地域猫の『ふぅちゃん』
ふぅちゃんを初めて見たのは、
2021年6月22日(火)でした。
仕事が休みのお昼前、たまたま自宅の2階から外を見ると、ごみ集積所にふぅちゃんがいました。
収集日ではなかったのですが、出されたごみ袋がありました。
袋をやぶってしまったら...
猫が好きな人ばかりではないし...
ウチにもねこがいるので
「ひとつ、ちょうだいね」
一応断って、おやつを持って家を飛び出しました。
『小さい』
こねこ...ではないけれど、まだ生後半年くらいかな。
近づいたら逃げるだろうな...と思いましたが、人慣れしているのか、逃げるタイミングを図っていたのか。
私の存在を認識しても、ふぅちゃんは、低姿勢のまま動かずにいたので、
「ここに置いておくから、食べて」
と、おやつを置いてその場を離れました。
家に戻り2階から見ると、ふぅちゃんがおやつを食べていました。
食べ終わってその場を離れたので見に行くと、完食。
ねこ好き、いや、ねこバカだし、
飼い主のいないねこに思いもあるけど。
小さかったからか、その後もふぅちゃんのことが頭から離れず。
その日の夜。
ごみ集積所から20歩くらいに自宅があり、駐車場の車の下に、ごはんを置いてみました。
〔つづく〕
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「ごはん、食べてくれたかな」
車の下を見てみると...無くなってる。
『よっしゃ』
とは言え、ふぅちゃんが食べたのかは分からないけれど。
ふぅちゃんじゃなくても、誰かがお腹を満たしてくれたなら、いいか。
その日から、車の下の「ねこカフェ」
う~ん。
そんなおしゃれな感じではないから「ねこ食堂」かな...が始まりました。
車の下にしたのは、ふぅちゃんが落ち着いて食べられるかなと思ったのと、雨避けと、人の目に触れにくいかな、という自分がしていることへの後ろめたい気持ち...
毎日、同じ時間にカリカリ、ウェットフード、こねこ用ミルクを置いて、数時間後に器を取りに行く。
毎日、ごはんは無くなっているけれど、誰が食べているのかは分からないまま。
ま、いいか。
誰が食べているのか分かったのは、ねこ食堂を始めて1ヶ月後の7月下旬でした。
〔つづく〕
ねこ食堂は、21時30分から0時30分頃までの営業で、7月になり夜になっても気温が下がらない日もあり、3時間でごはんが傷むことはないだろうけれど、いつもより早めに器を取りに行った時、
『いた!』
ねこのシルエットがありました。
駐車場が暗めなうえに車の下なので、誰かまでは分かりません。
私の存在に気づいているのか、いないのか、食べ続けてる。
そして、食べ終えて車の下から出て来たのは、ふぅちゃんでした。
嬉しかった。
誰が食べているか分からなかったけれど、食べ方に特徴があったから同じ子が食べているんだろうな...と思っていたから。
そして、その特徴が今日もあったから。
「ちょい残し」
毎日ごはんは無くなっているけれど、ウェットフードひとくち分とミルクひとなめ分が残ってる。
ぼく、わたし(この時は性別は分からず)が食べたんだよ...のメッセージだった?
