🎁ただ・愛のためにだけ…✨
涙なしでは語れぬ日々も
あなたの名を呟けば救われる気がした
涙なしでは語れぬ日々も
あなたの名を呟けば救われる気がした
ああ大事なことに気づくまでに
みんな私たちは遠回りだけど
ただ・愛のためにだけ涙こぼれても
ただ・愛のためにだけこれが始まりでもこれでおしまいでも
ただ・愛のためにだけ生きてると言おう…
新しいレスの受付は終了しました
🎁序章🎁
『おいッ!何やってんだッ!こっち手伝えッ!モタモタすんなっ!』
『先生ッ!血圧が下がってますッ!体温も急激にッ!』
『バッキャロッ!お前ら何年オペ看やってんだァァ!』
『先生ッ…!もう…心停止…ですッ…』
『!っッし、死なせねぇッ!こいつは絶対に…クッ…絶対に死なせねぇッ!…死な…せ…』
『先…生…ッ!もう心臓マッサージしても助かっ…ら…』
『死なせねぇ…ハァ、ハァ…絶対に…ハァ、ハァ、ハァ…死なせ…ね…えん……!!ッチックショォォォォォォォォォォ!この世にッ!この世に神様はいねぇのかよォォォッ!』
Piiiiiiii……
『……先生ッ…午前零時35分…御臨終です…』
『…18だ…まだたったの18歳だぜ…ハァ、ハァ、えぇ、聞いてんのかッ!神様ッ…って…ヘヘヘ…聞こえてる訳ゃねぇよな、ハァ、ハァ…フンッ!…お前らがホントに居るんならこんな仕打ちはしねぇもんなッ…ハァ、ハァ、…ふ、ふざけんじゃねぇ…たいがい…ふざけんじゃねぇぞォォォォォォォッッッッッッッ!ウォォォォォォォォッッッッッッ!』
>> 1
🎁1🎁
『まぁた誓子の親父さんからメールぅ?…ナァ~んか、てゆっかさ、超マジ過保護ってないアンタの親父?』
『…ホントいっつも煩いんだァ…今何してるんだァとかさぁ、悪い仲間と遊んでないかだとかさぁ~!ホンットマジメアド変えよっかナァ~…超を通り越してメガウザッ!』
『キャハハハ、《メガウザ》ってそれイイじゃん最ッッッ高~!』
駅前のゲームセンターで女子高生の島本誓子と同級生の桐谷沙知絵はUFOキャッチャーをしながら笑っていた…夜も10時を回り駅前の繁華街を歩く人々の層も段々といい意味できらびやか、悪く言うとケバケバしくなって来ている…
『…で誓子ッ…アンタ家に帰んなくてイイの?』
顔中真っ黒な墨を塗っているかのようなヤマンバのような顔つきの沙知絵が煙草に火をつけて誓子に言った…
『平気平気ッ…どうせ帰っても二言目には《こんな遅くまで何処をほっつき歩いてたッ!何してたッ!》って説教聞かされるだけだしねッ…サチ…もうちょいイイじゃん!遊ぼうよッ!』
『まぁ私はイイけどさッ…けどどこの親も皆一緒っつぅか、メガウザ一等星だぁね!ギャハハハ!』
二人の笑い声がゲームセンターの騒音にかき消された…
>> 2
🎁2🎁
『見て見て、誓子ッ!ほら、また居るよアノ男の子ッ!』
誓子と沙知絵が帰る駅前の繁華街を抜けて居酒屋が立ち並ぶ線路脇の高架下の暗い道で二人は今日も彼を見つけた…歳は誓子達と同じ位だろうか…黒いパーカーを頭から被り簡易椅子に腰掛けながら黙々と通りすがりの人々をモチーフにして鉛筆でスケッチしている…
『イヤッだァ…あぁやっていっつもジィ~ッと通る人見て絵描いてんのよッ…何か気味悪くなくないッ?』
沙知絵が吸っていた煙草をペッと吐き出すとアイツを二人で少しからかってやろっか?と提案してきた…誓子はあまり乗り気ではなかったが沙知絵の言われるままにその男の子に近付いていった…
『ねぇねぇ、アンタ!…アンタの事良く知ってるよッ!たんまに此処に来て絵、描いてるっしょ!』
沙知絵はそう言うと何の遠慮もない様子でその男の子の路肩に飾ってある幾つかの作品を手に取って眺めた…
『ち、ちょっとサチ、やめなよッ!幾ら何でも失礼だって!』
余りの沙知絵の無神経な態度に誓子はセーラー服の裾を引っ張りやめなと忠告した…
『…いいよッ…ゆっくり見ていってね…気に入ったのがあれば…あげるよ!』
沙知絵と誓子は余りの意外な態度に互いに目を丸くした…
>> 3
🎁3🎁
『ってこれ…売りモンじゃないんだ…』
大して絵などに興味もない沙知絵がじっと男の子の作品の幾つかを眺めていた…
『ね、ねぇサチ、もう行こうよッ!』
誓子が沙知絵のセーラー服の袖を引っ張ってしきりに帰ろうとするが沙知絵は作品を手に取り品定めをしている…
『本当にイイよ…あ、そっちの彼女も…良かったら…』
その男の子は遠慮がちに立っていた誓子にも声をかけた…
『え?…あ、あぁ私はイイ…ホントにッ…』
誓子は目の前で大きく手を振って断った…
『じゃ、私はこれにするッ!ってゆっかアンタの絵全部ピカソみたいだねッ…こう何つぅの、ザザァ~と落書きした感じのッ…』
沙知絵はこの街の風景画らしき作品を一枚手に取ると玄人ぶった批評を始めた…誓子は男の子の作品を横目でチラチラ見ながら沙知絵の批評も満更ではないと感じた…確かにこの男の子の描く絵ははっきりとした線ではなく素人から見ても明らかに曲線的で非写実的な作風のように思えた…
『ん~まぁ最近はハッキリしたのよりこう曖昧な感じが流行っるっちゃあ流行ってるけんどねッ!』
『ンモッ!サチ、何評論家みたいな事言ってんのさッ!帰ろうッ!』
誓子はノリノリの沙知絵を引きずるようにその場を去った…
>> 4
🎁4🎁
『誓子…アンタも貰えば良かったのにッ!…もしかしたらあの子この先有名になってこの貰った絵だってプレミアとかついちゃって将来高く売れっかもよ!』
いつも二人が別れる路地の前で沙知絵は誓子にバカだね~としきりに笑った…
『けど冷静に考えたらさ…これヤッパ下手くそだわ…全然なってない…構図以前の問題っつぅか…話になんないくらい下手くそッ!』
さっきまでのノリノリは何処に行ってしまったのか沙知絵は急に意気消沈したかのように貰った絵の非難を始めた…
『…ってゆっか貰っといてそれは余りにも酷くなぃ?要らないなら返しなよッ!もしかしたらあの子にとって大事なモノかも知れないしさッ!』
誓子は沙知絵の余りにも冷たい変わり身に少し絵の彼を同情していた…
『じゃさ…誓子、アンタ明日この絵、返してくんない?お願いッ!』
『ち、ちょっと何でよっ!貰ったのはサチじゃん!何で私が返すのさッ!』
ただただ私が返しに行くのは何か恥ずかしいのよと沙知絵の執拗な懇願に誓子はシブシブ絵の返却を承諾した…
- << 7 🎁6🎁 誓子はふと鞄に目をやるとさっきのあの男の子の絵を思い出した…面倒臭そうにベッドから離れ、鞄の中にあったA4サイズくらいの堅い模造紙に描かれた風景画を暫く眺めていた… (……確かに…こう何てゆぅかァ…けど意識的にそう描いたんじゃなく…何か想像通り描きたいけど…描けないで苦労してるってぇ感じの鉛筆使い…カナ) 高校で形だけの美術を専攻している誓子にはその絵はそう映った… (まぁ決して上手いとはお世辞にも言い難いけどッ…きっと一枚一枚が大切なモンなんだろしッ…ハイッて返して帰ってくりゃいいんだしねッ…) 誓子はウンウンと自分勝手に頷くとその絵を机に置きまたベッドに大の字になった… (マッ…今が何とか楽しけりゃいいかッ!) 誓子は曇った気持ちを切り替えるようにコンポのスイッチを入れた…コンポからは誓子が今一番ハマッているヒップホップグループの軽快な音楽が流れ始めた… (だけど…何て言って返そうかな…これ…要らないって言われたら…ウンウン、ヤッパ傷つくよね…アァ…どしよ…) カチカチと鳴る柱時計の音色を聞きながら誓子はすぐに寝息を立てていた…
>> 5
🎁5🎁
誓子は物心ついた頃から両親がウザクなってロクに口も聞かなくなっていた…誓子が小さな頃から父親と母親は喧嘩が絶えずほとんど毎日のように怒鳴りあっていた…何を聞いても上の空の忙しい母親は小さな印刷機の工場を経営していて朝から晩まで仕事をしていた…父親は普通のしがない営業サラリーマンで何かと言えば収入の多い母親を妬み皮肉ばかり言う…そんな両親が誓子はたまらなく嫌だった…自分が二人に反抗する事でそんな嫌な家族から逃げていた…
『遅かったな…こんな時間まで何処ほっつき歩いてたんだッ!』
缶ビールを片手に頭の半分ハゲ上がったさえない父親が誓子に言った…
『…フン…仕事は半人前なのに人に説教は一人前なのねッ!』
『!何だとッ親に向かって!もう一度言ってみろッ!』
誓子は階段を駆け上がると自分の部屋に入り、自分で勝手に取り付けた鍵をかけて閉じ籠った…
『アァ…』
深い溜め息が自然と口から出てきた…誓子はベッドに大の字になり天井を見上げた…
(ア~ァ…何かァ…つまんない私の人生ッ…学校…辞めよっかなぁ~)
最近すぐ考えてしまうこの悩みはいつまでも誓子の脳裏をクルクルと回っていた…
>> 5
🎁4🎁
『誓子…アンタも貰えば良かったのにッ!…もしかしたらあの子この先有名になってこの貰った絵だってプレミアとかついちゃって将来高く売…
🎁6🎁
誓子はふと鞄に目をやるとさっきのあの男の子の絵を思い出した…面倒臭そうにベッドから離れ、鞄の中にあったA4サイズくらいの堅い模造紙に描かれた風景画を暫く眺めていた…
(……確かに…こう何てゆぅかァ…けど意識的にそう描いたんじゃなく…何か想像通り描きたいけど…描けないで苦労してるってぇ感じの鉛筆使い…カナ)
高校で形だけの美術を専攻している誓子にはその絵はそう映った…
(まぁ決して上手いとはお世辞にも言い難いけどッ…きっと一枚一枚が大切なモンなんだろしッ…ハイッて返して帰ってくりゃいいんだしねッ…)
誓子はウンウンと自分勝手に頷くとその絵を机に置きまたベッドに大の字になった…
(マッ…今が何とか楽しけりゃいいかッ!)
