漫画・アニメ・特撮・小説など名言名文の板📝
漫画・アニメ・特撮・小説などの名言名文を記してゆく板📝。
- 投稿制限
- 参加者締め切り
だが、俺はハナだけはそこそこいい。何しろ魑魅魍魎渦巻く大学病院で曲がりなりにも二十年近く在籍し続けているのだから、俺は、西郷の呟きに重要な秘密の鍵があることを嗅ぎ当てた。だが今回は深追いする時ではない。
代わりにひとつ質問を投げる。
「あの、初めて会った人に必ずする質問があるんですが、お尋ねしていいですか?」
西郷は首を傾げ、どうぞ、という表情をする。俺は尋ねる。
「西郷先生のお名前の由来を教えてください」
西郷は一瞬考え込んで、言う。
「綱吉は、僕が生まれた時にオヤジが可愛がっていた土佐犬の名前です。僕が生まれるのと前後して死んだので、僕は綱吉の生まれ変わりだ、と言っていました」
犬の名前をつけられたのか。これは初めてのパターンだ。だが、土佐犬と言われれば、そう見えてくるから不思議なものだ。
西郷は明らかにつけ加える。
「ちなみに綱吉は、土佐闘犬界では生涯無敗、永世横綱だったらしいです」
白い綱を巻いた土佐闘犬の姿と、目前の西郷が一瞬重なる。
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』11章 上州大学法医学教室教授・西郷綱吉 本文 田口公平 西郷綱吉 より
田上医師、警察官ふたり、加納警視正、白鳥室長、そして俺の六人が見守る中、遺体CTが施行された。スライスが胸部にたどりついた時、俺たちの目の色が変わった。
白鳥が呟く。「肺が水浸しだね」
「死因は溺死だな」と、加納警視正が俺を見て、続ける。
「死因は陸(おか)の上にあった。間違いないな」
俺はうなずく。加納警視正はふたりの警察官を振り返ると、言った。
「これはコロシだ。直ちに捜査本部を立てる。いいな?」
それから田上医師を横目で見ながら、言う。
「この遺体は司法解剖に回す。直ちに横浜港湾大学の法医学教室へ搬送」
ふたりの警察官が身を縮めてうなずく。加納警視正は吐き捨てる。
「陸の上の溺死、ねえ。こんなもんに心不全だなんて診断書を平気で書くもんだから日本はコロシ放題の国になっちまったんだ」
警察官ふたりが遺体の搬送に取りかかる中、田上医師は、加納警視正の言葉に突き刺されたかのように、ぴくりとも動かなかった。
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』16章 東京都23区外の死体 本文 田口公平 白鳥圭輔 加納達也 田上医師 警察官ふたり より
白鳥は目を細めて、ぽつりと言う。
「科学捜査を標榜しながら、画像ひとつ標準化できないんだから」
加納警視正は煙草を投げ捨てて白鳥に言い返す。
「その点は、ひとこと言いたいね。お前のお膝元、厚労省だっていまだにエーアイを認知しようとしないのはなぜだ。費用もつけない。費用がつけば、死亡診断書記載の際の義務化だってできる。担当の医療安全課は何をぐずぐずしてるんだ?警察庁(ウチ)はお前に言われてから俺が細々始めたのに、こっちが先に予算をつけちまったぞ」
白鳥はため息をつく。
「仕方ないよ。だって厚労省には新しいものを作る気概はないんだから、医療事故調の設立だってどうなるやら」
加納の眼が光った。
「そうか、やっと医療事故調が立ち上がるのか」
すかさず俺は、昨日の会議で聞きかじった知識をもっともらしく披露する。
「そうなんです。それで、白鳥室長の『モデル事業』はお役御免になったらしいですよ。なんでも医療安全啓発室というところがやるらしいです」
何となく気持ちがよく、いつもウワサを運んでくる兵藤の気持ちが少し理解できた。
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』17章 湾岸線の夜明け 本文 田口公平 白鳥圭輔 加納達也 より
目を細める。
ボストンバッグを両手に提げ、小柄な女性が佇んでいた。ほっそりした身体を包むのは薄紫のコート。グレーのつば広帽子に細かい雨粒を真珠のように飾りつけている。
「来たのか」
帽子を目深にかぶった女性は、目を合わさずに、言う。
「戻れ、と命じられましたので」
「クリフが伝えたのか」
女がうなずく。彦根は目を細める。
「バカなヤツ。僕なら絶対に伝言なんか伝えない」
女は顔を上げ、まっすぐ彦根をにらむ。次の瞬間、白く華奢な手が彦根の頬を打つ。
華やかな音に、異国の人々が振り返る。短い指笛と含み笑いと共に、ふたりの傍らを通り過ぎていく。
女はひとこと、言い放つ。
「人の心をもてあそぶのはやめてください」
打たれた頬を押さえて、彦根は微かに笑う。
「クリフに口説かれたか、シオン」
シオンは小さく首を振る。
「あの人は紳士(ジェントルマン)でしたから」
「そうか、それはよかった」
佇むシオンの肩に手を置き、彦根は言った。
「では帰ろうか、シオン。いざ黄金の国、そして汚濁の国、ジャパンへ」
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』24章 ミラージュ・シオンの帰還 本文 彦根新吾 桧山(ひやま)シオン
懸命に復帰の道を模索する葉子の脳裏に、ひとつの言葉が浮かび上がる。
「あの、警察医の現場にエーアイがあったらどうなっていたと思いますか」
須永医師は首をひねる。
「エーアイ?何だね、それは」
「死体の画像診断です。現場での判断材料に画像診断を使えたら、須永先生の心労もかなり減るのではないでしょうか」
葉子の言葉に、須永医師は遠くに視線を投げた。
「そうか、今ではエーアイというのか。私も十数年前、警察にCTを使わせてもらいたいと頼んだが、費用は出せない、と断られて以降、考えもしなかった。あの時そうなっていれば、今回の事件も未然に防げただろう。だが、もう遅い」
最後は自分に対する呟きのように、須永医師は大きく伸びをした。
「散歩に出るから、このあたりにしてもらおうか。記事は勘弁してくれ。警察医資格の取り消しは、今の私にはむしろ有り難い。今となっては、ただ、静かに暮らしたい」
葉子は肩をすぼめ、診察室を後にした。
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』26章 警察医・デッドエンド 本文 別宮葉子 須永医師 より
白鳥はため息をつく。高嶺が言う。
「短期決戦だから、心してかかろうぜ。それにしても、確研カルテットが一堂に会するなんて、な」
「確率研究会、略して確研か。ひどい集まりだったね」
高嶺は立ち上がりながら続ける。
「俺が不思議なのは、お前みたいなバリバリの合理主義者が、どうして坂田局長みたいなおバカな人の下にいるのかってことだ。よく我慢できるな」
白鳥は笑う。
「それは誤解だよ。坂田さんはバカじゃない。アホなんだ」
どこが違うんだ、とむっとした口調の高嶺に、白鳥は目を細めて答える。
「アホじゃなければ、僕の上司は務まらない。局長でありながら、次官になりたいのは自分をバカにした連中を見返すためだなんて無邪気に本音を語れる人が他にいるかい?僕に出世欲はないけど、出世を目標に掲げる人をバカにはしない。組織の中で生きるならその方が健全さ。そんな心を無理に隠そうとするから、霞ヶ関の連中は性根が歪んでしまうんだ」
「お前が無能にそこまで寛容だとは、初めて知ったよ」
白鳥は笑う。
「無能には二通りあるんだ。害悪な無能と、役に立つ無能。前者がバカで後者がアホ。もっとも財務省にいたら、無能という言葉自体が死語なんだろうけど」
