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見てるだけの人
06/11/29 05:15(更新日時)

タイトル未定…(-_-;)

エンディング未定…(-_-;)

続かせれるかも未定…(-_-;)


誰かが見て下さったら、それだけで幸せの絶頂です。



どうか…
よろしくお願いします…(-_-;)

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No.209452 06/08/16 21:36(スレ作成日時)

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No.1 06/08/16 21:49
見てるだけの人0 

世界が天と地に別れた瞬間に立ち会った者がいた。

彼の名はバゼラス。

後に神と呼ばれる男だ。

No.2 06/08/16 21:50
見てるだけの人0 

天に棲む者は彼に従い、

地に棲む者は彼を崇めた。

No.3 06/08/16 21:50
見てるだけの人0 

ある日、天界で大きな戦争があった。

強い魔力を持つ神々の間で起きたそれは、たくさんの命をこの世から消しさった。


その中で、一際目立って輝いている女神がいた。


一際目立って輝いていた。


美しく紅く、輝いていた。

No.4 06/08/16 21:51
見てるだけの人0 

時は流れた。

世界には長い平和が訪れていた。
あまりにも長く…静かな時間が続いた。




人々は気付かなかった。


少しずつ歪んでいった空気に。

少しずつ病んでいった大地に。

No.5 06/08/16 22:01
見てるだけの人0 

第1章・始まり始まり

No.6 06/08/16 22:03
お調子者6 

>> 5 どんな話しになっていくのか楽しみにしてます♪

  • << 15 ありがとうございます! やった~! 目標達成!! …うぅ…感激です!(-_-;) よろしくお願いします!

