不純愛

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2013/03/05 23:46(更新日時)

―この愛は、純愛ですか?



―それとも、不純ですか?

No.1526080 (スレ作成日時)

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No.351

>> 347 毎日楽しみに拝見させていただいていました。 ハッピーエンドで本当に良かったです😃 気持ちがほっこりしました。 また機会がありましたらお願… 匿名さん✨ご感想ありがとうございました☺

そんな風に言って頂いて私も嬉しいです😢✨

近々、「特別編」の更新を致しますので、良かったらそちらも読んで頂けると幸いです☺✨

No.352

>> 348 ゆいさんお疲れ様でした。 ミクルでこのような小説が読めるとは思いませんでした。 吉宗と美桜の世界に引き込まれ、涙が溢れる事もありました。… 敬さん✨ご感想ありがとうございます☺
正直、男性にはウケない内容なのかも…と思っていましたが、敬さんのように楽しんで下さる方がいてくれて良かったです☺✨

男性のご意見は参考になるし、また勇気付けられます🙇✨

この後は不純愛の「特別編」を短編で更新しますが、それが終われば新作も考えいます😊

良かったらまた読んで下さい✨

宜しくお願い致します🙇✨

ゆい🌼

No.353

二人がハッピーエンドになって良かったです💕
毎日楽しみにしていた小説が終わってしまい悲しいです
本当に本当におもしろかったです

セリフや動き
心情が読みやすく
表現も上手い✨✨

羨ましいです😆

次回作も楽しみにしまくっていますっ✨✨

  • << 361 シノァさん✨最後まで読んで下さりありがとうございました🙇✨ そして、もったいないお言葉😢✨ 嬉し過ぎます✨ 本当に、ありがとうございました☺

No.354

素敵な小説をありがとうございます☆
毎日楽しみに読ませて頂きました(o^_^o)
2人のように、深くお互いを想い合えたら幸せだなと思いました❤
最後もハッピーエンドで良かったです♪
もう一度最初から読みたいです。


  • << 360 ゆみさん✨ご感想ありがとうございました🙇✨ もう一度読んで下さるんですか😲✨ 嬉しいです😢 最後まで読んで頂きありがとうございました☺

No.355

>> 349 ゆいさん お疲れさまでした☺ 不倫されてた話から ノーベル賞受賞まで の話の展開が全く読めませんでした☺ 特に私は 人物描写の繊細さ… ミルキーさん✨
ご感想ありがとうございます🙇✨

展開が読めなかったですか😲それは…作者冥利につきますシメシメ😁✨

最高のほめ言葉を頂いてしまいました☺ 嬉しいです😢

この後は不純愛「特別編」を短編で書きますが、終わり次第新しい作品を執筆したいと考えていますので、良かったらそちらも読んで頂けると幸いです☺✨

No.356

いやぁぁめっっちゃオモロかったですな🎵☺個人的には美桜がどんだけ綺麗なのか見てみたいほど💕

  • << 358 ホント美桜ちゃんを見てみたいです☆ 吉宗さんも爽太くんも教授も、できれば全員見たいくらい(*^o^*) ドラマにしても人気出そうなストーリーだと思うんですが、実現しないかなぁ❤
  • << 362 カールさん✨ いやぁぁぁっ💦ありがとうございました🙇✨ 最後まで読んで下さり本当に嬉しいです☺ 貴重な男性読者様✨ 有り難いです😢 美桜はどのくらい綺麗なのでしょうかね~私も見てみたいです😂

No.357

>> 350 華さん✨いつもありがとうございます☺ 最後まで読んで頂き、本当に嬉しく感無量です😢✨ 有り難い事に、思いの外たくさんのご要望を頂いたの… 楽しみにしています😄

ゆいさんの話しは読みやすく、吸い込まれます。

  • << 363 華さん✨ ありがとうございます☺ はい、頑張りますので楽しみにしていて下さい✨

No.358

>> 356 いやぁぁめっっちゃオモロかったですな🎵☺個人的には美桜がどんだけ綺麗なのか見てみたいほど💕 ホント美桜ちゃんを見てみたいです☆
吉宗さんも爽太くんも教授も、できれば全員見たいくらい(*^o^*)
ドラマにしても人気出そうなストーリーだと思うんですが、実現しないかなぁ❤

  • << 364 ゆみさん✨ありがとうございます☺ 私も動く❓みんなをドラマとかで見てみたいです✨ でも、実現させる術が分かりません😂💦

No.359

お疲れさまでした。
今までミクルで読んだ小説のなかでダントツ一番良かったです!


映画化もしくは出版してほしい😁

素敵な作品ありがとうございました!

  • << 365 なをさん✨温かいお言葉ありがとうございます🙇✨ 本当に嬉しいです😢✨ 書いて良かったと思います☺ 最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました🙇✨

No.360

>> 354 素敵な小説をありがとうございます☆ 毎日楽しみに読ませて頂きました(o^_^o) 2人のように、深くお互いを想い合えたら幸せだなと思いま… ゆみさん✨ご感想ありがとうございました🙇✨
もう一度読んで下さるんですか😲✨
嬉しいです😢
最後まで読んで頂きありがとうございました☺

No.361

>> 353 二人がハッピーエンドになって良かったです💕 毎日楽しみにしていた小説が終わってしまい悲しいです 本当に本当におもしろかったです … シノァさん✨最後まで読んで下さりありがとうございました🙇✨
そして、もったいないお言葉😢✨
嬉し過ぎます✨
本当に、ありがとうございました☺

No.362

>> 356 いやぁぁめっっちゃオモロかったですな🎵☺個人的には美桜がどんだけ綺麗なのか見てみたいほど💕 カールさん✨
いやぁぁぁっ💦ありがとうございました🙇✨
最後まで読んで下さり本当に嬉しいです☺
貴重な男性読者様✨ 有り難いです😢
美桜はどのくらい綺麗なのでしょうかね~私も見てみたいです😂

No.363

>> 357 楽しみにしています😄 ゆいさんの話しは読みやすく、吸い込まれます。 華さん✨
ありがとうございます☺
はい、頑張りますので楽しみにしていて下さい✨

No.364

>> 358 ホント美桜ちゃんを見てみたいです☆ 吉宗さんも爽太くんも教授も、できれば全員見たいくらい(*^o^*) ドラマにしても人気出そうなストー… ゆみさん✨ありがとうございます☺
私も動く❓みんなをドラマとかで見てみたいです✨
でも、実現させる術が分かりません😂💦

No.365

>> 359 お疲れさまでした。 今までミクルで読んだ小説のなかでダントツ一番良かったです! 映画化もしくは出版してほしい😁 素敵な作品ありがとうご… なをさん✨温かいお言葉ありがとうございます🙇✨
本当に嬉しいです😢✨
書いて良かったと思います☺
最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました🙇✨