なワケないか。
『誰が食べていても、いい』
と、思っていたハズだけど、次の日ごはんを用意している時に、ちょっとご機嫌な私がいた。
なぜ、ふぅちゃんが気になって、後ろめたさを感じながらもねこ食堂を始めてしまったのか。
ふぅちゃんが「きん」に似ていたからかも。
〔つづく〕
ふぅちゃんが似ている「きん」
賢くて、甘え上手で、でも程よい距離感で。
ねこ好きの心をくすぐるらしく、ウチのほかにも判明しているだけで3件、ごはんやおやつをもらえる別宅あり。
と言うと、ノラのようだけど飼いねこ。事情があって、家出状態。
飼い主さん、愛情はあるようだけど、積極的に現状を変えようとする様子は窺えず。
きんに、ケンカによるものでも人為的なものでもない、膿んだ傷が出来た時。
感染症が頭をよぎった。
飼い主さんに伝えても、病院へ連れて行く様子はみられない。
私が病院へ連れて行こうかと考えたけれど...とりあえず、患部を写真に撮って病院へ行き、薬を処方してもらった。
なぜ本人(猫)を連れて来ないのか問われたけれど「ノラねこだから」と言った。
直接じゃないので正確な診断は出来ない前提で、皮膚炎の診断、5日間の投薬。
薬を飲ませるにあたり、飼い主に伺いをたてた。了承はされたけれど、飼い主が自分で飲ませるとは言わなかった。
私は仕事をしていない時期で在宅が多かったから、きんにごはんをあげるのも別宅の中でウチが一番多かったと思う。
別宅Aで鳴いて留守だと、別宅Bへ...だったから、鳴き声が聞こえはじめると、ごはんやおやつを用意して待っていた。
そんな状況で、二年近く経った2017年の7月。
別宅Aさんから、きんの様子がおかしいと連絡があった。
〔つづく〕
別宅Aさんから連絡があって、近くを探したけれど見当たらない。
家に戻ってしばらくすると、きんの小さな鳴き声が聞こえた。
急いで外に出ると、ウチの前に痩せて毛がぼさぼさになり横たわっているきんがいた。
一目見て、涙が出て来た。
鳴き声を聞いた時から涙が出ていたかもしれない。
別宅Aさんに連絡をして来てもらった。
Aさんは飼い主を知らないので、飼い主と面識がある別宅Bさんにも連絡をして、飼い主を呼んで来てもらった。
飼い主がきんを見るのは数週間ぶりらしい。
私は飼い主が嫌いだった。
愛情はあったかもしれないけれど、きんへの接し方や、きんへの私の気持ちを利用されて騙されたことがあったから。
Bさんに飼い主を呼んでもらったのも、最初に私が呼びに行った時に居留守を使っているのが分かったから。
飼い主に抱っこされて、家出状態だった家に戻って行くきん。
どんな気持ちだっただろうか。
安心していただろうか。
二日後、きんが亡くなったことを聞いた。
飼い主でもなく、別宅の中でもウチの前で鳴いてくれたことを、悲しくてやりきれない自分の支えにした。
『あいつなら、助けてくれる』
そう思ってくれた?
きんとふぅちゃん、同じ色のはちわれ。
ごみ集積所にいるふぅちゃんを見た時、きんかと思った。
4年経って、生まれ変わって会いに来てくれたのかと思った。
そう思いたかった。
〔つづく〕
8月
気温が高く、蒸し暑い日が続く。
正確な年齢は分からないけれど、生後半年くらいに見えるふぅちゃんにとっては初めての夏かもしれない。
大丈夫かな。
水分を多くとれるように、ウェットフードやミルクの量を少し増やした。
器を取りに行き、なくなっているのを確認するとほっとする。
そうして、人もねこも夏を乗り切り過ごしやすい季節になった。
ねこ食堂は続いていたし、毎日ごはんは食べていた...と思う。
なぜ「思う」なのかと言えば、のちにカレンダーに
○(完食)
△(あまり食べない)
など「今日のふぅちゃん」を記すようになるのだけれど、この頃はつけていなかったから。
ねこ食堂がこんなに続くと思っていなかったから。
初めて会った時以来、ふぅちゃんを明るいところで見ていない。
毎日来てくれるだけで満足していたのに、それが当たり前になると、ふぅちゃんの顔をみたいという欲が出てきてしまった。
暗視カメラをつけたらどうかな。
ふぅちゃんの顔も、来る時間も分かるし。
なんて。
そんな行動力は、私にはなかった。
考えるだけ。
11月
この頃から、ふぅちゃんとの関係が少しずつ変化していく。
〔つづく〕
ねこ食堂を始めて5ヶ月。
これまでは、無人(猫)の車の下にごはんを置いて、数時間後に器を取りに行く...だったのが、ふぅちゃんが車の下で待っているようになった。
でも、毎回
「シャー」
威嚇だよね。
ごめんね、全然こわくないんだ。
可愛くて、にっこりしてしまう。
「ふぅちゃん」の由来は、これ。
最初は「にゃん」って呼んでいたけれど、シャー言われるようになって「しゃーちゃん」に変わり、でも、何だかしっくりこなかったので、威嚇は尊重して「フゥー」のふぅちゃん。
シャーの時に、ふぅちゃんの顔が少しみえる。
体は車の下にキープで、顔をちょっぴり出すから、目のあたりから口元まで。
かわいい。
暗がりで、目がまん丸だから余計に。
車の下で待っているけれど、どこから来て、食べ終えてどこへ行くのか。
飼い主がいないと思い込んでいるけれど、もしかして飼いねこ?
