キミ、泣き虫だったね?
以前、ミクルで携帯小説を書いていたレンカです。
封鎖したスレの続きを書く前に、ちょっと短編小説を書いてみたいと思います。
下手なので読みにくい点も多いと思いますが、最後まで読んで頂けたら嬉しいです🙇
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まず溶けていく雪、壊れた愛、T-002のスレを未完のまま封鎖した事をお詫びします🙇
この3作品は、新しくスレ作って必ず完結させます。
その前に、作者の遊び心で作った"キミ、泣き虫だったね?"
過去の作品とはだいぶ雰囲気が違う(予定)作品ですが😣
感想など気軽にレスして下さい✨
前の作品の方が好きだった、なんてレスもありですよ(笑)
序章
『遊んでそうな男。』
それがよく言われる、俺の第一印象…。
人間中身が大切だ!!とか言うけど…実際はまず外見で判断されるもんだろ?
だから第一印象って大事なワケで。その点で俺は、損をして生きて来た…。
だけど君は、俺の顔も知らなくて…。
ホントの俺も知らなくて……。
『好きだ。』
って言葉も…結局、言えなかった。
~1~
深夜2:30。
俺は真っ暗な部屋の中で、日課みたいに携帯をいじる。…隣りにはアレで疲れて眠る彼女。
右手に携帯、左手にタバコといつものスタイルで、俺は彼女にチラリと目をやる…。
「…イビキ……うるせぇんだよな。」
コレは本人に自覚が無いみたいだから、言わずにいる事実。
言ったらショック受けそうだし…傷付けるのは可哀想だからな。
なんて、意外と優しい俺。
視線を携帯に戻し、新しく見つけたサイトに登録してみる…。
プロフィールの設定…他のサイトと同じで、適当な年齢と住所。
性別……
たまには女にしてみるか?
ニヤリと笑い、俺は世に言う"ネカマ"に初めて挑んだ…。
この時、いつも通り男で登録していれば…なんて後悔、今更したって遅いんだけどさ……。
~2~
登録を済ませて直ぐ、男達が絡んできはじめた。
女のフリをしつつそれに応対する…なかなか面白い。
とにかく毎日に退屈さを感じてた俺は、バーチャルとは言え相手は人…そんな事も考えてなくて。
一種のゲーム感覚で…顔も見たことない、名前すら分からない人を相手に(分からないからこそ、罪悪感とか感じなかったのかもしれないけど…)俺は嘘だらけのサイト内メールを返信した。
こうして、ミキちゃん(設定19歳、福岡出身の女の子)を主人公に、俺のネカマプレイの日々が始まる…。
~3~
『ミキちゃん福岡のドコらへんに住んでるの?俺は○○だよ!近かったら会いたいな。』
…コレはマズイ。
適当に登録した住所だから、俺は地理も苦手だし…。
『住んでるトコはまだ内緒だよ、もっと仲良くなってからねぇ~。』
…さすが。上手いかわし方だ!さすが俺!!
『分かった!じゃあいっぱいメールしようね!!』
ケンジと名乗る27歳男。
彼が俺の最初のターゲットとなった…。
攻略してやる!!落としてやる!!!
