🔥炎の美人刑事〈麻生環〉✨
神奈川県警『臍曲署』機動捜査課一班に赴任してきた新人女性刑事《麻生環》…実は彼女…元ミス日本代表の美貌を兼ね備えた超イケてる23歳の現役ファッションモデルだった!気は優しいがチョッピリ天然?…の環刑事が織りなす少しエッチな痛快ドタバタポリスコメディ👮さぁ始まり始まり~🎊
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>> 99
こんばんは
作品、全部読ませてもらってます!
今回もめちゃめちゃ面白いですo(≧∀≦○〃
続き、楽しみに待ってます(((o*VωV)o
💄17💄
『だ、駄目ですよ黒岩刑事ッ!ここはちゃんと上司である倉本警部補の指示を仰がないとッ!』
環が必死に説得を試みるも黒岩はただ環を制止させたまま容疑者宅を睨みつけていた…その目は明らかに自分を見失っている怒りの目に環には見えた…
『…俺だって…俺だって一人前なんだって所、ボスやニックに見せてやるんだッ!』
『まだあの時に言われた事気にしてるんですかッ!気を落ち着けてよく考えて下さい黒岩刑事ッ!今我々に出来る事は容疑者の確保ではなく応援を呼んで周囲を包囲する事ですッ!個人的感情に走って派手な立ち回りをすべきじゃありませんッ!目を醒まして下さい、黒岩刑事ッ!!』
環は冷静さを失った黒岩のコートの袖を両手で掴むと必死に黒岩に訴えた…
(…いい所見せなきゃ…好きな女の前でいい所見せて俺の株を上げなきゃ…見てろよ、ビーナス…い、いや、俺の女神、麻生環ッ!)
黒岩は環の制止を振りきると一直線に容疑者の木内のアパートの玄関めがけて走り出したッ!
『アァ!駄目ぇぇ~ッ!黒岩刑事ッ!戻ってッ!』
悲壮な顔付きで環も仕方なく黒岩の走る後を追うように走り出した!
>> 101
💄18💄
木内のアパートの玄関前まで来た黒岩と環はドアの左右に別れ、顔の前でそれぞれゆっくりと拳銃を構えた…
『ンモッ!…私はどうなっても知りませんからねッ!』
囁くように環が反対側の黒岩に舌を出した…
『大丈夫だ…全ての責任は俺が負うビーナス…お前はただこんな俺を目に焼き付けるだけ…ただそれだけでいいッ!』
意味の解らない言葉を環に投げ掛けると、黒岩は一度大きく息を吸い込み、いきなりドアを蹴破り中に転がり込んだ!
『!!ッょっと!無茶クチャですゥゥゥゥ!!』
収まりがつかなくなった環が続いて中に転がり込んだ!2、3発の銃声が響き二人は暫くじっと耳を済ませていた…が次の瞬間裏口から車の発進音がしたッ!
『く、黒岩刑事ッッッッ!!』
『!ック、ヤツ、逃げやがるッ!今逃げられたら元も子もないッ!環ッッッッ、車だッ!車を回せッ!』
すぐさま環は表に停車していた覆面パトカーに乗り込んだ!
『黒岩刑事ッ!こっちです、早く早くッ!』
環が逃走する容疑者の車を見逃さないように必死で前を見ながら黒岩を車の中に手招きした…
『追えッ!ビーナスッ!』
『は、はいッ!』
二人を乗せた覆面パトカーは急発進した!
- << 104 💄20💄 容疑者の車は山道を縫うように走り続け、遂に峠の古びた廃屋らしき場所で停車した… 『ヤツは何処だッ!?』 車から降りた環と黒岩は真っ暗で何も見えない廃屋の前で容疑者を見失った… 『多分この建物の中ですね…』 環は車に携帯していた懐中電灯でゆっくりと辺りを照らしてみた… 『黒岩刑事ッ…入口らしき扉がありますッ!』 二人はゆっくりと扉を開き中に入った… 『暗いな…気をつけろ環…ヤツはこっちを伺ってるかもしれんぞ…』 『は、はい…』 久しぶりに環の胸にただならぬ緊張が走る…カンカンと金属製の階段を掛けあがるとそこはそれぞれ仕切られた個室のような構造になっていた… 『何の建物…だったんでしょうか…』 『…ん~…おそらくビジネスホテルか何かだろ…バブル景気の傷跡っぽい哀愁すら感じるな…』 ジャリジャリとガラスの破片を踏みしめながら二人はゆっくりと歩幅を進めた…建物の中程まで行った時、周りの静けさを遮るかのように環の携帯電話が鳴った! 『!…ッ、ボスからですッ!どうします?…電話に出ていいですかッ?』 環は音を遮るように両手で携帯電話を握りながらすぐに黒岩と近くの瓦礫の壁に身を潜めた…
>> 102
💄19💄
容疑者の車は国道から第3京浜を東へ猛スピードで逃げてゆく…
『見失うなよッ、ビーナス!』
『黒岩刑事ッ…やはり倉本警部補に連絡を取った方が賢明ですッ!こんな事倉本警部補や迫田刑事に知られたら大変な事になりますよッ!』
けたたましくサイレンを鳴らしながら環達の覆面パトカーは容疑者、木内の車を猛追するッ!
『いいから運転しろッ!ヤツは…ヤツは絶対俺が捕まえてやるッ!』
環はハンドルを握りながら黒岩を睨み付けた!
『いいですかッ!?…容疑者確保はTVゲームとは訳が違うんですッ!キャラクターが増えもしないしリセットなんて効かないッ!命がけなんですッ!その場の気負いだけで簡単に出来る物じゃないんですよッ!』
『お前に言われなくったって解ってるッ!』
黒岩は環を睨み返した!2台の車は激しくカーチェイスを繰り返しながら轟音を上げて走り過ぎる…
『危ないッ!』
対向車線のトレーラーに危うく接触しそうになりながらも環と黒岩の車は逃げる容疑者の車の後を追いかけた…
『チクショッ!何処まで逃げたら気が済むんだッ!』
黒岩はダッシュボードに身を寄りかからせながら真っ直ぐに逃げる車のテールランプを追っていた…
>> 102
💄18💄
木内のアパートの玄関前まで来た黒岩と環はドアの左右に別れ、顔の前でそれぞれゆっくりと拳銃を構えた…
『ンモッ!…私はどうな…
💄20💄
容疑者の車は山道を縫うように走り続け、遂に峠の古びた廃屋らしき場所で停車した…
『ヤツは何処だッ!?』
車から降りた環と黒岩は真っ暗で何も見えない廃屋の前で容疑者を見失った…
『多分この建物の中ですね…』
環は車に携帯していた懐中電灯でゆっくりと辺りを照らしてみた…
『黒岩刑事ッ…入口らしき扉がありますッ!』
二人はゆっくりと扉を開き中に入った…
『暗いな…気をつけろ環…ヤツはこっちを伺ってるかもしれんぞ…』
『は、はい…』
久しぶりに環の胸にただならぬ緊張が走る…カンカンと金属製の階段を掛けあがるとそこはそれぞれ仕切られた個室のような構造になっていた…
『何の建物…だったんでしょうか…』
『…ん~…おそらくビジネスホテルか何かだろ…バブル景気の傷跡っぽい哀愁すら感じるな…』
ジャリジャリとガラスの破片を踏みしめながら二人はゆっくりと歩幅を進めた…建物の中程まで行った時、周りの静けさを遮るかのように環の携帯電話が鳴った!
『!…ッ、ボスからですッ!どうします?…電話に出ていいですかッ?』
環は音を遮るように両手で携帯電話を握りながらすぐに黒岩と近くの瓦礫の壁に身を潜めた…
>> 104
💄21💄
『出ますよッ、黒岩刑事ッ!電話に出ちゃいますからねッ!?』
『いや駄目だッ!出るんじゃないッ!』
『…でも……』
黒岩は瓦礫の壁から顔を出して辺りを注意深く見渡した…やがて環の携帯の着信音が途切れた…
『このままじゃボスにバレるのも時間の問題です…ねッ?黒岩刑事ッ、早く応援をよ…』
バキュュュュュュュゥゥゥゥゥン!!
突然環と黒岩に向けて銃弾が打ち込まれた!二人は素早く瓦礫の影に身を潜めた…
『やはりヤツはこの中に居たか!チッ…しかしこんなに暗くっちゃヤツが何処にいるのか解らないなッ!』
『…どうやら向こうはこちらの居場所が手に取るように分かるみたいですね…』
ズキュン!
