをドカンと床に置くと浮絵にこんにちはと笑顔で挨拶した…カツオ達の姉サザエはどうやら酒屋でワインをサービスしてもらった事を母フネに自慢しているらしい…
『聞いてよ浮絵さんッ、ねぇさんたらみっともないったらありゃしないよッッ、レジでお金払おうとせずにさ、そばにあるワインをじぃ~と食い入るように見つめ続けてさッッ、』
カツオが日焼けした顔で浮絵にまるで姉弟のように話し掛けてきた…
『結局見本品だから売りに出せないだろとか何とか因縁付けてあのワインをサービスしてもらったのッッ!どう思う浮絵さんあの神経ッッ?』
今度はワカメが浮絵に耳打ちした…浮絵はさすが磯野家ただでは転ばない!とケタケタ笑った…
『ほらほら喋ってないで早くビール冷やさないと間に合わないよッッ、今日は飲んべぇのノリスケ君も来るんだから…』
『え!ノリスケさんもッッ!?』
手を叩きながらマス夫がカツオ達にさっさと行動に移れと促した…浮絵達は手分けして磯野家当主磯野波平の3回忌法要の準備を続けた…
>> 61
🌷205🌷
肌寒い秋空磯野家の居間に阿弥陀経のお経とお香の匂いが充満していた…
(おじさま…そちらで元気にしておられますか?父と囲碁の対局なんてしてらっしゃるのかしら…)
額に2度お香を当てそのまま指についた粉を静かに払いのけると浮絵は波平の遺影の前で合掌した…遺影には元気だった頃の波平が優しく笑いかけている…浮絵は波平のこの写真の笑顔が大好きだった…お経は終盤に差し掛かっていた…ワカメの隣には夜勤仕事で遅れてきた夫横山淳の姿がある…そして全員が鎮座する右の脇に一周忌の時には居なかった波平の甥であるノリスケとタイ子夫婦も今日の法要には姿を見せていた…一時は離婚の危機とまで叫ばれていた二人だったがカツオの姉サザエの献身的な説得で何とかその危機だけは免れ今はそこそこうまくいっているように浮絵には感じられた…
(………)
浮絵はチラッと母フネの隣の座布団でじっと目をつむるカツオを見た…浮絵にはもう一つ危惧する事があった…
(…カオリさんと冬馬君は…どうしたんだろ…?)
当然今日カツオの隣にいるはずの妻カオリと息子冬馬の姿が何とそこにはなかったのだ…
(カオリさん……)
浮絵の胸に何かがつっかえていた…
>> 62
🌷206🌷
お経が終わり酒と料理の席になると磯野家の居間はさっきとはまるで別世界の様相を呈していた…
『だぁ~らマス夫さんらァ~駄目らんスよッッ!いいスかぁ~企業ってのハァ~…』
久しぶりの楽しい席なのかノリスケは羽目を外したように酔いしれマス夫に激しくからんでいる…
『フフフ…ノリスケおじさんは相変わらずだよねッッ!』
高級料亭から注文した弁当の刺身を摘みあげるとワカメが笑いながら口に含んだ…フネとサザエは次々空にされるビール瓶の追加に大忙しで台所と居間を腰を落ち着ける間もなく往復している…
『コラッ、浮絵ちゃんはいいからッッ、立たなくていいッ、座ってなさいッッ!てゆっかワカメッッ、アンタ横で何偉そうに座ってんの!ほら動く動くッッ!』
浮絵は何度も手伝おうとしたがその度に2人に制止されていた…
『うるさいから手伝ってくる…ハァ~』
渋い顔でワカメは台所に向かった…
(誰も話題に触れないよね…やっぱり…)
ノリスケらと談笑するカツオを見ながら浮絵は此処では一切触れてはいけないのだと認識していた…後でそれとなくワカメに聞いてみよう…浮絵の頭の中は何故かその事でいっぱいになっていた…
>> 63
🌷207🌷
(フゥ~久々飲み過ぎちゃったかな…)
ほてった顔をハンカチでパタパタ扇ぎながらトイレから出て来た浮絵は誰もいない軒先に一人腰を下ろした…居間でまだノリスケの酔い潰れそうな叫び声がし、妻タイ子とフネがもうよしなさい!と口論している声が聞こえてくる…
『今日は有難うございましたッッ!』
突然背後から声がした…
『!ッッか…カツオ君……』
『はいこれッ…だいぶ飲んでたみたいだったし…』
カツオは酔い醒ましの冷水を浮絵に差し出し自分のも一気に飲み干した…
『クゥ~うんめぇ~ッッッ、胃に染みるゥ~ッッ!ハハハ…』
カツオはよいしょと浮絵の隣に腰掛けた…浮絵の鼓動がみるみる激しさを増した…
『…も、もう3年カァ~…早いよね…おじさま天国で何してらっしゃるかしら…ハハハ』
カオリの話題は絶対にしてはならない、変な緊張感が浮絵の言葉を乱した…
『…きっと僕が来るのを今か今かとゲンコツ作って待ってるんじゃないですか?アハハ…』
『そう…そうかもねッッ、』
カツオらしい答えに浮絵の頬の緊張が少しだけ抜けた…
『ねぇ浮絵さん…』
珍しく妙な緊張感のあるカツオの声だった…
(え…来る!…もう来ちゃうのッッ!?)