No.7 06/08/16 22:03
見てるだけの人0 

~1~

少し肌寒かった。
太陽は隠れ、空は白一色。それでも彼の足取りは軽い。
立ち止まって建物を見上げる。

…図書館。
大好きな場所。



本は高貴な趣味だ。
たった1冊の小説ですら、買うとなると彼の半月分の食費を飲み込む。
図書館でさえ、入るのに金を払い借りるのにまた金を払う。


「バリアさん、今日もいいですか?」

「あぁ、ゆっくり見ていくがいいさ」

貧しい彼を、館長であるバリアはいつも秘密で中に入れてやっていた。

ボロボロになってしまった1冊の絵本を、何度も何度も読み返している子供を見て…
思わず…声をかけてしまったあの日から。


「今日は新作が入っているよ。お前の好きな神話の本だ。」

「ホントに?」

彼の青い瞳がパッと輝く。

「館内は走るなよ、ハスキー」

彼は駆け出しかけた足を慌てて止め、いたずらっぽくバリアに笑いかけた。そして出来るだけ早く神話の棚へ歩いた。

No.8 06/08/16 22:04
見てるだけの人0 

中の扉を開けると、少しカビくさいような香ばしいような本の臭いがする。ハスキーはそれを肺いっぱいに吸い込み、一気に吐き出した。

思わず笑みがこぼれる。

ワクワク。
ドキドキ。

どうしてこんなに楽しいんだろう。
本達が、待っているのだ。
自分を。
そう思うと、どの本を手に取ったらいいのか迷ってしまう。

壁一面に、綺麗に並んでこちらを見ている本、本。




………あった。神話の棚だ。

No.9 06/08/16 22:04
見てるだけの人0 

「ホントだ、増えてる。」

ハスキーは神話や歴史が好きだった。
いや、『好き』とは少し違うか。…彼の生活そのものが、神に隣接していたのだ。



この世界には宗教は1つしかない。主神バゼラスを崇める教え。

名の無き教えは世界を支配し、バゼラスは天界より何時も地上を見ていると言われていた。

日々の生活に感謝し、今日を無事に終えることができた喜びを主神へ伝えるために『祈る』場所が設けられた。

教会。



彼はそこで育った。

No.10 06/08/16 22:05
見てるだけの人0 

ハスキーの両親は、二人とも死んだ。
ハスキーがまだ赤子の頃に、いきなり村を襲撃してきたモンスターの群れに喰われた。

奇跡的に助かった赤子は、中途半端な親切心から引き取った何人もの『親』に捨てられ続けた。
見かねた教会が、当時5才になっていた彼を受け入れた。

神は、彼の恩人だった。

10年間、彼を育て続けた。

No.11 06/08/16 22:07
見てるだけの人0 

「どうだね、収穫は。」

気が付くと、すぐ後ろにバリアが立っていた。本に夢中になっていたハスキーは驚いて一瞬息が止まった。

「あ、ああ。バリアさん。
良いです、とても。
新刊随分入ったんですね。全部貸りて帰りたいくらいだ。」

「それは勘弁してくれよ。」

バリアは笑った。

「ほら、それなんてどうだい?
本物の天界人が書いた本らしいぞ。」

「本物の?」

「天界を追放された神だったかな?」

デリアの指差す先には、
『天界伝』
とだけ書いてある古ぼけたシンプルな本があった。
そしてその隣には、字すら書いていないもっとシンプルな本があった。ハスキーは、天界伝よりもそちらが気になって思わず手に取った。
真っ赤な布表紙が心地よい手触りだ。

「おや?そんな本あったかな?」

バリアは不思議そうに首を傾げた。

No.12 06/08/16 22:08
見てるだけの人0 

その本には、貸し出しカードがどこにも付いていなかった。

「誰かが置いていったのかもしれないな。」

バリアはこの図書館の数百、数千冊の本をほとんど記憶していた。彼が知らないのだから、本当にいままで無かったのだろう。

ハスキーは、ページを開いた。

中は、真っ白だった。
字も絵も何も書いてなかった。

「なんだこりゃ。スケッチブックか?」

「あっ、最初のページにだけ何か書いてあります。」

No.13 06/08/16 22:10
見てるだけの人0 

しんとした図書館の真ん中で、
老人と少年が無言で本を眺め立ち尽くしている姿は、なかなか滑稽である。
幸いなことに、その時図書館には誰もいなかったが。

真っ白いページの中心に、書いてあったのはただ一言。

『世界を浄化せよ』

それだけなら良かった。
しかし、ハスキー達がそれを読み終るか終わらないかのうちに、もう一文が‘浮かび上がって’きたのだ。

『鍵は、運命を手にした』




…………






…先に沈黙をやぶったのはハスキーだった。

「魔法…がかかっているのかな?この本。」

バリアはまだ回復していない。あんぐりと口をあけたままだ。
魔法は普通に存在するが、本に魔法をかけるのはかなり高等な技術だ。こんな田舎の図書館では、まずお目にかかれない。

「バリアさん、大丈夫ですか?」

「……驚いた…。戸棚に入れておいた蜜柑を孫に食べられた時以来の驚きだ…」

大丈夫なようだ。

No.14 06/08/16 22:11
見てるだけの人0 

「鍵は運命を手にした…どういう意味だろう。」

ハスキーは他のページをペラペラと見直したが、それ以外に増えた文字は無かった。

「暗号かな。
バリアさん、これ貸してもらえませんか。」

「忘れ物…でもなさそうだな。」

バリアは少し考えていた。

魔法の本には色々ある。
持ち主の体力をだんだん吸い取っていってしまうもの、呪いをかけるもの、モンスターを呼び込むもの、または召喚するもの…
とりあえず今は危険なものには見えないが、いずれそのような恐ろしい能力を発揮する可能性もゼロではない。
それに昨日最後に点検したときには気付かなかった。一体誰が、なぜ手放したのか。

しかし、この魔法が無害ならば彼に譲ってやりたいという気持ちもあった。

「こうしよう。」

バリアは提案した。

「これは、今度街に行ったときに魔法使いに調べてもらおう。それで、危険ではないとわかったら君に譲ろう。」

ハスキーは少し残念そうにしたが素直に頷き、その日は『天界伝』を貸りて帰った。

No.15 06/08/16 22:14
見てるだけの人0 

>> 6 どんな話しになっていくのか楽しみにしてます♪ ありがとうございます!

やった~!
目標達成!!