誓子は曇った気持ちを切り替えるようにコンポのスイッチを入れた…コンポからは誓子が今一番ハマッているヒップホップグループの軽快な音楽が流れ始めた…
(だけど…何て言って返そうかな…これ…要らないって言われたら…ウンウン、ヤッパ傷つくよね…アァ…どしよ…)
カチカチと鳴る柱時計の音色を聞きながら誓子はすぐに寝息を立てていた…
>> 7
🎁7🎁
『なぁんだ…いないじゃん!』
次の日の学校帰りに誓子は一人でいつもの高架下に来ていた…
(まぁ此処に毎日いた訳じゃなかったし…まだ時間も早いから…)
ヨッコイセとガード脇に腰を下ろした誓子は少しの間待っていようと決心してさっきコンビニで購入したファッション雑誌を手に取りパラパラと捲った…
(ウワァ、このワンピ、超カワイイじゃん!)
道行く人はうっすら化粧し、ガード脇にデンと座っている誓子の方をジロジロ見ながら不思議そうな顔で通り過ぎる…
(フン…どうせ昼から授業フケた駄目学生だっつぅの!)
通行人の言葉をそのまま代弁するかの様に誓子は時折上目使いでそんな人々に視線を投げ掛けていた…まだ秋とはいえ高架下を吹き行く風はもう冷たい…
(アァ…もうすぐ冬かぁ…)
道路に舞うコンビニのビニル袋を眺めながら誓子は溜め息をついた…
『…しッかし、遅いなぁ…あの子…』
二時間以上もガード脇に腰を下ろしていた誓子はしきりにお尻の痛さを気にしながらコンパクトで化粧直しをしていた…
(駄目ッ、限ッ界!…ンモッ、超ムカッ!もう知んないかんねッ!)
スカートの埃をパンと払うと誓子は鞄を回しながら帰って行った…
>> 8
🎁8🎁
『エェッ!返せなかったのォ!何やってんのさ誓子ッ!』
『ち、ちょっとサチ!偉そうに言わないでくれるッ!?本当ならサチが返しに行くモンなんだからッ!昨日だって二時間以上もアソコで待ってたんだからッ!』
休み時間、高校の売店の裏で誓子は沙知絵に昨日男の子に絵を返せなかった事を告げた…
『…まぁいつも肌身離さず持ってりゃさ、いつかは渡す機会はあるんじゃない?』
『って簡単に言うね、サチィ~!アンタかんなりメガ無責任じゃん!私イヤだかんねッ!この絵をずっと持ち歩くなんてぇのッ!』
誓子は自分で渡しなよと沙知絵に絵の入った封筒を手渡そうとしたが沙知絵はイヤァ~と半ばふざけ気味に拒んでアンタに任せたッ!とまた誓子の手元に戻して手を振って去っていった…
『ンモォッ!私だって知んないカンネッ!』
誓子は手渡された絵の入った封筒をじっと眺め、どうしよ~と深い溜め息をついた…
>> 9
🎁9🎁
(別に返せなきゃ返さないでいいか…くれた物なんだしッ!)
誓子が絵の事を大して気にも留めなくなったのはそれから2週間経っての事だった…何度かあの高架下の道路に意識して顔を出してはみたがその度にお目当ての男の子はそこにはおらず誓子はもうどうでもいいかッ!という気持ちになっていた…そして絵を持ち歩かなくなって3日目の夕方、誓子は高架下に彼を見つけた!
(…あ!いたッ!…っつぅか私絵、持ってないよッ…)
コンビニで買った丸ごとバナナを口にくわえたまま誓子は少し自分が悪い事でもしているかのような異様な照れ臭さに襲われた…
(べ、別にいいじゃん、特別な知り合いでもあるまいしッ!あの場をただスゥ~と何事も無かったように通り過ぎりゃいいだけじゃんッ!)
誓子は鞄で心持ち顔を隠すとゆっくり高架下に入って行った…パーカー姿でしきりに前を向いて絵を描いている久しぶりに見るその男の子は少し痩せた様子に誓子には映った…
(そだよッ…ハハハ…知ってる訳ないじゃん!何週間も前の、それもほんの数分言葉を交しただけだもん…)
誓子は今度は堂々と顔を上げ、何気なく歩くただの一通行人のように装った…
>> 10
🎁10🎁
『…こんにちはッ!』
一瞬誓子の足が止まった…予想外の展開に元来意気がってはいるがホントの所かなりの小心者の誓子は頭の中が真っ白になった…
『あ…え、えぇ?…わ、わッ、私ぃ?』
男の子のすぐ脇で誓子は立ち止まりさほど関心のない一通行人のフリを徹しようと努めた…
『うん…君…こないだは有り難う!』
『え?…な、何の事?』
『フフ…僕の絵に関心持ってくれた二人組の女子高生のうちの彼女の一人…だよね!』
(うわッ…マジィ?…覚えてたんだ!)
誓子は丸ごとバナナを一気に口に押し込むとそのまま足早にこの場を去ろうと決めた…
『ごめんね…下手クソな絵で…以前はもっと上手く描けてたんだけどね…』
男の子のその一言が何故か誓子の足を止めた!
(……)
誓子は覚悟を決めたかのようにフゥ~と溜め息を付くと外国人がよくやる《お手上げ~》のポーズをとって見せた…
『…最近…見なかったねッ…実はさ、アンタの事ずっと捜してたんだッ…』
誓子はクルリと踵を返すと男の子の椅子のすぐ傍に腰掛けた…
『…ちょっと体の調子悪くてさ…休んでたんだ…どうして僕を捜してたの?』
男の子は初めて誓子の顔を見た…
>> 11
🎁11🎁
誓子は本当の事を言うべきか否か迷っていた…決して上手とは言えない彼の絵を友達を介してとは言え、要らなくなったから返しますなんてこの私に言えるだろうか…
『うん…きっとそうだろと思ったよ…』
いきなり男の子が誓子に切り出した…
『え、えぇ?…何が?』
『あの絵をわざわざ返しに来てくれたんでしょ?』
誓子は思わず宙を見上げた…図星だ!