まだまだ、ふぅちゃんについて知らないことばかり。
そして、夏とは違う厳しさの冬を迎える。
〔つづく〕
12月になり、ねこ食堂の時間帯には、かなり寒さを感じるようになった。
ウェットフードとミルクは暖房の効いた部屋で人肌くらいのあたたかさにするのだけれど、車の下に置く時には冷えてしまう。
ふぅちゃんが待っている時はまだ良いけれど、いない日もあるので、小さなトレイをダンボールで挟み、それを起毛のひざ掛けで包んだ上に器を乗せて置くようにした。
それでも、ふぅちゃんが食べる時には冷たいだろうから、気休め、自己満足でしかない。
車の下で待っているのも寒いだろうと思い、待合所を作った。
ねこは狭いところが好きで安心する...と言われているので、ふぅちゃんの体より少しだけ大きく、中でターンができるサイズのダンボールを買ってきた。
入口と、警戒心が強いから中に入っても外の様子がわかる方がいいかなと思い、側面に小窓を二つ。
保温性を高めるために外側をビニールで覆い、中に毛布を敷いて完成。
なかなか上手くできた。
器用でもないし、センスもないので、
こちらも自己満足。
使ってくれるかな。
〔つづく〕
2022年になった。
コロナ禍もあり、年末年始、旅行の計画はなし。
まぁ、コロナ関係なく、ねこと暮らすようになってから宿泊ありの旅行はしていない。
ねこは「ツンデレ」だと言われるけれど、ウチの子はツンがなくてデレデレ。
毎晩、枕を半分こして一緒に寝る。
...最初は半分こだけれど、最終的に枕も布団も、私のスペースは3分の1くらい。
くっついていると、よく眠れる。
やわらかくて、あたたかくて、いいにおいがして。
肉球やしっぽをさわらせてもらいながら、いつの間にか眠っている。
なので、宿泊ありの旅行はしない。したくない。
それと、ストレスがたまると、カリカリを食べているのを床に頭をつけて見る。
鼻にしわをよせて「こんちくしょ~」という感じで、カリッカリッと食べるのを見ていると、何だかスッ~とする。
きっと、ねこ好きさんにでさえ共感は得られなさそうなストレス解消法。
1月2日
雪が降って、うっすらと積もった。
ふぅちゃんはいなかったので、ごはんを置いて数時間後に器を取りに行くと、車のまわりに小さな足跡があった。
「ふぅちゃんの足取りが追える」
ドラマの刑事のようなセリフが浮かび、足跡をたどった。
正月2日の深夜、我ながら怪しい。
50メートル...までは行かないくらい。
足跡が途切れたところは住宅街だった。
このどこかの家の子なのだろうか。
〔つづく〕
2022年1月19日(水)
この日、私は画期的なことを思いついた。
『ふぅちゃんの動画を録ろう』
画期的でも何でもなく、私以外の人なら、もっとずっと前に思いつくんだろうな。
ふぅちゃんが落ち着いて食べられるように、出来るだけ車の下の奥にごはんを置いていたけれど、ふぅちゃんの顔(頭)がみえる位置に置いても食べてくれるようになっていた。
その夜、携帯を片手に行くと、ふぅちゃんがいた。
「よし!」
ごはんを置いて、ふぅちゃんが食べ始めたのを確認して撮影開始。
警戒して逃げてしまうかと思ったけど、大丈夫。
今まで暗がりでよく見えなかったふぅちゃんの顔が、携帯越しだけど、はっきりみえる。
思わず、ミルクを飲んでいるふぅちゃんの頭に手をのばした。
一瞬、びくっとしたけれど、飲み続けている。
右手の指先で、静かにゆっくり頭をなでた。
「何も言えねぇ」
オリンピック金メダリストの言葉を、ふぅちゃんの頭をなでて実感した。
〔つづく〕
車の下のねこ食堂。
雨や雪は、ある程度しのぐことが出来るけれど、困るのは風が強い日。
カラになった器が飛ばされてしまう。
ふぅちゃんがスタンバイしてくれていれば、食べ終わるのを待って持ち帰る。
ねこ食堂の時間帯の天気予報をチェックして、風速5メートル以上の時は器をトレイに養生テープで固定する。
今までそれが飛ばされたことはないけれど、もっと良い方法があるのかも。
『ふぅちゃんの動画を録る』を思いつくのに何ヶ月もかかる私。
良い方法を思いつく気がしない...