「それなら俺を支持しろ」。俺はいずれこの国のトップになるんだから」
「相変わらず格好いいね、高嶺」
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』27章 プリンス高嶺 本文 白鳥圭輔 高嶺宗光 より
昼飯時の『満天』は満席だった。ランチセットを注文した俺が会計を終えて振り返ると、彦根はすでに窓際のテーブルを確保し、俺に手招きをしていた。
----これじゃあ、どっちの勤務先かわかりゃしない。
俺は苦笑する。煌めく才覚は日常のささいな挙動にも見てとれる。その行動は早く、そして明晰だ。そういえばコイツは昔からものおじしないヤツだった。
雀荘に入り浸っていた学生時代の俺たちは『すずめ四天王』と呼ばれていた。他の面子放射線科准教授・島津と救命救急センター部長の速水。そこにこの彦根と俺を加えた四天王で打った、卒業記念麻雀を思い出す。最下位独走中の俺がオーラスで一矢むくい、速水をトップから引きずり下ろした。だがその局のトップは、面子の中でただひとりだけ卒業とは無関係の、二学年下の彦根だった。
彦根とは、そういうヤツだった。
(略)
「検討会で知り合った法医学者にも同じことを言われた。外からはそう見えるんだな」
「その法医学者って、ひょっとして西郷教授ですか?」
俺がうなずくと、彦根は嬉しそうに言う。
「西郷教授とも面識があるなら、話は早い」
世界の輪がひとつ縮まった。世界は有限で思っているほど広くはない。誰でも六つのコネクション・リンクをたどれば、米国大統領にさえたどりつけるという話を聞いたことはあるが、医学の世界は狭く、リンク三つで知り合いの庭にたどり着く。
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』28章 遠来の旧友 本文 田口公平 彦根新吾 より
「今の話が本当なら、お前は信頼してくれた仲間を売って、自分が望むポジションを手に入れたように見えるが」
彦根はうっすらと笑う。
「はたからそう見えても不思議はないです。でもそんなことはない。医師会でこんなポジションを取ることなど、僕の性格とは合わない。田口先輩なら理解してくれますよね?」
「まあな。だが俺の知る彦根は、医師のストライキのフィクサーなんて大それたことをするようなヤツではなかった」
彦根は笑う。
「僕が上昇志向にあふれ、腹黒く動くとウワサするのは、道理がわからない連中です。だけど先輩にはわかってもらえるのでは?いや、先輩にしか理解してもらえないかも。バチスタ・スキャンダルでただひとり、リスクマネジメント委員会委員長という要職を手に入れた『焼け太りの田口』という世評を得ている先輩にしか、ね」
ぐうの音も出ずに黙る。相手のふところに踏み込んだ説得法。そういえばコイツは合気道部だった。相手の力を用いて投げ飛ばす。見事な切れ味だ。
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』29章 フィクサー・ヒコネ 本文 田口公平 彦根新吾 より
小倉委員は肩をすくめた。彼の胸に渦巻く憤りはきっと、俺の中にあふれる疑念と同じだろう。
----この事故調は、何のため、そして誰のために作られるのだろう。
西郷が俺に教えてくれた、解体される社会保険庁を失職する職員の受け皿施設、という言葉が脳裏をよぎる。さすがに口には出せなかったが、その憤りのおかげで忘れかけていた任務を思い出す。場を見回すと、まるで天があつらえてくれたかのようなチャンスボールが目の前を転がっていた。議論が噴出し、熱し過ぎた時に発生する一瞬の沈黙のはざま。
----解剖を土台に置けば、解剖制度は崩壊していますから。
彦根の言葉が脳裏をよぎった瞬間、俺はマイク・スイッチを入れた。
「解剖主体の制度設計に無理があったんです。ここで新しい手法を提案します」
田島座長と八神課長の視線のホットラインが行き来する。ふたりの意志は即座に一致、俺の発言の封殺を決定。だがアイ・コンタクトでは実働部隊の発動はできない。
一瞬のエアポケットの中、俺が蹴り込んだボールは、ゴールネットを揺らした。
「解剖の代わりに、エーアイをベースに置いた制度を構築すればいいんです」
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』30章 田口、奮闘す 田口公平 彦根新吾(回想) 小倉勇一 田島勇作 八神直道 より
俺はふと尋ねる。
「白鳥調査官は携帯が大嫌いのはずだが、よく持たせることができたな」
「そうか、それでか……」
彦根は呟くと、顔を上げ、俺に言う。
「終わった後で、まるで一刻も早く手放したいと言わんばかりに投げ返してきたから変だなとは思ってたんだけど、白鳥さんって実は携帯アレルギーだったんだ」
さすがは病理医、たった一言で、白鳥の病状を診断してしまう。彦根はくすりと笑う。
「実はもうひとつ妙なことがありまして、白鳥さんから携帯を返してもらってからというもの、携帯の『圏外』表示がなぜか『論外』になってしまうんですよ」
俺と彦根は顔を見合わせて、黙り込む。次の瞬間、ふたりして大笑いした。
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』終章 海風の行方 本文 田口公平 彦根新吾 より
彦根は笑って答える。
「白鳥さんはモンスター官僚ですからね。でも、もっと手強いのは、官僚という名のモンスターです。白鳥さんの本当の敵は案外、身内である彼ら一般官僚なのかもしれません。だったら僕たちはその突然変異の力をうまく利用するに限る」
俺は、その表現の妙に、ふと笑う。
「なるほど、毒を以て毒を制すか、か。モンスター官僚の最大の敵は、官僚という名のモンスター、というわけかもしれないな」
俺の呟きは、たいそう彦根のお気に召したようだった。
「今の言葉を聞いて、なぜ僕が、無礼で傲岸な白鳥さんにシンパシーを感じてしまうのか、わかった気がします。官僚の鬼っ子である白鳥さんの敵は、僕たちの敵。共通の敵を有しているから、味方だと勘違いして近しく感じてしまうのだな」
俺は思わず言う。
「今の台詞を聞いたら、白鳥調査官は気味悪がるぞ。『悪いけど僕たちって言うのやめてくれないかな。ロジカル的には納得できるけど、どうも胸がもやもやする』くらい言いそうだ」
白鳥の口調を真似た俺の台詞に、彦根が即座に反応する。
「うわ、そっくりですね。田口先輩は白鳥さんのよき理解者なんですね。ひょっとしておふたりは仲良しなんですか?」
俺はフォークを皿に投げ出し、ナイフの先を彦根に突きつけて、言った。
「お前、その台詞は二度と口にするな」
ドスを利かせた俺の声にびびった顔をして、彦根は俺を見つめた。それから勢いに気圧されたように、黙ってこくこくと何度もうなずいた。
海堂尊『イノセント・ゲリラの祝祭』終章 海風の行方 本文 田口公平 彦根新吾 より
黒崎は黙り込む。
「天才って、本当にいるんですね」
黒崎助教授は世良を怒鳴りつける。
「今の言葉、教室員の前では二度と口にするんじゃない。ただでさえあの生意気な小坊主は、医師を引っかき回している。そんな評価を若手の筆頭のお前が言ったとわかれば、さらに図に乗る」
部屋を出ていこうとしてた黒崎助教授は、振り返って言い放つ。
「そうなったら、あたら才能を腐らせる。渡海(とかい)の二の舞だ」