『いいんだ…別に気にしてないよ…下手くそだもんね…構図だって線のタッチだってホント、人様にお見せ出来る代物じゃないって事位分かってるんだッ…アハハ…』
誓子はどう言葉を返せばいいのか解らずただじっと宙を見ていた…
『でも…でもね、何か嬉しい…それって僕の絵を一応はきちんと目を通してくれて感じた正直な気持ちでしょ?ホントに要らないならろくに見ないで破って捨てたって誰も困らないのに…なのに君はわざわざこの僕の元に返しに来てくれたんだもの…凄く嬉しいよ!』
誓子は驚く程戸惑った…だって要らないって返しに来たつもりがこんなに感謝されるとは思っても見ない事だったからだ…
『あ、つぅか…その絵さ、忘れたんだけど…』
男の子は微笑むとキャンバスにまた絵を描き始めた…
- << 14 🎁13🎁 次の日誓子は学校を無断欠席してずっと家に居た…夕方沙知絵と駅で待ち合わせをし、二人は男の子がいつもいる高架下の道路に向かった…秋は深まり道路一面に落ちた銀杏の黄色い葉っぱは泥だらけの車達に跳ね上げられ、見るも無惨な表情で横たわる… 『あ、いたいたッ!ヨッ、未来のピカソ君ッ!』 沙知絵が相変わらずの無礼な先制攻撃を仕掛ける… 『あ、あぁ…ど、どうもこんにちはッ!』 男の子は沙知絵がいた事に少し戸惑った様子だったがすぐ気を取り直したように笑顔で二人を迎えた… 『誓子から…あ、誓子ってこの子の名前ねッ!でさ、聞いたよッ…ピカソ君は私達とオナイなんだってねッ!ビックリしちゃったわよ!どう見ても老け…』 『あ、き、気にしないでよ、この子口悪いからッ…ハハハ…でも基本悪いヤツじゃぁないしッ!』 誓子は沙知絵の無神経な唇に慌てて蓋をするとごめん、ごめんと頭を下げた… 『いいよ、老けてるのは確かだから…』 そう言うと男の子は予め用意していたのか、長い木製の箱を置き、二人の席にしてくれた… 『お、用意イイじゃん、ピカソ君ッ!自分だけノウノウと椅子に座ってんのかと思った…』 『またぁ~、コラッ沙知絵ッ!!』
>> 12
🎁12🎁
『で、そのまま一時間もあの子と話したってぇ!?ハァ~…ンタも物好きダァね!』
誓子は次の日、昨日あった出来事を沙知絵に話した…
『私もね、究極変なヤツだったら顔に蹴りでも喰らわせて帰ろうと思ったんだ…でもさサチ…どうもそんな感じのアナーキーなヤツじゃないって分かったからさ、まぁウダウダと他愛もない話をした訳よッ!』
誓子は沙知絵の前ではいつもの癖で口調や態度が悪い娘ぶるのが普通になっていた…
『で、いつ返すのさッ、あの絵ッ!』
親友の話に少し食い付いたように沙知絵は目を爛々と輝かせ誓子の次の言葉を待っていた…
『うんと…明日、明日あの高架下でまた…』
『それってどうよッ!?進展アリ?』
最早色気親父の様相でニヤニヤとニヤケながら沙知絵は肘で誓子をこついた…
『な、何の進展さッ!ンナァもんある訳ないでしょッ!っつっか言っとくけどサチ、私は超面食いなんだかんねッ!』
思ってもない言葉を口にされ、誓子は恥ずかしさよりもむしろ腹立たしさを沙知絵に感じていた…
『じゃあ私も付いて行くぅ~!』
両手を万歳して沙知絵はキャッキャッと跳ね出した…
(ハァ~…この子、疲れるゥ~)
誓子は作り笑顔で装った…
>> 12
🎁11🎁
誓子は本当の事を言うべきか否か迷っていた…決して上手とは言えない彼の絵を友達を介してとは言え、要らなくなったから返しますなんてこ…
🎁13🎁
次の日誓子は学校を無断欠席してずっと家に居た…夕方沙知絵と駅で待ち合わせをし、二人は男の子がいつもいる高架下の道路に向かった…秋は深まり道路一面に落ちた銀杏の黄色い葉っぱは泥だらけの車達に跳ね上げられ、見るも無惨な表情で横たわる…
『あ、いたいたッ!ヨッ、未来のピカソ君ッ!』
沙知絵が相変わらずの無礼な先制攻撃を仕掛ける…
『あ、あぁ…ど、どうもこんにちはッ!』
男の子は沙知絵がいた事に少し戸惑った様子だったがすぐ気を取り直したように笑顔で二人を迎えた…
『誓子から…あ、誓子ってこの子の名前ねッ!でさ、聞いたよッ…ピカソ君は私達とオナイなんだってねッ!ビックリしちゃったわよ!どう見ても老け…』
『あ、き、気にしないでよ、この子口悪いからッ…ハハハ…でも基本悪いヤツじゃぁないしッ!』
誓子は沙知絵の無神経な唇に慌てて蓋をするとごめん、ごめんと頭を下げた…
『いいよ、老けてるのは確かだから…』
そう言うと男の子は予め用意していたのか、長い木製の箱を置き、二人の席にしてくれた…
『お、用意イイじゃん、ピカソ君ッ!自分だけノウノウと椅子に座ってんのかと思った…』
『またぁ~、コラッ沙知絵ッ!!』
>> 14
🎁14🎁
『僕は軍司…時任軍司…』
鉛筆を削りながら男の子は二人に自分の名前を告げた…
『ヘェ~ッ、軍司…カァ…ハハハ…変わった名前だぁね!じゃあ軍チャンだ、軍チャン!』
沙知絵が軍司の物であろう傍の道具箱から何本かの絵画用の鉛筆を取り出すと空に文字を書く真似をしながらケタケタと笑った…誓子は子供じみた沙知絵のその持っていた鉛筆を母親のようにグイッと黙って奪い取るとそっと元の道具箱にしまった…
『軍チャンあんたさ、前に見た時より少し痩せたんじゃない?』
誓子の案ずる事を沙知絵が何の遠慮もなく軍司に告げた…
『そ、そうかなぁ…あんまり食べないから…ハハハ…』
軍司は二人の会話は耳で聞きながらも鉛筆を持つその右手はその瞬間も遊ぶ事なく真っ直ぐにキャンバスに向かっていた…
『前から気になってたんだけどサァ…』
今度は誓子が口をついた…
『きみ…あ、ぐ、軍司…ッは学校…通ってんの?その…高校ッ…行ってんの?ほら、以前も朝からも見かけた事あったからさッ!それも何日か連続でさッ!』
キャンバスに向かう軍司は笑顔を絶やさずにただ行ってないよ!とだけ答えた…
>> 15
🎁15🎁
『でさ、どしてこんな場所でずっと絵ェ、描いてんの?…飽きるッショ?たいがい…!』
沙知絵は黙々とキャンバスに描く軍司の指先を見ながら退屈そうに尋ねた…
『飽きないよッ!毎日色んな人が僕の前を通り過ぎて行くんだよッ!しかめ面やゲラゲラ笑いながら歩く人、肩を落としてトボトボ歩くサラリーマン…隣の人から冗談言われて笑わされてるのかナァ~とか、きっと得意先での取引が上手くいかなかったんだろナァ~とか…まぁ飽きないね…人間観察って言うのかな…こういうの!』
手際よく鉛筆を入れ替えながら絵を描くその軍司の横顔に誓子は何か堅い意思のような不思議な物を感じとっていた…
『フゥ~じゃッ、私は帰るわッ…で、軍司あの絵さ、誓子にあげたんだけど別にいいよね?』
アッケラカンと言う事だけ言って沙知絵は一緒に帰ろうとする誓子をマアマアと制止してどうぞごゆっくり!と頭を下げて走って帰って行った…
『ハハハ…な、なんか、変わった…友達だねッ…』
『…う、うんまぁ…相当変わってる…』
軍司と誓子は互いに顔を見合わせると会話を交わす事なく沙知絵の後ろ姿をじっと見つめていた…
>> 17
🎁16🎁
『コラッ、誓子ッ!用もねぇのに勝手に診察室に入ってくんじゃねぇッ!』
『いいじゃん次男なのにイチロー先生ッ!…ツレナイなぁ~』
地元のとある県立病院の脳神経外科外来の御子柴一朗医師の診察室に誓子はいた…
『金川先生にはきちんと診て貰ったんだろ?なら早く帰って勉強でもしろッ!ってゆうかお前最近学校きちんと行ってんのかッ!?』
誓子はこの病院の婦人科外来に定期的に診察を受けにやってくる…2年前から急に生理痛がひどくなり夜も寝る事すらままならなくなり、近所のかかりつけ婦人科医師の紹介でこの病院にやって来た…そこで偶然出会って仲良くなったのが主治医の金川婦人科医師の大学の先輩である脳神経外科医の御子柴一朗だった…誓子は口は汚いが友達のように人当たりの良い御子柴と気が合うようになり定期検診にこの病院に来ては脳神経外科外来の御子柴一朗を訪ねるのが日課になっていた…
『先生、そんな小言ばっか言ってるとずっと彼女見つかんないよッ!』
『う、うるせぃ!お前に言われたかぁないやいッ!早く帰んなッナンチャッテ女子高生ッ!』
『!…ナンチャッテじゃないっつぅの!現役だよ、現役ッ!』
誓子は御子柴に会う時が今は一番楽しかった…
>> 18
🎁17🎁
『で、両親とはうまくいってんのか?』
御子柴は待合室のロビーの自販機で紅茶のカップを二つ買うと一つを誓子に渡した…
『……うぅん…っつぅかさ、全然喋ってない…』
『何でぇ?…』
誓子にとって御子柴は仲良くなってから心を許せ、何でも打ち解けて話が出来る数少ない存在となっていた…
『…分かんない…ただ…あんまり私にも関心ないみたいだしさッ…』
真っ黒な顎髭をゴウゴウと生やした山男のような風貌の御子柴は眼鏡を一度指で整え、カップの紅茶をすすった…
『…時々嫌になるんだ…自分って何なんだろって…このままでいいのかなって…進路の事や、遠い未来の事考えてるとさッ…先生はないっしょ?将来の不安とか…』
『あるさッ…そりゃあ…』
病棟からの来いとの催促のポケベルが鳴ったが御子柴はすぐにそのアラームを消した…
『あるに決まってんだろぅが…誰だってあれやこれや考えながら生きてるんだッ…お前だけ悩んでんじゃねぇ!』
『先生はいいよなぁ…なんつっても先生なんだからッ!女性にモテないのは玉に傷だけどッ…』
御子柴は知り合いの通りすがりの医師に軽く会釈すると思いついたように
『…アホッ!…』
と軽く誓子の頭をこついた…
>> 19
🎁18🎁
『あ、先生…実はさッ…』
誓子はそうだそうだと思いついたように鞄から軍司の描いた絵を取り出して御子柴に見せた…
『学校の帰りの道でさ、道路脇に座り鉛筆で絵描いてる同い年の男の子がいてさ、これ貰ったんだよねッ!』
『……ふぅん…俺も大して絵心はねぇが…しかし、お世辞でも上手い!とは言えねぇ絵だなッ…まぁ最近はこういった崩れたタッチがいいのかもしんねぇけど…』
御子柴は絵には疎いようでしきりに頭をかいている…
『こないだそれ持ち主に返しに行ったのねッ…したらその男の子と長々と話こんじゃってさッ…結局返せなかったんだ…』
御子柴は誓子の顔を凝視して苦笑いをした…
『…誓子…お前やけにこの話になると明るいじゃねぇかッ…ククク…まさか惚れてんじゃねぇのか?…その男の子ってぇのに!』
『!、ち、違うよッ、何考えてんのさ先生ッ!私は超面食いだってぇの!アァ~これだから大人に相談したくないんだよナァ~!』
誓子は頭を抱えてうなだれた…その姿を見て御子柴はすぐ本気にすんだから困ったもんだ、女子高生は!と反撃して笑った…
>> 20
🎁19🎁
『何処に行くんだ?こんな夜更けにッ!』
『っさいナァ~!何処だってイイじゃんヨォ!アンタには関係ないッ!』
慌ただしく靴を履くと誓子は口煩い父親に見向きもせず玄関の扉を閉めた…昨晩誓子が帰宅すると家に見知らぬ女が居た…会社の後輩だと父親は誓子に言っていたが誓子にはピンと来ていた…
(ハァ~…母さんも母さんだけど…この親父も最ッ悪!)