二発の威嚇射撃がまた環と黒岩を襲った…脇の下に汗が滲む…刑事になった環にとってこれは初めての現場の緊張感だった…
『フゥ~…仕方ないですね黒岩刑事…このまま何とかヤツを捕まえましょう!』
環は黒岩を見つめ頷いた…黒岩は暫く環を見つめ言葉をかけた…
『ビーナス…怖くはないか?』
『はい、大丈夫です…』
毅然とした環の態度に黒岩はよし!と頷き、拳銃を構え直した…
>> 105
💄22💄
物音一つしない廃屋の中はただならぬ緊張感に包まれていた…黒岩と環は息を押し殺しゆっくりと慎重に辺りを見回した…
『分かるか?…ビーナスッ!』
『…さっきあの左手の部屋から物音がしたような…』
黒岩は容疑者に気付かれないようにニジリニジリと床を這うようにして物音がした先に向かった…
『気をつけて下さいッ、黒岩刑事ッ!』
その時一瞬だったがキラリと何かが光った!
『!…ヤツだ…ビーナス…ヤツはやはりあの部屋の中に隠れている!ゆっくり俺の後についてこいッ!』
環は黒岩の後を慎重に付いて行った…容疑者が隠れているであろう部屋の前まで来た二人は拳銃を構え、互いに頷いた…
『いくぞ…1、2、……3ッ!』
黒岩は回転しながら部屋に飛び込むとカチャリと瞬時に片膝をついたまま拳銃を構えた!
『出てこい木内ッ!お前が此処にいるのは分かってるんだぞッ!大人しく出てこいッ!』
奥の暗闇でタタタタと駆ける足音がした!黒岩と環は直ぐ様後を追った!長い廊下を抜け目の前の工事用のエレベーターの前で二人は止まった…慎重に辺りの暗闇を睨みつける…
『やはり応援を呼んだ方が良さそうだ…ビーナス!』
黒岩は環に携帯で応援を要請した!
- << 109 💄23💄 その時、向かいの部屋から物音がした!環は携帯を持つ手を一旦緩めると黒岩と同時に拳銃を構えたッ! (いるッ!…間違いなくあそこにッ!) 暗闇の先から明らかな人の気配が感じられ環と黒岩にえも言われぬ緊張感が走った… 『出てこい、木内ッッ!もう逃げられんぞッ!』 黒岩が大きな声で忠告するが早いか、暗闇から数発の銃弾が二人に向かって放たれたッ!とっさに二人は身を隠せるエレベーターの中に入り身を潜めた… 『チッ、一体何処から撃ってやがるッ!まるきり予想がつかないなッ!』 『あ!…黒岩刑事ッ…居ました!あそこ、あの机の影にッ!』 ずば抜けた視力の持ち主の環が暗闇に潜む木内を発見した! 『私が囮になります!黒岩刑事は後ろから周り込んで容疑者の確保をッ!』 『!ま、待て!』 黒岩は一瞬躊躇ったが環は制止も聞かず立ち上がったその時ッッ! バキュュュュュュゥゥゥゥゥン! 容疑者の放った一発の銃弾が環の左脇腹を貫いたッッ! 『!ッ!…ビ、ビーナス…ビーナスゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッ!!』 環はそのまま後ろに倒れこんだ!黒岩は容疑者の次の銃弾から守るように負傷の環をエレベーターの中に引きずり込んだ!
>> 106
💄22💄
物音一つしない廃屋の中はただならぬ緊張感に包まれていた…黒岩と環は息を押し殺しゆっくりと慎重に辺りを見回した…
『分かるか?……
💄23💄
その時、向かいの部屋から物音がした!環は携帯を持つ手を一旦緩めると黒岩と同時に拳銃を構えたッ!
(いるッ!…間違いなくあそこにッ!)
暗闇の先から明らかな人の気配が感じられ環と黒岩にえも言われぬ緊張感が走った…
『出てこい、木内ッッ!もう逃げられんぞッ!』
黒岩が大きな声で忠告するが早いか、暗闇から数発の銃弾が二人に向かって放たれたッ!とっさに二人は身を隠せるエレベーターの中に入り身を潜めた…
『チッ、一体何処から撃ってやがるッ!まるきり予想がつかないなッ!』
『あ!…黒岩刑事ッ…居ました!あそこ、あの机の影にッ!』
ずば抜けた視力の持ち主の環が暗闇に潜む木内を発見した!
『私が囮になります!黒岩刑事は後ろから周り込んで容疑者の確保をッ!』
『!ま、待て!』
黒岩は一瞬躊躇ったが環は制止も聞かず立ち上がったその時ッッ!
バキュュュュュュゥゥゥゥゥン!
容疑者の放った一発の銃弾が環の左脇腹を貫いたッッ!
『!ッ!…ビ、ビーナス…ビーナスゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッ!!』
環はそのまま後ろに倒れこんだ!黒岩は容疑者の次の銃弾から守るように負傷の環をエレベーターの中に引きずり込んだ!
>> 109
💄24💄
パンパンと何発かの銃声が黒岩のすぐ前で鳴り響く!
『ビーナァァァァァァスッ!しっかりしろ!しっかりするんだッ!』
黒岩は必死で壊れて動かないエレベーターの中までグッタリして動かない環を運んだ…パンパンッ!なおも黒岩達に向けて銃弾が放たれる!
『!クッ…チックッショォォォォォォォォォォッ!ウラァァァァァァ!!』
とにかく嵐のように放たれる銃弾を遮る事が先決だと黒岩は力の限り、壊れて錆び付いたエレベーターの硬い扉を閉めた!扉は黒岩の力で何とか閉まり、それと同時に銃声も止んだ…
『ハアッ、ハアッ…チクショッ…く、クソッたれがッ!』
幸い黒岩には怪我はなかった…黒岩は直ぐ様倒れて意識を失いかけている環を抱きかかえた…
『ビーナスッ!おいビーナァァス!しっかりしろ!しっかりするんだ!』
『ンン……』
環の脇腹から多量の血が流れ落ちていた…
『待ってろ…今血を止めてやるからなッ!』
黒岩は着ていたコートを脱ぎ、シャツの袖を食い千切ると環の脇腹に当てた…
『ア…クッ…クろ…岩…刑事ッ…』
『黙ってろッ!傷口が開くぞッ!』
環の脇腹を押さえていたシャツの袖はみるみるうちに真っ赤に染まった…
>> 110
💄25💄
さっきまでの銃声や叫び声が嘘のように辺りは静寂に包まれた…
(どうしよう…どうすりゃいいんだッ、チキショウ!)
黒岩は極度の恐怖と緊張のまま傷ついた環を抱きかかえ、なかなか次の行動に移る事が出来ずただうろたえているだけだった…
『あ!、ビーナスッ、携帯だッ!携帯電話は何処だッ!?』
少し冷静になった黒岩は環にさっき手に持っていた携帯の所在を確認した…
『ア…さ、さっきの…銃…撃でッ…お、エレベー…ターの…ウッ…ハァ、ハアッ…外…にぃッ!』
『落としたのかッ!?…ッ!ッなんてこったァ!』
黒岩は頭を抱えた…せっかくの応援を呼ぶ手段が完全に絶たれたからだ…同時に自らが携帯を持ち歩かない主義だという事にも自分自身に腹を立てていた…
『クソッ、クソッ、ど、どうすりゃいい…一体どうすりゃいいんだァァァァ!』
黒岩は何も出来ない苛立ちで固くて冷たいコンクリートの床を叩いた!環の脇腹の銃瘡からはおびただしい量の血が今でも滲み出てきている!