No.366

ゆいです🌼


皆様、温かいお言葉ありがとうございました🙇✨

こんなに沢山の方に読んで頂き、本当に嬉しく感無量です😢✨

皆様のおかげで無事に完結する事が出来ました✨

改めて、御礼申し上げます…本当に、本当に、ありがとうございました🙇✨

次のページより「特別編」の執筆を致します☺

良かったら、軽い気持ちで読んで頂きたいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します🙇✨

あきやま ゆい

No.367






「不純愛~Another Story」




No.368



南向きのベッドルームの遮光カーテンが、音を立てて容赦なく開けられる。


「パパ~っ!!起きんね!!」


耳元で、娘の海がそう叫ぶ。


「う~ん…もう少し…。」


普段は天使のような彼女も、こんな時は悪魔に見える…。


「パパーっ!!」


ああ…うるさい…


頼むよ…もう少しだけ…


僕は布団を頭から被る。


美桜と入籍して半年…


僕は仕事で、ボストンと京都を行き来する生活をしていた。

昨日、最終着の飛行機で帰国したばかりだった。


「海、ダメよ?パパは、昨日遅く帰って疲れてるんだから。」


海を宥める美桜の優しい声がする。


「つまらんもん…海、パパと遊びたいもん…。」


海の泣きべそに、僕は観念して布団から顔を出した。


「おはよう、海。」

「パパ~!」


海は、満面の笑顔を浮かべて僕の上に飛び乗る。


「うっ…!」


重た…っ。


「吉宗さん、おはよう。」


ベッドに腰掛けて、美桜が僕に微笑む。

彼女の顔を朝日が照らす…。


(絵になるなぁ…)

そんな彼女の笑顔を浴びれる僕は、世界一の幸せ者だ。


「おはよう、美桜。」


いつもよりも少しだけ、くすぐったい朝だ…。

No.369


「美桜、次の検診っていつ?」


朝食のパンケーキを頬張りながら、僕は問いた。


美桜のお腹には、新しい命が宿っている。


「次は…来週の金曜日ね。」


美桜は、キッチンカウンターに置かれた卓上カレンダーを見ながら答えた。


「…来週かぁ。」


僕は、来週の水曜日にはボストンに戻らなければならない。

出来る限り、美桜の検診には付き添いたいのだが…


「無理しないで?一人でも大丈夫だから。」


美桜はそう言うが…

海の時には苦労したと聞いてたから、心配で仕方がない。


「なぁ…やっぱり、美桜達もボストンに来いよ。
生活の拠点をあっちに移して家族揃って暮らそう。」


「アメリカに行くと?!」


海は嬉しそうに身を乗り出して、フォークに刺した苺を落とした。


ダイニングからコロリと落ちた苺を、僕はフゥフゥと吹いて食べる。


3秒ルールだ。


「でも、仕事もあるし…井川名誉教授に悪いわ…。」


だから嫌なんだよ…

教授の、君に対する溺愛振りが鼻に付いて仕事し辛いんだ。

そして…僕に対する冷たい仕打ちも…


あ…因みに、ノーベル賞を受けて井川教授は念願の「名誉教授」に就任した。


ついでに僕も、「教授」になった。


「頼むよ、美桜。
身重の君を、日本に残して行くのは心配なんだって…!
京大には山部君を戻すから、美桜は一緒にボストンに来てくれよ。
毎日ずっと君達と一緒にいたいんだ…!」


美桜は(う~ん…)と考え込む。


そこ…考えるとこか?


「ちょっと、考えてみるね。」


…オイオイ!


なんて、連れないんだ…。


そんなん言うなら


僕にだって考えがあるぞ…


「教授」の権限を使わせてもらおうじゃないか…!


絶対的な命令を、君に下してやる。

No.370


大学へ行くと早速、僕は井川名誉教授に掛け合った。


「…で?山部君を戻す代わりに、僕のみーちゃんを向こうに連れて行くと?」


「僕・の・美桜です!」


名誉教授…あぁ、めんどくさい!「教授」でいいか…!


教授は、僕に眼を飛ばす。


「西島君さ…何の権限があって、僕・の・!みーちゃんをボストンに連れて行こうとしてんの?」


ジジィ…め!

ワザと言い返しやがったな?


「何の権限…って、教授の権限ですよ!」


「あっそう…。
なら、その辞令は却下!」


却下だと…?


「何でですかっ!」

「君が、「教授」の権限を使うっていうなら…僕は「名誉教授」の権限を使ってそれを却下するよ。」


そうきたか…


なら…

僕は…


「では、名誉教授。 これは単なる僕の願いです…。
どうか、妻と娘をボストンに連れて行く事を許して下さい…!」


僕は、教授に深々と頭を下げて懇願した。


「…それって、どんな権限よ。」


権限なんてない。


強いて言うなら…


「彼女の夫としての…!
…ですかね。」


「いやぁぁぁッ!! 聞きたくない!聞きたくない!」


(彼女の夫…)というフレーズに、教授は両耳を塞ぐ。


どうだ?


これには権限などないだろ?


ただの…、一個人の願いだ。


僕は、愛する妻と娘…そして、これから産まれてくる子どもと一緒に暮らしたいだけさ…


「う~ん…もう、分かったよ!
負けだ、負け!
勝手にしなさいッ!」


そう、ふてくされながら教授は辞令書に認印を押した。


「ありがとうございます!」


僕は、嬉々としてそれを受け取り教授室から出ようとすると、


「…MITの元カノは可哀想だなぁ~!
君と、みーちゃんがラブラブしてんの見ちゃうんだろうな~!」


教授は、背中に痛い事を突きつけた…。

…っていうか…なぜ、その事を知っているんだ?


…山部か?あいつ、余計な事を…。


でも、


「おあいにく様!
彼女は、既に素敵な恋人がいますから♪」


僕よりも数倍、カッコ良いアメリカ人のね!