>> 64
🌷208🌷
一瞬の奇妙な静寂が浮絵とカツオを包んだ…
『じゃぁお兄ちゃん私達か…え…ッッ!』
カツオが唾を飲み込み言葉を発そうとした時その決意を遮断するようなワカメの甲高い声がした!
『あ………ッッ』
ワカメはその様子に一瞬面食らったようになったがすぐまた全てを悟ったように兄カツオに横山君と先に帰るね!とだけ告げて足速に消えて行った…
『あ…ハハハ…アイツも忙しい奴だ…アハハ…』
ワカメに邪魔され、核心を言いそびれたようにカツオは慌てて空のコップにまた口をつけた…
『………』
浮絵は視線を軒先の以前自分達が住んでいた隣の家のほうに向けた…また長い沈黙が2人を包んだ…
『あ、そうそう…実はね、本当に偶然だったんだけどこないだホテルのレストランでカツオ君見たよッッ!』
我慢しきれず浮絵から話題を振った…青野達と行ったレストランがカツオがオーナーであるホテルの中にあった事とそこで垣間見た客とのやり取りを浮絵は事細かくカツオに話しをした…
『アハハ、恥ずかしい~、見られてたんだ僕ッッ…』
頭をかきながらカツオはあの時の事件を思い出し照れていた…しかしその後も浮絵が一方的に話すばかりでカツオの口から言葉が漏れる事はなかった…
>> 65
🌷209🌷
『じゃあ私はこれで…あの、波野さんは大丈夫ですか?』
『あ~大丈夫大丈夫ッッ、ノリスケさん今夜はウチに泊めてくから浮絵ちゃんは心配しないでッッ!』
宴は夜10時を回りようやく終焉した…浮絵が帰る玄関口には全員が見送りに来ていたがノリスケとマス夫はもはや居間で潰れていた…
『今日は僕も泊まろっかな~車だし…』
カツオが体裁悪そうにフネに呟いた…
(泊まるんだカツオ君…家に帰らないんだ…)
浮絵の中にいらぬ詮索が充満した…
『カツオ、浮絵さん駅まで送ってあげたら?』
『!ッッ、あッ、い…結構ですッ、だ、大丈夫ですから私はッッ、では皆様失礼しますッッ!今日は呼んで頂き有難うございましたッッ!』
それだけ告げて浮絵は直ぐさま玄関の戸を閉めた…
(ハァ~…結局何も聞けなかった…てゆーか何を期待してんだろ私ッッ、この馬鹿ッッ!)
ポツポツと冷たい雨が降って来た…余程の理由がない限り夫の父親の3回忌に欠席する嫁はいないだろう…一体あれからカツオとカオリの間に何があったのだろうか…あの日私がカオリさんに何かとんでもない事を言ったのか…浮絵は髪をクシャクシャに掻きむしりながらまだ不安定な足取りで駅に向かった…
>> 66
🌷210🌷
ワカメに事の真相をそれとなく聞き出そうとしていた浮絵だったが忙しさにかまけてなかなかワカメに連絡が取れずに幾日が過ぎて行った…よっぽどカオリ本人に何故法要に来なかったのかと直接問い正そうと思ったがそれをしたら私の中の雀の涙ほどの理性と品格の全てを失う…それだけは何としても避けたかった…
(カツオ君…あの時何て言おうとしてたんだろ…)
考えれば考える程仕事が手に付かない…こんな時は敢えて無理して仕事はしない!それが浮絵の身勝手なポリシーだった…パソコンを畳んだ浮絵はふと視線を横にいる佐々木孝に移した…佐々木は黙々と目の前の資料に目を通していた…進藤聡美が故郷姫路に帰ってからというもの浮絵に対する佐々木孝の理不尽な誘いはパッタリと無くなっていた…以前はウザったい位に浮絵の側から離れる事なく求愛していた男がまるで別人のようになっている…
(…まさか……私にはもう興味はない?……ハハハ、てな、何考えてんだろ私ッッ…アンタはそれを手放しに望んでたんじゃなかったのバカバカッッ!)
浮絵は頭を抱えた…
(解らない…この年齢になっても男って動物は下等なんだか高等なんだか…ハァ~…)
>> 67
🌷211🌷
『?…な、何なんすか主任ッッ…』
『え~あ~…あれだ…そのぅ…今晩…ウ~ン…その、ご飯位なら…付き合ってあげても…いいかなってもう一人の私がぁ~……い…言ってる……』
『…はぁ……で?』
浮絵は佐々木孝の座る席に資料を渡すフリをすると小さい声で佐々木に呟いた…佐々木はまるで初めての人から声を掛けられたような不思議そうな顔付きになった…
『で?…って何よで?ってッッ!夕飯位ならって言ってるのッッ!』
惨めな事位浮絵には百も承知の事だった…別にこれは無差別に男を漁る行為ではないのだ…私に気がある男性の誘いを不本意ながら受けてあげる、ただそれだけの事だ…
『…じゃぁ俺とセックスしてくれる?』
『!ッッッッ、は…ッ、はいぃ!?』
浮絵は佐々木の表情一つ変えず淡々と語る言葉に思わず耳を疑った…
『セックスしてくれるなら夕飯付き合ってもいいよッッ!』
『あ、あ、アンタねッッッ…!人が下手に出てりゃッッ!』
『ヤならいいッッ…』
この男はどれだけ人を頭に来させれば気が済むのだろうかッッ!