『ビーナス、少し待ってろよ!』
黒岩は床にそっとビーナスを置くと今度はさっき閉めたエレベーターの硬い扉を必死で開けようとした…が扉はビクとも動かなかった…
>> 111
💄26💄
『クソッ、この扉…錆び付いていて俺一人の力じゃぁなかなか開かねぇ、クソッ、クソッ!』
何度も何度も黒岩は力を振り絞り扉の解除を試みたが遂に力尽きてしまった…
(チクショッ…こんな場所で完全に閉じ込められちまったなッ…)
洗い息使いを発しながら黒岩はガックリ肩を落とした…誰も来る事のない廃屋の錆び付いた無機質な鉄骨剥き出しのエレベーターの中に 黒岩と傷ついた環は取り残されてしまったのだ…
『す…すみま…せん黒岩刑…事…ハアッ、ハアッ…私がッ…無茶した…ばかりにッ…ウッ…』
環は痛む傷口を手で押さえながら黒岩に謝った…環の顔から大量の汗が吹き出してきた…
『バ、バカッ!な、何言ってんだよッ!こうなってしまったのも全部俺の自分勝手な行動のせいじゃねぇかッ!…こ、こんな場所でビーナスをッ…今命の危険に晒してんのはバカ野郎の俺じゃねぇかッ!ビーナスッ、しっかりしろッ!必ず俺が此処から生きて出してやるからなッ!だからお前も最後まで諦めんじゃねぇぞ!』
黒岩は何度もゴメンと謝る環を制止するかのように時折首を激しく振りながら環を勇気付けていた…
(チクショッ、落ち着けぇ…そうだ落ち着け俺…考えろ、考えるんだ…)
>> 112
💄27💄
『…おっかしいなぁ…』
『ボス…ビーナスとはまだ連絡付かないのですか?』
張り込み交代の時間になっても倉本の携帯に環から報告の一報がなく倉本とニックは苛立っていた…
『おかしい…いつもなら逐一俺に報告をくれる律儀なヤツなのに…』
倉本は鳴らない携帯を手でクルクルと回している…
『また何かあったんじゃ…黒のヤツと一緒ですからねッ…何かあってもおかしくはないですよッ!』
吐き捨てるような口ぶりでニックは机に座り込んだ…
(ビーナス…)
倉本の脳裏に嫌な記憶が蘇る…昨年拉致監禁され、酷い目に遭ったあの日の出来事を…
(まさか…いや、そんな事はあるまいッ…黒もついてるんだ…そんな事は…)
倉本は嫌な胸騒ぎを止める事は出来ずコートを手に取るとニックと一緒に黒岩と環がいるはずの張り込み現場に急行した…
『何かあったんだッ…ビーナスが定時連絡をしてこないなんて間違ってもあり得ねぇからなッ!』
倉本は車に乗り込むとキュッとコートの襟を立てて深呼吸をした…
『いいぞ、ニック!現場に急行してくれッ!』
ハンドルを握るニックにそう静かに告げると二人は夜の闇にサイレンを響かせた…
>> 113
🔥炎の美人刑事~麻生環~第2話…これまでのあらすじ🔥
ある重要な殺人容疑者の張り込みを命じられた黒岩作治巡査と新人の麻生環巡査…いつも何かと仕事をさぼろうとする黒岩に対し、環は腹を立てる事もせず暖かく彼に接する…そんな誠実で器の大きな環に黒岩は次第に惹かれていく…そんな時事態は急変!張り込みの容疑者が現れ、環にいい所を見せようと黒岩は独断で制止しようとする環を尻目に容疑者逮捕に向けて動き出す…容疑者追跡の後、廃屋に追い詰めた二人であったが容疑者の放った銃弾の一発が環の脇腹に当たる!更なる銃撃から逃れようと黒岩は慌てて工事用エレベーターの中に環を引きずり込み扉を閉めてしまう…しかしその閉めた扉は頑丈で今度はなかなか黒岩一人の力では開こうとはしなかった…倉本達に連絡も取れないまま完全にエレベーター内に閉じ込められた黒岩と環…環の銃瘡からは多量の血が流れ次第に彼女の意識も途絶えだす!果たして二人に打開策はあるのかッ!傷ついた環を黒岩は助け出す事が出来るのであろうかッ!…
>> 115
💄28💄
『おいッ木内ッ!そこにいるかッ!いるなら返事しろッ!木内ィィィィィィ!』
薄暗く作動しないエレベーターの箱の中から黒岩は必死に外の容疑者、木内に呼びかけた…しかし静寂に包まれたこの瓦礫のビルの外からは返答はなかった…
『ッくしょッ!ヤツ…逃げやがったかッ!』
冷たい壁を自らの拳でガンと叩きつけると黒岩はうなだれた…もし最悪近くに容疑者の木内がまだ居たなら黒岩は《逃がす》という条件を突き付けてでもこの扉を開けるのを手伝わせようと考えていた…とにかく環のおびただしい出血は一刻の猶予も許されない状況である事は確かだった…
『…ンン…黒…岩刑事ッ…ハァ、ハァ…』
『しっかりしろッ、ビーナスッ!!』
傷口を押さえるシャツも真っ赤に染まり、黒岩が押さえていた右手にも生々しい血が染み込んでいた…黒岩は薄れゆく意識の環の頬を時折叩きながら環を励まし続けていた…
(チクショッ!チクショッチクショッ!…何か…何かいい方法はないのかッ…!このままじゃ、ビーナスはッ、ビーナスは死んじまうッ!)
何度も自分自身に問いながら黒岩は自分のしでかした罪の重さに改めて思い知らされていた…
>> 116
💄29💄
倉本とニックが張り込み現場に到着するや否や所轄の制服警官から先ほど二人の張り込みの刑事が帰宅した容疑者を確認し、そのまま追跡していったとの目撃情報を聞かされ驚いた…
『で、黒とビーナスはその容疑者を追って行ったという訳かッ!?』
荒々しい口調で倉本は制服警官に詰め寄った…
『チクショッ!何考えてんだッ!黒が居ながらッ!それならそうと連絡くらい出来ただろがッ!ったく、だからヤツは半人前の役立たずなんですよ、ボス!』
車のボンネットを拳で叩くとニックは苦虫を噛み潰した…
『とにかく定時連絡が無い以上、黒とビーナスの身に何かあったと考えるのが賢明だッ!ニック、お前は所轄の捜査2科の刑事達と協力して手分けして周辺の聞き込みだッ、』
『ボスはッ?…どうするんですか?』
『俺の事はいいから早く行けッ!ニック!』
はい!と険しい顔付きで納得し、ニックは周りにいた制服警官や刑事達に細かく指示を出し始めた…
(…黒…ビーナス…信じてるぜ…俺はお前らを信じてるからなッ!)
倉本は静かに心でそう唱えると既に鑑識に入っている容疑者宅の玄関に向かって歩いていた…
>> 117
💄30💄
(…これがボイラー技師殺人容疑の容疑者、木内正隆の家か…)
鑑識や捜査員でごった返した狭いワンルームの部屋に倉本は足を踏み入れた…足の踏み場もない程の雑誌とカップラーメンの食べカスからして荒れた独身貴族を彷彿とさせる殺風景な部屋だった…部屋の奥の棚にはモデルガンらしきレプリカの銃がズラリと並べてある…
(ガンマニアか…)
倉本が辺りを見回していると一人の捜査員が倉本を呼び止めた…
『警部補ッ…台所の引き出しから実弾が発見され、この弾はボイラー技師を襲った時に使った弾と一致しました!』
色めき立つ捜査員を冷静に見つめながら倉本はそうか…と頷いた…もし木内がボイラー技師を撃った時の拳銃を所持しているなら…追跡して連絡が途絶えた黒とビーナスの身にも危険が及んでいる可能性は高い…倉本はそう分析した…考えたくはないが連絡を絶たれたビーナス達にもしもの事態が今起きているのなら…ッ!いかん、こうしてはおれないッ!靴を履き扉を開けようとした時、靴棚の上にマッチを見つけた…
(インターネットカフェ、《オーラ》…)
倉本はそのマッチを見つめると即座に頭の中で住所と電話番号を暗記した…
>> 118
💄31💄
天井の壁の模様が段々とマーブルの色彩のようにグルグルと回転している…頭の中はプカプカとまるで雲の上にでも乗っかり浮いているかのような感覚だが何故か意識は驚く程しっかりしている…黒岩の励ましの声もまだはっきりとこの耳に聞こえてくる…もしかしたら…何とかなるんだろうか…私はこのまま死なずに助かるかもしれない…奇妙な期待感と根拠のない自信が今、環の脳裏を巡っていた…
『ビーナス…ビーナスッ!しっかりしろ、眠るんじゃねぇぞ!』
環は気が付くと黒岩はいつも肌身離さす着ている黒のトレンチコート姿ではなく、右袖が破けた汗まみれのYシャツ姿だった…
『く、黒岩ハァ、け、刑事…ハアッ、ハアッお、気に入りのコ、コートは…どうした…んですかッ?』
黒岩は環に笑いかけた…
『なぁに、気にすんなって…寒いだろ?』
環は自分の体に視線を落とすと黒岩の愛用のコートが身体全体にそっとはおられている事に気が付いた…
『ハアッ…あ、こ、こ、こんッ…こんッ…ハアッ』
『この建物は鉄筋で暖房設備もないからな…おそらく今は2、3度しかないだろな…』
話す度に吐く息がドライアイスのように白く黒岩の前で現れては消えた…
>> 119
💄32💄
インターネットカフェ《オーラ》は国道から少し離れた繁華街の一角にあった…倉本は静かに車を停めるとゆっくり辺りを見回した…一見パッとしない雑居ビルの2階にあるそのインターネットカフェは今若者に流行りの24時間滞在型娯楽施設のようだった…客のふりをして倉本はゆっくりと中に入った…カウンターに店員が一人、退屈そうに爪を噛んで座っていた…
『二時間ばかし利用したいんだが…』
その店員は倉本の声に面倒臭そうに立ち上がり申し込み書にサインをと倉本に告げた…中は意外に広く、仕切られたテーブルでは何人かの若者がパソコンの画面と向き合っていた…
『アンタ初めてか?…ハハハ、そうだろ?…だと思ったぜ!』
ニット帽を被った二十歳くらいの学生風の男が倉本に突然話しかけた…
『…ハハァンン…さてはアンタ、家では嫁がいてなかなか見れないポルノ画像見にわざわざ来たとかぁ?ギャハハハ、図星だろ、図星ッ!』
そのふざけた若者は倉本を指差しながら腹を抱えて笑っている…
『…だったら何なんだ…』
このクソガキッ!と喉元まで出かかりながらも倉本はそのニット帽の若者に笑顔を振り撒いた…
(いちかばちか…聞いてみるかッ!)