ねこ食堂を始めて7ヶ月
一度も休んでいなかったけれど、ふぅちゃんが来ない日は、何度かあった。
3時間の営業時間内に来ない場合、気温や天気に問題がない時は、朝方まで営業時間をのばすこともあった。
それでも来ない時もある。
来ない時はどうしているのだろう。
ご近所の方から情報入手。
雪の日に、ふぅちゃんの足跡が途切れた住宅街から100メートルくらい先に小さな公園があるのだけれど、そこで不定期に、にゃんずにごはんをあげている人がいるとのこと。
そちらでいただいてるのかな。
それならばいいのだけれど。
そうだとしたら、
ちょっとジェラシー
〔つづく〕
ふぅちゃんとの距離が縮まったように感じていたけれど、私が急に立ち上がったり、いつもと違う動きをすると、逃げる。
頭をなでなでさせてくれるけれど、顔の前から手をのばすと、逃げる。
寂しい気持ちになるけれど、あまり私...人間に慣れない方が良いのだろうとも思う。
世の中、ねこに好意的な人ばかりではない。耳をふさぎたくなるようなニュースもある。
もし、そういう人にあってしまっても、逃げられるように。
3月になり、まだ寒いけれど、もう雪が降る心配はなさそう。
ふぅちゃんに初めて会った時は、毛につやがなく毛並みもぼさぼさだった。
とにかく栄養をとって欲しくて、ミルクは子猫用、カリカリも栄養価が高いものをあげていた。
その甲斐あってか、見た目も触った感じも良くなっていたけれど、相変わらず小さいまま。
推定1歳3ヶ月。
これから大きくなるんだろうか。
この頃になると、ごはんを食べ終わると車の下から出て、伸びをしたり顔を洗ったりリラックスした姿をみせてくれるようになっていた。
ある日、お腹がふくらんでいるような気がした。
性別は確認できていなかった。
ごはんを食べたあとだから。
そう思うには無理があることも感じていた。
検索してみると、満腹とは違い、お腹が横に膨らむことが分かった。
ふぅちゃんのお腹は、日に日に横に膨らんできた。
〔つづく〕
ふぅちゃんの性別は、気になっていた。
こんなに続くと思っていなかった
体に触れることができなかった
飼い主がいるかもしれない
全て言い訳
膨らみがわかるようになるのは1ヶ月目くらいで、期間は2ヶ月らしい。
ふぅちゃんの変化に気付いたのが3月下旬だから、予定日は4月下旬。
ふぅちゃんは、ごはんをたくさん食べるようになった。
頭が小さく、手足も細いふぅちゃんには不自然なお腹の大きさ。
4月になると、車の下で待っていることが少なくなった。
ねこ食堂営業時間内にごはんがなくなっていることもあれば、朝方まで時間を延長してなくなっていることもあった。
それは、これまでも幾度となくあったことで、会えなくても食べてくれていれば安心していたけれど、たくさん食べるようになったふぅちゃんは「ちょい残し」をしないので、ふぅちゃんが食べてくれたのかどうか分からない。
不安がつのる。
5月になり、朝方まで延長してもごはんが残ったままの日が二日続いた。
ねこ食堂を始めて1年。
置いた時のまま、手付かずで残っていることが二日続いたことは、なかった。
〔つづく〕
「今日は、いて」
ごはんを持って行ったけれど、いなかった。
車の下に置いて、小さな声で名前を呼びながら、雪の日に足跡が途切れた住宅街の方へ歩いた。
空き家があり、飼い主がいないのであれば、そこを拠点にしているのではないかと思っていた。
いない。
ご近所の方に聞いた、にゃんずにごはんをあげている人がいるという公園まで行ってみた。
会えなかった。
歩きながら、色々な思いと感情があふれてきた。
自宅に戻りしばらくしてから器を取りに行くと、ごはんがなくなっていた。
また、住宅街の方へ歩いてしまっていた。
もう日付が変わる時間。
客観的にみたら、おかしな行動だと思う。
でも、誰かに見られて不審に思われても、ふぅちゃんに会いたかった。
〔つづく〕
ふぅちゃんに会えない日は続いていたけれど、ごはんは毎日なくなっていた。
でも、朝方まで置いておいて...が多かった。
お腹が大きくなってから、たくさん食べるようになっていたことと、