心の中でそう誓い、俺は携帯を閉じた…。
まずは、この作品の軽い紹介を…。
主人公の男、実は作者をモデルに作りました(笑)
基本的な性格や趣味はそのまんまですね…。多分。
ですが、主はネカマじゃないですから✋
男と女どちらにするか迷ったんですが、結局男の方が面白そうだったので✨
彼が登録したサイト、これは一時期いたグリーがモデルです。
作品自体は…ノンフィクション……という事にしておきましょうか。
~4~
「おはよう直ちゃん。」
《朝っぱらから、なんつーキスを……。》
低血圧で朝はとにかくダルいし、機嫌も良くない俺は…キスを続ける彼女、恭子の頭を掴み引き剥がそうとする。
「逃がさないよ?」
ニッコリ笑う恭子、その笑顔が怖いよ…。
抵抗された事で、彼女は燃えたらしい。Sっ気を全開に迫られ…俺の更なる抵抗は、虚しく散った……。
《若いって…スゲーよ……。》
「はぁ…ダルい……。」
手にしたタバコの箱が妙に重たく感じる…。
いつもの倍時間がかかったけど、ようやくタバコに火を付ける事ができ、俺は深く煙を吸う。
「1本ちょうだい!!」
「未成年はダメです。」
俺の言葉を無視し、タバコを奪おうとする恭子に背を向け、もう1度深く、肺いっぱいに煙を吸い込む。
~5~
「そういやお前、学校は?」
「今日は休みだし。直ちゃんタ~バ~コ~!!」
後ろでわめく恭子を無視し、俺は携帯を開く。目的は勿論、"ミキちゃん"をプレイする為…。
サイトに行くと
新着メール2件の文字。
『ミキちゃんってどんな感じなの?仕事とか服装知りたいな~。』
コレはケンジからのメール。
《服装って…知ってどうなる?!》
ツッコミ入れつつ、俺はもう1つのメールを開いた。
『初めまして。良かったら仲良くして下さい。』
新たなターゲット"ゆきひろ"からだった。
相手のデータを確認する為、ゆきひろのプロフィールを見に行く…。
36歳独身…自己紹介文は簡単なもので、彼の性格の大人しさを感じた。
『仕事は、病院の事務してるよ!服はお姉系かな~。ケンジは??』
…我ながら、よくこうも簡単に嘘の文が出来るものだと感心した。
『メールありがとう。仲良く出来たら良いね!』
こちらは簡単に、ゆきひろの性格に合わせて返信してみた…。
~6~
こんな感じで、数人の男とメールを繰り返す…。
中には露骨な出会い目的の男も多く、一方的にアドレスを送って来る輩も居た。
"悲しき男の性(さが)"なんでしょうか?
俺なら…そんな目的見え見えの行動はせず、キッチリ計画たてて落とすけどなぁ…。
「まぁ…バーチャルとリアルを混ぜる気は元々、無いんですけどね…。」
ぼそりと呟いた独り言に、散らばった漫画を読んでた恭子が『またか…』と呆れた顔で俺を見る…。
ネットで遊ぶ俺…いわゆる"暇人"なだけで、なんとも悲しい現実だ。
暇だから…退屈なのが嫌だから……かなり自己中な俺。
そんな俺が、この厳しき現実世界で"良い人"として生きてこられたのには、理由がある。
……とても簡単な理由。猫被ってるから。…それだけ。
だけど、本音を言わず生活するのは、割とストレスたまりますよ?
そのストレスにも慣れてしまえば…後は偽った人格と本当の自分をすり替えれば良い。
…どっちが本当の自分か、分からなくなる位……。
ノンフィクション…って言いましたが、やはり実話だけじゃない部分、事実と変えた部分がいくつかあります😣
なので、実話を元にしたフィクションの作品って事で…。
ストーリーは、コメディ目指してましたけど(新たな境地に挑んだつもりが)またいつもの泥沼化しそうです🙅ごめんなさい🙇
それと…主人公の"直ちゃん"が過去最強の屈折キャラなのは、忠実に再現された作者の性格です。
だからって……引かないで下さいね(笑)
ここまでを読み直してみましたが、主人公の性格最悪ですね…。
それと、この作品のタイトル、最初は全く違う物にしてました。
でも"キミ"って付けた方が過去の読者さんに分かりやすいかと思い、このタイトルにしました。
でも玲や唯は、一切出ません。
"キミ"との関係も、恋愛要素ゼロで、友情テーマの作品です。
恋愛ネタの作品を期待された方、すみません🙇
ネットを通して、リアルな人間の優しさを感じていく…そんな物語にしたいと思ってます😃
では、続きをお楽しみ下さい…。
~7~
その内…絡んでる男の友達、つまりは女の人も絡みに来るようになった……。
その中の1人が、キミ。
ほんと偶然って感じな出会いで…でも、あんなに沢山の人がいる中で巡り会えたのは…凄い事だって、今更ながら感動しちゃうんだ。
でも、今以上に子供だった俺は…人との繋がりなんて、どうでも良かった。
楽しめたら良い、笑えたら良い…。
邪魔になれば、切れば良いだけ。変わりなんて他に、いくらでもいるじゃん?
