私は生きている

くだらない不安が頭を支配して寝られない。明日は仕事の面接だ。だから早く寝なきゃ。

早く普通の生活に戻りたい。みんなと同じように普通の本当に普通の生活が送りたい。

明日、私は面接でどんな印象を与えるのかな？根暗？気が弱そう？どんくさそう？

どうでもいいけど、どうでもよくない。良く思われたい。いい子ちゃんでいたい。嫌われたくない。 毎回、仕事をすぐやめてきた。いじめられたわけじゃない。仕事が出来なかったわけでもない。ただ、もし出来ないことがあって皆に嫌われたらどうしよう？ダメな奴だと思われたら？なんて考えたら不安で不安で。で、会社をやめて逃げてきた。

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人の評価が怖い。どう思われてるのか怖い。そんな事ばかり考えたら人と関わることが大嫌いになってた。

このままじゃダメだ。だから私はまた明日面接に行く。今度こそって、意気込んで。

誰もお前の事なんて何とも思ってないよって熊手に言われた。熊手は私を元気付ける為なのかバカにする為なのかそんなことを言った。

わかってる。誰も私なんて見てない。私みたいな、こんなちっぽけな存在なんて眼中にないなんてことわかってる。

でも、こんなちっぽけな私はちっぽけなことを悩んでしまうんだ。ちっぽけな答えしか出なくても。

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緊張すると周りが見えなくなる。普段当り前に答えられることが私の口から曲がって飛び出る。

そんなことを言いたかったわけじゃない。私はなんでこんなに怯えてるんだ。何が怖い？何が苦しいんだ？
ただ、わかってもらいたいだけじゃないのか？本当の私を。でも、本当の私を知っているのは熊手だけだ。
気が強くてプライドが高くてワガママ。なのに、凄く子供で凄く心配性で弱虫なんだ。本当はおしゃべりが大好きで甘えん坊でよく泣くんだ。

熊手はわかってる。だから熊手の傍は安心する。だから熊手の傍から離れられない。熊手以外の人間との関係は全て無くした。

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今日も1日始まるわけだ。そう思いながも布団から出れないなんて笑える。

そういえば、履歴書の写真取ってないな。やだな…
写真は醜い私を写すから嫌い。私は本当に奇妙な女だ。女らしくなりたいくせに食べ方は犬のように汚ないし、口も悪いし、爪は噛むし、おしゃれなんてしたことない。

いつもただ綺麗な人達を壁の隙間から覗いて妬ましく思ってたわけだ。私は壁から出られなかったわけじゃない。自ら進んで壁から出なかった。私とあの人たちは住む世界が違うなんて思ってた。

そしたら友達はいなくなった。皆年頃になればある程度、人を選んで友達になる。一緒にいて自分にプラスになる人またはおしゃれ感覚で友達を選ぶ人さえいる。

私はその枠からもれてしまった。私は彼女達からみたら痛い系の人に入るのかも。

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私は熊手のお母さんが苦手だ。だって見た目に凄くこだわるから。

テレビを見れば、あの人は綺麗だ。この人は綺麗だ。と顔や体形の話ばかり。私や熊手にも痩せろとうるさい。

もちろん痩せるのは悪くないけど、なんだか嫌味な言い方してくるんだ。

私が美人といわれる枠に入れたら、そりゃ世界は変わると思う。世界って言ってもたかが知れてる私のちっぽけな世界だけど。

優越感てのも味わえるかも。おしゃれしてしゃなりしゃなり歩けるのかも。あっちの住人になれるわけだ。
男性から声をかけられて友達も出来るわけだ。そんで自信とかいう堅い鎧を身に付けることが出来る。ちょっとやそっとじゃ割れない堅い鎧。

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今の私は裸でいるようなものだ。だからいつも怯えて、恥ずかしくて情けないんだ。

内心いつかはあっちの世界に行きたいと思ってる。というか行けるって努力もせずに夢みてる。

でも、写真に写る自分をみたら気付くんだ。あぁ、私は一生こちらで暮らすんだって。私はでかい事を夢見る癖に努力はしないダメな子なんだ。

でもって、段階を踏むのが苦手。すぐに一段抜かして階段を上ろうとするから足を踏み外して一番下に転げ落ちる。

熊手にも言われた、一個ずつやらなきゃダメだ。すぐに全部やろうとしちゃダメだ。って。

わかってるよ、熊手。だけど、熊手は知ってるはずだよ。私はわかってても無理してしまうって。コツコツが苦手なのよ。

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まあでも、熊手の言うとおりなんだ。熊手はいつもマイペース。なんでも１人でやって生きてきた。昔は熊手も私みたいな気持ちになったことあるって言ってた。