>> 120
💄33💄
『…ねぇ君ッ…《木内》って若者知らないかな?…よくここにくるはずなんだけど…』
倉本には何の根拠も無かった…ただ容疑者宅に落ちてあったマッチの箱という事実だけでもしかして木内はここの常連客ではないかという推測に打って出たのだ…
『キウチ?…ん~』
若者は手を頭に乗せ、記憶を辿るのに必死のような表情だった…
(こういうガキから情報を仕入れるには下手に出ておだてるに限るからなッ…)
『実は私は彼の友達でねッ…ハハハ、お恥ずかしい話、彼に此処でよくパソコンの操作を教えて貰っていたんだよッ…君がお察しの通り…ハハハ…猥褻物のサイトの開き方ッ…なんだけどねッ、ガハハハ!』
若者はじっと黙って倉本の顔を見つめたままこちらに注意を伺っている…
(やばい…調子に乗りすぎたかッ…)
倉本が矢次早に切り出そうとした瞬間、若者はアッ!と高らかな声を上げて拳を叩いた…
『!って知ってる知ってるッ、正隆兄ィの事だろ?…よく此処に来るよッ!最近はあんまり見ないけど…』
倉本の目が光った!
『そ、そうそう、正隆君の事さッ…彼今何処にいるか分かんないかな?』
倉本は終始ニコヤかな顔付きで若者から情報を聞き出そうとしていた…
>> 121
💄34💄
倉本はインターネットカフェのニット帽の若者に木内が立ち回りそうな場所をそれとなく聞き出した…
(西区にあるカラオケバー…か)
倉本は車を運転しながらニックに連絡を取った…
【あ、ニック、いますぐ中央中町にあるインターネットカフェ《オーラ》に急行してくれ!もしかしたら木内はそこに現れるかもしれんッ!俺は今から西区にあるバー《メイン》って所に向かう、ん、いやぁ、一人で大丈夫だ!そっちは頼んだぞッ!じゃな!】
携帯をパタンと軽快に閉じると倉本はハンドルを持つ手を強くした…以前として本署の方には黒岩とビーナスから何の連絡も届いていなかった…
(何があった…チクショッ!黒、ビーナス、お前らに一体何があったんだッ!)
緊張と焦りで次第に運転も荒くなる…真っ赤なサイレンと激しく寒空に響くクラクションを鳴らしながら倉本は中央中町のカラオケバー 《メイン》に車を走らせた…
(何があったか知らないが助けてやるッ…俺達が絶対助けてやるからなッ!…ってクソッ!邪魔だ邪魔だッ、どけどけどけッ!)
倉本の運転する覆面パトカーは低速車をスラロームしながらかなりのスピードで国道を西へ向かって走って行った…
>> 122
💄35💄
…何時間経過しただろうか…零下にも冷え込んでいるであろう肌を切り裂く冷たいコンクリートの箱の中で黒岩と環は暖も取れないままただ小刻みに震えていた…最早二畳程の広さのエレベーターの床の半分くらいを環の赤い血が埋め尽くしている…エレベーターに付いている非常時の警報ボタンは何度押しても応答がなく、おそらく繋がってはいないらしい…
『チクショッ!何の為の非常用ベルなんだよッッ!チクショッ!こんチクショォォォォォッ!』
黒岩は紫に染まった唇をプルプルと震わせながら薄暗い闇の中で怒鳴り散らした…
『どうすりゃ…どうすりゃいいんだぁ!…誰か教えてくれェェェェェッッッ!』
半ば半狂乱の状態に陥りながらも黒岩は寒さと飢えの中、何とか打開策を見い出そうと必死だった…
『お…落ち着…いて…ハアッ、ハアッ…考…えて黒岩…刑事ッ…何かほ、ほ、方法がッ…ハアッ、あ、あるはずッ…考え…よッ…ね?』
息も絶えだえに環はまだ黒岩を落ち着かせようと気丈にも笑顔を見せた…
『ビ、ビーナス…ウッ…お、俺は…俺は…』
『だ、大丈…夫ハアッ、ハアッ…だから…ね?…一緒に…考え…よッ?…ハアッ、ハアッ』
環は微笑みながら黒岩の手を握り締めた…
- << 125 💄36💄 『わ、私は…嫌ですッ!ハアッ、ハアッ…まだ死にたく…な、なんか…ありませんッ!ハアッ、ハアッ、まだまだしなきゃ…なら、ならない事…沢山、た、沢山あるしッ…だから…生きたいッ!生き続けたいッッ!…だからッ…だから、ハアッ、ハアッ…黒岩…刑事ッ…出ましょ?…ハアッ、ハアッ、二人して…い、生きて此処を…出ますよッッッッッ!!』 環の心からの叫びが黒岩の脳裏を貫通したッ!こんなに傷つき、瀕死の状態でありながらまだ残された可能性に賭ける環の《生きる、生きたい》という生命力と執念に黒岩はただ圧倒されていた…そうだ、こんな所でただ死を待ってばかりいる訳にはいかない!俺の今やるべき事を、出来る可能性に賭ける事を、しなきゃならない刑事としての誇りをッ!全てを賭けてでもやらねばならないと黒岩は今心に固く誓っていた… 『よぉしッ!ビーナス、助けてやるッ!絶対に助けてやるからなッ!』 目に見えないが助かるという確かな自信が黒岩の身体を激しく駆け巡っていた! 『とにかく、まずお前のこのおびただしい出血を止める事が先決だッ!』 黒岩は辺りを見回し始めた… 『!?…あれは…』 黒岩はとっさに腕を伸ばして隅に置いてある工具箱のような物を手に取った…
>> 123
💄36💄
『く、黒…岩刑事…さ、寒く…な、ハアッ、ハアッ…ないで…すか?…私にかけて…ハアッ、くれてるコ、コート…ハアッ、ハアッ…着て…下さい…ね…ハアッ』
『ば、バカ野郎ッ!こんな時にまで人の心配すんじゃねぇよッ!傷ついて大変なのはお前の方なんだぞッ!…クッ…ビーナス…お前ってヤツぁ…クソッ、クソッ!』
黒岩は意識が朦朧の環を強く抱き締めた…
『い、イタイ…です…ハアッ、ハアッ…』
『が、我慢しろッ…こうしてねぇと二人とも寒さで死んじまうだろがッ!』
黒岩は目の前の傷ついた女性を助けてやる事が出来ないふがいなさに怒りを覚えた…環の優しさに触れ、初めて本当に女性を好きになる事が出来た彼女に恩返しすら出来ず、逆にこうして命の危険にまで晒しているこんな愚かな自分を自らの手で締め殺してやりたい気分にさいなまれていた…
『コッ、このまま…何もしない…で…ハアッ、ハアッ…サジを投げ…る…つもり…ハアッ、で、ですか?…黒岩刑…事ッ!このまま…二人…して…ハアッ、ハアッ…凍え死ぬの…を、ま、ま、待つ気…ですか?ハアッ、ハアッ』
環は動揺している黒岩にゆっくり優しく話しかけた…
『ビ、ビーナス…ッ…』
>> 123
💄35💄
…何時間経過しただろうか…零下にも冷え込んでいるであろう肌を切り裂く冷たいコンクリートの箱の中で黒岩と環は暖も取れないままただ小…
💄36💄
『わ、私は…嫌ですッ!ハアッ、ハアッ…まだ死にたく…な、なんか…ありませんッ!ハアッ、ハアッ、まだまだしなきゃ…なら、ならない事…沢山、た、沢山あるしッ…だから…生きたいッ!生き続けたいッッ!…だからッ…だから、ハアッ、ハアッ…黒岩…刑事ッ…出ましょ?…ハアッ、ハアッ、二人して…い、生きて此処を…出ますよッッッッッ!!』
環の心からの叫びが黒岩の脳裏を貫通したッ!こんなに傷つき、瀕死の状態でありながらまだ残された可能性に賭ける環の《生きる、生きたい》という生命力と執念に黒岩はただ圧倒されていた…そうだ、こんな所でただ死を待ってばかりいる訳にはいかない!俺の今やるべき事を、出来る可能性に賭ける事を、しなきゃならない刑事としての誇りをッ!全てを賭けてでもやらねばならないと黒岩は今心に固く誓っていた…
『よぉしッ!ビーナス、助けてやるッ!絶対に助けてやるからなッ!』
目に見えないが助かるという確かな自信が黒岩の身体を激しく駆け巡っていた!