…うぅ…感激です!(-_-;)

よろしくお願いします!

No.16 06/08/17 01:07
ヒマ人16 

面白いね。頑張って書いて下さい。

No.17 06/08/17 10:21
見てるだけの人0 

>> 16 朝起きたら感激メッセージが…(-_-;)

サンタクロースですか?

感動だ…(-_-;)
ありがとうございます!
よろしくお願いします!

No.18 06/08/17 16:02
旅人18 

こんにちは。面白いですネ☆この先が楽しみです。私はファンタジー系のストーリーが大好きです!頑張って下さいネッ♪
同じく私もこの板に「†春‡時を越えて†」という小説(?)を書いてます。良かったら読んでみて下さい(*^∪^*)

  • << 30 ありがとうございます!是非読みますね! うぅ…感激…(-_-;) ―さて、おおまかな今後の流れといたしましては、 ①だんだん矛盾が出てくる ②だんだんやる気がなくなってくる ③更新が減ってくる ④過疎スレと化す ⑤過去ログ行き が、予想されております♪(-_-;) よろしくお願いします(-_-;)

No.19 06/08/17 22:02
見てるだけの人0 

~2~

天界では身分が絶対だ。
自分より上の身分の人間には、反対意見はおろか対等に話をすることさえ許されない。

話すこと自体は罪にはならないが、プライドの高い上流の者たちは決して下の者と接しようとはしない。

No.20 06/08/17 22:02
見てるだけの人0 

一番上にいるのは、もちろん主神バゼラスだ。しかし、バゼラスはもうこの世にはいない。

時は彼の肉体を滅ぼし、その意志のみを現代に留めた。

彼は、本当は天界にも地上にも存在しない。
だが、逆に言えばどこにでも存在する。


彼は世界だ。

誰にも見えない。

だが、確かに存在する。

No.21 06/08/17 22:03
見てるだけの人0 

次に、『その意志を伝える者』がいる。

バゼラスの意志を、人間達に伝える者。
だが、これは一般の者は決して見ることができない。選ばれた者のみに許されるのだ。

No.22 06/08/17 22:03
見てるだけの人0 

さて、ここからが人間だ。

『神元集』

神の元に集う者。

『その意志を伝える者』が通る、“バゼラスの意志”と“現世”を繋ぐ扉がある。大きな大きな水晶の塊だ。
そこに陣取って、神の意志を独り占めしている位。
それが神元集。

ここには6名が属している。

No.23 06/08/17 22:03
見てるだけの人0 

次に『神』だ。
神と一般の人間との違いは、まず寿命だ。

地上人の寿命はせいぜい100年。
天界人は少し延びて300年。
しかし神なら1000年越えはざらにある。
神元集ならまだ延びる。


まぁ、神でなくても魔力でそれより長生きする者はたくさんいるのだが、それは別にしよう。


神は、バゼラスが選ぶ。

No.24 06/08/17 22:04
見てるだけの人0 

そして『準神』。


神は、人数が決まっている。確か、300人ちょっとだったと思う。

それより増えることも無ければ、減ることもない。

神もいつか死ぬ。
死んだ時に、その席に準神の誰かが入る。

準神は天界人だ。特別能力の高い天界人が選ばれる。




これは1000人くらいいる。

No.25 06/08/17 22:05
見てるだけの人0 

復習しようか。

上から、
主神バゼラス
その意志を伝える者
神元集

準神
そして一般天界人。


これは私が学生のころ、テストに嫌というほど出た。

No.26 06/08/17 22:05
見てるだけの人0 

本当はもっと細かくて、神の中にもSS級、S級、AA級、A級、B級、C級………J級まである。

準神のなかにも色々あるのだが、ややこしいので省こう。

さて、本題に入ろう。

私はI級の神だった。だがある出来事のせいで地上に追放された。

時はさかのぼること30年。私は美しい女性に入れこんでいた。名前はレークランドといった。彼女は、私に言った。『あなたにとって大切なものは何?』私はもちろん即答した。『君だよ』しかし彼女はそれを聞いた途端にいきなり泣き出した。『どうしたんだい?』私が聞くと、彼女はハンケチーフで目尻を押さえながら言

