注目の話題
赤ちゃんの名前について
昨日の続き。全員和食にしてほしいと言う義母。
昭和生まれ、集まれー!死語、何が浮かぶ?

小説書きマシタ💖②

レス27 HIT数 1363 あ+ あ-

ハルヒ( 10代 ♀ DrUUi )
07/04/27 01:11(更新日時)

小説②

《私だけが、ここにいる。》


~⑤~

いや、彼からのだけではなかった。
他にも一通、届いていた。
でも私の目には、
送信者のところに“ヒナタ”
の名があるメールしか映っていなかった。
マウスをクリックするのも
もどかしく、開いてみる。

『返事に間があいてしまって
ごめん。』

その言葉で始まっている。

『ちょっと忙しくしていたのです。
それで、いろいろ考えてみたのですが。
一度、会ってみませんか?』

文字を追っていた私の目は、
そこでピタリと止まった。

―会う?

『きみが迷惑でなかったら、
会って話をしたいです。
返事、待ってます。』

しばらくの間、ぼんやりと、
私はパソコンの画面を見つめていた。
それからもう一度、
ヒナタのメールを読み返した。
―会う?
その言葉に、体が熱くなり、
心臓はドキドキ脈打ち始める。
どうしよう?会いたい。
会ってみたい。
でも、大丈夫なのかな?
ネット上で知り合っただけの人と、いくらメールでいろいろ話し合っているとはいえ、
不用意に会ってしまっていいのかな。
考えがまとまらない。
気持ちを静めるため、
もう一通、届いていたメールを開いてみることにした。

タグ

No.449525 07/04/22 18:30(スレ作成日時)

新しいレスの受付は終了しました

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.1 07/04/22 18:59
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

そして改めて送信者の名前を見て、
私は「あっ」と声を上げてしまった。
そこには“ケイスケ”と記されていたのだ。
そのメールを開くべきか。
それとも開かずに削除したほうがいいのか。
少しだけ迷ったけれど、
私は結局、それを開いた。
なにが書かれているのか、
興味のほうが勝ったのだ。
えいっとクリックしてみる。

『母親とのことを書いた、
あの日記は引っ込めたほうがいいと思う。
ネットの中は、世界中の人が見ることの出来る公共の場だ。
愚痴なんていう主観的なだけのものは、
さっさと引っ込めろ。
おまえの小説に興味を持ちはしても、
おまえの愚痴なんて誰も聞きたくないんだよ。
小説家になりたいというのなら、
特に気をつけなくちゃいけないことでもある。
公共の目、大勢の目を意識しろ。
それが出来ないというのなら、
あんなサイトなんて閉めてしまえ。』

私は呆然と、それらの文字を追った。
書いてあることの意味は、
一読しただけで理解できた。
確かに正論だ。
間違っていない。
―でも。
どうして“ケイスケ”から
これを言われなければならないのか、わからない。
頭の中が混乱している。

No.2 07/04/22 19:11
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

“ケイスケ”の言うことを、
認めなければならないと分かっているけど、
拒否したい。
私は、ヒナタのメールに戻った。
同じことをヒナタから言われたのだったら、
きっと素直に聞き入れられるだろうに。
“ケイスケ”の書き込みからは、
いつも悪意しか読み取れなかったから。
下書きなしにヒナタの返信を書き始めた。
“ケイスケ”への言い訳を
ここでしても仕方ないとは
わかっていつつ、日記に書いた愚痴を悔いていると私は書きつらねた。
そして最後に、

『こんな私ですが、
会ってもらえるのなら嬉しいです。
ぜひ、会ってみたいです。』

と結ぶ。迷う隙を自分に与えず、
さっさと送信してしまった。
結果として、“ケイスケ”に
煽られたようなものだったのかもしれない。
ちらりとそう思いはしたが、
後悔はしないようにしようと決めた。
ヒナタに送ったメールを、
もう一度、読み返してみた。
失礼なことは書いていない、
感情的にもなっていない、
と確認し、ひと息つく。