『馬鹿にしないでよねッッ!』
浮絵は佐々木の胸倉を掴んだ!
『馬鹿にしてんの主任のほうじゃん…』
『な、何ぃ!?』
>> 68
🌷212🌷
『今更好きでもない相手にその気になるような事呟いてどういう風の吹き回しだっつぅのさッッ!それをみすみす解ってて俺に付き合えって言うんならそれってかなり酷くない?それこそ俺ん事大いに馬鹿にしてんじゃんッッ!違う!?ねぇ!?』
浮絵は佐々木の襟元を掴んでいた震える手を解いた…
『…ご、ごめん…どうかしてた…私…』
『どうしたのさ主任ッッ、最近何かカリカリしてない?いつもの氷点下で冷たいくらいの冷静沈着でクールな主任らしくないぜ?…今の主任には俺あんまり魅力感じないな…セックスしたいとも本気で思わない…』
佐々木のその何気ない言葉が何故か浮絵の胸に突き刺さった!
(な…何してんだろ私ッ、バカバカッッ!)
浮絵は鞄を掴むとカツカツとヒールを鳴らし会社から出て行った…会議から帰って来た青野由紀子がそのただならぬ光景に目を丸くした…
『な…何か…あ、ありましタ?ハハハ…』
『なッッ、何もねぇよッッ、お子ちゃまは引っ込んでろよッッ!』
『あ~ムカッッ!人が折角心配してやってんのにッッ!』
佐々木は何事もなかったかのようにまた残っていた資料に目を通し始めた…
『違う…全然駄目…』
『え?何か言った?』
>> 72
🌷213🌷
出会った時から佐々木孝への印象はマイナスにはなっても決してプラスにはならなかった…それは浮絵の中で今も全く変わらないつもりだ…じゃぁ一体この胸の苛立ちは何と説明すればよいのか…佐々木孝の事を毛嫌いし、あんなにあからさまに煙たがっていた癖にいざ言い寄って来ないと解ると何故か心の中が女子高生の恋愛ゲームのように波立つ…奇妙な淋しさが浮絵の全身に襲い掛かるのだ…
(何でッ、二十歳やそこらの娘じゃないんだよ浮絵ッッ、しっかりなさいッッ!)
部屋に帰り冷蔵庫から缶ビールを取り出すと座るが早いか浮絵は缶のタブを開けてゴクゴクと喉奥に流し込んだ…
(決して手に入らないものを諦めたから?だからその反動なの?愛する事に疲れて遠くへ逃げたくなっただけなのッッ?ねぇ答えなさい、何とか言いなさい浮絵ッッッ!)
ベットに倒れ込み浮絵は心の中の自分と壮絶な喧嘩を繰り広げていた…意識しまいと意識すればするほど浮絵の脳裏にパチパチと電流が走る…今までその中にいるのは磯野カツオただ一人だった…しかし今は違う男性の姿がそこに見え隠れするのだ…
(ダメダメダメェェェェェッッッ!)
浮絵は枕を被った…
>> 73
🌷214🌷
『あ、ワカメちゃん…いらっしゃい…』
『携帯繋がらないから心配になって…』
数日後の昼下がり浮絵はパジャマ姿のまま心配で訪ねて来たワカメを部屋に迎えた…
『…調子悪かったの?会社も休んでるって昨日甚六さんから聞いて…』
『え?あぁ…まぁ、アハハ…』
ボサボサ頭を掻きむしりながら浮絵はお湯を沸かし始めた…
『でワカメちゃん、今日はどうしたの?』
『あ……うん…』
ワカメが浮絵には見せた事のない複雑な顔をした…
『…何か…どう言ったらいいのか…』
『え?……』
ワカメはモジモジと視線を床に落としている…
『浮絵さんも気付いてたと思うんだけど実は…』
浮絵は静かにワカメの前に座った…
『こないだのお父さんの3回忌にカオリさん来なかったよね…』
『体調が悪かったとか?』
浮絵は解っているくせに心にもない全く見当違いな言葉を発した…こんな自分がやっぱり心底嫌いに思った…
『実家に帰ってるみたい…ずっと…』
『実家に帰ってる?…本当なの?』
『ずっと別居生活してるみたいお兄ちゃん達…』
やはり浮絵の予想が的中した…言いそびれたがこないだカツオ君はその事を私にそれとなく告げたかったのだと…
- << 80 🌷215🌷 『別居…な、何でッッ…』 思わず浮絵の腰が浮いた… 『さぁ、詳しい訳までは私には解らないけど…』 ワカメもその事実に些か混乱している様子だった… 『まさか浮絵さんにカオリさんから連絡とか…なかったよね?』 『え?…あぁ…何度かお酒を飲みに行った事はあるけど…』 ワカメはまるで珍しい物でも見たように目を丸くして驚いていた…その表情はどうして好きな相手の嫁と平常心でお酒なんて飲めるのかなぁ~といったやり切れない表情にも浮絵には見て取れた… 『で?そん時何か言ってたカオリさんッッ?』 『な、何かって…まぁ気持ちを維持するのは難しい、結婚は理想とは違う…そんな事あれやこれや呟いてた気がする…』 『そっか…いよいよか…』 ワカメは何度も小刻みに頷くと腕組みをした… 『いよいよってワカメちゃんッッ、いい?あなたは…』 『大丈夫ッ、浮絵さんは何にも心配いらないから、うん…大丈夫だから…』 ワカメは浮絵がいれてくれたコーヒーを一口含むとお邪魔しましたと玄関を後にした… (な、何だったの?…てゆーか別居って…まさかそこまで進行してるなんて夢にも思わなかった…) 浮絵の胸にまた重い何かがのしかかっていた…