いつも以上に優しく振る舞う父親の気持ち悪さに誓子は耐えきれなくなり思わず家を飛び出していた…
(最悪ッ最悪ッ~ンモォ超最ッッッ悪!)
何度も父親に毒付きながら誓子の足は自然とあの高架下に向かっていた…とにかく誰かに聞いてほしい、この胸のモヤモヤとぶつけ所のない怒りをッ!
『やぁ、こんばんはッ!セイちゃん今日はえらく遅いねッ…』
丁度仕上がった絵を小脇に置くと軍司はいつもの笑顔を誓子に見せた…ここの所何かある度に誓子は軍司のいる高架下に来ては彼に散々その日体験した色んな人生の愚痴を垂れる…誓子にはそれが密かな楽しみになって来ていた…
『いくら妻の帰りが遅いからっつって、女作るかッ普通ッッッ!』
今日の誓子は一段と荒れているナァと感じとった軍司は控え目な笑顔にギアチェンジした…
>> 21
🎁20🎁
夜の寒空の下、冷たいコンクリートに囲まれ時に頭の上を電車が落雷でも起きたかのような轟音をあげ通り過ぎてゆく…その片隅にポツンと存在する軍司と誓子の意外に奇妙なツーショットは道行く常連通行人達の当たり前になっていた…
『何か…飲む?』
魔法瓶の蓋に熱い紅茶を注ぐと軍司は膨れっ面の誓子にハイッと手渡した…
『あんがと…で普通さ、考えられないじゃんッ!嫁も娘もいる家にだよ、あんな女連れて来てさ、事もあろうに会社の後輩だってヌカスんだよッ!私だってバカじゃないからねッ!連れて来た女がどういう女なのか位判るっつぅのッ!ねぇ聞いてる、軍司ッ!』
機関銃のように荒れた誓子の口から無差別乱射されるその言葉を噛み締めるように軍司はウンウンと手をキャンバスに進めながら聞いている…
『フフ…セイちゃん家も色々あるんだねッ…』
手際良く鉛筆を入れ替えると軍司はコップに入った紅茶を飲み干した…時折ムセたような激しい咳をする度に誓子は執拗にねぇ、ちゃんと聞いて!と軍司のシャツの袖を掴みガクガクと揺らし軍司の絵の描く邪魔をした…最終がなくなった二人きりの駅の高架下は一瞬にして静寂が辺りを支配した…
>> 22
🎁21🎁
『何かいつも悪ぃねッ…軍司、何か私の愚痴ばっか聞かされて…沙知絵のヤツさ、最近出来た彼氏にオネツでさ、私ん事全然相手にしてくんないんだァ~!ッツ!ってこの紅茶熱ッツい!』
誓子は何度も舌を出してハアハアと犬の真似をしてみせた…
『…ち、ちょっと軍司ぃ…つぅかさ、今は笑う所ッ!笑わないと何か私だけバカみたいじゃんカァ!』
『あ…え、そうなの?…あ、そうなんだッ…ゴメン!』
極端に真面目腐った所はないが基本的に軍司は大人しい落ち着いた感じの青年だった…特にバカな仕草や冗談も言う訳でもなくただじっとそこに座りいつも誓子の聞役に回っていた…誓子はそんな何でも受け止めてくれる軍司をいい意味でとても都合のいい友達だと感じてはいた…
『軍司んとこの家族はどんなの?…ハハハ…私ん事ばっかで全然聞いて無かったよね…そぅいやぁ…』
膝を三角に立て誓子は並べてある軍司の作品の幾つかを手にとって眺めていた…
『え?ウチ?…ウチは今はおばあちゃんと二人暮らし…ハハハ…』
『おばあちゃんと?…両親は?』
誓子は不思議そうに軍司に尋ねてみた…
『言わなきゃいけない?…どうしても?』
急に軍司の顔が寂しげに少し曇ったようになった…
>> 23
🎁22🎁
『両親は…いないんだ…どっちもね…』
一度大きく息を吸うと軍司は気を取り直したようにまた絵に没頭しはじめた…
『……っか!…だよねッ…ハハハ…言いたくない事だってあるよねッ…ゴメン…』
軍司の異様な雰囲気を悟った誓子はそれ以上は何も聞かないでおこうと決めた…もしひつこく軍司の家庭の事を聞いて軍司が誓子の事を煙たがり、自分の前から姿を消される事だけは今は絶対したくないと思ったからだ…深夜零時を回った駅前の高架下の道路は殆ど人通りもなく気持ち悪いくらいに静かだった…
『じゃ、セイちゃん、僕そろそろ…帰るね…今日は少し疲れちゃったカナ?…ハハハ…』
道具箱をカタコトと片付け出した軍司は一度パーカーの襟を整え直すとゆっくり立ち上がった…
(お、思ったより小さいんだァ…)
軍司と知り合って結構経つが彼が立ち上がる姿を見たのは誓子はこれが初めてだった…
『お、怒っちゃったぁ?…軍司…』
誓子はさっきの質問を彼が気にしているのではないかと凄く後悔していた…
『全~然ッ!…ハハハ…じゃまたね!』
少し疲れたような笑顔で軍司は誓子に手を振ると重たそうな道具箱を抱えてゆっくり歩き帰って行った…
>> 24
🎁23🎁
『軍~ん司ッ!オッス!』
誓子がいきなり背後から声をかけた…時はもうすぐ師走に差し掛かる11月下旬の比較的暖かい夜だった…
『!…っくりシタァ!…もうッ!』
『今日も精が出ますわね~、未来のピカソ様ッ!』
『あのぅ…ピカソって言われるのは嬉しいんだけど…目指してる所全然違うんですけどッ!』
何度も咳をして蒸せながら軍司は今日も誓子との再会を喜んだ…元来静かな事が人一倍嫌いな誓子だったが軍司と知り合って以来この高架下でじっと座っている事がたまらなく好きになっていた…通りかかる人々の色んな表情を見ている事に楽しみを憶えるようになっていた…
『期末テストの勉強しなくていいの?』
軍司が誓子に咳込みながら尋ねた…
『あ、うん…息抜きだよ息抜きッ…ってゆうか軍司、最近咳またひどくなって来たね…まだ風邪治んないの?』
軍司は魔法瓶の紅茶を飲むと大丈夫大丈夫と笑って見せた…
(!…車…椅子?)
