不倫女
独身時代に、既婚者と不倫していました。
私 23歳
彼 35歳
自分の中の醜くい姿、人には言えない恥ずかしい過去を綴ります
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東京の小さな小さな事務所で働いていました。
社員数5人の広告制作会社です。
入社して半年ほどたったある日、出版会社の編集部の田中さん(31歳、女性)から「女同士で飲み会を開くから、良かったら来て」と誘われました。
ウチの事務所からは、高岡さんと私の2人が行くことにた。
高岡さんは、私と入社時期はほぼ一緒でしたが、年齢は私よりも5歳年上の28歳の女性です。
その場には、出版会社の人の他に、他の事務所の女性、フリーのデザイナーさんなど、計6人の女性となぜか男性が1人いました。
男性は、出版会社の編集部デスク(課長)の佐々木さん。
佐々木さんとはまだ一緒に仕事をしたことはなく、
出版社にいくとチラっとみかけるくらいの間柄でした。
あれ?女性だけじゃなかったのかな・・・?と不思議に思っていました。
田中さん含め私以外の女性は、みんな30歳前後の独身。
恋愛や結婚の話が中心で、この時に初参加の高岡さんもまた、
長年付き合ってる彼氏はいるものの、
彼氏の仕事の都合で結婚できないという状況でしたので、
すんなりと会話に入っていけました。
私は、ひとり年齢が離れていたので
「さくらちゃんには、まだ分からない話だよね」と言われ、
ほとんど会話に入れなかったです。
佐々木さんは、そんな女性たちの愚痴話の聞き役を担っていて、自分の話はほとんどしませんでした。
佐々木さんは、静かな人だな・・・というのが最初の印象だった。
生活感が無く、年齢不明、結婚指輪もしてなかった。
酔っていた田中さんが、佐々木さんの事を色々とバラしはじめた。
「佐々木さんの奥さんって、恐妻家なんだよ!」
「部長に電話してきて、ウチの旦那はどこにいるの!と怒鳴ってんの、部長にだよ、あり得ないよね・・・」
「私もさ、旦那どこに行ったの!って言われて、奥さんの愚痴に1時間、付き合ったことあるんだよ・・・」
「佐々木さんさぁ、帰宅拒否症なんだよ。今日もさ、一人寂しく会社に残ってるか、誘ったの」
ええ!部長を怒鳴った・・・の。そんな奥さん、いるんだ。
話の内容にビックリした。
けど、それ以上に、田中さん大丈夫か?と心配になった。
上司のそんなプライベートなことをバラして。
みんな違う会社の仕事先の人だよ・・・やばいんじゃないの?
社会人、まだ半年の私には、どうして良いのか分からなかった。
とりあえず、聞き流す方がいいのか。そういうフリをした。
私はお酒好きで、自分では強いと思っていたが、
ここのみんなはそれ以上に強かった。
日本酒、焼酎・・・どんどん飲んでいった。
居酒屋後に、2次会へ行こうという話になった。
しかし、私だけ実家住まいで、遠かった。
片道1時間半かかるので、ここで帰ることになった。
勝手な話だが、寂しかった。
会話には入れなくて、飲み会ではほとんど聞き役だった。
帰るといっても誰も止めてはくれなかった。
「俺も帰る」
田中さんたちは、佐々木さんを引き止めたが、結局帰ることになった。
帰る方向が一緒だっだので、一緒に地下鉄に乗った。
一人で帰る寂しさがなくなったのは嬉しかったけど、
いったい何を話したらいいのか分からなかった。
会社のことや仕事の話をしたが、会話はすぐに終わってしまう。
本音では、奥さんの話をもっと突っ込んで聞いてみたかったが、
さすがにマズイだろうと思って止めた。
夜11時過ぎた地下鉄の車内は人が少なく、静かだった。
気まずい沈黙・・・
すごく嫌だった。
飲み会で、馴染めなかった失敗。
反対に、高岡さんはすんなりとみんなと意気投合し、仲良くなっていた。
私も高岡さんも、目標はフリーになることだった。
その為に、仕事をくれる人との付き合いは大切で、
自分の顔を売っておく必要があった。
高岡さんは、社交的で要領が上手い。
私は自分との差をどんどん感じていた
学生時代、飲み会や合コンの幹事をしていた時に、
場が盛り上がらずに沈黙が続くと、
「心理テストをやろう!」と声をかけていた。
心理テストは会話のきっかけになりやすい。
けど、年上の男性に心理テストなんて子供ぽいな・・・何が良いかな・・・と考えて、
「佐々木さん。最近、私、手相にハマッてるんです。良かったら見せてください」
と言ってみた。
(バカにされるかな・・・)と思っていたら、
「うん。どっちの手を見せればいいの?」
(お!良かった。のってくれた・・・)
「じゃあ、左手を見せてください。右は生まれた時、左は現在~未来を表してるんです」
佐々木さんの左手を何気なく握った。
すると、ビクッとした。身体も強張ってる様だ。
(え???もしかして緊張してるの???)