「…つまんね。」


教授の舌打ちに、僕はニヤリと笑って教授室を後にした…。

No.371



急ぎ足で研究室へと向かう。


「あ、よし…西島教授!」


僕の呼び名を慌てて言い換えた美桜が、データーを片手に持って近寄って来た。

「別に、夫婦なんやから下の名前で呼んでもええのに(笑)」

「そうですよ!
どうぞ、僕らに遠慮せんと(笑)」


学生を含めた同じ研究室の職員が、僕らを冷やかす。


「いいえ!
一応、ここは職場なんだしケジメはつけないと!ね?西島教授!」


からかわれた事にムスッとした美桜が、僕に八つ当たる。


…僕は別に、ダーリンと呼んでくれても構わないけどね。


そう思いながら、僕は美桜の額にペシンと辞令書を貼り付けた。


「??なに…?」


急に視界を奪われた美桜が、咄嗟の出来事に驚く。


わたわたとする彼女に、周りの皆が笑う。


「なんか、張り付けられとる♪」


「篠崎さん、可愛いなぁ~!」


美桜はここ(研究室)では旧姓で通っている。


僕と一緒だと紛らわしいからだ。


「もぅ…!」


額からピッと剥がして、彼女は辞令書をマジマジと読む。


「…西島教授の第一秘書…任命?」


「そういう事です!」


急な命令に困惑する彼女に、僕は満足気な笑顔を送った。


「そんな…急に…」

急じゃないよ…


責任感の強い君が、自分の仕事を全うしようと頑張って来たのは知っている。


だけど…僕は半年も待ったよ。


これ以上はもう、待てない。


君ほど…僕は、君を待ってはあげられないんだよ。


なんせ、僕は甘えん坊なんだから。


君から少しも離れたくないんだ…。


「勝手に、こんな…困るわ…」


「これは、命令だよ。」


往生際の悪い彼女に、僕は強い口調で言う。


「こんにちは、失礼します。」


緊迫した状況の中で、開けっ放しのドアをコンコンと叩いて訪問者が声を掛ける。


僕は、その女性を見て驚いた…。

No.372


「今度、東大研究室からサポートさせて頂く事になりました、研究室リーダーの坂田です。
今日は、井川名誉教授教室の皆様にご挨拶を申し上げに参りました。」


きよ…み?


「…吉宗!!」


シックな赤いワンピースに身をまとった清美が、僕を見つける。


「久しぶりね!
わぁ~、会いたかったわ!」


嬉しそうに駆け寄って、彼女は僕の手を握った。


「何で…君が?」


驚き目を丸くする僕に、清美は「ふふっ」と 微笑む。


「…あれから、大学院に入って博士号を取得したのよ?
父と同じ土台に立って、正々堂々と戦う事にしたの。
それでちょうど、こっち(京大)から手伝って欲しいと要望があって…吉宗の為なら、喜んで力になりたいって来ちゃた♪」


来ちゃった♪って…

僕は、美桜と清美に挟まれて気まずい思いだ…。


「ね?美桜さん。」

「…え?」


チラチラと二人の顔色をうかがう僕をよそに、清美はニッコリと微笑んで美桜にふる。


どういう事だ…?


「えぇ…清美さんは、私が呼んだの。
彼女の実績実力を見れば、一番協力して欲しい人だと思ったのよ…。」


美桜が清美を…?


昔なら考えられない事だ…。


僕だけ頭がパニックさ…


「美桜さんの人選は的確ね。」


「宜しくお願い致します。」


こんな風に、二人が握手を交わす日が来るなんてな…


「ところで…美桜さん、それ何?」


清美は、美桜が持つ辞令書に目を付けた。


「あ…西島教授の第一助手としてボストンに同行しろって…」


しどろもどろに言う美桜の手から清美は「ふ~ん…」と言って、それを取る。


「…それで?あなたは迷ってるの?」


「えぇ…まぁ。
フランスに蒔いたプラントのデーターも、まだ完全には採取出来てないし…。」

清美の問いに、美桜は煮え切らない態度で答える。


「そう…なら、代わりに私がボストンに行くわ♪
そうすれば、吉宗とずっと一緒に居られるもの。」


「…えぇ?!」


そう言って、清美は僕の腕に絡み付く。

「…~ッ行きます!!
私が、吉宗さんと一緒にボストンに行きますからッ!!」


美桜は怒って清美から辞令書を奪い返すと、反対側の僕の腕を掴む…。


いがみ合う二人に挟まれて…


…まんざら嫌でもない。


「…良いなぁ、西島教授はモテモテで。」


ふふっ…羨ましいだろ

No.373

>> 372 とにかく、清美のお陰?で美桜はボストン行きを快諾した訳だ…。


翌週、僕はまた単身でボストンに帰った。


「ハァ~寂しい…」

デスクに飾られた美桜と海の写真盾を握り締める。


会いたいよぉ…


日本に帰ってからボストンに戻ると、僕はいつもこんな調子だ…。


「 Yosi, married a pretty girl.」
(吉宗は可愛い女の子と結婚したなぁ。)


ジェイクは、落ち込む僕の肩に手を添えながら写真を覗き込む。


「Mio is smart as well as pretty.」
(美桜は可愛いだけじゃなく、頭も良いんだよ。)


僕は、デスクに顎を乗せたまま呟くように言った。


「Talk a bout one's….」
(のろけてるよ…)

ほっとけ…!


「Ah-you've gone all red. Yosi-that's so cute!!」
(あっ!赤くなってやんの、吉宗ってば可愛いね~!!)


うるせっ…!


ジェイクの冷やかしを無視して、僕はパソコンを打ち始める。


新居探しの為に、色々な条件を入れて検索する。


ボストンって、一軒家の借家が少ないんだよなぁ…


いっそうの事、中古で家を買っちゃうのも手だよな…


「おっ、ここなんか広くてキレイだ。」

場所は…ちょうど、ハーバードとMITの間かぁ。


ハーバードには爽太もいるし、なかなか良いなぁ。


僕はその不動産屋と、物件をプリントアウトした。


それから…海の幼稚園も探さなきゃ。


何気にやること一杯じゃないか?


海にも少しずつ英語を教えなきゃ可哀想だよな…!


こんな、ふてってる場合じゃない!


二人が、安心して渡米出来る準備をしてやらなきゃな。


僕は一大決心を胸に、プリントを持って研究室を出た。

No.374


まさか…この僕が、勢いで家を買うなんて…


しかも、美桜にも相談せずに…


ちょっとした興奮の中で、僕は携帯を片手に佇む。


「…はい、もしもし?」


10回以上コールを鳴らして、ようやく出たのは福岡のお袋だ…。


夜中に叩き起こされた母の声は不機嫌そうだった。


「もしもし…母さん?僕だよ。」


「なんね、吉宗?
こんな夜中に何の用か思うたわ…美桜ちゃんに、何かあったかと焦りよったと。」


お袋は、単身赴任で家を空けてる僕の代わりに、いつも美桜と海の事を気に掛けていてくれる。


「いや…そうじゃなかと。
僕、ボストンに家を買ってしまったとよ…僕は長男で、福岡に実家もあるのに…なんや、母さん達に悪か思うて…勝手な事して申し訳なか…。」


本来なら…実家を建て直してやって、行く行くは家を継ぐのが親孝行なんだろうな…。


僕は、何だか後ろめたくて実家に電話をかけたんだ。


「なんや…そげん事、気にせんでよかよ。」


「…え?」


お袋の一言に、僕は呆気にとられた。


「吉宗ば、福岡に帰って来よったら、私らがボストンに行ったらよかよ…。
老後生活はアメリカなんてカッコ良か。 お父さんも喜びよるやろ。」


なんと…そう来るとは…!