>> 74
🌷214🌷
『あ、ワカメちゃん…いらっしゃい…』
『携帯繋がらないから心配になって…』
数日後の昼下がり浮絵はパジャマ姿のまま心配…
🌷215🌷
『別居…な、何でッッ…』
思わず浮絵の腰が浮いた…
『さぁ、詳しい訳までは私には解らないけど…』
ワカメもその事実に些か混乱している様子だった…
『まさか浮絵さんにカオリさんから連絡とか…なかったよね?』
『え?…あぁ…何度かお酒を飲みに行った事はあるけど…』
ワカメはまるで珍しい物でも見たように目を丸くして驚いていた…その表情はどうして好きな相手の嫁と平常心でお酒なんて飲めるのかなぁ~といったやり切れない表情にも浮絵には見て取れた…
『で?そん時何か言ってたカオリさんッッ?』
『な、何かって…まぁ気持ちを維持するのは難しい、結婚は理想とは違う…そんな事あれやこれや呟いてた気がする…』
『そっか…いよいよか…』
ワカメは何度も小刻みに頷くと腕組みをした…
『いよいよってワカメちゃんッッ、いい?あなたは…』
『大丈夫ッ、浮絵さんは何にも心配いらないから、うん…大丈夫だから…』
ワカメは浮絵がいれてくれたコーヒーを一口含むとお邪魔しましたと玄関を後にした…
(な、何だったの?…てゆーか別居って…まさかそこまで進行してるなんて夢にも思わなかった…)
浮絵の胸にまた重い何かがのしかかっていた…
>> 80
🌷216🌷
『あのぅ突然申し訳ございません…こちらのホテルの支配人の磯野カツオさんにお逢いしたいのですが…あ、私磯野さんの知り合いの伊佐坂浮絵という者ですッ…』
浮絵の言葉に真摯なフロントマンは丁寧に頭を下げると暫くお待ち下さいと微笑み受話器を取った…浮絵はワカメにその事実を聞かされてから悶々とした日々を送っていたが想像の忍耐も遂に限界に近付きとうとう道化を覚悟でカツオ本人に事の真相を聞き出そうとホテルに赴いていた…
『支配人がこちらに来られますのでそこの椅子で腰掛けお待ち下さい…』
浮絵は一礼してすぐ後ろの南国調の籐の椅子に腰を下ろしてカツオを待った…
『どうしたんですか浮絵さんッッ?』
数分後にカツオが現れた…さすがに今日はスーツを着ている…
『あ、ご、ゴメンねカツオ君ッッ、ち、ちょっと前通り掛かったもんだから…』
『そうだ、ワカメから聞いてたんだった…浮絵さんの職場ってこのすぐ近くだったんですよね!』
カツオはフロントマンに小声でレストランにいるから何かあったらそっちに連絡下さいと丁寧に告げるととにかく何か食べません?とお腹を摩って浮絵に言った…
『忙しくない?』
『何言ってるんですか水臭いッッ!』
>> 81
🌷217🌷
『干し椎茸、マッシュルーム、マイタケ、エリンギ…他何と10種類もの茸が入った特製ソースが入ったこのレストランの僕一押しのトルコ風オムライスなんですよコレッッ!ハハハ…浮絵さんもきっと気に入ると思いますよッッ!さ、遠慮なく…』
カツオは余程お腹が空いていたのかその白い特製ソースを舌舐めずりしながらかけるとスプーンでパクついた…そのレストランは偶然にも先日あの青野由紀子らに連れて来てもらったまさにそこだった…
『こないだは父の為に有難うございました…』
『あ、いぇいぇ…そんな私は当たり前の事を当たり前にさせてもらってるだけだから…私の父の法事の時だってカツオ君来てくれたじゃない…』
浮絵はいただきますとソースを掬った…
『…でやっぱその事ですよね?』
突然カツオが呟いた…
『その事?何の事?』
『またまたぁ~解ってるクセに…浮絵さんが僕の所に現れる時はただ事じゃない時、でしょ?』
(何だ…全てお見通しか…)
確かにこうしてカツオと逢う時は今までだって何もなかった日はない…言い換えれば何もないのにカツオと逢う事は浮絵には罪なようにも思っていた…
『聞いてくれますか浮絵さん?』
カツオの弱々しい声に浮絵はハッとした…