三年前に医局を去った手術室の悪魔、渡海征司郎(せいしろう)の後ろ姿を、世良は思い出した。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの凱旋』伝説----1991 本文 世良雅志 黒崎誠一郎(助教授時代)より
「どいたどいた」
救急隊の言葉によろけた黒崎助教授の傍らを一陣の赤い風が吹き抜けた。
血染めの白衣を身にまとった速水だった。速水はストレッチャー上の患者を手早く診察すると、隣の黒崎助教授の存在に気づいた。
ちらりと黒崎助教授を見て、言う。
「大腿骨折です。黒崎助教授、整復をお願いします」
それが自分に対するオーダーだということに、黒崎はすぐには気づかなかった。やがて速水の言葉の意図を理解した黒崎は、顔を真っ赤にして怒鳴り声をあげた。
「研修医風情がワシに向かって命令するな。まず、状況報告だ」
血染めの将軍、速水は即座に言い返す。
「患者は屋上から飛び降りて大腿骨折。ただちに整復を要する。補液など、周辺処置を含め、整復後、整形外科病棟に上げる必要あり。確認は後日」
「指示を訊いているんじゃない。状況を報告しろ、と言っているんだ」
速水は腕組みをし、傲然と言い放った。
「見りゃわかるだろ。火事の修羅場でひっちゃかめっちゃかだ。グズグズ言わずにとっとと自分の仕事にかかれ」
搬入された次のストレッチャーに駆け寄った速水は手早く見て取る。
「あんた、歩けるだろ。奥のぼさっとしたヤツのところで話を聞いてもらえ」
言い残した速水は、風のように別のユニットへ向かった。
黒崎は呆然と速水の姿を見送った。世良が黒崎の背中に手を当てて押す。
「叱るのは後でもできます。今はヤツの指示に従いましょう。ほら、あそこが私たちが貢献できる場所のようです」
世良助手が指さした場所では整形外科の数人が骨折の処置を行っていた。
黒崎助教授は何かを言いかけた。だが結局黙り込み、世良に従った。
速水は戦場を視察する将軍のように、ゆっくりとホールを歩き回る。ホールの片隅の机を積み上げた一画にたどりつくと、その上に上り仁王立ちになる。肩から掛けた血染めの白衣が、風もないのにふわりと揺れた。
速水の横顔を、夕陽が赤々と照らしている。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』伝説----1991 本文 速水晃一 世良雅志 黒崎誠一郎 より
※『ジェネラル・ルージュの凱旋』にある黒崎教授の場面と興味ある方は読み比べてみてください📝。
二日後、入院患者があらかた退院し、平穏に戻った東城大学医学部付属病院には、国際学会を成功させた佐伯総合外科の面々が凱旋した。医局の面々はテレビ報道や新聞で城東デパート火災を知り、各々が持つ病院との情報ネットを駆使し、未曾有の大惨事に対応したのが医局の暴れ馬、速水であることを知った。
医局員は、速水がこれまで以上に増長すると予想し、叱責できないであろう自分の姿を思い浮かべ、げんなりしていた。だがいざ医局に戻ってみると、意外にも速水は以前よりおとなしく、上司の命令にも歯向かわず、他の一年生と同じように、淡々と日常業務に励んでいた。そのあまりの変貌ぶりに怪訝に思った指導医(オーペン)たちは、速水は今回の件で重大なミスを犯したのではないか、などと邪推した。だがどこをどう調べてみても、そのような事実はなかった。
やがて城東デパート火災事件もいつしか日常業務の中に埋もれ、風化していった。事件後も相変わらず速水の姿は付属病院新棟の屋上で時々見かけられた。屋上の速水は手すりにしがみつき、遠く水平線を見つめていた。
そんな速水をいつしか、上司連中は煙たがる気持ちから、そして速水より下の人間は畏敬の念を込めて『ジェネラル・ルージュ』と呼ぶようになった。
東城大学医学部に語り継がれる『ジェネラル・ルージュ』の伝説は、こうして今日の桜宮の医療へと連綿と続いていく。それから十数年後、速水は東城大に創設された救命救急センター、通称オレンジ新棟の輝ける星として、桜宮の医療に君臨することになるのだった。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』伝説----1991 本文 速水晃一 他 より
そんな風に三船の希望を打ち砕いた元凶は、よくわかっている。
オレンジの悪魔。救急患者なら何でも受ける。収益という概念が現代社会を支配しているという、当たり前の真実を理解しようとしない大馬鹿者。金の話を持ち出すと、鼻で笑って相手にしようとしない。
まあ、悪いことばかりでないことは認めよう。東城大学医学部付属病院救命救急センターはメディアが医療を貶めようとする時に使われる差別用語、「たらい回し」という言葉と対極にある。桜宮市はそうした悪評から逃れている、全国でも数少ない都市だ。
しかし、と三船は思う。
それがいったい何だというのだろう。「たらい回し」をすればメディアから一斉砲火で叩かれるが、その「たらい回し」のない素晴らしい街、桜宮市が賞賛されたことなど、一度もない。だからこうした縁の下の力持ち的な素晴らしい業績を達成しても経済効果は低い。我が厚生労働省は経済的な自立という大原則を医療現場に課しているのだから、オレンジの悪魔を飼っていることは、東城大学医学部付属病院にとっては極めてコストパフォーマンスが悪いわけだ。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』疾風----2006 本文 三船事務長 より
三船は昨日の大荒れの会議を思い出す。
あのオレンジの悪魔があんなあっさりすべてを投げ出すとは思わなかった。
だが、三船の思惑が狂った部分もあった。オレンジの悪魔を退治したあと、大学病院の切り札と目してた沼田准教授の裏の顔も見えてしまい、彼を中軸にして病院経営の立て直しを図ることに不安を抱いてしまったのだ。
その点では、三船事務長も速水同様、沼田にハメられた被害者だった。
三船の希望はオレンジの悪魔を退治することだった。だがその目的がいざ叶ってみると、オレンジの悪魔イコール速水ではなかったことに気がづいた。
速水は、本物の悪魔が東城大を蹂躙(じゅうりん)するのを、水際で防いでいた防人(さきもり)だった。
----私は、その守護神を東城大から追い出す算段に手を貸してしまった。
ちらりと後悔がよぎる。だがすぐ次の瞬間、その想念をを振り払う。
速水がいる限り、目の前に積まれる書類の山はは永遠に増殖し続ける。それは三船の精神を侵食し、やがて破壊してしまうだろう。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの凱旋』疾風----2006 本文 三船事務長 より
タクシーは走り続ける。車の振動に合わせ、千春は華奢な身体を三船の方に倒してきた。消毒薬の匂いがかすかに鼻をつく。
千春がささやくような声で言う。
「救急車が病院に着いた時、あなたの顔が見えて、ほっとしたわ」
「そんなことないさ。私は君に何もしてあげられなかった。現場では私は無力だ。何もできない。それは君だって知ってるだろう」
「ううん、それは違う。私、あなたが一生懸命、怪我した人に声を掛けてるところを見てほっとしたもの。私、あなたのおかげで気が楽になった人も大勢いるはずよ、絶対に」
最後の言葉に力を込めて、千春は言う。
脳裏に、颯爽(さっそう)と戦場を駆けめぐる速水の後ろ姿が浮かび、流星のように消えた。
千春が、暗い車窓に映った三船の横顔を見つめながら、ぽつんと言う。
「いい病院ね、東城大って」
千春の、握りしめた指先に力がこもる。三船は唇を噛むと俯いた。
いい病院なんて、ない。いい医者がいる病院があるだけだ。