受けとめたくない現実、忘れたい過去…そういうのから、逃げたかった。
だから、別人格の"ミキちゃん"になりきった。というか、他の性格になりきるのは身についてたからな…。
所々、素の自分が出てた部分はあるかもしれない。だけど自分にとって"ミキちゃん"は全くの別人で……。
そんな"ミキちゃん"の元に集まって来た人達。
~8~
リアルじゃただ…恭子とヤッて、働いて、酒とタバコに溺れて、寝て…同じような毎日。
制服姿の恭子を見ても、俺の家族は何も言わなかった。てか俺の家族はバラバラだったから、普段から会話もないし…それが日常。
唯一話す家族は、姉ちゃんと兄貴くらいで。でも姉ちゃんは嫁にいったし、兄貴は新婚ホヤホヤで、俺の事なんて見えてないって感じだった…。
それを良いことに、ますます荒れてく俺。仕事も休む日が多くなり、恭子もほとんど俺の部屋に入り浸り…。
恭子のいない時間(いる時もだけど…)は、ほとんど携帯を手にしてた。
ケンジはあっさり攻略され、増えてくる露骨な下ネタに嫌気がさした俺は、彼を"アクセス禁止"にした…。
リアルで言う"縁を切る"って事だろう。
けどその方法は、リアルと違ってとても簡単だった…。
彼のIDを登録、それだけでケンジは"ミキちゃん"への接触手段を断ち切られるのだから……。
なんて簡単、なんて冷たい……そんなシステム…。
~9~
でも、そんなシステムは出会い目的の嫌な男を寄せ付けない為の、女の人を守るシステム…そんな感じに俺は思えた。
色んな人が集まるサイト、その中には嫌な人だって居ると思う。そんな人に絡まれた時、使えば良い…。
バーチャルな世界の中でまで、嫌な人間関係に捕らわれたくないだろ?
楽しみたいから…ここに居る……。少なくとも俺はそうだった…。
ケンジと縁を切った頃から、俺は当初の目的"女のフリして男と遊ぶ"よりも、ただ純粋にバーチャルな友人と絡むのが楽しくなって…。
そういう目的の男達とは一切、絡まなくなった。
~10~
そんな中で、ゆきひろとのメールは続けてた。
メールを重ねる度に分かって来る彼の性格…。とても弱気でマイナス思考のネガティブなゆきひろ。
それはまるで、偽ってない俺の性格そのもので…。
彼を励まし、少しでも良い方向に変えてやりたくて…。そうする事で自分も…変わりたかったのかも、しれないけれど。
俺は作りきった"ミキちゃん"で彼に接し続けた…。本当の事は、何一つ言って無い俺。
そして届いた、一通のメール…。
『僕ミキちゃんの事本気で好きになったかも…。でも僕じゃ、ミキちゃんに全然相応しくないし、リアルで幸せになって欲しい。いつもこんな僕とメールしてくれて、ありがとう。本当に…ありがとうね。』
~11~
このメールで俺は、今まで自分がして来た事の愚かさを知った…。
顔も見た事ない、会った事もない相手…だけど、そこに居るのは…俺の言葉で傷ついたり悩んだり、笑ったりする…確かに意志を持った、1人の…人間なんだ……。
この時初めて生まれた、罪悪感って感情…。
それは、ゆきひろに対してだけじゃない。他にも"ミキちゃん"って人と仲良くしてくれてる、沢山の人達……。
皆、良い人ばかりなのに…俺は……
…俺はなんて…醜かったんだろう……。
『ゆきひろ君、買い被りすぎだよ。ミキの方が…ゆきひろ君に相応しくないから。だってゆきひろ君は、こんなに優しいじゃん?』
このメールを最後に、俺は彼とのメールを交わさなくなった。
俺と彼は…全然似てなかった。彼の方がずっとずっと…優しくて、思いやりがあって……。
……そうだよ…完璧…
「……真逆じゃん。」
そう呟き…俺は携帯を閉じた……。
~12~
「直ちゃん?」
顔を上げると、今来たばかりの恭子が扉の前に立ってた…。
「……何??」
珍しく真顔の恭子…。