No.3 07/04/22 19:27
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

それから、日記の画面を出してみた。
記事の削除は、パスワードを
入れるだけで簡単に出来る仕組みになっている。
読み返そうかと思ったけれど、
気が重くて
―それはつまり、
あとから思えば
どうにもこうにも恥ずかしくてたまらないという気持ちで。
さっさとパスワードを打ち込み、消してしまった。
そして“ケイスケ”にも、
一言だけ返信する。

『消しましたから。』

相手が“ケイスケ”なら、
ちゃんとした返事をしなくても別に気は咎めないから、
読み返しせず送信する。
といっても、こんな短い一文だから、読み返すも何もないのだけれど。

No.4 07/04/22 19:45
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

ヒナタとは、次の土曜日に会うことになった。
「うわっ、嘘、ほんと!?」
ニーナはすっかり興奮し、
当日、着る服だとか行く店だとか勝手に決めては盛り上がる。
「なに?なんの話?」
ニーナのあまりの興奮ぶりに、
他の子たちが集まってくると、
彼女は、
「莉子の“はじめてのデート”
なの!」
勝手に宣伝してくれる。
でも、ニーナは詳しいことを
話さないし、
みんなも、私をネタに
楽しみはするけれども突っ込んで訊ねてこない。
「駅裏の通りをちょっと入ったところに出来たカフェ、
おすすめなんだけど」
「あれはだめだよ、すごく静かでいいところだから、
逆に会話がなくなっちゃうって」
「じゃあどうすればいいの?」
みんな、すっかり盛り上がっていたけれど、
そのときにはもう実は、
会う場所は決まっていた。

No.5 07/04/22 23:15
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

駅前の、ドーナツ屋。
店を知らないからそちらで
指定して、と言われ、
変に雰囲気のあるところを
選ぶのも妙だろうと思い、
私が決めたのだ。
お代わりに自由のコーヒーを頼み、約束の時間より
十五分早く、私は店内に落ち着いた。
お互いを認識するために、
おなじ本を手にしていることにした。
カマをかけるつもりではないけれど、
結城日向の、発売されたばかりのエッセイ集。
ヒナタも持っているというので、問題なくそれに決まった。
厚みのある、真っ白なカップに、 なみなみとコーヒーを注いでもらった。
それを持ち上げ、
くちびるに運びつつ私は、
どうにも落ち着かず、ため息をつく。
自動ドアが開き、人が入ってくるたびに、
ついそちらへ目をやった。
でも、ほとんどが
女の子のグループで、
男の子がひとりでやってくることはない。
―私、騙されていないかな?
ふと、そんな不安が胸をよぎった。

No.6 07/04/23 00:20
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

ここでヒナタを待ってる姿を
誰かが面白がってみていたりとかしないだろうか?
いや、まだ約束の時間になっていないのだもの。
それを、ちゃんと待とう。
それでも誰も来なかったなら―。
寂しく決意を固めたが、
ちょうどそのとき、
男の子がひとりで、
急ぎ足で入ってきた。
オーダーの前にまず、
ぐるりと店内を見回している。
彼の手に、一冊の本。
濃紺の表紙に大きく目立つ銀色で、
タイトルが書かれている。
私もおなじものをテーブルに載せている。
「あ」
彼の口が動き、私を認めた。
私は、それに応えるように、
ぎこちなく微笑んだ。