軍司の座るすぐ脇には今までには無かった車椅子がポツンと置かれていた…
『……ホントに…家で休んだら?こんな所で絵、描いてる場合じゃないよッ!』
誓子は軍司のに忠告したがただ大丈夫とだけしか誓子に言わず黙々と絵を描いていた…
>> 25
🎁24🎁
『誓子アンタ、まだ軍ちゃん所通ってんのッ!随分精が出ます事ッ!』
『…毎日スキーショップのアルバイト学生に逢いにいってる献身な桐谷沙知絵嬢には敵いませんヨォ~だ!』
期末テストの二時限目が終わった休み時間に誓子は沙知絵と雑談していた…
『ダァって輝くんが会いたい~ッて毎日メールくれっからさ…イケ面スキーショップ店員の誘い、ムゲに断れないじゃん!』
胸に手を当て目をパチパチ瞬かせながら沙知絵はおどけて見せた…
『まぁ恋に忙しいのは何よりですけどねッ!』
誓子は皮肉タップリに沙知絵に笑いかけた…
『で、アンタの方はどうなのさ、軍ちゃん、』
『どうって…別に…』
『ハハァ~その顔は満更でもナイッて感じダァね!イヒヒ…』
沙知絵は次の試験科目の日本史の教科書を丸め、ポンと誓子の肩を叩いた…
『ち、ちょっとぉ、前にも言ったけどぉ、私が軍司に逢いに行くのはただ単にあの高架下が家から近いし、ひ、暇だからって理由だけだかんねッ!他に理由なんてないんだからッ…』
必死に取り繕う誓子を見て沙知絵はハイハイと教科書をウチワ替わりに仰いで見せた…
- << 30 🎁25🎁 期末テストも終わり冬休みに入ると誓子は殆ど家にいる事がなくなっていた…父親が女を連れて家に来る事はあれ以来無かったがそんな父親と一分一秒も一緒にいたくない気持ちには変わらなかった… 『チェッ…ナァ~んだ…今日も居ないのか…』 高架下に軍司がいないと誓子は何故かとてつもなく淋しい気持ちに襲われる…毎日のように彼の横に座りひたすらその日あった出来事を聞いてもらう事が誓子にはもう当たり前になってしまっていたからだ…街には鮮やかにディスプレイされた赤や緑が目立ち始めた… (アァ…そういやぁ、もうすぐX'masカァ…) ウインドーに飾られているサンタの置物を眺めながら誓子は一人溜め息をついた…今年も母親は大晦日遅くまで仕事に追われきっと帰って来ない… (まっ、別にいいんだけどねッ…慣れてるし…) 一人心の中で強がりを言いながら誓子は駅前の百貨店を一周して気づけばまたあの高架下に来ていた… (最近咳もかなりひどかったし…息も苦しそうだったから…寝込んでんだ…そだよッ、きっと…) 誓子は目の前にあった空き缶を大きく蹴り上げると逢えなきゃ逢えないでいいか~と変な開き直りでコンビニにお気に入りの化粧品を買いに入った…
>> 26
🎁24🎁
『誓子アンタ、まだ軍ちゃん所通ってんのッ!随分精が出ます事ッ!』
『…毎日スキーショップのアルバイト学生に逢いにいってる献…
🎁25🎁
期末テストも終わり冬休みに入ると誓子は殆ど家にいる事がなくなっていた…父親が女を連れて家に来る事はあれ以来無かったがそんな父親と一分一秒も一緒にいたくない気持ちには変わらなかった…
『チェッ…ナァ~んだ…今日も居ないのか…』
高架下に軍司がいないと誓子は何故かとてつもなく淋しい気持ちに襲われる…毎日のように彼の横に座りひたすらその日あった出来事を聞いてもらう事が誓子にはもう当たり前になってしまっていたからだ…街には鮮やかにディスプレイされた赤や緑が目立ち始めた…
(アァ…そういやぁ、もうすぐX'masカァ…)
ウインドーに飾られているサンタの置物を眺めながら誓子は一人溜め息をついた…今年も母親は大晦日遅くまで仕事に追われきっと帰って来ない…
(まっ、別にいいんだけどねッ…慣れてるし…)
一人心の中で強がりを言いながら誓子は駅前の百貨店を一周して気づけばまたあの高架下に来ていた…
(最近咳もかなりひどかったし…息も苦しそうだったから…寝込んでんだ…そだよッ、きっと…)
誓子は目の前にあった空き缶を大きく蹴り上げると逢えなきゃ逢えないでいいか~と変な開き直りでコンビニにお気に入りの化粧品を買いに入った…
>> 30
🎁26🎁
【あ、ピカソの軍ちゃんなら昨日見かけたよッ…】
親友の沙知絵の携帯から予想もしない言葉が返って来たのはそれから2日後の事だった…
『ち、ちょっとサチ、何処でッ?何処で見掛けたのさッ!?』
【っつぅか、私も輝クンと一緒にいたから声は掛けなかったんだけどね…誓子アンタ最近軍ちゃんに会って無かったの?】
『んな事はいいのッ!何処ッ?何処で見掛けたのッ!?』
【…何ムキになってんのさッ…ん~と…あれは~確かね~あ、あそこあそこッ!県立の大学附属病院の玄関よッ…丁度あの前に大きなスキー専門のショップがあってさ、輝クンとそこから出てきた時にあ~!あの子誰だっけ…あ、そだ、ピカソの軍ちゃんだっ!ってまぁこんな感じかな…】
電話口で沙知絵はお菓子を食べているらしくイマイチはっきりと聞き取りにくい声だ…
(大学病院カァ…体の調子悪かったから…診て貰いに行ったのかな…)
色んな想像を張り巡らせながら誓子は沙知絵にバイバイと言うと電源を切った…部屋の灯りを消して机に頬杖をつくと誓子はいつかの車椅子を思い出した…
(体の具合…大丈夫かな…軍司、車椅子に乗って来てまで絵、描いてたもんね…)
誓子は部屋の灯りをそっと消した…
- << 33 🎁27🎁 誓子は賭けに出てみようと決心したのはX'masを明後日に控えた暖かな午後の事だった… (もし明後日のX'masイブの日に軍司があの高架下に来ていたならX'masプレゼントを渡そう!) …別に特別な意味はない…ただいつでも嫌がらず自分の愚痴を聞いてくれる唯一のお喋り友達として誓子はこの機会に何かお礼がしたかったのだ… (何がいいのかナァ~…そぃや、いつも自分の事ばっかで軍司の好み、全然聞いてなかったナァ~) 百貨店に隣接している可愛らしい雑貨店に立ち寄ると誓子は頭を悩ませた…けどいつぶりだろう…こんなに誰かの為にプレゼントをあれこれ考える楽しみが溢れて来たのは!楽しいッ!凄く楽しいッ!…色んな雑貨を手に取る度に誓子の頬は緩むばかりだった…でもその反面、もし当日軍司があそこに居なかったらどうしようという不安にもかられて誓子の心は蜘蛛の糸のようにこんがらがっていた… (大丈夫ッ!軍司は絶対来るッ!…何かそんな気がするッ!) 誓子は散々悩んだ末、夜の絵を描く作業にでも使える淡い空色をしたチェックの膝掛けを購入した…
>> 31
🎁26🎁
【あ、ピカソの軍ちゃんなら昨日見かけたよッ…】
親友の沙知絵の携帯から予想もしない言葉が返って来たのはそれから2日後の事だっ…
🎁27🎁
誓子は賭けに出てみようと決心したのはX'masを明後日に控えた暖かな午後の事だった…
(もし明後日のX'masイブの日に軍司があの高架下に来ていたならX'masプレゼントを渡そう!)
…別に特別な意味はない…ただいつでも嫌がらず自分の愚痴を聞いてくれる唯一のお喋り友達として誓子はこの機会に何かお礼がしたかったのだ…
(何がいいのかナァ~…そぃや、いつも自分の事ばっかで軍司の好み、全然聞いてなかったナァ~)
百貨店に隣接している可愛らしい雑貨店に立ち寄ると誓子は頭を悩ませた…けどいつぶりだろう…こんなに誰かの為にプレゼントをあれこれ考える楽しみが溢れて来たのは!楽しいッ!凄く楽しいッ!…色んな雑貨を手に取る度に誓子の頬は緩むばかりだった…でもその反面、もし当日軍司があそこに居なかったらどうしようという不安にもかられて誓子の心は蜘蛛の糸のようにこんがらがっていた…
(大丈夫ッ!軍司は絶対来るッ!…何かそんな気がするッ!)
誓子は散々悩んだ末、夜の絵を描く作業にでも使える淡い空色をしたチェックの膝掛けを購入した…
>> 33
🎁28🎁
X'masイブ当日の夕方…誓子はすぐ近所の駅前の高架下に出向くだけにもかかわらず、何故かお気に入りのエンジのタートルネックとGジャン、少し丈の短い黒いスカート、頭には宇治色のニット帽子を被り意気揚々と玄関を出た…焦げ茶色の紙袋に入ったプレゼントの膝掛けは軽快に歩幅を進める誓子のロングブーツに合わせているかのように右手の下で半分に孤を描いて踊っていた…
(きっといるッ…きっと…居るに決まってんジャン!今日はX'masイブだよッ!願えば何だって叶う日なんだって!)