……嫌な感じがした…。
何を言われるのか、実際は短い時間だったと思うけど…その時間が凄く長く感じて、心臓は鼓動を早め…俺の頭の中はグルグル渦巻いてた……。
「私、妊娠した。」
~13~
「最初に言うけど、産むつもりないから。」
いきなり現れてそんな事言われても…俺の思考は、なかなか彼女の言葉に追い付かなくて……。
「…何?なんで……産みたく…ないわけ??」
「じゃあ直ちゃんは…父親になった自分を想像出来る?母親になった私が想像出来る??家庭を持って、家族になって…それでも良いって位、私の事好き?!」
そりゃ…ほとんど寝てばかりの関係だったのは、認めるよ。でも、俺は本気で恭子の事が好きだった。愛しいって思ってた…。
…だけど突き刺さる、彼女の言葉。
『父親になった自分を、母親になった私を想像出来る?』
俺は正直"父親"と"母親"がどんなものか、想像出来ない…。
母親に関して印象に残る記憶は、父親と喧嘩してる姿と…俺に"一緒に来ない?"って聞いた時の悲しそうな瞳…。
父親の方は一緒に住んではいるけど、いつも酔って酒に溺れて…何かに当たってるだけの人……。
そんな両親……俺は…"自分はそんな風にはならない"って、言い切る自信が…無かった……。
~14~
何も答えない俺…恭子はそんな俺を憎らしげに見た後、また口を開く…。
「それに直ちゃん、他に女いるでしょ?メール見たもん。てか…私もホントは……付き合ってるの、直ちゃん以外にもいる。でもそれは、直ちゃんが私を不安にさせるからだよ?私が何言ったって…どんな言葉投げつけても……直ちゃん全然、私に対して本気じゃなかった。」
「女なんていないし…メールは、ただの幼なじみ…。でもそんな風に、不安にさせてたのは…ごめん。」
「ほら!!直ぐそうやって謝る!!浮気してた事怒らないの?!直ちゃんの"ごめん"は心こもってないよ?言いたい事我慢して"ごめん"って言葉で済ませて、バカみたい!!!」
バシッ!!と投げつけられたのは、前にやったまま置きっぱなしだったゲーム…。カランとケースから飛び出たディスクを拾い、俺は裏面の傷を確認する…。
恭子がこんなにも…俺の事を見て悩んでた事に、驚かずにはいられなかった…。
《このディスクに付いた傷よりも、もっと深く…俺は恭子を、傷付けてたんだ……。》
~15~
その後、何度も話し合ったけど、出て来た結論は最初と同じ…。
『子供を降ろして、2人も別れる…。』
こんな事になったのも全部、俺が今までしてきた事の報い……そう思えた。
人の心を弄んで、平気で傷付けて…そのクセ自分は"何もしてない"みたいな偽善者で。
そんな俺が原因で、1つの命が消えていく…。
俺が殺す……。
人を…自分の子供を、殺すんだ。
…この手で……。
~16~
真っ暗な部屋の中で何時間も、俺は考え続けた…。
何を考えてたのか、何を思ったのかは…はっきり言って、よく覚えてない……。
《もう…嫌だ。もう、何も見たくない…聞きたくない…考えたくない……。》
気付けば何処から持って来たのか…鎮痛剤を握り締めてた……。
それを見た時…こうするしか……道は無いって…そう、思った。
俺は部屋の明かりを点け、一応家族への手紙と友人への手紙、それと恭子への手紙を書いた…。
コレはいわゆる、"遺書"ってものだ。
《準備…終わり……。》
そう思った時、ふと携帯が目に入る…。
持ち主の居なくなった携帯…当然、どこのサイトにも行く事は無くなる。
そうなれば、あのサイトの友人達はきっと……俺を心配するだろう。
《これ以上、振り回すのは嫌だ…。》
だから俺は1人1人に、メールを送る。
『今までありがとう。元気でいてね。』
省略すると、こんな感じの文章だった気がする。
だけどそんな中で、キミにだけは別の言葉を残したんだよ?