胸の中に熱いかたまりが込み上げてくる。
噛み殺しても噛み殺しても、嗚咽(おえつ)を抑えることができない。
車は、怪我をした女と心を痛めた男を乗せ、東城大学から遠ざかっていった。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』疾風----2006 本文 三船事務長 三船千春 より
隣で髑髏革ジャンがわめき立てる。
「何をのんびりしてるんだよ。モエが信じまうだろ。早く治してくれよ」
「静かにしろ」
佐藤部長代理が 一喝する。膝の傷を翔子に巻いてもらっている髑髏マークは一瞬黙り込む。佐藤部長代理は続ける。
「救急医は、こうやって症例を学びながらでないと育っていかない。君を助けられるのも、過去に同じようにして先輩たちが俺たちに教えてくれた結果なんだ」
「そんなの俺たちゃ、関係ないじゃん。モエが助かればどーでもいいんだ」
佐藤部長代理はため息をつく。
「そう思う人間には何を言ってもムダなんだけど」
田上研修医に向きを変えると、声を張り上げる。
「これでまっさきに頭部外傷を浮かべるセンスだと患者を殺す。顔色を見ろ。真っ青だろ。大量出血が疑われるが、一番に疑うべきは腹部外傷による腹腔内出血だ」
佐藤部長代理は顔を上げる。
「隣のCTで緊急撮像。部位は胸腹部優先、続いて頭部を撮る」
田上研修医はのろのろとストレッチャーを運ぶ。深夜四時、人間の活動能力が低下する時刻。佐藤部長代理の耳に、電話のベルが鳴り響く。
「妊婦の陣痛?無理です。他を当たってください」
受話器を置いた佐藤はストレッチャーを追う。追いすがり、小松が問いかける。
「佐藤部長代理、今のはまさしく受け入れ拒否、救急患者たらい回しの現場では?」
佐藤部長代理は足を止める。そしてゆっくり振り返る。
「マスコミの報じる“たらい回し”とは、こういう状況を指しているんですか?」
冷ややかな語調に、小松は息を呑む。せれから勇気を絞り出すように言う。
「患者さんの視点から考えればそう言われても仕方がないのでは?」
佐藤部長代理は小松を見つめた。それから静かに答える。
「あなた方がそのように報じるなら、きっとそうなんでしょう。でもこんな状況で、いったいどうしろというんです?この状況の下、未知の患者をほいほい受けて救命できなければ、その時は医療ミスとして非難されるんですかね」
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』残照----2007 本文 佐藤伸一 如月翔子 田上研修医 小松ディレクター 髑髏革ジャンの男 より
何も言わずに通り過ぎようとする。その背中に髑髏は追い打ちをかける。
「医療ミス、するんじゃねえぞ」
佐藤部長代理は振り向いて、髑髏男を見つめた。視線がぶつかる。
その間に如月翔子が割って入る。
「何を言っているの。そんなにモエさんが大切なら、どうして事故った時、黙ってたの。ぎゃあぎゃあわめくヒマがあったら、モエさんがどこかにすっ飛んだくらいこと、救急隊に告げられたはずでしょ。あんたは自分のことしか考えてない。モエさんが危なくなったのは、搬送されてくるまでに時間が掛かりすぎてしまったから。モエさんが死んだら佐藤先生のせいじゃない。あんたのせい。こっちのせいにしないで」
翔子の啖呵に、髑髏男は言い返せない。佐藤部長代理が肩をぽん、と叩く。
「もういいよ。命との闘いの代理戦争に指名さろたのはソイツじゃない。俺たちさ。無駄口を叩かずに急ごう」
遠ざかる足音。外来ベッドの上にひとり置き去りにされた髑髏男は、憮然として天井を睨み続けた。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』残照----2007 本文 佐藤伸一 如月翔子 髑髏革ジャンの男 より
佐藤部長代理は静かに答える。
「君は怪我の範囲は広いけど、傷は浅くてどうってことないから、帰宅してもらう」
一瞬、髑髏男は佐藤部長代理の言葉が理解できなかったようだ。やがて言葉の意味が傷だらけの身体に沁みわたってきたのか、吠えるように罵る。
「何言ってんだ、あんたは。俺は交通事故の怪我人なんだぜ。そんな扱いしていいのかよ。頭を打ってるかもしれないんだぞ」
佐藤部長代理は微かに笑う。
「こんな扱いは、本当はよかないさ。でも仕方ないんだ。明朝、改めて整形外科外来を受診し直してほしい」
「仕方がない、だって?それが医者の台詞かよ」
佐藤部長代理はカメラを意識の片隅にしながら、きっぱりとうなずく。
「そうだ、それが今の医者の台詞だよ。古き良き時代は終わったんだ」
髑髏男は上半身を持ち上げて、テレビカメラを指さして言う。
「あんたたちテレビだろ。聞いたか、今の横暴な台詞。だから医者は信用できないんだ。この事実をしっかり報道してくれよ」
隣で聞いていた如月翔子が身を乗り出して髑髏男に言う。
「何勝手なこと言ってるの。ICUベッドは満床よ。そこへ君たちカップルが事故で運び込まれ、本当ならあと二日ICUで様子を見るはずだった水上さんというお婆ちゃんが小児病棟に押し出された。そこに入るのはあんたの恋人。彼女は仕方ないわ、手術したばかりだから。でも、あんたが酔っぱらい運転で事故らなければ今夜の病院は平穏で、水上さんを心ゆくまで看護できた。あんたの軽率な行為がみんなに迷惑を掛けた。その尻拭いをどうしてあたしたちがしなければならないの?手術中、電話が四件掛かってきて、中身も聞かず断った。その様子をテレビが記録してる。この人たちがその場面を垂れ流したら、オレンジの評判はがた落ちになって潰れちゃう。そしたらもう、あんたの行き場所はないし、あんたの恋人だって助けられないのよ」
髑髏男は翔子の剣幕に気圧され黙り込む。ふたりを、テレビカメラが凝視していた。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』残照----2007 本文 佐藤伸一 如月翔子 サクラテレビスタッフ 髑髏革ジャンの男 より
小松がおそるおそる尋ねる。
「あのう、お気に召しませんでしたか?」
夢から醒めたように、佐藤部長代理が顔を上げる。それからゆっくり笑顔になる。
「気に入らない?とんでもない。素晴らしい出来です。個人的にも素晴らしすぎる。とっても気に入りました」
「よかった。じゃあ、オンエア、オッケーですね?」
小松の安心した声が響く。スタッフルームに明るい空気が流れた。幸運にも画面に映ったスタッフは心なしか頬を上気させ、映らなかった者たちは、つまらなさそうな顔になる。そんなスタッフの表情を見回してから、佐藤部長代理が答える。
「残念ながら、オンエアは承諾できません」
メンバー全員、驚いて佐藤部長代理を見つめた。小松が小声で尋ねる。
「なぜです?みなさんの素晴らしさを前面に押し出した番組を作ったつもりですが」
佐藤部長代理はうなずく。
「ですから正直な感想を申し上げました。個人的には素晴らしい出来です、と。でもこのままこの番組をこのまま放映されては困るんです」
「先生方が非難される場面など、ひとつもなかったはずですが」
佐藤部長代理は首を横に振る。
「その通りです。だからこそ、これは現実を映していないんです。救急受け入れを断った場面が入っていない。外来で怪我した患者にからまれた場面も削られている」
「まさかそこをオンエアしろ、と?」
佐藤部長代理は首を振る。
