この恋 不良品につき

レス21 HIT数 3094 あ+ あ-


2012/10/17 11:22(更新日時)


この恋愛は


いかなる不良品であっても


お取り替えできないので、



ご注意下さい。

No.1860639 (スレ作成日時)

投稿制限
スレ作成ユーザーのみ投稿可
投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.1

この腕が 胸が あたしの部屋。

あたしの居場所。

ここを失くしたら

あたしには もう、行く場所がない


理不尽だね。


こんな関係を いつの間にか 押し付けられても


捨てられるのに ビクビクしてたのは


本当は あたしの方だったなんて。

No.2

「そんなつもりはなかった」

「じゃあ、どんなつもりよ!」

あの日、あたしは そう言って貴方を罵ったね。

そんなつもりではないのに、人を傷つけるなんて、理解しがたかった。

でも、結局あたしも 貴方の奥さんを傷つけた。

あたしは、あの日から たくさんの言い訳を探して生きてきた。

知らなかったとか、こんなはずじゃなかったとか、

悪いのはあたしじゃなくて彼だとか。


だから、もう、恨んでない。

憎んでない。

同じ人種だった自分に呆れてる。

 

No.3

手に入れてしまったものを、諦めるのが、こんなに難しいとは思わなかった。

例えそれが、許されないものだとしても。

彼は、すべてをあたしにくれると言った。

妻の座以外は。


だから、あたしはもらった。

もらえる物は それこそ全部。

本当に欲しいのは、貴方だけだと、

何故伝えなかったのだろう。

いつの間にか、愛が利害関係に変化する。

あたしの気持ちを 置き去りにしたまま。

No.4

絵に書いたようなサラリーマン家庭に育った私が、大学を卒業後 大手企業に採用されたのは、幸運だった。

仕事にやりがいを見出し、その間 いくつかの恋をして、同じ数だけ別れを経験し、
気付けば、三十路を超えていた。

寿退社の同僚や後輩に、御祝儀を渡すばかりの私だけど、だからといって不満はなかった。

それでも一つだけ、
幹部から お局と呼ばれるのは、やはり気持ちの良いものではなかった。

No.5

社長代理で、ある葬儀に出席したのは八年前。

体調不良で社長が入院の間に、そのお通夜が営まれた。

秘書課の私は、故人の喪主様にあたる奥様に、必ずご挨拶をするよう言い渡されていた。

お式の間に、その機会は訪れず、会食の時間を私は待った。

やっと、喪主様がお手すきになったのを見計らって、動いた瞬間 目の前の男性がグラスを持って振り返った。

私の喪服がビールで濡れた。

彼との出会いだった。

No.6

「うわっ!失礼! 申し訳ない」

自分にも非があるにも関わらず、私はたぶん嫌な顔をしたと思う。

喪服は新調したばかりだった。

代理の席で、年齢に見合う恥ずかしくないものを、また長く使えるものをと、清水から飛び降りてしつらえたものだった。

たった数時間でアルコールの餌食になるとは、予定に入っていない。

ショックを隠しきれずにも とにかく頷いた。

「大丈夫です。私、急ぎますので失礼します」

おしぼりをかき集めた彼の顔を まともに見ることができなかった。

私は、結構セコいのだ。
頭の中は スーツの値段で、いっぱいだった。

No.7

喪主様に挨拶を終え、急ぎ早にエントランスへ向かう。

スカートの裏地が太ももにペタペタと張り付き、泣きたくなった。

クリーニングへ行けるのは、どんなに早くとも明日だ。
とりあえずの処置の方法なんて知らない。
しかも、ものすごくビールくさい。
このまま、電車に乗らなきゃいけないなんて、最悪だ。
経費節減で、一昔前のようにタクシーは自由に使えなくなっていた。
自腹なんてとんでもない。
重ねて言うが、私はセコいのだ。

自動ドアをくぐったところで、呼び止められた。

先ほどの男性だと気付くのに、少し時間がかかった。

No.8

「先ほどは、本当にすみません」と、名刺を差し出され、私もガサゴソと鞄を漁る。

受け取ったそれに、私の目は釘付けになった。

帝都総合企画(仮名)

代表取締役 江澤 賢一(仮名)

この会社名をぶら下げて、たくさんの子会社が、東京中にビルを建設してきた。

この人が、代表? 

こんなに若かったの?