ちらっと顔を見ると、変わらずに無表情。
表情が無いから、感情がよく分からない。
(けど、緊張してるよな・・・?)
なんとなく、処女を相手にしている男性の気持ちが分かった様な気分になった。
(なんだか、可愛い人だな)
「この線は、こういう意味で、これはこうで・・・」と説明していく。
「あ!佐々木さんって、変わり者ですね?個性的っていうか・・・。この線がそうなんですよ。そんな事、言われません?」
「ああ、俺、よく言われるよ。これがその線なの?」
と、やっと嬉しそうな顔になってきた。
ちなみに、これはお決まりな言葉。
男性は「変わってる、個性的」等と特別扱いされると喜ぶから、手相を見るときは使ってる。
今回は、好印象を持ってもらうのが目標だったから、
達成できたかな~なんてホッとした。
地下鉄を降りて、私鉄に乗換えをする。
ここで佐々木さんとはお別れだ。
すると、佐々木さんが「酔い覚ましにコーヒーでも飲んでいかない?」と声をかけてきた。
終電まで、後1時間。ちょっと迷ったが「良いですよ」とのった。
(ホテルに誘われるのかな・・・。そうしたら、どうしようか)
考えは決まって無かったが、
この無表情で、奥手ぽい佐々木さんが、どんな風に誘ってくるのか見てみたいと思った。
就職して半年だが、既婚男性からの不倫の誘いは、たくさんあった。
いわゆる下請け会社の、独身で若い女の子・・・と言う立場。
この立場では、下手に誘いを断ったら、仕事に影響がでてくるので
セクハラとは騒げないし、逃げにくい。
既婚男性もそれは分かっていて、誘ってくる。
抱きつかれたこともある。
ホテルの前まで連れて行かれたこともある。
こちらも負けてはいない。上手く交わして、今までは逃げてきた。
佐々木さんは、たぶんそんな男性のタイプとは違うと思っていたが、
とりあえず、警戒心は忘れなかった。
コーヒーショップ等に入るのかと思ったら、
駅からすぐ目の前のシティホテルに行き、ラウンジに入った。
佐々木さんはスーツだけど、私はジーパンにラフな格好。
この場には不釣合いな格好で、恥ずかしかった。
コーヒーを飲みながら、会話らしい会話もなく、静かに席に座っていた。
最初は緊張して、周りをキョロキョロを見回していた。
閉店間際のラウンジには誰ひとりいなかった。
落ち着かなかったが、なんとなく、この静かな空間も良いものだな・・・と思い始めた。
大人って、こんな感じなのかな・・・と思った。
雰囲気にのまれていたのか、気づいたときには終電間際だった。
急いで駅に戻ったが、電車には乗れなかった。
「俺が、誘ったから乗り遅れさせちゃったね。車で家まで送っていくよ」
佐々木さんの家は、そこから1駅先。車を取りに行って、送ってくれると言う。
「いえいえ、私もちゃんと時間見てなかったから悪いんです。始発まで、どこかで時間つぶしますんで、気にしないでください」
そう言ったものの、駅近くに24時間のお店は無さそうだし、
これから探そうにも大変・・・困ったな。
「いや、女の子を一人残せないよ、送っていくから」
お言葉に甘えて、送ってもらうことになった。
駅前のタクシー乗り場は、終電乗り遅れた人たちで長蛇の列になっていた。
「ここで待つよりも、少し歩いた所にタクシー拾える場所あるから」と言って、2人で歩き始めた。
しばらく歩くと、
「手をつないでいいかな?」と言われた。
ちょっと驚いたが
「良いですよ」と答えた。
手をつなぐと、佐々木さんが緊張しているのが分かった。
なんだか子供みたいで可愛いなと思いつつ、
「手をつなぐなんて、小学生のフォークダンスみたいですね」なんて軽い調子で話したが、
佐々木さんは、無言でギュッと力を入れて握ってきた。