誰が食べているのか分からないので、もし、ほかの子が先に食べても、ふぅちゃんの分が残るようにと、少し多めに置くようにした。
6月上旬
地域に避難所が開設されるほどの暴風雨の日があった。
ねこ食堂の時間帯も、器をトレイにくっつけても、トレイごと飛ばされるであろう激しさ。
ねこ食堂開始1年、初めて休業にした。
ふぅちゃんに会えたのは、この翌日。
天気は回復していた。
お腹は小さくなっていた。
お母さんになったのは分かったけれど
ふぅちゃんが元気なのは分かったけれど
こねこの様子は分からない。
それが確認できたのは、数週間後。
いつもどおりにごはんを持って行くと、
ふぅちゃんが車の下にいた。
ごはんを置いて、食べている間、頭をなでなでする。
今では、これが普通になっていた。
車のまわりで動くモノがあった。
こねこが 一、二、三びき。
ちっちゃい。
くろ
しろ多めのぶち
きじとら
こねこのお世話をして、こねこが安全な時を見計らって来ていたから、ごはんの時間がまちまちだったのかな。
がんばったね。
〔つづく〕
その日から、こねこ連れで来るようになった。
ふぅちゃんが食べている横から頭をつっこむ。
食べても大丈夫なのか調べてみると、2ヶ月で離乳するらしい。
ふぅちゃんがゆっくり満足するまで食べられないだろうと思い、ごはんを4つ(3人には、こねこ用)用意した。
...けれど、しろ多めぶちが、ふぅちゃんのごはんを食べにくる。
くびの柔らかいところをひょいとつまんで、こねこ用ごはんの前にもどす。
そして、ふぅちゃんには、こねこが届かないよう私が器を持って食べてもらう。
でも、4人で来ていたのも数えられるくらいで、ふぅちゃんだけだったり、こねこが全員で来なかったり。
ある日、一人で来たふぅちゃんが、食べ終えて歩いていくあとを付いて行った。
やはり、住宅街の方へ行く。
ふぅちゃんが鳴きながら歩く。
ふぅちゃんの鳴き声を聞くのは初めて。
すると、ある家からこねこが出てきた。
空き家ではない。
明かりが点いている。
別の日、再びふぅちゃんのあとを付いて行くと、この前とは違う家の方へ行く。
すると、少し大きくなったこねこたちがいた。
深夜の住宅街。
人の気配も車通りもなく、じゃれあったり走ったり。
ふぅちゃんは、そばで見守っている感じ。
日中の様子は分からないけれど
無責任だけれど
微笑ましく幸せな光景だった。
〔つづく〕
7月20日、深夜1時近く。
こねこの鳴き声が聞こえた。
窓から外を覗いてみたけれど、こねこの姿は確認出来ず。
間もなくして、また聞こえた。
かなり激しく鳴いている。
外を見ると、しろ多めぶちだった。
ふぅちゃんも、ほかのこねこもいないようだったので、様子を見に外に出た。
先ほどまでいた場所にぶちの姿はなく、近くを探してみる。いない。
家に戻る途中、ふぅちゃんがいた。
ぶちが鳴いていた場所から30歩くらいのところ。
のんびり、毛づくろいをしている。
「ふぅちゃん、赤ちゃん鳴いてたよ」
間違いなく、ふぅちゃんにも聞こえていたはずだけれど...一応言っておく。
この日を境に、ごはんの時間、ぶちが一人で待っているようになった。
待っているというか、私が行くと、どこかから飛び出して来る。
とても人なつっこく、やんちゃで、ごはんには目もくれずじゃれてくる。
しばらく相手をするけれど、遊びざかりで終わりが見えない。
家に戻ろうとする私の足にじゃれて、歩けない。
ふぅちゃんがいる時もあるのだけれど、ぶちを気にする様子はなく、ごはんを食べると一人でどこかへ行ってしまう。
「ふぅちゃん、行かないでよぉ」
ぶちに私のにおいが付いて、育児放棄になってしまった?
〔つづく〕
調べてみると、
『生後1ヶ月半くらいになると、仔猫がきちんと生きていけるように、母猫が様々なことを学習させ始めます。』
『オスの仔猫は母娘のコミュニティーから遠く離れるように、強制的に親離れさせられます。』
ふぅちゃんの子たちは、生後1ヶ月半...2ヶ月半は経っている。
ぶちを気にする様子はないけれど、くろと一緒に来た時は、くろが食べ終わるまで待っている。
ぶちが男の子で、くろが女の子なんだろうか。
こんなにちっちゃいのに、親離れの訓練...