私は、もう一度 彼の顔を眺めた。

やばい…。なんだか、とてつもなく素敵に見えてきた。

私は…。 セコい上にミーハーだった。

No.9

私は今でも、時々考える。

彼に、この肩書きがなかったら

彼が、普通のサラリーマンだったなら

私は、これほど彼を愛しただろうか。

わからない。最初からそれらは、セットだった。

強い憧れと、尊敬は、恋をするには、
充分な理由で、

こうだったらとか、ああだったらとか、

そんな架空のことは、考えるだけ無駄かもしれない。

けど、私の愛が、本当は地位や権力への浅ましいものだったとするのなら、

何故、こんなにも胸が痛いのだろう。

何故、こんなにも恋しいのだろう。

一目だけでも、逢いたいと願うのは
何故なんだろう。

No.10

結局、彼のハイヤーで、自宅まで送ってもらえることになった。

社交辞令で一度辞退してみたものの、
渡りに船だったし、
彼と、話がしてみたかった。

あわよくば、「あの会社の秘書は、きちんとしてた」 なーんてことを、どこかで話なんかしてくれちゃったら、ラッキー!なんて、くだらないことも考えてニヤニヤしたりした。

始まりなんて、こんなちっぽけな動機だ。

人生そのものが、大きく変わるだなんて、誰も想像出来ない。

すでに始まったことすら、気付いてない
のだから。

No.11

都心のとある駅から、徒歩で20分。

玄関を開けると、左側に四畳半の洋室。
トイレ。
左手にお風呂と洗面所。
ドアを開くとリビングにキッチン。
その奥に、6畳の洋室と、同じ広さの和室。
この広さで、家賃は8万円。

道路を挟んだ向こう側に、墓地があるのが、安さの秘訣だ。

駅近とは、ほど遠い墓地近の私のお城。

まったく、問題を感じなかったが、
何故か、墓地を見せたくなくて、最寄りの駅で降ろしてもらった。

車内での会話は、思いの他楽しかった。

彼は饒舌で、ユーモアに長けていた。

楽しい一時で、私は満足だった。

クリーニング代を出されたが、それは
丁重にお断りした。

時代の寵児と、思いがけず知り合いになり、夢みたいな時間を共にできた。
これで、終わるはずであった。

それで、充分だった。
それなのに、それだけでは終わらなかった。

No.12

翌日には、もう忘れた。

日常が始まる。

何事もない毎日が続いた一週間後、
オフィスに私宛ての花束が届く。

メッセージカードには、ただ、江澤とだけ書かれていた。

胸がトクンと鳴った。

「うわぁ、すごい! 誰からですか?」

後輩たちに、囃したてられ、私は顔を赤らめた。

「ええ、ちょっと知り合いの方から」

口止めをされた訳ではないが、口に出せないのは、大人の分別だろうか?

年齢を重ねるごとに、言えないことが増えていく。

誰かに話していれば、間違いは起きなかっただろうか。

秘密にしたかったわけじゃない。

ただ、照れくさかっただけ。

私の意志とは裏腹に、人生が回り始める。

No.13

お礼を言いたいが、連絡先がわからない。

財布から頂いた名刺を取り出すも、電話番号は会社の代表。

繋げてもらえるのだろうか。

名刺とにらめっこを続け、やはり諦めた。

悶々としながら、3日が過ぎた。

私の頭には、すでにたった一度話しただけの男が、住みついていた。

彼が仕掛けた罠に、まんまと引っかかった訳だ。

しかし、色恋沙汰からしばらく離れていた私にとって、あれこれ想像するのは実際楽しいものだった。

No.14

「3番にお電話です。江澤さんから。
お花の方ですか?」

後輩の声に、私は電話にとびついた。

「あっ、あの、先日はお花をありがとうございました」

テンパって、声が上擦った。

「仕事中に電話して申し訳ない。今、話せる?」

「今から、お客様が見えるので」

それならば、折り返しかけてくれと、
彼は、あっさり携帯の番号を教えてくれた。

何かと慌ただしい1日で、コールバックしたのは、夜、9時を過ぎてしまった。

留守電に繋がり、私はがっかりした。

2時間後、彼の着信を受けた頃には、私のテンションはマックスを迎えた。

何も知らない男に対して、気持ちが高鳴る現実に戸惑いながらも、それを抑えることはもうできなかった。

No.15

予定が無ければ、翌週の日曜に出かけないかと誘われ、私は勿論承諾した。

デートだ!
仕事そっちのけで、浮かれた。

何を着ていこう? 靴は? 髪形は?
女学生みたいに、胸がときめいて、
嬉しくて、
いい年こいて、恋しちゃってルンルンみたいな、恥ずかしい私が、そこにいた。

そして、当日。 朝 8時。
彼は やはり黒塗のハイヤーで現れた。

私は、てっきり、彼が自分の車でやってくるのかと思い込んでいて、
知らない運転士に、私のルンルン姿を
見られるのが、こっぱずかしく、
ふと、テンションが下がる。

No.16

車は当たり前のよいに発車しだしたが、
行き先を聞いていなかった私は、急に心配になった。

「あの、どこへ向かっているのでしょうか。」

今頃、遅いっつーの。危機感が無さすぎる。
人はこうやって事件に巻き込まれていくのだろうか。
30も過ぎた女が、いったい何をやっているのだろう。

と、振り返ってみると、確かにそう思う。

「馬ほ好きですか?」

突然の問いに、私が咄嗟に思い付いたのは、乗馬だった。
相手へのイメージだったのかもしれない。

「馬?ですか? いえ、乗れません。乗ったこと無いです」

彼は笑い出した。

「いや、乗る必要はないから」

じゃあ、なんだ? 