『また帰って来るから、それまでバイバイ。』
~17~
なんて、希望を持たせる言葉…余計に残酷だったと今なら思う。
でも…キミへのメールを作ってる時、キミとのやりとりを思い出したから……。
まだ会ったばかりの頃だったかな?キミは俺の性格を、ピタリと言い当てたんだ…。
自分ですら分かってない、ホントの性格。
たった数回、言葉を交わしただけなのに…俺は不思議で仕方なかった。
"何者だ?"なんて思って、頻繁にキミの所に行ったっけ…。
そうやって分かっていった、キミって人。
誰に対しても優しくて、親身になってたね?
俺もそんな風になりたい…なんて、ちょっとした願望を抱いたのを覚えてる。
直ぐに俺の機嫌の悪さを見抜くキミ…。だから俺は、キミにだけ…別の言葉を送ったのかもしれない。
嘘に気付いて、引き止めて欲しかった…そんな感情が、心のどこかにあったのかもしれないね。
でも送ってから思う、最後にまた嘘をついてしまったって…。もう2度と会えない、帰らないのに。
《ごめん…。》
俺はサイトの登録を解除(つまりは退会)をし、携帯の電源を切った。
これで、この世界にあるのは俺と…目の前の薬……。
~18~
気の抜けたビールで、口一杯に含んだ錠剤を飲み込む……。
そのまま電気を消し、ベッドに横になった。
急に入って来た異物に、胃の辺りがチクチク痛む…。
これで、この先俺を待ってるのは…"死"だけ……。
ようやく…解放されるんだ。……やっと…。
なのに…出て来る気持ちは、後悔ばかりだった。
逃げた自分。
ずっと逃げてきて…俺は今まで誰かを幸せにできた?
『ありがとう』
って…心から感謝された事、ある??
涙が溢れ、吐き気と頭痛に襲われた…。
世界がグルグル回ってて、気持ち悪くて……。
そんな時間が一生続くんじゃないかって…自分でした事なのに、気付けば"助けて"って思ってて……。
だけど…もう……このまま眠って…一生起きる事は…ないん…だよ…な……??
……もう…二度と……
~19~
ぼんやりと見える景色……。
《……??どこだ……ここ?》
俺は死んだはず。もう2度と、目覚める事はないって思ってた……。
それなのに…目の前にあるモノ……それは見慣れた、部屋の天井…。
《……生きてる…??》
体を起こそうとしたけど、酷い目眩がして俺はまた横になる…。
頭の中が、ぼんやりしてて…胸やけみたいな吐きそうな感覚と、体全体を妙に重たく感じた…。
だけど……その重さが俺に、生きてるって事を…何より実感させて…。
「……死ねてないって…バカじゃん…俺……ただのアホだし……。」
不意に流れた涙、その意味は…自分でも分からなかった…。
その後また眠り…喉の渇きで目が覚めた俺。
水を飲もうと部屋を出たけど、そのままトイレに直行……。
カラッポの胃から…ほんの少しの胃液を吐き出す。…それだけだった……。
あれだけの覚悟をして、コレだけ…。
なんて、間抜けだったんだろう。
~20~
そこで俺は、新しく計画を立てた。
コンビニに行き、アルコールの高い酒を大量買い…。
薬局で適当な薬を買いまくった。その時のレジ…店員の不思議そうな顔は、今でも鮮明に思い出せるよ……。
「準備、完了……。」
そう呟いた自分が滑稽に思えた。
でも今度は、失敗しない。本当に…死ねるんだよな??