その後は、ふぅちゃんがこねこと来ることはなく、相変わらずぶちがいて「遊んで攻撃」にあう。
この感じならば、抱っこして家に連れて行くことは出来そうだけれど。
簡単には決められないので、ぶちを撒く。
家とは逆の方向にダッシュして、ぶちがついてきたところをダッシュして戻る作戦。
完敗。
私よりはるかに足が速く、何度か繰り返すけれど、この方法に私の勝算はないようだ。
でも、こうしているうちに満足するのか、賢いふぅちゃんのDNAで何かを察するのか...ついてこなくなる。
ごめんね
夜ダッシュも、長くは続かなかった。
8月に入ると、ふぅちゃんだけが待っている元の日々に戻った。
〔つづく〕
「デレデレ」なウチの子
出会いは、ホームセンター内のショップ。
ねこと暮らす気はなかった。
周囲に
「私が猫を飼うと言ったら、止めてね」
と言ってあった。
ちょっと見るだけ。
ガラスに囲まれたケージに、まわりの子より一回り大きな子がいた。
生後4ヶ月。
ケージには「70%OFF」のPOPが貼ってあった。
見た目に特徴がある種類なのだけれど、この子にはその特徴が顕著に現れておらず(個体差があるらしい)、色柄も相まって日本猫に見える。
70%OFFの原因なんだろう。
本人(猫)は、当然そんなことは全く気にする様子はなく、大きめの体には少し狭いケージの中でビローンと伸びて寝ている。
私の横で見ていた中年の男性が、
「大物だな」と笑っていた。
店内には、20代後半くらいの男性スタッフが一人。
「この猫、いつまでいますか?」
「ずっといますよ。」
突然の意味不明な質問に、怪訝な感じで、愛想が良いとは言えない回答だった。
〔つづく〕
家に帰っても、ビローン猫が頭から離れなかった。
翌日の午前中、またショップへ行った。
また、ビローン。
一旦帰宅。
夕方に、また行った。
ごはんの準備中で、ワンワン、ニャーニャー賑やかだった。
その中で一番目立っていたのが、ビローン猫。狭いケージの中を、側面も使って走り回っている。
『お、おおっ~』
昨日の男性スタッフがいた。
「この子、売れなかったらどうなるんですか?」
「スタッフの誰かが飼いますよ。」
私のことを覚えていたかは分からないけれど、昨日と同じトーンだった。
「この子、飼います。」
男性スタッフが言葉を発するまで間があった。
「この中で、この子が一番猫っぽいです。」
すぐに飼い主が決まる子が多い中、長くお世話をしていて、より情が移っていたのか、気が合っていたのか。
ビローン猫は、男性スタッフのお気に入りだったらしい。
なので、突然やって来て意味不明な質問をする私を警戒していたのかもしれない。
変なヤツには渡したくないと。
売れなかった場合に飼うスタッフは、この方だったのかもしれない。
それを聞いたら迷ってしまうと思い、聞かず...名付け親になってもらうことにした。
私の名前候補は、
にゃんた
にゃんきち
ちくわ
ウチの子に聞いたら、お兄さんにお願いして良かったと言われそうな、素敵な名前をもらった。
〔つづく〕
ビローン猫は、すぐにウチの子にはならなかった。
お腹に虫がいて投薬治療中で、あと1回獣医さんに診てもらう必要があるとのこと。
ウチに来たのは、10日後。
10日あったおかげで、色々余裕をもって迎えられたように思う。
初日から手のかからない子だった。
ごはんもトイレも問題なく、緊張している様子はなかったので安心していたけれど、その日の夜は、扉を開けていたクローゼットの中で寝ていた。
翌日からは、ソファーや用意したベッドで寝ていたので、やはり不安で緊張していたんだろうと思う。
そりゃそうだよね。
数日一緒に過ごすうちに、あることに気付く。
ごはんを食べた後に、左目からだけ涙が出る。毎回、拭く。
しばらく様子をみたけれど、必ず涙が出るので病院へ連れて行った。
原因の特定は出来ないけれど、トイレの砂粒などが目に入り傷がついて、ごはんを食べることで涙腺が刺激されるのではないかとのこと。
治ることはないらしい。
特に治療や投薬はなく、炎症や涙やけを防ぐために、毎回拭いてあげるだけ。
お腹に虫がいたり、涙が出たり。
これからも、獣医さんにお世話になることが多いのかな...と思ったけれど、あれから一度も病気やケガで病院に行ったことはない。