チラっと見た顔はまた無表情だった。
その時に、やっと気づいた。
(この人、寂しいんだな・・・)
誰かと一緒にいたいから、
コーヒーに誘ったし、送ると言ってるんだなと。
一緒にいても、一切、口説かれることは無かったし、好きなそぶりも全く無かった。
どんな人なんだろうか・・・と、この時に興味を持った。
程なく、タクシーをつかまえた。
タクシーの中でも、手を離すことはなかった
高層マンションが立ち並ぶ。
佐々木さんは少し離れた場所にタクシーを止めた。
「車を出してくるから、ちょっとここで待っててくれる」。
車の助手席に乗り込んだが、なかなか出発しない。
チラっと見ると、佐々木さんは何を考えてるのか分からない表情をしている。
放心してるのか、前の方をジッとみていた。
「佐々木さん、手をつなぎたいんですか?」と聞いてみる。
ちょっと照れた様に「うん。」とうなずく。
(本当に可愛いな・・・この人)
「もしかして、キスしたいんですか?」と聞いてみた。
「え?!」と顔が真っ赤になった。
「・・・・・・・。うん。」
なんというか・・・男女の立場が逆転してるみたいで、楽しかった。
反応が可愛くて、もっと見てみたくなる。そんな感じだった。
「キスする?」
「・・・・・いいの?」と聞いてきたので、
軽くキスをした。
「もっと、したい?」
うなずいたので、
ディープキスをした。
「なんで、俺がキスしたいって分かったの?」
と可愛いことを聞いてくるので、
「うーん、なんとなく。勘かな」と答えた。
それから目をジーとみて聞いた。
「これから、どうしたいの?」と。
また真っ赤になる。
そんな顔を見てると、からかいたくなる。いじめたくなる。
完全にサドの私。
・・・そんなところから始まった。
その日は、そのままホテルへ行った。
佐々木さんのセックスは、丁寧で優しかった。
家まで送ってもらったが、帰ったのは朝方だった。
家の近所のコンビニ前でおろしてもらった。
1度きりの関係だと思っていたので、家は知られたくなかった。
車が曲がる時まで、見送った。
3日後、事務所に電話がかかってきた。佐々木さんからだった。
佐々木さんの携帯番号を教えられた。
「時間がある時に、連絡して」と。
(なんだろうな・・・)と気になった。
(もしかして、奥さんにバレたとか!
キスしたの家の目の前だったもんな・・・)
なんだか気になって、すぐに事務所を出た。外から連絡した。
「さくらちゃん。今ね、近くまで来てるんだけど、これから出てこれる」
特に急ぎの仕事は無かったので、「ちょっとだけなら、いいです」と言って、
近くの喫茶店で待ち合わせをした。
待ち合わせの喫茶店に着くと、すでに佐々木さんは座って待っていた。
「お疲れ様です」と言って、目の前の席に座った。
「どうしたんですか?連絡いただいて、ビックリしました」
「うん。あのね・・・・。」
それから、しばらく黙っていた。
ドキドキした。やっぱり、ヤバイ話かも。なんだろう???
すると
「俺ね・・・・。
・・・・・奥さんとね、あまり上手くいってないんだ」
「あの時、佐々木さんに、携帯番号聞かれなかったから、あれでお終いだと思ってましたよ」
ホッとしたので、気楽にこんな事を言った。
「そうだね。俺も、そう思ってた。
けど。さくらちゃんさ、送っていった時、俺のことずっと見送ってたでしょう。車から降りた後。俺さ、バックミラーでみてたんだ」
(ああ、あれ。家を知られたくないから、車がいなくなるのを見てたわ)
「あれ見て、思ったんだよ。さくらちゃん、寂しいんだろうなって。寂しいから、俺としたんだろうなって。それまでは連絡するつもりはなかったんだけど。あれで気が変わったんだ」
(ええ!大きな勘違いだよ、それ!)