No.7 07/04/23 00:41
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

~⑥~


「うん。そうなんだ」
と、彼は言う。
「これ、僕の本」
テレた目が好ましい。
ヒナタは、意外に素朴な男の子だった。
教室の中でもあまり目立たない人だろう。
メガネをかけているのだけれど、それが、理知的というより朴訥という印象を与えてくるタイプだ。
エッセイから受けるイメージは、
どちらかというと冷静に、
世の中を斜に構えて見ているような雰囲気だったのに。
エッセイに書かれていた
生物教師とのエピソードも、
自分をうまくピエロ役に持っていきながらも
生物教師の対応のおとなげなさを暗に皮肉っているように思われた。
“結城日向”は、彼が作り出したモノ―
―もうひとりの自分、なのかしら?
なんにしても、私がメールで
やりとりしていた相手は、
間違いなく今、ここにいる彼だ。
雰囲気が、ぴったりと重なる。
何かを言うごとに、一度、
そっと目を伏せる。
それから私をやさしく見て、
言葉を続ける。
「メールで、僕が結城日向ですって言ってもよかったんだけど、
そういう嘘はいくらでもつけるから信用されにくいだろうと思って。
まあ、実際に会っても、
僕は写真を公表していないから
信じてもらうのは難しいんだけど」

No.8 07/04/23 00:53
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

「でも、メールでのおしゃべりの内容と、
新聞のエッセイの内容が一緒だったから」
「それで、僕だってわかったの?」
「うん」
「なんか、ちょっと嬉しいな」
「え、どうして?」
「すごく―…気にかけてもらってるって感じがして」
ヒナタはまた、目を伏せた。
そしてすぐ私を見て、笑った。
そのあと私たちは、
ぽつりぽつりと話を続ける。
途中、コーヒーをお代わりしたり
ドーナツを買いに立ったりしつつ、
なんとなく話ははずんでゆく。
やがて彼から、ためらう様子がありつつも、
削除してしまったあの日記の、
母との話が持ち出された。
「あれは結局、どうなったの?」
母とは、冷戦状態のまま和解はなく、
けれどもなんとなくふつうの
状態に戻った、
というところだろうか。
「お母さんは、きみがものを
書くことに反対なの?」
「反対ってわけじゃないと思うけど、ものすごく冷たい」
「ふうん。―なんでだろ?」
唸る彼の声は、かすかな違和感を覚えた。

No.9 07/04/23 01:13
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

それまでの彼の様子とは
違っている気がしたのだ。
素朴な誠実な彼の、
声のほんの隅っこに、
妙な具合に楽しげな響きが混じっていたような―?
私は、思わず彼の様子をうかがう。
彼は確かに、にこにこしていた。
私と母とのことを、
面白がっているようだった。
でも、悪意はない感じ…に見える。
「もしかして、子どもっぽい
ケンカをする親子だなーって
笑ってる?」
「うん」
彼は、にこにこしたまま
簡単に頷いてくれた。
「ひどーい!」
「ごめん、ごめん。
ケンカの内容がどうのっていうより、
僕には、家の中に女の人が
ふたりいて親子で仲良く
ケンカしたりしてる姿っていうのが なんだか
憧れなものだから」
「―え?」
実はね、とヒナタは話し始める。
「ウチに母親はいるけれど
それは親父の奥さんで、
僕とは血がつながっていないんだ。
兄弟も義弟がひとりいるだけだし、
なんだかね、あまり、
仲のいい家族ではないものだから」
「え」
「あ、ごめん。仲が悪いっていうのとも違うんだ。
なんていうのかな、
ケンカするなんて 有り得ない関係…っていうのか」
「気をつかい合ってるの?」
「うん、そうだね」
ここまで話が進んだあと、
沈黙が続いた。

No.10 07/04/23 22:51
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

何を言ったらいいのかな、
と迷ってしまった。
気の利いたことを言えない自分がもどかしい。
ウチには父親がいなくて、
世の中の“多くの家庭”とは
ちょっと違ったところがあるのかもしれないけれど、
代わりに大事にしてくれる人たちがたくさんいるし、
母とはなんだかんだと仲いいし、悲しいこととか
切ないこととか辛いこととかは、
特別にはなく過ごしている。
そういう意味では、
どこにでもある家庭で育ったと言えると思う。
その中で、十六歳の今まで、
それなりにいろんなことを
考えたり感じたりしながら
生きてきたわけで。
だから、不用意なことを
口にしてしまったがために
相手を傷つけてしまうかもしれない恐怖は、
ちゃんと待ち合わせている。
「どうしたの?」
楽しげに、ヒナタは私の顔を
のぞき込んだ。
「うん、あの……」
「困ってる?」
「えーと」
「気にしなくていいよ。
ほんと、別に不幸な家庭とかいうわけじゃないんだから。
たぶん、みんなが気をつかい合っているのが
裏目に出ているだけで―
だから、本当はとても
幸せな家族なのかもしれない」