「そういう短絡的な話ではないんです。要は比率の問題です。この番組は、私たち救急現場のスタッフががんばってる、という映像です。だけど私たちだってヒマな時はぐうたらしているし、患者を受け入れられなければ拒否もする。その場面も同時に流し、どうしてそうなるのか伝えないと、正確な救急現場の報道にはならないんです」
「お話はわかりますが、不可能です。番組の尺は限られているんですから」
「でしょうね。だから不正確な情報を流されるくらいなら、流さない方がいいと判断しました」
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』残照----2007 本文 佐藤伸一 小松ディレクター より
小松は佐藤部長代理を見つめた。やがてため息をついた。
「わかりました。放映は諦めます。私も怒られますし、当てにしていたスタッフはバタつきますけど、もともとこういう判断もありうるという前提の上での取材でしたから、取材先のご意向は最大限に尊重させていただきます」
美人ディレクター・小松は潔い。頭をひとつ下げるとあっさり撤退した。それでも未練ありげに、スタッフルームを退出する寸前、吐息のようにひと言残した。
「……でも、本当に残念」
スタッフは、小松の後ろ姿を呆然と見送る。やがて久保副師長が言った。
「いい出来でしたのに。もったいないです。オレンジの宣伝にもなったのに」
佐藤部長代理は肩をすくめる。
「でも正確ではないのでね」
「速水部長だったら、直ちに放映しろ、という鶴の一声だったかもしれませんね」
久保副師長の何気ない言葉に、その場の空気が凍りつく。時計の針がこちこちと時を刻む音が響く。
やがて如月翔子が明るい声で応じた。
「久保副師長、それは間違っています。速水部長だったらこんな取材、来た瞬間に一喝して断ってます。それなら結論は一緒でしょ」
次の瞬間、居合わせたスタッフは顔を見合わせた。そして、全員、笑い転げた。ひとしきり笑い終えると、何かの呪縛から解き放たれたかのように立ち上がり、三々五々部屋を出ていった。
ひとり残った佐藤部長代理は笑みを浮かべることもなく、腕組みをして何かを考え込んでいた。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの凱旋』残照----2007 本文 佐藤伸一 如月翔子 久保副師長 スタッフ 小松ディレクター より
「佐藤部長代理はどうして取材を受けたんですか?」
佐藤部長代理は腕組みをほどいて、答える。
「一度テレビに出てみたかったんだ」
翔子は笑顔になる。
「正直ですね。でも本当はそれだけじゃないでしょう?忙しい病棟のみんなを巻き込んだんですから、他に何かお考えがあったはずです」
佐藤部長代理は再び腕組みをする。それから静かにうなずいた。
「ショウコちゃんには敵わないな。確かにもうひとつ狙いはあった。実はメディアがウチの仕事をどう放映するのか見てみたかったんだ。よくわかったよ。メディアは現場をフィクションに加工して、人々をどこかの桃源郷に導こうとしている。でもその場所は絶対に桃源郷じゃないってことさ」
翔子は、佐藤部長代理を見つめた。
「そんなことを考えていらしたんですねえ。そんな風にメディアを手玉に取れる立派な方が部長に昇進すれば、オレンジ新棟も安泰ですね」
(略)
「今ここであんな番組が流れたら、上層部や市民はこう思うだろう。救急現場は大変そうだけど、まだ現場は頑張れそうだ。現状でここまでやれるなら、このまま見守ろう。そして結局何もしない。やがて俺たちは擦り切れて壊れていく。だけどそれまで救急現場を死守すればそれでいいと考えている。上層部や市民は俺たちを安く使えればそれでいいんだ。あの素晴らしい番組は、そうした気持ちを呼び覚ます。いい出来だった。だからこそ、あんな番組を流されては困るんだ」
佐藤部長代理は、立ち上がってのびをする。
「それにさ、俺が患者に暴言を吐いたのも事実だし、入院させるべき患者を追い出したんだ。そんな場面を流さず、カッコいい所だけを流すのはやっぱり反則だろ。俺は、本当はあの革ジャン野郎を入院させたかった。あの時の判断は、救命救急センターの部長代理としては正当だった、と今でも自信を持って言える。でも、救急医としては最低の判断だったんだよ」
佐藤部長代理はうつむいて、呟く。
「ああ言った瞬間、舐めかけのチュッパチャプスを投げ付つけられたような気がした」
海堂尊『ジェネラル・ルージュの凱旋』残照----2007 本文 佐藤伸一 如月翔子 より
1973年◆六年生。吉川英治の『三国志』を読みふける。すぐさまパクり、クラスメートを主人公に『四国志』を執筆、大学ノート三冊の作品はクラス内大ベストセラーに。その後この作品は散逸。散逸したから言うのではないが、処女作でありながら世紀の大傑作だった。
生徒会長に立候補(させられ)、見事当選。後期に惰性で再び立候補したら、いいかげんさがバレて落選。人心掌握と、選挙の難しさを思い知る。
1974◆中学。夏の間しか稼動しない水泳部に入部。
『刑事コロンボ』にハマる。ノベライズを全巻読破。連動して、エラリー・クィーンなど海外ミステリーにハマる。あと、筒井康隆にハマる。
生徒会役員に立候補(させられ)、性格に合わない、「会計」に当選する。生徒総会で、会計報告の数字が合わないことを指摘され、「計算機が間違っていました」という答弁で乗り切る。だって本当なんだもの。当時の電卓は四〇項目の足し算をすると、毎回数字が違っていた。これは言い訳でなく事実である。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』海堂尊物語 義務教育時代 本文 より
1983◆教養から医学部に上がるバリアで留年。落としたのは人類学という半期の授業ひとつ。剣道部(麻雀同好会?)の悪友に「お前の今年の道場使用料だ」と言われ納得した。ひどい仕打ちだと思い、非常勤講師に抗議し東大に出向いたところ「なら五点プラスするよ」と言われ脱力。当時より東大との相性が悪かったわけだ。あまりにヒマなので、母親のへそくりで御茶ノ水大とのアテネ・フランスでフランス語を学ぶ。こうして浪人時代の願いは叶った。
留年したおかげで、秋の医師薬獣大会団体新人戦(二年生までが出場資格)に大将として三回目の出場をし、見事優勝する。周囲からズルだと言われなかったのは、剣道一筋にかけた当時の私の人徳ゆえだ。だが帰りの電車で、同級生に預けた金メダルをなくされ、天網かいかい疎にして漏らさずということか、と酔った頭で納得し始めた。金メダルは手にしても、手元に残らない。しくしく。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』海堂尊物語 医学生時代 本文 より
1995◆結婚をした。やがて私は論理ではどうにもならない世界があることを思い知らされる。翌年、第一子が生まれる。人格として相手を認める気になる最低限の条件は、シモの世話を自分でできることだ、と心底実感する。
瀬名秀明さんの『パラサイト・イヴ』が大ベストセラーになり、小説の舞台と同じ分子生物学教室で研究をしていたことがあって、これくらいなら自分にも書けると思い込み書き始める。「健康な男子がある日怪我をし、入院先の病院で、真面目な看護婦が一生懸命ケアしてくれるのに、何故か病状が悪化していく」という物語を何も考えずに書き始め、五枚で挫折。この程度の思いつきで小説を書けると信じていた。あの頃の自分の能天気さが信じられない。だがふと今も同じようにやっている自分に気づき愕然とする。