書いてある遺書はそのままにしてあったから、他にする事もない…。
俺はブランデーのボトルを開け、グイッと飲み込む。
それだけで、胃には焼けるような痛みが走った。
《気持ちワリィ……。》
そう思いながら、一口…また一口と酒で胃を満たす……。
だいぶ酔いが回った頃、目に入ったのは…電源が切られたままの携帯。
チラリと頭をよぎったのは、皆の驚き、悲しんでるメールと…俺がキミに送った、あの嘘のメール……。
…皆は
……キミは……
「今、何してる??」
~21~
サイトに行き、新しくプロフの設定をする…。今度の名前は"ミキちゃん"ではなく、あの日恭子が投げたゲームのキャラの名前…。
なんとなく、その名前が浮かんだんだ。
登録を済ませて直ぐ、キミを探した。
かなり酔ってた俺…。酔ってなかったら、きっと戻りはしなかった。酒と薬…飲む順番が違ったら……俺の辿った運命は、全く違ってたと思う。
《見つけた…。》
意外と簡単に見つかったキミ。俺は最初、他人のフリしてキミに絡んだ…。
…気付かなかったキミ。だから俺は"ミキちゃん"と確実に分かる文章をキミに送る…。
さすがにコレには、キミも気付いて…一気に変わる、キミからのメール。
『心配してたんだよ!?今仕事中で来られないけど、またすぐ来るから!それまで、いなくならないでね?!』
"いなくならないで"
この言葉が俺の心に突き刺さった…。
キミは……今俺がしようとしてる事、見透かしてるの?
「どうして、こんなタイミングでそんな事言うんだよ…?」
そんな言葉…言われたら…。
せっかく…せっかく死のうとしたのに…。
ほんとは怖くて仕方ない気持ち…頑張って押し殺して決めた決心、それが揺らいじゃうだろ??
~23~
キミを待つ間、他に別れを告げた人達にも連絡をとる…。
『心配してた。でも、帰って来たから許すよ。ありがとう。』
皆して同じメールを送ってくれて……俺はまた泣かずには…いられなかった。
どうしてこんなに優しいのか…俺には全然、分からなくて。
こんな嘘つきで…皆を騙してる自分を、どうして"好きだ"って言ってくれんの??
そんな風に心配してもらう価値なんて、俺には無いじゃん。
なのに……なんで?
本当の事…ずっと言いたかった。誰かに聞いてほしかった本音。
それを言うのに、1番良いタイミング…だったかもしれない……。
現に今の俺は、タイミング逃して…言えずに…逃げ出したから……。
なのに…俺はこの時、皆が『好きだ』と言ってくれる"ミキちゃん"であり続ける事を、誓った……。
そう、人ってのは……俺って人間は
…後悔ばかりだ。
~24~
俺が1度サイトを辞めた事をきっかけに、キミとのメールの回数は増えたね。
心配してくれてるのが、痛い位…伝わってきた。
なのに、俺はまだ…"死"への未練が残ってて。
遺書は灰皿の上で燃やしたけど、向き合わなきゃいけない現実は、目の前にあって…。
『いま酒飲んでる。』
皆によく、そう言う様になった…。
その度『飲むな~。』って同じ様な返事を返されて……。
心配してくれてるのは、キミだけじゃない。
『飲むな。』って…誰かに叱ってもらったのは……2度目…かな??
"叱られる"って事に慣れてない自分。
"叱られる"って事に憧れてた自分…。
だって"叱る"って事は、相手の事を思ってする行為じゃん?
だから俺は…キミや皆に叱られるのが、好きだった……。
なんて…Mキャラ全開とか思うなよな…。
~25~
だけど、どんなに叱られても、酒はやめなかった……。
毎晩友人と飲み行って、家に帰ってからも飲んで…吐いた…。
飲めれば良い。飲んで笑えたら、それで良い…。
少しでも現実を忘れたい。
相変わらず現実逃避しかしない自分。そんな自分からも逃げたかった…。
そんな感じで…何日か過ぎて……。
リアルじゃ別れたはずの恭子と、また会うようになってた。
でも彼女には新しい彼氏がいたし、俺達2人の関係は"ただの友達"だった。…最初は……。
お互いに罪の意識と、ちょっとした未練が…あったのだろう。
彼と喧嘩したらしい恭子…。グチを聞いてたら急に、抱き付いてきた。
「なに??」
「エッチしようか?」
本音を言えば、嫌だったし…すごく怖かった。
でもなかなか…その気持ちを言葉に出来なくて……。
待つのが苦手な恭子に、半ば強引にキスされて…そうなればもう……どうにでもなれって、やけくそになった…。
こうやって始まる、2人の関係…。
会う回数に比例して、更に増えてく酒……。
~26~
この頃、バーチャルな世界でも…俺は荒れた。
キミとのメールの回数が増えて……俺は初めて、キミから相談をされた。
詳しい内容は書かないけど、俺に分かったのは…何よりキミが傷付いて、苦しんでるってこと。
"何かしてあげたい"
そう思ってるのに…俺に出来る事は、メールで励ます事だけ……。
そんな自分が…たまらなく悔しくて。
せっかく話してくれたキミ。"相談する"って、それだけでストレス溜まるもんじゃん?