『とにかく、まずお前のこのおびただしい出血を止める事が先決だッ!』
黒岩は辺りを見回し始めた…
『!?…あれは…』
黒岩はとっさに腕を伸ばして隅に置いてある工具箱のような物を手に取った…
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💄38💄
倉本がカラオケバー《メイン》に到着したのはそれから20分後の事だった…深夜に差し掛かり店は会社帰りのサラリーマンで賑わっている…倉本は客を装い一番奥のカウンターに腰掛けた…後ろでは部長クラスの会社員が耳を塞ぎたくなる程下手な《函館のひと》を熱唱していて周りをヤンヤヤンヤと部下らしき男達が手を叩いて騒いでいる…倉本はカウンター奥の姿勢の良いウェイターに警察手帳を見せ、最近此処に木内正隆が出入りしていないかを尋ねた…ウェイターの目のやり場に困ったような不審な動きにピンときた倉本は即座に隣にあった従業員控え室の扉を開けた!
『!!ッ、き、木内ッ、き、貴様ァァァァァ!!』
そこにはまさに今から逃げようと窓を乗り越えんばかりの木内正隆の姿があった!
『に、逃がすかァァァァ!!』
倉本は窓を跨いだ木内を部屋のほうに引きずり戻すと頭と手を床に押さえつけた!
『!ッて、イタイイタイイタイッッ!は、放せ、チクショッォォォォォォ!』
倉本は近くにいた客に警察に電話してくれと口頭で頼んだ…
『大人しくしろッ、木内ッ!テメェには聞きたい事が山ほどあるッ!来いッッ!』
倉本は後ろ手に木内を立たせると手錠を填めた…
- << 128 💄39💄 数分後、所轄の警察官が倉本のもとに現れた… 『さぁ言えッ!お前を追いかけて行った男女二人のデカは何処へ行ったッ!?えぇッ?お前が咬んでるのはもうお見通しなんだよッ!さぁ早く言え、この野郎ッ!』 荒々しく木内の腕を締め上げると倉本は鬼のような形相で木内に迫った… 『け、警部補ッ、取り調べなら署のほうで…此処では人目にッ…』 申し訳なさそうに後から駆け付けた警察官の一人が倉本を制止した… 『バッキャヤロゥゥゥゥ!寝惚けた事ヌカシてんじゃねぇぞッ!んな悠長な事やってる間に黒とビーナスは命の危険に晒されてっかもしんねぇんだッ!テメェも警察官ならちぃとは脳味噌働かせて臨機応変に動きやがれッ!ドアホッ!』 倉本は署に連れて帰る時間があるなら今此処で木内に二人の居場所を吐かせるのが早いと判断した… 『さぁ言え、殺人鬼ッ!二人は何処だッ!何処にいるッッッ!』 倉本は木内の腕をさらにきつく締め上げた… 『イテテ、わ、分かった、分かったから、い、言うよッ…イテテ、だからその手を…アイタ、弛めてくれッ!』 倉本は車の後部座席に木内を荒々しく放りこんだ… 『さぁ、言えッ、早く言え、この野郎ッッッッ!』
>> 126
💄38💄
倉本がカラオケバー《メイン》に到着したのはそれから20分後の事だった…深夜に差し掛かり店は会社帰りのサラリーマンで賑わっている…
💄39💄
数分後、所轄の警察官が倉本のもとに現れた…
『さぁ言えッ!お前を追いかけて行った男女二人のデカは何処へ行ったッ!?えぇッ?お前が咬んでるのはもうお見通しなんだよッ!さぁ早く言え、この野郎ッ!』
荒々しく木内の腕を締め上げると倉本は鬼のような形相で木内に迫った…
『け、警部補ッ、取り調べなら署のほうで…此処では人目にッ…』
申し訳なさそうに後から駆け付けた警察官の一人が倉本を制止した…
『バッキャヤロゥゥゥゥ!寝惚けた事ヌカシてんじゃねぇぞッ!んな悠長な事やってる間に黒とビーナスは命の危険に晒されてっかもしんねぇんだッ!テメェも警察官ならちぃとは脳味噌働かせて臨機応変に動きやがれッ!ドアホッ!』
倉本は署に連れて帰る時間があるなら今此処で木内に二人の居場所を吐かせるのが早いと判断した…
『さぁ言え、殺人鬼ッ!二人は何処だッ!何処にいるッッッ!』
倉本は木内の腕をさらにきつく締め上げた…
『イテテ、わ、分かった、分かったから、い、言うよッ…イテテ、だからその手を…アイタ、弛めてくれッ!』
倉本は車の後部座席に木内を荒々しく放りこんだ…
『さぁ、言えッ、早く言え、この野郎ッッッッ!』
>> 128
💄40💄
『ケッ、刑事さんよぉ、今更助けに行った所でもうあの二人は助からねぇかもなッ!』
不敵な笑みを見せながら木内は倉本に言い放った…
『!、な、何だとッ!それはどういう意味だッ!言えッ!!』
倉本は木内の襟首を掴むと前後に激しく振りつけた!
『まぁ俺の家にデカが張り込んでる事くらい百も承知だったがなッ…イヒヒ…いつもひつこく俺んちを伺っていたあのうっとうしい二人のデカをギャフンと言わせたかったのさッ!』
『!…二人にわざと見つかり、逃げたのも全部計画的な罠って…テメェそう言いたいのかッ?』
倉本は握りしめていた木内の襟首を緩めた…
『ヘヘ…さっすが飲み込み早ぇじゃねぇかッ…アンタ、お偉いさんだろ?ヒヒヒ…そのデカイ態度見てりゃあすぐ解るぜッ!ヒヒヒ…俺の後をやっきになって尾行してくるのを計算に入れてよッ!人気のない山奥の古びた廃屋に誘いこんだんだッ…案の定あのヘボ刑事二人、鼠採りの網にまんまと引っ掛かったってぇ訳よッ!』
『貴様ァァァ、何処だッ、さあ言えッ、その場所は何処なんだァァ!!』
倉本は木内の掴んだ襟首を再び強く握り直すとヘラヘラと薄ら笑いを浮かべる木内の顔を睨みつけた!
>> 129
💄41💄
『いいか、貴様ァ~!あと3秒時間をくれてやるッ!それまでに二人が何処に居るのか言わないとこの生っちょろい首根っこヘシ折るゾッ!バカタレッ!…3!』
木内は倉本の脅しには動じずやれるもんならやってみろ!と言わんばかりの目つきで倉本を睨み返した…
『テメェ俺の脅しがハッタリだと思ってんだろッ?…ん?…何ならそのまま黙秘し続けて確かめたっていいんだぜッ!2ィ!』
倉本の顔がみるみる紅潮してきた…流石の木内も倉本の何をするか解らない態度に少し怖じけ付いたようになり目が泳ぎ出した…
『……いッチ!』
『ま、待てッ、待てよッ、じ、冗談じゃねぇかッ!落ち着けって!』
木内は倉本のハッタリに屈服した…
『さぁ言え…二人は何処だッ!』
倉本は木内の襟首を離した…
『…川崎市野木地区郊外の県道沿いにある今は潰れて人っ子一人居ないビジネスホテルの中だッ…けど…』
『けど…何だ?』
倉本は眉間に皺を寄せた…
『銃撃の時に俺の撃った弾が刑事の一人の身体に当たった…多分かなりの重症、いや、今頃はもう…』
『!…な、ナァンだとォォォォォォ!!テメェ、それでそのまま重症の人間を放置して来たってのかッ!?ブッ殺すぞコノ野郎ォォォォ!!』
>> 130
💄42💄
『とにかく今すぐその場所に案内しろッ!』
倉本は木内が逃げられないように掛けていた右手の手錠を外し、それを自分の右手首にカシャリと掛けた!
『…ッし、これでお前は俺から逃げられねぇッ!おい、車を出せッ!』
倉本は待機していた運転席の制服警官に声を掛け、今から木内の指示通りに走れと命令した…
『いいかテメェ、この期に及んで嘘の場所言ってみろッ!…テメェのそのコメカミにどデカイ風穴が開くからそのつもりで覚悟して行き先を教えろッ!いいな?』
木内は倉本の迫力に半ば押され気味に解ったとうなだれた…
『チクショッ!…で、テメェに撃たれたのはどっちの刑事だ?ん?』
『んなのこっちだって必死だし、遠くてハッキリ憶えてねぇよッ!』
木内はさっきまでの威勢とはまるで逆の、今にも泣き出しそうな表情に変わっていった…
(とにかくどちらかが…いや、最悪二人共今大変な状況には変わりない事は確かのようだ…)
倉本は唇を噛み締めながら早く飛ばせッ、ノロイ車は追い抜けッ!と荒々しく運転席の新米警官を怒鳴りつけた!…
(黒ッ、ビーナスッ…生きていろッ、絶対死ぬんじゃねぇぞッッッッ!)