No.27 06/08/17 22:06
見てるだけの人0 

~3~


「ん…」

眠ってしまったようだ。机の上には、読みかけの『天界伝』が開いたままだ。
体を起こすと首と腰が痛い。変な体勢で寝たからだろう。

朝焼けが始まっている。
深夜遅くまで読んでいたから仕方がないか。

教会は町外れに建っており、ハスキーの部屋は教会の中心部から更に少し離れている。だから窓から見えるのはただの林のみだ。

いい景色だ。

No.28 06/08/17 22:06
見てるだけの人0 

「水…汲んで来なくちゃ」

ハスキーの部屋は実に簡単なもので、机とベッドと小さな棚しか無かった。
棚の中には服と、バリアから貰った数冊の本。それに少しの日常雑貨が入っているくらいだ。

食事は教会の食堂で食べ、水は毎朝水筒を持って井戸に汲みにいく。

ハスキーは重い体をゆっくりと起こし、水筒片手に扉に手をかけた。

「あれっ」

心なしか少し重かった。
更に扉を押すと、向こう側でカタンと音がした。

No.29 06/08/17 22:06
見てるだけの人0 

扉の向こうには、本が倒れていた。
あの本だ。

「バリアさんかな…」

もう街へ行ったのだろうか。急いで街へ行ってきて、ハスキーが眠っていたから扉の前に置いておいてくれたのか。
一晩のうちに?

ハスキーは本を手にとった。
ページを開く。

「ん?」

文章が増えていた。

『世界を浄化せよ

鍵は、運命を手にした』




そして。








『鍵は運命から逃れることはできない』

No.30 06/08/17 22:11
見てるだけの人0 

>> 18 こんにちは。面白いですネ☆この先が楽しみです。私はファンタジー系のストーリーが大好きです!頑張って下さいネッ♪ 同じく私もこの板に「†春‡… ありがとうございます!是非読みますね!

うぅ…感激…(-_-;)

―さて、おおまかな今後の流れといたしましては、





①だんだん矛盾が出てくる

②だんだんやる気がなくなってくる

③更新が減ってくる

④過疎スレと化す

⑤過去ログ行き



が、予想されております♪(-_-;)

よろしくお願いします(-_-;)

No.31 06/08/18 22:19
見てるだけの人0 

~4~


「絶対におかしい!何故君が悪人になるんだ!!」

何も無い部屋。
裁きを待つ間、罪人を放り込んでおく部屋。
真っ白の壁。
真四角の部屋。
頭がおかしくなりそうだ。

「君は悪くない!あの計画を阻止したお陰で今の平和があるというのに…」

透明な壁を隔てて罪人側にいる女は、鼻息荒く熱弁する面会人に言った。

「余計なことはするなよ。」

「しかし…」

彼女の腕の自由を奪っている手錠が、ジャラリと音をたてた。強い魔力の込められた特殊な手錠だ。
同じ魔力で、足には鉄球が結ばれている。


「ドルプ、もう行け。」

「しかしイリッシュ…!このままだと君は極刑だぞ?!」

No.32 06/08/18 22:20
見てるだけの人0 

天界で起きた大きな戦争。

その戦争が終盤に差し掛かったころ、味方の中に裏切り者がいるという情報が入った。

偵察隊に選ばれたのは、イリッシュの部隊だった。

彼女の部隊は5人ほどの小さなものだった。しかしいざ情報を頼りに裏切り者の基地とやらに行ってみると、相手は10人以上。
しかもいい加減な情報だったらしく、イリッシュ達はあっという間に敵に見つかり囲まれてしまった。