誓子はよし!と心で気合いを入れて運命の高架下に向かった…早くもほろ酔い気分のサラリーマンの団体の脇をすり抜け、仲の良いカップルの間をすり抜け、誓子はただひたすら前だけを見て目的地に進んだ…
『…………ハァ~…マジィ~!』
その高架下の道路に軍司の姿は今日も無かった…高ぶっていた誓子の気持ちはスルスルと音を立てて崩れていった…
(そんなに…悪いんだ…軍司の風邪…)
肩を落とし一瞬天を仰ぐと誓子はえもいわれぬ寂しさと孤独感を感じていた…
(…メリー…クリ…スマス…)
蚊の哭くような弱々しい声でそう囁くと誓子は街行く人々を眺めていた…
>> 34
🎁29🎁
『寒いから冬眠してんだよ、きっと…ピカソ君…』
『ち、ちょっとサチ、軍司を山の熊みたいに言わないでくれるッ!』
沙知絵の家の近所にある旨いと評判の沖縄料理専門店で誓子と沙知絵は毎年恒例、二人だけの忘年会をしていた…
『今年こそはアンタと淋しい忘年会するもんかッ!って意気込んてたんだけどナァ~…』
『フフ…二ヶ月弱…カァ…沙知絵失恋自己最短記録達成~だねッ!』
今日の飲み会のホントの所は忘年会も兼ねて先週沙知絵が最近まで付き合っていた輝之というスキーショップ店員と別れた残念会という名目もあった…
『まぁあんなマザコンこっちから願い下げだっつぅのッ!泊まりデートで母親連れてくっか普通ッ!信じらんないよッ!最ッッッ低!』
沙知絵はシークワーサーチュウハイを一気に流し込むと持っていた箸を指揮棒のようにブラブラと振った…
『…で、どうすんのさ、そのプレゼント…いつ渡すつもり?…最悪彼、もう来ないかもしんねぇよッ!』
沙知絵は酔いも手伝ってズケズケと物を言う…
『……かもねぇ~…』
力のない声で頬杖を付くと誓子は目の前にあるゴーヤ入りジャガバターにプスッと箸を突き刺した…
>> 35
🎁30🎁
時が経てば自分でもすぐに軍司を忘れ、また平凡でつまらない生活が待っていると思っていた…だけど何故だろう…年が明けても誓子の軍司への気持ちは弱くなるばかりか日に日に強くなっていった…
(そうなんだ…別に恋とかそんなんじゃないんだ…不思議なくらいそんなんじゃない…ただ逢わないと…何かスッキリしないってゆっか、あんなに毎日のように傍で喋ってた人がある日ふと居なくなると何か…何だか口に出来ないくらい…悲しくなる…まぁいいや!また逢えたら逢えたその時で!…なんてそんな簡単な問題じゃなくなってきてるんだ…何だろ…何だろ…この不思議な気持ち…)
教室の窓側の席に座り、誓子はチラチラ降る雪を眺めてはそんな気持ちになっていた…
(軍司って私にとって一体何なんだろう…)
数学の教科書を立てて誓子は静かに机にうつ伏せになりまたじっと窓の外の白い雪達がじゃれ合う姿を呆然と見ていた…
(…フゥ~…もうすぐ春かァ…何してるんだろ、彼…)
空虚な頭の中を整理すればする程誓子の脳内の部屋は乱雑に散らかっていった…
>> 36
🎁31🎁
※風に追われてうつ向く君を
僕は少し妬ましく見守り続ける
両手に摘んだら溶けてしまうね
魔法使いの夢のよう
君はあどけなくて…
桜・桜・らららら桜
桜・桜・らららら桜
早く僕に気付いておくれ
桜・桜・らららら
『あぁ…この高架下で半年位前まで絵を描いてた彼だろ?…彼なら知ってるよ!』
桜の花びらが風に舞い、駆け足のように春が過ぎ去ろうとしている4月のある少し肌寒い日…誓子は突然の朗報に思わず瞳孔が全開になる勢いだった…高架下近くのコンビニの店員が最近軍司らしき青年が此処から200m程離れた閑静な住宅街の児童公園で絵を描いていたのを目撃していたのだ…
『それど、何処ですかッ!?』
誓子は店員に聞くな否やすぐに児童公園に向かい走り出していた…
>> 37
🎁32🎁
『ぐ、軍司ッ……!』
車椅子のタイヤがキシキシと鳴った…鉛筆を持つ手を一瞬止めて彼、時任軍司は少し伸びた髪を掻き揚げ誓子の方を見た…
『軍司ッ……』
『……久しぶりッ…だね…』
誓子のこれまでの張り詰めた気持ちを知るよしもないくらいに軍司は意外な程穏やかで冷静に誓子との半年ぶりの再会を果たした…
『…ッ…って…何ッつっていいのか…そのぅ…分かんない…けどさッ…急にあの場所に来なくなって…その、し、心配したんだ…からッ…ね!』
自分でもコッ恥ずかしいくらいシドロモドロになりながら誓子は車椅子の軍司をじっと見つめていた…
『ゴメンね…ずっと今までアソコで描いてたんだけど…ハハ…ちょっと都合が悪くなって来て…』
画材の鉛筆達を膝にそっと置くと軍司はホントにゴメンねと丁寧に頭を下げた…
『い、いや…謝る事じゃないけど…ただ…淋しかったんだ…!ッて、そ、その、へ、変な意味じゃないかんねッ!友達として何か…そ、そういう意味だかんねッ!勘違いしないでねッ!』
『はいはい…分かりました!セイちゃん!』
軍司の口から久しぶりに聞いた《セイちゃん》の響きに誓子は思わず懐かしさ以上の何かを感じずにはいられなかった…
>> 38
🎁33🎁
『僕少し気管支が悪くてさッ…あの場所ずっと気に入ってたんだけど…ほら、アソコ、車の排気ガスとかそんなの凄いでしょ?…だからここに場所変えたんだッ!…ハハ…』
『そっか…軍司は気管支が悪かったんだぁ…フフ…だから咳をあんなに…じゃここに来たのは正確だぁねッ!周りは自然だらけだしッ!』
誓子は無邪気に笑いかけると軍司はでも此処は高架下のようなしがない人間観察には適してないけどね!と困り顔をしてみせた!
『…フフ…でもよかった…!』
『ん?…何が?』
『え…?…い、いや別に…』
貴方にまた出会えたから…なんていう恥ずかしい言葉は到底誓子には口には出来ずただ照れ隠しで鼻唄を歌って見せた…
『絵…進んでる?』
誓子は軍司の膝の上にある軍司の描きかけの絵をそっと覗いた…
『……あ、見ないでッ!』
いきなり軍司が自分の描きかけの絵を手で覆い隠した!
(!…え?…)
一瞬誓子の伸ばした手が止まり誓子はハッと驚いた!