一度、近況報告にショップを訪れたけれど、その後、テナントが変わっていて、お兄さんもいなくなっていた。
あの子は元気です。
〔つづく〕
2022年8月
また、暑い日が続く。
二回目の夏とあって、昨年よりは心配も少ないけれど、それでもごはんがなくなっているのを確認してほっとする。
この頃、ごはんを食べ終えたふぅちゃんのあとをついて行くのが習慣になっていた。
行動範囲を知りたかったのと、ほぼ毎日住宅街へ歩いて行くのだけれど、その途中に道路があり、一度、夜だからなのかスピードを落とさず走る車を見たから...お見送り。
うしろをゆっくりついて行く。
ふぅちゃんは、時々立ち止まってこちらを振り返る。
「ついてきてる?」なのか
「まだついてくるの?」なのか
ほぼ同じ通りを行くけれど、入って行く家は同じではない。
向かって行く方向は同じなので、そこを通り道にして、最終的に同じ場所へ行っているのかもしれない。
それ以上はついて行けないので、
「また明日ね」
と、ふぅちゃんの後ろ姿に声をかける。
住宅街の中に、敷地に大きな容器があり、そこに水を張っている家があった。
水道の蛇口につながったホースが入っており、使用されている様子だけれど、中に生き物はいないようだ。
そこで、ふぅちゃんが慣れた様子で飲んでいたので、水の心配はなさそうだった。
〔つづく〕
また、ふぅちゃんとの関係に変化が起きる。
ごはんを持って行くと、私に向かって鳴くようになった。
「にゃー」
可愛い声。
この声を聞いて、初めてウチの子の鳴き声を聞いた時のことを思い出した。
へっ?
と、思ったあとに笑った。
ハスキーというかダミ声というか。
ライオンやトラの赤ちゃんがビャービャー(聞こえ方に個人差あり)鳴くのをテレビで観たことがあるので、小さいうちだけかと思ったけれど、大人になった今も変わらず。
でも、この声「も」可愛い。
『ノラ猫は、威嚇や発情以外では発声しないのが一般的です。もしその鳴き声が、ケンカの時の声や威嚇のシャーでもなければ、友好的と考えていいと思います』
やった!
『ノラ猫が鳴く多くの理由は、餌の要求と思われます』
なるほど...
〔つづく〕
二度目の夏も無事に過ぎ、秋になると、さらにふぅちゃんとの距離が縮まる。
私が駐車場に着く前に、私の気配を察知して車の下から出てお出迎えしてくれるようになった。
そして、頭なでなでだけではなく、ごはんを食べている間は、体もなでさせてくれるようになった。
たまに体に「ひっつき虫」がくっついている。
(虫...と付くけれど、人の洋服や動物の体にくっつくことで、遠くまで種を運ぶ植物の通称 )
「ごめんね、ちょっと引っぱるよ」
嫌がることもなく取らせてくれる。
取りながら、あっ、と思った。
昨年、雨雪、寒さをしのげたら...と、車のそばにダンボールの待合所を作った。
中に敷いた毛布がずれていたり、土や小石が入っていることがあったので、誰かが入っているんだろうなと思っていた。
そして、ひっつき虫も毛布にくっついていた。
一年近く経って、謎解きの答えが見つかったような感じ。
ふぅちゃんが使ってくれたのかもしれない。
いや、もう私の中では、ふぅちゃんが使ったことになっている。
〔つづく〕
ほぼ、ねこ食堂の営業時間内に来るふぅちゃん。
ウチの子も、私の休日は午後2時頃になるとおやつの催促が始まる。
だから、ねこにも、ある程度の時間の感覚があるのだろうと思う。
当初は21時30分の開店にしていたけれど、この時間にふぅちゃんがいることが少なかったことと、夏の間は、ごはんを置いておく時間をなるべく短くしようと思い、1時間遅い22時30分にしていた。
ある日、20時30分頃に車に置き忘れた荷物を取りに行った。
ふぅちゃんがいた。
毎日この時間から待ってた?
通常は、夕方に帰宅。
この時間にも帰宅したことはあるけれど、ふぅちゃんの姿を見かけたことはなかった。
車の音で逃げていたのだろうか。
もしかすると...
日が暮れて(暗くなって)から過ぎた時間を体感して来ているのではないかと思った。
夏は19時頃に日没。
それから3時間半後、22時30分がごはん。
冬は17時頃に日没。
なので、3時間半後の20時30分にスタンバイ。
だとすれば、1ヶ月近く2時間も待っていた?