「別荘ば、買うてくれて感謝しとうよ…嬉しか報告ばい。」

「別荘やなか(笑)」

お袋が、僕を気遣って冗談を言ったのか…

それとも、本気で言ったのかは分からない。


でも、お袋の言葉に後ろめたさはかき消された…。


「近いうちに、美桜ちゃんと海ば連れて帰ってきんしゃいよ…?
待っとうからね。」

僕は、お袋の愛情を感じる…。


「母さん、ありがとう。
身体に気ぃつけて…また、連絡すると…。」


「はい。あんたも、ちゃんと寝るんよ?身体、大切にするんよ?」


「うん…。」と、言って僕は電話を切った。


盆には実家に帰ろう。


もちろん、美桜と海を連れて…。

No.375


そして、そのまま僕は直帰を決め込んで、ハーバード前で爽太の帰りを待った。

「See you!So-ta!」

ほどなくして、爽太が正門から出て来た。


「See you tomorrow!」


彼は僕に気づくと、友達に手を振って僕の方へと歩み寄る。

「Goodbye! Mr.NISIJIMA!」


「Goodbye!!」


あの授賞式以来、爽太の仲間内にも顔が知れた。


アメリカ人は、ロマンチストが好きなんだよ…と爽太は言う。


「メシでも食いに行くか?」


僕はそう言って爽太の肩を組む。


「マジ?奢り?」


「おーし任せとけ~! 何でも奢ってやる。」


「やったね♪」


こうして並んで歩くと気付く…


ひょっとしたら、背の高さを抜かれたんじゃないか…?


「爽太。今、身長どの位ある?」


「ん~?176くらいかな?」


僕の質問に、爽太は首を傾げながら答えた。


176…1cm抜かれたか…。


「あ~あ、遂に越されたか…。」


高校生だった頃は、生意気な事を言われても僕を見上げながらだったから、まだ可愛いかったもんだが…


これからは見下されながら言われるんだな…


屈辱的だ。


「これから、どんどん身長差が出てくるよ。」


??なんでだ?


「お前、まだ成長してんの?!もう、20歳超えてんだぞ?」

もし…本当にそうなら、ちょっとビックリだ。


「いゃいゃ…そうじゃなくて!
ほら、兄さんはこれから縮まる一方だろうと思って(笑)」


くそっ…


「悪かったな!」


やっぱり、口減らずなヤツだ…!

No.376



「…そう言えば、姉さんと海は元気?」

牡蠣のオーブン焼きを、パクリと口に入れながら爽太が問いた。


「あぁ、元気だよ。 海なんかさ…」


海は今、保育園に好きな男の子がいるらしくて、毎回その子の話をするのだ。


名前は確か、みのる君だ。


ドッジボールが得意のスポーツマンなんだと…


なんか、それだけで負けた気分がしたよ。


やっぱ、あれだ…こんな風な話をされると父親って複雑だよな…


美桜のようにはニコニコと話を聞いてあげられなくてさ、ついムキになっちゃうんだよ。


海がお嫁に行くとなったら、僕…どうなるのかな…?


何となく、今からその日が来るのが怖いよ。


…僕は堰を切ったかの様に、爽太に話した。


「へぇ~、海の初恋かぁ…そりゃ複雑だわ。」


爽太もしょんぼりと肩を竦める。


「だろ?分かってくれるか…?」


僕は、やってらんねーぜ…!というように、ビールを口に流し込んだ。


ここは、ボストンのオシャレなシーフードレストランだ。


なのに、まるで新橋のガード下で飲んでるみたいな雰囲気だ…。


「うん…分かるよ。 だって、つい最近まで海は俺と結婚するって言ってたのに!」


「あぁ…でも、それは…」


「何だよ?」


僕が茶を濁す様に口を紡ぐと、爽太はムキになって詰め寄る。


「…姪っ子の甘い言葉には騙されるなよ?」


「…は?どういう事?」


幼い頃は、あんなに僕と結婚したいと言ってた菜奈ですら…

今や、他の男子に夢中なのだ。


美桜と、入籍の挨拶に実家へと帰った時…


僕は小学生になった菜奈に、「結婚しちゃってゴメンな…?」
と言ったら、


「え~、別によかよ。
菜奈、おいちゃんとは結婚せんし…。
てか、おじさん過ぎて無~理ィ!」


なんて言うんだぞ?!


無~理ィ…なんて、気だるく言われてみろ!


マジで、ヘコむからな…!


「だからもう…女の甘い言葉は信用しないのさ。」


「ふぅ~ん…でも、それって海にも当てはまるだろ?
今はパパ・パパって言ってても、いづれ「パパと一緒の洗濯物入れないで!」なんて言われちゃうんだぜ…?」


わぁーッ!!聞きたくない!!


「海は、絶対!そんな事言う子じゃないね…!」


僕はそう、啖呵を切ると、もう一口だけビールを口に運んだ。

No.377



所詮…父親は悲しい生き物なのかもな…。


目に入れても痛くない程、娘を可愛がって大切に育てても、いつかは他の男に取られてしまうのだ…。


切ないな…


…………

……美桜は…どうだったんだろう…


僕は不意に、美桜の父親の事を思った。

彼女の父親は、あの一件以来…日本を離れて世界各地を旅しているらしい。


結婚の挨拶をしたくとも、その所在を知ることは出来なかった。


「爽太、お義父さんって今…どこで何をしているのかな…?」


「どしたんだよ、急に…。
父さんだろ?
あっちこっちに旅回って、今じゃ山城さんですら父さんの足跡を探るのは難しいみたいだよ。」


やはりそうか…


僕達も散々探したんだ…


僕は瞳を閉じて、美桜と東京へ行った日の事を思い出した…

半年前…


僕達は懐かしい東京の地へと戻ったのだ…ー



「へぇ~…!!
これが君の実家か?!」


豪邸っていうものを、初めてこんな身近で見た…。


これはもう…家と言うよりは屋敷だな。

「美桜って…本当に、お嬢様だったんだな…。」


こんな立派な良家のお嬢さんに僕は…


「そんな事ないわよ…。」


彼女はクスッと微笑むと、僕を家の中へと案内した。


ハァ~…本当に、溜め息がでるくらい立派過ぎる家だ。


広いリビングに、吹き抜けの高い天井…

アンティークだろう…ロココ調のダイニングテーブルにソファー。


これは…調ではないな。


完全に、ロココだろう。


「すげー…!」


僕は、まるで異空間の世界に入り込んでしまったかの様に興奮した。


「ダメね、やっぱり帰ってないみたい…。」


父親の書斎を見渡して、彼女が言った。

「そうか…仕方ないな。」


どうせダメ元だったんだ。


僕達は、休暇を取って僕の実家に挨拶へ行き3日間を福岡で過ごした。


今日は東京の彼女の家へと挨拶に来たのだが…


やはり、美桜の父親は居なかった。


因みに、海は久しぶりの故郷に安心したのか「東京へは行きたくない」と泣ついた。


仕方なく、そのまま実家へと置いて来たのだ。


「父さん、今頃どこかな…。」


書斎に掛けられた、巨大な世界地図に指をなぞらせて彼女は呟いた…。

No.378



「父さんはね…本当は、美術館で働きたかったんだって。」

「美術館?」


僕の問いに、美桜は「うん」と頷く。


確かに、ここには医学書の他にも画集や美術書が数多く並んでいる。


「うちって、曾祖父の代からずっと医者の家系でね…父さんも当たり前のように医師なったんだけど、内心ではずっと美術関係の仕事に就きたいって思ってたみたいなの…。
世界中の絵画や、美術品を見て回るのが夢だったんだって。」