車は県道の緩やかな山道に差し掛かった…
>> 131
💄43💄
(ク、クソゥ、何かないかッ!…包帯とか布とか…とにかく止血できる道具ッ…)
黒岩は肩を手で擦りながら寒さを凌ぎ必死で大きな箱の中を探った…鉄製の分厚い工具箱のようなその箱にはペンチやスパナなどの日用大工道具の類の物しか入っていなかった…
『チキショウ!エレベーターには救急箱の一つくらい常備しておけってんだァァァ!』
そんな事有りもしない事だが、今の黒岩の脳裏にはそんな奇跡くらい起こしてくれたってバチは当たらねぇだろ!という何とも不条理で不可能な現実を受け止めるだけの心の余裕は最早皆無であった…
『チキショウ!何か…何か止血出来る何か…』
『く、黒岩…刑事ッ、ハアッ、ハアッ…き、聞いて…く、下さ…いッ』
瀕死の環の手が黒岩の血だらけの腕を掴んだ…
『わ…わた…ハアッ、ハアッ…私の鞄の…鞄の中を…み、み、見てッ…ハアッ…』
『か、鞄?…お前の鞄の中が…どうかしたのかッ!?』
黒岩は不思議そうに環を見つめながら尋ねた…
『ハアッ、ハアッ…いいか…いいから…私のかば…鞄の中をッ…』
しきりに環は傍にあった自分のハンドバックを指差していた…
『わ、分かった!鞄だなッ!』
>> 132
💄44💄
黒岩は辺りを見回してエレベーターの隅に無造作に投げ出されていた環のハンドバックを手にした…裏半分は環の血液でベットリと染まり、淡いブルーの無地のハンドバックはまるで花柄模様が入っているかの鮮やかさだった…
『ほ、ほら、ビーナスッ!鞄だッ!お前の鞄だぞッ!』
環が何を考えているか、黒岩にはまるで想像もつかなかったが環の虚ろながらも確かに何か次の索を練っての行動なのではないかという推測が黒岩の脳裏を霞めた…
『そ…そッ…な、なか…中をッ…ハアッ、ハアッ、…あ、開け…ハアッ、く、下さいッ!』
『!、中を!中を見ればいいんだな、ビーナスッ!』
黒岩は滑る手でガラガラとハンドバックの中身を床にブチまけた…女性らしい口紅や手鏡、リップにハンカチ…財布や警察手帳などが入っている他は特に役に立ちそうな物はないように黒岩は思えた…
『そ、そのッ、小さな…ポ、ポーチの、ハアッ、ハアッ…中にッ…は、はッ…』
『これだなッ?このポーチの中だなッ!よしッ…』
黒岩は環に言われるがままハンドバックの中に入っていた小さなパステルカラーの化粧用ポーチを取り出した!
>> 133
💄45💄
寒さと多量の出血から環の意識は次第に薄れ始めていた…一度ゆっくり息をする、それだけの事がこんなに困難で苦痛を伴う物とは環には想像も出来ない事だった…体勢を変えようとお腹に少し力が入っただけで傷口からトクントクンと生暖かい血の道筋が生まれる…最早環の脇腹の出血は外部から押さえようとも押さえきれない状態にまでなりつつあった…
『ちッ…!駄目だッ…ビーナス…この中にも大した物は入っちゃぁいない!化粧用コンパクトとミニ裁縫セットくらいだ…チキショウッ!』
黒岩はポーチを軽く投げ捨てるといよいよ万策尽きたかのように肩を落としてうなだれた…
『く、く、黒…岩ッ刑事ッ…ハアッ、ハアッ、…さ、さい、裁…縫セット…ハアッ、裁縫…セット…で…』
『!?…ん?さい…裁縫セット?…!…お、おい、ビーナス!お、お前ま、まさかッ!?』
黒岩は横たわる環の顔をまじまじと見つめ返した
『そ…その針と…ハアッ、ハアッ…い、糸でッ…き、き、傷口をッ…ぬ、ぬ、ハアッ…縫ってッ!!』
環の余りにも突拍子もない大胆な提案に黒岩はただただ驚きを隠せなかった…
『う、嘘だろッ…無茶苦茶だッ!』
環の顔付きがさらに険しくなった…
>> 134
💄46💄
『ビ、ビーナスッ!お前正気かッ!?…こんな場所で…そ、それもこ、こんな消毒もされてない裁縫セットの針と糸で止血しろだってッ!?誰が考えても無理な話だッ!』
黒岩は首を真一文字にブルンと振ると環の提案に難色を示した…
『だって…ハアッ、ハアッ…ほ、他に方法がッ…ゲホ、あ、ある?ハアッ、ハアッ…黒岩…刑事は…捜査一班の…ハアッ、デカ部屋で…ハアッ、ハアッ、以前、ボスの盲腸の…手術…ハアッ、したって…ボスが…い、言ってまし…た…ハアッ、だから…だからッ…今度…は、私にッ…私をッ…たす、け、…ハアッ、ハアッ…て…!』
環は震えた手で黒岩の腕を掴むと今この場所で裁縫の針と糸を使い、傷口の縫合をしてくれと頼んだ…
『しかし…ッ』
『お願いッ…ハアッ、ハアッ…時間が…ないの!…ゲホッ、…今やらない…と…もう、もうッ…ハアッ、ハアッ』
『ビーナァァァァス!!しっかりしろッ!!』
『だか…ら…ハアッ、ハアッ…お、お…願…いッ!!』
環の生命の炎は一段また一段と消滅しかけていた…黒岩は一度大きな深呼吸をして目を閉じた…
(そうだ…このまま何もしないとビーナスは死んじまうッ…今出来る事を…)
>> 135
💄47💄
『黒岩刑事…なら…できるッ!…ハアッ、ハアッ…私を…助けてくれ、くれるって…ハアッ、ハアッし、信じてます…貴方は…落ち溢れや駄目男なんか…じゃないッ!ハアッ、ハアッ…と、とっても思いやりがハアッ、あ、あって…凄くッ…ウッ…やさ、優しい…素敵…な刑事ですッ…だ、だから、自信を、もっと自分に自信を持って…ハアッ、ハアッ…』
『……ビーナス…』
黒岩の目から涙が溢れた…こんな誰にも相手にされない惨めで駄目な自分でもこうして支え、応援してくれる人がいるなんて今まで夢にも思わなかった…だからそんな彼女を、そんなかけがえのない相棒を今此処でみすみす死なせる訳にはいかないんだッ!黒岩は涙を拭くと環の顔を見た!
『よし、やるぞビーナス!少し痛いかも知れんが我慢してくれッ!俺だって腐っても医者の息子だッ!!』
『……黒岩…け、刑事…あり…がと…う…ござい…ます…』
環の目からも大粒の涙が溢れてきた…黒岩は環の銃瘡がある脇腹付近の服を全て破き穴の開いた銃瘡の傷口を確保した…
(一か八かッ!やらなきゃ始まんないだろッ!)
黒岩は虚ろな環の目を見て一度大きく頷くと裁縫セットから針と糸をゆっくり取り出した…
>> 136
💄48💄
『チキショウ!チキショウ!ぬぁ~んで今日に限ってこんな田舎道が渋滞にハマるんだよッッッ!ボケナスッ!』
倉本と木内を乗せた車は山あいの幹線道路で大渋滞に巻き込まれていた…
『警察無線によりますとこの先で落盤事故があったとか…岩が道路を塞いでいるらしいです…』
運転席の所轄の新米警察官が倉本に事情を説明した…
『クソゥ、よりによってこんな時にッ!回り道はないのかッ!サイレン鳴らしてこいつら退かせッ!』
『そんな無茶苦茶な…!』
困り果てた新米警察官に倉本が罵声を浴びせる…
『おい、木内ッ!…その廃屋まで此処からどれくらいだ?』
倉本が隣に座る容疑者の木内正隆に尋ねた…
『…ウ~ン…7、8kmって所ですかねッ…』
さっきの態度とは打って変わってまるで猫撫で声の木内はオドオドしながら倉本の質問に答えた…
『…7、8kmかぁ……よしッ、木内、降りろッッ!』
『……え?』
返事を聞くまでもなく倉本は自らの手に手錠のついた木内を車から引きずり下ろした…
『ち、ちょっとォ!何て乱暴なッ!』
『ッせい!ほら、走るぞッ!ついてこいッ!』
『!は、走るゥ?…ま、まじッて!イタイイタイ!』
倉本は木内を連れて山道を走り出した…
>> 137
💄49💄
横たわる環は最早顔色が青白く、ハアッハアッと肩で何とか息をしている衰弱した瀕死の状態だった…エレベーターの床一面は既に環の血が殆ど覆い尽くし、まるで真紅のカーペットが敷かれているかのようだった…
『ハアッハアッ…こ、こんなに…ハアッ…出血…し、してるのに…ハアッ…まだ…生きれ…るんだ…ハアッ…ハハハ』
床についた自分の血液をゆっくり左手の掌で撫でながら環が呟いた…黒岩はズボンのポケットからライターを取り出すと針の先をゆっくりライターで焙り出した…
『針先を少しでも消毒しとかなきゃ!』
黒岩は針に一番丈夫そうな糸を通すと環の脇腹の銃瘡を見て一度唾を飲み込んだ…
『さぁ、いくぞビーナスッ!麻酔無しの一発勝負、とにかく痛いけど我慢してくれッ!』
『だ、大丈夫…だ、大好き…な…オムライス…想像…ハアッ、ハアッ…してま…すから…ハハハ』
環は黒岩に笑いかけると一度大きく深呼吸をして覚悟を決めたように目をつむった…
(…フゥ…落ち着け…幸い弾は貫通している…大丈夫、落ち着いてやれば何とかなるッ!)