何か…何かしてあげたい……。
そう思ってた時、目に入ったのが…四つ葉のクローバー。
「これだ!!」って…そう思った。
必死に探した、7枚見つけたくて……。
キミの力に、支えになりたくて…。
無事7枚見つけ…俺は写メに撮り、サイトに載せた。
『偶然見つけただけだよ。』
…って言葉とセットで。
~27~
だけどキミは、しばらくサイトに来なくなったね?
その頃、俺はこのサイトで初めて日記を載せた。
あの日記ほんとは…キミに宛てた物で……。
バーチャルな関係の、不安定さを改めて感じた。
繋がってるのは、たった1つのサイト。どちらかがソコから居なくなれば、その関係は跡形もなく…消え去ってしまう…。
不安で…不安で仕方なかった。
言いたかった気持ちや、もっと一緒に笑いたかったって気持ち…『ごめん』って言葉……。
その全部が、言えなくなるの??
《お願いだから……また、来てよ。》
そう思ってたのは、俺だけじゃなくて。
他にも沢山の人が…キミを待ってた。
キミは凄く、人気者だったから……。
~28~
「恭子…ちょっとストップ。やめて。」
メールが届き、それを知らせる受信音をうるさく鳴らせる携帯…。
ストップと言われ…言う事を聞く性格じゃない恭子。
ブツブツと文句を並べつつ、動きを止める気配は…無い。
というか、抵抗され…また燃えだしたらしい。
放っといてメールを確認しようとしたけど…今置かれてる状況を無視するなんて……無理です…。
だから携帯を閉じ、とりあえず済ませた。
~29~
メールは、サイトからの通知メールだった。
送信相手は……キミ。
「オォッ!!!!!!!」
雄叫びあげて、俺はサイトに移動する…。
心の中は…嬉しさで一杯で。
嬉しくて……泣けてくる位。本当に…嬉しかったんだよ…。
~30~
サイトに復帰したキミは、やっぱりまだ…元気がなくて…。
笑わせたいって、必死になってた。
だからこの頃は、飲んでるのも内緒にしてたけど…。そんなの多分…バレてたよね?
それとこの時期、俺に一通のメールが届いた。
恭子が"浮気相手"と誤解した、幼なじみから…。
『亜沙子が帰って来たって!!直ちゃん会いたいでしょ?会いたいでしょ~?!
って事で、日曜会いに行くってメールしといたからね!』
《マジっすか??!》
亜沙子ってのは、県外に進学した…俺の元カノ。
初めて付き合った人で…その後も、何度か付き合ったり…別れたり。
唯一、俺が"本音"を言えた相手で…。それは多分…2人の性格が、よく似てたから……。
『分かった!ありがとう。』
って返事を返し、俺は恭子に
『しばらく会えない。』
ってメールを送った…。
~31~
日曜…久しぶりに会う亜沙子の姿……。
前から一目につく容姿だった彼女は…前よりもっと、綺麗になってた。
「直也?!アンタ変わってないね~?笑えるっ!!」
「…お前だって!」
その口の悪さは、変わってない。でもコイツ、無神経な訳じゃなくて…ほんとは凄く、人に気を遣うタイプ。
「てか、何しに帰って来たんだよ?学校は??」
買っておいた、彼女の好きなジュース。それをヒョイと投げると、嬉しそうにキャッチする亜沙子。
「私、結婚するから!」
笑う彼女の笑顔は、今まで見たどんな表情(かお)より…輝いて見えた……。
~32~
「良かったじゃん??お前みたいなのと結婚してくれる相手、いないと思ってた!」
「キツい事言うね?毒舌なのも変わってないか…。てかアンタには言われたくないし!!」
トォッ!!と、効果音付きで、飲み終えたジュースの空き缶を投げられ…俺はそれを投げ返す。
最初は笑顔で戯れてたけど、だんだん2人共本気になり、投げられる缶のスピードは増していく…。
そして俺は、それを避けるだけの立場になって…散々だった……。
「あ~楽しかった。」