この時のプロットは十年後『螺鈿(らでん)迷宮』として復活する。『螺鈿迷宮』は構想十年というホラを吹いたが、ウソではない。それにしても、どうしてある日突然、書けるようになったのだろう?謎だ。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』海堂尊時代 大学院生時代(外科医+病理医) 本文 より
1999◆治療効果判定病理学の構築が不可能だと気づき、惰性で従来の方法で判定をしていた。そんな時、亡くなった患者さんを供養する「慰霊祭」があった。
供養の席でうつらうつらしながら読経を聞いていた時、ふと閃いた。
「死体の画像を撮れば解決するではないか」
オートプシー・イメージング(Ai)を思いついた瞬間だった。
(略)
2003◆某医療系雑誌で「治療効果判定病理学」なる連載を始める。
Aiについての世界初の英語論文が受理される。
筑波メディカルセンター病院でPMCT(検死CT)を実施していることを知り、責任者のS先生に会いに行く。この時S先生が「十年後にAiの厚生労働省研究班でも立ち上がるといいですね」と言ったので、私は「五年以内に立ち上がりますよ」と予言した。後に私の予言は的中する(というか、強制的中させた?)。ただし当たったのは半分だったが。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』海堂尊物語 病理医時代 本文 より
2005◆海堂尊0歳
(略)
10月 宝島社で顔合わせ。I局長の第一声は「本は売れません」。続いて「今度の作品(『容疑者xの献身』でおそらく)『このミス』一位も直木賞も手にする大作家、あの東野圭吾さんですら(註・本当にこうおっしゃった。今思うとおそるべき予言力である)年三冊以上出版されてます。海堂さんも、書店に並べば東野さんとはライバル。東野さんくらい蹴散らせないと生き残れません。なので、次作をとっとと書いてくださいね」
I局長が言いたいことを言って嵐のように去った後、編集Sさんがててて、と寄ってきて「あの、とっても面白かったです。一気読みでした」と言ってくれた。
その後、最終選考委員の書評家の先生三人(大森望さん、香山二三郎さん、吉木仁さん)と、特別賞の水田さん親子を交えて食事会。最終選考委員の茶木則雄さんがバックレ(選考結果の講評の締め切りが間に合わなくトンズラしたらしい)たが、「ま、だいたいこれでいいんじゃない」という話で、アドバイスはほとんどなかった。大森さんが「タイトルが崩壊だとネタバレだからなあ」と言い、「内容が失墜なら、タイトルは上昇させれば?『チーム・バチスタの奇蹟』なんていいんじゃない」と提案したが、帰途で第一回大賞が浅倉卓弥さんのミリオン『四日間の奇蹟』だと気づき、ダメじゃん、と頭を抱える。だがすぐに「栄光」という単語が浮かび、ほっとした。
宴席でAiがミステリーのトリックとしていかに斬新かと力説したが、反応が鈍い。ようやく編集Sさんから質問があり、謎が氷解した。
「あの、死体の画像診断って、実際は行われていないんですか?」
みんな、Aiは当然行われているんだろうなと考えていたわけだ。これではミステリー的には評価は下がるだろうな、とがっかりしつつも、逆にAiは、一般市民には支持されるんだ、とわかって喜ぶ。立ち直りが早いのは私の美点である。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』海堂尊物語 本文 より
2006◆海堂尊・1歳
(略)
10月 『ナイチンゲールの沈黙』出版。『バチスタ』以上の初速で売れ、発売前重版という未曾有の経験をした。といっても、まだ二作目だから未曾有もないものだが。同時にアマゾンを始めとして、ネット書評では悪評が噴出。判で押したように「前作と比べると」「『バチスタ』を読んだあとでは」と書いていた。違う作品だから、読後感は違って当たり前なのにねえ……。
悪口は愛情の裏返しだと思い、ネット書評には全部に目を通した。だが『ナイチンゲール』に対する 「前作と比較して」の枕詞攻撃はすさまじく、この現象を「チーム・バチスタの呪縛」と名付けた。他の新人作家でここまで呪縛力の強いデビュー作品はあまり見かけないので、まあよしとした。
(略)
12月 ミステリーランキングの季節。「週刊文春 のランキングで三位になった。一位は宮部みゆきさん『名もなき毒』、二位は大沢在昌さん『浪花 新宿鮫IX』、そして四位は東野圭吾さん『赤い指』と連なり、えらいところに来た、と思った。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』海堂尊物語 本文 より
2007◆海堂尊・2歳
(略)
4月 『ジェネラル・ルージュの凱旋』刊行。またも発売前重版がかかった。書店訪問をすると行く先々で、本屋大賞のポップに閉口した。「本屋さんが一番売りたい本」というコピーは、優等生をひいきする教師みたいだ、と思う。以後あちこちで「本屋大賞の主旨はいいけど、あのコピーは変えてほしいなあ」とぼそりと言っては反感を買っている。こんなことでは本屋大賞の道のりは遠い。でもあのコピーは作家の心情に対する配慮を欠いている。「本屋さんが一番売りたいと本」というなら、その時期は本屋大賞の本だけ残せばいいのに、と思う。
本屋大賞の主旨は面白いと思っているので、コピーは変えてほしい。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』海堂尊物語 本文 より
1『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)
(略)
主人公の田口が捜査を投げてしまったのだ。読み返してみると、確かに彼にこれ以上捜査を任せるのは酷だとわかった。なので諦めのいい私は「もはやここまで」とこの物語を封印することにした。それでも初めてニ百枚書けたので、もったいなく感じた。何とかならないかな、とぼんやり考えていた時、天啓がやってきた。それは猛吹雪の中、ガーラ湯沢の四人乗り高速リフトに、ひとり震えて乗っていた時だった。
「そうか、田口と正反対の性格のヤツが、外部から調査にくればいいんだ」
白鳥圭輔誕生の瞬間である。
思いついてから、宿に着くのももどかしく即座に原稿に向かった。というとカッコいいのだが、セコい私は、午前券を使い切るため、震えながらリフトを何往復かして死ぬほど後悔した。
後半の初書きは三日で終了。多くの読者が、後半に突然白鳥が登場してびっくりしたというが、当然だ。なにしろ作者自身が彼の登場にびっくらこいていたのだから。
格言1 敵を欺くにはまず味方から(笑)
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 より
2『ナイチンゲールの沈黙(宝島社)』
(略)
格言2 案ずるより生むが易し
この作品は、生まれて初めて、本になることを前提に書いた物語である。
『バチスタ』がど真ん中の速球とすると、『螺鈿』は外角低めのスライダー。だから新作は、スローカーブにしようと思っていた。それが配球の組立てというものである。
(略)
「上下はダメです、売れないので。でもいいことを考えついちゃいました。ふたつに分ければいいんですよ」という編集Sさんの提案は、それができれば二度おいしいが、それって、上下巻とどこが違うのだろうなどと思いは千々に乱れた。
その時、ひらめいた。----上下がだめなら、左右に分ければいいのでは。
(略)
なおも食い下がる私にぼそりと言う。