No.33 06/08/18 22:20
見てるだけの人0 

イリッシュは『戦いの女神』と呼ばれていた。
その名の通り確かな腕と強い精神、そして鋭い勘をを持っていた。

彼女は憶することなく部隊に指示を出し、敵の群れへ向かって行った。





裏切り者の中には、数名の神がいた。




激しい戦闘の末。


敵味方を含め、生き残ったのは彼女だけだった。

No.34 06/08/18 22:21
見てるだけの人0 

神を殺した罪は重い。

イリッシュが去った後に何があったのかはわからないが、なぜか基地は跡形も無くなっていた。

彼等が。
彼女が殺した彼等が。
裏切り者であった証拠がない。


彼女は神殺しの罪を被った。


「あの中には神元集のヤツが1人いたんだ。きっと奴らはそれが気に入らないんだ。神である君が、上位の神元集を殺したから。
…いや…それ以前に…もしかしたら君はハメられたのかもしれない…」

「…もういい。」

イリッシュは冷たく突き放した。
諦めたわけではなかった。
本当にどうでも良かった。
ドルプは、渋々部屋を出ていった。

それと入れ替わりに、ガタイがよく不精髭を生やした汚らしい男が入ってきた。


「時間だ。」

No.35 06/08/18 22:58
見てるだけの人0 

~5~

今日を無事に迎えられたことを感謝して、祈りをささげる。
―主神バゼラス、ありがとうございます。
ハスキーは『バゼラスの水晶』と呼ばれる石の前で、手を合わせて目を閉じた。


…その日課が終ると朝食だ。

パンが二つにミルク、それに林檎が人数分用意してあった。

いつもこんなものだ。
教会は決して裕福ではない。

挨拶を交しながらそれぞれの席に着く。


「ハスキー、おはよう。」

「おはようございます、神父様」

「今日は本は読まなかったんだね」

ハスキーは苦笑した。
いつも夜遅くまで本を読んでいる彼は、たびたび朝会に遅刻していた。

遅れたときは、神父にこっそり裏から中に入れてもらって祈った。
更に遅れたときは、係に内緒で朝食を残してもらって食べた。

「僕だっていつも寝坊するわけじゃないですよ」

今日はたまたま起きてしまっただけだが。
…まぁ、言わなくてもいいだろう。
神父は笑った。

「それは悪かったなぁ……おや?あそこは君の席ではなかったかな?」

「え?」

No.36 06/08/18 22:58
見てるだけの人0 

神父の視線の先には、確かにハスキーの席があった。
そしてハスキーの席には、食事の他に何か置いてあった。

「これは…」

あの本だった。

「ハスキー…寝坊しないように、食事中に読むのことにしたのか?」

「まさか…あはは…」



確かに部屋に置いてきたはずだが。
なぜここにあるのだろう?
誰が置いた?