なんて爽やかな笑顔で言う亜沙子。今度は俺にではなく、ゴミ箱に向かって缶を投げる…。
こういうやり取りは…凄く懐かしくて。
笑顔を返し、2人並んで俺の家へ向かった…。
~33~
「アレ、何??」
俺の部屋に入って一言、昨日飲んだ酒の残骸を指差し、彼女は俺に問う。その目には迫力があった。
「…いっ…一週間分の…ゴミ……。」
俺の言葉に亜沙子は、無言でゴミを片付けていく…。
その後ろ姿…嘘なんてバレてるのは明らかだ。
「……いつから??病院はちゃんと通ってる?」
「…病院は行くのやめた。行ったって治らないじゃん?金かかるだけだしさぁ~。」
重苦しい空気、それを変える為…ふざけた口調で俺は言葉を返した。
「それでも!!…それでも……今より…元気だった…。」
俺に背を向けたままの亜沙子…。
詳しい事は書けないけど、色々と事情を知ってるコイツ。
…多分、最近俺が何も食べてないって……気付いてたんだと思う。
バーチャルじゃなくて、リアルな存在。
俺の元カノで……婚約者…アリ。
~34~
地元に帰ったのは、結婚の準備をするため。
だから…また県外に出て行く。そして、そのまま…その土地で暮らす……。
「…もう……今みたいに…会えなくなるんだ…。」
俺の心境は、複雑だった。
~35~
俺を心配する亜沙子、毎日みたいに呼び出されて…一緒に笑った……。
嫌がる俺を、無理やり病院に連れて行ったり。点滴されてる俺の隣りで、他愛ないこと言って笑わせてくれた…。
だけど帰り道、「またね。」と手を振る彼女を見る度…"もう会いたくない"って思ってしまって……。
そう…亜沙子の事……また好きになってたから…。
会いたくないって思うのは、彼女には好きな人がいて…その人と結婚の約束をしてて…ソイツの話題になると、幸せそうに笑うから。
それでも"会いたい"って思うのは、彼女が好きで…残り少ない時間、彼女の笑顔が見たいから…。
「直也といると、楽で良いや。」
笑う彼女の言葉が…痛かった……。
~36~
その辛さを、キミに相談したりも…したね。
自分の事、誰かに相談するのは慣れてないから、変な感じがした…。
でも…相談されたキミの反応には、かなり…笑えた。
"笑えた"って表現は、2人のメールを知らない人にとっては、意味不明だと思う。
だけど、ここでメールの内容を書かないのは…なんとなく、誰にも話したくないって…思うから。
俺にとって
"誰にも話したくない大切な思い出"
だから……。
この思い出、今では1人だけの記憶になってる。
だって今頃、キミは俺の事を思い出したり……しないと思う…。
もう2度と伝えられないけど…あの時凄く心強かったし、話した事で…楽になった。
キミの言葉で、また笑えたから……。
だからもう1度、お礼が言いたいよ…。
『ありがとう。』
…って……無理なんだけどね。会う事は2度と無いって、分かってるから。
~37~
久しぶりに亜沙子が俺の家に来た日…最悪なタイミングで……恭子が現れた。
「何?その人。」
って恭子のセリフから、作者の都合上思いっきり省いて――
恭子は一旦、帰る事になった。
さすが亜沙子。…強いです。
…言うことが…他の人と違います……。
不機嫌なオーラ全開の亜沙子…。恭子との事は、話して無かったですから。
"言いたくない"って、思ってたから…。
そんな俺の心境は、彼女にも分かりきってる。
だから何も聞かず、無言でイライラと格闘してるんだ…。
「…あのさ……。」
「……」
返事はない…。つまり"続きを言え"って意味。
亜沙子の不器用な優しさを感じつつ…俺は恭子との関係、過去の付き合い…キミと出会ったサイトの事も含め、全部…話した……。
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