No.11 07/04/24 01:12
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

ヒナタはまた、そっと目を伏せた。
でも、今度のそれは、
テレているせいではなくて。
自分の中にある何か
とても寂しげで 切なげなものを噛みしめているかのような仕草だった。
私は、黙ったままカップを
取り上げ、コーヒーを飲んだ。しばらくまた沈黙が続いたけれど、
それを重いとは思わなかった。


「じぁあ、また」
ヒナタは、優しげな目を伏せがちにしたまま、
さよならを言った。
次の約束を具体的にしたわけではなかったけれど、
「またメールするね」
その言葉を信じられる。


連絡は、いつもメールで済ませた。
毎日、短いメールが届く。
だから、言葉を交わさない日はない。
電話番号を教えてほしかったけど、彼はケータイを持っていないというし、
自宅の番号を聞いたとしても
電話する勇気は持てなさそうだ。
ウチの番号を教えても、
うっかり母がいるときに
かかってきたりとかしたら、
今の状況からして特に、気まずい。
いや、気まずいというよりも、きっぱりと、母に知られたくないと言い切ることが出来る。
ママの知らないところで、
私は大人になるんだから。
だから今はまだ連絡は、
メールを介してだけでいい。
それだけで充分。

No.12 07/04/24 01:28
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

と満足したまま、毎日のメールそして一週間に一度くらい会うことで、
私とヒナタは少しずつ近づいていった。
「すごい」
こそこそと、ニーナが笑う。
昼休み、私たちは、
中庭のベンチでふたりだけで、お弁当箱に詰めて持ってきたドーナツを食べている。
教室で食べてもよかったのだけど、
なにしろ“すごい”の
内容が内容だったので……。
「莉子、有名人の彼女じゃん」
「別に、そういうんじゃないよ」
「それだけ頻繁に会ってたら、彼女って言い切ってもいいよ」
「ちゃんとそういう話があったわけじゃないし」
「言葉なんていらないんだってば。
あ、莉子は言葉がほしい派?」
「そりゃね、やっぱり」
「コドモね。いらないのよ、
言葉なんて。
こう、目と目で通じるものがあるっていうの?
あとは、触れ合えばそれで
わかっちゃうっていうの?」
「触れ合うってなによ」
「触れ合うって言ったら、
触れ合うってことよ」
「ワケわかんない」
私たちは、お弁当箱の中に残った、ドーナツについていた
ピンク色のチョコレートの
かけらまで指で拾い上げながら
こそこそと笑い合った。
―彼女。結城日向の、彼女。
ちょっと、そういう気分になっていたと思う。

No.13 07/04/25 01:46
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

「映画、観に行こうか」
ヒナタが言う。
このごろでは、ふたりでいることにも慣れ、
前に友達に教えてもらったようなカフェにいても
気詰まりではなくなっていた。
「仕事の関係でもらった招待券があるんだ」
彼が口にしたタイトルは、
大ヒット間違いなしの娯楽大作からは少し外れた感じの、
監督の名で売るタイプの小品だった。
内容は、少女の初恋を、
周囲の大人たちの事情とからめて叙情的に描いたもの。
「それ、観たいと思ってたの!」
私は、ヒナタが差し出した招待券をのぞき込むため、
身を乗り出した。
「よかった。僕がひとりで観に行くのは
なんだか気恥ずかしいけど、
感想を言わなきゃいけなくて
困ってて」
私を誘ってくれた理由は
そんなものだったけど、
たぶんテレ隠しだろうと思った。
「何時の回がいいかな」
「先にお昼を食べたいよね」
計画を立てることさえ、
楽しくてたまらない。
好き、なんだと思う。
私は、たぶん、ヒナタが好きだ。
こんなふうにゆっくり、
ひそやかに、始まる恋と出会えたなんて。
本当に、すごくすごく幸せなこと。