『あ…ご、ゴメン…み、見せたくないんだ…今は…ゴメンね…ホント、ゴメンね…』
『…あ、うぅん…私も…ゴメン…!』
二人の間には言いようのない変な違和感が漂っていた…
>> 39
🎁34🎁
それからまた誓子と軍司の他愛もない井戸端会議の日々が始まった…誓子は必ず学校帰りに軍司のいる公園に顔を出してはまたいつもの様に毎日の愚痴を軍司に溢しては一人で腹を立てていた…軍司は以前と変わらず誓子の退屈な愚痴の数々を笑ってウンウンと受け止めていた…誓子はそんな変わらぬ軍司に遠慮なく愚痴を溢しては笑っていた…でもただひとつ以前の軍司とは明らかに違う所があった…それは気軽に描いた絵を見せてくれなくなった事と誓子が遊びに来ている間、軍司は鉛筆を持って絵を描こうとは決してしなかった事だった…当初は誓子もあまり気にもしなかったのだが何回か会ううちに何か言いようのない違和感が何度も彼女を襲った…
(何で描かないのかな…私に気を使ってる?…いや、前は横にいても軍司は気にせず自分のペースで絵を描いていたよね…何でカナ~…)
あまり詮索するとまた軍司に逃げられると思い、誓子はその話題には触れずただこの時間だけを大切にしなきゃ!という思いで必死だった…
(軍司だって軍司の考えがあるんだッ!…触れない触れない…)
軍司の笑顔に誓子は誓った…
>> 40
🎁35🎁
『ヨォ!悩める女子高生ッ!…最近どうだ、調子は?』
『う、ウワァ!先生ッ!ど、どしてこんな所にいんのさッ!』
婦人科外来の待合室で金川医師の定期健診を待っていた誓子の横からいきなり髭モジャの脳神経外科医、御子柴一朗が顔を覗かせた…
『今日お前健診の日だろ?いつも頼んでもないのにウチの外来に現れるから今日はこっちから来てやったって訳よッ!ガハハハ!』
御子柴はどうだ!と言わんばかりに誓子の横で高笑いした…
『…っぅか先生…この病院の外科部長なんでしょ?…威厳てモンが丸でないよッ!…』
御子柴はコホンと一度咳払いをするとホットケ!と照れた…
『まっ、その飾らないトコが好きっちゃぁ好きなんだけどねッ!次男なのに何故かイチロー先生ッ!』
『またそれかぁ…それ言わない日ないナァ~お前さん…そりゃそうとよッ、実は俺昨日競馬で大勝ちしてよッ、その金で色んな人に焼肉食べ放題奢ってやろうと思ってな…で、どうだ、…島本も行くかッ?』
突然振って湧いたタダ飯話に誓子の心は弾んだ…
『行く行くッ!絶対行く這ってでも行くッ!』
『決まりだな!…友達とか連れて来てもオッケー牧場ッ!』
御子柴は後でこっちの外来に来いと言い残し去った…
>> 41
🎁36🎁
『あ…ごめん、その日はちょっと駄目なんダァ~!青年実業家主催の合コンがあってさッ!イヒヒ…』
電話での沙知絵の声は弾んでいた…
『サチ…アンタも立ち直り早いね~…もうすぐ切り替えェ?』
呆れ声でじゃあね!と電話を切ると誓子は部屋の窓を開けた…新緑の爽やかな風がサァ~っと誓子の頬を霞めた…
(どうしよっかなァ…一人で行ってもつまんないし…)
『!…え、え?…焼…肉ッ?』
『そっ!私の知り合いのお医者さんがね、焼肉奢ってくれるって誘われたんだッ!…良かったら軍司一緒に行かない?』
ボール遊びに夢中の子供達の輪をじっと眺めながら軍司は少し考えていた…
『あ、お医者さんっつっても堅苦しい人じゃないのッ、もうほんと白衣着てなきゃただのホームレスみたいな感じの…ホームレスは言い過ぎかッ…ハハ…まぁホントいい人だから…』
『ま、まぁ…セイちゃんが一緒なら…』
軍司は誓子の押しに負かされたように半ば渋々焼肉の件を承諾した…
『今週の土曜日、…そうだなぁ…じゃあ四時にあの高架下に集合ねッ!オッケー?』
『分かった…』
誓子は何着て行こうかナァ~と一人はしゃいでいた…
>> 42
🎁37🎁
『ナァ~に浮かれた顔してんのよッ!…で、焼肉…誰か他誘ったの?』
廊下で隣のクラスから出てきた沙知絵に捕まった誓子は実はあの軍司を誘ったんだと沙知絵に報告した…
『えぇッ!うっそ!…よくあのひ弱そうなピカソの軍ちゃんがコンパに行く気になったねぇ!』
『コンパじゃないってぇの!ただの焼肉食べ放題の会だよッ!』
正直誓子も軍司に固くなに断られるだろうなと覚悟はしていた…でも渋々ながらセイちゃんが一緒なら…と焼肉を食べに行く事を承諾してくれた軍司に何故かとても嬉しくなった…
(セイちゃんと一緒なら…カァ…フフフ…)
『ちょっと誓子、アンタちょっとニヤケ過ぎッ!顔を締めろ顔をッ!』
沙知絵は誓子の頬を両手で押さえ込むとアッチョンブリケ!と笑わせた…考えたら軍司とこうして高架下や公園以外で逢うのは初めての事でやっぱり誓子の心は自然と飛び跳ねずにはいられなかった…
(軍司…来てくれるよね…連絡先とか…メアドとか…一応聞いとくべきだったかナァ…)
誓子の中で異性に連絡先を聞くという事はつまり何か貴方が好きです~!ナァんて告白しているようなもんなんだという変なこだわりがあり結局軍司を信じるしかなかった…
- << 46 🎁38🎁 『ちゃんと来てくれたねッ…軍司!』 『約束したからね…約束は守らなきゃねッ!』 《御子柴先生主催兼大蔵省付き焼肉食べ放題の会》当日、軍司は待ち合わせの高架下に来ていた… 『調子はいいの?…最近ずっと車椅子だったから…』 『うん、心配ない…いつも少しメマイがするんで乗ってるだけッ!今日は大丈夫ッ!』 シックな紺色の長Tにジーンズ姿の軍司はいつもの全身パーカーよりは凄く活発な男の子に誓子には映った… 『カッコイイよッ!軍司…普段からそんな服着てる方が全然カッコイイ…!』 『そ、そうかなァ…これでイッパイイッパイだよッ!ハハハハ…てゆうかセイちゃんの服装…それ女子高生の服装じゃないよッ!何でスカートにスリットなんか入ってんのさッ!』 電車の吊革に捕まりながら二人は無邪気に笑った… 『でもメマイとか気管支喘息とか貧血とか…ったく、絵に夢中になんのもいいけど…もう少し身体鍛えなきゃ駄目だよ軍司ッ!』 『そうだね!気をつけます、お姉さん!』 『どぁれがッお姉さんよッ!!』 誓子がおどけると軍司はゴメンと言って笑った…何だか今夜は最高の夜になりそうだ!…誓子の胸は高鳴るばかりだった…
>> 43
🎁37🎁
『ナァ~に浮かれた顔してんのよッ!…で、焼肉…誰か他誘ったの?』
廊下で隣のクラスから出てきた沙知絵に捕まった誓子は実はあの軍…
🎁38🎁
『ちゃんと来てくれたねッ…軍司!』
『約束したからね…約束は守らなきゃねッ!』
《御子柴先生主催兼大蔵省付き焼肉食べ放題の会》当日、軍司は待ち合わせの高架下に来ていた…
『調子はいいの?…最近ずっと車椅子だったから…』
『うん、心配ない…いつも少しメマイがするんで乗ってるだけッ!今日は大丈夫ッ!』
シックな紺色の長Tにジーンズ姿の軍司はいつもの全身パーカーよりは凄く活発な男の子に誓子には映った…
『カッコイイよッ!軍司…普段からそんな服着てる方が全然カッコイイ…!』
『そ、そうかなァ…これでイッパイイッパイだよッ!ハハハハ…てゆうかセイちゃんの服装…それ女子高生の服装じゃないよッ!何でスカートにスリットなんか入ってんのさッ!』
電車の吊革に捕まりながら二人は無邪気に笑った…
『でもメマイとか気管支喘息とか貧血とか…ったく、絵に夢中になんのもいいけど…もう少し身体鍛えなきゃ駄目だよ軍司ッ!』
『そうだね!気をつけます、お姉さん!』
『どぁれがッお姉さんよッ!!』
誓子がおどけると軍司はゴメンと言って笑った…何だか今夜は最高の夜になりそうだ!…誓子の胸は高鳴るばかりだった…
>> 46
🎁39🎁
御子柴先生の勤務する病院の玄関には既にもう数十人もの参加者が集まっていた…大体は勤務先の看護師さんや先生にお世話になった患者のOBやOGの人ばかりだった…
『オッス!先生ッ!来てやったよッ!胃袋に穴が開くまでたらふく食わせてねッ!』
『おぉ、来たなッ、金食い虫ッ!今日は島本お嬢様がどんだけ食えんのか見届けてやろうじゃないかッ!のっ!』
御子柴先生は上機嫌で誓子の肩をパンと叩くと皆にいつも外来で俺の周りにベッタリ張り付く岩のりのようなあの噂の島本誓子ダァと紹介した…
(誰が岩のりだっつぅのッ!クソッ、この髭オヤジ、散々飲ませてやるッ!)
『お~い、先に断っておくが未成年は絶対お酒は頼んじゃ駄目だぞ~!頼むから俺をクビにさせないでくれぇ~』
両手でメガホンを作り、大声で御子柴は参加者の中に何人かいる未成年に忠告した…皆からドォッと笑いが起き、じゃ行くぞッと全員を手招きした…
『あ、軍司ゴメンねッ…先生には後から必ず紹介するからッ!』
軍司の紹介がまだだった事を誓子は謝った…
『いいよ、フフフ…面白い先生だねッ…』
軍司は参加者の人混みに紛れて御子柴の後を付いて行った…
>> 47
🎁40🎁
『え~、エヘン…今日は皆様お忙しい中、我が御子柴一朗主催の焼肉食べ放題の会に足を運んで頂き誠に有り難うございます!…んァ~僭越ながら私御子柴一朗、先日あの競馬の最高峰レース、日本ダービーにて○○万円の大穴を当てましたァ~ハイ、ここで拍手ぅ~!…ん、コホン…で、ヨイゴシの金は持たない太っ腹なこの私が是非皆様と幸せを分かち合いたいという事で今日の食べ放題の会を主催した所存であります!どうか皆様、日頃の疲れをこの炭火で癒し、また明日から…その…』
『先生ッ、長い長いッ!そんなのどうでもいいから早く肉食わせろッ!』
親しい看護師仲間から罵声が飛び会場の焼肉専門店は響くような笑いが起こった…
『!…クッ…アイツらぁ…ん、ふんじゃまあ、皆今日は奢りだから思う存分食べて帰ってくれッ!肉食い過ぎて腹壊しても俺をニクむなよッ!…ナンツッテ………え?』
『先生、お先に頂いてマァ~す!』
会場は御子柴の寒い挨拶など最早そっちのけでどのテーブルも肉を焼きだした…
『食べよッ軍司ッ!もうお腹ペッコペコ!』
誓子は軍司の隣の席に座り器にタレを入れてやった…
『ホンット面白い先生だねッ』
肉の焼く煙に咳込みながら軍司は割り箸を折った…
>> 48
🎁41🎁
参加者の席をこまめに回り、時折笑えない冗談を言ってみたりしながら御子柴一朗は楽しそうに笑っていた…その姿を遠目に見ながら誓子は網の上の焼肉と格闘していた…
『んだ、軍司ぃ…全然食べてないじゃん!ほら、お肉ッ!』
誓子は軍司の空の皿に焼きたての肉を置いた…
『ゴホ、ゴホ、…ご、ごめんねッ…さっきから咳、ゴホッ…』
『そっか、煙…駄目なんだ…』
誓子は傍にいた店員を呼び止め換気扇を強くしてくれと頼んだ…
『セイちゃんは御子柴先生の何処が好きなの?』
口にハンカチを当て蒸せながら軍司は誓子に聞いた…
『…ん~…そうだなぁ…凄い、ホンットすっごく優秀で腕のいい外科医なのに全然威張ってなくて、本当は凄く賢いのにバカのように振る舞うトコ…かな?』
『ふぅ~ん…何か素敵だねッ…セイちゃんの言ってるニュアンス、凄く伝わってくるよ…きっと捜してもあまり居ないお医者さんなんだねッ…』
『そッ!…天然記念物ッ、世界遺産クラスのねッ!』
『誰が天然記念物ダッテェ~!ガオ~!』
突然御子柴が誓子の席に乱入してきた!