(まぁ…それを知ったのは病院の一件後だったんだけどね…)そう言って、彼女は苦笑いを浮かべた。


「3年前の事…辛かっただろう?」


僕は、無理に笑顔を作ろうとしている彼女を引き寄せて抱いた…。


「そんな時に、一緒にいてやれなくてごめんな…」


美桜にとって、父親を失脚させた事がどんなに辛かった事か…


「ううん…いいの。 実は、後から父に感謝されたのよ…これからは、好きな事が出来るって…。
だから、後悔はしてないし、これで良かったと思ってる。」

僕の胸から顔を上げて美桜は微笑んだ。

「そうか…。」


僕も安堵の表情を浮かべて、もう一度彼女を抱きしめた。


長い彼女の髪を撫でて、桜色の唇にキスをする…


「美桜…君の部屋はどこ?」


僕の質問に、美桜は顔を赤らめる。


「あっ…あっち…」

戸惑いながら差した指の先が震えている…


(君は、可愛いなぁ)。


「行こう…!」


僕はその手を取って、彼女の部屋へと引っ張った。


中に入り込んで、ドアをパタンと閉める…



その後の事は…


秘密だ…。


No.379


夕方の寒空に、容赦なく冷たい風が僕らを吹き付ける。


寒さに身を縮める美桜の首に、僕は自分のマフラーを巻いた。


「それじゃ、吉宗さんが寒いわ…!」


慌てて、マフラーを取ろうとする美桜の手を僕は止めた。


「僕は大丈夫だよ… ポケットにカイロが入ってるし♪」


そう言って、彼女の手を僕のポケットに突っ込む。


「吉宗さんって温かい…♪」


その言葉に心が火照る。


君も十分、温かいよ…。


「見て、吉宗さん。」


僕らは今…岡田総合病院の前に立っている。


あっ…今は、違う名前だけどね。


「兄と母の病院よ…。」


「…え?」


彼女の指差す方向に視線を送る。


大きな病院の看板に、美桜は瞳を潤ませて眺める。


「朋友(ほうゆう)記念総合病院?」


それが…元岡田総合病院の、新たに付けられた名前だった。

「朋樹が兄…
そして、母の名前は「友里」って言うのよ。
二人の名前を合わせると「朋友」絆とか、親しい関係って意味になるの…。
病院に勤める者と、患者が、互いに信頼し合える病院であるようにって陽一さん…新院長が名付けてくれたのよ…。」


「…そうか。
とても、いい名前の病院だ。」


君の…お母さんと、お兄さんの魂が…この病院に引き継がれているんだね?


君の…その頬に伝う涙は…


幸せの証なんだ…


「美桜、良かったな…。」


僕も誓うよ。


君の、お母さんとお兄さんの前だ…

僕は、絶対に君を幸せにする。


君と海を守って生きていく…


君の手を握りしめて

僕は心からそう…誓う。

No.380

僕は瞳を開けて、思考を現在へと戻す。

爽太が店員を呼んで、ビールの追加をオーダーしている。


不思議なもんだよな~

爽太と一緒に、酒を飲む日が来るとは思わなかったもんな…

彼は僕にも、追加するか? と尋ねたが、僕は「もう、いらない」と断った。


「爽太、僕さ…美桜と結婚式を挙げたいと思ってるんだ。」

僕の突然の告白に、彼はグラスを持つ手を止めた。


「…結婚式?」


僕はコクリと頷く。

「美桜は、結婚式挙げた事ないだろ?
ドレスは着たかも知れないけど…。
そうじゃなくてさ、ちゃんと僕の為に着て欲しいし、見てみたいんだよ。」


純白のドレス姿の君が見たい…。


「良いんじゃない?姉さんは何て言ってんの?」


美桜にはまだ話してない…。


入籍はしたものの、「結婚式」について語らった事は無かった。


僕は再婚だし、もしかしたら美桜は遠慮して言えなかったのかも知れない…。


変に、僕に気を使う

彼女はそういう所があるから…。


「美桜にはこれから話してみるよ。
でも、式を挙げようと言って断わられたら立ち直れないな…。」


「その心配はないだろ…。
きっと、泣いて喜ぶさ(笑)」


ニカッと白い歯を出して笑う爽太に、僕は勇気付けられる。

「もちろん、爽太も来てくれるよな?」

「あぁ…行くよ。
今度こそ、姉さんと一緒にバージンロードを歩くんだ。」


爽太…君ってやつは…


時折、僕を泣かそうとしてくれるよな…。


僕は、熱くなる目頭を押さえる。


「そうだ、爽太は卒業後は病院に戻るのか?」


僕は、涙が零れ落ちる前に話題を変えた。


「いや、日本には戻らないよ。」


…日本には戻らない?

「こっちで、仕事するのか?」


僕の問いに、爽太は飲み干したグラスをコン…と静かに置いた。


「MSFに入ろうと思ってる。」


―MSFって…


「国境なき医師団の事か?」


「あぁ、そうだよ。 ずっと昔から考えてたんだ…MSFに入るのが俺の夢だ。」


…僕は、あの夏の日を思い出した。


彼が、僕に研究者へと戻すきっかけをくれたあの日…


君は、真剣な眼差しでこう言った。


どんな医者になるかは、自分で決められるから辛くないと…

あれは、そういう意味だったんだね…


爽太…僕にとって君は、やっぱり眩しい存在だ。

No.381

爽太と別れて、深夜12時過ぎに帰宅すると僕は、日本にいる美桜に電話をかけた。

日本は午後の2時過ぎかな…


呼び出し音が鳴ってる間に時計を見る。

「はい、西島です。」


美桜の声で僕の姓を名乗る…それだけで顔が綻んでしまう。

「僕も、西島っていうんだけど。」


僕のつまらないギャクに、美桜はクスクスと笑う。


「今、帰ったの?」

「うん…ちょっと、爽太と食事して飲んでたんだ。」


受話器を耳と肩に挟んで、僕は上着を脱ぐ。


「そう、爽は元気? 二人で何を食べたの?」


「よっと…、GRANでシーフードだよ。」

今度は靴下を脱ぎ捨てる。


「あそこの牡蠣は美味しいよね♪先月、連れて行ってもらった所よね?」


「そうだよ、爽太もそこの牡蠣がお気に入りなんだ。」


会話をしながら、Yシャツのボタンを外してドサッ…とソファーに凭れた。


はぁ~やっと、落ち着いた…


「やっぱ、姉弟だからね。
この間は散々だったけど、また食べに行きたいな~。」


彼女の言う散々だったとは…


先月、美桜と海がボストンに来た時に、今日行ったレストランで食事をしたのだ…


お腹いっぱいに牡蠣を食べた美桜が、帰宅した途端吐き気に襲われた。


(牡蠣にあたった!)