No.14 07/04/25 02:01
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

「またね」
「うん」
「またメールする」
そんな言葉で、私たちは別れる。
その場所は、大概が駅。
私は電車に乗るため、
ヒナタはバスに乗るために
さよならをするのだけれど、
三回のうちの二回くらい、
彼は、寄りたいところがあるからと 街の中に紛れてゆく。
その日も、そうだった。
彼は、資料にする本を探すために ひとりで書店に行きたいと言い、
私から離れた。
それでもやっぱり、
なんとなく寂しい。
余韻がほしい。
だから私は、まるで儀式のように、
ヒナタの背中を見るために
バスターミナルの真ん中で
振り返る。
彼の背中は、まだあった。
しかし、ひとりではなかった。
知り合いと会ったようだ。
同じくらいの歳の、男の子。
ヒナタは、彼と、立ち話をしている。
「あれ?」
私は、首をかしげた。
ヒナタと一緒にいるあの人。
どこかで、見たことがあるような。
目を凝らせてみた。
そうしながら記憶を辿った。
絶対、見たことがある。
知っている、ではなくて、
見たことがある。
はっきり言い切ることが出来る。
でも、どこで見た、
誰だっただろう?
「あ」
やがて私は呟いた。

No.15 07/04/25 02:10
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

あの人だ。
前に、ファーストフード店で
目が合った、あの人。
きれいな瞳の中に、
きらきら輝く宇宙を持った人。
間違いない。あの人だ。
やはり印象的な人だった。
ふたりを見ているはずが、
ふと気付けばヒナタではなく
彼の横顔に惹きつけられている。
あれは誰なんだろう?
私は立ち止まったまま目を凝らし、
彼を見つめ続けていた。
やがてふたりは、
話を続けたまま歩き出した。
こちらには向かわず、
駅から遠ざかってゆく。


その日から、ヒナタのメールはパタリと途絶えた。

No.16 07/04/25 18:13
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

~⑦~

「遊ばれたのかも、私」
「え、なに?」
「すごいじゃん。私も遊ばれたいー」
「遊ばれて捨てられて私って
可哀相っていうのも、ちょっと憧れだよね」
「憧れないよ」
「十年くらい経ったら、切ないけどちょっと自慢できる私の思い出、とかになっていそうだよね」
「そうそう」
私の机の上にポテトチップスの袋が広げられたけれど、
ほんの二分でほとんどが食べ尽くされた。
通りすがりに取り上げて食べて、そのままどこかへ行っちゃった子もいたくらいだし。
こんな昼休みも、私は好き。
一番好きなのは、
ニーナとふたりだけでこっそり過ごす時間。
でも、大勢の中で、
浅いけれども楽しくてあたたかい時間を過ごすのも大好き。
やがて、昼休み終了のチャイムが鳴る。
みんなが席に戻っていくのを見送りながら、
ニーナが近付いてきて、
「あとで話、聞くからね」
と言ってくれた。
「ホントに遊ばれたんなら、
十年後に“ちょっと自慢できる私の思い出”になんて
なってるわけないよ」
彼女はひどく真剣な目をしていた。
「うん。ありがと」
本当に、深く話したいことを
聞いてくれる友だちもいるし、ふだん、楽しく騒ぐ仲間もいる。
私は、とても幸せだと思う。

No.17 07/04/25 18:23
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

午後四時四十分。
私はひとり、北校舎二階の、
階段を上りつめたところにある鏡を見つめている。
あと、四分と四十四秒。
それだけの時間が経ったとき、
鏡の向こうを見つめ続けていられたなら?
誰の姿が見えるだろうか?
私はたぶん、そこに
ヒナタが見えるのを期待している。
こんなの、女子校にありがちなお遊びだとわかっているのに。
それでもつい、願ってしまう。