- << 84 🌷218🌷 カツオはこんな事浮絵さんに聞いてもらうのは筋違いだと何度も恐縮しながら事の発端からゆっくり話し始めた… 『前夫と別れて僕と一緒になった時、僕はカオリに言ったんです…僕は冬馬を本当の子供だと思ってこれからも接していく、いい事をした時は心から褒めてやり悪い事した時は本気で叱る…カオリもそれを承知で僕達一緒になったんです…』 勢いよく口と皿を往復していたカツオのスプーンが止まった… 『去年突然カオリが冬馬を私立の小学校に入れるって言い出して…僕は冬馬が嫌がっているのを知ってたからそれはよせとカオリに言ったんです…子供の進路は子供自身で考えさせろって…それが子供の成長なんだって…』 (…らしい…らしいねカツオ君…) 浮絵は口元をナプキンで拭いた… 『したらカオリの奴《こんな小さな子供に自分の正しい進路が解る訳ないじゃないッ、右も左も判断出来ない子供の成長を導くのが親としての最大の責任なんじゃないのッッ!?》…って怒り出して…』 レストランの客が閉店のアナウンスで次第に帰り支度を始めていた… 『そんないさかいが何度も続いて遂に…互いが我慢に我慢を重ねた揚句、爆発しちゃったんです…』 カツオは俯いた…
>> 82
🌷217🌷
『干し椎茸、マッシュルーム、マイタケ、エリンギ…他何と10種類もの茸が入った特製ソースが入ったこのレストランの僕一押しのトル…
🌷218🌷
カツオはこんな事浮絵さんに聞いてもらうのは筋違いだと何度も恐縮しながら事の発端からゆっくり話し始めた…
『前夫と別れて僕と一緒になった時、僕はカオリに言ったんです…僕は冬馬を本当の子供だと思ってこれからも接していく、いい事をした時は心から褒めてやり悪い事した時は本気で叱る…カオリもそれを承知で僕達一緒になったんです…』
勢いよく口と皿を往復していたカツオのスプーンが止まった…
『去年突然カオリが冬馬を私立の小学校に入れるって言い出して…僕は冬馬が嫌がっているのを知ってたからそれはよせとカオリに言ったんです…子供の進路は子供自身で考えさせろって…それが子供の成長なんだって…』
(…らしい…らしいねカツオ君…)
浮絵は口元をナプキンで拭いた…
『したらカオリの奴《こんな小さな子供に自分の正しい進路が解る訳ないじゃないッ、右も左も判断出来ない子供の成長を導くのが親としての最大の責任なんじゃないのッッ!?》…って怒り出して…』
レストランの客が閉店のアナウンスで次第に帰り支度を始めていた…
『そんないさかいが何度も続いて遂に…互いが我慢に我慢を重ねた揚句、爆発しちゃったんです…』
カツオは俯いた…
- << 86 🌷219🌷 『《僕は冬馬の為を思って言ってるんだッ!》って何度も説得しました…したらカオリ、《何の将来もない公立の平凡な小学校に通わす事が冬馬の為になるなんて保証どこにもないッッ!》の一点張りで…』 子供を持った経験のない浮絵にはカツオの口から放たれる言葉の一字一句全てが未知の世界だった…言い方が悪いがたかが7歳にも満たない子供の将来の事でここまで夫婦の絆が崩れ落ちてゆくものなのかと… 『冬馬が行きたいと言うのなら僕は止めませんッ、だけど冬馬は行きたくない、助けてと僕に泣きついて来たんです…あんな小さな身体ではっきり嫌だと主張したんです…無理強いして親のエゴを通すよりは子供の自由にさせてやりたい…僕はそう思って…本気で冬馬の将来の事…』 浮絵はただじっとカツオの言葉を聞き漏らすまいと黙って話を聞いていた… 『《磯野君は冬馬の本当の父親じゃないから》…』 『え?……』 『ウチから出て行く直前カオリが僕に言った一言です…』 浮絵は何故か心臓付近に得体の知れぬ生暖かいものを感じた… 『カオリさんが…そッ、そんな酷い事を?』 『……』 『何それ…酷いよッ、カツオ君はそんな事言われて何も言い返さなかったのッッ!?』
>> 84
🌷218🌷
カツオはこんな事浮絵さんに聞いてもらうのは筋違いだと何度も恐縮しながら事の発端からゆっくり話し始めた…
『前夫と別れて僕と一…
🌷219🌷
『《僕は冬馬の為を思って言ってるんだッ!》って何度も説得しました…したらカオリ、《何の将来もない公立の平凡な小学校に通わす事が冬馬の為になるなんて保証どこにもないッッ!》の一点張りで…』
子供を持った経験のない浮絵にはカツオの口から放たれる言葉の一字一句全てが未知の世界だった…言い方が悪いがたかが7歳にも満たない子供の将来の事でここまで夫婦の絆が崩れ落ちてゆくものなのかと…
『冬馬が行きたいと言うのなら僕は止めませんッ、だけど冬馬は行きたくない、助けてと僕に泣きついて来たんです…あんな小さな身体ではっきり嫌だと主張したんです…無理強いして親のエゴを通すよりは子供の自由にさせてやりたい…僕はそう思って…本気で冬馬の将来の事…』
浮絵はただじっとカツオの言葉を聞き漏らすまいと黙って話を聞いていた…
『《磯野君は冬馬の本当の父親じゃないから》…』
『え?……』
『ウチから出て行く直前カオリが僕に言った一言です…』
浮絵は何故か心臓付近に得体の知れぬ生暖かいものを感じた…
『カオリさんが…そッ、そんな酷い事を?』