『!ウワッ…せ、イチロー先生もう酔ってるしッ!』
顔を真っ赤にしながら何だとッ!と御子柴は誓子に噛みついた…
- << 51 🎁43🎁 『イチロー先生ッ!ありがとねッ、最高に楽しい夜だった!軍司も…だよねッ?』 食べ放題の会は無事お開きになり、帰りに誓子と軍司はベロンベロンの御子柴にお礼を言った… 『ンナァ~いいって事よッ!…ウィ~…途中で小便漏らすなよッ!おもらし女子高生ッ…ウィ~』 『し、失礼ッ!誰が漏らすカァ!』 参加者の中にいた年輩の看護師に両脇を抱えられながら御子柴はバイバイ~と子供のように手を振った… 『あ、軍チャァ~ン!オジサン君が気に入ったァ!また遊ぼうね~!ウィ~』 軍司に微笑みかけると御子柴は反対側の駅に消えて行った… 『ハァ…ったく!あんなだから彼女も出来ず未だに独身なんだよッ!…』 誓子は眉間に皺を寄せたまま軍司のほうを見た…軍司は足元もおぼつかず、しきりに咳を繰り返していた… 『軍司…大丈夫?…疲れた?』 『あ、ハハ…だ、大丈夫…だよ…今日は楽しかった…有り難う…』 右腕を支えながら大丈夫と言って見せた軍司の表情は明らかに普通でない事を誓子はまだこの時知るヨシも無かった…
>> 49
🎁42🎁
『あ、先生ッ…紹介すんねッ、ほら、こないだ絵を描いてた男の子の話したじゃん、あの時の子ッ、時任軍司君ッ!』
誓子は隣の軍司を丁寧に御子柴に紹介した…
『あぁ、!島本の彼氏のなッ、はい、よろぴくぅ~…ねっと!』
泥酔の御子柴は舌を舐めながら頭を下げた…
『!…かッ、かッ、彼氏なんかじゃ…ないいッ!ただの友達ッ!友達だよ、!…ハァ駄目だこの髭オヤジ…完全に潰れてる…』
軍司は誓子と御子柴の掛け合いをみながら微笑んだ…
『食べよ食べよッ…こんなデリカシーの欠片もない変人先生なんか放っておいてッ!ほら軍司ッ肉食べなよッ!』
『あ、ハハ…う、うん…』
誓子に急がされて軍司は網の上の肉を箸で摘もうとしたが震えて取りきれないまま肉は網の下の炭火の中に吸い込まれていった…
『ンモッ、軍司ったら、しっかり掴んでよッ!』
『よぉ軍チャァ~ン、ほれ、オイラのこの皿にも肉分けてくれ、肉ぅ!』
『あ、は、はい…』
酔った勢いで御子柴もまた軍司に肉を入れてくれと要求した…とっさに掴んだ軍司の箸の中の肉はさっきと同じように網を抜け、炭火の中に入っていった…
『あ~ぁ…お肉ちゃん…ウウッ…』
御子柴は名残惜しそうに落ちた肉を眺めていた…
新しいレスの受付は終了しました
お知らせ
日記掲示板のスレ一覧
携帯日記を書いてみんなに公開しよう📓 ブログよりも簡単に今すぐ匿名の日記がかけます。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
神絵展136レス 909HIT 第三臓器 (30代 ♂)
-
Alte Wunden der Nacht🍓11レス 236HIT 竜胆
-
ミュージック ジェネレーション2レス 110HIT 匿名さん (♂)
-
兄からチョコエッグもろた幸せ4レス 109HIT かぐら (10代 )
-
死のうか1レス 101HIT 匿名さん
-
4649カフェ海の家
4649今晩はどうも後今日バラエティーのテレビ番組HiHiJetsのH…(ちよ)
135レス 2702HIT ちよ (♀) -
保健室ままごと男女の家
4649今晩はどうも今日テレビドラマちゅらさん再放送みる今日テレビアニ…(ちよ)
147レス 2959HIT ちよ (♀) -
6月8日
絵文字なしでメッセしたら相手も絵文字なしでメッセして来た。 絵文…(匿名さん0)
17レス 541HIT 匿名さん (♀) -
🔥🔥続き(44)、いきなり書けなくなったから・・(45)💀💀
思い返せば、原水爆や地下核実験を合計で数万発、これが科学者の本気の能力…(匿名さん0)
199レス 1627HIT 匿名さん -
心機一転日記📝
月曜 ⭐ローソンよりメルカリ発送 ⭐中…日高屋 ⭐サミットで買い…(常連さん0)
99レス 1524HIT 常連さん (♂)
-
-
-
閲覧専用
何したらいいと思いますか?2レス 65HIT 匿名さん (30代 ♂)
-
閲覧専用
40代以降の主婦の方2レス 186HIT 友情不滅さん (40代 ♀)
-
閲覧専用
実験1レス 90HIT 第三臓器 (30代 ♂)
-
閲覧専用
指銃Q嵐脚愷鳥月歩鉄塊輪19レス 156HIT 第三臓器 (30代 ♂)
-
閲覧専用
指銃嵐脚月歩鉄塊剃77レス 580HIT 第三臓器 (30代 ♂)
-
閲覧専用
吐き出したい
レンチン、そうですよねぇ! 断捨離してもいいと思う位です💦 確かに…(匿名さん0)
2レス 226HIT 匿名さん (♀) -
閲覧専用
40代以降の主婦の方
主婦の方いませんか〜❓ お話ししたいけどなぁ…💦(友情不滅さん0)
2レス 186HIT 友情不滅さん (40代 ♀) -
閲覧専用
何したらいいと思いますか?
疎遠になってしまった友人に連絡を取った方がいいですかね?(匿名さん0)
2レス 65HIT 匿名さん (30代 ♂) -
閲覧専用
実験
おいぬ(第三臓器)
1レス 90HIT 第三臓器 (30代 ♂) -
閲覧専用
指銃Q嵐脚愷鳥月歩鉄塊輪
作中最強カップルは竜とフィンと言い続けて早15年(第三臓器)
19レス 156HIT 第三臓器 (30代 ♂)
-
閲覧専用
サブ掲示板
注目の話題
-
昭和生まれ、集まれー!死語、何が浮かぶ?
死語。何か浮かぶこと、思い出すのは? 若い頃、「そうは問屋が卸さない!」と、たまに言うこと言わ…
136レス 3855HIT 匿名 ( 女性 ) -
どうしても結婚したいです。
40代婚活男性です。55歳の相手とお見合いをしました。結果は、お断りです。自分よりどんなに年上や不細…
25レス 1129HIT 恋愛好きさん (40代 男性 ) -
友人に裏切られ、どう対応して良いのか分かりません。
大切な友人に裏切られました。 ショックで食事も喉を通りません。 涙ばかり出て、1日塞ぎこんでいま…
46レス 1678HIT 匿名さん -
わたしが悪いですか?
これは私が悪いですか?この前アプリの人とトラブルがありました。彼は私より年上です。 先日アプリ…
17レス 471HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
ホームランボールは小さな子供に譲るべきなの??
私は今度、家族で野球観戦に行きます。 一生に一度行けるか行けないかの場所です。 よく、ホームラン…
19レス 373HIT 知りたがりさん -
2万請求したいが、できるでしょうか。
一昨年取り付けた家のエアコン(富士通2020年製)が効かなくなり、エアコンのガス補充してもらい2万払…
13レス 286HIT 相談したいさん 1レス - もっと見る