そう確信した僕は、慌てて彼女を病院に運んだ。


しかし…原因は牡蠣ではなく、どうやら「悪阻」だったみたいだ。


ひょんな事から美桜の妊娠が発覚した。

美桜自身も驚いていたが、彼女の妊娠に僕は歓喜の涙を流した。


美桜は病院で泣きじゃくる僕を、周りの目からの恥ずかしさにも耐えて宥めた。

「そうそう、それでさ…」


僕は美桜に家を購入した事を告げた。すると…

受話器の向こう側で「えぇーッ!」と驚く声が響いた。


「勝手に、一人で決めちゃってごめんな…」


そう言って、しょぼくれる僕に…


「ありがとう…吉宗さん。
あなたが決めてくれた家なら、きっと素敵なお家ね。
すっごく楽しみ♪」

そう…優しく返してくれた。


僕は嬉しくなって、その家のあれこれを夢中で話した。


エドガー教授の家のように大きなプールはないけれど、


ブランコと、大きめなビニールプールを置ける広い庭がある家なんだ!


海と、赤ちゃんが広々と遊べるよ…。


これから始まる新生活に胸を踊らせて、僕らは語り合った…。

No.382

そして…僕は美桜に、「結婚式」を挙げないかと提案した。

「…いいの?」


彼女の第一声を聞いて確信した。


「良いに決まってるじゃないか…!」


美桜はずっと待ってたんだな…


僕が、そう言うのを…


「嬉しい…!」


君のウェディングドレス姿を見れると思うと、僕だって嬉しいさ…。


一度目にそれを想像した時は、僕は悲しみに溢れていた…


美しいはずの君を否定して、その姿を消し去った。


でも、今は違う…


君は、僕の為にそれを着て微笑む…


ゆっくりとした足取りで、一歩ずつ僕に歩み寄る…


そんな想像だけで酔いしれ、


幸せを噛みしめる事が出来るんだよ…


「美桜、結婚式しような…。」


「…うん!」


結婚指輪はもうはめてるけど、


贈ってあげられなかった婚約指輪を買おう。


君に似合いそうなのを選んでおくよ…


No.383

2ヶ月後…―


「パパーッ、早く!」


天神駅の改札を抜けて、海は僕を呼ぶ。

「はいはい!
あ~!それにしても、暑かね…。」


太陽がサンサンと照らしつける。


「美桜、大丈夫か? 荷物持つからよこして。」


ボストンバックと、お土産袋を下げた美桜に手を伸ばす。


「平気よ♪」


彼女は涼しげな表情を浮かべて、僕の横を通り過ぎる。


何で、汗一つかかないんだろ…


僕は首を傾げながら、彼女達を追いかけた。


僕の実家は、天神駅から商店街を抜けてちょっと行った所にある。


式の準備の合間に、夏休みを福岡で過ごす事にしたのだ。


「海、早くおじいちゃん達に会いたか!」


海は、ウキウキとスキップして飛び跳ねる。


「お二人共、お元気かしらね?」


「元気やろ♪」


実家の門を開けて、玄関の引き戸に手をかける。


直ぐに違和感が走った。


「あれ…?」


開かない…


建て付けが悪くなっているのか?


戸の隅角を叩いて、グッと力を入れてみても開かない。


…完全に鍵がかかっている。


「おらんやないかいッ!」


「「えぇ~ッ!!」」


今日、行くって言ってあんのにっ!


「ちょっと、待っとって…!」


僕は庭に回って、縁側の下に置かれた鉢植えを持ち上げる。

やっぱりあった。


お袋は、昔からここに鍵を隠す。


「鍵あったと!」


僕は二人の元へと戻り、引き戸を開けた。


「おばあちゃん、おらんと?」


中に入ると、海は家中を見て探し回る。

「そうみたいね…。 どこ行っちゃったのかな?」


「どうせ、すぐに帰ってくるだろ…。」

そう言って僕は、居間のクーラーをつけた。


冷やりとした涼しい風が、頬や髪をなでる。


あ~…極楽!