「文庫本のスタンダードサイズはこの厚さが一番美しいんです」
あう。世の中、なかなか私のロジックは通用しない。
この物語で、「ハイパーマン・バッカス」なるウルトラマンのパクリ作品を登場させたところ、一部読者からはかなり好評だった。当初はウルトラマン・バッカスとして円谷プロで映像化を目指した野心満々の企画だったが、「著作権上、問題なので絶対に変えなさい」とI局長に言われ、泣く泣く変えた。私は編集さんのチェックも校正さんの指摘も九割は採用し、一割は我を通す。その一割は曲げたことがないが、唯一の例外がこのウルトラマン問題だ。ああ、円谷プロで見たかった。だが私にも意地がある。いつの日か書き下ろし作品を特撮ドラマにしよう、と一回り大きな野心を抱いて、挫折感に折り合いをつけた。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 本文 より
3『ジェネラル・ルージュの凱旋』(宝島社)
ど真ん中の剛速球、あとは野となれ山となれ、という気持ちで一気に書き上げた。脱稿寸前の六月『ナイチンゲール』進行を止め、一気に『ジェネラル』を書いた。苦労はすべて『ナイチンゲール』が引き受けてくれた。糟糠(そうこう)の妻である。モチーフは「飛ばないドクター・ヘリだ」。NPO法人の國松理事長とお会いした後、「吊るし」にあっていたドクター・ヘリ法案が国会を通過した。
◆格言3 江戸の仇を長崎で討つ(ちょっと違うかも)
(略)
後日、シリーズ四冊目が出た時にI局長は、「宝島社の西村京太郎先生を目指しましょう」とおっしゃった。当然、私は聞こえなかったフリをした。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 本文 より
9『夢見る黄金地球儀』(東京創元社ミステリ・フロンティア)
海堂作品はミステリーじゃない、という声が聞こえ始めていた頃なので、一度きちんとミステリーを書いてみたかった。どうせ書くならオファーをいただいた中では東京創元社さんだ。何しろ『ミステリ・フロンティア』だ。これならさすがにミステリーと認知されるだろう。我ながら負けず嫌いである。
(略)
コンゲームを書いてみたかった。私の中でのコンゲーム最高傑作は初期ルパン三世テレビ版だ。まあ私の教養などその程度である。そんな折、一億円の地域振興費の記事を読んだ。土佐高知の金のマグロ像が盗まれたという話が面白く、その時、黄金でできた地球儀のイメージがぽっかり浮かび、あっと言う間にストーリーが出来上がった。
(略)
よろよろと書き上げた時、自分はつじつま合わせの天才だと思った。でも残念ながら『このミス』にはかすりもしなかった(泣)。
◆格言9 捕らぬタヌキの皮算用
作品自体の評判は二分している。他の作品を読んでから流れてきた人にはおおむね不評である。だが、この本から入った人にはかなり好評だったりする。そしてこの作品から他へ流れていった人は、逆に他の作品を読んでおったまげているらしい。
こうしたこともシリーズ物の功罪なんだろう、と思う。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 本文 より
13『極北クレイマー』(朝日新聞出版)
(略)
取材後、あまりに夕張を意識しすぎた作品をやめようと思った。夕張で起こった医療問題は実は日本中の地域で起こっている普遍的な事態なので夕張に囚われすぎると一般性は消失する。そこで北海道の架空都市、極北市に舞台設定した公立病院が潰れるというセンセーショナルな物語にしようと考えた。ところが私の物語ではよく起こることだが、物語が直後に現実化した。千葉の銚子市立病院の閉鎖問題が起こったのだ。『極北クレイマー』連載中で、このまま銚子市立病院事件をひき写しただけだと思われてしまうと焦ったりしたが、何しろ連載は週一回、どうにもならない。目の前でフィクションが現実に追い抜かれていくのを指をくわえて見送るしかなかった。
◆格言13 兵は拙速を尊ぶ
週刊連載は楽しかった。深津千鶴さんのイラストが楽しみで、駅の売店でちら見をすると立ち読みしてしまう。自分が書いたはずなのに……。バカである。
(略)
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 本文 より
14『イノセント・ゲリラの祝祭』(宝島社)
(略)
この物語では、準主役スカラムーシュ・彦根が、内閣府が主導する省庁横断の「死因究明に関する検討会」に召還される場面で終わる。実はこうした会議でもしなければ日本の死因究明制度は機能しないだろうと考えて創作したのだが、その会議が実存していることを知って驚いた。なんと相当する会議から講演依頼が来たのだ。依頼されたのは十月二十四日。『イノセント・ゲリラ』は十一月七日発売だから、原稿は著者の手を離れている時期でこの依頼は、物語を予言したことになる。こういうことは私の物語で時々起こるのだが、知らない人が読めば、「海堂は自分の体験を物語にする私小説作家なのだな」などと決めつけられてしまうだろう。
うんざりである。
それにしても『バチスタ』を書いた頃、私の物語は現実を一〜二年先行していると自負していたのだが、このあたりで現実の速度に創作スピードが追いつかなくなりつつあった。
物語と現実未来が融合していく感覚を何度か経験した。これが物語の予見性というものだろう。精微に現実を写し取ったフィクションは、時に未来を創造するものなのだ。なんちて。
(略)
ちなみに私は政治的にはノンボリで、自民党支持でも民主党支持でもない。あえていえば、Aiを支持してくれる議員、あるいは団体の支持者である。
◆格言14 義を見てせざるは勇無きなり
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 本文 より
(略)
あの朝、ひとりの友人が死んでいた。死因は不明だったが、解剖されなかった。その結果、この桜宮(さくらのみや)の地に大いなる災厄がもたされることになった。
大切なのは、目の前に横たわる友人の死に真摯に向き合う姿勢だった。だが社会システムの壁に阻まれ、叶わなかった。では、俺たちはどうすればよかったのだろう。
そう、エーアイという鈴を打ち鳴らせばよかったのだ。そして俺たちはそうした。
医者の本能というより、友人を悼むという、人として自然な感情の発露だった。
死者に哀悼の意を持たない社会に未来はない。ひとりの死をなおざりにすると、そこに潜む悪意は増幅され、取り返しがつかなくなる。悪意は密かに増殖するが、その姿や立ち居振る舞いは一見親しげにさえ見える。だから俺たちはその腐臭にこそ、警戒しなくてはならない。
一番大切なこと。
エーアイという鈴を鳴らすのは、捜査や医学の進歩のためではない。
ただ、友人の死を悼むためなのだ。
物語は、俺がある日突然、望まぬ権力闘争のまっただ中に放り込まれた、あの日に始まった。東城大にエーアイセンターを作ろうという試みは、すでに一年前に始動していた。提案者は厚労省の火喰い鳥こと白鳥圭輔。その試みが露見したのは、厚労省関連の、とある検討会の席上だ。そうした背景を理解していれば、その動きを司法の走狗が座視するはずがないということなど、簡単に予見できたはずだ。
だが、のんきな俺は、ある日トラブルに遭遇し、ようやく事態の深刻さに気づいたのだった。
しかし今、この初夏の惨劇を振り返ると、脳裏に浮かぶのはショスタコーヴィチの、華やかな、しかし憂いを含んだシンフォニーの一節だったりする。