『……』
『何それ…酷いよッ、カツオ君はそんな事言われて何も言い返さなかったのッッ!?』
>> 86
🌷220🌷
レストランの店長がカツオ達の座る席に来ると厨房の勝手口の鍵らしきものを黙ってカツオの手の横に置いた…玄関は閉めますがどうぞ話が終わったら厨房の勝手口から遠慮なく出て下さいとの店長の粋な配慮のようだった…
『本当の父親じゃないって事は事実ですから…』
『だけどそれを承知に一緒になったんでしょッ?絶対に言ってはならない言葉だよそれッッ!不用意に口をついたとしてもあんまりにも身勝手な言葉だわッッ!』
浮絵は何ともいいようのない虚しい怒りが込み上げてきた…
『まぁそれだけじゃないんですけど…冬馬の一件はまだ氷山の一角で…』
カツオは結婚した当初からあったカオリとの微妙な確執について浮絵に話し始めた…カツオはカオリの事を話す度に必ずまず《僕が悪いんだけど…》という形容詞を頭につけて話をしていた…それが浮絵には何故か余計にカツオが惨めでかわいそうでならなかった…こんなのどちらが極端に悪いなんて事ないッッ、うまくいかないのは一人のせいじゃないんだ…自分にも努力が足りなかったんだし当然同じ位相手にも…カツオのかつて見せた事のない弱々しい表情に浮絵はそんな顔なんて見てたくない!と視線を反らしていた…
>> 87
🌷221🌷
カツオが厨房の勝手口の扉を閉めた時時計の針はもう午前1時を指していた…
『な、何かすみませんでした…僕とした事がペラペラと…ハハハ』
『…ねぇカツオ君ちゃんとご飯食べてるの?仕事も忙しそうだし…』
浮絵は少し痩せたカツオの後ろ姿を労った…聞けばカオリとの別居生活はもう2ヶ月になるという…
『たまに実家に帰って母親の手料理食ってますし…健康の方は何ら心配ありませんッッ!ホラねッッ…』
カツオは力ない力コブを作って笑ってみせた…
『………』
『大丈夫ですよ浮絵さんッッ、なるようになりますから心配しないで下さい…ハハハ』
カツオは夜勤のフロントマンにレストランの鍵を預けると今日はこのまま帰りますと告げ浮絵の元に戻って来た…
『浮絵さん、遅いから僕の車で送りますよッッ!』
『あ…でもッッ…』
『いいからいいからッッ!こんな美人を夜中一人で歩かせる事なんて出来ませんからッッ!さ、駐車場は地下に…』
カツオはいつもの笑顔を取り戻すと浮絵をエレベーターに乗せ扉越しに夜勤スタッフにお疲れ様~と声をかけた…
『カツオ君……』
『ん?何ですか?』
浮絵が次の言葉を言う前にエレベーターは地下駐車場に止まった…
>> 88
🌷222🌷
カツオの愛車の年代物の白いクーペの助手席に浮絵は初めて乗せられた…フロントガラスの虎のキーホルダーがユラユラととぼけた顔で揺れている…いつも会社から帰る車内からのこの街の眺めは今日だけは落ち着いて眺めていられるだけの余裕は浮絵にはなかった…今日の右隣の運転席はいつも仕事帰りに送ってもらう兄の甚六ではなくあの磯野カツオなのだから…
『僕あんな事ペラペラと話しましたけど決してカオリの事悪く思ったりしないで下さいね…アイツはアイツでかなり色々大変だったんです…僕のホテルの仕事が忙しくなって余裕なくてカオリや冬馬を充分に構ってやる事が出来なかった僕の…全てはそうみんな僕の責任なんですから…』
カツオの横顔に街のネオンライトが鮮やかに照り付けては消える…
『いつもそうだねカツオ君て…どうして?』
『え?……』
カツオは左手で窮屈なネクタイを緩めた…
『何でそんなに自分に厳しいの?私には解らないよ…もっと自分自身に汚い位正直で我が儘であってもいいんだよッ、それなのに…なのにどうしてそんな自分を訳もなく傷付けるの?…』
信号待ちの赤い灯が鮮やかに映る…
>> 89
🌷223🌷
『別に僕は…昔からこうですから…花子といいカオリといいやっぱり僕には人を幸せにする事なんて出来ないんです…だって自分自身を納得させるだけの《自分》という器じゃないんですから…あ?僕何訳の解んない事言ってんだろ、アハハ…ハ…』
(駄目…このままじゃ私ッッ…!)
カツオの横顔を見ているうちに浮絵は自分という人間が解らなくなってきていた…その時いきなり何か押さえ切れない別の大きな力が浮絵の背中をグイグイ押し出そうとする…
『カツオ君は最高だよ…誰が何と言おうと…』
『え?…何か言いました浮絵さん?』
別の見えない力を振り払うようにカツオに聞こえない音量で浮絵が呟いた…浮絵が次の言葉を探しているうちに車は浮絵のマンション前に停車した…
『アハハ、久しぶりだったけどちゃんと道覚えてました…着きましたよッッ!』
(どうしようッ、何ッ、何なのこれッッ!?)