「どさん子ラーメンは、好きです」

彼は、更に笑い出した。

「いや、旨いよね、ラーメン。俺も好きだよ」

「ラーメン食べるんですか?」

「そりゃ食べるよ。醤油が好きだな。君は?」

「塩が好きです」

馬から食べ物の話に変わり、なんだか知らないうちに、車は府中に着いた。

競馬場…。その馬かよ。
しっ、知らない…。
競馬無理…

No.17

初めての競馬場の、異様な活気と人混みの中、私は圧倒されながら彼の後ろを着いていく。

明らかに一般人が立ち入り禁止であろう、ロープの張ってあるエスカレーターの前に立っていた警備員らしき人に、軽く手を挙げると、あっさりと通された。
行き着いた先は、馬主席。

空気が変わった。

親しげにそこにいる人々と、挨拶を交わす彼の隣で、引きつった猫みたいに体を堅くして、おずおずと周りを見渡す。

私は、悲しいくらい庶民なのだ。

「お飲み物はいかがされますか?」

妙に綺麗な若い制服姿の女性に、そう聞かれても、この場で何を頼んでいいかさえわからない。

逃げ出したくなった。

No.18

「彼と同じものを」

出された飲み物が、バーボンなのか、
ウィスキーなのか、はたまた別なものなのか。

そんなことは、知らない。

家では私は、スウェット姿で平気でコーヒーカップに日本酒を注いじゃうような女なのだ。

「2レース目に、うちのが出馬するよ。まだ成績は残せてないが、良い馬でね、」

うんたらかんたら。

チンプンカンプン。

レースが始まってあっという間に、彼の馬を見失った。

その後、騎手さんと共にこの馬を身近で見たが、本当に美しいサラブレットだった。

触って見たかったが、蹴り癖があるらしく諦めなければならなかった。

この日から、時折競馬場に足を運ぶことになるのだが、個人的に私は中山競馬場が好きだ。

4人掛けのボックス席がオススメです。レース場がガラス張りに見渡せる最前席のテーブルに、更にテレビ型のモニターも置いてあり、レースが見やすい。

テーブルにメニューが置いてあり、ファミレスのような気軽さで、食べ物が注文出来ます。

馬券売り場もすぐそばですが、無理に買う必要もありません。

席料はかかりますが、静かで雰囲気も良く、1日馬を見ていたい方がいれば?
是非、行ってみて下さい。

No.19

夕方、神奈川のMM地区で彼の経営するoysterBARに、席を移した。

ワインは赤と決めている私は、オススメの白を断った。

本題に入る。

「江澤さん、奥様まもしくは彼女は?」

私が一番気になっていたことだ。

「いないよ。女房は2年前他界した。
癌でね、子供ほ二人いる。中学生と小学生だ。彼女もいない。他に質問は?」

無い。あるわけが無い。

私は、なんという失礼な質問をしたのだろう。

「お子さんは、誰が?」

失礼のついでに聞いてみた。

「うちの婆さんがね。婆さんといっても親父の後妻だ。俺の方に年が近いくらいでね、自分に実子がいないせいか、それほそれほ、可愛がってるよ。正直助かってる。良いイメージはなかったんだがね、思いの外、情深い女だったようだよ」

私は、押し黙った。

不幸とは縁のないお金持ちも、幸福ばかりではないのが、現実であろう。

くだらない質問で、この場を重苦しいものにしてしまった。

「ごめんなさい」と、私は答えた。

「何故謝るの? 気になって当たり前だろう」と、彼は答える。

私が彼に好意を持つことに、なんの不具合もないのだと、自分に確信を持った瞬間だった。

No.20

帰りは駅ではなく、自宅まで送っていただいた。

「目の前がお墓なんです。気にされる方もいると思うので、なかなか言いにくいんです」

「うちは女房が墓に入ってるからね、怖いとか気味悪いとか思わないよ。人が最後に必ず行く場所だし、むしろ神聖でいいじゃない」

しまった…。また、奥様に触れてしまった。
私は、なんてデリカシーに欠けているんだろう。

でも、前の彼は別れる際、私が平気で墓地のそばに住む神経の女だと、罵った。

要するに、そんなタイプとは正反対の若い女性に心変わりしただけの話だが、
私は、やはりそれなりに傷ついて、
それなりにトラウマだったりするわけで、

江澤がこんな風に言ってくれたことが、嬉しかったりもした。

No.21

人間、私生活が順調だと、得てしてなんでも上手くいくもので、
江澤と付き合い出した私は、絶好調の毎日を送り出した。

彼は、忙しい最中、時間を見つけては
連絡をくれるマメさを持っていて、
私のマンションに週に3回は訪れるようになる。

珍しく早めの時間にこれる時は食材を買って、料理をしてくれることさえあった。

タフな男というのは、器用にできているもので、なんでも上手くこなす彼の姿に、私の目は、いつだってハート型をしていたはずだ。

私は幸せだった。

世界で一番幸せだった。

投稿順
新着順
主のみ
付箋
このスレに返信する

日記掲示板のスレ一覧

携帯日記を書いてみんなに公開しよう📓 ブログよりも簡単に今すぐ匿名の日記がかけます。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