No.37 06/08/18 22:59
見てるだけの人0 

本を手にとった。
しっくりくる触り心地。
ゆっくり表紙を撫でる。
誰が置いたのだろう。誰かが部屋に入ったのか。

…もしかして、泥棒?
盗んだはいいが使い道が無くて、困り果てて捨てたのかもしれない。それを誰かが親切に、拾って自分の席まで持ってきてくれたのか。

ハスキーの本好きは有名だ。
ありえないこともない。

「…!!」

…そのとき、ハスキーは不思議な感覚に襲われた。

話しかけられた気がした。
本に。
何かを訴えている気がした。
本が。




ハスキーはページを開いた。
文が増えている。














『鍵は、始まりの夜を迎えた』

No.38 06/08/19 21:54
見てるだけの人0 

~6~


長い。何もない廊下をひたすら歩かされる。
長い。もう何時間も歩いたような錯覚を覚える。

ずっと同じ景色が続いているからか。
このままどこにもたどり着かない気がしてくる。

偉そうに前を歩く男。
監守という立場を偉いと勘違いしているその男は、誇らしげに汚い胸をはり、悠々と歩いている。

しかし男も暇なのだろう。ちらちらと此方を見ながら話しかけてきた。

「お前、馬鹿だなぁ。神殺しなんて…ケケケッ」

いらやしい声。
イリッシュは無視する。
男は気味悪い笑みを浮かべた。

「おれは戦争のとき、ずっと中で仕事をしてた。賢いヤツは戦場になんて行かねぇんだよ。」

ガハハ、と黄色い歯を見せて笑う。
あぁ、この手錠さえ無かったら…
ぼんやりと思った。


「しかし…美人だな。なぁ、お前どうせ死刑だろ?死ぬ前におれと一発やらねぇか?」

…煩い。
煩い人間は嫌いだ。


『黙れ』

視線に言葉を込めて。
イリッシュはギロリと男を睨んだ。

No.39 06/08/19 21:55
見てるだけの人0 

「…」

男はそれっきり何も言わなくなった。
そこまで力を入れたつもりは無かったが。

小刻みに男の肩が震えていた。よほど効いたらしい。
まるで蛇と蛙。一瞬にして上下関係が逆転した。


―小者が。


また沈黙が流れたが、それは初めのものよりもイリッシュにとって心地よいものだった。

No.40 06/08/19 21:55
見てるだけの人0 

長い廊下の果てが、やっと見えた。

そこは広場になっていて、その突き当たりには大きくてごつい扉があった。
10メートル以上はある、大きな大きな扉。

イリッシュは一度だけこの中に入ったことがあった。
神の名を受け取った時だ。

そう、この先にはバゼラスへ繋がる水晶がある。
他のまがい物とは違う、正真正銘本物のバゼラスの水晶が。

No.41 06/08/19 21:55
見てるだけの人0 

扉の前には、黒服の男が二人立っていた。

「罪人ナンバー5968、お連れ致しやした。」

「下がって良い」

ここからは彼等が案内してくれるようだ。
当然といえば当然だ。バゼラスの水晶に、こんな小汚い男が罪人以外で近寄れるわけがない。

少なくとも彼よりは、礼儀をわきまえているだろう。

「5968、こちらへ」

まるで機械のようだ。表情ひとつ変えない。言葉にも全く感情がない。

イリッシュは大人しく後に続いた。あの男には一瞥もくれずに。

No.42 06/08/20 21:18
見てるだけの人0 

~7~


太陽がほぼ真上に来ている。
快晴だ。日射しが強い。

青いトマトが並んでこちらを見ている。
ある人物に注がれる熱視線。
だが、それは一方通行で終わってしまっていた。

「鍵は運命を手にした…」

草むしりの手が止まっている。
ハスキーはずっと本のことを考えていた。

確かに話しかけてきた。
声が聞こえたわけではないが。
確かに。

あの本にかけられた魔法は、自分に何を求めているのだろう。

もし昨日、本を見つけたのが偶然では無かったとしたら。
もし今朝、戸の前に本を置いたのがバリアでは無かったとしたら。
もしあの本が、意志をもっていたとしたら。


助けを求めていたとしたら。

No.43 06/08/20 21:18
見てるだけの人0 

助けたい。

困っているのなら、それが例え本でも放っておけない。

―それがバゼラスの教え。
そして…自分の性分。

「やっぱり…あの暗号を解かなくちゃだめなんだ。」

No.44 06/08/20 21:20
見てるだけの人0 

『鍵』
『運命』
そして、『夜』

少なすぎる単語。
さっぱりわからない。

―鍵は、運命を手にした―

『鍵』とは何だろうか?
手にした…物を擬人化した表現か?
それとも人か?

『運命』とは?

これはいつのことか?
過去か?
現在か?

フィクションか?
ノンフィクションか?

それとも…内容ではなく、文章自体に意味があるのか?