『……あ、有難う…』
何かに上の空だった浮絵は我に帰るとカサカサと紙袋を抱えて車を降りた…
『今日は本当にすみませんでした…少し気が楽にな…』
(イヤッ、だ…駄目ッッッ!)
『かッ、カツオ君…ちょっと上がって行きなよッッ…帰っても一人なんでしょ?』
>> 90
🌷224🌷
自分は何て地に墜ちた外道の成れの果てなのだろう…その思わず口をついた言葉に浮絵は後悔した…戻れるものならすぐ数分前に戻ってじゃぁね!さよなら…の一言を言う為にタイムスリップしたいくらいだ…
『え…あ…有難うございますッッ…けどホラもうこんな時間だし…アハハ…』
明らかにカツオは動揺していた…しかしその動揺は浮絵を女として見ての深い動揺ではなく本当にこんな時間から独身女性のマンションにお邪魔するのは悪い…ただ単にそれだけの軽い動揺であると浮絵はカツオの雰囲気からそう断定出来た…女として見てくれていない、ただの昔からの幼なじみの近所のお姉さん…そうだ、そりゃそうだよね…幼い頃からの記憶が簡単に消えて無くなり自分を一人の女として見て貰うには余りにも時間が経ち過ぎているのだから…
『…そだよね馬鹿な事言ってゴメン…アハハ…じゃね、有難う…今日はこっちから職場にお邪魔してゴメンね…車気をつけて帰ってね!』
『!ッッ、あ…う、浮絵さッッ……』
カツオの言葉を振り切るように浮絵は車のドアを閉めると足早にマンションの中に消えて行った…
>> 91
🌷225🌷
(何よ何よ何よバカバカバカッッ!私ってホントに馬鹿ッッッ!)
玄関に入るや否や浮絵は何を思ったかバスタブの冷たい湯舟にバシャンと頭をつけ何度も左右に振り続けた…まるで脳裏に焼きついていたあの別の見えない力を振り払うように…
『ブハァァッッッッッ!』
着ていた服が濡れた髪の毛でみるみる色を変えて水分が染み込んでゆく…
『ハアッ、ハアッ…なッ、何て事考えてんのよ私のバカッッ!カツオ君をウチに誘って何が変わるって言うのよッッ、本末転倒とはこの事よッ、しっかりしなさい浮絵ッッ!』
浮絵はもう一人の無防備な自分に言い聞かせるように何度も自問自答を繰り返すとその場にへたり込んでしまった…
ピンポ~ン…
その時玄関のチャイムが鳴った!
(!ッッえ…だ、誰ッッ!?)
《浮絵さん居ますかァ~?浮絵さぁ~ん!?》
『かっ、か…カツオ君んッッッッ!?』
それまでの浮絵のぼやけた頭が一気に覚醒した!同時にとてつもない量の血液が全部浮絵の脳に向かって一斉攻撃をかけて来た!
『あッ、ち…ちょッッ、あが…い、今ッッ…今い……』
カチャリ…
『……あの…浮絵さん…てゆっか…大丈夫ですか?全身ずぶ濡れですけど…』
>> 92
🌷226🌷
『あ…財布…車の中に落として行ったから…ハハハ、今日中に渡しておかないとって…』
カツオは何があったんだという驚きの眼差しでずぶ濡れの浮絵を凝視していた…
『か、風邪ひきます…よ?』
『あ…アハハアハハ…ハハ…そ、そうだよね…そんな訳ないよね…アハハ…』
『そんな訳?』
『あぁ~違う違うこっちの話こっちの話ッッ…わ、わざわざ届けてくれて有難う…アハハ…』
濡れた髪の毛から地面にポタポタと水滴が落ちている…今の私の様相はとりわけお岩か貞子がいい所だろう…
『本当に大丈夫ですか浮絵さん?』
『だ、駄目ッッ、もう帰ってッ、私なんかに…アハハ…優しい言葉かけないでッッ…ホラあれよ…アハハ…ベランダの植木に水あげてたら誤って頭から水被っちゃった…そんな事って生きてたらよくある事じゃないッ、アハハ…』
『…よくあるかなぁそんな事…』
『とにかく有難うねッッ、さようならッッッ!』
浮絵は財布を半ば奪い取ると無造作に玄関の扉を閉めてしまった…
《あ…風邪、ひかないで下さいね~…じゃ》
(バカ…私の大大大バカッッ!)