好きなひとの姿をここに見て、安心したい―。


今度こそ、ヒナタからのメールが入ればいいのだけれど。

No.18 07/04/25 18:39
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

パソコンを立ち上げてみると、私の期待通り、
新しいメールが一通、届いていた。
でも、ヒナタからのものではない。
『七日間だけの恋人』
という、怪しげなタイトルが
つけられていた。
これは、さっさと削除してしまったほうが いいのかもしれない。
右手はもうマウスに添えられていたが、
送信者の名前を見て、
私はすぐにでも削除ボタンを
クリックしようとしていた
人さし指の動きを止める。


ケイスケ


あの、彼からのメールらしい。
だとしたら余計に削除したい
誘惑に囚われたが、
とりあえず読んでみることにした。


『七日間だけ、僕と付き合ってほしい。
そうしたら、ヒナタの連絡先を教えてあげる。』


たったそれだけの文面。
読んで、私は固まった。
これは一体なんだろう?
なんでいきなり“付き合う”?
それに、どうしてヒナタの名前を出してくるの?
気味が悪い。


『あなたがなにを言いたいのか、意味がまったくわかりません。』


私もそれだけを書いて、送信した。
それから、ヒナタへのメールを書く。
彼からの連絡が途絶えたのち、
これが四通目のメールだ。
約束していた映画の日も、
もう過ぎてしまった。

No.19 07/04/25 18:55
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

言いたいことや訊きたいことは
今までに すべて書きつくしてしまったから、
今さら書くこともないのだけれど、
書かずにはいられない。
だから、毎日の出来事の中から楽しげなことを選んで綴ってみる。
それに没頭し始めたとき、
新しいメールが届いた。
また、ケイスケだ。


『ヒナタと連絡が取れなくなっているんだろう?
知ってるよ。
困ってるんでしょ?
だから教えてあげるって言ってるんだよ。』


私とヒナタが会ってることを知っている―?
背筋が、ざわっと粟立った。
なんなの、この人。
本当に気味が悪い。
私はまた、手早くキーボードを打った。


『あなたは誰なの?』


すぐに返事があった。


『二度、会ってるよ。
会ってるって言っていいのかな。
一度目は、ハンバーガー屋で。
二度目は、きみとヒナタの
デートのあと、
ヒナタと一緒にいるのを、
きみ、バスターミナルから見てただろ?』


私は、パソコンの前で
「あっ」と声を上げた。
あの人だ。
瞳の中に宇宙を持った―。

No.20 07/04/25 19:17
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

『どうして、あなたが
“ケイスケ”なの?』


『どうして、って、変な質問。
俺は俺。俺であることに理由はない。
それより、最初のメールの返事は?』


『お断りします。』


『ヒナタの連絡先、知りたくないの?』


『知りたいけど、気味が悪い。』


『一度、会うだけでも会ってみれば?
あのときヒナタといたのが
俺だって確認できれば、
少しは怪しくなくなるだろ?』


気持ちが揺れた。
確かにあのときの人が本当に
“ケイスケ”なら、ヒナタとは親しげに見えたから怪しくはないかもしれない。
ヒナタへのメールの続きを書くのも忘れ、私は考え込んでしまった。
どうしよう?
会うだけ会ってみようか。
でも、怖い。
すると、私の揺れを見透かしているかのように、
またケイスケからのメールが届く。


『どうするの?』


続けてもう一通。


『怖いの?』


くっ、と、くちびるを噛んだ。
煽られてる。
わかってるけど、
やっぱりこれは悔しい。
つい、怖くなんてないわよと
強がりたくなる。
どうしよう。
頭の中がぐるぐるになった
挙げ句、私は結局、
悔しさと、そして何より
ヒナタに会いたい気持ちに負けた。