けど面白くなった。
(そうかぁ。お互いに寂しい人なんだって思っていたんだな・・・)
「今日は、早くあがれるの?」と佐々木さんに聞かれた。
「急ぎの仕事は無いんで、早く上がれますよ」
「美味しい天ぷら屋があるんだけど、食べにいかない?」
「いいですね。・・・ってか、その天ぷら屋さん、私みたいな格好で大丈夫ですか?」
ホテルのラウンジでの場違いさを思い出して、聞いた。
「気楽に入れるお店だから大丈夫だよ。若い人もいるよ。
そこは、カウンター席がいいんだよ。目の前で天ぷらを揚げて、すぐに出してくれるんだ。早く行かないとすぐに満席になるから」
楽しそうに話をしていた。
その天ぷら屋さんは人気店らしく、混んでいた。
運良くカウンター席に座れた。
できたては、熱々で確かに美味しかった。
早めの時間帯に入店したので、帰りも早い時間帯だった。
確か、まだ8時台だったと思う。
これから、どこか行くのかな・・・と漠然と思っていたら、
佐々木さんは「今日は電車で、家まで送っていくね」と。
(ええ。こんな早い時間に!)と驚いた。
からかい半分で「今日はエッチするのかと思ってました」と言うと、
佐々木さんは、テレながらも「もしかして、したかった?
けどね、この間、すぐにエッチしちゃったから、今日はちゃんと送りたかったんだ」
家までは、特急で約30分。
改札を出て、家近くのコンビニまでは歩いて15分。
計45分。往復だと1時間30分。結構な距離だ。
佐々木さんは、この時の1回だけじゃなく、付き合ってる時はいつも送ってくれた。
手をつないで。
佐々木さんは、いろんなお店を知っていた。
流行っているお店も、穴場的なお店も。
いろいろと連れて行ってもらった。
食事だけで、エッチしない日もあれば、
ホテルにお弁当を持ち込んで、エッチをして、のんびりと過ごす時もあった。
月~金のほとんどの日に会っていた。
二人でいるときに、佐々木さんの家族の話をすることは無かった。
佐々木さんもしなかったし、私も聞かなかった。
いつの頃か忘れてしまったが、
携帯電話を一緒に買った。
家電量販店に入った時に、たまたま携帯を目にして、その場で買うことになった。
番号は、お互いしか知らない。2人だけの電話だ。
バレないか心配になったが、佐々木さんは請求書を会社宛にするから大丈夫だと言って、気にしていないようだった。
土日になると、1日3~4回は電話がかかってきた。
「俺に会えないから、さくらが寂しがると思って」。
とはいえ、このときの私は、一番が仕事、二番が恋愛だった。
仕事で一人前になるのが目標だったが、
自分の能力の無さに自信を無くしていた。
いくら頑張っても、自分の思うような作品ができない。
こだわりが強いので、納得できるまで頑張るが、時間だけが過ぎていく。
反対に高岡さんは、仕事が速く、社長から指摘されたり直されたりもしない。
同じ時期に入ったのに、私とは大違いだった。
小さな会社だったので、雑用も自分たちで行う。
銀行、郵便局、クライアントへのお使いもあるし、事務所の掃除やトイレ掃除もしていた。
最初は高岡さんと交代で行っていたが、高岡さんは雑用をやるのを嫌がり、途中から私の仕事になっていた。
ある時に、会社は危機に陥った。
詳しくは分からないが、長年付き合いのあるクライアントとの契約が、何故か打ち切りになったのだ。
一番大きな仕事だったので、打撃は大きく、
社長は皆の前で、
「代わりの仕事を探しているが、難しい。このままだと、お給料が支払えない、もしかしたら誰かに辞めてもらうかもしれない」
と言った。
(一番最初に切られるのは、私だ・・・)と思った。