翌日から、20時30分に行く。
一週間行った結果...
その時間にいることはなかった。
あの日は、たまたまだったみたいだ。
仮説がはずれて良かった。
〔つづく〕
ふぅちゃんが待ってくれている時は、車の下にいても、私が近付くと出て来てお出迎えしてくれるのが普通になっていた。
ある日、お出迎えがなかったので、今日はいないんだなと思って車の下にごはんを置くと、奥から「ニャー」と、ふぅちゃんが出てきた。
そんな日もあるよね...と思ったけれど、この日、いつもと違うところが私にあった。
靴を替えていた。
約1年半、毎日同じ靴だったけれど「ふぅちゃん用」に買った靴を履いていた。
ごはんを置きに行く、戻る。
器を取りに行く、戻る。
ふぅちゃんがいて、完食して、物足りなさそうな時は、おやつを取りに戻る。
...と、行ったり来たりするし、ふぅちゃんのあとをついて深夜の住宅街にお邪魔することもあるので、足音が響きづらく脱ぎ履きしやすい靴を買った。
足音がいつもと違うからお出迎えがなく、私と確認するまで鳴かなかったのではないかと思った。
調べてみる。
『猫は、犬の約2倍、人間の約5倍の広範囲の音を聞き取ることができると言われており、音の方向性も外しません。
なんと、20m先のネズミの足音も聞くことができるそうですよ』
『猫は、飼い主のことを視覚では認識しづらいものの、聴覚や嗅覚では認識できると言われています』
この仮説はあたっていそう。かな。
〔つづく〕
2023年になり、1月は2日と3日に会った後、1日も会えなかった。
ふぅちゃんが待っていてくれるようになってから、こんなに長く会えないのは初めてだった。
ごはんは食べていたけれど、朝方まで時間を延長して...が、多かった。
昨年秋頃から、あまりミルクを飲まなくなっていた。
こねこ用のままだったので、ふぅちゃんも推定2歳、成猫用に変えてみた。
こちらは一口も飲んでくれなかった。
なので、こねこ用に戻したけれど、毎日ほとんど残っていた。
冬とは言え、ウェットフードの水分では足りないだろうし、カリカリを食べたら水分が必要だろうし。
水を置いておいても飲んでくれたことはなかったので、その後もミルクは置いていた。
1月24日(火)
この冬一番の寒気が流れ込み、雪が降り、うっすら積もった。
器を取りに行くと、この日もミルクが残っているのが見えた。
持ち上げると、いつもと感触が違う。
凍っていた。
表面がシャリシャリして、ちょっと美味しそうだけれど...
冬の間、ミルクはお休みすることにした。
〔つづく〕
2月に入っても、ふぅちゃんと会えない日は続いていた。
寒い中、待っていてもらうのは心苦しいので、ごはんは冷たくなってしまうけれど、ふぅちゃんのタイミングで来てもらえれば良かった。
2月10日(金)
お昼すぎから雪が降り始め、夜には15cmくらい積もった。
ふぅちゃんは来られないかなと思ったけれど、駐車場周辺と車の下を雪かきして、少しでも保温になれば...と、ダンボールの上に起毛のひざ掛けで包んだトレイを置いた。
数時間後に取りに行くと、ごはんがなくなっていた。
周辺の雪が積もっているところに、ふぅちゃんの足跡...と言うか足穴がある。
よく来たね。
その翌日は日中晴れたので、ねこ食堂の時間には雪は解けていた。
そして、ふぅちゃんがいた。
38日ぶり。
長かった。
会いたかったよ。
〔つづく〕
3月下旬
コロナ禍が落ち着き始めていたこともあり、お世話になった方の送別会に参加し、帰宅が0時を過ぎてしまった。
ねこ食堂の開店が、こんなに遅くなったことはなかった。
駐車場には、いない。
車の音で逃げてしまったかもしれないので、小声で名前を呼びながら周辺を探してみるけれど、いない。
急いで家に戻り、ごはんを用意して車の下に置いた。
朝方、器を取りに行くとなくなっていた。ほっとした。
冷静になって考えれば、ねこ食堂の時間を過ぎてから来ることもあるのだから、一旦来てごはんがなくても、また来てくれるか...
遅くなってしまった分、置いておいた時間も短くなって、
「今日は、いつもより冷たくないな」
と、思ってくれたかな。
なんて、おなかがすいて来たのに、ごはんがなかったら、がっかりするよね。
ごめんね。
〔つづく〕
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