それはこの物語が、ひとりの友人に捧げられた鎮魂歌(レクイエム)であることの証なのだろう。
海堂尊『アリアドネの弾丸』序章 人間が死ぬということ 本文 より
その時、草原の果てにタクシーが停まり、男性がふたり乗り込んだ。目を凝らすと、背広姿の男性はどこかでみたことある風貌だったが、思い出す間もなくもう片方の銀縁眼鏡の男性に意識が集中した。遠くからタクシーが近づき、俺たちの側を土埃を舞い上げて走り抜ける。車を止めようと手を挙げたが間に合わず、タクシーは俺の目の前を走り去って行った。
俺は呆然としたが、隣に佇む高階病院長の衝撃の方が俺よりもはるかに大きいようだった。
「あの人が……、いや、まさか」
やがて気を取り直した高階病院長は、午後の日差しに鈍く輝く海原を見つめて言う。
「昔、この地に桜の木を植えようとした人がいました。だが私は、その苗木を引っこ抜いてしまった。あの時の自分の行為を、私はいまだに責め続けています……」
振り返り、建設中の建物を見上げる。
「時は流れ、その私が因縁の地に、まさに桜の木を植えようとしている。果たしてそれは根付くのでしょうか。いずれにしても、時の流れが私を断罪することでしょう」
高階病院長の呟きが、草原のざわめきに溶けていく。
海堂尊『アリアドネの弾丸』6章 桜宮岬の邂逅 本文 田口公平 高階権太 彦根新吾 村雨弘殻(すれちがうふたりの男性) より
俺は小声で尋ねる。
「どうして会議に出席してないのに、斑鳩さんが出席してたなんてことをご存じなんですか?」
俺の疑問に、高階病院長は呆れた声で答える。
「何をおっしゃるんですか。厚生労働省のホームページを見れば誰でもわかりますよ。全部、議事録に書いてありますよ。そんなことを知らない委員がいていいんですか?」
今のはダジャレか?いや、まさかあのダンディな高階病院長が、こんな初歩的な佐藤先生みたいなダジャレを言うなんて、ありえない。
高階病院長の言葉を測りかね、顔を見つめたが、飄々としたその表情からは、その真意を読み取ることはできなかった。
高階病院長は腕時計を見る。
「すっかり長居をしました。では看護学校に参りましょう。」
黒塗りの公用車に戻った三人の脇を、老人クラブと思しき集団が通り過ぎる。
“ひねもすのたりのたりかな”、などと俳句の断片を口ずさんでいたので、どこぞの句会の集まりなのだろう。
海堂尊『アリアドネの弾丸』6章 桜宮岬の邂逅 本文 田口公平 高階権太 より
扉を開くと、珈琲の香りが流れてきた。さわやかな香りを胸一杯吸い込む。藤原さんは、ふだん俺が現れてからサイフォン式の珈琲を淹れるので、俺が部屋に入る時に珈琲の香りがしているということは異常事態が起こっていることになる。ただし今日に限っていえば、誰がいるのかはおおよその見当がついている。俺はため息をついた。
「大いなる災いを自ら招き寄せるとは、ほんに人間とは罪深い生き物よのう」という特撮ドラマ「ハイパーマン・バッカス」の悪役、シトロン星人の台詞が脳裏をよぎる。
そう、その災厄を招いたのは自分自身だ。
海堂尊『アリアドネの弾丸』11章 火喰い鳥、襲来 本文 劇中特撮ドラマ ハイパーマンバッカス シトロン星人の台詞 より
エンタメ掲示板のスレ一覧
芸能🎭エンタメ情報何でもOK❗ 芸能界の気になる話題をみんなで楽しく語りましょう。タレント🎤への誹謗中傷🤬やアンチ行為は禁です。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
面白い映画ドラマ4レス 155HIT 芸能すきさん (♀)
-
幼稚園wars2レス 104HIT 匿名さん
-
クラブで女性に嫌われる人の定義3レス 117HIT おしゃべり好きさん
-
推してダメなら引いてみろ…?0レス 100HIT 芸能すきさん (20代 ♀)
-
キムタク一家9レス 266HIT 自由なパンダさん (20代 ♂)
-
ガンダムでありますゲソ6?
リック・ディジェ(ガンダムのモビルスーツ)でアニメ化される可能性がある…(常連さん0)
141レス 3489HIT 常連さん -
面白い映画ドラマ
アクション物と言う縛りで申し上げるなら。 映画 るろうに剣心シ…(匿名さん4)
4レス 155HIT 芸能すきさん (♀) -
SMAP大好き💛💚💗💙❤&お笑い好き📺🍊
今日は頭痛とめまいで体調がほっこりしないので、生まれて初めて脳神経外科…(おさる団長)
362レス 4219HIT おさる団長 -
幼稚園wars
まじ??超気になるありがとー! なんでこの漫画もっと早く買ってなかっ…(匿名さん0)
2レス 104HIT 匿名さん -
クリミナルマインド
去年かな、WOWOWで新しいのやってた、やっぱりリードがでてなくて、彼…(社会人さん7)
7レス 284HIT 癒やされたいさん
-
-
-
閲覧専用
徹子の部屋に出演します11レス 538HIT 匿名さん
-
閲覧専用
松本人志ってなにしたの?21レス 816HIT 第三臓器 (30代 ♂)
-
閲覧専用
有名人の知り合いは?13レス 382HIT 匿名さん
-
閲覧専用
高城れにがスピード離婚11レス 399HIT 社会人さん (♂)
-
閲覧専用
最近老けたと思う有名人16レス 556HIT 通りすがり
-
閲覧専用
徹子の部屋に出演します
有名人もこんなサイトにきてるんだ⁈(社会人さん11)
11レス 538HIT 匿名さん -
閲覧専用
松本人志ってなにしたの?
なるほど 回答ありがとうございました☆ミ(第三臓器)
21レス 816HIT 第三臓器 (30代 ♂) -
閲覧専用
有名人の知り合いは?
皆さんありがとうございました。 案外いないのですね。 私があんな偉…(匿名さん0)
13レス 382HIT 匿名さん -
閲覧専用
高城れにがスピード離婚
立浪監督が裏で… なんて情報もあるが嘘ですよね。(社会人さん0)
11レス 399HIT 社会人さん (♂) -
閲覧専用
アウトローYouTuber たまに見る人
って、思ってた、けど撤回します❗ ( ー`дー´)キリッ (…(常連さん0)
44レス 1504HIT 常連さん (♂) 名必 年性必
-
閲覧専用
サブ掲示板
注目の話題
-
ゴールデンウィークって大事な行事ですか?
兼業主婦です ゴールデンウィーク休みが1日しかない事に旦那がブチ切れです バイトごときが店に…
46レス 1399HIT 相談したいさん -
離婚した人と友達以上恋人未満。
私36歳、彼女(便宜上)40歳、彼女の娘16歳です。 彼女は数年前に離婚し、半年ほど前に知り合…
18レス 440HIT 匿名さん (30代 男性 ) -
スパゲティの分け与え
あなたは彼氏の家にアポ無しで遊びに行ったとします。 ちょうどお昼時で彼氏はナポリタンスパゲティを食…
21レス 556HIT 恋愛中さん (20代 女性 ) -
家を綺麗にしたいんです。
私 30代会社員 妻 30代扶養内パート 子ども 年中女児と2歳男児 自宅が凄まじい有り様…
8レス 274HIT 聞いてほしいさん -
元旦那とディズニー旅行に行くシングルマザーの彼女
自分には1年4ヶ月付き合っている小6と中2の女の子2人の子供がいる彼女がいます。 元旦那とは5年前…
9レス 325HIT 匿名さん (30代 男性 ) -
この食生活を30年続けたらどうなりますか
朝 安い菓子パンと野菜ジュース 昼 カップ焼きそばまたはカップ麺 夕食 白米+刻みネギと…
7レス 213HIT 教えてほしいさん - もっと見る