黒岩は自分自身にそう言い聞かせるとゆっくりと環の脇腹に針を進めた…
>> 138
💄50💄
『イタァァァァァァァァァ!アァァァァァァッッッ、ハアッ、ハアッ…アアアアアアッッッ!!』
『我慢ッ、我慢だビーナスッッッ!』
黒岩が突き刺した針はゆっくりと環の血だらけの銃瘡を震えながらぎこちなく進んでいた…手入れしていない少し錆び付いた糸の先は思ったより環の皮膚の肉をえぐるように巻き付き、なかなか返らない…その度に環はのけぞる程の叫び声を上げてそれにひたすら耐えていた…
『ッ、あ、あと少しッ、もう少しだビーナスッ!』
『イタァァッッ、アァ、アアアアアアアアアッッ!!痛い、痛い痛いッッッ!』
想像も絶する痛みが環の全身を我が物顔のように支配していた…
『よし、よしッ、後はさっきの清潔なハンカチをッ!……よし、出来たッ、止血出来たぞビーナスッッッ!やったぞッ!』
黒岩は思わずガッツポーズをして叫んだ!黒岩がよく頑張ったと環に目をやった瞬間…黒岩の視線は止まった!
『ッ……ビ、ビーナス…?おい嘘だろ、ビーナス…ビーナァァァスッ!』
その後何度か黒岩が奮い起こそうとしたが環の身体はピクリとも動かなかった…
『おいビーナスッ、チクショッ、死ぬなッ、生きるって約束しただろうがぁ!ビーナスッ!』
>> 139
💄51💄
『コゥラッ、テメェ、若いくせに体力ねぇのかッッ!ハアッ、ハアッ…も、もっと早く走れッてんだ!今度遅れたらその場でブッ殺すぞッ!』
『ハアッ、ハアッ…あ、アンタ本当に…警察官かッ!ハアッ、ハアッ』
街灯もない真っ暗な山道を倉本と木内は息を切らせながら登っていた…
『あ、ニックかッ、俺だ、倉本だッ!今木内と一緒に黒とビーナスが幽閉されている廃屋に向かっているッ!応援要請を頼むッ、場所は…』
倉本は携帯電話でニックに連絡を取った…
(…こいつの話を信用するなら…撃たれてからもう約20時間は経過している…撃たれた箇所にもよるが、もしおびただしい出血があるのなら…これは一刻の猶予もないぞッ!)
倉本は遅れを取る汗だくの木内の腕を引っ張りながら山道をひたすら走り続けていた…
『み、見えたッ!あれかッ木内!?あれなんだなッ!?』
1時間以上も走り続けて倉本は遂に目的の廃屋に到着した…錆び付いた裏口の玄関のノブは辺りの寒さと冷えで固まりついていた…
『黒ォォォォォッッッ!!ビーナァァァァッッス!!何処だッ?…返事をしろッ!』
倉本は軋む廊下をひたすら歩き回り二人の名前を叫んでいた…
>> 140
💄52💄
『ビーナス…お、お願いだッ…ウッ…し、死ぬな…死なないで…グズッ…くれ…』
黒岩はグタリと力の抜けた環の身体を抱き上げるとゆっくりそぉっと抱き締めた…不思議とさっきより心なしか環の体温は暖かく感じられる…しかし環はグタリと首を下げ、身動き一つ起こさないでいた…
『ビーナスッ…お願いだビーナス…お前はこんな所で死ぬヤツじゃないんだぞッ!頑張るって…最後まで希望を捨てずに頑張るって俺に言って励ましてくれたじゃねぇかよォォォッッ!だから俺だって頑張れたんじゃねぇか!…目を、目を覚ませビーナスッ、お願いだから目を醒ましてくれェェェェェッッッ!』
黒岩は環の身体を激しく揺らし何回か頬を叩いたが環はそのままの状態でグッタリしていた…
『黒ォォォッッッッ!ビーナァァァァァッッス!此処かッ、この中に居るんだなッ!?』
突然ドンドンと扉を叩く音がして黒岩はハッと顔を上げた!
『ボ…ボスッ!…ボスゥゥゥ!』
黒岩は聞き慣れた上司の声に反応した!
『く、黒かッ!?黒だなッ!?無事か…で、ビーナスはッ、ビーナスはどうしたッ!?』
倉本は扉の外から必死に呼び掛けた…
>> 141
💄53💄
倉本の連絡を聞き付けて所轄の警察官達が数台のパトカーを連ねて廃屋に到着した…倉本は手錠を外し、容疑者木内の身柄をその警察官の一人に渡した…
『おぃ…テメェッ…ウチの刑事にもしもの事があったら…テメェもただじゃおかねぇからなッ!』
倉本は木内の尻を一発蹴り上げると二人が閉じ込められている扉の前に立った…
『大丈夫かッ、中はどうなってるッ?』
倉本は扉の前で二人を呼んだ…
『ボスッ!…俺は無事ですッ、けど…けど…ビーナスがァァッ!』
黒岩が震えた声で叫んだ…
『!う、撃たれたのはビーナスの方かッ!…で、どうなんだッ、ビーナスの容態はッ!?』
倉本が鉄の扉を必死で開けようとしたが扉は頑丈で一人の力では動き出す物では到底なかった…
『おいコラ、つっ立ってねぇで手伝えッ!』
倉本は側の警察官に力を合わせて一斉に扉を開くぞ!と号令をかけた…5、6人の警官がせぇ~のッっと鉄の堅い扉を引いた!
ギギギィ~…
全員の力がゆっくりと扉を開き始めた…
『よしッ、もうすぐだッ!頑張れッ…ククゥッ、フンッ!ンググ…』
扉は人一人が入れる位まで開いた…
『!!…ビ、ビーナス…ビーナァァァァァァァッッッッッス!』
>> 142
💄54💄
『ビーナスッ、ビーナス、しっかりしろッ、ビーナァァッス!』
倉本は血に染まったエレベーターの部屋の中に飛び込むように入り黒岩の無事を確認してからすぐさま環の元に駆け寄り頭を丁寧にもたげた…
『な、何てこった…なん…ッ…ンググ…』
倉本はグッタリして意識のない環を見て思わず天を仰いだ…
『…木内に腹を撃たれて…何とかビーナスは気丈に頑張っていました…とにかくこの場所にある何かで止血しようと二人で考え…で、ビーナスの鞄の中に裁縫セットがあって何とか止血出来たと思った矢先に…ウゥ、ボス…俺が…俺がいけなかったんです!…ビーナスにいい所、出来る所見せようと無茶して…で、挙げ句にビーナスをこんな事に巻き込んでしまって…俺は…俺は…最低の刑事です…』
黒岩の目からとめどなく涙が溢れ出して来た…
『…バカタレッ!……誰が…誰が良いとか悪いとか…んな事どうだろうと知った事かッ!…黒ッ…お前は今出来る最善を尽した…何とか彼女を助けようと死ぬ気で頑張った…その結果…こうなっちまっただけだ…』
倉本は目をつむる環の顔をじっと眺めると自らも大粒の涙を流した…
>> 143
💄55💄
救急隊が駆け付け、環の身体を丁寧に抱きかかえ、車の中に運んで行った…
『ビーナス…う、嘘だろッ…』
ニックが駆け付けた時には環の身体はもう救急車の中に収まろうとしている頃だった…
『ボス…ま、まさか…嘘…でしょ!?…嘘だと…冗談だと言って下さいよッ!ボス!』
ニックは側の倉本ににじり寄り目の前で起きている現実を認めないといった態度で倉本に訴えた…
『……』
倉本はニックの肩をポンと叩くと何も言わず黙って車に歩き出した…ニックは頭の中が真っ白になり仁王立ちのまま暫く動けなかった…黒岩がニックの前に立って頭を下げた…
『す、すみません…お、俺…彼女を…ま、守る事…出来なかった…本当に…本当にすみません!』
次の瞬間ニックの拳が黒岩の顔面にヒットした!