「パパ、お庭で遊ぼ♪」


「えっ?!今、涼んだばかり…」


無情にも、僕は海に手を引っ張られて庭へと出されたのだ…。

No.384


海と、柚子の木に止まった蝉を捕まえた。


蝉は、僕の手の中で羽根をジジッと鳴らして自由を求める。

「パパ、見せて!」

彼女の小さい手が、僕の手に添えられる。


その手の形や、指先がお互いによく似ていた。


海は、母親似だと言われる。


僕もそう思う。


だけど、こうした手の形や耳の形は僕とまったく一緒で、確かに僕の娘なのだと実感出来る。


僕は、彼女の赤ん坊時代を写真だけでしか見た事がない。


誕生した日の感動を味わえなかった。


その事が、どうしても悔やしかった。


時間は戻せない。


だから今…この時間を…海と一緒にいる時間を大切にしたい。


「元気やね、もう逃がしとって。」


「あぁ…。」


手の平を広げて蝉を放つ。


海がいつか大人になった時、彼女は僕を許してくれるだろうか…


僕が世間に知られるようになった事で、彼女が自分の出生を意地悪く言われる日が来るかもしれない…


いわれ無き中傷に晒された時…


僕は、彼女を守らなくてはならない。


いつか、君が僕を恨み憎む日が来ても


僕は君のその手を離さない…。

No.385

「パパ、これ何て花?」


海は座り込んで花壇を指差す。


「う~ん、何やろね…」


ラッパみたいな花びらで、白に赤にピンクと、広がるように咲いている。


「ペチュニアって花やよ。」


考え込む僕らの後ろで、買い物袋を下げたお袋が言った。


「おばあちゃん!」

「お~海、よう来たねぇ。」


飛び付いた海を抱き寄せて、お袋は嬉しそうに笑う。


「ご無沙汰してます。」


美桜が、縁側からにこやかに挨拶をする。


「美桜ちゃん、お帰り!」


お袋はいつも僕らが帰ると「お帰り」と言う。


美桜が、海と二人で遊びに来る時も同じだ。


お袋の「お帰り」が、美桜にとって…このうえない幸せだと言う。


「ただいま、お義母さん。」


初めて自分で持った家庭に、彼女はやっと落ち着ける場所を見つけたと微笑むのだ…。


「何でおらんかったと?」


僕は、ブスッとした顔でお袋に聞いた。

「買い物に行っとった。見たら分かろう?」


ほれ、と買い物を掲げる。


「家に入れんかったらどけんしたとよ!」


「入れとるやろ。」

僕とお袋で、しばらくこんなやり取りを繰り返した。


午後には、寧々達も実家にやって来た。

久しぶりに従兄姉に遊んでもらって、海も大満足のようだ。

「この人、最近ようテレビに出とうね。」


居間で、お土産の煎餅をかじりながらお袋が言う。


「今、大人気みたいやね。
カッコ良かもん分かるわ…。」


寧々が見惚れている画面の男に、僕は口をあんぐりと開けた。


「た…孝之?」


テレビに指差して、僕は美桜を見た。

「そうよ…。」


どうやら、幻ではないようだ。


「なんで…あいつが?」


聞けば…広く講演などをしているうちに、イケメン医師として人気に火が付いて、今や雑誌やテレビでも引っ張りダコなんだと。


美桜の話だと、孝之は近く選挙活動を開始すると言うのだ。

政治家になって、医療問題や政治癒着に関する不正を正すと張り切っているらしい…。


清美に続いて孝之も、実父と直接対決を挑む気なのだ。


テレビ出演やメディアの露出も、その準備の一つなのだろう…。


「お兄ちゃん達、本上先生の知り合いなん?」


「大学の同級生だよ。」

「私は後輩です。」

僕らの答えに、寧々は瞳を輝かせる。


嫌な予感だ…。

No.386


「お兄ちゃん、本上先生のサインもろって来て!」


ほら来た…僕の嫌な予感が的中だ。


「嫌だね。」

「何でよ!」


あいつに頭を下げて、サインなんかもらいたくない。


「お前なぁ、こんな男に熱を上げると火傷しよるぞ…!」


「はぁ?!
はは~ん…さてはお兄ちゃん、本上先生が自分より数億倍カッコ良かからって僻んどるんね?」


寧々は、憎たらしい顔で苛立つ事をぬかす。


「バカぬかせ…お前みたいな女は、本上の餌食になって捨てられるのがオチばい!」


「なんやと?!」

「なんだよ!」


僕と寧々は互いの胸ぐらを掴んで睨み合う。


「せからしかッ!」

いがみ合う僕らを、一喝したのは美桜だった。


美…桜?え?

今…せからしかって…?


呆気にとられてポカーンとする僕と寧々に、

お袋は
「美桜ちゃん、お見事!」と
拍手を送った…。


No.387

「美桜さんは今、何ヶ月に入ったと?」

夕食時、帰宅した親父が美桜に問う。


美桜はお腹をさすりながら、
「5ヶ月です。」と答えた。


「まだ、どっちか分からんか…」


肩をすくめる親父に、美桜は「そんな事ないです」と言う。

実は、前回の検診で赤ちゃんの性別が判明したのだ。


「分かっとるのか?」


「男の子だそうです…。」


微笑みを浮かべる美桜に、親父は「でかした!!」と大いに喜んだ。


「よし!吉宗の息子やから、名前は「政宗」に決まりばい!」


政宗…まさか…


「大偉人!戦国の英雄…「伊達 政宗」の政宗ばい!カッコ良かろう…!!」


…やっぱりだ。


「却下!
名前ば、自分らで付けよう思うとっと。」


大興奮の親父に、僕は冷たく放った。


だいたい、「吉宗」と「政宗」じゃ紛らわしいだろ。


「私は良いと思うけど…政宗。
吉宗さんと同じ「宗」っいう字が入るし、好きな名前だけどな♪」


「なぁ?良かろう?」


親父と美桜が僕をじっと見つめる…。


う…っ、美桜が気に入ったんなら…


「あぁ、分かったよ!
(政宗)な…よし!お前は政宗だぞ~♪」

僕は根負けして、美桜のお腹をさすった。


ナデナデと優しくさする手に、美桜の手が重なる。


「おじいちゃんに、カッコいい名前付けてもらって良かったね…まー君♪」


お腹の子に「まー君」と呼びかける美桜の面影に、

僕は幼い頃の記憶を甦えらせる…


「よし君…」と僕を呼ぶお袋の声。


手招きをされて、空き地から家までの道を二人、並んで歩く…


お袋の声は、僕を安心させる魔法のような声だ…


お腹の赤ちゃんも美桜の声を聞いて、その魔法にかかっているに違いないと思った…。

No.388


10月…―


雲一つない、爽やかな秋空。


僕は新婦の身支度を、はやる気持ちを抑えながら待っていた。


「大変お待たせ致しました。
新郎様、どうぞ此方へ…。」


黒服の付き添い人に案内させて、僕は控え室へと入って行った。


緊張しながら、後ろ姿の花嫁に近寄る。

白い手袋を握った手が小さく震える。


「美桜…。」


僕の声に、彼女はゆっくりと振り向く…

純白のドレスを身に包んだ君を、外の光が照らす。


その神々しさに、僕は本物の聖母を見た様な気がした…。


「どうかな…?」

「すごく、綺麗だ。」


絵にも描けぬ美しさ…

正にそんな感じだ。

僕は、彼女に近寄ってひざまずく。


「…吉宗さん?」


彼女の左手を取って、ポケットから指輪を出す。


「順番が逆になっちゃったけど…。」


そう言って、薬指にはめたれた結婚指輪の上からその指輪を通した。


「桜の形だわ…。すごく、可愛い…。」

4つのダイヤモンドを埋めこんで、桜の花びらを作ってもらったんだ…やっぱり、君によく似合う。


「美桜、これから先もずっと僕の側に居て笑ってて欲しい。」


「はい…。」


早速、泣いてるじゃないか…


「泣かないで…美桜、笑って?」


僕は彼女の涙を指で拭う。


すると君は、瞳を潤ませながら優しく微笑むんだ…。


「吉宗さん、愛してる…」

「僕も、君を愛してるよ…」


神の祭壇で誓うよりも早く、僕達は唇を合わせてキスをする。


「行こう美桜、皆が待ってる。」


「うん…!」


僕の手を取って、君と向かう。


愛おしい人達の待つ…

神の館へ…


No.389


閉ざされた扉の前で、爽太は花嫁の到着を待っていた。


「遠い所まで来てくれてありがとう。」

「なに言ってんだよ、姉さんの為なんだから当たり前だろ?」


久しぶりの再会に、二人とも照れた様子だった。


「新郎様は先に祭壇前でお待ち下さい。」


教会の裏側から入って、僕は美桜と爽太の到着を待つのだ。

付き添い人の後を付いて隠し通路を歩いていく。


ドアが開かれると、眩しさに目を奪われた…。


割れんばかりの拍手をもらう。


招待客席に並ぶ人々の顔を眺める…


両親に海、寧々達の家族…

井川教授に山部君。
そして、京大の研究員達も…

それから、清美の姿もある。

彼女は…ビジネスパートナーでもあり、親友でもある。いつかは、脅威的なライバルにもなるかも知れないな…


そして…孝之の姿もあった。


彼を呼んだのは美桜だ。

相変わらず、僕を小馬鹿にしたように見ている。


…宿敵は、いつまで経っても宿敵か…(笑)


あと、朋友記念総合病院の院長の陽一さんも…


あ、あれ!沙希ちゃんだ!!