No.45 06/08/20 21:22
見てるだけの人0 

「せめて、もう少しヒントがあったらな…」

ハスキーは、道具入れからあの本を取り出した。
まだ新しい文は出てきていない。ため息がこぼれた。






「…ため息吐きたいのはこっちなんだけどな」

いきなり背後から声がした。
驚いて振り返る。
そこには鍬を持った青年が立っていた。

「全然進んでないぞ。お前がサボるなんて珍しいな。」

「ケアン…」

ケアンはハスキーよりも少し年上だ。

二人とも教会に来る前は似たような境遇だった。だから他人には思えないのだろう。
彼はいつもハスキーを気にしていた。面倒見のいい兄、といったところだろうか。

「…呆れた。畑に来てまで本読んでるのか」

ハスキーは慌てて本を道具入れに戻した。没収されてはたまらない。
それを見て、ケアンが小言を1つ2つ言おうとしたとき。
タイミング良く教会の鐘が鳴った。

「…ふぅ。
昼食の時間だ。午後からはちゃんとやれよ。」

「うん…」

ゆっくりと立ち上がろうとした、次の瞬間。

…来た。

あの感覚。
急いで本を開く。





やっぱり…増えている。

No.46 06/08/20 21:23
見てるだけの人0 

『紅い月に導かれ


鍵は氷の中に眠る一輪の華と出逢う』

No.47 06/08/21 22:00
見てるだけの人0 

~8~

だんだんと気温が下がってきた。
さっきまでの道とは違って随分暗い。

また同じ景色が続いている。
壁にはところどころ絵が掛けられているが、全て同じものだ。
壁、天井、床、歩けど歩けど何処にも変化がない。


しかし一歩一歩、バゼラスの水晶へと近づいているのだろう。
一歩一歩、死へと近づいているのだろう。


―…おかしいな。
前はこんなに長かっただろうか。
イリッシュは、ふと思った。



「…任命のときと裁きのときでは、道が異なる。」

黒服の男がいきなり口を開いた。まさか心が読めるわけではないだろうが、何てタイミングだ。

No.48 06/08/21 22:01
見てるだけの人0 

「ここまで一本道だったはずだが」

イリッシュは尋ねる。

「扉を開いた瞬間から、違う道に続いているのだ」

どうせ用意された言葉なのだろう。罪人に、言うように教えられているのだろう。相変わらず無表情のまま、男は答えた。

「主神バゼラス様は、罪人が自らの行いを悔いる時間を最後に与えて下さっているのだ。」

余計なお世話だ、と思う。
さっさと終わらせて欲しい。
とっくに覚悟はできているのだから。
そもそもイリッシュには、悔いる行いをした覚えがないのだ。

「まだ着かないのか」

「もうすぐだ」





それきり何の会話もなく。

水晶の間に着いたのは、それから20分ほど後のことだった。

No.49 06/08/21 22:03
見てるだけの人0 

水晶の間は、大変あっさりしたものだ。

立派な椅子が6つ、罪人の立ち位置を囲うように置いてある。偉い偉い神元集様の椅子だ。
椅子の間にはそれぞれ燭台があり、白い炎がその中で静かに踊っていた。

ずいぶん歩かされた割には、任命のときと何も変わっていない。


「イリッシュ…」

神元集のなかに、心配そうにイリッシュを見つめている者がいた。

ドルプ。

イリッシュの歩いてきた長い道のりを、彼は魔法を使って来たのだろう。
一瞬で。
魔法使いとは楽チンなものだな。
イリッシュは思った。

ドルプは、しなびた老人だらけの位の中に一人だけ入ることを許された若きエリートだ。ずば抜けた魔力と、特殊な属性を持つおかげで異例の抜擢をうけた。

イリッシュとは幼馴染みだが、遥か昔に行く道を違え、今は真逆の位置にいる。




…そんな頼りない顔をしているから、他の神元集にナメられるのだ。

No.50 06/08/21 22:04
見てるだけの人0 

イリッシュは、広間の中心に立たされた。
彼女の両脇に立っていた燭台に、ボッと灯りがともり、彼女の姿を映し出す。
背後には、黒服の男が少し間をあけて立っている。おそらくイリッシュが不信な動きをしたら攻撃してくるのだろう。それも面白いな、と考える。


そんな彼女に向かって神元集の一人が言った。

「さて、イリッシュ」

生きているのが不思議なくらいのヨボヨボな老人。声も姿相応のものだ。
彼は神元集の中でも一番偉い立場にいる、ルドブルックという男だった。しかしイリッシュが子供のころからこの姿だったから、実際いくつなのかはわからない。

「主の刑が確定した」



ドルプがごくり、と唾を飲む音が聞こえた。

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