死にたいと思ったこともあるって。だけど今は弁天がいるから大丈夫だと言ってた。熊手はもてなかったから弁天が初めての女。

熊手よ。君はハズレくじを引いてアタリだと喜んでる。君が引いたのは正真正銘のハズレよ。

いつ気付くのかな？気付く前にアタリくじになってあげなきゃなんて考える。また考えるだけで行動しないんだけどね。

こう見えて熊手は女らしい上品な女が好きだ。でもってナチュラルな女。まあ本心じゃケバケバでも綺麗ならいいのかもしれないけどね。

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でもね、熊手自身は結構ダメなルックスだ。デブだしハゲてるし微妙にオタクだし。良いところは物知りだし背が高い。とこくらいだな。

初めは熊手のこと嫌いだったな。嫌いっていうかキショイと思ってた。もちろんこんなこと言う私もキショイが。

でも不思議なんだ。絶対付き合うなんて思ってなかった。ていうか、絶対嫌だった。なのになんでかな？今は熊手が居なきゃダメだ。熊手に依存してるのかも。
でもさ、内心はかっこいい男がいいよ。だから熊手からのプロポーズも断わってきた。でももし、私が綺麗になったら熊手と別れるのかな？それとも今まであった何かが変わってもっと素直に好きになるのかな？

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熊手いわく、私は綺麗になったらさっさとどこかに行きそうらしい。でもさ、プロポーズ断っておいてこんなこと言うのは変だけど私が綺麗になったら素直な気持ちで熊手を好きになれるんじゃないかと思うの。
理由はないけどなんかそう思うの。熊手に対して私は酷い事をよく言う。まあ良く言えば本心を口に出して熊手に伝えてる。

熊手の見た目が嫌い。不潔なとこが嫌い。とか、私は本人目の前にしてずけずけ言う。その逆に熊手はあまり私に何かを求めてこない。だからこそ、熊手は何考えてんだかわかんない。
内心熊手だって綺麗な人がいいに決まってる。綺麗ごと言うなよ、熊手。嘘臭いぞ。私だけを愛し続けるなんていうなよ。信じたら私はどうなるんだ。あんたみたいな、おっさんに恋しちゃうじゃないか。

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めがねっていうDVDを見てる。私はかもめ食堂が好きだったから同じ雰囲気のめがねを借りた。

私が好きな景色や料理。もう昨日から三回も見ている。

この感じが大好きだ。内容的には濃くないけど何かを感じる映画だ。見るってより感じるような。なんだかほのぼのする。

自分もそこで一緒に座ってるような感覚におちいる。友達もいない私が勝手に仲間入りさせてもらってる。
現実にはこんな人間いないと思う。居ても出会うことがないかも。今まで生きてきてそんな人には出会ってない。

やはり映画なんだよね。現実は厳しい。冷たいんだ。もちろん私だって同じく冷たい生き物。人と自分を比べ、上だの下だの勝手にランキングをつけて並べ、強い人に付き弱いものは見捨てる。

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当り前のようにそうやって世の中を渡り歩いた。誰に教わったわけでなく。

でも、矛盾を感じてた。当り前にしていた私の習性だったのに虚しさを感じてた。

心まで醜くなりたくなくて人との繋がりをなくした。いじめや仲間外れ、人に優劣をつけたりするのが嫌になった。嘘臭い愛想笑いも話したくない内容の会話。もう、嫌なんだ。

でも、これも逃げの１つなんだと思う。私はそうやって自分を正当化して逃げてきた。

人と関わるってなんだろう？仲良くなるってどうしたらいいんだろう？上辺だけじゃなくてね。

そんな友達が生きてるうちに出来るかな？逃げてたらいつまでも出会えないよね。

変わらなきゃいけないのは私なんだと気付いた。

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変わるっての心はもちろん見た目もだ。まずはだらしなく汚ない生活を改めなきゃいけない。

箸を正しく使ったり犬食いしないようにしたり、何をするにも焦ってテキトーではなくてゆっくり的確に。
それがなかなかできない私だ。改善するには時間がかかる。でも、やらなきゃ始まらない。とりあえず出来ることから始めよう。

ゆっくり話そう。相手の話をきちんと聞こう。すぐ怒らない、すぐに逃げない。ゆっくりとじっくりと人を見よう。

挨拶をしよう。すぐにいじけない。すぐに暴れない。マイナスなことばかり口にしない。私は私に自信を持とう。自分を卑下しない。私は私のペースで私であればいい。

熊手には素直に甘えよう。熊手を叩かないようにしよう。熊手を困らせないようにしよう。

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これ全部できる頃に私はどんな人になってるのかな？私はどんな考えでどんな言葉を話どんな立ち振舞いをするのかな？なんだか、なってもいない未来の自分に期待してワクワクしてしまう。

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