(転職先を探さないとダメかな・・・)
「いつもの元気がないね。どうしたの?」と佐々木さんに聞かれたので、
事情を話した。
「そんな事になってたんだ・・・」
ほんの愚痴のつもりだった。
すると、次の日になると、社長と先輩の長瀬さんが何か相談していた。
「新しい仕事が入った。長瀬はそっち担当するから、あとを引き継いで」
出版社から新しい依頼がきた。それから次々と仕事が来た。
佐々木さんが仕事を回してくれていた。
会社を辞めなくてすんだのは嬉しかったが、
それ以上に、私に対する気遣いが嬉しかった。
押し付けがましいことは一言もいわない。
普段は愚痴を言わない私の言葉を真摯に受け止めてくれたことが、何よりも嬉しかった。
この頃から、佐々木さんへ対する気持ちが変わってきた。
付き合い始めは、軽い気持ちしかなかった。
恋愛に対して、何の期待も、希望もなかった。
もちろん、最初は恋愛に対する期待はたくさんあった。
けど、これまでに付き合ってきた人たち。
浮気もあった。お金を貸して逃げられたこともあった。
騙されていたこともあった。ストーカーされたこともあった。
なんだか、恋愛に疲れていた。
私は、見る目はないし、普通の恋愛をする資格が無いと思っていた。
だから、早く自立しなければ・・・。
それに不倫は丁度良かった。
奥さんに相手にされない寂しい男と、恋愛に不信感を持つ女。
仕事をくれるだけじゃなかった。
「さくら。フリーになりたいなら、いろいろな人に会ったほうがいいよ」
と言って、たくさんの人に会わせてくれた。
自分が憧れている人たち。
会えて、自分の気持ちは高まった。
そして、佐々木さんと付き合えたことに感謝した。
佐々木さんは、会社を独立するのを手助けしたり、
私の様に、仕事関係者同士の紹介したり、
いろいろな人の手助けをしていた。
仕事以外の相談も受けていた。
私も高岡さんから直接、聞くまで知らなかったが、
生き方に悩んでいた高岡さんへボランティアすることをアドバイスし、紹介もしていた。
誇れる事をたくさんしているのに、自分からは話さない。
私は、自分自身で精一杯、余裕が全くなかった。
そんな私にとっては、とても大きな器のある人にうつった。
付き合って、半年ほどたった頃、佐々木さんから旅行へ誘われた。
1泊2日のドライブ旅行。
土日だったが、奥さんは実家へ帰省するとのことだった。
真冬でとても寒かった。
シーズンオフだったので、ホテルは閑散としていた。静かだった。
「見せたいところがあるんだ」と言って出かけた。
雪景色が、とても綺麗な場所だった。
通常は秋の紅葉が人気スポットになる場所だったが、
「俺は、雪のほうが好きなんだ・・・・」と言って、静かに見ていた。
2日間も一緒にいるのは初めてだったが、
正直、私はイライラしていた
佐々木さんとの関係が、なんなのか分からなくなってきた。
「さくらに本気で好きな人ができたら、俺は別れるから」
「さくらに合うような、いい男かどうか、俺が選んでやるから」
などと言う反面、
私が男性に電話番号を渡されたり、口説かれたりするのをみると
「さくらはやっぱり独身の方がいいのか・・・」等と言ってくる。
最初は「焼きもちをやいてて、可愛いな・・・」と思っていたが、
女性の友達と遊ぶのさえも、いい顔をしないのを見ると、だんだんイラついてきた。
けど、いい顔しないだけで、言葉では言わない。
言わなくても分かるだろう!っていう態度にムカつく。
旅行から戻ると、佐々木さんからの連絡がなくなった。
なんだか、ホッとした。
けど、2日もすると、気になり始めた。
毎日毎日かかさず、連絡があったのにどうしたんだろうか?