『わかった。会う。どうすればいい?』

No.21 07/04/26 18:51
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

~⑧~

“ケイスケ”は、
やっぱりあの彼だった。
「俺、騙したりしてないだろ?」
彼は、ひどく楽しげに私を見下ろす。
私たちは、彼が指定したカフェの一番奥の席で
向かい合っていた。
私も負けずに見上げると、
そこにある瞳は、やっぱり、
宇宙を孕んでいるかのように
キレイ。
見とれそうになり、私は、
自分を励ますために
テーブルの下でギュッと
両手を握った。
「で、どうする?」
何かを言うたび、彼は
いちいち私を見下ろす。
背が、高いせいだ。
「こういうの、なんだか気分が悪い」
訊かれたことには答えず、
私が不満を言うと、
ケイスケはムッとしたようだ。
「だったらおまえが背を伸ばせ」
「無理」
「俺も小さくなれない。
―で?」
「なに?」
「どうするんだよ」
「なにが」
「七日間、俺と付き合う?」
「付き合いたくはない」
「じゃあ、ヒナタの連絡先は
いらないんだな」
「それは欲しい」
「じゃあ、付き合うんだな」
「どうして、取引の材料が
“付き合う”なの?」
他にも何かあるんじゃないだろうか?
私に何かしろ、とか、
何か持ってこい、とか、
究極は、金を寄越せ、とか。

No.22 07/04/26 22:19
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

「付き合うのが一番、
おまえを支配下に置くことになるから」
「なんで私を支配したいのよ」
「気に入らないから」
「私の、どこが」
私たちは、これがほぼ初対面だ。
ケイスケは一方的にサイトで
“見ている”かもしれないけれど、
あれは私の一面でしかないのだし。
サイトの私を知っているだけで、私自身を“こういう人間”
と勝手に判断されるのは困る。
すると、ケイスケは、けろりと言った。
「ヒナタを好きになりかけているところ」
「―は?」
「それが気に入らないから、
邪魔したい」
「なに、それ」
「だから、ヒナタを好きになりかけているのが―」
「ワケわかんない」
私は、何度も首を振った。
もう、本当にわからない。
なんなんだろう、この人。
関わらないほうがいい。
私は、立ち上がりかけた。
ところが、彼より高い位置に
なった私の目を、彼は、
不敵に見上げてくるのだ。
「いいの?」
「なにが」
「ヒナタの連絡先、
知りたくないの?」
私は、そのまま動けず、
返事をすることも出来なくなる。

No.23 07/04/26 22:37
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

「ヒナタも、本当は
おまえに会いたがってるんだ」
「え?」
「でも、事情があって会えないんだな」
「なにそれ」
「だから、七日間付き合ってくれたら、
そのへんの事情も込みで教えてやってもいいって言ってるんだよ」
まだ、動けない。
「座れよ」
動きたくない。
「座れ」
ケイスケの目が、私を射る。
気付けば私は、
また腰を下ろしてしまっている。


七日間、だけなら。
それでヒナタとまた会えるなら……。


一日目は、月曜日。
放課後、ケイスケが私を
学校まで迎えに来る。
「女子校の校門で立ってるつもり?
どこかで待ち合わせたほうがよくない?」
「気にしない」
豪語して、本当に平気な顔で
立っているのだから
びっくりした。
私はまず、ニーナとふたり、
こそこそと校門の外をうかがう。
「あれがケイスケ?」
「そう」
「いいじゃん、莉子、
七日間とか言わずにずっと
付き合っちゃえば?」
「ニーナ、面白がってるでしょ」
「うん。だって本当に面白いもん。
ケイスケが何を考えているのか、とか、
ヒナタとはどういう関係なのか、とか、
知りたいことがたくさんあるじゃない?」

No.24 07/04/26 22:58
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

ニーナは、生き生きと輝かせた目でケイスケを見つめる。
決して面白がっているわけじゃなく、
本当に、ヒナタが姿を消して
ケイスケが現れた理由の向こうにある事情がなんなのか、
知りたくてわくわくしているのだ。
ニーナの、こういうところが
好き。
「私ももちろん知りたいけど」
でもね。
「当事者としては、
七日間もあれと付き合うことを考えたら気が重いわ」
「ヤな男なの?」
「ムカつく男かも」
「でもさ、見た目はいいから、
すれ違う女の子たちに見てつけてやる気分で一緒にいれば
楽しいよ、きっと」
そう言い、ニーナがくすくす笑ったとき、
ケイスケが私たちに気がついた。