『テンメェッッ!すみませんで…すみませんで済む問題じゃねぇだろがッッ!』
今度はニックの蹴りが三発程黒岩の腹をえぐった!
『どう責任とんだッ、えぇ?…同僚のビーナスが死んでテンメェ、どう責任とるってんだッ!おい、言ってみろッ!』
掴みかかろうとするニックを倉本や周りの警官がやめろと制止した…黒岩は倒れたままうなだれ、涙を流していた…
>> 144
💄56💄
『いいかッ!ビーナスは…ビーナスはなッ、テメェなんかの何十倍…いや、何万倍も《出来た刑事》だったんだよッ!朝早くから誰も居ないデカ部屋掃除してくれたり、容疑者の取り調べの調書資料徹夜で作ったり…とにかくアイツは他の誰よりも刑事って仕事に誇りを持っていた熱いヤツだったんだよッ!それに引き替えテメェは何だッ!医者になり損ねたただの自分勝手なボンボンのくせして何するにも人任せ、嫌な仕事は後輩に押し付け、自分はいつも楽する事ばっか考えやがってェェッ!テメェなんて生きてる資格なんてねぇ!テメェがビーナスの替わりに死にゃぁ良かったんだよッッッッ!!こんのバカヤロウ、バカヤロウがッ!』
ニックは何度もチキショウと叫びながらその場から立ち去った…
『ウゥ…ウグゥ…ビーナス…すまない…本当に…本当に…ウグゥゥ…』
溢れて拭う涙は渇れる事なく黒岩の目からとめどなく流れては無機質なコンクリートの床の中に消えていった…
『さあ、貴方も傷の手当てを…』
救急隊員に両脇を抱きかかえられるようにして黒岩は力なく放心状態のまま救急車に向かった…
>> 145
💄57💄
山奥の廃屋の周りには何台ものパトカーが停まり赤いサイレンを光々と照らしていた…
『ち、ちょっと…待って…貰えますか?少しだけ時間を…』
脇を抱える救急隊員に黒岩は最後に環の顔を見たいと懇願した…既に別の救急車に搬入され、今まさに出発しようとする環の乗る車に無理を言い、黒岩は数分だけ環の側に居させてくれとお願いした…黒岩が救急車に乗り込むと環の横に座った…
(ビーナス…)
肩まで毛布を被せられ、じっと目をつむり動かない環を見て黒岩はまた涙が止まらなくなった…
(な、何でだろ…何でこんなに胸を締め付けられる位、死にたくなるくらいたまらなく切ないんだろう…初めて本当に人を好きになって…初めて暖かな気持ちに目覚め…初めて失いたくないかけがえのない人に出会えたのに…)
黒岩は環の頬をスッと撫でると血に染まっていても綺麗に整った彼女の手をギュッと握り締めた…
(さよなら…ビーナス…さよなら…環…俺は死ぬまで貴方を忘れない…絶対に…)
黒岩はそっと顔を環の顔に近づけた…そして安らかに…と心で唱えながら眠る環に優しくキスをした…
>> 146
💄58💄
(………え!??)
次の瞬間、黒岩が握り締めていた環の手に微妙に力が加わった!
『!……ビ…ビーナス!?…ビーナス?』
黒岩は驚きの余り思わず環の頬をペシペシと軽く叩いていた!
『ビーナスッ!ビーナァァァッス!おい、まさか…生きてるのかッ!?生きてるのかッ…ビーナァァァァッッッッス!』
『……ンン…ンググ…こ、こッ…ここ…は…ンググ…ンン…ど…こ…?』
環の瞼がゆっくりと眩しそうに開いていく!環はキョロキョロと辺りを見回して一度大きく息を吐いた!!
『ビーナァァァァァァッッッッッス!ビーナス、ビーナス、ビーナァァァッッス!』
黒岩は思わず天を仰いで叫び上げた!死んだはずの環が奇跡的に息をふき返したのだッ!
『ボスッ!ニック!ビーナスがッ…ビーナスが息を…息をふき返しましたァァッッ!!』
黒岩の声を聞いてその場の警官全員が黒岩の方に目をやった…
『う…嘘だろッッッ!?』
パトカーから降りて来た倉本とニックは一目散に黒岩と環がいる救急車に駆け寄った!周りの警察官達も一同に救急車めがけて集まって来た…
『…み、みん…なさん…ンン…どうした…のです…か?』
環は倉本達に笑いかけた!
>> 147
💄59💄
昨日までの雪は今日はやみ、暖かく優しい日差しが病室に入りこんで来た…
(…もう春かぁ…)
楠の木に積もった雪の塊が落ちるのをじっと眺めながら環はため息をついた…
『麻生さん…傷口からのばい菌を予防する抗生剤の点滴、今日で終わりですからねッ!』
警察病院の外科担当の看護師が笑顔で環に話しかけた…
『あ、あの…それと…』
看護師はモジモジしながら環を見つめた…
『はい?…何か?』
『その、お元気になられてからで結構なんですけどッ…そのゥ…サインなんか…頂けないかな~なんてッ!私…そのぅ…モデル時代の《安藤りんか》さんの…つまり貴方の大ファンだったんです…まさか憧れのカリスマ人気モデルが警察官になられて…こんな場所で出会えるなんて私、夢みたいで…ェヘヘ…』
『…ありがとう…でも今は私、モデルではなくて…警察官ですから…』
環は苦笑いしながらその若い看護師の胸元からメモ手帳を取ると持っていたサインペンでスラスラとサインをした…
『えっ!ウソ…うっわッ!ど、ど、どうしよッ、あ、有難うございますッ!スッゴク嬉しい~ッ!めちゃくちゃ大切にしますッ!ヤッタァ~ッ!』
若い看護師は何度も頭を下げて病室を後にした…
>> 148
💄60💄
『だいぶ元気になったようだなッ!』
病室の扉が開き、果物籠を手にした倉本とニックが顔を出した…
『あ、ボス!迫田巡査部長ッ…』
環は満面の笑顔で二人を迎えた…
『お陰様で…傷口ももう殆ど痛みはありません…色々ご迷惑おかけしました!』
『しっかし…ビーナスも人が悪いよなッ!…死んだフリなんかしなくったってね~ボスッ!』
ニックがガハハと笑って倉本を見た…
『フリなんかじゃないですッ!あの時はずっと夢を見ていて…』
『ゆ、夢?』
倉本が腕組みをした…
『はい…私が大好きなオムライスの丘で寝込んでいたら…誰かがやってきて私の唇にキスをしたんですッ…その瞬間目が醒めて…』
『…何だビーナスお前ッ、あれは寝ていただけなのかッ?…俺はてっきり…』
ニックはアチャ~と頭を撫でて天を仰いだ…
『フフフ…キスか…おとぎ話の王子様でもあるまいに…』
倉本は点滴の落ちるのをじっと眺めている…
『不思議でした…もしかしたら私あの時あのままオムライスの丘でずっと暮らしていたかも知れなかったんですもん!それはそれで幸せでしたけどッ!』
倉本とニックは子供のような顔をして笑って話す環を見て優しく苦笑いした…
>> 149
💄最終章💄
『…黒岩刑事は?一緒じゃなかったんですか?』
環はニックに尋ねてみた…
『あ、アァ…黒カァ…あいつも見舞いに誘ったんだかなッ…どうしても行きたくないって…またそのうち一人ででも来るんじゃないのか?』
『そうですか…残念です…まだあの時のお礼もきちんと言ってないから私、何か申し訳なくって…』
倉本がそうだ!と思い出したかのようにポケットを探った…
『これ…黒から預かって来た…後で開けろッ…』
『…え?…黒岩刑事…から?』
手渡されたのは一枚の茶封筒だった…
(手紙…カナ?)
『じゃあな、俺達は仕事あるから帰るなッ、来月の職場復帰楽しみにしてるぜ、巨乳ちゃん!』
ガハハと笑いながら倉本とニックは部屋を後にした…一人になった環はベットの上で仰向けになり、さっき手渡された茶封筒を両方の手で灯りにかざした…
『う~ん…手紙じゃないみたいだ…』
環はそっと中を出すと中には横浜中華街の共通クーポン券が二枚入っていてその裏にメッセージが書いてあった…
《お疲れ様…オムライスもいいけど、肉まんも捨てがたい!今度張り込みの帰りに食いに行くかッ!》
環は思わず声を出して笑ってしまった…
🔥炎の美人刑事~麻生環~FIN…💄
- << 151 完結しましたか~😊寂しい気もしますけど、面白かったです‼ 次の作品楽しみにしてます
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