せっかくの旅行だったのに、冷たい態度をとったから怒ったんだろうな。
嫌われたのかな・・・。
気になって、自分から電話してみようかなっと思った。
けど、かけにくい事に初めて気づいた。
お互いの専用の携帯を持っているけど、もし私から電話して、それがきっかけにバレたとしたら。
電話をかけるのに躊躇した。
いつもは佐々木さんから連絡をくれた。
土日も決まった時間になると連絡をくれたので、
そういった不安感を持つことがなかったから、分からなかった。
佐々木さんは先に待っていた。
「佐々木さん、どうしたの?ずっと連絡くれないから、どうしたのかと思った」
「さくら、嬉しそうだね。俺と会えて、嬉しいの?」
「うん。会えなくて寂しかったよ」
「電話もさ、バレたらいけないと思って、連絡できないし・・・。あれでしょ?旅行のときに、私がイライラしてたから怒ったんでしょう?」
「え?うんうん。そんなんじゃないんだ・・・」
「あのさ、俺たちのこと、奥さんにバレたんだ」
「奥さんと、ずっとその話をしてた。だから連絡できなかったんだ」
「・・・・・・。」
思いがけない話で、ビックリした。
正直、思考が止まって、何も考えられなかった。
まさか、そんな話になっていようとは。
「え?なんでバレたの?」
「奥さん、俺のこと、よく見てたんだよ」
佐々木さんは、それ以上、深くは語らなかった。
「それで、奥さんは何て言ってるの?」
「・・・・・。許せないって。離婚するって」
吐き捨てるように、そう言った。
聞きたい事は山のようになるのに、なんと話していいか分からない。
しばらく二人で沈黙していた。
先に口火を切ったのは佐々木さんだった。
「さくらのことも言ってた。相手の女は誰だって。慰謝料をとるって」。
それを聞いてホッとした。慰謝料で済むのか・・・貯金で足りるかな・・・。
「奥さん、いくらだって言ってた?」
佐々木さんはビックリした顔をした。
それから
「さくらの事は言ってないよ。誰か聞かれても、絶対に教えなかった。俺が好きになったから、相手の子は悪くないと言った。慰謝料も請求しないように頼んだよ」
「ええ!そんな事、言ったの。奥さん、激怒したでしょう。今からでも遅くないから、彼女から誘われて仕方なく浮気したといいなよ!土下座して頼んだら、きっと許してくれるよ」
「・・・。いや、無理だよ。そんなんじゃ、許してもらえない」
「じゃあ、私から奥さんに話すのは?私が一方的に好きになったからって。慰謝料も、払いますって言えば大丈夫じゃない。女同士だし、許してくれるんじゃない?」
「いや。無理だよ。
・・・さくらに言うか迷ったけど。奥さん、探偵雇ってでも、相手の女を調べるって言ってる。さくらの親にも職場にも、不倫していたってバラすって言ってるし。さくらには耐えられないと思う」
耐えられない・・・?
正直、ピンとこなかった。
親に言うって。
うちの親なら、20歳過ぎた娘のことは、私たちには関係ないって言うだろうしな。言ってどうするんだろう?
会社に言うって。
もともと不倫の多い業界。しかもウチの社長は自ら愛人がいる。娘と同じくらいの年齢の子だと自慢してた・・・。不倫してたから佐々木さんに仕事をもらえたのだから、バレたらもっと仕事を貰って来いと言われそうだけど。
それよりも佐々木さんの方が、ヤバイのにな。公私混同したわけでしょう。佐々木さんの会社は大きいから、その点は厳しいはずだしな。
イマイチ、何が耐えられないのかよく分からないけど、
佐々木さんは自分を守ろうとしてくれたんだなって思った。
気持ち的には、白黒ハッキリさせたほうが、ラクだけど。
「そっかぁ。
でも、もう無理だなって思ったら、いつでも慰謝料は払うし、奥さんとも話すからね。その時はそう言ってね」
「分かった。ありがとう」
「さくら、ごめん。今日は一人で帰れる?送っていけないけど」
「近いし、大丈夫だよ。佐々木さんはどうするの?」
「もう少し、ここにいる。一人になりたいんだ」
「分かった。あまり遅くならないようにね。
けど、何かあったら、すぐに電話してね。いつでも待ってるから」
寂しそうな佐々木さんの表情に、後ろ髪を引かれたが、私もひとりになりたかった。
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