No.25 07/04/26 23:08
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

「どこへ行くの?」
「どうしようかな」
「ケイスケさんは、
いつもどういうデートをしてたのよ」
「別に、腹が減ってたら何か食うし、相手が欲しいものがあるって言えば それを見に行くし、
ふらふらするだけのときもあるし、あとは―」
「なに?」
「おまえとはしないことをする、かな」
「なにするの?」
「おまえとはしないんだから、なんだっていいんだよ」
「変なの」
「おまえは?ヒナタとはどういうデートをしてたの?」
「おしゃべりしてただけ。
映画を観に行こうって誘われたんだけど、すっぽかされちゃった」
「ずっと話してばかりで
飽きなかったの?」
「うん。楽しかった」


学校を離れ、私たちは、
あてもなくただ てくてくと
歩いた。
何か話をしようにも、
私たちの接点はヒナタしかない。
でも、ヒナタについて訊ねても、ケイスケは、
「だからそれは七日間付き合ってくれたあとでないと
教えてやらない」
と言うだけなので
話がはずむことはない。
ふと気付くと、駅に着いていた。

No.26 07/04/27 00:57
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

「送る」
と彼は言った。
「もう帰るの?」
「行きたいところはある?」
「ない」
ケイスケと一緒に行きたいところはない。
「だったら送る」
「もう帰っていいの?」
「いいよ」
「一日、それで終わっちゃうよ?」
「することないなら仕方ないだろ」
「変なの」
私は、唸りながら定期券を取り出した。
ケイスケは、プリペイドのカードを取り出しながら
私についてくる。
「電車、使ってないの?」
「俺の最寄りはこの駅だから」
「じゃあいいよ。
送ってくれなくても」
「送る。デートだし」
しつこく言うので、断るのも面倒くさくなり、
送ってもらうことにした。
私が住んでいるのは、
学校の最寄り駅から四つ目の駅で降りたところにある住宅街だ。
我が家のあるマンションまでは駅から歩いて七分。
「もういいわ」
私は、ケイスケと駅前で別れようとした。でもケイスケは、
「改札を出ただけで帰れって?」
ひどく不機嫌な顔になる。
「寄るところがあるのよ」
「どこ?一緒に行く。デートだし」
「晩ご飯の買い物をするだけ。
だから、一緒に来られたら邪魔」
「せっかくの初日なのに、
ここで別れるのはもったいないだろ。
まだ家に帰らないなら一緒に行く」
「いいよ」

No.27 07/04/27 01:11
ハルヒ ( 10代 ♀ DrUUi )

彼を振り切り、歩き出したのに、ついてくる。
「だって最初のデートだし。
学校から駅まで送って終わりっていうのも変だろ」
その言葉に、つい私は吹き出してしまった。
「なあに? 一応そういうの、
気にしてるの?」
ケイスケは答えない。
でも、黙ったまま私についてくる。
だったら別にいいかと、
駅前にあるスーパーで買い物をした。
せっかくだからカゴを持たせてみたら、
別に抗わない。
それどころか、なんだか楽しげだ。
「なに買うの?」
「鮭」
「あ、それ―そのパックのやつ、旨そうじゃん」
「でも高い。こっちのほうが
脂ものっててそこそこの大きさだから、こっち」
「百円しか違わないぞ?」
「百円も、違うのよ」
「へええ」
ケイスケの目には、
日々のお買い物、というヤツがとても新鮮に映るようだった。
私は結局、鮭を二切れ、
ネギを一束、牛乳を一パック、ラップフィルムを一箱という買い物をし、
スーパーを出る。

投稿順
新着順
主のみ
付箋

新しいレスの受付は終了しました

お知らせ

6/10 カテゴリの統合(6月20日、26日実施)

テーマ別雑談掲示板のスレ一覧

テーマ別雑談掲示板。ひとつのテーマをみんなでたっぷり語りましょう❗

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