カツオの遠のく足音を聞きながら扉の内側で浮絵は崩れ落ちるように泣いた…
- << 98 🌷227🌷 風邪をひいても何を差し置いても仕事は休まなかった浮絵が丸3日も仕事を欠勤した…久しぶりの職場の空気はまるで自分だけ蚊帳の外のような疎外感と孤独感に苛まれていた… 『主任大丈夫でしたか?もう主任がいなかったから職場はてんやわんやの大騒動でッッ…』 『……そッ、』 (まったくもッ、私の身体の心配してくれてんのか自分の仕事の残務を心配してるのかどっちなのよッッ!) 表向きだけ心配そうに振る舞う青野由紀子に浮絵は心の中で散々毒づいた… 『お…おはよ…悪かったわね…』 浮絵は隣でパソコンに向かっている佐々木孝に声をかけたが佐々木からはおはよう!と視線も合わさない素っ気ない返事が返ってくるだけだった… (だいたい何よその変わりようはッッ、仕事やれば出来んじゃないのよッッッ!それに何なのよその態度はッッ…何だか今まで私をコバカにしてたみたいッッ!ホントむかつくこの男だけはッッ!) 浮絵はバンと仕事に使う図鑑を佐々木のすぐ横にわざとらしく置くと不機嫌そうに仕事を始めた… 『お~怖い怖いッッ、こりゃ今日は小言3回は覚悟しなきゃ…タハハ…』 青野が浮絵のかつてない鬼の形相に頭を抱えた…
ビリケン昭和様✨
毎日毎日めちゃくちゃ楽しみに読ませてもらっていますよ~☺💖
熱中しすぎと今までのビリケン様の作品を全て読み更けっているおかげで応援メッセージも送れずにいました😃💦
I love ビリケン昭和✨
頑張れ浮絵さん‼
浮絵さんが女としての幸せをつかみますように…っ✨
続きが気になります~😍
>> 93
🌷226🌷
『あ…財布…車の中に落として行ったから…ハハハ、今日中に渡しておかないとって…』
カツオは何があったんだという驚きの眼差しで…
🌷227🌷
風邪をひいても何を差し置いても仕事は休まなかった浮絵が丸3日も仕事を欠勤した…久しぶりの職場の空気はまるで自分だけ蚊帳の外のような疎外感と孤独感に苛まれていた…
『主任大丈夫でしたか?もう主任がいなかったから職場はてんやわんやの大騒動でッッ…』
『……そッ、』
(まったくもッ、私の身体の心配してくれてんのか自分の仕事の残務を心配してるのかどっちなのよッッ!)
表向きだけ心配そうに振る舞う青野由紀子に浮絵は心の中で散々毒づいた…
『お…おはよ…悪かったわね…』
浮絵は隣でパソコンに向かっている佐々木孝に声をかけたが佐々木からはおはよう!と視線も合わさない素っ気ない返事が返ってくるだけだった…
(だいたい何よその変わりようはッッ、仕事やれば出来んじゃないのよッッッ!それに何なのよその態度はッッ…何だか今まで私をコバカにしてたみたいッッ!ホントむかつくこの男だけはッッ!)
浮絵はバンと仕事に使う図鑑を佐々木のすぐ横にわざとらしく置くと不機嫌そうに仕事を始めた…
『お~怖い怖いッッ、こりゃ今日は小言3回は覚悟しなきゃ…タハハ…』
青野が浮絵のかつてない鬼の形相に頭を抱えた…
- << 103 🌷228🌷 『じゃぁ飯食ってくるわッ、留守番頼んだぞッッ!』 最後のスタッフが外に昼ご飯を食べに行き社内はいつしか浮絵と佐々木だけになっていた…2m程しか距離のない互いのデスクからカタカタとキーを打つ音だけが響き渡る…二人の間に会話はなかった…浮絵がチラリと佐々木のデスクの書類に目をやった…その内容は何もかも完璧だった… 『…どういうつもり…?』 最初の言葉は浮絵からだった… 『ん…何がぁ?…』 佐々木は画面を食い入るように見つめキーを打つ手をやめない… 『出来ないフリしてたって私を馬鹿にしたい訳?』 『そっ…脳ある鷹は爪を隠すってねッッ!ハハハ…つぅか誰がいつ出来ないって言った?』 佐々木は青野に売ってもらった昼飯のメロンパンをかじった… 『無能なフリして私に言い寄ったメリットは一体何なの?私が何とかしてあげなきゃ!なんて思わせる母性本能でもくすぐる作戦か何かなの?』 『………』 佐々木は鼻唄を歌っていた… 『ねぇちょっと聞いてるのッッッ!?』 浮絵は机をドン!と叩いた… 『…そんなに俺の事が気になるんだぁ~フフフ、そっか…そっだよね…』 佐々木の笑みに浮絵はただならぬものを感じずにはいられなかった…
先ほどニュースで新しいCMで磯野家の25年後の映像がありました!
カツオ➡浅野忠信
ワカメ➡宮沢りえ
タラ夫➡瑛太
イクラ➡小栗旬
チョコのCMですがビリケンさんのお話をイメージしやすくなりましたがあんなにイケメンsって(笑)
ビリケンさん的にはどうですか?
- << 101 💀…千代丸子様💕お便り有難うございます🙏 へぇ~現実に磯野家の未来が描かれていたんですね~😨びっくり‼確かにイケメンSですね(笑)人選は良いんじゃないでしょうか☺💦ワカメの宮沢りえさんは少し抵抗ありますが…💧(容姿雰囲気からして確実に田畑智子やろ~😂) するてぇとさしずめナカジマはオダギリジョーって所でしょうか(笑)貴重な情報有難うございました✨💪💀
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