良かった…新幹線間に合ったんだ。


沙希ちゃんは僕に小さく手を振る。


僕も、にっこりと笑って彼女に手を振り返した。


「では、新婦のバージンロード入場となります。
皆様、御起立下さい。」


神父の言葉に、皆が一斉に立ち上がる。

重たい扉が、鈍い音を奏でて開かれた…

流れる賛美歌と、降り注がれる光の中…

君は、一礼した頭を上げる。


そして…僕を始めとする、皆の声に驚きが混ざった。


美桜の隣にいるのは、爽太じゃない…!

もっと、シュッとした佇まいの年配の男性…


僕は昔、彼を写真で見たことがある。


岡田 章一。


彼女の…美桜の父親だ。

No.390

父親と腕を組んで、彼女は一歩ずつ歩き始める…


肩を震わせて泣く彼女を、しっかりと支えながら…彼は、僕を見つめる。


とても強い…でも迷いのないその瞳は、美桜や爽太と同じだ。


彼女達の容姿だけではなく…意志の強さも全て、父親譲りなのだと思った。


真紅のバージンロード…


君は今…あんなにも望んだ父の温もりに抱かれている。


手を伸ばしても届かないと泣いた夜…


そんな時もあったと、いつかは笑える日が来るだろう。


だって君は…こんなにも幸せそうに僕に笑ってみせる。


「美桜を…娘を宜しくお願い致します。」


「はい…!」


受け取ったその手を、僕は絶対に離さない…。


No.391


「パパ、ママおめでとう!」


「「「おめでとう!」」」


無事に式が終わって、僕達はライスシャワーを浴びる。


「「ありがとう!」」


約3名が、意図的に僕にだけ強く投げつけるけど…気にしない。


一人一人の笑顔が、僕らに降り注ぐ…。

傷付いて、傷付けた…

暗い闇の中…孤独と戦って心が壊れそうになった事もある…


見えない出口を探してもがいた


此処にいる誰もが、そんな経験をして来ただろう…


それでも…


必ず光輝く未来はあるのだ…


僕らの未来は明るい…


愛に裏切られても、周り回って「愛情」は帰ってくる…。


僕らの心に、大切な仲間に…


誰かを愛(いつく)しむ気持ちがあれば…


愛は枯れたりも消えたりもしないのだ…

僕は行く


信じた道が、途中で険しさを増したとしても…


「愛」に溢れた日々を求めて突き進む…





―――……完……―――

No.392

>> 391 お疲れ様です。
毎日更新楽しみにしていました。
沢山のファンの方がいるなか皆さん横レスすることなく、私を含め楽しみにしていたのだと思います。

3人の子供に恵まれ幸せになれた2人に安堵いたしました。

もしまた続編、新しくスレ立てる時は教えて頂きたく思います。

素晴らしい話しで夢中になりました。
お疲れ様です。
そしてありがとうございました。

  • << 399 華さん✨ 完結まで見届けて下さり、本当にありがとうございました🙇✨ 温かいご声援のおかげで、最後まで書き続ける事が出来ました☺ 私の方こそいつも、感動をありがとうございました🙇✨

No.393

✏あとがき📖


皆様、「不純愛」並びに「特別編」を最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました🙇✨

これで本作は完結とさせて頂きます☺

皆様と一緒の空間を過ごせて幸せでした😢✨

寂しいですね…😢


でも、近く次回作の執筆を始めますので、またそちらでお会い出来たらな…と願いを込めて☺✨
本当にありがとうございました🙇✨


愛を込めて…🍀


あきやま ゆい

  • << 395 ありがとうございました😢 感動です😢😢😢😢😢😢😢
  • << 397 お疲れ様でした☺ 最後、思わず泣いちゃったよ😢 父親が出てくるとは💐 終わり方も、とってもとっても良かったです💕 素敵な作品、ありがとうございました👏
  • << 398 お疲れ様でした☺ 最後、思わず泣いちゃったよ😢 父親が出てくるとは💐 終わり方も、とってもとっても良かったです💕 素敵な作品、ありがとうございました👏👏👏👏

No.394

>> 393 ごめんなさい🙏
後書きの前にレスしてしまいました🙏

すみません🙏

  • << 400 いぇいぇ☺💦 むしろ、更新途中に追っかけて読んで下さったんだと歓迎しちゃいました✨ ありがとうございます☺✨

No.395

>> 393 ✏あとがき📖 皆様、「不純愛」並びに「特別編」を最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました🙇✨ これで本作は完結とさせて頂き… ありがとうございました😢
感動です😢😢😢😢😢😢😢

  • << 401 海さん✨ 最後まで見届けて下さり、本当にありがとうございました🙇✨ 私の方こそ、感動をありがとうございました☺

No.396

ゆいさん✨
お疲れ様でした✨更新が楽しみな毎日でした🙌✨文章の表現力 とかもわかりやすくて良かったです🙌

次回作も読みたいので このままここのスレを着レスにするので教えていただけると嬉しいです✨楽しみにしてます✨

  • << 402 おとおとさん✨ 完結まで見届けて下さり、本当にありがとうございました🙇✨ 温かいお言葉に、感謝の気持ちでいっぱいです😢✨ 次回作も読んで下さるとの事で、もう嬉し過ぎます☺ 書き始めて、更新次第お知らせ致します✨ また、次回作で会いましょう‼ 楽しみにしております☺

No.397

>> 393 ✏あとがき📖 皆様、「不純愛」並びに「特別編」を最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました🙇✨ これで本作は完結とさせて頂き… お疲れ様でした☺
最後、思わず泣いちゃったよ😢
父親が出てくるとは💐
終わり方も、とってもとっても良かったです💕
素敵な作品、ありがとうございました👏

No.398

>> 393 ✏あとがき📖 皆様、「不純愛」並びに「特別編」を最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました🙇✨ これで本作は完結とさせて頂き… お疲れ様でした☺
最後、思わず泣いちゃったよ😢
父親が出てくるとは💐
終わり方も、とってもとっても良かったです💕
素敵な作品、ありがとうございました👏👏👏👏

  • << 404 ピエールさん✨ 完結まで見届けて下さり、本当にありがとうございました🙇✨ 美桜と父親のわだかまりを無くしたかったので、「特別編」を書かせて頂いて良かったです☺ 私も最後だと思うと泣け…泣けてきました😭 本当にありがとうございました☺ 次回作でお会い出来る事を楽しみにしております✨

No.399

>> 392 お疲れ様です。 毎日更新楽しみにしていました。 沢山のファンの方がいるなか皆さん横レスすることなく、私を含め楽しみにしていたのだと思いま… 華さん✨
完結まで見届けて下さり、本当にありがとうございました🙇✨

温かいご声援のおかげで、最後まで書き続ける事が出来ました☺

私の方こそいつも、感動をありがとうございました🙇✨

No.400

>> 394 ごめんなさい🙏 後書きの前にレスしてしまいました🙏 すみません🙏 いぇいぇ☺💦
むしろ、更新途中に追っかけて読んで下さったんだと歓迎しちゃいました✨
ありがとうございます☺✨

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